説明

電磁誘導加熱装置

【課題】電磁誘導加熱装置において、作業者の安全を確保しながらも安価に製造でき、かつ、容易に設計できるようにする。
【解決手段】鉄心4と、当該鉄心4に対して螺旋状に巻回して形成された螺旋管部61、並びに、当該螺旋管部61の両端部に接続されて当該螺旋管部61の径方向外側に延びる入口管部62及び出口管部63を有する導電性の加熱管6と、前記鉄心4に巻回されて交流電流を供給することで電磁誘導により前記螺旋管部61に二次誘導電流を発生させる一次コイル5とを備え、前記螺旋管部61の両端部が、当該螺旋管部61の軸線L1方向に配列されるように同一周方向位置P1に配され、当該同一周方向位置P1に配される前記螺旋管部61の各部64が接地されている電磁誘導加熱装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電磁誘導を利用して被加熱物質を加熱する電磁誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電磁誘導加熱装置には、例えば非特許文献1のように、鉄心と、鉄心に対して螺旋状に巻回された導電性の加熱管と、鉄心に巻回されて交流電流を流すことで加熱管に電磁誘導により二次誘導電流を流すために設置された一次コイルとを備えたものがある。この加熱装置においては、加熱管に二次誘導電流が流れた場合に加熱管の電気抵抗に基づくジュール熱が発生し、この熱が加熱管内部を流れる被加熱物質に伝わることで、被加熱物質を加熱することができる。
この電磁誘導加熱装置は、加熱管の両端をプラント等の外部装置に備える被加熱物質の管路や漕等の外部配管に接続した状態で使用されることが多い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】“蛇管型ネスコヒーター”、[online]、三菱レイヨン・エンジニアリング株式会社、[平成22年1月15日検索]、インターネット〈URL:http://www.mrc.co.jp/mre/plant/plant_03_05.html〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、被加熱物質に対する加熱管の耐食性等の仕様から金属性の材料が使用されることが一般的であり、この場合、加熱管自体の電気抵抗は小さい(例えば数十〜数百μΩ)ことが多い。このため、被加熱物質を効率よく加熱するためには、大きな電流(例えば数千〜数万アンペア)を二次誘導電流として加熱管に流す必要がある。
しかしながら、加熱管に大電流を流した場合には、二次誘導電流が外部配管に漏洩する虞が高まる。また、加熱管の長さに応じて加熱管にかかる電圧(二次誘導電圧)によって感電しないように作業者の安全を確保する配慮が必要となり、その結果として、設備が大掛かりとなって、電磁誘導加熱装置やこれに接続される外部装置の製造コストが高くなる、という問題がある。
【0005】
さらに、電磁誘導加熱装置をより安価に製造するためには、一次コイルへの入力として一般の商用電源である低周波電源を使用することが好ましいが、低周波電源を使用して大きな二次誘導電流を得るためには、一次コイルと加熱管との巻数比(変圧比)を大きく設定する必要がある。
しかしながら、加熱管の巻数は、電磁誘導加熱装置を接続する外部装置の仕様(例えば、加熱管内を流れる被加熱物質の到達温度や流速)に依存して設定されることから、被加熱物質を効率よく加熱できるように、一次コイルと加熱管との巻数比(変圧比)を大きく設定するためには、加熱管の巻数に対して一次コイルの巻数を非常に多く設定するしかない。その結果、一次コイルの容積が大きくなり、電磁誘導加熱装置の設計が困難となる虞がある。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、作業者の安全を確保しながらも安価に製造でき、かつ、容易に設計することが可能な電磁誘導加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決してこのような目的を達成するために、本発明に係る電磁誘導加熱装置は、鉄心と、当該鉄心に対して螺旋状に巻回して形成された螺旋管部、並びに、当該螺旋管部の両端部に接続されて当該螺旋管部の径方向外側に延びる入口管部及び出口管部を有する導電性の加熱管と、前記鉄心に巻回されて交流電流を供給することで電磁誘導により前記螺旋管部に二次誘導電流を発生させる一次コイルとを備え、前記螺旋管部の両端部が、当該螺旋管部の軸線方向に配列されるように同一周方向位置に配され、当該同一周方向位置に配される前記螺旋管部の各部が接地されていることを特徴とする。
なお、螺旋管部の各部とは、螺旋管部の軸線方向に配列される螺旋管部の両端部やこれらの間に位置する螺旋管部の中途部のことを示している。例えば、螺旋管部の巻数が一つの場合、螺旋管部の各部は螺旋管部の両端部のみを示す。また、螺旋管部の巻数が複数である場合、螺旋管部の各部は螺旋管部の両端部、及び、これらの間に配される螺旋管部の中途部の両方を示す。
【0008】
上記構成の電磁誘導加熱装置においては、加熱管の螺旋管部に二次誘導電流が流れた際に、螺旋管部の電気抵抗に応じたジュール熱が発生し、螺旋管部が発熱する。そして、螺旋管部の熱が螺旋管部内部を流れる被加熱物質に伝わることで、被加熱物質を加熱することができる。
そして、この電磁誘導加熱装置によれば、入口管部及び出口管部が螺旋管部の外側に離れるように形成されることに加え、螺旋管部の同一周方向位置に配された螺旋管部の各部が接地電位となるため、入口管部及び出口管部も接地電位となる。したがって、入口管部及び出口管部に二次誘導電流が流れることは無い。すなわち、二次誘導電流が入口管部や出口管部を介して外部に漏洩することを確実に防止することができる。
【0009】
また、螺旋管部の同一周方向位置に配された螺旋管部の各部が接地されていることで、螺旋管部における二次誘導電流の電気経路の長さは、同一周方向位置を基点とした螺旋管部の一周分(一回巻線)の長さとなる。例えば、複数巻回された螺旋管部における二次誘導電流の電気経路は、互いに独立した一回巻線を並列に電気接続したものと等価となる。したがって、複数巻回された螺旋管部に大きな二次誘導電流が流れたとしても、螺旋管部にかかる二次誘導電圧を感電しない低電圧(例えば8V以下)に抑えることができる。
【0010】
また、螺旋管部における二次誘導電流の電気経路が、螺旋管部の巻数に関わらず、螺旋管部の一周分の長さと等価となることから、一次コイルと螺旋管部との巻数比(変圧比)が一次コイルの巻数と等しくなる。すなわち、従来と比較して一次コイルの巻数を少なく設定しても、一次コイルと螺旋管部との巻数比(変圧比)を容易に大きく設定することが可能となる。
以上のことから、一次コイルへの入力として低周波電源を使用しても、加熱管に大きな二次誘導電流を流して、被加熱物質を効率よく加熱することが可能となる。また、一次コイルの巻数を少なく設定できることから一次コイルの容積が小さくなり、その結果として、電磁誘導加熱装置を容易に設計することが可能となる。
さらに、螺旋管部の一周部分において生じるジュール熱さえ分かれば、このジュール熱に螺旋管部の巻数を乗じるだけで、螺旋管部全体において生じるジュール熱を簡単に算出できるため、電磁誘導加熱装置の加熱性能の設計も簡便に行うことができる。
【0011】
そして、前記電磁誘導加熱装置においては、前記同一周方向位置に配された前記螺旋管部の各部が、互いに電気接続されていることが好ましい。
この場合には、複数ある螺旋管部の各部のうち少なくともひとつ(例えば螺旋管部の両端部の一方のみ)に、接地用の配線を接続すればよいため、螺旋管部の各部を接地させる作業を簡便に行うことができる。
【0012】
また、前記電磁誘導加熱装置においては、前記螺旋管部が、密着状態で巻回して形成されていてもよい。
言い換えれば、相互に隣り合う前記螺旋管部の一周部分同士が、その周方向にわたって密着していてもよい。
【0013】
この構成では、螺旋管部の一周部分の間の距離が短くなることで、隣り合う螺旋管部の一周部分同士が相互に温め合う保温効果が大きくなるため、螺旋管部において生じたジュール熱が螺旋管部の外部表面から逃げにくくなる。その結果として、より効率よく被加熱物質を加熱することができる。
また、螺旋管部が隙間あけた螺旋状に形成される場合と比較して、螺旋管部の軸線方向の寸法を小さく抑えることができるため、電磁誘導加熱装置の小型化を図ることができる。
さらに、螺旋管部や一次コイルの軸線方向に延びる鉄心が設けられている場合、鉄心の軸部の長さも小さく設定できるため、磁気的及び電気的な損失が小さくなり、電磁誘導加熱装置の力率が良くなる。
【0014】
そして、前記電磁誘導加熱装置においては、前記軸線方向に隣り合う前記螺旋管部の各部が、溶接によって互いに接合されていることがより好ましい。
この構成では、互いに隣り合う螺旋管部の各部を電気接続する導線等の別途部材が不要となるため、電磁誘導加熱装置の構成部品点数を減らすことができる。また、耐熱性の低い導線等の別途部材が不要となることで、加熱管に生じるジュール熱によって導線が断線する等して、加熱管の電気的な信頼性が低下することも確実に防止できる。さらに、構成部品点数の減少に伴って電磁誘導加熱装置を製造する工程数も削減されるため、効率よく製造することができ、その結果として、製造コストのさらなる削減を図ることが可能となる。
【0015】
さらに、前記電磁誘導加熱装置において、前記一次コイルに供給される前記交流電流の周波数は、10Hz以上400Hz以下であってよい。
上述した周波数範囲の交流電流は、一般の商用電源である低周波電源において出力することができるため、低周波電源を用いて電磁誘導加熱装置をより安価に製造することが可能となる。
【0016】
また、前記電磁誘導加熱装置においては、前記二次誘導電流が、1000アンペア以上100000アンペア未満であり、前記電磁誘導によって前記加熱管にかかる二次誘導電圧が、1V以上8V以下であるとよい。
【0017】
さらに、前記電磁誘導加熱装置においては、内部に前記鉄心、前記加熱管及び前記一次コイルを収容するケースと、当該ケースの内部と外部との間でパージガスを出入りさせるパージ機構とを備え、当該パージ機構が、ケース内部に導入される前記パージガスを前記一次コイルに直接吹き付けるように構成されていることが好ましい。
この構成では、パージ機構によりケースの内部と外部との間で清浄空気や窒素などのパージガスを出入りさせることで、危険性ガスや水分、塵埃等の異物が外部からケース内部に侵入することを防止できる。また、交流電流や二次誘導電流による一次コイルや加熱管の発熱に基づくケース内の温度上昇を、抑制あるいは防止することができる。
特に、ケース内部に導入されたパージガスを一次コイルに直接吹き付けることで、一次コイルを効率よく冷却することができる。このため、一次コイルに交流電流を流すことで一次コイルが発熱しても、一次コイルの温度上昇を抑制することができる。また、一次コイルの温度上昇に伴う絶縁の劣化を防止することができる。
【0018】
また、前記電磁誘導加熱装置においては、内部に前記鉄心、前記加熱管及び前記一次コイルを収容するケースと、当該ケースの内部と外部との間でパージガスを出入りさせるパージ機構と、前記パージガスを含む前記ケース内部のエアを外部に排出する前記パージ機構の排出管部に設けられて、前記ケース内部の圧力を所定圧力に保持するための圧力調整バルブと、前記加熱管の温度を測定する温度センサと、当該温度センサの測定結果が所定温度以上となった場合に、当該測定結果に基づいて前記一次コイルへの前記交流電流の供給を停止する電源制御部とを備えることが、より好ましい。
【0019】
なお、前記所定圧力とは、例えば前記ケースの耐圧値あるいは当該耐圧値以下の圧力値のことを示している。また、前記所定圧力の値は、前記ケース内部に導入されるパージガスの流量にあわせて前記圧力調整バルブを操作することにより、設定することが可能である。そして、前記所定温度とは、例えば水素等の可燃性ガス或いはガソリン等の可燃性液体の蒸気のことを示している。
この構成では、圧力調整バルブにより危険性ガスや水分、塵埃等の異物が外部からケース内部に侵入することを防止しながら、ケースの内圧が過剰に高くなることを防止できる。
また、加熱管の温度が所定温度以上となったときに一次コイルへの交流電流の供給を停止することで、例えば、不意に加熱管の温度が急激に上昇すると共に、このような温度上昇に伴ってケースの内圧が急激に上昇し、仮に、この上昇を圧力調整バルブで抑えきれない場合があったとしても、前記交流電流を停止し、かつ圧力供給装置を停止(供給弁の閉止やブロワーの停止など)することで、ケースの内圧が過剰に高くなることを確実に防止できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、螺旋管部の両端部が位置する同一周方向位置に配された螺旋管部の各部が接地されていることで、作業者の電気的な安全を確保しながらも、電磁誘導加熱装置やこれに接続される外部装置の製造コストを低く抑えることができる。
さらに、被加熱物質を効率よく加熱する構成を、少ない一次コイルの巻数で実現できるため、電磁誘導加熱装置を容易に設計することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る電磁誘導加熱装置を示す概略平断面図である。
【図2】図1のA−A矢視断面図である。
【図3】図1のB−B矢視断面図である。
【図4】図1〜3の電磁誘導加熱装置に備える螺旋管部の接地状態を簡略して示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図1から図4を参照し、本発明に係る電磁誘導加熱装置の実施形態について説明する。
図1〜3に示すように、本実施形態の電磁誘導加熱装置1は、被加熱物質を取り扱うプラント等の外部装置に接続され、電磁誘導を利用して被加熱物質を加熱するものであり、ケース2と、ケース2内に配された電磁誘導加熱部3とを備えて大略構成されている。
【0023】
ケース2は、電磁誘導加熱部3を収容してケース2外部の環境から保護する役割を果たしている。また、ケース2は、一般構造用圧延鋼材等の金属材料によって形成されており、このケース2を接地させることで、電磁誘導に基づいて電磁誘導加熱部3で発生する磁束や電流を遮蔽し、これら磁束や電流がケース2外部に漏れないようにしている。
なお、ケース2は、その外部と内部との間で清浄空気や窒素を出入りさせる機能も有しており、この機能によりケース2内の空間の温度上昇を抑制あるいは防止できるようになっている。また、ケース2は、水分や塵埃等の異物が電磁誘導加熱部3に悪影響を与えないように、外部から内部への異物の浸入を防止する機能も有している。
【0024】
さらに、ケース2には、その外部と内部との間で清浄空気や窒素などのパージガスを出入りさせるパージ機構22が設けられている。パージ機構22は、ケース2の外部から内部にパージガスを導入するための導入管部23と、パージガスやケース2内部に残留する他のエアを外部に排出するための排出管部24とを備えている。導入管部23及び排出管部24はいずれも、配管やダクト等によって構成されている。
導入管部23は、ケース2の側壁部からケース2内部の中央部分まで延びている。この構成では、ケース2内部に導入されるパージガスを、ケース2内部の中央部分に配置された電磁誘導加熱部3の一次コイル5に直接吹き付けるように構成されている。一方、排出管部24には、ケース2内部の圧力を所定圧力に保持するための圧力調整バルブ25が設けられている。ここで、所定圧力とは、例えばケース2の耐圧値あるいは耐圧値以下の圧力値のことを示している。また、所定圧力の値は、ケース2内部に導入されるパージガスの流量にあわせて圧力調整バルブ25を操作することで、設定することが可能である。
【0025】
電磁誘導加熱部3は、鉄心4、一次コイル5及び加熱管6を備えて構成されている。
鉄心4は、後述する一次コイル5及び加熱管6に挿通される棒状の軸部41と、軸部41の長手方向の両端を繋ぐように矩形環状に形成された枠体部42とによって略8の字状に形成され、電磁誘導で生じる磁束用の閉磁路を画成している。なお、枠体部42は一次コイル5及び加熱管6の外側を囲むように形成されている。
このように構成される鉄心4は、ケース2内の載置面2aに載置された導電性のベースプレート7の上面7aに固定されている。なお、ベースプレート7は、導電性を有すると共にケース2と同様に接地されている。
【0026】
一次コイル5は、鉄心4の軸部41に巻回して取り付けられ、ケース2内部の中央部分に配置されている。この一次コイル5の両端は、ケース2の側部に形成された端子箱21からケース2外部に引き出された上で、例えば低周波電源等の交流電源(不図示)に接続されている。なお、一次コイル5に低周波電源に接続されている場合、一次コイル5に供給される交流電流の周波数は、例えば10Hz以上400Hz以下となる。
加熱管6は、導電性を有し、一次コイル5のさらに外側において螺旋状に複数巻回して形成された螺旋管部61と、螺旋管部61の長手方向の両端部64A,64Bにそれぞれ接続された入口管部62及び出口管部63とを備えて構成されている。
螺旋管部61は、密着状態で巻回して形成されている。言い換えれば、螺旋管部61の軸線L1方向に隣り合う螺旋管部61の一周部分同士が、その周方向にわたって密着している。また、螺旋管部61の両端部64A,64Bは、螺旋管部61の軸線L1方向に配列されるように螺旋管部61の同一周方向位置P1に配されている。
【0027】
そして、同一周方向位置P1に配された螺旋管部61の両端部64A,64B及びこれらの間に位置する螺旋管部61の中途部64C(螺旋管部61の各部64)は、溶接によって互いに接合されることで電気接続されている。なお、同一周方向位置P1以外の部分においては、螺旋管部61の軸線L1方向に隣り合う螺旋管部61の一周部分同士が、互いに電気接続されていてもよいし、されなくてもよい。
さらに、同一周方向位置P1に配された螺旋管部61の両端部64A,64B及び中途部64Cは、導線(不図示)や後述する支持体10によってベースプレート7に接地されている。なお、導線は、螺旋管部61の両端部64A,64Bのいずれか一方あるいは両方に接続されていてもよいし、例えば螺旋管部61の中途部64Cの一箇所あるいは複数個所に接続されていてもよい。
【0028】
入口管部62及び出口管部63は、それぞれ螺旋管部61の両端部64A,64Bから径方向外側に延びるように形成されている。なお、螺旋管部61の両端部64A,64Bは互いに逆向きに開口しているが、これに接続される入口管部62及び出口管部63が、その中途部分において屈曲していることで、互いに平行する状態でケース2の同一の側壁部からケース2外部に延びている。
【0029】
さらに、電磁誘導加熱部3は、上述した構成のほかに、加熱管6の温度を測定する温度センサ8、及び、加熱管6全体を覆う保温材9も備えている。
温度センサ8は、入口管部62、出口管部63、出口管部63側に位置する螺旋管部61の端部64B近傍、及び、螺旋管部61の中途部64Cの一つ、の計4箇所に取り付けられている。なお、螺旋管部61に取り付けられる温度センサ8は、螺旋管部61の同一周方向位置P1やその近傍に配されている。
【0030】
これら複数の温度センサ8の配線は、ケース2の端子箱21からケース2外部に引き出された上で、交流電源から一次コイル5に供給する交流電流の大きさを制御する電源制御部(不図示)に接続されている。
電源制御部は、温度センサ8の測定結果に基づいて出口管部63における被加熱物質が所望の温度となるように、一次コイル5に供給する交流電流の大きさ制御する役割を果たしている。また、電源制御部は、温度センサ8の測定結果が所定温度以上となった場合に、当該測定結果に基づいて前記一次コイル5への前記交流電流の供給を停止する機能も備えている。なお、所定温度とは、例えば被加熱物質の発火温度の80%或いは一次コイル5の絶縁破壊温度のことを示している。
【0031】
保温材9は、ガラス繊維或いはセラミック材等からなり、螺旋管部61において生じたジュール熱、及び、加熱管6内部を流れる被加熱物質の熱を、加熱管6の外部に逃がさない役割や、加熱管6に生じる熱の影響を鉄心4や一次コイル5等に対して過度に与えない役割を果たしている。なお、螺旋管部61の内側には一次コイル5や鉄心4の軸部41が配されるため、保温材9のうち螺旋管部61を覆う部分は、螺旋管部61の形状に倣う円筒状に形成されている。
【0032】
また、電磁誘導加熱装置1は、加熱管6をベースプレート7の上面7aに対して間隔をあけた状態で支持する複数(図示例では三つ)の支持体10を備えている。各支持体10は、導電性を有しており、ベースプレート7の上面7aに立設された棒状の脚部11と、脚部11の上端に一体に形成されて螺旋管部61の周方向の一部を収容する収容枠部12とによって構成されている。
収容枠部12には、脚部11の長手方向(螺旋管部61の軸線L1方向)に延びる縦長の挿通孔13が形成され、この挿通孔13に螺旋管部61が挿通されている。挿通孔13の長手寸法は、螺旋管部61の軸線L1方向の寸法と同等あるいは微小に大きく設定されている。また、挿通孔13の幅寸法は螺旋管部61の管部分の外径寸法と同等あるいは微小に大きく設定されている。さらに、挿通孔13の上端は開閉可能とされ、リング状の螺旋管部61を挿通孔13の上端から容易に出し入れできるようになっている。
上記構成の支持体10は、例えば、鉄やステンレス等の導電性材料からなるL字型のアングル等の棒状部材を適宜組み合わせることで形成することが可能である。
【0033】
そして、複数の支持体10は、螺旋管部61の周方向に等間隔で配列されている。
複数の支持体10のうち一つ(一の支持体10A)は、螺旋管部61の同一周方向位置P1において螺旋管部61と電気的に接続されるように直接接触しており、また、ベースプレート7に対しても電気的に接続されている。すなわち、同一周方向位置P1に配された螺旋管部61の両端部64A,64B及び中途部64Cは、一の支持体10を介してベースプレート7に接地されている。
なお、他の支持体10は、その挿通孔13の内面と螺旋管部61との間に絶縁シートを介在させ、また、その脚部11とベースプレート7とを電気的に絶縁した状態で固定することで、螺旋管部61やベースプレート7と電気的に絶縁されている。
【0034】
以上のように構成される電磁誘導加熱装置1においては、一次コイル5に交流電流を供給することで、電磁誘導により螺旋管部61に二次誘導電流が流れる。この際、螺旋管部61にはその電気抵抗に応じたジュール熱が発生し、螺旋管部61が発熱する。そして、この螺旋管部61の熱が螺旋管部61内に流れる被加熱物質に伝わることで被加熱物質を加熱することができる。
ここで、入口管部62及び出口管部63は螺旋管部61の外側に離れるように形成され、また、螺旋管部61の同一周方向位置P1に配された螺旋管部61の各部64が接地電位となるため、入口管部62及び出口管部63も接地電位となる。したがって、上記のように被加熱物質を加熱する際には、入口管部62及び出口管部63に二次誘導電流が流れることは無い。すなわち、二次誘導電流が入口管部62や出口管部63を介して外部に漏洩することを確実に防止することができる。
【0035】
また、同一周方向位置P1に配された螺旋管部61の各部64はいずれも接地されているため、被加熱物質を加熱する際に、螺旋管部61における二次誘導電流の電気経路の長さは、同一周方向位置P1を基点とした螺旋管部61の一周分(一回巻線)の長さとなる。すなわち、螺旋管部61における二次誘導電流の電気経路は、図4に示すように、同一周方向位置P1において互いに独立した一回巻線C1を並列に電気接続し、かつ、接地させたものと等価となる。したがって、複数巻回された螺旋管部61に大きな二次誘導電流が流れたとしても、螺旋管部61にかかる二次誘導電圧を低く抑えることができる。
【0036】
以上説明したように、本実施形態による電磁誘導加熱装置によれば、加熱管6の螺旋管部61を流れる二次誘導電流が外部に漏洩する虞が無く、また、螺旋管部61にかかる二次誘導電圧を感電しない低電圧(例えば1V以上8V以下)に設定することができるため、作業者の安全を確保するための設備を最小限に抑えて、電磁誘導加熱装置1やこれに接続される外部装置の製造コストを低く抑えることが可能となる。
【0037】
また、螺旋管部61における二次誘導電流の電気経路が、螺旋管部61の巻数に関わらず、螺旋管部61の一周分の長さと等価となることから、一次コイル5と螺旋管部61との巻数比(変圧比)が一次コイル5の巻数と等しくなる。すなわち、従来と比較して一次コイル5の巻数を少なく設定しても、一次コイル5と螺旋管部61との巻数比(変圧比)を容易に大きく設定することが可能となる。したがって、一次コイル5への入力として一般の商用電源である安価な低周波電源を使用しても、加熱管6に大きな二次誘導電流(例えば1000アンペア以上100000アンペア未満)を流して、被加熱物質を効率よく加熱することが可能となる。また、一次コイル5の巻数を少なく設定できることから一次コイル5の容積が小さくなり、その結果として、電磁誘導加熱装置1を容易に設計することが可能となる。
さらに、螺旋管部61の一周部分において生じるジュール熱さえ分かれば、このジュール熱に螺旋管部61の巻数を乗じるだけで、螺旋管部61全体において生じるジュール熱を簡単に算出できるため、電磁誘導加熱装置1の加熱性能の設計も簡便に行うことができる。
【0038】
また、同一周方向位置P1に配された螺旋管部61の各部64が、互いに電気接続されていることで、螺旋管部61の各部64のうち少なくとも一つのみに接地用の配線(導線や支持体10)を電気接続するだけで、螺旋管部61の各部64を接地させる作業を簡便に行うことができる。
さらに、同一周方向位置P1に配された螺旋管部61の各部64同士の電気接続が溶接によって行われることで、螺旋管部61の各部64同士を導線等の別途部材により電気接続する場合と比較して、電磁誘導加熱装置1の構成部品点数を削減することができる。また、加熱管6と比較して耐熱性の低い導線等の別途部材が不要となることで、加熱管6に生じるジュール熱によって導線が断線する等して、加熱管6の電気的な信頼性が低下することも確実に防止できる。さらに、構成部品点数の減少に伴って電磁誘導加熱装置1を製造する工程数も削減されるため、効率よく製造することができ、その結果として、製造コストのさらなる削減を図ることが可能となる。
【0039】
また、螺旋管部61が密着状態で巻回して形成されていることで、螺旋管部61の一周部分の間の距離が短くなって、隣り合う螺旋管部61の一周部分同士が相互に温め合う保温効果が大きくなるため、螺旋管部61において生じたジュール熱が螺旋管部61の外部表面から逃げにくくなる。その結果として、より効率よく被加熱物質を加熱することができる。
さらに、螺旋管部61が隙間あけた螺旋状に形成される場合と比較して、螺旋管部61の軸線L1方向の寸法を小さく抑えることができるため、電磁誘導加熱装置1の小型化を図ることができる。また、鉄心4の軸部41の長さも小さく設定できるため、磁気的及び電気的な損失が小さくなり、電磁誘導加熱装置1の力率が良くなる、という効果も奏する。
さらに、螺旋管部61が密着状態で巻回されていることで、螺旋管部61が一つの塊として構成されるため、支持体10に対する加熱管6の取り付けや取り外しも容易に行うことができる。すなわち、電磁誘導加熱装置1の製造効率やメンテナンス性の向上を図ることができる。
【0040】
また、温度センサ8が、螺旋管部61のうち同一周方向位置P1やその近傍、また、入口管部62や出口管部63に配されていることで、電磁誘導によって螺旋管部61に二次誘導電流が流れても、温度センサ8の取り付け位置においては、いずれも電圧が0となる、あるいは、電圧が非常に低くなる。したがって、温度センサ8は電磁誘導の影響を殆ど受けることなく、加熱管6の温度を精度よく測定することができ、被加熱物質の加熱制御を高精度で行うことが可能となる。
【0041】
さらに、パージ機構22の排出管部24に圧力調整バルブ25が設けられていることにより、ケース2内部の圧力を、ケース2外部の圧力よりも大きく且つ耐圧値以下に設定することで、ケース2内部のパージガスや他のガスが常にケース2外部に排出されることになる。このため、危険性ガスや水分、塵埃等の異物が外部からケース2内部に侵入することを防止することができる。なお、危険性ガスとは、例えばプラント等の外部装置で取り扱うものであり、例えば水素等の可燃性ガス或いはガソリン等の可燃性液体の蒸気である。
また、パージガスをケース2の内部と外部との間で出入りさせることで、交流電流や二次誘導電流による一次コイル5や加熱管6の発熱に基づくケース2内の温度上昇を、抑制あるいは防止することができる。特に、一次コイル5に直接吹き付けることで、一次コイル5を効率よく冷却することができる。このため、一次コイル5に交流電流を流すことで一次コイル5が発熱しても、一次コイル5の温度上昇を抑制することができる。また、一次コイル5の温度上昇に伴う絶縁の劣化を防止することができる。
【0042】
さらに、パージ機構22の排出管部24に、ケース2内部の圧力を所定圧力に保持するための圧力調整バルブ25を設けることで、危険性ガスや水分、塵埃等の異物が外部からケース2内部に侵入することを防止しながら、ケース2の内圧が過剰に高くなることを防止できる。
また、加熱管6の温度が所定温度以上となったときに一次コイル5への交流電流の供給を停止することで、例えば、不意に加熱管6の温度が急激に上昇すると共に、このような温度上昇に伴ってケース2の内圧が急激に上昇し、仮に、この上昇を圧力調整バルブ25で抑えきれない場合があったとしても、前記交流電流を停止し、かつ圧力供給装置を停止(供給弁の閉止やブロワーの停止など)することで、ケース2の内圧が過剰に高くなることを確実に防止できる。
【0043】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、複数の支持体10は、螺旋管部61の周方向に等間隔で配列されることに限らず、不等間隔で配列されてもよい。また、支持体10は、複数備えることに限らず、例えば一つでもよい。
また、同一周方向位置P1に配された螺旋管部61の両端部64A,64B及び中途部64Cとベースプレート7との電気接続は、上記実施形態のように導線及び一の支持体10Aの両方に限らず、例えば一方のみでもよい。すなわち、一の支持体10Aは、例えば他の支持体10と同様に、同一周方向位置P1に配された螺旋管部61の両端部64A,64B及び中途部64Cやベースプレート7に対して電気的に絶縁されていてもよい。
【0044】
さらに、螺旋管部61の軸線L1方向に隣り合う螺旋管部61の一周部分同士は、その周方向にわたって密着することに限らず、例えば同一周方向位置P1においてのみ密着していてもよいし、互いに密着せずに間隔をあけて配されていてもよい。なお、隣り合う螺旋管部61の一周部分同士が少なくとも同一周方向位置P1においてのみ密着していれば、上記実施形態と同様に、同一周方向位置P1に配された螺旋管部61の各部64を溶接で接合することは可能である。
また、同一周方向位置P1に配された螺旋管部61の各部64は、溶接によって電気接続されるとしたが、例えば導線等の別途部材によって電気接続されてもよい。また、同一周方向位置P1に配された螺旋管部61の各部64は、互いに電気接続されていなくてもよく、少なくとも接地されていればよい。
【0045】
さらに、螺旋管部61の巻数は複数に限らず、少なくとも螺旋管部61の両端部64A,64Bが螺旋管部61の軸線L1方向に配列されていれば、例えば一つでもよい。この場合には、螺旋管部61の両端部64A,64B同士を溶接等により電気接続すればよい。
また、一次コイル5及び螺旋管部61は、上記実施形態のように同心円上に配されることに限らず、少なくとも一次コイル5に交流電流を供給することで電磁誘導により螺旋管部61に二次誘導電流が発生するように、相対的に配置されていればよい。
【0046】
さらに、パージ機構22の導入管部23は、ケース2内部に導入されるパージガスを一次コイル5に直接吹き付けるように形成されることに限らず、単にケース2内部に導入されるように形成されていてもよい。
また、パージ機構22の排出管部24には、圧力調整バルブ25が設けられていなくてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 電磁誘導加熱装置
2 ケース
22 パージ機構
23 導入管部
24 排出管部
25 圧力調整バルブ
4 鉄心
5 一次コイル
6 加熱管
61 螺旋管部
62 入口管部
63 出口管部
64 各部
64A,64B 端部(各部)
64C 中途部(各部)
L1 軸線
P1 同一周方向位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄心と、当該鉄心に対して螺旋状に巻回して形成された螺旋管部、並びに、当該螺旋管部の両端部に接続されて当該螺旋管部の径方向外側に延びる入口管部及び出口管部を有する導電性の加熱管と、前記鉄心に巻回されて交流電流を供給することで電磁誘導により前記螺旋管部に二次誘導電流を発生させる一次コイルとを備え、
前記螺旋管部の両端部が、当該螺旋管部の軸線方向に配列されるように同一周方向位置に配され、
当該同一周方向位置に配される前記螺旋管部の各部が接地されていることを特徴とする電磁誘導加熱装置。
【請求項2】
前記同一周方向位置に配された前記螺旋管部の各部が、互いに電気接続されていることを特徴とする請求項1に記載の電磁誘導加熱装置。
【請求項3】
前記螺旋管部が、密着状態で巻回して形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電磁誘導加熱装置。
【請求項4】
前記軸線方向に隣り合う前記螺旋管部の各部が、溶接によって互いに接合されていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の電磁誘導加熱装置。
【請求項5】
前記一次コイルに供給される前記交流電流の周波数が、10Hz以上400Hz以下であることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか1項に記載の電磁誘導加熱装置。
【請求項6】
前記二次誘導電流が、1000アンペア以上100000アンペア未満であり、
前記電磁誘導によって前記加熱管にかかる二次誘導電圧が、1V以上8V以下であることを特徴とする請求項1から請求項5の何れか1項に記載の電磁誘導加熱装置。
【請求項7】
内部に前記鉄心、前記加熱管及び前記一次コイルを収容するケースと、当該ケースの内部と外部との間でパージガスを出入りさせるパージ機構とを備え、
当該パージ機構が、ケース内部に導入される前記パージガスを前記一次コイルに直接吹き付けるように構成されていることを特徴とする請求項1から請求項6の何れか1項に記載の電磁誘導加熱装置。
【請求項8】
内部に前記鉄心、前記加熱管及び前記一次コイルを収容するケースと、当該ケースの内部と外部との間でパージガスを出入りさせるパージ機構と、前記パージガスを含む前記ケース内部のエアを外部に排出する前記パージ機構の排出管部に設けられて、前記ケース内部の圧力を所定圧力に保持するための圧力調整バルブと、前記加熱管の温度を測定する温度センサと、当該温度センサの測定結果が所定温度以上となった場合に、当該測定結果に基づいて前記一次コイルへの前記交流電流の供給を停止する電源制御部とを備えることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の電磁誘導加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−38651(P2012−38651A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179498(P2010−179498)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【出願人】(000176763)三菱化学エンジニアリング株式会社 (85)
【Fターム(参考)】