説明

電磁調理器用アルミニウム合金箔およびアルミニウム箔成形容器

【課題】電磁調理器による加熱調理が可能な電気比抵抗を有し、且つ成形性や耐食性に優れ、十分な強度を有する容器を提供できる電磁調理器用アルミニウム合金箔、及び該アルミニウム合金箔よりなるアルミニウム箔成形容器の提供。
【解決手段】本発明の電磁調理器用アルミニウム合金箔は、Fe:0.1質量%以上0.4質量%以下、Mn:1.0質量%以上1.6質量%以下、Mg:1.2質量%以上2.0質量%以下、Si:0質量%超0.3質量%以下、Cu:0.005質量%超0.1質量%以下を含有し、残部がAlと不可避不純物からなり、FeとMnとMgの含有量が質量%で、[Fe]+1.05[Mn]+0.25[Mg]≦2.1の関係式を満たすことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁調理器用アルミニウム合金箔およびアルミニウム箔成形容器に関する。
【背景技術】
【0002】
使い捨てのアルミニウム箔を用いた成形容器は、加工性の良さや高熱伝導性、及びその軽さから麺類や鍋物等の加熱食品用の容器として広く普及している。従来は該容器を加熱する際はガスコンロでの直火による加熱が一般的であった。しかし、最近は、火を使わず加熱ができる電磁調理器が急速に普及しており、電磁調理器で使用できるアルミニウム箔成形容器が要望されている。
電磁調理器は電磁誘導を利用した加熱装置である。容器に電磁誘導により発生した電流が流れると、容器の電気抵抗でジュール熱が発生し、この発熱により容器内部の食品を加熱調理するという仕組みである。
【0003】
従来の直火用のアルミニウム箔成形容器は電気抵抗が低く、電磁誘導によるジュール熱の発生量が小さいため、電磁調理器には不向きであった。アルミニウム箔成形容器の電気抵抗を上げる方法としては、容器として成形されるアルミニウム箔の厚さを薄くする方法があるが、アルミニウム箔の厚さを薄くすると容器としての強度が不足し、容器の変形等が起きてしまう問題がある。
そこで、Mgなどを添加してアルミニウム箔の電気抵抗を上げることにより、電磁調理器向けに改良されたアルミニウム箔成形容器が開示されている(特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3668710号公報
【特許文献2】特開2007−270351号公報
【特許文献3】特開2008−266749号公報
【特許文献4】特開2009−97077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術では、MgとCrを多量に添加することでアルミニウム箔容器の電気抵抗を上げている。また、特許文献2に記載の技術では、MnとMgとCrを添加することでアルミニウム箔成形容器の電気抵抗を上げている。しかし、本発明者らの知見によれば、Mgを多量に加えるとアルミニウム箔の強度が高くなり過ぎて成形が困難になるおそれがある。また、Crを添加することによりアルミニウム合金の再結晶温度が上昇し、最終焼鈍時に箔表面に変色が起きる可能性がある。
【0006】
特許文献3に記載の技術では、Mgを添加せずにMnとCrを添加することによりアルミニウム箔成形容器の電気抵抗を上げている。特許文献3では固溶限の小さいMnを出来るだけ過飽和に固溶させる為に、鋳造は急冷凝固で行っている。具体的には実施例では冷却速度500℃/秒の急冷凝固で鋳造を行っており、このような急冷凝固により箔の表面偏析や中心線偏析が発生してアルミニウム箔の成形性や耐食性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0007】
特許文献4に記載の技術では、MgとMnとCrを添加することでアルミニウム合金箔成形容器の電気抵抗を上げているが、SiとFeの含有量を0<Si≦0.1質量%、0<Fe≦0.2質量%という極めて低い値にする必要があり、SiおよびFeの含有量を前記範囲とするのはコスト面で不利である。また、特許文献4の実施例では冷却速度500℃/秒の急冷凝固で鋳造を行っており、上記特許文献3と同様に箔に偏析等が発生してアルミニウム箔の成形性や耐食性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、電磁調理器による加熱調理が可能な電気比抵抗を有し、且つ成形性や耐食性に優れ、十分な強度を有する容器を提供できる電磁調理器用アルミニウム合金箔、及び該アルミニウム合金箔よりなるアルミニウム箔成形容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の電磁調理器用アルミニウム合金箔は、Fe:0.1質量%以上0.4質量%以下、Mn:1.0質量%以上1.6質量%以下、Mg:1.2質量%以上2.0質量%以下、Si:0質量%超0.3質量%以下、Cu:0.005質量%超0.1質量%以下を含有し、残部がAlと不可避不純物からなり、FeとMnとMgの含有量が質量%で、[Fe]+1.05[Mn]+0.25[Mg]≦2.1の関係式を満たすことを特徴とする。
本発明の電磁調理器用アルミニウム合金箔は、厚みが65μm以上100μm以下であることが好ましい。
本発明のアルミニウム箔成形容器は、上記電磁調理器用アルミニウム合金箔よりなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る電磁調理器用アルミニウム合金箔は、Fe、Mn、Mg、Si及びCuを所定の含有量で含むとともに、FeとMnとMgの含有量が質量%で[Fe]+1.05[Mn]+0.25[Mg]≦2.1の関係式を満たすことにより、電磁調理器による加熱調理が可能な電気比抵抗を有し、且つ成形性や耐食性に優れ、該アルミニウム合金箔より成形される容器は十分な強度を有する。
また、本発明に係るアルミニウム合金箔は、その厚みを65μm以上100μm以下の範囲とすることにより、電磁調理器用のアルミニウム箔成形容器として必要な電気比抵抗及び強度をより向上させることができる。
本発明に係るアルミニウム箔成形容器は、上記した本発明の電磁調理器用アルミニウム合金箔より成形されているため、電磁調理器による加熱調理が可能な電気比抵抗を有し、且つ耐食性に優れ、容器として十分な強度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るアルミニウム箔成形容器の一例を示す概略斜視図である。
【図2】実施例における容器強度評価の手法を示す模式図である
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の具体的な実施形態について説明する。
本発明に係る電磁調理器用アルミニウム合金箔(以下、単に「アルミニウム合金箔」と略称する。)は、Fe:0.1質量%以上0.4質量%以下、Mn:1.0質量%以上1.6質量%以下、Mg:1.2質量%以上2.0質量%以下、Si:0質量%超0.3質量%以下、Cu:0.005質量%超0.1質量%以下を含有し、残部がAlと不可避不純物からなり、FeとMnとMgの含有量が質量%で、[Fe]+1.05[Mn]+0.25[Mg]≦2.1の関係式を満たすことを特徴とする。
【0013】
以下、これら元素の含有量を規定した理由について詳述する。
「Fe:0.1質量%以上0.4質量%以下」
Feはアルミニウム合金箔の電気比抵抗を上げ、アルミニウム箔成形容器に成形した場合、該容器の強度を上げることができる。しかし、Mgを1.2質量%以上含んでいる合金の場合、Mnの含有量との兼ね合いで(Mn,Fe)Al金属間化合物が粗大化してしまうおそれがある。そのため、Feの含有量が0.4質量%を超えると十分な電気比抵抗を付与するに必要な量のMnを添加出来なくなるおそれがある。また、Feの含有量が0.1質量%未満では、Feの電気比抵抗を上げる効果を十分に発揮する事が出来ず、アルミニウム箔成形容器の強度も低下する可能性がある。
【0014】
「Mn:1.0質量%以上1.6質量%以下」
Mnは電気比抵抗を増大させる(IH[Induction Heating:誘導加熱]特性を高める)効果がある。固溶限が小さく過剰な強度上昇が抑えられるが、Mgを含んだ合金ではFeの含有量との兼ね合いで(Mn,Fe)Al金属間化合物が粗大化し、プレス成形時の破壊の起点となる場合がある。Mnの含有量を1.0質量%以上1.6質量%以下とすることにより、電磁調理器用として十分な電気比抵抗が得られ、前記金属間化合物の粗大化を抑制できる。Mnの含有量が1.0質量%未満では十分な電気比抵抗が得られず、Mnの含有量が1.6質量%を超えると粗大な金属間化合物が晶出し、成形性が著しく悪化するおそれがある。
【0015】
「Mg:1.2質量%以上2.0質量%以下」
MgはMnと同様に電気比抵抗への寄与が大きいが、Mnに比べ固溶体硬化が大きい為、アルミニウム合金箔の強度を大きく上昇させる。Mgの含有量が2.0質量%を超えるとアルミニウム合金箔の強度が高すぎる為にプレス成形が困難となるおそれがある。また、Mgの含有量が1.2質量%未満では十分な電気比抵抗が得られないおそれがある。
【0016】
「Si:0質量%超0.3質量%以下」
Siはアルミニウム合金箔の電気比抵抗を上げ、アルミニウム箔成形容器に成形した場合、該容器の強度を上げる効果があるが、多量に添加すると他の元素と共に析出し、逆に電気比抵抗を下げてしまうと共に耐食性を低下させる性質もある。
Siの含有量が0質量%だと必要な容器強度と電気比抵抗が得難くなるおそれがあり、Siの含有量が0.3質量%を超えると電気比抵抗や耐食性が低下するおそれがある。Siの含有量は、好ましくは0.1<Si≦0.20質量%である。
【0017】
「Cu:0.005質量%超0.1質量%以下」
Cuは少量でも強度を高める効果がある一方で耐食性を低下させる。Cuの含有量が0.005質量%以下では必要な容器強度を得られないおそれがあり、Cuの含有量が0.1質量%を超えると耐食性が低下し、容器に食品を入れた際に腐食孔や変色が起きるおそれがある。Cuの含有量は、さらに好ましくは0.005<Cu≦0.05質量%である。
【0018】
「[Fe]+1.05[Mn]+0.25[Mg]≦2.1」
本発明のアルミニウム合金箔において、FeとMnとMgの含有量は質量%で、[Fe]+1.05[Mn]+0.25[Mg]≦2.1の関係式を満たすものとされる。
本式は本発明者らがこれまで様々な合金を鋳造してきた中で得られたものであり、FeとMnとMgの含有量が本式で2.05を超えた場合、(Mn,Fe)Al巨大金属間化合物が生成する可能性が極めて高くなることを見出した。巨大金属間化合物はプレス成形の際に割れやピンホールの起点となる為、巨大金属間化合物が生成した場合は成形性が極めて悪くなる。さらに、(Mn,Fe)Al巨大金属間化合物が生成するとアルミニウムマトリックス中のMnの固溶量が減り、電気比抵抗が低下してしまう。
本発明のアルミニウム合金箔は、FeとMnとMgの含有量が[Fe]+1.05[Mn]+0.25[Mg]≦2.1の関係式を満たすことにより、巨大金属間化合物の生成を抑止することができるので、良好な成形性と電気比抵抗を有する。
【0019】
本発明に係るアルミニウム合金箔は、不可避不純物としてCrを含有していてもよい。本発明のアルミニウム合金が不可避不純物としてCrを含有する場合、その含有量は0.02質量%以下とすることが好ましい。
Crは電気比抵抗を高める効果があるが、合金の再結晶温度を上昇させる効果もある。そのため、Crの含有量が多すぎると最終焼鈍の温度を上げる必要が出てくるため、この最終焼鈍温度上昇により箔表面の変色をもたらす恐れがある。また、Crの含有量が多すぎると液相線温度上昇による合金の鋳造性も悪化する為、Crの含有量を0.02質量%以下に制限した。本発明のアルミニウム合金箔がCrを含有する場合、Crの含有量の下限は特に定めないが、おおよそ0.001質量%程度である。
【0020】
本発明に係るアルミニウム合金箔の厚みは、65μm以上100μm以下の範囲とすることが好ましい。アルミニウム合金箔の厚みを前記範囲とすることにより、電磁調理器用のアルミニウム箔成形容器として必要な電気比抵抗が十分に得られ、且つアルミニウム箔成形容器として必要な強度が十分に得られる。アルミニウム箔合金の厚みが65μm未満では成形容器として必要な強度が得られないおそれがある。また、アルミニウム箔合金の厚みが100μmを超えると電磁調理器用のアルミニウム箔成形容器として必要な電気比抵抗が得られない。アルミニウム合金箔の厚みを前記範囲とすることにより、電磁調理器用箔として必要な電気比抵抗を容易に確保出来る為、あらゆる形状の容器に本発明のアルミニウム合金箔は適用出来る。
【0021】
次に、本発明のアルミニウム合金箔の製造方法の一例について説明する。
まず、前記した所定の組成範囲としたアルミニウム合金の鋳塊を、既知の半連続鋳造法や連続鋳造圧延法などの常法により溶製する。
ここで、鋳造の冷却速度は特に制限されないが、鋳造の冷却速度は大きい方が元素の固溶量が増加して電気比抵抗が上がるものの、表面偏析や中心線偏析が生じて製造されるアルミニウム合金箔の成形性や耐食性に悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、鋳造の冷却速度は30℃/秒以下とすることが好ましい。
また、半連続鋳造により得られる鋳塊は、必要に応じて均質化処理を行ってもよい。均質化処理は、例えば、500℃以上580℃以下、4時間以上7時間以下の条件で行うことができる。
【0022】
その後、熱間圧延によりアルミニウム合金板が得られ、連続鋳造圧延法によっては、そのままアルミ合金板を得ることができる。
次いで、必要に応じて中間焼鈍を行い、その後、冷間圧延、最終焼鈍を行うことにより所望の厚みのアルミニウム合金箔を得ることができる。
最終冷間圧延後のアルミニウム合金箔の厚さは特に限定されないが、前述の如く、65μm以上100μm以下の範囲の厚みとすることが好ましい。
以上の工程により、本発明のアルミニウム合金箔を製造することができる。
【0023】
本発明に係る電磁調理器用アルミニウム合金箔は、Fe、Mn、Mg、Si及びCuを所定の含有量で含むとともに、FeとMnとMgの含有量が質量%で[Fe]+1.05[Mn]+0.25[Mg]≦2.1の関係式を満たすことにより、電磁調理器による加熱調理が可能な電気比抵抗を有し、且つ成形性や耐食性に優れ、該アルミニウム合金箔より成形される容器は十分な強度を有する。
また、本発明に係るアルミニウム合金箔は、その厚みを65μm以上100μm以下の範囲とすることにより、電磁調理器用のアルミニウム箔成形容器として必要な電気比抵抗及び強度をより向上させることができる。
【0024】
次に、本発明に係るアルミニウム箔成形容器の一実施形態について説明する。
図1は本発明に係る電磁調理器用アルミニウム合金箔を成形して作製できるアルミニウム箔成形容器の一例構造を示す概略斜視図である。図1に示すアルミニウム箔成形容器10は、円形の底壁11とその周縁から立ち上がる周壁12と、周壁12の上端部から外周側へ延出されたフランジ部13とから概略構成されており、周壁12にはその立設方向に多数のしわ14が形成されている。係るアルミニウム箔成形容器10は底壁11形成後に絞り加工してしわ14を付与しながら周壁12を形成し、その後フランジ部13を形成し、その外周を縁巻き加工することで作製することができる。なお、本発明のアルミニウム箔成形容器は、この例に限定されず、周壁12にしわ14が形成されていなくてもよく、形状等も適宜変更可能である。
【0025】
本発明に係るアルミニウム箔成形容器は、上記した本発明の電磁調理器用アルミニウム合金箔より成形されているため、電磁調理器による加熱調理が可能な電気比抵抗を有し、且つ耐食性に優れ、容器として十分な強度を有する。
【0026】
以上、本発明に係る電磁調理器用アルミニウム合金箔およびアルミニウム箔成形容器の各実施形態について説明したが、前記したアルミニウム箔成形容器10を構成する各部は一例であって、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
「アルミニウム合金箔およびアルミニウム箔成形容器の作製」
(実施例1〜15、比較例1〜10)
表1に示す含有量で各元素を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金溶湯を、半連続鋳造により冷却速度11℃/秒で鋳造した。なお、実施例9においては冷却速度260℃/秒で鋳造した。
次に、温度560℃、保持時間4時間の均質化処理を行った後に鋳塊を面削して表面の不均一層を除去した。その後、熱間圧延にて厚さ6.4mmの板材とした。続いて厚さ0.6mmまで冷間圧延を実施し、温度360℃、3時間の中間焼鈍を行った。その後、冷間圧延で表1記載の厚みまで仕上げ、最後に温度350℃、7時間の最終焼鈍を行うことによりアルミニウム合金箔を作製した。
得られたアルミニウム合金箔をプレス成形することにより図1に示す形状のアルミニウム箔成形容器(底壁径:11.6cm、周壁高さ:5.6cm、フランジ部幅:1.4cm)を作製した。
【0029】
【表1】

【0030】
「評価」
各実施例および各比較例で作製したアルミニウム合金箔およびアルミニウム箔成形容器について、次のようにして、IH特性、成形性、容器強度および耐食性の評価を行った。結果を表2に示した。
【0031】
1.IH(Induction Heating)特性評価
電磁調理器用のアルミニウム合金箔として十分な電気比抵抗を有している指標としてIH特性評価を行った。IH特性の評価は、プレス成形後の図1に示す形状のアルミニウム箔成形容器(底壁径:11.6cm、周壁高さ:5.6cm、フランジ部幅:1.4cm)に350ccの水を入れ、電磁調理器により水温が24℃から90℃まで上昇する所要時間を測定することにより行った。所要時間が115秒以下であれば電磁調理器用のアルミニウム合金箔として十分な性能(電気比抵抗)を有していると判断しIH特性は「○」、所要時間が115秒を超え130秒以下であればIH特性は「△」、所要時間が130秒を超えた場合はIH特性は「×」と判定した。なお、試験は海抜500m地点で実施し、電磁調理器は日立製作所製HT−B6S(200V、3.0kW)を用いた。判定結果が△であっても電磁調理器用アルミニウム箔として実用上問題は無いが、判定結果が○であることが望ましい。
【0032】
2.成形性評価
アルミニウム合金箔1000枚をプレス成形してアルミニウム箔成形容器1000個を作製した。作製した成形容器について、容器底部や壁面部にピンホールや割れが発生した容器が無い場合は成形性「○」、1〜5個あった場合は成形性「△」、6個以上あった場合は成形性「×」と判定した。成形性の評価結果は○が望ましいが、評価結果が△以上であれば実用上問題の無い成形性を有している。
【0033】
3.容器強度評価
容器強度評価は、図2に模式的に示すような静的耐圧試験により行った。図2は容器強度評価の手法を示す模式図である。図2に示すように、アルミニウム箔成形容器の底面を上方にして逆さに水平台上に静置した。次に、この成形容器の底面上に当て板を載置し、荷重速度20m/secで当て板上方から荷重をかけて、水準n=5で最大荷重を測定した。最大荷重が280N以上で容器強度「○」、最大荷重が279N〜260Nで容器強度「△」、最大荷重が260未満で容器強度「×」と判定した。なお、判定結果が△以上で容器として実用上問題の無い強度を有している。
【0034】
4.耐食性評価
耐食性評価は塩水噴霧試験により行った。各実施例および各比較例のアルミニウム合金箔を5mm×100mmの大きさに裁断して試験片とした。この試験片をアセトンで洗浄した後、腐食液として5%NaCl水溶液を使用し、温度35℃、湿度95%の条件下で連続塩水噴霧を行った。塩水噴霧試験は18日間実施し、塩水噴霧試験後の試験片の変色や腐食孔の発生の有無を観察した。試験片に変化が見られなければ耐食性「○」、試験片に変化が見られた場合は耐食性「×」と判定した。
【0035】
【表2】

【0036】
表2に示すように、実施例1〜15のアルミニウム合金箔は、いずれも成形性および耐食性に優れ、且つIH特性も良好であり、電磁調理器による加熱調理が可能な電気比抵抗を有していた。また、実施例1〜15のアルミニウム箔成形容器は、いずれも容器として十分な強度を有していた。
【0037】
これに対し、FeとMnとMgの含有量が本発明の所定の関係式を満たさない比較例1、2、6、7のアルミニウム合金箔は、成形性や耐食性が低くなっていた。また、Mgの含有量が本発明の所定範囲よりも多い比較例3のアルミニウム合金箔は、成形性が低くなっていた。
SiまたはCuの含有量が本発明の所定範囲よりも多い比較例4、5のアルミニウム合金箔は、耐食性が低くなっていた。また、Fe、MnまたはMgの含有量が本発明の所定範囲よりも低い比較例8、9のアルミニウム合金箔は、IH特性や容器強度が低くなっていた。さらに、Cuの含有量が本発明の所定範囲よりも少ない比較例10のアルミニウム合金箔は、容器強度が低くなっていた。
【符号の説明】
【0038】
10…アルミニウム箔成形容器、11…底壁、12…周壁、13…フランジ部、14…しわ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe:0.1質量%以上0.4質量%以下、Mn:1.0質量%以上1.6質量%以下、Mg:1.2質量%以上2.0質量%以下、Si:0質量%超0.3質量%以下、Cu:0.005質量%超0.1質量%以下を含有し、残部がAlと不可避不純物からなり、FeとMnとMgの含有量が質量%で、[Fe]+1.05[Mn]+0.25[Mg]≦2.1の関係式を満たすことを特徴とする電磁調理器用アルミニウム合金箔。
【請求項2】
厚みが65μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電磁調理器用アルミニウム合金箔。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電磁調理器用アルミニウム合金箔よりなるアルミニウム箔成形容器。

【図1】
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【図2】
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