説明

電磁界発生素子、記録ヘッドおよび記録装置

【課題】スリットのサイズに制約を受けることなく製造することが可能な構造を有しつつ、高い保磁力を有する磁性材料に磁気情報を書き込むことが可能な電磁界発生素子を実現する。
【解決手段】電磁界発生素子10は、光17が照射される面と平行な方向に、スリット13のスリット開放部131とスリット端部132とが対向する方向がスリット13の第1の方向となるスリット13が形成されている導体11を備え、導体11に電流が流れると磁界を発生させ、スリット13に光17が入射すると近接場18を発生させる電磁界発生素子10であって、導体11の光17が照射される面の少なくとも一部に設けられる第1の軟磁性体121と、導体11において、スリット13が形成されていない面の少なくとも一部に設けられる第2の軟磁性体122とをさらに備えている

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電磁界発生素子、電磁界発生素子を備えた記録ヘッドおよび記録ヘッドを用いた情報記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、光記録媒体、磁気記録媒体およびこれらの媒体の記録再生装置においては、記録容量の大容量化を目指して様々な研究開発が進められている。その中でも、光アシスト磁気記録方式は、次世代の高密度な磁気記録方式として注目を浴びている。
【0003】
光アシスト磁気記録方式は、高い保磁力を有する磁性体を磁気記録媒体として用い、記録密度の向上を図る技術である。記録密度を高めるためには、磁気記録媒体上に形成する記録ビットのサイズを小さくする必要がある。しかしながら、記録ビットのサイズの微細化に伴い、書き込まれた磁気情報が消失する、という問題が生じる。上記の問題は、磁性体の超常磁性に起因する問題である。記録ビットを小さくすればするほど、記録ビットは不安定になり、磁気秩序を保つことが困難な状態になる。その結果、記録された磁気情報は、わずかなノイズによって消失する。近年の高密度な磁気記録媒体においては、記録ビットの微細化が進められた結果、室温の熱エネルギーによる熱揺らぎでさえ、磁気記録の消失の原因となるほどである。
【0004】
上記問題は、磁気記録媒体として高い保磁力を有する磁性材料を用いることによって解決することができる。高保磁力の磁性材料は、記録ビットを微細化しても磁気秩序を失いにくいという特色を有している。その一方で、高保磁力の磁性材料に磁気情報を書き込むためには、その保磁力を上回る磁界を発生可能な書き込み素子が必要となる。すなわち、通常の磁気ヘッドでは磁気情報の書き込みができない、という新たな問題が生じる。
【0005】
そこで、光アシスト磁気記録方式では、磁気記録媒体に光を集光して照射することによって、局所的に磁気記録媒体を加熱し温度を上昇させる。磁性体の保磁力は、温度の上昇に伴い減少するので、加熱された部分の保磁力は局所的に減少し、磁気情報を記録することが可能となる。また近年では、さらなる高密度記録を行うために、局所的に加熱するための手段として近接場を利用する方式も提案されている。
【0006】
加熱手段として近接場を利用する磁気ヘッドの一例として、磁界を発生させる導体部分にスリットを形成し、上記スリット内に軟磁性体を設けた磁気ヘッドが特許文献1に開示されている。上記スリット部分に光を入射することによって近接場を発生し、磁気記録媒体に近接場が照射される。また、スリット内に軟磁性体を設けることによって、近接場が作用する位置に強い磁界を発生する。
【0007】
また、導体に狭窄部が形成されており、狭窄部に光が入射することによって近接場が発生し、狭窄部に電流を流すことによって磁界を発生する電磁界発生素子が、例えば特許文献2に開示されている。特許文献2では、上記電磁界発生素子の導体と、導体が堆積された基板との間に、軟磁性体を配置している。上記軟磁性体が、導体より発生した磁束を軟磁性体内に収束することによって強い磁界を発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−205789(2009年9月10日公開)
【特許文献2】特開2006−120294(2006年5月11日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の技術ではスリット内に軟磁性体を配置する必要があるため、スリット幅を狭くする場合に製造が困難になる。一方、より高い保磁力を有した磁性体を磁気記録媒体に利用する場合に、特許文献2の技術を用いて発生する磁界の強度は、磁気情報の書き込みに十分ではない。
【0010】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、スリットのサイズに制約を受けることなく製造することが可能な構造を有しつつ、高い保磁力を有する磁性材料に磁気情報を書き込むことが可能な電磁界発生素子、当該電磁界発生素子を備えた記録ヘッド、および当該記録ヘッドを備えた記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明に係る電磁界発生素子は、
光が照射される面と平行な方向に、スリット開放部とスリット端部とが対向する方向が第1の方向となるスリットが形成されている導体を備え、当該導体に電流が流れると磁界を発生させ、当該スリットに当該光が入射すると近接場を発生させる電磁界発生素子であって、
上記導体の上記光が照射される面の少なくとも一部に設けられる第1の軟磁性体と、
上記導体において、上記スリットが形成されていない面の少なくとも一部に設けられる第2の軟磁性体とを備えていることを特徴としている。
【0012】
上記の構成によれば、電磁界発生素子は、光が照射される面と平行な方向にスリットが形成されている導体を備えている。電磁界発生素子では、導体に電流が流れると磁界を発生させ、スリットに当該光が入射すると近接場を発生させる。スリットの内部には特別な構造を有していないため、スリットのサイズに制約を受けることなく電磁界発生素子を製造することが可能である。その上で、電磁界発生素子が第1の軟磁性体に加えて第2の軟磁性体を備えていることによって、より多くの磁束を収束する。同時に、第1の軟磁性体および第2の軟磁性体は、高い比透磁率を有する。このことによって、上記スリットの内部および近傍に形成される磁界の強度は高められ、高い保磁力を有する磁性材料に対して磁気情報を書き込むことが可能となる。
【0013】
本発明に係る電磁界発生素子では、さらに、上記スリットの第1の方向に対して垂直でありかつ上記光が照射される面と平行な方向における上記スリットの上記光が照射される範囲における最大幅が、上記光の波長より短いことが好ましい。
【0014】
上記の構成によって、導体におけるスリットが形成された面に対して、スリット部分を含むように光が照射されると、近接場のみを発生させると共に、発生した近接場を回折限界を超えた狭い領域に局在化することができる。また、スリットに照射された光はがスリットをそのまま透過することを防ぐことができるので、照射された光が近接場のバックグラウンドとなることを防ぐことができる。
【0015】
本発明に係る電磁界発生素子では、さらに、第1の軟磁性体と第2の軟磁性体とが直接接していることが好ましい。
【0016】
上記の構成によって、上記第2の軟磁性体の内部を通る磁束の全てが、上記第1の軟磁性体の内部を通る。すなわち、磁束の収束効果を高めることができ、上記スリットの内部および近傍に形成される磁界の強度をより高められる。
【0017】
本発明に係る電磁界発生素子では、さらに、上記導体における上記スリットの形成されていない面のすべての面に、上記第2の軟磁性体が設けられていることが好ましい。
【0018】
上記の構成によって、導体の周辺に発生する磁束のより多くを上記第2の軟磁性体に収束できる。したがって、電磁界発生素子はより強い磁界を発生させることができる。
【0019】
本発明に係る電磁界発生素子では、さらに、上記導体における上記スリットの形成されていない面のうち、上記スリットの第1の方向と平行な面にのみ、上記第2の軟磁性体が設けられていてもよい。
【0020】
上記の構成によって、上記導体における上記スリットの形成されていない面のうち、上記スリットの第1の方向と垂直な面には上記第2の軟磁性体が設けられない。すなわち、上記スリットの内部および近傍に形成される磁界において、上記スリットの第1の方向と平行な磁界成分は大きくならない。したがって、上記スリットの内部および近傍に形成される磁界は、上記光が照射される面に対して垂直な成分をより多く含むようになる。
【0021】
本発明に係る電磁界発生素子では、さらに、上記第2の軟磁性体が、上記光の波長に対して透光性を有しなくてもよい。
【0022】
上記の構成によって、第2の軟磁性体が照射する光を遮断し、近接場のバックグラウンドとなることを防ぐ。このことにより、電磁界発生素子を設計する際の自由度が上がる。また、第2の軟磁性体が光を遮断することによって、導体の幅を狭めることができる。導体の幅を狭めることによって、第2の軟磁性体をスリットにより近い位置に形成できるため、スリットの内部および近傍により強い磁界を発生することができる。さらに、導体の幅を狭めることによって、電磁界発生素子を作成するために必要な導体の量を削減できるため、製造コストも低減される。
【0023】
本発明に係る電磁界発生素子では、さらに、照射される上記光は直線偏光であり、上記直線偏光の電界ベクトルは、上記スリットの第1の方向に対して平行な方向であってもよい。
【0024】
上記の構成によって、スリットを形成する表面のうち、スリットの第1の方向に対して垂直な面にのみ選択的に表面プラズモンを励起することができる。したがって、スリットの形状を制御することによって、近接場の発生領域を制御することが可能となる。
【0025】
本発明に係る電磁界発生素子では、さらに、上記第1の軟磁性体が、上記光の波長に対して透光性を有さなくてもよい。
【0026】
上記の構成とすることによって、第1の軟磁性体に用いる材料の選択の幅が広がる。また、第1の軟磁性体が光を遮断することによって、光がスリット以外の経路を通って近接場のバックグラウンドとなることを防ぐ。
【0027】
本発明に係る電磁界発生素子では、さらに、上記光の照射面のうち上記スリットの近傍を除く部分に、上記第1の軟磁性体が形成されていてもよい。
【0028】
上記の構成によって、スリットを構成する面のすべてが導体によって構成されることになる。したがって、スリット内部を伝播する表面プラズモンの強度の減衰を抑制することが出来る。したがって、照射した光を効率良く近接場に変換することが出来る。言い換えると、第1の軟磁性体が近接場の強度に与える影響を低減できる。
【0029】
本発明に係る電磁界発生素子では、さらに、上記光の照射面において、上記第1の軟磁性体と上記スリットとの距離は、上記第1の軟磁性体における表面プラズモンの侵入長以上であってもよい。
【0030】
上記の構成とすることにより、スリット内部を伝搬する表面プラズモンに対して、第1の軟磁性体が影響を与えない。したがって、照射した光を効率良く近接場に変換することができる。
【0031】
本発明に係る電磁界発生素子では、さらに、上記光が照射される面の上記スリットを除いた全面に、上記第1の軟磁性体が設けられていてもよい。
【0032】
上記の構成において、第1の軟磁性体はスリットにより分断されているため、上記第1の軟磁性体内部の磁束を効果的にスリット内部に導入させることがでる。したがって、より強い磁界を発生させることができる。
【0033】
本発明に係る電磁界発生素子では、さらに、上記第1の軟磁性体が、上記光の波長に対して透光性を有してもよい。
【0034】
上記の構成によって、第1の軟磁性体に光が照射された際に、光の強度の減衰を抑制することができる。したがって、導体とスリットとの界面で発生する表面プラズモンの強度に対する、第1の軟磁性体の影響を小さくできる。このことは、近接場の強度に対する第1の軟磁性体の影響を小さくできることを意味する。別の言い方をすると、近接場の強度への影響を考慮せず、第1の軟磁性体を設けることができる。これにより、導体における光が照射される面の全面に第1の軟磁性体を形成できるため、磁束の収束効果をより強めることができる。
【0035】
本発明に係る電磁界発生素子では、さらに、上記スリットが上記スリットの第1の方向と光の照射される方向との両方に平行な対称面に対して対称な形状を有しており、上記対称面に対して、上記導体、上記第1の軟磁性体および上記第2の軟磁性体が対称な構造を有していることが好ましい。
【0036】
上記の構成によって、電磁界発生素子が発生する磁界が、上記面に対して対称に形成される。よって、上記スリットの内部および近傍において、上記光が照射される面に対して垂直な磁界成分を大きくすることができる。
【0037】
本発明に係る電磁界発生素子では、さらに、上記導体と上記第1の軟磁性体および第2の軟磁性体とが直接接していることが好ましい。
【0038】
導体に電流を流すことによって生じる磁束は、導体表面において最も多い。上記の構成によって、より多くの磁束を軟磁性体に収束することが可能となる。その結果、上記スリットの内部および近傍に形成される磁界の強度は高められる。
【0039】
本発明に係る電磁界発生素子では、さらに、上記第1の軟磁性体および上記第2の軟磁性体が、絶縁性を有した軟磁性体であってもよい。
【0040】
上記の構成によって、導体から第1の軟磁性体および第2の軟磁性体に電流が流れることを防ぐことが出来る。このことによって、導体に流れる電流密度が低下することを防げるので、電磁界発生素子が発生する磁界の強度を高めることができる。
【0041】
本発明に係る電磁界発生素子では、さらに、光を照射するための光源として半導体レーザ素子を備え、上記半導体レーザ素子が一体形成されていてもよい。
【0042】
上記の構成にすることによって、光源からの光をスリットに導入するための光学系が不要となる。したがって、電磁界発生素子の小型化を可能とする。また、光学系が存在しないことにより、光の照射位置にずれが生じることが少ないため経時変化を抑制できる。
【0043】
本発明に係る記録ヘッドは、本発明の一様態に係る電磁界発生素子と、スライダと、光源とを備えることを特徴としている。
【0044】
上記の構成によって、電磁界発生素子で発生する強い磁界と近接場とを利用するため、高い保磁力からなる情報記録媒体に対して、磁気情報を記録することができる。
【0045】
本発明に係る記録ヘッドは、再生素子をさらに備え、電磁界発生素子が備える第1の軟磁性体および第2の軟磁性体の少なくともいずれかが再生素子と隣接していることが好ましい。
【0046】
上記の構成によって、電磁界発生素子を構成する軟磁性体が、再生素子の磁気シールド層として機能する。したがって、電磁界発生素子を構成する軟磁性体とは別個の磁気シールド層を再生素子に設ける必要がない。よって、記録ヘッドを小型化することができる。また、再生素子に別個の磁気シールド層を形成する必要がないため、製造コストを低減できる。
【0047】
本発明に係る記録装置は、本発明の一様態に係る記録ヘッドを備えていることを特徴とする。
【0048】
上記の構成によって、光アシスト磁気記録方式による磁気記録装置を実現できる。記録ヘッドが備える電磁界発生素子が、近接場と強い磁界とを発生するため、情報記録媒体を構成する材料として高い保磁力を有する磁性材料を用いることが出来る。したがって、記録ビットの磁気秩序が不安定になりにくく、熱揺らぎなどのノイズに対しても強い磁気記録装置を実現できる。
【発明の効果】
【0049】
本発明は、スリットのサイズに制約を受けることなく製造することが可能な構造を有しつつ、高い保磁力を有する磁性材料に磁気情報を書き込むことが可能な電磁界発生素子を実現することができる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態に係る電磁界発生素子の概略を示した図である。(a)は、電磁界発生素子の斜視図である。(b)は電磁界発生素子を、磁界および近接場を作用させる対象物の方向から見た場合の概略図である。(c)は、(b)の1A−1A線における断面を矢印方向に見た場合の概略図である。(d)は、(b)の1B−1B線における断面を矢印方向かに見た場合の概略図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る電磁界発生素子について、図1(b)に示す1A−1A線における断面を矢印方向に見た場合の概略図である。
【図3】電磁界シミュレーションによって得られた、電磁界発生素子が発生する磁界分布を示す図である。(a)は、本発明の一実施形態に係る電磁界発生素子の構成に基づくシミュレーション結果を示す。(b)は、参考形態に係る電磁界発生素子の構成に基づくシミュレーション結果を示す。
【図4】本発明の一実施形態に係る電磁界発生素子について得られた電磁界シミュレーションの計算結果を示す図である。磁界強度と第2の軟磁性体の幅との相関関係を示している。
【図5】本発明の一実施形態に係る電磁界発生素子について、磁界および近接場を作用させる対象物の方向から見た場合の概略図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る電磁界発生素子の作成過程を示す概略図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る電磁界発生素子を備えた記録ヘッドの概略図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る電磁界発生素子および記録ヘッドを備えた記録装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
〔実施形態1〕
本発明の電磁界発生素子に関する実施の一形態について、図1〜図4に基づいて説明すれば以下のとおりである。
(電磁界発生素子10の構成)
本発明の一実施形態に係る電磁界発生素子10の概略図を、図1に示す。図1(a)は、電磁界発生素子10の斜視図である。図1(b)は、電磁界発生素子10を、磁界15および近接場18を作用させる対象物の方向から見た場合の概略図である。
【0052】
図1(a)および(b)に示すように、電磁界発生素子10は、導体11および軟磁性体12を備える。また、近接場18を発生させるために光17を電磁界発生素子10に照射する。以下において、光17を照射する面を照射面と呼ぶ。電磁界発生素子10が備える導体11には、光17の照射面と平行な方向にスリット13が形成されている。ここで、スリット13のスリット開放部131とスリット端部132とが対向する方向がスリット13の第1の方向となるように、スリット13は形成されている。なお、図1(b)に示す1B−1B線は、スリット13の第1の方向に対して平行な線である。導体11および軟磁性体12を備える電磁界発生素子10の構造は、この1B−1B線に対して対称となっていることが好ましい。この理由については後述する。
【0053】
次に、説明を明確にするために、座標軸を次のように定義する。光17の照射面をxy平面と定義し、xy平面に対して直交する方向をz軸と定義する。また、xy平面において、スリット13の第1の方向をy軸と定義し、y軸およびz軸に対して垂直な方向をx軸と定義する。
【0054】
スリット13は、z軸方向には導体11を貫通している。よって、z軸方向をスリット13の貫通方向と呼ぶ。一方、y軸方向には、軟磁性体12および導体11を残す位置に設けられている(図1(b)参照)。したがって、導体11に電流14を流すことによって、導体11は電磁石として機能し磁界15が発生する。図1(a)および(b)に示す向きに電流14を流した場合は、磁界15の矢印が示すように、スリット13の内部においてz軸の負方向の磁界15が発生する。また、電流14の方向を反転することによって、磁界15の向きも反転する。
【0055】
本実施形態において、スリット13の形状をxy平面において矩形として図示しているが、スリット13の形状はこれに限定されない。スリット13の形状はV字形状や半円形状の溝であってもよい。これらの場合、スリット13の第1の方向は、スリット端部131とスリット開放部132とをつなぐ方向である。
【0056】
スリット13の内部はなにも構造が形成されていない、すなわち空気で満たされた状態でもよい。したがって、電磁界発生素子10を製造する際に、スリット内部の構造に起因して製造の困難さが変わることはない。すなわち、電磁界発生素子10はその製造過程において、スリット13のサイズによる制約を受けない。
(導体11)
次に、導体11およびスリット13について、図1(b)〜(d)を参照して詳しく説明する。図1(c)は、図1(b)の1A−1A線における断面を矢印の方向に見た場合の概略図を示す。図1(d)は、図1(b)の1B−1B線における断面を矢印の方向に見た場合の概略図を示す。
【0057】
導体11は上述のように電磁石として機能する。導体11が、より強い磁界を発生するためには、導体11になるべく大きな電流を流す必要がある。したがって、導体11に用いる材料は電気伝導率が高いことが好ましい。導体に電流を流すと、導体の抵抗値と、電流値とに応じてジュール熱が発生する。ジュール熱の発熱量が大きくなりすぎると、導体11の変形、または断線などの熱破壊を引き起こす。より強い磁界を発生するために、電流値を抑制することは好ましくないため、導体11の抵抗値を低減する、すなわち、導体11には電気伝導率の高い材料を用いることが好ましい。
【0058】
図1(a)に示す光17をスリット13に照射することによって、スリット端部131において近接場18が発生する。この際、近接場18の強度を表面プラズモン共鳴により増幅するためにも、導体11は電気伝導率が高いことが望ましい。よって、導体11に用いる材料は、電気伝導率が高いAu、Pt、AgおよびCuなどの金属であることが好ましい。なお、近接場が発生する原理については後述する。
【0059】
導体11の抵抗値を低減するもう1つの方法として、導体11の断面積が大きくなるように電磁界発生素子10を設計してもよい。この場合、導体11の断面積を大きくすることによって抵抗値は低減され、許容される電流値は大きくなるが、上記金属材料の使用量増加に伴うコストアップや、素子の大型化につながる。
(スリット13)
次に、導体11に形成するスリット13について説明する。スリット13の内部は、上述したようになにも形成されていない、すなわち空気で満たされた状態でもよい。また、スリット13の内部には誘電体が単に充填されていてもよい。いずれの場合においても、スリット13の内部に、特別な構造は形成されていない。スリット13の内部に誘電体を形成する場合には、少なくとも光17の波長に対して透光性を有する誘電体を用いることが好ましい。
【0060】
図1(b)に示すように、スリット13のx軸方向の長さをW、y軸方向の長さをLとする。また、スリット13によって隔てられた導体11のx軸方向の長さは、スリット13の両側で等しく、それぞれをWとする。導体11の、スリット13の端部からy軸方向に沿って軟磁性体12までの長さをLとする。また、図1(c)に示すように、導体11のz軸方向の長さをhとする。
【0061】
導体11の構造が1B−1B線に対して線対称ではない場合は、発生する磁界15の向きがスリット13のx軸方向の中心線上において、磁界15がx成分を持つ。したがって、磁界15はz軸と平行にはならずにx軸方向に傾くことになる。磁界15のz軸方向の成分を大きくしたい場合、導体11の形状は、1B−1B線に対して線対称であることが好ましい。
【0062】
導体11に設けられたスリット13のWは、磁界15と近接場18の発生領域とを微小にするためには、なるべく短い方がよい。特に、光17がスリット13をそのまま透過し、近接場18のバックグラウンドとならないためには、Wは光17の波長以下の長さであることが好ましい。また、通常の光では回折現象のため、光17を集光した際のスポット径を、光17の波長より小さくすることは出来ない。すなわち、通常の光を用いて光アシスト磁気記録を行う場合、光を照射する最小スポット径は、光の波長に依存し、上記波長より小さなスポットを形成することは出来ない。しかし、Wを光17の波長以下の長さに設定することによって、光17はスリット13を透過することが出来なくなり、スリット端部131において近接場18のみが発生する。スリット端部131における近接場18の発生領域は、x軸方向はWと同等の領域、そしてy軸方向には表面プラズモン21のスリット13側の侵入長となる。このように、近接場18は光の回折限界を超えた狭い領域に局在化させることができる。一方、スリット13のWが短すぎると、発生する磁界15および近接場18の強度が弱くなってしまう。
【0063】
したがって、電磁界発生素子10では、スリット13の第1の方向に対して垂直でありかつ光17の照射面と平行な方向おけるスリット13の最大幅(すなわちW)が、光17の波長より短いことが好ましい。ここで、スリット13のWは、10nm(スリット13間でトンネル電流により導通が起こらない長さ)〜光17の波長(光17がバックグラウンドとならない長さ)であることが好ましく、10nm〜光17の半波長(光17がバックグラウンドとならない、より好ましい長さ)であることがより好ましい。
(近接場18)
図1(d)に示すように、光17を電磁界発生素子10のスリット13近傍に照射することによって、導体11とスリット13との界面において表面プラズモン21が励起される。上記表面プラズモン21は、導体11とスリット13との界面をz軸の負方向に伝播し、導体11の端部において近接場18が発生する。光17を効率良く近接場18に変換するためには、導体11とスリット13との界面を伝播する表面プラズモン21の減衰を抑制することが好ましい。表面プラズモン21の伝播に伴う減衰を抑制するためには、導体11のWおよびLの少なくとも一方は、表面プラズモン21の侵入長以上であることが好ましい。
【0064】
表面プラズモン21の侵入長は、導体11の材料に依存する。加えて、導体11とスリット13との界面で伝播する表面プラズモン21のモードにも上記侵入長は依存する。典型的な表面プラズモン21の侵入長は数nm〜数10nmである。上記WおよびLのいずれか一方の長さ、または両方の長さを表面プラズモン21の侵入長以上に設計するべきかは、導体11とスリット13との界面のうち、どの界面に表面プラズモン21を励起するかに依存する。
【0065】
軟磁性体12として、例えばマンガン亜鉛フェライト(Mn0.5Zn0.5Fe)等のように、光を透過する材料を用いる場合は、光17がスリット13以外の部分を透過し、近接場18のバックグラウンドとなることを防止するため、W+W+WおよびL+Lが光17の照射範囲(光17の波長と同程度)よりも長いことが好ましい。よって、WおよびLは、少なくとも光17の波長の半分以上であることが好ましい。上記の構成にすることによって、光を透過しない導体11の設けられている領域が、光17の照射範囲より広くなり、光17がスリット13以外の部分を透過することを防ぐことができる。
【0066】
導体11のz軸方向の長さhは、表面プラズモン21が伝播し、近接場18を発生するために十分に短いこと、すなわち、表面プラズモンの伝播長以下であることが好ましい。上記伝播長は、導体11の材料および導体11とスリット13との界面で伝播する表面プラズモン21のモードにも依存するが、数10nm〜数10μmである。表面プラズモン21の伝播に際して、表面プラズモン21の減衰を抑制するためにはhが短い方が好ましい。しかしながら、hを短く設定すると、導体11の断面積が減少するために導体11の抵抗値が大きくなり、許容される電流値が小さくなる虞がある。
(軟磁性体12)
軟磁性体12は、導体11に電流を流すことによって生じる磁束を収束することによって、磁界15の強度を局所的に高めるために設ける。光17が電磁界発生素子10に入射するxy平面のうち、少なくとも一部に設けられる軟磁性体を、第1の軟磁性体121と定義する。また、上記xy平面以外の面であって、導体11とスリット13との界面を含まない面の少なくとも一部に設けられる軟磁性体を第2の軟磁性体122と定義する。すなわち、軟磁性体12は、第1の軟磁性体121と第2の軟磁性体122とからなる。
【0067】
第1の軟磁性体121および第2の軟磁性体122を備えることによって、上記磁束はxy平面と、xy平面以外の面に沿う形に収束され、その結果、磁界15が増強される。したがって、軟磁性体12は、導体11に電流を流すことによって生じる磁界の強さよりも、低い保磁力を有している必要がある。なお、軟磁性体12を配置する場所および形状についての詳細は後述する。
【0068】
軟磁性体12として用いる材料は、絶縁性の軟磁性体であることが好ましい。軟磁性体12が絶縁性を有することによって、導体11に電流を流した際に軟磁性体12には電流が流れないために、導体11における電流密度の減少を抑えることができる。したがって、磁界損失を低減し、導体11は効率良く磁束を発生することができる。絶縁性軟磁性体としては、例えばマンガン亜鉛フェライト(Mn0.5Zn0.5Fe)などの絶縁性の高いフェライトを用いることが好ましい。
【0069】
一方、軟磁性体12として用いる材料が、導電性の軟磁性体である場合は、導体11と軟磁性体12との界面に絶縁層が設けられていることが好ましい。これによって、導体11に電流を流した際に軟磁性体12への漏れ電流を防止できる。したがって、軟磁性体12が絶縁性の軟磁性体である場合と同様に、導体11における電流密度の減少を抑え、磁界損失を低減することができる。その結果、導体11は効率良く磁束を発生することができる。
【0070】
導電性を有する軟磁性体12の材料として、金属磁性体であるFe、CoおよびNiを使用できる。また、上記金属磁性体のうち少なくとも1種類の磁性体を含む材料も、導電性を有する軟磁性体12の材料として使用できる。上記の導電性の軟磁性体は、比透磁率、飽和磁化などの磁気特性が極めて優れている。したがって、上記の導電性軟磁性体を軟磁性体12として用いることによって、スリット13内部に形成する磁界15の強度を高めることができる。導体11と軟磁性体12との界面に設ける絶縁層には、例えばSiO層などを用いればよい。
(近接場18の発生原理)
以下、本発明の一実施形態に係る電磁界発生素子10における、近接場18の発生原理について図1を参照して説明する。
【0071】
図1(b)の1B−1B線における断面を、矢印の方向に見た場合の概略図を図1(d)に示す。図1(d)において、電磁界発生素子10に対して光17が入射する側のxy平面を入射面とする。また、電磁界発生素子10において、入射面と対向するxy平面を出射面とする。
【0072】
図1(d)に示すように、光17をスリット13に照射することによって、導体11とスリット13との界面において表面プラズモン21が励起される。励起された表面プラズモン21は、導体11とスリット13との界面を伝播し、出射面まで到達すると近接場18に変換される。
【0073】
通常、表面プラズモン21の電界ベクトルは、表面プラズモン21が伝播する平面に対して平行な方向とはならない。よって、表面プラズモン21の励起効率を高めるために、スリット13に入射する光17の電界ベクトルは、導体11とスリット13との界面に対して垂直であることが望ましい。
【0074】
本実施形態においては、スリット13のxy平面における形状を矩形としている(図1(a)参照)。そのため、導体11とスリット13との界面には、スリット端部131を含むxz平面に形成される第1の界面と、スリット端部131およびスリット開放部132の間に存在するyz平面に形成される第2の界面とが存在する。第1の界面に対して垂直な方向はy軸方向であり、第2の界面に対して垂直な方向はx軸方向である。したがって、光17の電界ベクトルの方向は、x軸方向、またはy軸方向のいずれかとすることが好ましい。
【0075】
光17の電界ベクトルの方向がx軸方向の場合、対向する2つの第2の界面において表面プラズモン21が励起され、そして伝播する。よって、出射面において発生する近接場18は、上記2つの第2の界面において励起および伝播する表面プラズモン21の重ね合わせとなる。
【0076】
一方、光17の電界ベクトルの方向がy軸方向の場合、第1の界面において表面プラズモン21が励起および伝播され、出射面において近接場18が発生する。したがって、光17の電界ベクトルの方向をy軸方向とすることによって、電界ベクトルの方向をx軸方向とした場合と比較して、近接場18の発生領域をより微小にすることができる。光17の電界ベクトルの方向をy軸方向とする場合、発生する近接場18の強度を最大とするためには、光17の強度分布のピーク位置が、スリット端部131の位置に対応するように光17を照射することが好ましい。なお、以下では簡単のため、光17の強度分布のピーク位置を、光17の照射位置とする。
【0077】
また、光17の電界ベクトルの方向をx軸方向とする場合、光17の照射位置を、スリット端部131からy軸の正方向にずらすことによって、発生する近接場18の強度を高めることができる。これは、上記照射位置をスリット端部131からy軸の正方向にずらすことによって、スリット13に照射される光量が増加するためである。一方で、上記照射位置をスリット端部131とした場合と比較して、第2の界面のさらに広い領域から近接場18が発生することになる。その結果、磁界15が生じる領域以外に近接場18が発生することになる。磁気記録媒体に、磁気情報を記録するための電磁界発生素子としては、磁界15の発生領域と、近接場18の発生領域とが、なるべく一致していることが好ましい。磁界15の発生領域と、近接場18の発生領域とをほぼ一致させるためには、光17の照射位置をスリット端部131とすることが好ましい。以下、光17の電界ベクトルの向きに関わらず、光17の照射位置を、スリット端部131のx軸方向における中央として説明する。
(磁界15の発生原理)
以下、本発明の一実施形態に係る電磁界発生素子10における、磁界15の発生原理について図1を参照して説明する。
【0078】
導体11に、図1(a)に示す向きに電流14を流すと、電磁界発生素子10の周辺には点線矢印の向きの磁界15が発生する。導体11が電磁石として機能し、その周辺には右ネジの法則に従って磁束が生じるためである。導体11にはスリット13が設けられているため、磁界15の分布はスリット端部131に局在化する。
【0079】
電磁石に流す電流と、その電磁石が発生する磁界強度とは、正の相関関係を持っている。したがって、導体11に流す電流14が大きいほど、発生する磁界15は強くなる。しかしながら、導体11に流すことのできる電流値には上限がある。導体11に電流14を流すと、導体11の抵抗値と流す電流値とに依存して、ジュール熱が発生する。このジュール熱による発熱量が電磁界発生素子10の許容する発熱量より大きい場合、導体11が変形する、または断線するなどの熱破壊が生じる。導体11に流す電流値に上限があるのはこのためである。
(軟磁性体12の場所および形状)
以下、本発明の一実施形態に係る電磁界発生素子10における、軟磁性体12の場所および形状について図1および図2を参照して説明する。
【0080】
図1(a)に示すように、軟磁性体12は、第1の軟磁性体121と第2の軟磁性体122とからなる。以下の説明において、第1の軟磁性体121と第2の軟磁性体122は、連続して形成されているものとして説明するが、これに限らずそれぞれは離間していてもよい。
【0081】
第1の軟磁性体121は、電磁界発生素子10の入射面のうち、スリット13を除く領域に形成されている。スリット13はスリット開放部132を備えているので、光17の入射方向から見た場合、第1の軟磁性体121はコの字型に形成されている。第2の軟磁性体122は、導体11のスリット13の貫通方向に平行な面のうち、スリット13とスリット開放部132を含む面とを除く領域に形成されている。したがって、光17の入射方向から見た場合、第2の軟磁性体122はコの字型に形成されている。
【0082】
電磁界発生素子10では、導体11と、第1の軟磁性体121および第2の軟磁性体122とが直接接している。これにより、より多くの磁束を軟磁性体12に収束することが可能となる。その結果、スリット13の内部および近傍に形成される磁界の強度は高められる。また、電磁界発生素子10では、第1の軟磁性体121と第2の軟磁性体122とが直接接している。これにより、第2の軟磁性体122の内部を通る磁束の全てが、第1の軟磁性体121の内部を通る。すなわち、磁束の収束効果を高めることができ、スリット13の内部および近傍に形成される磁界の強度をより高められる。
【0083】
導体11の形状が、図1(b)に示す1B−1B線に対して対称であることが好ましいことは、導体11とスリット13の項において述べた。導体11の場合と同様に、第1の軟磁性体121および第2の軟磁性体122の形状は、1B−1Bで示す線に対して対称であることが好ましい。したがって、スリット開放部132を含む面における第2の軟磁性体122のx軸方向の長さは、スリットを挟んだ両側において等しいことが好ましい。図1(b)において、上記長さをWとして示している。また、スリット開放部132を含む面における第1の軟磁性体121のx軸方向の長さは、スリットを挟んだ両側においてW+Wとなる。本願明細書において、導体11、第1の軟磁性体121および第2の軟磁性体122の形状は、1B−1Bで示す線に対して対称であるとして説明をしている。したがって、スリット13を挟んだ両側において、上記の各長さを、W、WおよびW+Wとして示している。
【0084】
以上のように、電磁界発生素子10では、スリット13がスリット13の第1の方向と光の照射される方向との両方に平行な対称面に対して対称な形状を有しており、当該対称面に対して、導体11、第1の軟磁性体121および上記第2の軟磁性体122が対称な構造を有している。この構成によって、電磁界発生素子10が発生する磁界が、上記対称面に対して対称に形成される。よって、スリット13の内部および近傍において、光17が照射される面に対して垂直な磁界成分を大きくすることができる。
【0085】
スリット開放部132を含む面における第2の軟磁性体122のx軸方向の長さが、スリット13を挟んだ両側において異なる場合、一端における上記長さをW’、もう一端における上記長さをW”とする。スリット開放部132を含む面における第1の軟磁性体121のx軸方向の長さも、W+W’およびW+W”となり、スリット13の両側において異なる値となる。第1の軟磁性体121および第2の軟磁性体122の形状が、1B−1Bで示す線に対して線対称ではなくなることによって、電磁界発生素子10の発生する磁界15の対称性がx軸方向に関して失われる。具体的には、スリット13内の1B−1Bで示す線上において磁界15がx成分を持ち、x軸方向に傾く。
【0086】
磁界15のスリット13貫通方向の成分、すなわちz成分を強くするためには、磁界15が上記x成分を持たない方が好ましい。したがって、第1の軟磁性体121および第2の軟磁性体122の形状は、1B−1Bで示す線に対して対称であることが好ましい。
【0087】
図1(b)に示す図において、1B−1Bで示す線上における第2の軟磁性体122の長さをLとする。したがって、1B−1Bで示す線上における第1の軟磁性体121の長さはL+Lとなる。図1(a)に示すように、第1の軟磁性体121は、光17の照射面において導体11と第2の軟磁性体122の存在する領域にのみ形成されている。
【0088】
また、図1(c)に示すように、第2の軟磁性体122のz軸方向の長さをh、第1の軟磁性体121のz軸方向の長さをhとする。第1の軟磁性体121が透光性を有しない場合、hは数10nm以下であることが好ましい。入射面が透光性を有しない第1の軟磁性体121であっても、光17は第1の軟磁性体121にわずかに侵入することが出来る。上記侵入できる距離を侵入長と呼び、光17が導体11に到達するためには、hが侵入長よりも短い必要がある。hが数10nm以下であれば、第1の軟磁性体121において光17は減衰されるが、導体11に到達できるので、導体11とスリット13との界面において表面プラズモン21を励起することができる。
【0089】
上記の第1の軟磁性体121に加えて、第2の軟磁性体122も透光性を有しない場合、すなわち、軟磁性体12が透光性を有しない場合、W+W+W+W+WおよびL+L+Lが光の照射範囲よりも長くなることが好ましい。W+W+W+W+Wは、電磁界発生素子10のx軸方向の長さであり、L+L+Lは電磁界発生素子10のy軸方向の長さである。上記のように、電磁界発生素子のx軸およびy軸方向の長さが、光17の照射範囲よりも長いことによって、光17がスリット13以外の経路を通って出射面に到達し、近接場18のバックグラウンドとなることを防ぐことが出来る。また、W+WおよびL+Lが少なくとも光17の波長の半分以上の長さであることが好ましい。
【0090】
本実施形態においては、第1の軟磁性体121と第2の軟磁性体122とが同じ材料からなるとして説明しているが、上記それぞれの軟磁性体は異なる材料からなっていてもよい。第1の軟磁性体121と第2の軟磁性体122とが異なる材料からなり、いずれかの軟磁性体が透光性を有しない場合は、W+W+W+W+WおよびL+L+Lが光の照射範囲よりも長くなることが好ましい。上記の構成とすることによって、光17がスリット13以外の経路を通って出射面に到達し、近接場18のバックグラウンドとなることを防ぐことが出来る。
【0091】
第1の軟磁性体121と第2の軟磁性体122の少なくとも一方が透光性を有しない場合、導体11のWおよびLが短いほど、第2の軟磁性体をスリット13に近接して設けることが可能なため、導体11より生じた磁束を収束しやすい。したがって、WおよびLを長くした場合と比較して、磁界15の強度を高めることができる。
【0092】
一方で、hを一定とした場合、WおよびLを短くすることは、導体11の断面積を小さくすることを意味する。導体11の断面積が小さくなると、導体11の抵抗値が大きくなり、ジュール熱の発熱量が大きくなる。導体11が熱によって破壊されることを防ぐためには導体11に流す電流値を抑制する必要があり、電流値を抑制することは発生させる磁界が小さくなることを意味する。よって、導体11の各パラメータは、導体11に用いる材料、発生したい磁界強度、許容される発熱量など、様々な要件を考慮して決定する必要がある。
【0093】
電磁界発生素子10では、導体11におけるスリット13の形成されていない面のすべての面に、第2の軟磁性体122が設けられていることが好ましい。これにより、導体11の周辺に発生する磁束のより多くを第2の軟磁性体122に収束できる。したがって、電磁界発生素子10は、より強い磁界を発生させることができる。
【0094】
電磁界発生素子10では、導体11におけるスリット13の形成されていない面のうち、スリット13の第1の方向と平行な面にのみ、第2の軟磁性体122が設けられていてもよい。この場合、導体11におけるスリット13の形成されていない面のうち、スリット13の第1の方向と垂直な面には第2の軟磁性体122が設けられない。すなわち、スリット13の内部および近傍に形成される磁界において、スリット13の第1の方向と平行な磁界成分は大きくならない。したがって、スリット13の内部および近傍に形成される磁界は、光17が照射される面に対して垂直な成分をより多く含むようになる。
【0095】
電磁界発生素子10では、光17の照射面のうちスリット13の近傍を除く部分に、第1の軟磁性体121が形成されていてもよい。この場合、スリット13を構成する面のすべてが導体11によって構成されることになる。したがって、スリット13内部を伝播する表面プラズモンの強度の減衰を抑制することが出来る。したがって、照射した光17を効率良く近接場に変換することが出来る。言い換えると、第1の軟磁性体121が近接場の強度に与える影響を低減できる。
【0096】
電磁界発生素子10では、光17が照射される面のスリット13を除いた全面に、第1の軟磁性体121が設けられていてもよい。この場合、第1の軟磁性体は121スリット13により分断されているため、第1の軟磁性体121内部の磁束を効果的にスリット13内部に導入させることがでる。したがって、より強い磁界を発生させることができる。
【0097】
第1の軟磁性体121が、光17の波長に対して透光性を有してもよい。
【0098】
第1の軟磁性体121に光17が照射された際に、光17の強度の減衰を抑制することができる。したがって、導体11とスリット13との界面で発生する表面プラズモンの強度に対する、第1の軟磁性体121の影響を小さくできる。このことは、近接場の強度に対する第1の軟磁性体121の影響を小さくできることを意味する。別の言い方をすると、近接場の強度への影響を考慮せず、第1の軟磁性体121を設けることができる。これにより、導体11における光17が照射される面の全面に第1の軟磁性体121を形成できるため、磁束の収束効果をより強めることができる。
(電磁界発生素子50)
本実施形態に係る変形例である電磁界発生素子50を図2に示す。図2は、電磁界発生素子50について、図1(b)に示す1A−1Aで示す線における断面を矢印の方向から見た場合の概略図である。なお、電磁界発生素子10と同様の部材については同様の符号を付し、その説明を省略する。
【0099】
電磁界発生素子50において、第1の軟磁性体121は光17の入射面のスリット13周辺を除く領域に形成されている。すなわち、スリット13の周辺領域は導体11のみで構成されている。したがって、光17が第1の軟磁性体121において減衰されることがなく、電磁界発生素子10と比較して表面プラズモン21を効率良く励起することが可能である。
【0100】
また、第1の軟磁性体121が透光性を有する場合は、第1の軟磁性体121による光17の減衰が少ない。したがって、hが長い場合でも、光17は導体11に到達し表面プラズモン21を励起することができる。ただし、あまりにhを長くすると、第1の軟磁性体121の内部で光17が干渉する。上記干渉を防ぐためには、hの光学距離を光17の波長の1/4以下とすることが好ましい。
(電磁界発生素子の形成方法)
以下に、本実施形態に係る電磁界発生素子50の形成方法を、図6を参照しながら説明する。なお、図6(a)から(g)は、図1(b)の1A−1A線を矢印方向から見た場合の断面図を示している。
【0101】
表面プラズモン21を励起するために照射する光17の波長に対して透光性を有する基板22上に、第1の軟磁性体121の薄膜を形成する。その後、導体11が形成される部分の第1の軟磁性体121を除去し、図6(a)に示す形状とする。以下の工程においても同様であるが、パターン形成にはこの際、第1の軟磁性体121のパターン形成にはリソグラフィプロセスを用いる。また、第1の軟磁性体121から、導体11が形成される部分を除去するためには、エッチング、またはリフトオフなどの方法を用いればよい。以下の形成過程でも同様に、パターン形成にはリソグラフィプロセスを用い、材料の除去にはエッチング、またはリフトオフなどの方法を用いる。
【0102】
次に、導体11が形成される部分、すなわち、上記工程により第1の軟磁性体121が除去された部分および第1の軟磁性体121上に、レジスト層26を形成する(図6(b)参照)。レジスト層26は、スピンコートなどの方法で形成した後、リソグラフィプロセスを用いてパターン形成を行う。次に、図6(c)に示すように第2の軟磁性体122を成膜する。その後、レジスト層26をリフトオフすることにより、第2の軟磁性体122が除去される(図6(d)参照)。さらに、図6(e)に示すように導体11を成膜し、その表面を研磨することによって導体11の突出部を除去する(図6(f)参照)。上記研磨は、第2の軟磁性体122の層に到達したと同時に、または、到達直後に終了することが好ましい。最後に収束イオンビーム(FIB)加工により、導体11の一部分を除去することによってスリット13を形成する(図6(g)参照)。
【0103】
第1の軟磁性体121および第2の軟磁性体122の少なくともいずれかに導電性軟磁性体を用いる場合には、導体11から導電性軟磁性体への漏れ電流を防ぐ必要がある。そのためには、多層膜を形成する工程において、導体11と導電性軟磁性体との界面に絶縁層を形成する必要がある。絶縁層を形成する材料としては、例えばSiOを用いることができる。
【0104】
本実施形態は電磁界発生素子50を一例としてその形成方法を説明したが、電磁界発生素子10および60についても、上記形成方法を用いて形成することが可能である。また、本実施形態に係る電磁界発生素子を形成可能であれば、形成方法は上記形成方法に限定されない。
〔実施例1〕
以下、実施形態1に係る電磁界発生素子10が発生する磁界15の強度について、電磁界シミュレーションの結果を図3(a)に示す。なお、電磁界発生素子10のシミュレーション結果と比較するために、比較形態の電磁界発生素子についても、電磁界シミュレーションの結果を図3(b)に示す。上記比較形態の電磁界発生素子は、第1の軟磁性体121のみを備えた電磁界発生素子であり、特許文献1に記載の電磁界発生素子に対応する。また、電磁界発生素子10において、Wが0である場合に対応する。
【0105】
電磁界シミュレーションを計算する際、電磁界発生素子10の各種パラメータを以下のように設定した。
・導体11に流す電流値=1mA
・軟磁性体12の比透磁率=10000
・W=50nm
・L=50nm
・h=50nm
・W=50nm
・L=50nm
・h=10nm
・W=50nm
なお、なお図3に示す断面図は、図1(b)に示す1A−1A線と平行で、スリット端部131からy軸方向に+25nmの位置における断面を示した図である。シミュレーション結果の一例として、上記断面におけるシミュレーション結果を示す。また、電流14の方向は図1(a)および(b)に示す方向としている。
【0106】
電磁界発生素子10の上記断面における磁界強度分布を図3(a)に示し、比較形態の電磁界発生素子の上記断面における磁界強度分布を図3(b)に示す。図3において、矢印は、それぞれの電磁界発生素子が発生する磁界の方向と大きさとを示すベクトルである。また、電磁界発生素子10におけるスリット13のx軸方向の中心線を1C−1C線で示している。同様に比較形態の電磁界発生素子におけるスリット13のx軸方向の中心線を1C’−1C’線で示している。なお、以下では1C−1C線と1C’−1C’線とを総称して中心線と記載する。
【0107】
実施形態1に係る電磁界発生素子10および比較形態に係る電磁界発生素子は、中心線に対して対称な構成を備えている。したがって、発生される磁界15も中心線に対して対称な結果となった。また、スリット13の貫通方向、すなわちz軸方向に直行する面内において、x軸方向における磁界15のz成分は、中心線上において最大値をとり、中心線から距離が離れるほど減少していくことを確認した。
【0108】
中心線上にあり、近接場18の出射面から15nm離れた位置における磁界15の強度は、電磁界発生素子10において8900A/mであったのに対し、参考形態の電磁界発生素子において8300A/mであった。この結果より、第2の軟磁性体122が設けられていることによって、電磁界発生素子が発生する磁界強度が高められることを確認した。なお、出射面から15nm離れた位置とは、磁気記録媒体(図示していない)上の記録ビットが存在する位置とおよそ対応する。
【0109】
上記の結果は、次のように理解することができる。電磁界発生素子10は、第1の軟磁性体121に加えて第2の軟磁性体122を備えている(図3(a)参照)。より具体的には、導体11のy軸に平行な面のうちの2面に連続して軟磁性体12が形成されており、軟磁性体12は導体11から生じた磁束が流れる方向に沿って配置されている。このように配置された軟磁性体12は、以下のような効果を有する。
・軟磁性体12が、導体11から生じる磁束の多くを収束する。
・軟磁性体12が有する高い比透磁率によって、収束された磁束の強度が高められる。
・軟磁性体12が、導体11から生じる磁束を折り曲げて収束するために、軟磁性体12外部への漏れ磁束を低減する。
・導体11から生じる磁束は、より長い距離にわたって軟磁性体12中を通過する。
【0110】
これらの効果によって、第1の軟磁性体121のみを備える比較形態の電磁界発生素子と比較して、所望の位置の磁界15の強度を高めることを実現する。なお、所望の位置とは、記録ビットが存在する位置である。
〔実施例2〕
実施形態1に係る電磁界発生素子50が発生する磁界強度と、第2の軟磁性体122のWおよびLとの相関関係について、電磁界シミュレーションを計算した結果を図4に示す。このシミュレーションにおいて、W=Lと設定している。電磁界発生素子50において、光17の入射面全面ではなく、スリット13の周辺を除く領域に第1の軟磁性体121が形成されている(図2参照)。今回のシミュレーションにおいては、第1の軟磁性体121とスリット13との距離Wを10nmとした。
【0111】
電磁界シミュレーションを計算する際、電磁界発生素子50の各種パラメータを以下のように設定した。
・導体11に流す電流値=1mA
・軟磁性体12の比透磁率=10000
・W=50nm
・L=50nm
・h=50nm
・h=10nm
・W=50nm
・W=10nm
なお、スリット13の貫通している方向に対して直交する面のうち、スリット13の中心、すなわち1B−1B線上に位置し、スリット端部131からy軸の正方向に25nm離れた位置の磁界強度を図4に示している。スリット13の貫通方向に対して直交する面内において、上記の位置が磁界強度の最大値を示す位置であった。
【0112】
電磁界発生素子50において、Wが0の場合、すなわち第2の軟磁性体122が設けられていない場合の磁界強度は7100A/mであった。これに対して、WおよびLが0.1nmの第2の軟磁性体122を設けることによって、少なくともシミュレーション上においては、磁界強度は8000A/mまで高められることが分かった(図4参照)。この結果より、光の入射面全面ではなく、スリット13周辺を除く領域に第1の軟磁性体121が形成された電磁界発生素子50においても、第2の軟磁性体122を備えることによって磁界強度を高められることを確認した。
【0113】
さらに、第2の軟磁性体122のWおよびLを大きくするに伴って、磁界強度が単調増加することも確認した。図示していないが、第2の軟磁性体122のWおよびLを大きくするに伴って磁界強度が単調増加することは、電磁界発生素子10においても同様であることを確認している。上記の結果より、電磁界発生素子の発生する磁界強度を高めるためには、第2の軟磁性体122のWおよびLは大きいほど好ましいことを確認した。一方で、WおよびLを大きくすることは、磁性材料の使用量増加に伴うコストアップおよび素子サイズの大型化につながる。
〔実施形態2〕
本発明の別の実施形態に係る電磁界発生素子60について、図5を参照して説明する。図5は、電磁界発生素子60について、磁界および近接場を作用させる対象物の方向から見た場合の概略図である。なお、電磁界発生素子10および50と同様の部材については同様の符号を付し、その説明を省略する。
【0114】
電磁界発生素子60は、導体11におけるスリット13の第1の方向に平行なyz面のうち、スリット13が形成されていない面に第2の軟磁性体122が形成されている。言い換えると、導体11におけるスリット13の第1の方向に垂直なxz面には、第2の軟磁性体122が設けられていない点において、電磁界発生素子60は電磁界発生素子10と異なる。電磁界発生素子60が上記の構成を備えることによって、スリット13の内部に発生する磁界15の向きがz軸に対してより平行に近くなる。その理由は以下のように理解できる。
【0115】
図5に示す電磁界発生素子60の導体11において、電流14がy軸の正方向へ流れる領域を第1の長辺部分とし、電流14がy軸の負方向へ流れる領域を第2の長辺部分とする。また、導体11において、電流14がx軸の正方向へ流れる部分を短辺部分とする。したがって、電磁界発生素子60が発生する磁界15は、第1の長辺部分が発生する第1の磁界と、第2の長辺部分が発生する第2の磁界と、短辺部分が発生する第3の磁界との和となる。
【0116】
導体11の第1の長辺部分において、導体11の周辺には右ネジの法則に従って第1の電界が形成される。第1の磁界の強度は、図5に示す第2の軟磁性体122および図5には図示されない第1の軟磁性体121によって高められている。また、スリット13の内部において、第1の磁界の向きは第1のz成分に加えて第1のx成分を持っている。
【0117】
導体11の第2の長辺部分においても、第1の長辺部分の場合と同様に、第1の軟磁性体121および第2の軟磁性体122によって磁界強度を高められた第2の磁界が、導体11の周辺に形成される。したがって、第2の長辺部分がスリット13の内部に形成する第2の磁界の向きは第2のz成分に加えて第2のx成分を持っている。
【0118】
電磁界発生素子60において、導体11の第1の長辺部分と第2の長辺部分とに流れる電流14は平行かつ逆向きである。したがって、第1のx成分と第2のx成分とは、お互いに逆向きであり打ち消しあう。特に、電磁界発生素子60が、スリット13の中心線である1B’−1B’線に対して線対称な構成である場合、1B’−1B’線を含むyz面内において第1のx成分と第2のx成分とは等しい。したがって、第1のx成分と第2のx成分との和はゼロとなり、上記yz面内における第1の磁界と第2の磁界との和は、第1のz成分と第2のz成分との和となる。
【0119】
一方、導体11の短辺部分ではx軸方向に電流14が流れるため、スリット13の内部に形成される第3の磁界は、第3のz成分と第3のy成分とを有している。電磁界発生素子60において短辺部分は1つであるため、第3のy成分は打ち消されない。
【0120】
本実施形態の電磁界発生素子60では、第3のy成分は第1のz成分および第2のz成分の57%程度であり、磁界15のy成分は磁界15のz成分の19%である。これに比べて、軟磁性体を設けていない電磁界発生素子と、第1の実施形態の電磁界発生素子60とでは、第3のy成分は第1のz成分および第2のz成分の72%程度であり、磁界15のy成分は磁界15のz成分の24%である。
【0121】
スリット13の内部において、第1の磁界と第2の磁界と第3の磁界との和である磁界15は、第1のz成分と第2のz成分と第3のz成分と第3のy成分との和となる。上記のように、y軸方向の磁界成分が打ち消されずに残ったままとなるが、電磁界発生素子60では、導体11に関して、スリット13の第1の方向に垂直なxz面に軟磁性体12が設けられていない。そのため、第3のz成分と第3のy成分とは第2の軟磁性体122によって高められていない。特に第3のy成分は、第1のz成分および第2のz成分と比較してとても小さい。したがって、電磁界発生素子60がスリット13の内部に発生する磁界15は、z軸に対してより平行度の高い磁界となる。よって、本電磁界発生素子60を磁気記録に利用する場合には、より垂直磁気記録に適した電磁界発生素子となる。
〔実施形態3〕
本発明の一実施形態に係る電磁界発生素子を備えた記録ヘッド100について、図7に基づいて説明する。また、本発明の一実施形態に係る記録ヘッド100を備えた記録装置について、図8に基づいて説明する。
(記録ヘッド)
図7は、本発明の実施形態1に係る電磁界発生素子10を備えた記録ヘッド100の構成例を示す概略図である。記録ヘッド100は、少なくとも、電磁界発生素子10とスライダ19と光源16と再生素子24からなる。また、情報記録媒体20上に記録ヘッド100は浮上している。
【0122】
アーム25は、スライダ19に接続されている。上記スライダ19の端部には、再生素子24が形成されている。また、再生素子24に隣接して、光源16と電磁界発生素子10とが一体形成されている。再生素子24と、光源16および電磁界発生素子10は、例えばAuSnなどの中間層23により接着されている。
【0123】
スライダ19の材料は、AlTiCが好ましいが、光源16を構成する材料の一つでもよい。スライダ19の情報記録媒体20に対向する面(ABS面)には、特定の形状のパターンが形成されている。上記パターンが形成されていることによって、情報記録媒体20の回転に伴ってスライダ19が風圧を受ける。アーム25からスライダ19が受ける力と、上記風圧により生じる力とが釣り合う位置にスライダ19は浮上する。その結果、スライダ19は、情報記録媒体20上を数nm〜数10nmの高さで浮上する。
【0124】
光源16には、小型化のために半導体レーザ素子を用いることが好ましい。レーザの波長は、電磁界発生素子10の導体11、軟磁性体12の材料、スリット13の大きさとの組み合わせを考慮して選択することが好ましい。半導体レーザ素子の活性層から照射される光17が、電磁界発生素子10のスリット13に入射するように、半導体レーザ素子の活性層の位置と電磁界発生素子10のスリット13の位置は調整される。
【0125】
記録ヘッド100では、光源16によって、電磁界発生素子10のスリット13に対して、直線偏光の(すなわち、電界ベクトルが1方向である)光17を照射することが好ましい。電磁界発生素子10のスリット13の第1の方向は、直線偏光の方向と略平行に設けられていることが好ましい。これにより、表面プラズモン21の発生領域をスリット端部131に限定することができる。上記表面プラズモン21は、導体11とスリット端部131との界面を伝播し、出射面に到達すると近接場18を発生する。上記のようにスリット13の第1の方向と光17の直線偏光の電界ベクトルとを略平行にすることによって、近接場18の発生する場所を出射面におけるスリット端部131近傍に限定できる。したがって、近接場18が発生する位置と強い磁界15が発生する位置とを近接することが可能となる。よって、情報記録媒体の所望の位置に、光アシスト磁気記録することが可能となる。
【0126】
再生素子24は、例えばトンネル磁気抵抗(TMR)、または、巨大磁気抵抗(GMR)等の磁気抵抗効果を利用した素子が用いられる。再生素子24において、情報記録媒体20に対して記録ヘッド100が移動する方向の両側には、磁気シールド層が形成されている。上記磁気シールド層は、再生素子24を隣接する記録ビットの漏れ磁束から遮蔽するために形成されており、NiFeなどの軟磁性体からなる。
【0127】
電磁界発生素子10が備える軟磁性体12と、再生素子24の磁気シールド層を形成する軟磁性体とは、一体構造となっていてもよい。この場合、電磁界発生素子10と再生素子24との間に設けられる中間層23は軟磁性体からなる。電磁界発生素子10が備える軟磁性体12の一部と、再生素子24が備える磁気シールド層の一部とを一体構造とすることによって、電磁界発生素子10と再生素子24とをより接近して配置することが可能となる。
【0128】
なお、記録ヘッド24では、電磁界発生素子10が備える第1の軟磁性体121および第2の軟磁性体122の少なくともいずれかが再生素子と隣接している構成であってもよい。この場合、電磁界発生素子10を構成する第1の軟磁性体121および第2の軟磁性体122の少なくともいずれかが、再生素子24の磁気シールド層として機能する。したがって、電磁界発生素子10を構成する軟磁性体12とは別個の磁気シールド層を再生素子24に設ける必要がない。よって、記録ヘッド100を小型化することができる。また、再生素子24に別個の磁気シールド層を形成する必要がないため、製造コストを低減できる。
【0129】
電磁界発生素子10と光源16との間には、屈折率制御、密着性向上および光源におけるショート防止などを目的として、それぞれの目的に応じた機能性を有する膜を設けてもよい。情報記録媒体20に対向する、電磁界発生素子10の面には保護膜を設けてもよい。
【0130】
光源16と電磁界発生素子10とは、一体構造にしなくてもよい。その場合、電磁界発生素子10と光源16との間にレンズ、プリズムおよび鏡などの光学系を設けてもよい。上記構成とすることによって、スライダ19のうち電磁界発生素子10を形成する面とは別の面に、光源16を設置することもできる。
【0131】
情報記録媒体20に対して、記録ヘッド100が移動する方向を図7の矢印として示す。電磁界発生素子10は、スリット13の第1の方向と上記矢印の方向とが平行になるように、記録ヘッド100に設ければよい。または、スリット13の第1の方向と上記矢印の方向とが垂直になり、かつ、スリット13の第1の方向と情報記録媒体20の記録面とが平行になるように設けてもよい。
【0132】
本実施形態に係る記録ヘッド100は、本発明の一実施形態に係る電磁界発生素子10備える。情報記録媒体20上に設けられた記録ビットの位置に近接場18を作用させることによって、電磁界発生素子10は記録ビットを局所的に加熱する。すなわち、記録ビットの保磁力を一時的に低下させることができる。電磁界発生素子10は、近接場18を作用させるとともに、強い磁界15を記録ビットの位置に発生する。すなわち、記録ヘッド100を用いることにより、保磁力の高い磁性材料からなる情報記録媒体20に対して磁気情報を書き込むことが可能となる。したがって、記録ヘッド100は光アシスト磁気記録方式における磁気記録ヘッドに好適である。
(記録装置200)
本発明の一実施形態に係る記録ヘッド100を備えた記録装置200について、図8を参照しつつ説明する。
【0133】
図8は、記録装置200の構成を示す概略図である。また、同時に記録装置200が備える制御部30のブロック図を示している。記録装置200は、スピンドル31、駆動部36および制御部30を備えている。記録装置は、磁気ヘッドが備える本発明の一実施形態に係る電磁界発生素子10が発生する近接場18および磁界15を利用して、情報記録媒体20に情報を記録するための装置である。すなわち、光アシスト磁気記録方式を採用した記録装置である。
【0134】
スピンドル31は、情報記録媒体20を回転させるためのスピンドルモータのことである。駆動部36は、アーム25、回転軸37および記録ヘッド100を備えている。アーム25は、ディスク形状の情報記録媒体20の略半径方向に沿って記録ヘッド100を移動させるためのものである。また、支持部の構造はスイングアーム構造となっている。アーム25は、回転軸37によって支持されている。したがって、記録ヘッド100が移動する際の軌跡は、回転軸37を中心とした円弧となる。上述したように、スライダ19は、情報記録媒体20の表面と記録ヘッド100の近接場18の出射面との距離を一定に保つ機能を有する。設計段階において、上記距離が最適値となるように記録装置200は設計されている。本発明の一実施形態に係る電磁界発生素子10および光源16は、スライダ19に搭載され情報記録媒体20のトラック上を移動する。したがって、記録装置200は、任意の記録ビットに対して近接場18および磁界15を作用させることができる。
【0135】
制御部30は、制御回路32とアクセス回路33とレーザおよび磁界駆動回路34とスピンドル駆動回路35とを備えている。アクセス回路33は、回転軸37を回転することによってアーム25を移動する。このことによって、情報記録媒体20上の所望の位置に記録ヘッド100を走査する。レーザおよび磁界駆動回路34は、光源16が照射する光の強度および発光時間を制御する。また、電磁界発生素子に流す電流値を制御することによって、磁界15の強度および発生時間を制御する。スピンドル駆動回路35は、情報記録媒体20の回転駆動を制御する。制御回路32は、アクセス回路33、レーザおよび磁界駆動回路34およびスピンドル駆動回路35を統括的に制御する。
【0136】
次に、図8を参照しながら記録装置200の動作について説明する。記録装置200が情報記録媒体20に対して情報を記録または再生等を行うとき、つまり動作時には、スピンドル駆動回路35はスピンドル31を適切な回転数で回転させる。アクセス回路33は、駆動部36備える回転軸37を動かすことによって、上述したように記録ヘッド100を情報記録媒体20上の所望の場所へと走査する。レーザおよび磁界駆動回路34は、決められた強度および時間間隔で光を照射し、決められた強度および時間間隔で磁界15を発生させる。具体的には、レーザおよび磁界駆動回路34が光源16を発光させることにより、電磁界発生素子10に光17が照射され近接場18が発生する。近接場18が情報記録媒体20に作用することによって、情報記録媒体20は昇温される。同様に、レーザおよび磁界駆動回路34は、情報記録媒体20に対して印加する磁界15の強度および時間間隔を制御する。このとき、光源16は、磁界15と同様の時間間隔を制御をしてもよいし、発光させ続けてもよい。
【0137】
上述のように、レーザおよび磁界駆動回路34によって制御された近接場18および磁界15が情報記録媒体20に作用することによって、記録装置200は磁気情報を記録する。制御回路32は、光源16の発光、電磁界発生素子10の磁界発生、駆動部36の動作およびスピンドル31の回転を総括的に制御する。このことによって、所望の記録ビットに所望の磁気情報を記録することを実現している。
【0138】
情報記録媒体20は、近接場18と磁界15によって磁気情報が記録される磁気情報記録媒体である。近接場18が作用することによって、情報記録媒体20が備える記録層が局所的に昇温される。同時に、上記記録層に磁界15が印加されることによって、記録層内部の磁気モーメントの向きが反転さる。このことによって、記録ビットが形成される。導体11に電流14が流すことにより発生する近接場18の位置と磁界15を印加する位置とを、本発明の一実施形態に係る電磁界発生素子10はほぼ同じ位置に設定できる。また、電流14の方向を制御することによって、情報記録媒体20へ印加される磁界15の方向を上向きまたは下向きに制御することができる。
【0139】
また、情報記録媒体20における記録ビットの形成速度すなわち記録速度は、記録層の昇温速度に依存する。この昇温速度は、情報記録媒体20に作用する近接場18の強度に依存する。つまり、発生する近接場18の強度を高めることによって、情報記録媒体20を所望の温度まで昇温するために必要な時間が短くなる。したがって、近接場18の強度の強度を高めることによって、記録速度を向上し、情報の転送レートを向上することができる。
【0140】
記録装置200は本発明の一実施形態に係る記録ヘッド100を備えている。このことによって、高い保磁力を有し熱的に安定な磁性材料である情報記録媒体20に対して、磁気情報を記録することがでる。
【0141】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明は、光アシスト磁気記録方式を用いた磁気記録装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0143】
10 電磁界発生素子
11 導体
12 軟磁性体
121 第1の軟磁性体
122 第2の軟磁性体
13 スリット
131 スリット端部
132 スリット開放部
14 電流
15 磁界
16 光源
17 光
18 近接場
19 スライダ
20 情報記録媒体
21 表面プラズモン
22 基板
23 中間層
24 再生素子
25 アーム
26 レジスト層
30 制御部
31 スピンドル
32 制御回路
33 アクセス回路
34 レーザおよび磁界駆動回路
35 スピンドル駆動回路
36 駆動部
37 回転軸
50 電磁界発生素子
60 電磁界発生素子
100 記録ヘッド
200 記録装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光が照射される面と平行な方向に、スリット開放部とスリット端部とが対向する方向が第1の方向となるスリットが形成されている導体を備え、当該導体に電流が流れると磁界を発生させ、当該スリットに当該光が入射すると近接場を発生させる電磁界発生素子であって、
上記導体の上記光が照射される面の少なくとも一部に設けられる第1の軟磁性体と、
上記導体において、上記スリットが形成されていない面の少なくとも一部に設けられる第2の軟磁性体とをさらに備えていることを特徴とする電磁界発生素子。
【請求項2】
上記スリットの第1の方向に対して垂直でありかつ上記光が照射される面と平行な方向における上記スリットの上記光が照射される範囲における最大幅が、上記光の波長より短いことを特徴とする請求項1に記載の電磁界発生素子。
【請求項3】
上記第1の軟磁性体と上記第2の軟磁性体とが直接接していることを特徴とする請求項2に記載の電磁界発生素子。
【請求項4】
上記導体における上記スリットの形成されていない面のすべての面に、上記第2の軟磁性体が設けられていることを特徴とする請求項2または3に記載の電磁界発生素子。
【請求項5】
上記導体における上記スリットの形成されていない面のうち、上記スリットの第1の方向と平行な面にのみ、上記第2の軟磁性体が設けられていることを特徴とする請求項2または3に記載の電磁界発生素子。
【請求項6】
上記第2の軟磁性体が、上記光の波長に対して透光性を備えていないことを特徴とする請求項2から5のいずれか1項に記載の電磁界発生素子。
【請求項7】
照射される上記光は直線偏光であり、上記直線偏光の電界ベクトルは、上記スリットの第1の方向に対して平行な方向であることを特徴とする請求項2から6のいずれか1項に記載の電磁界発生素子。
【請求項8】
上記第1の軟磁性体が、上記光の波長に対して透光性を有しないことを特徴とする請求項2から7のいずれか1項に記載の電磁界発生素子。
【請求項9】
上記光の照射面のうち上記スリットの近傍を除く部分に、上記第1の軟磁性体が形成されていることを特徴とする請求項8に記載の電磁界発生素子。
【請求項10】
上記光の照射面において、上記第1の軟磁性体と上記スリットとの距離は、上記第1の軟磁性体における表面プラズモンの侵入長以上であることを特徴とする請求項9に記載の電磁界発生素子。
【請求項11】
上記光が照射される面の上記スリットを除いた全面に、上記第1の軟磁性体が設けられていることを特徴とする請求項2から8のいずれか1項に記載の電磁界発生素子。
【請求項12】
上記第1の軟磁性体が、上記光の波長に対して透光性を有していることを特徴とする請求項2から7のいずれか1項に記載の電磁界発生素子。
【請求項13】
上記スリットが上記スリットの第1の方向と光の照射される方向との両方に平行な対称面に対して対称な形状を有しており、上記対称面に対して、上記導体、上記第1の軟磁性体および上記第2の軟磁性体が対称な構造を有していることを特徴とする請求項2から12のいずれか1項に記載の電磁界発生素子。
【請求項14】
上記導体と上記第1の軟磁性体および第2の軟磁性体とが直接接していることを特徴とする請求項2から13のいずれか1項に記載の電磁界発生素子。
【請求項15】
上記第1の軟磁性体および上記第2の軟磁性体が、絶縁性を有した軟磁性体であることを特徴とする請求項2から14のいずれか1項に記載の電磁界発生素子。
【請求項16】
上記光を照射するための光源として半導体レーザ素子を備え、上記半導体レーザ素子が一体形成されていることを特徴とする請求項2から15のいずれか1項に記載の電磁界発生素子。
【請求項17】
請求項2から16のいずれか一項に記載の電磁界発生素子と、
スライダと、
光源とを備えることを特徴とする記録ヘッド。
【請求項18】
再生素子をさらに備え、
電磁界発生素子が備える第1の軟磁性体および第2の軟磁性体の少なくともいずれかが再生素子と隣接していることを特徴とする請求項17に記載の記録ヘッド。
【請求項19】
請求項17または18に記載の記録ヘッドを備えることを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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