説明

電磁継電器及びその組み立て方法

【課題】 高い生産性を有し、低コストで高精度な可動ばねの固定を可能とする小型かつ高性能な電磁継電器およびその組み立て方法を提供すること。
【解決手段】 基部側平面12dとそれにほぼ直交する立ち上がり面12eを有するL字状に形成されたヨーク12と、ヨーク12の立ち上がり面12eの端部際に基部側平面12dにほぼ平行に配置されて形成された2個のエンボス突起部12bと、立ち上がり面12eのエンボス突起部12bが形成された部分の裏側に形成された周囲よりも板厚の小さいエンボス受け部12cとからなり、可動ばね14はエンボス突起部12bに対向する位置に2つの孔14eを有し、2つの孔14eがエンボス突起部12bによりかしめ固定されることによりヨーク12に可動ばね14が固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に車載用途として使用される小型の電磁継電器及びその組立て方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のワイパーやパワーウインドウ制御等の高負荷用に適した電磁継電器が、電装化の進む自動車に採用されている。近年、自動車の多機能化・高機能化に伴って、自動車に搭載される各種電装装置は、小型化、さらに高密度実装化、低コスト化が進められており、電装装置の構成部品である電磁継電器に関しても同様に小型化及び低コスト化が要求されている。このように小型化を目的とした電磁継電器の構成例として、例えば、特許文献1及び特許文献2に開示された電磁継電器がある。
【0003】
【特許文献1】特開2000−315448号公報
【特許文献2】特開2000−48702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電磁継電器の小型化、低コスト化のためには、部品の小型化、高精度化及び組立て精度向上、生産性の向上が必要不可欠であるが、従来の電磁継電器はそのために幾つかの問題点を有している。電磁継電器は通常、基部側平面とそれにほぼ直交する立ち上がり面を有するL字状に形成されたヨークと、コイル線がスプールに巻回されて形成され前記ヨークの前記基部側平面に搭載されるコイルアッセンブリと、該コイルアッセンブリを前記ヨークの前記基部側平面に固定し保持する棒状のコアと、該コアとの間の電磁力によって揺動可能に配置されたアーマチュアと、該アーマチュアを固定保持し一端部に可動接点を有する可動ばねとからなる電磁ブロックと、前記可動接点に対向する位置に設置された少なくとも1つの固定接点とから構成されている。
【0005】
このような構成において、例えば、小型かつ高性能を確保するためには、可動機構の精度や接点開閉動作の安定性を保つ必要があり、上述のよう可動接点を有しアーマチュアを保持固定する可動ばねを精度良くヨークに固着させることが要求される。この組立て精度を高める方法としてレーザー溶接による固着を用いることができる。しかしこの場合、高い位置決め精度、組立て精度が得られる一方で、レーザー溶接装置を導入するための高額な設備投資及び設備保全費が発生し、低コストの電磁継電器の実現は困難となる。
【0006】
一方、特許文献1に開示された電磁継電器では、ヨークにエンボス突起部を設け、これと可動ばねに設けた孔とをかしめることにより可動ばねをヨークに固着している。しかし、ヨークの立ち上がり面中央にエンボス突起部が配置されているため、上記のかしめ固着工程を精度よく行うことは難しい。かしめ時にヨークに加わる圧力を受け止めるためのかしめ受けプレートをエンボス突起部の裏側に配置しなければならないが、通常の工程ではコイルアッセンブリをヨークに固着した後にヨークと可動ばねを固着させるためである。このため、エンボス突起部がヨークの中央にあるとかしめ受けプレートの設置のためにかしめ時の工程が複雑化したり、かしめ受けプレートの挿入によるコイルの断線、かしめ不良などが発生する恐れがある。
【0007】
また、特許文献2に開示された電磁継電器でもヨークにエンボス突起部を設け、これと可動ばねに設けた孔とをかしめることにより可動ばねをヨークに固着しており、特許文献2の場合にはヨークの立ち上がり面の端部付近にエンボス突起部が配置されている。しかし、一般的にプレス加工によりエンボス突起部を突出させる工法において、エンボス突起部はヨークの端部より少なくともヨークの板厚の2倍以上離して加工される。端部際にエンボス突起部を出すと、製品形状に変形が生ずるばかりでなくエンボス突起部の形状が安定しないためである。このため、エンボス突起部がコイルアッセンブリの奥にあるのでやはりコイルの断線、かしめ不良などが発生する恐れがあり、再現よく高精度の組立てを行うことは困難である。
【0008】
本発明は、前記問題点を鑑みてなされたもので、高い生産性を有し、低コストで高精度な可動ばねの固定を可能とする小型かつ高性能な電磁継電器およびその組み立て方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を達成するため、本発明による電磁継電器は、基部側平面とそれにほぼ直交する立ち上がり面を有するL字状に形成されたヨークと、コイル線がスプールに巻回されて形成され前記ヨークの前記基部側平面に搭載されるコイルアッセンブリと、該コイルアッセンブリを前記ヨークの前記基部側平面に固定し保持する棒状のコアと、該コアとの間の電磁力によって揺動可能に配置されたアーマチュアと、該アーマチュアを固定保持し一端部に可動接点を有する可動ばねとからなる電磁ブロックと、前記可動接点に対向する位置に設置された少なくとも1つの固定接点とからなる電磁継電器において、前記ヨークの前記立ち上がり面の端部際に前記基部側平面にほぼ平行に配置されて形成された2個のエンボス突起部と、前記立ち上がり面の前記エンボス突起部が形成された部分の裏側に形成された周囲よりも板厚の小さいエンボス受け部と、前記可動ばねの前記エンボス突起部に対向する位置に形成された2つの孔とを有し、該2つの孔が前記エンボス突起部によりかしめ固定されることにより前記ヨークに前記可動ばねが固定されたことを特徴とする。
【0010】
また、前記可動接点に対向する位置に設置された常開固定接点および常閉固定接点を有していてもよい。
【0011】
また、前記電磁ブロックを複数個配置して構成されてもよい。
【0012】
本発明による電磁継電器の組み立て方法は、基部側平面とそれにほぼ直交する立ち上がり面を有するL字状に形成されたヨークと、コイル線がスプールに巻回されて形成され前記ヨークの前記基部側平面に搭載されるコイルアッセンブリと、該コイルアッセンブリを前記ヨークの前記基部側平面に固定し保持する棒状のコアと、該コアとの間の電磁力によって揺動可能に配置されたアーマチュアと、該アーマチュアを固定保持し一端部に可動接点を有する可動ばねとからなる電磁ブロックと、前記可動接点に対向する位置に設置された少なくとも1つの固定接点とからなる電磁継電器の組み立て方法において、前記ヨークの前記立ち上がり面の端部際に前記基部側平面にほぼ平行に2個のエンボス突起部を形成し、前記立ち上がり面の前記エンボス突起部が形成される部分の裏側に周囲よりも板厚の小さいエンボス受け部を形成し、前記可動ばねの前記エンボス突起部に対向する位置に2つの孔を形成し、前記ヨークの立ち上がり面の側面側よりエンボス受け用プレートをスライドさせて前記エンボス受け部にあてがうことにより前記ヨークを支持しながら前記2つの孔を前記エンボス突起部にかしめ固定することにより前記ヨークに前記可動ばねを固定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上記のように、エンボス突起部が形成される部分の裏側に周囲よりも板厚の小さいエンボス受け部を形成することによって、製品形状に変形を生ずることなく安定したエンボス突起部を端部際に形成することができ、かつ前記ヨークの立ち上がり面の側面側よりエンボス受け用プレートをスライドさせて前記エンボス受け部にあてがいヨークを支持することが可能となり、その結果、可動ばねとヨークとの精度の高いかしめ固定が可能となる。
【0014】
以上のように、レーザー溶接機等の高額設備の投資を必要とすることなく、高い生産性を有し、低コストで高精度な可動ばねの固定を可能とする小型かつ高性能な電磁継電器およびその組み立て方法が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
図1は、本発明による電磁継電器の一実施の形態である双子型電磁継電器を示す斜視図であり、カバー内部の構成を示す図である。図1に示すように、本実施の形態における電磁継電器は、電磁継電器本体Aと電磁継電器本体Aを被装するカバーBとで構成される。図2は、電磁継電器本体Aの分解斜視図である。図3は、本実施の形態に使用するヨークの拡大図であり、図3(a)はその斜視図、図3(b)は図3(a)のA−A側より見た正面図である。
【0017】
図2において、本実施の形態の双子型電磁継電器は、基部側平面12dとそれにほぼ直交する立ち上がり面12eを有するL字状に形成されたヨーク12と、コイル線11aがスプール11cに巻回されて形成されヨーク12の基部側平面12dに搭載されるコイルアッセンブリ11と、コイルアッセンブリ11をヨーク12の基部側平面12dに固定し保持する棒状のコア13と、コア13との間の電磁力によって揺動可能に配置されたアーマチュア14aと、アーマチュア14aを固定保持し一端部に可動接点14bを有する可動ばね14とからなる電磁ブロック1と、可動接点14bに対向する位置に設置された常開固定接点部22および常閉固定接点部23からなる電磁継電器において、ヨーク12の立ち上がり面12eの端部際に基部側平面12dにほぼ平行に配置されて形成された2個のエンボス突起部12b(図3)と、立ち上がり面12eのエンボス突起部12bが形成された部分の裏側に形成された周囲よりも板厚の小さいエンボス受け部12cと、可動ばね14のエンボス突起部12bに対向する位置に形成された2つの孔14eとを有し、2つの孔14eがエンボス突起部12bによりかしめ固定されることによりヨーク12に可動ばね14が固定され、電磁ブロック1、常開固定接点部22および常閉固定接点部23がベースブロック2に保持固定されて構成されている。なお、図1および図2に示すように、本実施の形態の双子型電磁継電器は、2組の電磁ブロックおよび2組の常開固定接点部、常閉固定接点部より構成されている。
【0018】
図3に示すように、ヨーク12は基部側平面12dと立ち上がり面12eの交差する部分および基部側平面12dの中途部から先端部に亘ってその幅が狭くなっている。また基部側平面12dにはコア13(図2)を挿嵌する孔12aが開孔されている。通常、ヨーク12の板厚は0.7〜1.1mm程度であるのでエンボス突起部12bはヨーク端部より板厚の2倍である1.4〜2.2mm程度内側に形成する必要があるが、本実施の形態ではエンボス受け部12cの形成により板厚が小さくなっているので、より端部際にエンボス突起部12bを形成することができる。エンボス突起部12bの外形は0.7〜1.1mmφ程度である。
【0019】
図4は、本実施の形態の双子型電磁継電器の本発明による組み立て方法の一実施例を説明する図である。ヨーク12と可動ばね14のかしめ固定工程を示し、エンボス突起部を基部側平面と平行な面で切断した断面図である。本組み立て方法は、ヨークと可動ばねの形成およびそのかしめ固定以外の工程は従来の電磁継電器の組み立て方法と同様である。本実施例においては、上述のように、ヨーク12の立ち上がり面12eの端部際にエンボス突起部12bと、エンボス突起部12bが形成される部分の裏側にエンボス受け部12cを形成し、可動ばね14のエンボス突起部12bに合致する位置に2つの孔14eを形成している。
【0020】
本実施例の組み立て方法においては、ヨーク12の立ち上がり面12eの側面側よりエンボス受け用プレート3をスライドさせてエンボス受け部12cにあてがうことによりヨーク12を支持しながら可動ばね14の2つの孔14eをエンボス突起部12bにかしめ固定することによりヨーク12に可動ばね14を固定する。すなわち、可動ばね14に配置された2つの孔14eをヨーク12のエンボス突起部12bに挿入しプレス加工等によってエンボス突起部12bを拡径させることによってヨーク12と可動ばね14を固着させる。ここで、エンボス受け部12cの形状は本実施の形態では輪郭がU字型の窪みであるが、その輪郭は半円型やその他の形状であってもよい。その形状に合わせてエンボス受け用プレート3の先端部の形状を設定することができる。
【0021】
本実施例では、図4に示すように、かしめる際、エンボス受け部12cへエンボス受け用プレート3をあてがいヨーク12を支持しながらかしめ固定を実施することで、従来のようなかしめ不良がなく、ヨーク、可動ばねなどの変形、位置ずれがない高精度のかしめ固定が可能である。また、板厚の小さいエンボス受け部12cを設けること、およびエンボス突起部12bをヨーク端部際に設置することによりエンボス受け用プレート3の挿入が容易になり、コイルの断線などの不良の発生のおそれを除くことができる。
【0022】
以上のように、上述の本実施の形態の電磁継電器、および本実施例の組み立て方法により、高い生産性を有し、低コストで高精度な可動ばねの固定を可能とする小型かつ高性能な電磁継電器およびその組み立て方法が得られる。
【0023】
なお、本発明は上記の実施の形態、実施例に限定されるものではないことは言うまでもなく、例えば、1個の電磁ブロックしか有しない電磁継電器、固定接点として常開固定接点または常閉固定接点の一方しか有しない電磁継電器であってもよく、また、ヨークや可動ばねの形状、エンボス突起部の位置、形状、エンボス受け用プレートの形状などは上記の実施の形態、実施例に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による電磁継電器の一実施の形態である双子型電磁継電器を示す斜視図でカバー内部の構成を示す図。
【図2】本実施の形態の電磁継電器本体の分解斜視図。
【図3】本実施の形態に使用するヨークの拡大図、図3(a)は斜視図、図3(b)は図3(a)のA−A側より見た正面図。
【図4】本実施の形態の双子型電磁継電器の本発明による組み立て方法の一実施例を説明する図、ヨークと可動ばねのかしめ固定工程を示し、エンボス突起部を基部側平面と平行な面で切断した断面図。
【符号の説明】
【0025】
1 電磁ブロック
11 コイルアッセンブリ
11a コイル線
11c スプール
12 ヨーク
12a、14e 孔
12b エンボス突起部
12c エンボス受け部
12d 基部側平面
12e 立ち上がり面
13 コア
14 可動ばね
14a アーマチュア
14b 可動接点
2 ベースブロック
22 常開固定接点部
23 常閉固定接点部
3 エンボス受け用プレート
A 電磁継電器本体
B カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部側平面とそれにほぼ直交する立ち上がり面を有するL字状に形成されたヨークと、コイル線がスプールに巻回されて形成され前記ヨークの前記基部側平面に搭載されるコイルアッセンブリと、該コイルアッセンブリを前記ヨークの前記基部側平面に固定し保持する棒状のコアと、該コアとの間の電磁力によって揺動可能に配置されたアーマチュアと、該アーマチュアを固定保持し一端部に可動接点を有する可動ばねとから構成される電磁ブロックと、前記可動接点に対向する位置に設置された少なくとも1つの固定接点とからなる電磁継電器において、前記ヨークの前記立ち上がり面の端部際に前記基部側平面にほぼ平行に配置されて形成された2個のエンボス突起部と、前記立ち上がり面の前記エンボス突起部が形成された部分の裏側に前記エンボス突起部と同時にエンボス加工により形成された周囲よりも板厚の小さいエンボス受け部と、前記可動ばねの前記エンボス突起部に対向する位置に形成された2つの孔とを有し、該2つの孔が前記エンボス突起部によりかしめ固定されることにより前記ヨークに前記可動ばねが固定されたことを特徴とする電磁継電器。
【請求項2】
前記可動接点に対向する位置に設置された常開固定接点および常閉固定接点を有することを特徴とする請求項1記載の電磁継電器。
【請求項3】
前記電磁ブロックを複数個配置して構成されることを特徴とする請求項1または2記載の電磁継電器。
【請求項4】
基部側平面とそれにほぼ直交する立ち上がり面を有するL字状に形成されたヨークと、コイル線がスプールに巻回されて形成され前記ヨークの前記基部側平面に搭載されるコイルアッセンブリと、該コイルアッセンブリを前記ヨークの前記基部側平面に固定し保持する棒状のコアと、該コアとの間の電磁力によって揺動可能に配置されたアーマチュアと、該アーマチュアを固定保持し一端部に可動接点を有する可動ばねとから構成される電磁ブロックと、前記可動接点に対向する位置に設置された少なくとも1つの固定接点とからなる電磁継電器の組み立て方法において、前記ヨークの前記立ち上がり面の端部際に前記基部側平面にほぼ平行に位置する2個のエンボス突起部を形成し、前記立ち上がり面の前記エンボス突起部が形成される部分の裏側に周囲よりも板厚の小さいエンボス受け部を形成し、前記可動ばねの前記エンボス突起部に対向する位置に2つの孔を形成し、前記ヨークの立ち上がり面の側面側よりエンボス受け用プレートをスライドさせて前記エンボス受け部にあてがうことにより前記ヨークを支持しながら前記2つの孔を前記エンボス突起部にかしめ固定することにより前記ヨークに前記可動ばねを固定することを特徴とする電磁継電器の組み立て方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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