電磁界通信方法及びシステム
【課題】、集合住宅やオフィスビル等構造物内の各種配管等の既存インフラを活用して、伝送効率が高く通信内容の漏洩のない通信環境を提供する。
【解決手段】金属管10と、前記金属管10内に配設される導線と、第1の信号を生成する第1の送受信機50と、第2の信号を生成する第2の送受信機50と、前記第1の送受信機50に接続され前記金属管10の第1の場所において前記第1の送受信機50から伝送される前記第1の信号を受けて前記導線に送信し且つ前記導線から伝送される前記第2の信号を受けて前記第1の送受信機50に伝送する第1の励振器30と、前記第2の送受信機50に接続され前記金属管10の第2の場所において前記第2の送受信機50から伝送される前記第2の信号を受けて前記導線に送信し且つ前記導線から伝送される前記第1の信号を受けて前記第2の送受信機50に伝送する第2の励振器30、を有する情報通信システム。
【解決手段】金属管10と、前記金属管10内に配設される導線と、第1の信号を生成する第1の送受信機50と、第2の信号を生成する第2の送受信機50と、前記第1の送受信機50に接続され前記金属管10の第1の場所において前記第1の送受信機50から伝送される前記第1の信号を受けて前記導線に送信し且つ前記導線から伝送される前記第2の信号を受けて前記第1の送受信機50に伝送する第1の励振器30と、前記第2の送受信機50に接続され前記金属管10の第2の場所において前記第2の送受信機50から伝送される前記第2の信号を受けて前記導線に送信し且つ前記導線から伝送される前記第1の信号を受けて前記第2の送受信機50に伝送する第2の励振器30、を有する情報通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信システムを提供する方法及びシステムに関し、特に建造物等の構造物内の導体を利用して、局所的な準静的電磁界を作出して電波を伝達する方法及びシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
情報化が進行し情報化社会といわれる現代において、異なるたくさんの機器を比較的低コストで、ワイヤを使わず簡単に接続でき、且つ同じ無線周波帯域の他の利用者との混信を起こさない方法や装置の開発が望まれている。本発明の出願人は、かかる課題を解決すべく、特表2003−512748号公報において基本的な方法を提案している。
【0003】
一方、かかる情報化社会の進行と歩調を合わせて、既存の通信環境の整備や既存インフラを利用した新たな通信環境の提供が望まれている。例えば、特に老朽化したいわゆるマンション等の集合住宅やオフィスビル等において、パーソナルコンピュータの普及に伴って住人が高速通信手段を得ようとする場合、伝送効率の高い通信を可能にする光ファイバを敷設する等の方法が考えられる。しかし、光ファイバ等を敷設すると大規模な工事となり、費用が高額となって敷設できない場合もあり、かかる環境の整備が問題となっている。費用が高額となって通信環境整備の障害となる点は、住人が個人的に家庭用の回線を交換する場合も同様である。
【0004】
また、近年普及が進んだケーブルテレビは、当初敷設したケーブルが老朽化の時期にさしかかっている。各有線テレビジョン放送会社は、このケーブルの交換が必要となっているが、上述した集合住宅やオフィスビル等においては、共同配管を使用して敷設しているためやはり工事が大規模になり交換費用が高額となる。しかし、かかる費用を利用者負担とした場合同業者との競争上不利となり、現状では有線テレビジョン放送会社が自己負担している。今後更に老朽化が進行した場合工事件数が飛躍的に増大し、有線テレビジョン放送会社の収益を圧迫する。従って早急な対策が望まれている。
【特許文献1】特表2003−512748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、集合住宅やオフィスビル等構造物内の各種配管等の既存インフラを活用して、伝送効率が高く通信内容の漏洩のない通信環境を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態によれば、金属管と、前記金属管内に配設される導線と、第1の信号を生成する第1の送受信機と、第2の信号を生成する第2の送受信機と、前記第1の送受信機に接続され、前記金属管の第1の場所において前記第1の送受信機から伝送される前記第1の信号を受けて前記導線に送信し、且つ前記導線から伝送される前記第2の信号を受けて前記第1の送受信機に伝送する第1の励振器と、前記第2の送受信機に接続され、前記金属管の第2の場所において前記第2の送受信機から伝送される前記第2の信号を受けて前記導線に送信し、且つ前記導線から伝送される前記第1の信号を受けて前記第2の送受信機に伝送する第2の励振器と、を有することを特徴とする情報通信システムが提供される。
【0007】
また、本発明の別の実施形態によれば、金属管と、第1の信号を生成する第1の送受信機と、第2の信号を生成する第2の送受信機と、前記第1の送受信機に接続され、前記金属管の第1の場所において前記第1の送受信機から伝送される前記第1の信号を受けて前記金属管に送信し、且つ前記金属管から伝送される前記第2の信号を受けて前記第1の送受信機に伝送する第1の励振器と、前記第2の送受信機に接続され、前記金属管の第2の場所において前記第2の送受信機から伝送される前記第2の信号を受けて前記金属管に送信し、且つ前記金属管から伝送される前記第1の信号を受けて前記第2の送受信機に伝送する第2の励振器と、を有することを特徴とする情報通信システムが提供される。
【0008】
更に、本発明によれば、金属管の第1の場所と第2の場所との間の情報通信方法において、前記第1の場所において第1の信号を生成し、前記第1の信号を前記金属管内に配設された導電体に前記金属管内に配設された第1の励振器を通して送信し、前記導電体から伝送された前記第1の信号を前記金属管内に配設された第2の励振器を通して前記第2の場所において受信することを特徴とする情報通信方法が提供される。
【0009】
また更に、本発明によれば、金属管の第1の場所と第2の場所との間の情報通信方法において、前記第1の場所において第1の信号を生成し、前記第1の信号を前記金属管内に配設された第1の励振器を通して前記金属管に送信し、前記金属管から伝送された前記第1の信号を前記金属管内に配設された第2の励振器を通して前記第2の場所において受信することを特徴とする情報通信方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、集合住宅やオフィスビル等構造物内の各種配管等の既存インフラを活用して、伝送効率が高く通信内容の漏洩のない通信環境が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるわけではない。また、各実施形態において、同様の構成については同じ符号を付し、改めて説明しない場合がある。
【0012】
(第1の実施形態)
上述したように、マンション等のいわゆる集合住宅やオフィスビル等においては、例えば各家庭の電源線や電話線等は、共有スペースに設けられた電線管10といわれる共同配管内に敷設され、各家庭に配線されている。図1は、集合住宅における電線管10による電話線11等の配線を示す模式図であり、図2は、図1に示した部分Aの拡大図である。また図3は、図1に示した部分Bの拡大図であり、本発明の第1の実施形態の励振器(exciter、以下エキサイタと記す。)30の接続方法を示す図である。図1に示すように、集合住宅等においては、共有部分に配設された共同配管である電線管10内に各家庭用の電話線11が敷設され、各家庭に配線される。
【0013】
電線管10は、一般的に約5cm程度の径の金属管であり、鉄、銅、真鍮、アルミニウム等及びそれらの合金の管が用いられている。電線管10内には、図2に示すように各家庭に配線される複数の電話線11が敷設され、各階ごとに必要な電話線11だけが各家庭に引き込まれる。
【0014】
図3に示すように、各電線管10の下部には主配電盤(Main Distribution Frame 以下、MDFと記す。)20が配設され、電話局からの回線(図示せず)がMDF20を介して各家庭用に分けられる。
【0015】
かかる配線がされた集合住宅において、伝送効率の高い通信を可能とする方法としては従来2つの方法があった。一つは、集合住宅内LAN回線を使用して配線する方法であるが、ISDN(Integrated Services Digital Network 総合デジタル通信網)、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line 非対称デジタル加入者線)といった電話回線の普及が進み、ある程度築年数の経過した一般的な集合住宅では電線管10の内部が回線で詰まった状態で隙間がなく、LANケーブルの敷設ができない場合が多い。
【0016】
もう一つの方法は、DSL(Digital Subscriber Line デジタル加入者線)と呼ばれる既存の電話線11を利用する方法で、光ファイバが普及するまでの「つなぎ」サービスとして利用されているものであるが、電話局との距離が短くないと十分な伝送効率を確保できない、及びISDNと混信するおそれがある等の欠点がある。また、このDSLの代表的な方法であるVDSL(Very high‐bit‐rate Digital Subscriber Line)は、100Mbpsの回線を入居者で分割する方法であるが、入居者数が多ければそれだけ通信速度が遅くなり、大規模な集合住宅では高速通信の実効が得られない。
【0017】
以上説明したとおり、ある程度の築年数が経過したマンション等の集合住宅又はオフィスビル等においては、既存のインフラが障害となって伝送効率の高い通信環境を提供することが困難な場合がある。特に、老朽化が進行した集合住宅等においては顕著である。
【0018】
本発明の第1の実施形態においては、かかる老朽化した集合住宅やオフィスビル等の構造物において、従来の電線管等の金属管10及び前記金属管10内に敷設された電話線11等の配線をそのまま使用して、伝送効率が高く且つ通信内容の漏洩のない安全性に優れた通信環境を提供することができる。
【0019】
かかる優れた通信環境を可能にするのは、本発明が励振器を使用して電磁界を発生させ、いわゆるエバネセント空間を発生させることによる。従って、本発明の説明にあたって、かかる励振器について説明する。尚、以下においては、かかる励振器をエキサイタということがある。
【0020】
励振器は、金属管を含む金属構造中にRF(無線周波数)電流を注入して金属構造を励振させる装置であり、これらの電流は、金属構造の表面を伝わって伝播する。励振器は、他の励振器によって発生した金属構造中の電流を受け取る特性を有する。従って、2つ以上の励振器で構成するシステムは、金属構造からRF電流を注入し又は受信することにより、励振器相互間で通信することができる。本発明の第1の実施形態で使用するエキサイタ30を、図によって説明する。図4は、本発明の第1の実施形態におけるエキサイタ30の概略構成図である。
【0021】
図4において、エキサイタ30は、抵抗RとコンデンサC0とを直列に接続したものである。抵抗RとコンデンサC0の値は適時設計変更可能であるが、本発明者らの実験結果によれば、R=51Ω、C0=0.1μFであることが好ましいことがわかっている。但し、これに限定されるわけではない。また、エキサイタ30の端子と送受信機50との接続については、本実施形態においては抵抗R側の端子を送受信機50側に接続し、コンデンサC0側の端子を導線31側に接続しているが、反対に接続してもよい。
【0022】
上述したように抵抗とコンデンサから構成される簡単な構造であるため、エキサイタ30は軽量小型化することが可能である。なお、かかるエキサイタ30は励振器の例示であり、励振器はこれに限定されるわけではない。また、エキサイタ30の代わりに、より広域の周波数帯をカバーできるディスコーンアンテナを使用したいわゆる3Dエキサイタを使用してもよいし、2Dエキサイタでも良い。かかる3Dエキサイタ及び2Dエキサイタについては、本発明の出願人の先願である特表2003−512748号公報を参照されたい。
【0023】
かかるエキサイタ30を使用し、伝送効率が高く安全性に優れた通信環境を構築できる本発明の第1の実施形態について、図3を用いながら説明する。図3において示すように、集合住宅等の電線管10の下部には、電話局からの回線を集合住宅内の各家庭に分配するMDF20が配設されている。MDF20内においては、電話局からの回線(図示せず)が各家庭用の電話線11の電話線芯線12と接続され、各家庭用に分配される。本発明の第1の実施形態においては、このMDF20の近傍にエキサイタ30を1個配設し、MDF20内の各家庭用の電話線11の電話線芯線12への接続点において、前記エキサイタ30から並列に引き回した導線31と前記各家庭用の電話線11の電話線芯線12とを接続する。
【0024】
エキサイタ30には、別の導線32を介して送受信機50が接続される。前記導線32は一般的には同軸ケーブルが用いられるが、エキサイタ30と送受信機50との間は特性インピーダンスが50Ωである必要があるので、前記特性インピーダンスが確保できれば同軸ケーブルに限られない。
【0025】
一方、各家庭内の電話線11の電話線芯線12にも導線31を介してエキサイタ30が接続される。そして前記エキサイタ30には、送受信機50が特性インピーダンス50Ωの導線32を介して接続される。従って、MDF20と家庭内の電話線11の終端とは、エキサイタ30で挟まれた間隔となる。
【0026】
かかる構成を全体的に示したのが、図5である。図5は、本発明の第1の実施形態の全体構成を模式的に示す図である。金属管(本実施形態においては電線管。)10の内部を通された電話線11の電話線芯線12は、一端がMDF20、及び前記MDF20に接続された導線31を介してエキサイタ30に接続され、更に別の導線32を介して送受信機50に接続される。一方、電話線芯線12の他の一端は、各家庭内に配設されたエキサイタ30に接続され、更に導線31を介して送受信機50に接続される。なお、エキサイタ30を配設する位置はこれに限られず、MDF20と金属管10との間に配設してもよい。但しこの場合には、電話線ごとにエキサイタ30を接続する必要がある。
【0027】
かかる構成によって、エキサイタ30と各家庭用の電話線11の電話線芯線12が接続されているため、送受信機50(この場合、第1の送受信機となる。)から、該送受信機50に接続された前記エキサイタ30(この場合、第1の励振器となる。)に所定の無線周波数(RF)信号(第1の信号)を伝送すると、前記エキサイタ30は電流を注入して電話線芯線12を励振させる。これによって、電線管10と電話線芯線12との間において準静的電磁界(エバネセント空間)100を発生させることができる。電線管10内部においては電話線芯線12を取り巻く外周は、金属製の前記電線管10であるため、所定の周波数のRF電流の注入によって電磁界が生じるのである。前記電磁界を伝搬して伝送された前記電流は、他のエキサイタ30(この場合、第2の励振器となる。)によって受け取られ、該エキサイタ30に接続された他の送受信機50(この場合、第2送受信機となる。)に伝送され、該送受信機50によって復調される。なお、前記所定の無線周波数は、一般的に短波(HF)、超短波(VHF)、極超短波(UHF)の下方帯域であるが、本発明の第1の実施形態で使用される周波数は、中波の一部も含む500kHz〜100MHzの周波数である。但し、一実施形態であり、本発明の無線周波数帯域はこれに限定されるわけではない。
【0028】
次に、かかる電磁界内において、電波が伝播する状況を説明する。図6は、本発明の第1の実施形態における電線管10内の電磁界を模式的に示す図である。図6においては電磁界の様子を理解しやすくするために波状の形状で示しているが、これはあくまでもイメージであり、電磁界が波状になっているわけではない。上述したように、電線管10と前記電線管10内の電話線11の電話線芯線12との間には、所定のRF電流の注入により電磁界100が生じる。かかる電磁界100内においては、所定の周波数のRF電流は途中で減衰することなく伝播する。
【0029】
かかる電波の減衰の状況を、実験結果によって説明する。図7は、本発明の第1の実施形態と同様に、上述したエキサイタ30を接続し金属管10内を経由した導線31の終端における電界強度測定方法の模式図及び測定結果を示す図である。また、図13は図7に示したエキサイタ30を接続しただけ(即ち、金属管10を経由しない。)の導線31の終端における電界強度測定方法の模式図及び測定結果を示す図である。
【0030】
図7及び図13において、導線31は18.4mの長さのものを用い、導線31の一端にエキサイタ30を接続し、更に前記エキサイタ30にシグナルジェネレータ60を接続する。図7においては、金属管10として、マンション等の集合住宅において電線管として一般的に使用されている47.8mm径の電線管(丸一鋼管株式会社製 厚鋼電線管G42 溶融亜鉛めっき管)を使用した。また、電界強度の測定は、前記導線31の終端において電界プローブ80を用い、スペクトラムアナライザ(スペクトル分析器)70によって導線31表面の垂直方向の電界を測定した。本実験においては、スペクトラムアナライザ70としてNARDA社製SRM−3000セレクティブメータを使用し、また、電界プローブ80として、同じNARDA社製1軸式磁界プローブ3551/01を使用した。
【0031】
実験は、シグナルジェネレータ60によって、周波数500kHz〜100MHzの電波を所定の電力(基準電力0.0dBm)で、導線31にエキサイタ30を介して出力し、18.4m先の導線31の終端において電界プローブ80を用い、前記電波が増幅乃至減衰する状況を測定した。
【0032】
図7においては、周波数500kHz〜100MHzの全帯域に渉って、約95dBμV/m以上の電界強度特性を確保でき、電波があまり減衰しないことが把握される。一方図13に示すように、金属管10を経由しない場合には、50MHz以上の周波数帯域において電界強度特性が80dBμV/m以下になってしまい、電波がある程度減衰しているのが把握される。以上のように、導線31を、金属管10内を経由させることによって、電波の減衰を抑制できることが理解される。本発明の第1の実施形態によれば、電波の減衰を抑制して良好な通信環境が提供できることが理解される。なお、電波が減衰しないのは、導線31の外周を金属管10が取り囲んでいるため、磁界が減衰しないためと考えられる。
【0033】
また、マンション内の電線管10と同様に、金属管10及び導線31を長距離にした場合の効果についても測定試験を行っている。図8は、金属管10と導線31の長さを110mとし、図7と同様に電界強度を測定した測定結果を示す図である。図7においては、導線31の一端にエキサイタ30を接続したが、図8においては、導線31の両端にエキサイタ30を接続し、また、電力を+10dBmで出力している。測定は周波数500kHz〜100MHzの全帯域に渉って測定し、受信電力が約35dBの減衰と良好であった。即ち、導線31の両端にエキサイタ30を接続することで、長距離においても電波の減衰が抑制され、100MHz以下の周波数帯域において、伝送ロス特性が非常に少なく、長距離間の通信を行うことが可能であることが理解される。この結果、長距離を配線する集合住宅内の電線管10においても本発明の効果が発揮されることが把握される。
【0034】
以上の結果、図1に示すように、マンション等の集合住宅又はオフィスビル等の各家庭又は事務室内の電話線11の端部にエキサイタ30を配置し、MDF20近傍に配設したエキサイタ30から所定の周波数で励振した電話線11を介すれば、それぞれのエキサイタ30に接続した送受信機50を介してエバネセント空間によって電波の減衰を抑制しながら通信できることが理解される。従って、本発明の第1の実施形態によれば、従来の既存インフラである電話線11をそのまま利用して伝送効率の高い通信環境が確立できる。また、MDF20まで通信会社の提供する光ファイバで接続し、MDF20から各家庭又は事務室までを、MDF20近傍に配設したエキサイタ30と各家庭内又は事務室内のエキサイタ30とで励振した従来の電線管10内の各電話線11を経由して伝送することで、より伝送効率の高い通信環境の確立が可能となる。
【0035】
なお、かかる電線管10内の各家庭用の電話線11の場合、例えば通話中の会話の漏洩、混信が問題となるが、パソコン通信等はIPアドレスで送受信が制御されており、電話による会話のように混信や漏洩は問題とならない。
【0036】
また、エバネセント波は、電磁界内では減衰が抑制されるが、金属で囲われた外部に漏洩した場合、急激に減衰する特性がある。従って、電線管10外に通信内容が漏洩することはない。一般的な通信においては、例えば建造物外に電波が漏洩し傍受されることもあるが、本発明の第1の実施形態によればかかる建造物外への通信内容の漏洩がなく、安全性の高い通信環境が提供される。
【0037】
以上説明したとおり、本発明の第1の実施形態においては、第1に、ある程度の築年数が経過したマンション等の集合住宅又はオフィスビル等において、既存のインフラを利用して伝送効率の高い通信環境を提供することができる。また第2に、既存のインフラを利用するため、伝送効率の高い通信環境を安価に提供することができる。更に第3に、エバネセント空間を利用するため通信内容の漏洩のない安全性が高く、且つ伝送効率の高い通信環境が提供される。
【0038】
(第2の実施形態)
本発明の第1の実施形態においては、上述したように、ある程度の築年数が経過したマンション等の集合住宅又はオフィスビル等において、既存のインフラを利用して伝送効率の高い通信環境を提供することができる。ここで、既存のインフラには、例えば、CATV(Community Antenna TeleVision)と呼ばれる有線テレビジョン放送会社が提供するケーブルテレビ網がある。かかるケーブルテレビ網は、近年多チャンネルやIP電話サービス、高速なインターネット接続サービスを武器に、都市部において加入者数を増大させている。
【0039】
ここで、ケーブルテレビ網は、1980年代にCS/BS等の専門チャンネルの同時送信による多チャンネル化で普及し、また1990年代には、加入者からセンターへデータを送信できる双方向システムのホームターミナルを使用した「都市型ケーブルテレビ」が大都市近郊の行政単位で次々と開局し、加入者数を増やしてきた。しかし、すでに開設から20年以上経過したケーブルテレビ網が多く、ケーブルの老朽化の問題を抱えている。また、加入者からの伝送効率の高い通信環境を望む要望に対して、光ファイバの敷設が高額となることから、対応に苦慮しているのが現状である。
【0040】
かかるケーブルテレビ網は、マンション等の集合住宅の場合、電線管等の共同配管内を同軸ケーブル等で配線されている。しかし、上述したように電線管等の共同配管は、パーソナルコンピュータの普及に伴いADSL回線等の各種ケーブルで詰まった状態で空きが無く、老朽化したケーブルを交換する場合及び光ファイバを敷設する場合に大規模な工事となることが多い。営業競争上この工事費をケーブルテレビ加入者の負担とすることができにくく、有線テレビジョン放送会社の負担となり収益を圧迫しつつある。今後更に老朽化が進み、一方で伝送効率の高い通信環境を望む要望が高まれば、この負担は更に増大する。
【0041】
本発明の第2の実施形態においては、かかるケーブルテレビ網について、従来のインフラを利用しながら伝送効率の高い通信環境を提供することができる。即ち、現状のケーブルテレビ網は、有線テレビジョン放送会社からエリア内のケーブル配線には、幹線に光ファイバケーブル(以下、光ケーブルという。)が用いられ、末端に同軸ケーブルを利用したHFC(Hybrid Fiber Coaxial 光同軸ハイブリッド伝送。)が一般的である。老朽化及び高速通信で問題となるのは、この同軸ケーブルの部分であるが、本発明の第2の実施形態においては、この同軸ケーブルを交換せずにそのまま利用して伝送効率の高い、且つ安全性に優れた通信環境を提供することができる。
【0042】
マンション等の集合住宅においては、上述したHFC方式の場合、幹線の光ファイバから共聴設備に接続され、共聴施設から同軸ケーブルで各家庭に配線される。従って、上述した本発明の第1の実施形態と同様に、共聴設備の各家庭用の同軸ケーブルの接続点において、前記同軸ケーブルにエキサイタを導線で接続する。また、前記エキサイタには別の導線を介して送受信機が接続される。
【0043】
この際、同軸ケーブルと導線との接続方法は2通りの方法がある。即ち、同軸ケーブルの外側の網組線の部分と導線を接続する方法(以下、かかる接続方法を第1接続方法という。)、及び同軸ケーブルの芯線と導線を接続する方法(以下、かかる接続方法を第2接続方法という。)である。本発明の第2の実施形態においては、いずれの接続方法であっても効果を発揮する。
【0044】
また、各家庭内の同軸ケーブルの端部には、本発明の第1の実施形態と同様にエキサイタが接続される。従って、同軸ケーブルの両端がエキサイタで挟まれた状態となる。前記エキサイタにも導線を介して送受信機が接続される。
【0045】
かかる構成による本発明の第2の実施形態の効果を、図を基に説明する。図9は、本発明の第2の実施形態における電線管10内の同軸ケーブル40の断面模式図である。なお、図9においては、説明上同軸ケーブルの外周部の絶縁プラスチック等は図示を省略している。まず、第1接続方法における効果を図9の同軸ケーブルA40を例に説明する。第1接続方法によれば、同軸ケーブルA40外側の網組線A42とエキサイタ30(図示せず)とが導線31(図示せず)で接続される。エキサイタ30に所定の周波数のRF電流を注入して網組線A42を励振させる。同軸ケーブルA40は、金属管である電線管10の内部を経由しているため、網組線A42が励振することによって同軸ケーブルA40の外側に位置する網組線A42と前記電線管10との間に電磁界A100が発生する。即ち、網組線A42と電線管10との間にエバネセント空間が発生する。従って、エキサイタ30から注入された所定の周波数のRF電流は網組線A42の外側を伝播して伝送されるが、このエバネセント空間が発生していることにより、電波が減衰することなく伝播する。即ち、上述した本発明の第1の実施形態で説明したように、電線管10と同軸ケーブルA40との間は、金属で囲われた空間であるため、本発明の第1の実施形態と同様の理由によって電波が減衰しないのである。なお、上述した所定の周波数は、本発明の第1の実施形態と同様に500kHz〜100MHzの周波数が用いられる。
【0046】
第2接続方法における効果を図9の同軸ケーブルB40を例に説明する。第2接続方法によれば、同軸ケーブルB40の同軸ケーブル芯線B41とエキサイタ30(図示せず)とが導線31(図示せず)で接続される。同軸ケーブル40は、主に銅線である同軸ケーブル芯線41をポリエチレン等の絶縁体で包み、その上を網状の金属シールド(網組線42)で覆ったもので、更にその補強のために網組線42の外側を塩化ビニール等で覆った多重構造のケーブルである。即ち、図9において同軸ケーブルB40の外周側には網組線B42が配設されており、同軸ケーブル芯線B41と網組線B42との間には、ポリエチレン等の絶縁材が介在しているが、同軸ケーブル芯線B41の外側は金属(網組線42)で囲われた空間である。従って、エキサイタ30に所定の周波数の電流を注入して同軸ケーブル芯線B41を励振させると、同軸ケーブル芯線B41の外側に位置する網組線B42と前記同軸ケーブル芯線B41との間に電磁界B100が発生する。即ち、同軸ケーブル芯線B41と網組線B42との間にエバネセント空間が発生する。従って、エキサイタ30から注入された所定の周波数のRF電流は同軸ケーブル芯線B41の外側を伝播して伝送されるが、このエバネセント空間が発生していることにより、電波が減衰することなく伝播する。この場合も500kHz〜100MHzの周波数が用いられる。
【0047】
以上説明したように、本発明の第2の実施形態においては、同軸ケーブル40とエキサイタ30から引き出される導線31との接続方法が、第1接続方法及び第2接続方法のいずれであっても、電波が減衰することなく伝播する。しかも、電波は、金属で囲まれた空間の中を電磁界によって伝播するため、同軸ケーブル40がある程度老朽化していても問題とならない。特に第1接続方法によれば、銅線等が細かに編みこまれた網組線42と電線管10との間に生じる電磁界100を利用するため、例えば、同軸ケーブル芯線41が老朽化して断線が生じても、網組線42すべてが老朽化して同一箇所で断線する確率は低い。従って、ケーブルテレビ網を交換せずに通信環境を確保することができる。なお、使用したエキサイタ30は、図4で示したものを使用しているが、これに限定されるわけではなく、3Dエキサイタや2Dエキサイタであってもよい。
【0048】
また、本発明の第1の実施形態で図8を基に説明したように、かかるエバネセント空間を利用して通信する場合、エキサイタ30の間隔が110mと長距離に広がっても、周波数500kHz〜100MHzの全帯域に渉って測定して受信電力が約35dBの減衰しかないため伝送効率の高い良好な通信環境が確保できる。
【0049】
更に、本発明の第1の実施形態と同様、エバネセント空間を利用するため、電線管10外又は同軸ケーブル40外に電波が漏洩しても、急激に電波が減衰するため通信内容が漏洩することはなく、プライバシーの保護上安全性が高い。
【0050】
以上説明したとおり、本発明の第1の実施形態の変形実施例においては、第1に、老朽化したケーブルテレビ網のインフラをそのまま利用して伝送効率の高い通信環境を提供することができる。また第2に、ケーブルテレビ網の交換が必要ないため、有線テレビジョン放送会社の収益を圧迫することがない。更に第3に、エバネセント空間を利用するため通信内容の漏洩のない安全性が高く、且つ伝送効率の高い通信環境が提供される。
【0051】
なお、構造物によっては、かかる同軸ケーブル40が電線管10等の金属管に配設されず、プラスチック管内に配設されている場合がある。かかる場合でも、本発明の第2の実施形態で対応が可能である。即ち、上述した構成において、同軸ケーブル40の同軸ケーブル芯線41に導線を介してエキサイタ30を接続する。即ち、第2接続方法で接続する。上述した方法においては同軸ケーブル40が配設された金属管である電線管10を使用して、同軸ケーブル芯線41と電線管10との間に電磁界を形成したが、プラスチック管等ではこれができない。そこで、同軸ケーブル40の網組線42をグランドに落とさず、フローティング状態とする。網組線42は、金属線が細かく編み込みされた構造であるため、フローティングとすることで金属管10と同様に金属で囲まれた空間を形成することができる。以上の方法によって、上述した第2の実施形態と同様の構成とすることができる。この場合の効果は、上述した本発明の第2の実施形態と同様であるので、説明は省略する。
【0052】
(第3の実施形態)
上述したとおり、本発明の第1及び第2の実施形態においては、集合住宅やオフィスビル等の電話線等の共同配管である電線管等と、前記電線管内に敷設された既存の電話線やケーブルテレビ網を利用して、安価で且つ通信内容の漏洩のない安全性が高く、且つ伝送効率の高い通信環境が提供される。本発明の第3の実施形態においては、集合住宅やオフィスビル等の電線管以外の既存のインフラを利用して、安価で且つ通信内容の漏洩のない安全性が高く、且つ伝送効率の高い通信環境を提供することができる。
【0053】
集合住宅やオフィスビル等においては、電線管以外にも、共有のスペースに水道管やガス管等の配管が配設されている。かかる配管は、共用スペース内を通される主配管と、主配管から各家庭に引き回される枝配管とから構成される。本発明の第3の実施形態においては、かかる配管のうち、水道管の主配管及び枝配管を利用して伝送効率の高い通信環境を提供することを特徴とする。
【0054】
図10及び図11は、本発明の第3の実施形態を示す模式図である。図10及び図11において金属管10の両端は閉じられている。本発明の第3の実施形態においては、金属管10(本実施形態においては水道管。)内部にエキサイタ30を配設し、エキサイタ30によって導線33又は金属管10を励振させてエバネセント空間を発生させ、エバネセント空間を利用して所定の周波数で通信するものである。図10において、水道管10内部にエキサイタ30を2個配設し、エキサイタ30の間を導線33で接続する。本実施形態においては、導線33は、ビニール被覆銅線を使用したがこれに限られるわけではない。但し、エキサイタ30を含めて導線33も水道管10内に配設されるため、完全に防水処理がなされる。それぞれのエキサイタ30は、水道管10に設けられた開口を通された導線34を介して、水道管10外部に配設された送受信機50と接続される。導線34は同軸ケーブルでもよいし、他のケーブルであってもよいが、特性インピーダンスが50Ωであることが必要であるし、また水道管10内部においては完全に防水処理がなされる。なお、前記開口は確実に密封され、水漏れ等が起こらないようにされる。
【0055】
図11に示す例では、同様に、水道管10内部にエキサイタ30を配設し、それぞれのエキサイタ30は、水道管10に設けられた開口を通された導線34を介して、水道管10外部に配設された送受信機50と接続される。但し、図10と異なり、それぞれのエキサイタ30の間は導線33で接続されることはなく、エキサイタ30同士は、直接電気的に接続されることはない。図10と同様に、水道管10内部に配設されるエキサイタ30及び導線34は、完全に防水処理がなされる。導線34は同軸ケーブルでもよいし、他のケーブルであってもよいが、特性インピーダンスが50Ωであることが必要である。なお、前記開口は確実に密封され、水漏れ等が起こらないようにされる。
【0056】
かかる構成によって、水道管10外部に配設された送受信機50から所定の周波数(第1の信号)を水道管10内部に配設されたエキサイタ30に伝送する。エキサイタ30は、該エキサイタ30に接続された導線33又は直接水道管10に所定の周波数のRF電流を注入する。このとき、図10においてはエキサイタ30の間を接続する導線33が励振され、導線33と水道管10との間に電磁界(即ち、エバネセント空間)が発生する。一方、図11の例においては水道管10自体が励振され、水道管10内部の側壁間に電磁界が発生する。いずれの場合にも、エキサイタ30に所定の周波数のRF電流を注入することにより、水道管10内部に電磁界が発生する。従って、かかる電磁界を利用して、それぞれのエキサイタ30に接続された送受信機50によって通信を行うことができる。前記電磁界を伝搬して伝送された電流は、他のエキサイタ30によって受け取られ、該エキサイタ30が接続された他の送受信機50に伝送される。前記他の送受信機50は前記電流を所定の周波数の信号(第1の信号)に復調する。これによって2つの送受信機50間において通信が行われる。
【0057】
本発明の第3の実施形態の効果について図を基に説明する。上述した本発明の第1及び第2の実施形態と同様に、電界強度測定試験を行って、本発明の第3の実施形態の効果を検証している。図12は、図10で示した例における導線33の終端における電界強度測定の模式図及び測定結果を示す図である。但し、図10と異なり、エキサイタ30は金属管10外部に配設されているが、電磁界は金属管10と導線33の間で発生するので、エキサイタ30が配設されている位置は測定結果には影響しない。また、エキサイタ30は、導線33の一方側にだけ設けているが、導線33の両側にエキサイタ30を設けるのは長距離間の通信を可能にするためであるので、この点も測定結果に影響を与えない。
【0058】
図12において、金属管10内部を経由した18.4mの導線33の一端に、エキサイタ30を接続し、更に前記エキサイタ30に導線34を介してシグナルジェネレータ60を接続する。金属管10には水が注入され、金属管10の両端は完全に密封されている。また、導線33は金属管10両端密封部分を貫通することになるが、かかる貫通部分も完全に防止処理がなされている。使用した金属管10及びスペクトラムアナライザ70等は、図7及び図13で示したものと同様である。また、実験方法も図7及び図13と同一であるので詳細は省略する。
【0059】
図12においては、周波数500kHz〜100MHzの全帯域のうち、75MHz〜90MHz付近において波信号が弱いが、75MHz以下の帯域においては、図13で示した導線31が金属管10を経由しない場合に比して信号強度が強く、電界強度特性が優れているのが把握される。即ち、周波数500kHz〜75MHzまでであれば管内に水が充満した水道管等を使用しても電磁界は影響を受けず、電磁界を利用して通信することで電波の減衰が抑制されるからである。
【0060】
また、このことから、図8で示したのと同様に導線33の両端にエキサイタ30を接続すれば、水道管10が長距離になっても良好な通信環境を確保することができることが把握される。そして、図8と同様に100MHz以下の周波数は伝送ロス特性が非常に少ないため、伝送効率の高い通信環境を構築することができることも理解される。
【0061】
以上説明したように、本発明の第3の実施形態においては、周波数500kHz〜75MHzのRF電流を使用することで、集合住宅やオフィスビル等の既存の水道管を利用した伝送効率の高い通信環境を構築できる。既存の水道管を使用するため、安価に伝送効率の高い通信環境を構築することができ、また、エバネセント空間を利用するため、通信内容の漏洩のない安全性の高い通信環境を構築できる。
【0062】
なお、水道管10内にエキサイタ30を配設した場合、水流の障害となることが考えられるが、エキサイタは小型化できるので、特に主配管については問題とならない。また、各家庭に引き回される枝配管についても基本的に問題とならないが、各家庭に引き入れられる部分にはいわゆる水道メータが配設されており、かかる水道メータの内部等にエキサイタを配設すれば、水流の障害となることがない。
【0063】
(第4の実施形態)
上述した本発明の第3の実施形態は、既存の水道管を使用して伝送効率の高い通信環境を構築するものであるが、集合住宅やオフィスビル等においては水道管以外にも各種の配管が敷設されている。本発明の第4の実施形態として、かかる水道管を都市ガス等のガス配管に置き換えることが可能である。
【0064】
集合住宅やオフィス等においては、ガス配管も共用スペースに集中して敷設されている。電線管や水道管と同様に、ガス管も共用スペースに配管されたメインとなる主配管から枝配管によって各家庭に分配される。従って、このガス配管を利用すれば、同様の安全性が高く、且つ伝送効率の高い通信環境を構築できる。
【0065】
図10及び図11で示したように、金属製のガス管10内にエキサイタ30を配設し、それぞれのエキサイタ30から導線31を引き出し、ガス管に設けた開口から前記導線31を引き出して送受信機50に接続する。開口は、導線31を引き出した後、確実に密封する。エキサイタ30の間は、図10に示すようにビニール被覆導線等の導線33で接続してもよいし、また図11のように、エキサイタ30間はまったく接続しなくてもよい。
【0066】
送受信機50からの第1の信号を受けて、エキサイタ30が所定の周波数のRF電流を導線33又はガス管10に注入し、導線33又はガス管10を励振させる。これによって、導線33とガス管10との間、又はガス管10の内部側壁間において電磁界が発生する。従って、上述した本発明の第3の実施形態と同様に、かかる電磁界を利用してそれぞれのエキサイタ30に接続された送受信機50によって通信を行うことができる。
【0067】
この場合、本発明の第3の実施形態と異なり、ガス管10内には気体であるガスが充満しているが、空気と同様に気体であり、効果は図7で示した効果と同様である。従って、500kHz〜100MHzの全帯域にわたって効果があり、上述した本発明の第3の実施形態の水道管の場合に比して効果が大きい。
【0068】
また、ガス管10であるため、ガス管10内に配設したエキサイタ30がガスの流れの障害となることもない。なお、エキサイタ30のガス管10内への配設については、エキサイタが小型化できるため、特に主配管については問題とならない。一方、枝配管についても基本的に問題とならないが、本発明の第3の実施形態と同様に、各家庭内に引き入れられる部分に設けられたガスメータ内に配設することも可能である。
【0069】
なお、いわゆるガス爆発の危険のあるガス管10内にエキサイタ30を配設することについては、エキサイタ30が交流電流を流すものでなくショートしてスパークする等の危険がないため、安全性にまったく問題はない。
【0070】
以上説明したように、本発明の第4の実施形態においては、集合住宅やオフィスビル等の既存のガス配管を利用して、伝送効率の高い通信環境を構築することができる。また、既存のガス配管を利用するため、安価に伝送効率の高い通信環境を構築することができる。更に、電磁界によるエバネセント空間を利用して通信を行うため、電波がガス管外に漏洩しても急激に減衰するため、通信内容の漏洩の心配がない安全性の高い通信環境を構築することができる。
【0071】
なお、本発明の第3の実施形態及び第4の実施形態においては、マンション等の集合住宅やオフィスビル等について説明したが、本発明の実施形態はこれに限定されるわけではない。例えば、工場、研究施設等の大規模な構造物や船舶、航空機、鉄道等の大規模な交通手段等においても、各種の既存の配管を利用して、安全性の高い且つ伝送効率の高い通信環境を構築することができる。特に研究施設等の通信内容の漏洩が問題となる施設については、エバネセント空間を利用した電波は金属で囲まれた空間外では急激に減衰するため、通信内容の傍受等が行い難く好適である。
【0072】
また、本発明の第3の実施形態及び第4の実施形態によれば、金属管は水道管及びガス管に限定されるわけではなく、例えば、ビル等における空調ダクト等の金属管であってもよい。例えば、構造物の室外に置かれる送風機と室内に配設されるセンサVAVとの通信に応用することもできる。また、本発明の第3の実施形態及び第4の実施形態によれば、工場等の各種の油送管やパイプライン等の施設の大規模な輸送管を活用した通信システムに応用することができる。更に、本発明の第3の実施形態及び第4の実施形態によれば、資源探査用に地下に敷設される地中パイプの掘削管の先端と地上の測定装置との通信等にも応用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】集合住宅における電線管10による電話線11等の配線を示す模式図である。
【図2】図1に示した部分Aの拡大図である。
【図3】図1に示した部分Bを拡大し、本発明の第1の実施形態のエキサイタ30の接続方法を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施形態におけるエキサイタ30の概略構成図である。
【図5】本発明の第1の実施形態の全体構成を模式的に示す図である。
【図6】本発明の第1の実施形態における電線管10内の電磁界を模式的に示す図である。
【図7】エキサイタ30を接続し金属管10内を経由した導線31の終端における電界強度測定の模式図及び測定結果を示す図である。
【図8】金属管10と導線31の長さを110mとした場合の図7に示す例の電界強度を測定した測定結果を示す図である。
【図9】本発明の第2の実施形態における電線管10内の同軸ケーブル40の断面模式図である。
【図10】本発明の第3の実施形態を示す模式図である。
【図11】本発明の第3の実施形態を示す模式図である。
【図12】図10で示した例における導線33の終端における電界強度測定の模式図及び測定結果を示す図である。
【図13】図7に示したエキサイタ30を接続しただけ(即ち、金属管10を経由しない。)の導線31の終端における電界強度測定の模式図及び測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0074】
10:金属管(電線管、水道管、ガス管等)
11:電話線
12:電話線芯線
20:主配電盤(MDF)
30:エキサイタ(励振装置)
31:導線
32:導線
33:導線
34:導線
40:同軸ケーブル
41:同軸ケーブル芯線
42:同軸ケーブル網組線
50:送受信機
60:シグナルジェネレータ
70:スペクトラムアナライザ
80:電界プローブ
100:電磁界、電磁界A、電磁界B
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信システムを提供する方法及びシステムに関し、特に建造物等の構造物内の導体を利用して、局所的な準静的電磁界を作出して電波を伝達する方法及びシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
情報化が進行し情報化社会といわれる現代において、異なるたくさんの機器を比較的低コストで、ワイヤを使わず簡単に接続でき、且つ同じ無線周波帯域の他の利用者との混信を起こさない方法や装置の開発が望まれている。本発明の出願人は、かかる課題を解決すべく、特表2003−512748号公報において基本的な方法を提案している。
【0003】
一方、かかる情報化社会の進行と歩調を合わせて、既存の通信環境の整備や既存インフラを利用した新たな通信環境の提供が望まれている。例えば、特に老朽化したいわゆるマンション等の集合住宅やオフィスビル等において、パーソナルコンピュータの普及に伴って住人が高速通信手段を得ようとする場合、伝送効率の高い通信を可能にする光ファイバを敷設する等の方法が考えられる。しかし、光ファイバ等を敷設すると大規模な工事となり、費用が高額となって敷設できない場合もあり、かかる環境の整備が問題となっている。費用が高額となって通信環境整備の障害となる点は、住人が個人的に家庭用の回線を交換する場合も同様である。
【0004】
また、近年普及が進んだケーブルテレビは、当初敷設したケーブルが老朽化の時期にさしかかっている。各有線テレビジョン放送会社は、このケーブルの交換が必要となっているが、上述した集合住宅やオフィスビル等においては、共同配管を使用して敷設しているためやはり工事が大規模になり交換費用が高額となる。しかし、かかる費用を利用者負担とした場合同業者との競争上不利となり、現状では有線テレビジョン放送会社が自己負担している。今後更に老朽化が進行した場合工事件数が飛躍的に増大し、有線テレビジョン放送会社の収益を圧迫する。従って早急な対策が望まれている。
【特許文献1】特表2003−512748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、集合住宅やオフィスビル等構造物内の各種配管等の既存インフラを活用して、伝送効率が高く通信内容の漏洩のない通信環境を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態によれば、金属管と、前記金属管内に配設される導線と、第1の信号を生成する第1の送受信機と、第2の信号を生成する第2の送受信機と、前記第1の送受信機に接続され、前記金属管の第1の場所において前記第1の送受信機から伝送される前記第1の信号を受けて前記導線に送信し、且つ前記導線から伝送される前記第2の信号を受けて前記第1の送受信機に伝送する第1の励振器と、前記第2の送受信機に接続され、前記金属管の第2の場所において前記第2の送受信機から伝送される前記第2の信号を受けて前記導線に送信し、且つ前記導線から伝送される前記第1の信号を受けて前記第2の送受信機に伝送する第2の励振器と、を有することを特徴とする情報通信システムが提供される。
【0007】
また、本発明の別の実施形態によれば、金属管と、第1の信号を生成する第1の送受信機と、第2の信号を生成する第2の送受信機と、前記第1の送受信機に接続され、前記金属管の第1の場所において前記第1の送受信機から伝送される前記第1の信号を受けて前記金属管に送信し、且つ前記金属管から伝送される前記第2の信号を受けて前記第1の送受信機に伝送する第1の励振器と、前記第2の送受信機に接続され、前記金属管の第2の場所において前記第2の送受信機から伝送される前記第2の信号を受けて前記金属管に送信し、且つ前記金属管から伝送される前記第1の信号を受けて前記第2の送受信機に伝送する第2の励振器と、を有することを特徴とする情報通信システムが提供される。
【0008】
更に、本発明によれば、金属管の第1の場所と第2の場所との間の情報通信方法において、前記第1の場所において第1の信号を生成し、前記第1の信号を前記金属管内に配設された導電体に前記金属管内に配設された第1の励振器を通して送信し、前記導電体から伝送された前記第1の信号を前記金属管内に配設された第2の励振器を通して前記第2の場所において受信することを特徴とする情報通信方法が提供される。
【0009】
また更に、本発明によれば、金属管の第1の場所と第2の場所との間の情報通信方法において、前記第1の場所において第1の信号を生成し、前記第1の信号を前記金属管内に配設された第1の励振器を通して前記金属管に送信し、前記金属管から伝送された前記第1の信号を前記金属管内に配設された第2の励振器を通して前記第2の場所において受信することを特徴とする情報通信方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、集合住宅やオフィスビル等構造物内の各種配管等の既存インフラを活用して、伝送効率が高く通信内容の漏洩のない通信環境が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるわけではない。また、各実施形態において、同様の構成については同じ符号を付し、改めて説明しない場合がある。
【0012】
(第1の実施形態)
上述したように、マンション等のいわゆる集合住宅やオフィスビル等においては、例えば各家庭の電源線や電話線等は、共有スペースに設けられた電線管10といわれる共同配管内に敷設され、各家庭に配線されている。図1は、集合住宅における電線管10による電話線11等の配線を示す模式図であり、図2は、図1に示した部分Aの拡大図である。また図3は、図1に示した部分Bの拡大図であり、本発明の第1の実施形態の励振器(exciter、以下エキサイタと記す。)30の接続方法を示す図である。図1に示すように、集合住宅等においては、共有部分に配設された共同配管である電線管10内に各家庭用の電話線11が敷設され、各家庭に配線される。
【0013】
電線管10は、一般的に約5cm程度の径の金属管であり、鉄、銅、真鍮、アルミニウム等及びそれらの合金の管が用いられている。電線管10内には、図2に示すように各家庭に配線される複数の電話線11が敷設され、各階ごとに必要な電話線11だけが各家庭に引き込まれる。
【0014】
図3に示すように、各電線管10の下部には主配電盤(Main Distribution Frame 以下、MDFと記す。)20が配設され、電話局からの回線(図示せず)がMDF20を介して各家庭用に分けられる。
【0015】
かかる配線がされた集合住宅において、伝送効率の高い通信を可能とする方法としては従来2つの方法があった。一つは、集合住宅内LAN回線を使用して配線する方法であるが、ISDN(Integrated Services Digital Network 総合デジタル通信網)、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line 非対称デジタル加入者線)といった電話回線の普及が進み、ある程度築年数の経過した一般的な集合住宅では電線管10の内部が回線で詰まった状態で隙間がなく、LANケーブルの敷設ができない場合が多い。
【0016】
もう一つの方法は、DSL(Digital Subscriber Line デジタル加入者線)と呼ばれる既存の電話線11を利用する方法で、光ファイバが普及するまでの「つなぎ」サービスとして利用されているものであるが、電話局との距離が短くないと十分な伝送効率を確保できない、及びISDNと混信するおそれがある等の欠点がある。また、このDSLの代表的な方法であるVDSL(Very high‐bit‐rate Digital Subscriber Line)は、100Mbpsの回線を入居者で分割する方法であるが、入居者数が多ければそれだけ通信速度が遅くなり、大規模な集合住宅では高速通信の実効が得られない。
【0017】
以上説明したとおり、ある程度の築年数が経過したマンション等の集合住宅又はオフィスビル等においては、既存のインフラが障害となって伝送効率の高い通信環境を提供することが困難な場合がある。特に、老朽化が進行した集合住宅等においては顕著である。
【0018】
本発明の第1の実施形態においては、かかる老朽化した集合住宅やオフィスビル等の構造物において、従来の電線管等の金属管10及び前記金属管10内に敷設された電話線11等の配線をそのまま使用して、伝送効率が高く且つ通信内容の漏洩のない安全性に優れた通信環境を提供することができる。
【0019】
かかる優れた通信環境を可能にするのは、本発明が励振器を使用して電磁界を発生させ、いわゆるエバネセント空間を発生させることによる。従って、本発明の説明にあたって、かかる励振器について説明する。尚、以下においては、かかる励振器をエキサイタということがある。
【0020】
励振器は、金属管を含む金属構造中にRF(無線周波数)電流を注入して金属構造を励振させる装置であり、これらの電流は、金属構造の表面を伝わって伝播する。励振器は、他の励振器によって発生した金属構造中の電流を受け取る特性を有する。従って、2つ以上の励振器で構成するシステムは、金属構造からRF電流を注入し又は受信することにより、励振器相互間で通信することができる。本発明の第1の実施形態で使用するエキサイタ30を、図によって説明する。図4は、本発明の第1の実施形態におけるエキサイタ30の概略構成図である。
【0021】
図4において、エキサイタ30は、抵抗RとコンデンサC0とを直列に接続したものである。抵抗RとコンデンサC0の値は適時設計変更可能であるが、本発明者らの実験結果によれば、R=51Ω、C0=0.1μFであることが好ましいことがわかっている。但し、これに限定されるわけではない。また、エキサイタ30の端子と送受信機50との接続については、本実施形態においては抵抗R側の端子を送受信機50側に接続し、コンデンサC0側の端子を導線31側に接続しているが、反対に接続してもよい。
【0022】
上述したように抵抗とコンデンサから構成される簡単な構造であるため、エキサイタ30は軽量小型化することが可能である。なお、かかるエキサイタ30は励振器の例示であり、励振器はこれに限定されるわけではない。また、エキサイタ30の代わりに、より広域の周波数帯をカバーできるディスコーンアンテナを使用したいわゆる3Dエキサイタを使用してもよいし、2Dエキサイタでも良い。かかる3Dエキサイタ及び2Dエキサイタについては、本発明の出願人の先願である特表2003−512748号公報を参照されたい。
【0023】
かかるエキサイタ30を使用し、伝送効率が高く安全性に優れた通信環境を構築できる本発明の第1の実施形態について、図3を用いながら説明する。図3において示すように、集合住宅等の電線管10の下部には、電話局からの回線を集合住宅内の各家庭に分配するMDF20が配設されている。MDF20内においては、電話局からの回線(図示せず)が各家庭用の電話線11の電話線芯線12と接続され、各家庭用に分配される。本発明の第1の実施形態においては、このMDF20の近傍にエキサイタ30を1個配設し、MDF20内の各家庭用の電話線11の電話線芯線12への接続点において、前記エキサイタ30から並列に引き回した導線31と前記各家庭用の電話線11の電話線芯線12とを接続する。
【0024】
エキサイタ30には、別の導線32を介して送受信機50が接続される。前記導線32は一般的には同軸ケーブルが用いられるが、エキサイタ30と送受信機50との間は特性インピーダンスが50Ωである必要があるので、前記特性インピーダンスが確保できれば同軸ケーブルに限られない。
【0025】
一方、各家庭内の電話線11の電話線芯線12にも導線31を介してエキサイタ30が接続される。そして前記エキサイタ30には、送受信機50が特性インピーダンス50Ωの導線32を介して接続される。従って、MDF20と家庭内の電話線11の終端とは、エキサイタ30で挟まれた間隔となる。
【0026】
かかる構成を全体的に示したのが、図5である。図5は、本発明の第1の実施形態の全体構成を模式的に示す図である。金属管(本実施形態においては電線管。)10の内部を通された電話線11の電話線芯線12は、一端がMDF20、及び前記MDF20に接続された導線31を介してエキサイタ30に接続され、更に別の導線32を介して送受信機50に接続される。一方、電話線芯線12の他の一端は、各家庭内に配設されたエキサイタ30に接続され、更に導線31を介して送受信機50に接続される。なお、エキサイタ30を配設する位置はこれに限られず、MDF20と金属管10との間に配設してもよい。但しこの場合には、電話線ごとにエキサイタ30を接続する必要がある。
【0027】
かかる構成によって、エキサイタ30と各家庭用の電話線11の電話線芯線12が接続されているため、送受信機50(この場合、第1の送受信機となる。)から、該送受信機50に接続された前記エキサイタ30(この場合、第1の励振器となる。)に所定の無線周波数(RF)信号(第1の信号)を伝送すると、前記エキサイタ30は電流を注入して電話線芯線12を励振させる。これによって、電線管10と電話線芯線12との間において準静的電磁界(エバネセント空間)100を発生させることができる。電線管10内部においては電話線芯線12を取り巻く外周は、金属製の前記電線管10であるため、所定の周波数のRF電流の注入によって電磁界が生じるのである。前記電磁界を伝搬して伝送された前記電流は、他のエキサイタ30(この場合、第2の励振器となる。)によって受け取られ、該エキサイタ30に接続された他の送受信機50(この場合、第2送受信機となる。)に伝送され、該送受信機50によって復調される。なお、前記所定の無線周波数は、一般的に短波(HF)、超短波(VHF)、極超短波(UHF)の下方帯域であるが、本発明の第1の実施形態で使用される周波数は、中波の一部も含む500kHz〜100MHzの周波数である。但し、一実施形態であり、本発明の無線周波数帯域はこれに限定されるわけではない。
【0028】
次に、かかる電磁界内において、電波が伝播する状況を説明する。図6は、本発明の第1の実施形態における電線管10内の電磁界を模式的に示す図である。図6においては電磁界の様子を理解しやすくするために波状の形状で示しているが、これはあくまでもイメージであり、電磁界が波状になっているわけではない。上述したように、電線管10と前記電線管10内の電話線11の電話線芯線12との間には、所定のRF電流の注入により電磁界100が生じる。かかる電磁界100内においては、所定の周波数のRF電流は途中で減衰することなく伝播する。
【0029】
かかる電波の減衰の状況を、実験結果によって説明する。図7は、本発明の第1の実施形態と同様に、上述したエキサイタ30を接続し金属管10内を経由した導線31の終端における電界強度測定方法の模式図及び測定結果を示す図である。また、図13は図7に示したエキサイタ30を接続しただけ(即ち、金属管10を経由しない。)の導線31の終端における電界強度測定方法の模式図及び測定結果を示す図である。
【0030】
図7及び図13において、導線31は18.4mの長さのものを用い、導線31の一端にエキサイタ30を接続し、更に前記エキサイタ30にシグナルジェネレータ60を接続する。図7においては、金属管10として、マンション等の集合住宅において電線管として一般的に使用されている47.8mm径の電線管(丸一鋼管株式会社製 厚鋼電線管G42 溶融亜鉛めっき管)を使用した。また、電界強度の測定は、前記導線31の終端において電界プローブ80を用い、スペクトラムアナライザ(スペクトル分析器)70によって導線31表面の垂直方向の電界を測定した。本実験においては、スペクトラムアナライザ70としてNARDA社製SRM−3000セレクティブメータを使用し、また、電界プローブ80として、同じNARDA社製1軸式磁界プローブ3551/01を使用した。
【0031】
実験は、シグナルジェネレータ60によって、周波数500kHz〜100MHzの電波を所定の電力(基準電力0.0dBm)で、導線31にエキサイタ30を介して出力し、18.4m先の導線31の終端において電界プローブ80を用い、前記電波が増幅乃至減衰する状況を測定した。
【0032】
図7においては、周波数500kHz〜100MHzの全帯域に渉って、約95dBμV/m以上の電界強度特性を確保でき、電波があまり減衰しないことが把握される。一方図13に示すように、金属管10を経由しない場合には、50MHz以上の周波数帯域において電界強度特性が80dBμV/m以下になってしまい、電波がある程度減衰しているのが把握される。以上のように、導線31を、金属管10内を経由させることによって、電波の減衰を抑制できることが理解される。本発明の第1の実施形態によれば、電波の減衰を抑制して良好な通信環境が提供できることが理解される。なお、電波が減衰しないのは、導線31の外周を金属管10が取り囲んでいるため、磁界が減衰しないためと考えられる。
【0033】
また、マンション内の電線管10と同様に、金属管10及び導線31を長距離にした場合の効果についても測定試験を行っている。図8は、金属管10と導線31の長さを110mとし、図7と同様に電界強度を測定した測定結果を示す図である。図7においては、導線31の一端にエキサイタ30を接続したが、図8においては、導線31の両端にエキサイタ30を接続し、また、電力を+10dBmで出力している。測定は周波数500kHz〜100MHzの全帯域に渉って測定し、受信電力が約35dBの減衰と良好であった。即ち、導線31の両端にエキサイタ30を接続することで、長距離においても電波の減衰が抑制され、100MHz以下の周波数帯域において、伝送ロス特性が非常に少なく、長距離間の通信を行うことが可能であることが理解される。この結果、長距離を配線する集合住宅内の電線管10においても本発明の効果が発揮されることが把握される。
【0034】
以上の結果、図1に示すように、マンション等の集合住宅又はオフィスビル等の各家庭又は事務室内の電話線11の端部にエキサイタ30を配置し、MDF20近傍に配設したエキサイタ30から所定の周波数で励振した電話線11を介すれば、それぞれのエキサイタ30に接続した送受信機50を介してエバネセント空間によって電波の減衰を抑制しながら通信できることが理解される。従って、本発明の第1の実施形態によれば、従来の既存インフラである電話線11をそのまま利用して伝送効率の高い通信環境が確立できる。また、MDF20まで通信会社の提供する光ファイバで接続し、MDF20から各家庭又は事務室までを、MDF20近傍に配設したエキサイタ30と各家庭内又は事務室内のエキサイタ30とで励振した従来の電線管10内の各電話線11を経由して伝送することで、より伝送効率の高い通信環境の確立が可能となる。
【0035】
なお、かかる電線管10内の各家庭用の電話線11の場合、例えば通話中の会話の漏洩、混信が問題となるが、パソコン通信等はIPアドレスで送受信が制御されており、電話による会話のように混信や漏洩は問題とならない。
【0036】
また、エバネセント波は、電磁界内では減衰が抑制されるが、金属で囲われた外部に漏洩した場合、急激に減衰する特性がある。従って、電線管10外に通信内容が漏洩することはない。一般的な通信においては、例えば建造物外に電波が漏洩し傍受されることもあるが、本発明の第1の実施形態によればかかる建造物外への通信内容の漏洩がなく、安全性の高い通信環境が提供される。
【0037】
以上説明したとおり、本発明の第1の実施形態においては、第1に、ある程度の築年数が経過したマンション等の集合住宅又はオフィスビル等において、既存のインフラを利用して伝送効率の高い通信環境を提供することができる。また第2に、既存のインフラを利用するため、伝送効率の高い通信環境を安価に提供することができる。更に第3に、エバネセント空間を利用するため通信内容の漏洩のない安全性が高く、且つ伝送効率の高い通信環境が提供される。
【0038】
(第2の実施形態)
本発明の第1の実施形態においては、上述したように、ある程度の築年数が経過したマンション等の集合住宅又はオフィスビル等において、既存のインフラを利用して伝送効率の高い通信環境を提供することができる。ここで、既存のインフラには、例えば、CATV(Community Antenna TeleVision)と呼ばれる有線テレビジョン放送会社が提供するケーブルテレビ網がある。かかるケーブルテレビ網は、近年多チャンネルやIP電話サービス、高速なインターネット接続サービスを武器に、都市部において加入者数を増大させている。
【0039】
ここで、ケーブルテレビ網は、1980年代にCS/BS等の専門チャンネルの同時送信による多チャンネル化で普及し、また1990年代には、加入者からセンターへデータを送信できる双方向システムのホームターミナルを使用した「都市型ケーブルテレビ」が大都市近郊の行政単位で次々と開局し、加入者数を増やしてきた。しかし、すでに開設から20年以上経過したケーブルテレビ網が多く、ケーブルの老朽化の問題を抱えている。また、加入者からの伝送効率の高い通信環境を望む要望に対して、光ファイバの敷設が高額となることから、対応に苦慮しているのが現状である。
【0040】
かかるケーブルテレビ網は、マンション等の集合住宅の場合、電線管等の共同配管内を同軸ケーブル等で配線されている。しかし、上述したように電線管等の共同配管は、パーソナルコンピュータの普及に伴いADSL回線等の各種ケーブルで詰まった状態で空きが無く、老朽化したケーブルを交換する場合及び光ファイバを敷設する場合に大規模な工事となることが多い。営業競争上この工事費をケーブルテレビ加入者の負担とすることができにくく、有線テレビジョン放送会社の負担となり収益を圧迫しつつある。今後更に老朽化が進み、一方で伝送効率の高い通信環境を望む要望が高まれば、この負担は更に増大する。
【0041】
本発明の第2の実施形態においては、かかるケーブルテレビ網について、従来のインフラを利用しながら伝送効率の高い通信環境を提供することができる。即ち、現状のケーブルテレビ網は、有線テレビジョン放送会社からエリア内のケーブル配線には、幹線に光ファイバケーブル(以下、光ケーブルという。)が用いられ、末端に同軸ケーブルを利用したHFC(Hybrid Fiber Coaxial 光同軸ハイブリッド伝送。)が一般的である。老朽化及び高速通信で問題となるのは、この同軸ケーブルの部分であるが、本発明の第2の実施形態においては、この同軸ケーブルを交換せずにそのまま利用して伝送効率の高い、且つ安全性に優れた通信環境を提供することができる。
【0042】
マンション等の集合住宅においては、上述したHFC方式の場合、幹線の光ファイバから共聴設備に接続され、共聴施設から同軸ケーブルで各家庭に配線される。従って、上述した本発明の第1の実施形態と同様に、共聴設備の各家庭用の同軸ケーブルの接続点において、前記同軸ケーブルにエキサイタを導線で接続する。また、前記エキサイタには別の導線を介して送受信機が接続される。
【0043】
この際、同軸ケーブルと導線との接続方法は2通りの方法がある。即ち、同軸ケーブルの外側の網組線の部分と導線を接続する方法(以下、かかる接続方法を第1接続方法という。)、及び同軸ケーブルの芯線と導線を接続する方法(以下、かかる接続方法を第2接続方法という。)である。本発明の第2の実施形態においては、いずれの接続方法であっても効果を発揮する。
【0044】
また、各家庭内の同軸ケーブルの端部には、本発明の第1の実施形態と同様にエキサイタが接続される。従って、同軸ケーブルの両端がエキサイタで挟まれた状態となる。前記エキサイタにも導線を介して送受信機が接続される。
【0045】
かかる構成による本発明の第2の実施形態の効果を、図を基に説明する。図9は、本発明の第2の実施形態における電線管10内の同軸ケーブル40の断面模式図である。なお、図9においては、説明上同軸ケーブルの外周部の絶縁プラスチック等は図示を省略している。まず、第1接続方法における効果を図9の同軸ケーブルA40を例に説明する。第1接続方法によれば、同軸ケーブルA40外側の網組線A42とエキサイタ30(図示せず)とが導線31(図示せず)で接続される。エキサイタ30に所定の周波数のRF電流を注入して網組線A42を励振させる。同軸ケーブルA40は、金属管である電線管10の内部を経由しているため、網組線A42が励振することによって同軸ケーブルA40の外側に位置する網組線A42と前記電線管10との間に電磁界A100が発生する。即ち、網組線A42と電線管10との間にエバネセント空間が発生する。従って、エキサイタ30から注入された所定の周波数のRF電流は網組線A42の外側を伝播して伝送されるが、このエバネセント空間が発生していることにより、電波が減衰することなく伝播する。即ち、上述した本発明の第1の実施形態で説明したように、電線管10と同軸ケーブルA40との間は、金属で囲われた空間であるため、本発明の第1の実施形態と同様の理由によって電波が減衰しないのである。なお、上述した所定の周波数は、本発明の第1の実施形態と同様に500kHz〜100MHzの周波数が用いられる。
【0046】
第2接続方法における効果を図9の同軸ケーブルB40を例に説明する。第2接続方法によれば、同軸ケーブルB40の同軸ケーブル芯線B41とエキサイタ30(図示せず)とが導線31(図示せず)で接続される。同軸ケーブル40は、主に銅線である同軸ケーブル芯線41をポリエチレン等の絶縁体で包み、その上を網状の金属シールド(網組線42)で覆ったもので、更にその補強のために網組線42の外側を塩化ビニール等で覆った多重構造のケーブルである。即ち、図9において同軸ケーブルB40の外周側には網組線B42が配設されており、同軸ケーブル芯線B41と網組線B42との間には、ポリエチレン等の絶縁材が介在しているが、同軸ケーブル芯線B41の外側は金属(網組線42)で囲われた空間である。従って、エキサイタ30に所定の周波数の電流を注入して同軸ケーブル芯線B41を励振させると、同軸ケーブル芯線B41の外側に位置する網組線B42と前記同軸ケーブル芯線B41との間に電磁界B100が発生する。即ち、同軸ケーブル芯線B41と網組線B42との間にエバネセント空間が発生する。従って、エキサイタ30から注入された所定の周波数のRF電流は同軸ケーブル芯線B41の外側を伝播して伝送されるが、このエバネセント空間が発生していることにより、電波が減衰することなく伝播する。この場合も500kHz〜100MHzの周波数が用いられる。
【0047】
以上説明したように、本発明の第2の実施形態においては、同軸ケーブル40とエキサイタ30から引き出される導線31との接続方法が、第1接続方法及び第2接続方法のいずれであっても、電波が減衰することなく伝播する。しかも、電波は、金属で囲まれた空間の中を電磁界によって伝播するため、同軸ケーブル40がある程度老朽化していても問題とならない。特に第1接続方法によれば、銅線等が細かに編みこまれた網組線42と電線管10との間に生じる電磁界100を利用するため、例えば、同軸ケーブル芯線41が老朽化して断線が生じても、網組線42すべてが老朽化して同一箇所で断線する確率は低い。従って、ケーブルテレビ網を交換せずに通信環境を確保することができる。なお、使用したエキサイタ30は、図4で示したものを使用しているが、これに限定されるわけではなく、3Dエキサイタや2Dエキサイタであってもよい。
【0048】
また、本発明の第1の実施形態で図8を基に説明したように、かかるエバネセント空間を利用して通信する場合、エキサイタ30の間隔が110mと長距離に広がっても、周波数500kHz〜100MHzの全帯域に渉って測定して受信電力が約35dBの減衰しかないため伝送効率の高い良好な通信環境が確保できる。
【0049】
更に、本発明の第1の実施形態と同様、エバネセント空間を利用するため、電線管10外又は同軸ケーブル40外に電波が漏洩しても、急激に電波が減衰するため通信内容が漏洩することはなく、プライバシーの保護上安全性が高い。
【0050】
以上説明したとおり、本発明の第1の実施形態の変形実施例においては、第1に、老朽化したケーブルテレビ網のインフラをそのまま利用して伝送効率の高い通信環境を提供することができる。また第2に、ケーブルテレビ網の交換が必要ないため、有線テレビジョン放送会社の収益を圧迫することがない。更に第3に、エバネセント空間を利用するため通信内容の漏洩のない安全性が高く、且つ伝送効率の高い通信環境が提供される。
【0051】
なお、構造物によっては、かかる同軸ケーブル40が電線管10等の金属管に配設されず、プラスチック管内に配設されている場合がある。かかる場合でも、本発明の第2の実施形態で対応が可能である。即ち、上述した構成において、同軸ケーブル40の同軸ケーブル芯線41に導線を介してエキサイタ30を接続する。即ち、第2接続方法で接続する。上述した方法においては同軸ケーブル40が配設された金属管である電線管10を使用して、同軸ケーブル芯線41と電線管10との間に電磁界を形成したが、プラスチック管等ではこれができない。そこで、同軸ケーブル40の網組線42をグランドに落とさず、フローティング状態とする。網組線42は、金属線が細かく編み込みされた構造であるため、フローティングとすることで金属管10と同様に金属で囲まれた空間を形成することができる。以上の方法によって、上述した第2の実施形態と同様の構成とすることができる。この場合の効果は、上述した本発明の第2の実施形態と同様であるので、説明は省略する。
【0052】
(第3の実施形態)
上述したとおり、本発明の第1及び第2の実施形態においては、集合住宅やオフィスビル等の電話線等の共同配管である電線管等と、前記電線管内に敷設された既存の電話線やケーブルテレビ網を利用して、安価で且つ通信内容の漏洩のない安全性が高く、且つ伝送効率の高い通信環境が提供される。本発明の第3の実施形態においては、集合住宅やオフィスビル等の電線管以外の既存のインフラを利用して、安価で且つ通信内容の漏洩のない安全性が高く、且つ伝送効率の高い通信環境を提供することができる。
【0053】
集合住宅やオフィスビル等においては、電線管以外にも、共有のスペースに水道管やガス管等の配管が配設されている。かかる配管は、共用スペース内を通される主配管と、主配管から各家庭に引き回される枝配管とから構成される。本発明の第3の実施形態においては、かかる配管のうち、水道管の主配管及び枝配管を利用して伝送効率の高い通信環境を提供することを特徴とする。
【0054】
図10及び図11は、本発明の第3の実施形態を示す模式図である。図10及び図11において金属管10の両端は閉じられている。本発明の第3の実施形態においては、金属管10(本実施形態においては水道管。)内部にエキサイタ30を配設し、エキサイタ30によって導線33又は金属管10を励振させてエバネセント空間を発生させ、エバネセント空間を利用して所定の周波数で通信するものである。図10において、水道管10内部にエキサイタ30を2個配設し、エキサイタ30の間を導線33で接続する。本実施形態においては、導線33は、ビニール被覆銅線を使用したがこれに限られるわけではない。但し、エキサイタ30を含めて導線33も水道管10内に配設されるため、完全に防水処理がなされる。それぞれのエキサイタ30は、水道管10に設けられた開口を通された導線34を介して、水道管10外部に配設された送受信機50と接続される。導線34は同軸ケーブルでもよいし、他のケーブルであってもよいが、特性インピーダンスが50Ωであることが必要であるし、また水道管10内部においては完全に防水処理がなされる。なお、前記開口は確実に密封され、水漏れ等が起こらないようにされる。
【0055】
図11に示す例では、同様に、水道管10内部にエキサイタ30を配設し、それぞれのエキサイタ30は、水道管10に設けられた開口を通された導線34を介して、水道管10外部に配設された送受信機50と接続される。但し、図10と異なり、それぞれのエキサイタ30の間は導線33で接続されることはなく、エキサイタ30同士は、直接電気的に接続されることはない。図10と同様に、水道管10内部に配設されるエキサイタ30及び導線34は、完全に防水処理がなされる。導線34は同軸ケーブルでもよいし、他のケーブルであってもよいが、特性インピーダンスが50Ωであることが必要である。なお、前記開口は確実に密封され、水漏れ等が起こらないようにされる。
【0056】
かかる構成によって、水道管10外部に配設された送受信機50から所定の周波数(第1の信号)を水道管10内部に配設されたエキサイタ30に伝送する。エキサイタ30は、該エキサイタ30に接続された導線33又は直接水道管10に所定の周波数のRF電流を注入する。このとき、図10においてはエキサイタ30の間を接続する導線33が励振され、導線33と水道管10との間に電磁界(即ち、エバネセント空間)が発生する。一方、図11の例においては水道管10自体が励振され、水道管10内部の側壁間に電磁界が発生する。いずれの場合にも、エキサイタ30に所定の周波数のRF電流を注入することにより、水道管10内部に電磁界が発生する。従って、かかる電磁界を利用して、それぞれのエキサイタ30に接続された送受信機50によって通信を行うことができる。前記電磁界を伝搬して伝送された電流は、他のエキサイタ30によって受け取られ、該エキサイタ30が接続された他の送受信機50に伝送される。前記他の送受信機50は前記電流を所定の周波数の信号(第1の信号)に復調する。これによって2つの送受信機50間において通信が行われる。
【0057】
本発明の第3の実施形態の効果について図を基に説明する。上述した本発明の第1及び第2の実施形態と同様に、電界強度測定試験を行って、本発明の第3の実施形態の効果を検証している。図12は、図10で示した例における導線33の終端における電界強度測定の模式図及び測定結果を示す図である。但し、図10と異なり、エキサイタ30は金属管10外部に配設されているが、電磁界は金属管10と導線33の間で発生するので、エキサイタ30が配設されている位置は測定結果には影響しない。また、エキサイタ30は、導線33の一方側にだけ設けているが、導線33の両側にエキサイタ30を設けるのは長距離間の通信を可能にするためであるので、この点も測定結果に影響を与えない。
【0058】
図12において、金属管10内部を経由した18.4mの導線33の一端に、エキサイタ30を接続し、更に前記エキサイタ30に導線34を介してシグナルジェネレータ60を接続する。金属管10には水が注入され、金属管10の両端は完全に密封されている。また、導線33は金属管10両端密封部分を貫通することになるが、かかる貫通部分も完全に防止処理がなされている。使用した金属管10及びスペクトラムアナライザ70等は、図7及び図13で示したものと同様である。また、実験方法も図7及び図13と同一であるので詳細は省略する。
【0059】
図12においては、周波数500kHz〜100MHzの全帯域のうち、75MHz〜90MHz付近において波信号が弱いが、75MHz以下の帯域においては、図13で示した導線31が金属管10を経由しない場合に比して信号強度が強く、電界強度特性が優れているのが把握される。即ち、周波数500kHz〜75MHzまでであれば管内に水が充満した水道管等を使用しても電磁界は影響を受けず、電磁界を利用して通信することで電波の減衰が抑制されるからである。
【0060】
また、このことから、図8で示したのと同様に導線33の両端にエキサイタ30を接続すれば、水道管10が長距離になっても良好な通信環境を確保することができることが把握される。そして、図8と同様に100MHz以下の周波数は伝送ロス特性が非常に少ないため、伝送効率の高い通信環境を構築することができることも理解される。
【0061】
以上説明したように、本発明の第3の実施形態においては、周波数500kHz〜75MHzのRF電流を使用することで、集合住宅やオフィスビル等の既存の水道管を利用した伝送効率の高い通信環境を構築できる。既存の水道管を使用するため、安価に伝送効率の高い通信環境を構築することができ、また、エバネセント空間を利用するため、通信内容の漏洩のない安全性の高い通信環境を構築できる。
【0062】
なお、水道管10内にエキサイタ30を配設した場合、水流の障害となることが考えられるが、エキサイタは小型化できるので、特に主配管については問題とならない。また、各家庭に引き回される枝配管についても基本的に問題とならないが、各家庭に引き入れられる部分にはいわゆる水道メータが配設されており、かかる水道メータの内部等にエキサイタを配設すれば、水流の障害となることがない。
【0063】
(第4の実施形態)
上述した本発明の第3の実施形態は、既存の水道管を使用して伝送効率の高い通信環境を構築するものであるが、集合住宅やオフィスビル等においては水道管以外にも各種の配管が敷設されている。本発明の第4の実施形態として、かかる水道管を都市ガス等のガス配管に置き換えることが可能である。
【0064】
集合住宅やオフィス等においては、ガス配管も共用スペースに集中して敷設されている。電線管や水道管と同様に、ガス管も共用スペースに配管されたメインとなる主配管から枝配管によって各家庭に分配される。従って、このガス配管を利用すれば、同様の安全性が高く、且つ伝送効率の高い通信環境を構築できる。
【0065】
図10及び図11で示したように、金属製のガス管10内にエキサイタ30を配設し、それぞれのエキサイタ30から導線31を引き出し、ガス管に設けた開口から前記導線31を引き出して送受信機50に接続する。開口は、導線31を引き出した後、確実に密封する。エキサイタ30の間は、図10に示すようにビニール被覆導線等の導線33で接続してもよいし、また図11のように、エキサイタ30間はまったく接続しなくてもよい。
【0066】
送受信機50からの第1の信号を受けて、エキサイタ30が所定の周波数のRF電流を導線33又はガス管10に注入し、導線33又はガス管10を励振させる。これによって、導線33とガス管10との間、又はガス管10の内部側壁間において電磁界が発生する。従って、上述した本発明の第3の実施形態と同様に、かかる電磁界を利用してそれぞれのエキサイタ30に接続された送受信機50によって通信を行うことができる。
【0067】
この場合、本発明の第3の実施形態と異なり、ガス管10内には気体であるガスが充満しているが、空気と同様に気体であり、効果は図7で示した効果と同様である。従って、500kHz〜100MHzの全帯域にわたって効果があり、上述した本発明の第3の実施形態の水道管の場合に比して効果が大きい。
【0068】
また、ガス管10であるため、ガス管10内に配設したエキサイタ30がガスの流れの障害となることもない。なお、エキサイタ30のガス管10内への配設については、エキサイタが小型化できるため、特に主配管については問題とならない。一方、枝配管についても基本的に問題とならないが、本発明の第3の実施形態と同様に、各家庭内に引き入れられる部分に設けられたガスメータ内に配設することも可能である。
【0069】
なお、いわゆるガス爆発の危険のあるガス管10内にエキサイタ30を配設することについては、エキサイタ30が交流電流を流すものでなくショートしてスパークする等の危険がないため、安全性にまったく問題はない。
【0070】
以上説明したように、本発明の第4の実施形態においては、集合住宅やオフィスビル等の既存のガス配管を利用して、伝送効率の高い通信環境を構築することができる。また、既存のガス配管を利用するため、安価に伝送効率の高い通信環境を構築することができる。更に、電磁界によるエバネセント空間を利用して通信を行うため、電波がガス管外に漏洩しても急激に減衰するため、通信内容の漏洩の心配がない安全性の高い通信環境を構築することができる。
【0071】
なお、本発明の第3の実施形態及び第4の実施形態においては、マンション等の集合住宅やオフィスビル等について説明したが、本発明の実施形態はこれに限定されるわけではない。例えば、工場、研究施設等の大規模な構造物や船舶、航空機、鉄道等の大規模な交通手段等においても、各種の既存の配管を利用して、安全性の高い且つ伝送効率の高い通信環境を構築することができる。特に研究施設等の通信内容の漏洩が問題となる施設については、エバネセント空間を利用した電波は金属で囲まれた空間外では急激に減衰するため、通信内容の傍受等が行い難く好適である。
【0072】
また、本発明の第3の実施形態及び第4の実施形態によれば、金属管は水道管及びガス管に限定されるわけではなく、例えば、ビル等における空調ダクト等の金属管であってもよい。例えば、構造物の室外に置かれる送風機と室内に配設されるセンサVAVとの通信に応用することもできる。また、本発明の第3の実施形態及び第4の実施形態によれば、工場等の各種の油送管やパイプライン等の施設の大規模な輸送管を活用した通信システムに応用することができる。更に、本発明の第3の実施形態及び第4の実施形態によれば、資源探査用に地下に敷設される地中パイプの掘削管の先端と地上の測定装置との通信等にも応用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】集合住宅における電線管10による電話線11等の配線を示す模式図である。
【図2】図1に示した部分Aの拡大図である。
【図3】図1に示した部分Bを拡大し、本発明の第1の実施形態のエキサイタ30の接続方法を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施形態におけるエキサイタ30の概略構成図である。
【図5】本発明の第1の実施形態の全体構成を模式的に示す図である。
【図6】本発明の第1の実施形態における電線管10内の電磁界を模式的に示す図である。
【図7】エキサイタ30を接続し金属管10内を経由した導線31の終端における電界強度測定の模式図及び測定結果を示す図である。
【図8】金属管10と導線31の長さを110mとした場合の図7に示す例の電界強度を測定した測定結果を示す図である。
【図9】本発明の第2の実施形態における電線管10内の同軸ケーブル40の断面模式図である。
【図10】本発明の第3の実施形態を示す模式図である。
【図11】本発明の第3の実施形態を示す模式図である。
【図12】図10で示した例における導線33の終端における電界強度測定の模式図及び測定結果を示す図である。
【図13】図7に示したエキサイタ30を接続しただけ(即ち、金属管10を経由しない。)の導線31の終端における電界強度測定の模式図及び測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0074】
10:金属管(電線管、水道管、ガス管等)
11:電話線
12:電話線芯線
20:主配電盤(MDF)
30:エキサイタ(励振装置)
31:導線
32:導線
33:導線
34:導線
40:同軸ケーブル
41:同軸ケーブル芯線
42:同軸ケーブル網組線
50:送受信機
60:シグナルジェネレータ
70:スペクトラムアナライザ
80:電界プローブ
100:電磁界、電磁界A、電磁界B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属管と、
前記金属管内に配設される導線と、
第1の信号を生成する第1の送受信機と、
第2の信号を生成する第2の送受信機と、
前記第1の送受信機に接続され、前記金属管の第1の場所において前記第1の送受信機から伝送される前記第1の信号を受けて前記導線に送信し、且つ前記導線から伝送される前記第2の信号を受けて前記第1の送受信機に伝送する第1の励振器と、
前記第2の送受信機に接続され、前記金属管の第2の場所において前記第2の送受信機から伝送される前記第2の信号を受けて前記導線に送信し、且つ前記導線から伝送される前記第1の信号を受けて前記第2の送受信機に伝送する第2の励振器と、を有することを特徴とする情報通信システム。
【請求項2】
金属管と、
第1の信号を生成する第1の送受信機と、
第2の信号を生成する第2の送受信機と、
前記第1の送受信機に接続され、前記金属管の第1の場所において前記第1の送受信機から伝送される前記第1の信号を受けて前記金属管に送信し、且つ前記金属管から伝送される前記第2の信号を受けて前記第1の送受信機に伝送する第1の励振器と、
前記第2の送受信機に接続され、前記金属管の第2の場所において前記第2の送受信機から伝送される前記第2の信号を受けて前記金属管に送信し、且つ前記金属管から伝送される前記第1の信号を受けて前記第2の送受信機に伝送する第2の励振器と、を有することを特徴とする情報通信システム。
【請求項3】
前記金属管は電線管であり、前記導線は電話線であることを特徴する請求項1に記載の情報通信システム。
【請求項4】
前記金属管は電線管であり、前記導線は同軸ケーブルの網組線であることを特徴とする請求項1に記載の情報通信システム。
【請求項5】
前記金属管は電線管であり、前記導線は同軸ケーブルの芯線であることを特徴とする請求項1に記載の情報通信システム。
【請求項6】
前記金属管は、水道管、ガス管、空調ダクト、油送管及び掘削管であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の情報通信システム。
【請求項7】
前記第1の信号及び前記第2の信号は、500kHz〜100MHzの周波数の信号であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の情報通信システム。
【請求項8】
前記金属管は、構造物に配設され、
前記構造物は、集合住宅、ビル、工場、パイプライン施設、自動車、船舶、航空機及び列車車両であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の情報通信システム。
【請求項9】
金属管の第1の場所と第2の場所との間の情報通信方法において、
前記第1の場所において第1の信号を生成し、
前記第1の信号を前記金属管内に配設された導電体に前記金属管内に配設された第1の励振器を通して送信し、
前記導電体から伝送された前記第1の信号を前記金属管内に配設された第2の励振器を通して前記第2の場所において受信することを特徴とする情報通信方法。
【請求項10】
金属管の第1の場所と第2の場所との間の情報通信方法において、
前記第1の場所において第1の信号を生成し、
前記第1の信号を前記金属管内に配設された第1の励振器を通して前記金属管に送信し、
前記金属管から伝送された前記第1の信号を前記金属管内に配設された第2の励振器を通して前記第2の場所において受信することを特徴とする情報通信方法。
【請求項11】
前記金属管は電線管であり、前記導線は電話線であることを特徴する請求項9に記載の情報通信方法。
【請求項12】
前記金属管は電線管であり、前記導線は同軸ケーブルの網組線であることを特徴とする請求項9に記載の情報通信方法。
【請求項13】
前記金属管は電線管であり、前記導線は同軸ケーブルの芯線であることを特徴とする請求項9に記載の情報通信方法。
【請求項14】
前記金属管は、水道管、ガス管、空調ダクト、油送管及び掘削管であることを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の情報通信方法。
【請求項15】
前記第1の信号及び前記第2の信号は、500kHz〜100MHzの周波数の信号であることを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の情報通信方法。
【請求項16】
前記金属管は、構造物に配設され、
前記構造物は、集合住宅、ビル、工場、パイプライン施設、自動車、船舶、航空機及び列車車両であることを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の情報通信方法。
【請求項1】
金属管と、
前記金属管内に配設される導線と、
第1の信号を生成する第1の送受信機と、
第2の信号を生成する第2の送受信機と、
前記第1の送受信機に接続され、前記金属管の第1の場所において前記第1の送受信機から伝送される前記第1の信号を受けて前記導線に送信し、且つ前記導線から伝送される前記第2の信号を受けて前記第1の送受信機に伝送する第1の励振器と、
前記第2の送受信機に接続され、前記金属管の第2の場所において前記第2の送受信機から伝送される前記第2の信号を受けて前記導線に送信し、且つ前記導線から伝送される前記第1の信号を受けて前記第2の送受信機に伝送する第2の励振器と、を有することを特徴とする情報通信システム。
【請求項2】
金属管と、
第1の信号を生成する第1の送受信機と、
第2の信号を生成する第2の送受信機と、
前記第1の送受信機に接続され、前記金属管の第1の場所において前記第1の送受信機から伝送される前記第1の信号を受けて前記金属管に送信し、且つ前記金属管から伝送される前記第2の信号を受けて前記第1の送受信機に伝送する第1の励振器と、
前記第2の送受信機に接続され、前記金属管の第2の場所において前記第2の送受信機から伝送される前記第2の信号を受けて前記金属管に送信し、且つ前記金属管から伝送される前記第1の信号を受けて前記第2の送受信機に伝送する第2の励振器と、を有することを特徴とする情報通信システム。
【請求項3】
前記金属管は電線管であり、前記導線は電話線であることを特徴する請求項1に記載の情報通信システム。
【請求項4】
前記金属管は電線管であり、前記導線は同軸ケーブルの網組線であることを特徴とする請求項1に記載の情報通信システム。
【請求項5】
前記金属管は電線管であり、前記導線は同軸ケーブルの芯線であることを特徴とする請求項1に記載の情報通信システム。
【請求項6】
前記金属管は、水道管、ガス管、空調ダクト、油送管及び掘削管であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の情報通信システム。
【請求項7】
前記第1の信号及び前記第2の信号は、500kHz〜100MHzの周波数の信号であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の情報通信システム。
【請求項8】
前記金属管は、構造物に配設され、
前記構造物は、集合住宅、ビル、工場、パイプライン施設、自動車、船舶、航空機及び列車車両であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の情報通信システム。
【請求項9】
金属管の第1の場所と第2の場所との間の情報通信方法において、
前記第1の場所において第1の信号を生成し、
前記第1の信号を前記金属管内に配設された導電体に前記金属管内に配設された第1の励振器を通して送信し、
前記導電体から伝送された前記第1の信号を前記金属管内に配設された第2の励振器を通して前記第2の場所において受信することを特徴とする情報通信方法。
【請求項10】
金属管の第1の場所と第2の場所との間の情報通信方法において、
前記第1の場所において第1の信号を生成し、
前記第1の信号を前記金属管内に配設された第1の励振器を通して前記金属管に送信し、
前記金属管から伝送された前記第1の信号を前記金属管内に配設された第2の励振器を通して前記第2の場所において受信することを特徴とする情報通信方法。
【請求項11】
前記金属管は電線管であり、前記導線は電話線であることを特徴する請求項9に記載の情報通信方法。
【請求項12】
前記金属管は電線管であり、前記導線は同軸ケーブルの網組線であることを特徴とする請求項9に記載の情報通信方法。
【請求項13】
前記金属管は電線管であり、前記導線は同軸ケーブルの芯線であることを特徴とする請求項9に記載の情報通信方法。
【請求項14】
前記金属管は、水道管、ガス管、空調ダクト、油送管及び掘削管であることを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の情報通信方法。
【請求項15】
前記第1の信号及び前記第2の信号は、500kHz〜100MHzの周波数の信号であることを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の情報通信方法。
【請求項16】
前記金属管は、構造物に配設され、
前記構造物は、集合住宅、ビル、工場、パイプライン施設、自動車、船舶、航空機及び列車車両であることを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の情報通信方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−153841(P2008−153841A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−338339(P2006−338339)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(301049423)株式会社ココモ・エムビー・コミュニケーションズ (9)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(301049423)株式会社ココモ・エムビー・コミュニケーションズ (9)
【Fターム(参考)】
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