電磁超音波探触子
【課題】電磁超音波探触子のノイズ低減
【解決手段】本発明に係る電磁超音波探触子1は、静磁界を形成する磁力発生手段2と、磁力発生手段2および被検体4の間に配置されたコイル3とを有し、コイル3に高周波電流を流すことにより被検体4内に渦電流を励起させて超音波の送受信を行うものであり、磁力発生手段2とコイル3との間にスペーサ7が配置されている。スペーサ7としては、例えば、厚さ10μm以上の導電性材料または厚さ500μm以上の絶縁性材料を用いることができる。
【解決手段】本発明に係る電磁超音波探触子1は、静磁界を形成する磁力発生手段2と、磁力発生手段2および被検体4の間に配置されたコイル3とを有し、コイル3に高周波電流を流すことにより被検体4内に渦電流を励起させて超音波の送受信を行うものであり、磁力発生手段2とコイル3との間にスペーサ7が配置されている。スペーサ7としては、例えば、厚さ10μm以上の導電性材料または厚さ500μm以上の絶縁性材料を用いることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローレンツ力または磁歪により被検体内に電磁超音波を発生させ、被検体の非破壊検査に用いることができる電磁超音波探触子(EMAT:Electromagnetic Acoustic Transducer)に係り、特に、被検体内に超音波共鳴を発生させ、その共鳴スペクトルから金属材料を評価する非破壊検査法(EMAR:Electromagnetic Acoustic Resonance)に用いるのに適した電磁超音波探触子に関する。
【背景技術】
【0002】
非破壊検査方法に関しては、従来、X線を用いた方法、磁気を用いた方法、超音波を用いた方法など、様々な技術が研究されているが、超音波を用いる方法は、肉厚測定、応力測定、ボルト等の軸力測定、結晶粒径測定、疲労・クリープ損傷評価など様々な材料の非破壊検査方法として実用化されてきている。超音波を用いた非破壊検査方法としては、これまで、圧電振動子型超音波探触子を用いたものが一般的であったが、材料表面の研磨等の前処理が必要である。そこで、前処理を要さない非破壊検査方法として、電磁超音波探触子を用いた電磁超音波法の実用化に関心が高まっている。
【0003】
例えば、非特許文献1に記載されているように、電磁超音波探触子としては、超音波の駆動にローレンツ力を用いるローレンツ力型と、強磁性体内の磁区構造の変化を利用する磁歪型があることが知られている。ローレンツ型電磁超音波探触子では、被検体に磁場が負荷された状態で、被検体の表面付近に存在するコイルに高周波電流を流すことにより被検体中に渦電流を生じさせ、その渦電流および磁場によりローレンツ力を発生させ、ローレンツ力の向きを周期的に反転させることによって超音波を発生させるものである。
【0004】
一方、磁歪型電磁超音波探触子においても、被検体が強磁性体であることを除き、ローレンツ型と同様である。即ち、強磁性体に磁場を負荷するとともに、コイル内に高周波電流を流すことで磁区の整列や磁気スピンの回転が起き、この磁歪効果により被検体内に伸び縮みが生じ、これが超音波振動の起点となる。
【0005】
その磁場の向き、形状、個数、磁場とコイルとの位置関係等の条件を替えることにより、横波(被検体表面に垂直な方向に進行し、水平な方向に振動する波。以下同じ。)の超音波を発生させることもできるし、横波および縦波(被検体表面に垂直な方向に進行、振動する波。以下同じ。)超音波を発生させることもできる。また、SH波(被検体表面に水平な方向に進行、振動する波)を発生させることもできる。
【0006】
従来の電磁超音波探触子として、特許文献1には、電磁石を用い、発生する磁界の方向が交互に反転するように前記単位電磁石を複数個配列し、磁界の強さを自在に調整できる構成とした電磁超音波探触子が開示されている。特許文献2には、複数の永久磁石を、その磁極の向きがコイルと平行でかつ全て同一方向になるように並べた電磁超音波探触子が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2006−250911号公報
【特許文献2】特開2003−274488号公報
【非特許文献1】荻博次ほか、電磁超音波共鳴、非破壊検査第43巻12号、平成6年12月、社団法人日本非破壊検査協会発行、764〜770頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図2は、電磁超音波探触子の例を示す模式図であり、図3は、電磁超音波探触子を用いた電磁超音波法における測定原理を示す模式図である。図3(a)は、コイルに電流を流す前の状態を示し、図3(b)および(c)は、互いに逆方向に電流を流した状態を示す。図2に示すように、電磁超音波探触子1は、磁極を相互に反転させた複数個の磁石(磁力発生手段)2とコイル3とを有する探触子である。
【0009】
図3に示すように、被検体4に磁石2からの磁場が負荷された状態で(図3(a)参照)、被検体4の表面付近に存在するコイル3に高周波電流を流すことにより被検体4中に渦電流5を生じさせると、その渦電流5および磁場によりローレンツ力6が発生する(図3(b)および(c)参照)。コイルに流れる電流の向きが反転すると、ローレンツ力6の向きも反転し、その結果、被検体4中には超音波が発生する。このローレンツ力6は、超音波の進行方向に対して垂直方向に発生するから、被検体4中に発生する超音波は、横波超音波である。
【0010】
電磁超音波探触子は、圧電振動子型超音波探触子と比較して検出感度が低いため、ノイズの低減が重要な課題となっている。また、EMARは、共鳴スペクトルから評価するものであるから、反射法に比べると検出精度が高い方法であると言える。しかしながら、被検体に超音波を発生させると、電磁超音波探触子を構成する磁石内に超音波が発生し、自己共振を生じさせる。自己共振は、ノイズとなって受信され、信号解析の障害となる場合がある。
【0011】
従って、本発明は、磁力発生手段内の自己共振を低減することにより、ノイズを低減した電磁超音波探触子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、「静磁界を形成する磁力発生手段と、コイルとを有し、コイルに高周波電流を流し、被検体内に電磁力を発生させることにより超音波の送受信を行う電磁超音波探触子であって、磁力発生手段とコイルとの間にスペーサが配置されていることを特徴とする電磁超音波探触子。」を要旨とする。
【0013】
上記のスペーサとしては、厚さ10μm以上の導電性材料を有するものを用いることができる。また、厚さ500μm以上の絶縁性材料を有するものを用いることもできる。スペーサとして導電性材料および絶縁性材料の両方を重ねて用いることができるが、この場合、導電性材料の厚さは2μm以上、絶縁性材料の厚さは100μm以上とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電磁超音波探触子を構成する磁力発生手段内の自己共振を低減することができるので、電磁超音波探触子のノイズを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る電磁超音波探触子にはローレンツ型および磁歪型の両方が含まれる。ただし、前述のように、電磁超音波探触子にはローレンツ型と磁歪型とがあるが、これらは超音波の発生原理に違いがあるものの、磁力発生手段とコイルとを有し、磁力発生手段における自己振動によりノイズが発生する点については共通しているので、以下の説明においては、主としてローレンツ型電磁超音波探触子について述べる。
【0016】
図1は、本発明に係る電磁超音波探触子を示す模式図である。図1に示すように、本発明に係る電磁超音波探触子1は、静磁界を形成する磁力発生手段2と、磁力発生手段2および被検体4の間に配置されたコイル3とを有し、コイル3に高周波電流を流すことにより被検体4内に渦電流を励起させて超音波の送受信を行うものである。
【0017】
このように、ローレンツ型電磁超音波探触子においては、磁力発生手段により発生させた静磁場と渦電流とによりローレンツ力が生じ、このローレンツ力は、渦電流の高周波振動に従って周期的に変動するため超音波に変換される(超音波の送信)。なお、図示は省略するが、磁歪型電磁超音波探触子においては、強磁性体である被検体に磁場が負荷され、コイル内に高周波電流を流すことで、被検体内に磁歪を生じさせて超音波振動を発生させる。一方、電磁誘導の法則により被検体表面の超音波振動および静磁場により、センサコイルには起電力が誘起され、超音波受信信号として観測される(超音波の受信)。
【0018】
磁力発生手段は、永久磁石でもよいし、電磁石でもよいが、省スペース化ができる永久磁石の方が望ましい。また、永久磁石としては、単位体積あたりの磁力が強いものが望ましく、ネオジウム−鉄−ボロン系焼結磁石、鉄−ニッケル−コバルト系磁石等を用いることができる。コイルとしては、Cuなどの導電線を巻いたコイルの他、エッチングなどにより基板表面に導電体を形成させたプリントコイルを用いることができる。図1には、送受信を同じコイルで行う構成の電磁超音波探触子の例を示しているが、送信および受信をそれぞれ別のコイルで行う構成の電磁超音波探触子であってもよい。
【0019】
なお、図1および2には、被検体4内に横波の超音波を発生させることができる電磁超音波探触子の構成を示しているが、電磁超音波探触子の構成はこのようなものには限定されない。即ち、磁力発生手段の磁場の向き、個数、形状など、更にはコイルの形状などの諸条件を調整することにより、被検体内に縦波やSH波を発生させることができる。
【0020】
ここで、本発明の電磁超音波探触子1には、磁力発生手段2とコイル3との間にスペーサ7が配置されている。このように、スペーサを挿入することにより、電磁超音波探触子を構成する磁力発生手段内の自己共振を低減することができ、従って、電磁超音波探触子のノイズを低減することができる。
【0021】
スペーサの材質は、導電性材料でもよいし、絶縁性材料でもよい。但し、導電性材料の方が超音波に対するシールド性能が高いため、厚さを薄くできるというメリットがある。ここで、導電性材料としては、例えば、Cu、Zn、Pd、Ag、Au、Pt、W、Niその他の金属材料、これらの合金などを用いることができる。特にノイズ低減効果が大きいのはCuである。また、絶縁性材料としては、各種プラスチックフィルム、樹脂系フィルム、シリコンゴム等を用いることができる。この中で、シリコンゴムは、磁石とコイルとの接触の緩衝材としての効果を有するので特に望ましい。また、スペーサは、これらの材料のいずれか一方のみから構成されているものだけでなく、双方の材料から構成されているものでも良い。
【0022】
導電性材料のスペーサを用いる場合、その厚さが10μm以上の場合に、上記のノイズ低減効果が顕著となる。導電性材料のスペーサを用いる場合の厚さの上限は、特に定めないが、厚さを増加させてもコストを上昇させるだけなので、100μm以下とするのが望ましい。絶縁性材料のスペーサを用いる場合、その厚さが500μm以上の場合に、上記のノイズ低減効果が顕著となる。この場合の上限も特に定めないが、2000μm以下とするのが望ましい。
【0023】
導電性材料および絶縁性材料の両方を重ねて構成したスペーサの場合は、導電性材料によるノイズ低減効果によって、絶縁性材料単体のスペーサに比べて、全体的な厚さを小さくすることができ、軽量化、省スペース化のメリットがある。このノイズ低減効果は、導電性材料の厚さは2μm以上で、かつ絶縁性材料の厚さは100μm以上の場合に顕著となる。ただし、前述のように、厚さ10μm以上の導電性材料のスペーサを用いる場合には、それ単体でも十分なノイズ低減効果を有するため、これとの組み合わせで用いる絶縁性材料の厚さは100μm未満としてもよい。同様の理由から、厚さ500μm以上の絶縁性材料との組み合わせで用いる導電性材料の厚さは2μm未満としてもよい。
【0024】
なお、スペーサの厚さは、あまりに大きくしても、ローレンツ力を微弱化して、検出される共鳴周波数の強度を下げるとともに、探触子の重さを増大させるだけである。従って、スペーサの厚さ(導電性材料および絶縁性材料の両方を重ねて用いたスペーサの場合は、総厚さ)は、2000μm以下とするのが望ましい。
【実施例】
【0025】
本発明の効果を確認するべく、RITEC社製のRAM−10000を用い、測定周波数1〜5MHz、電圧1kV、測定点数4000点(1kHzピッチ)の条件でコイルに電流を流し、厚さ6mmの炭素鋼内に超音波を発生させ、その共鳴スペクトルを検出し、共鳴周波数およびノイズを評価する実験を行った。なお、実験は、スペーサ以外は同じ条件の各種の超音波探触子を用いて行った。
【0026】
図4〜12は、同じ被検体について各種の超音波探触子を用いて検出した共鳴スペクトルを示す図であり、図4は、スペーサなしの例であり、図5〜7は、厚さ2〜50μmのCu箔製のスペーサを挿入した例であり、図8は、厚さ50μmのZn箔製のスペーサを挿入した例である。図9は、厚さ50μmのPd箔製のスペーサを挿入した例である。また、図10は、厚さ100μmのOHPフィルム(ポリエチレンテレフタレート製フィルム)をスペーサとして挿入した例である。図11は、厚さ500μmシリコンゴム製のスペーサを挿入した例であり、図12は、厚さ1000μmシリコンゴム製のスペーサを挿入した例である。
【0027】
なお、いずれの図においても、Sは共鳴スペクトルであり、Nはノイズであり、S/N比(dB)は、下記式から算出される値である。S/N比は、共鳴周波数に対するノイズの値であり、この値が大きいとノイズが小さいことを意味する。本実施例においては、S/N比4.0dB以上をノイズが良好な範囲とする。
(S/N比)=20log10(S/N)
但し、Sは、本来検出すべき信号(周波数:1.32MHz)の強度、Nは、ノイズ(周波数:1.44MHz)の強度をそれぞれ意味する。
【0028】
図4に示すように、スペーサがない場合、周期的に観察される共鳴周波数と、同程度の強度のノイズが生じ、S/N比も2.2dBと小さいため、ノイズを共鳴周波数と誤って検出する可能性が高い。これに対し、例えば、図5に示すように、厚さ2μmのCu箔を挿入した場合にはノイズをS/N比で4.0dBまで下げることができる。また、図6および7に示すように、Cu箔が厚いほど、ノイズは低減し、例えば、厚さ10μmではS/N比が8.1dBと非常に良好となる。
【0029】
このようなノイズ低減効果は、Cu箔に限られることはなく、その他の導電性材料のスペーサでも得られる。このことは、例えば、図8および9にも示されている。即ち、図8および9には、Zn箔およびPd箔のスペーサの例においても、S/N比が8dB以上の良好なノイズ低減効果が得られることが示されている。
【0030】
一方、図10〜12に示すように、絶縁性材料製のスペーサを挿入した場合にも、ノイズを低減することができる。但し、厚さ100μmでは、スペーサが挿入されていない図4の例と比較すると、ノイズが低減されているが、S/N比は2.7dBであり、検出される共鳴スペクトルの強度によっては、不十分となる場合がある。従って、例えば、図11および12に示すように、絶縁性材料製のスペーサを挿入する場合には、その厚さを500μm以上とするのが望ましいことが分かる。
なお、図示はしないが、スペーサとしてAg箔、Au箔、Pt箔、W箔およびNi箔(いずれも、厚さ50μm)を用いた例のS/N比は、それぞれ13.7dB、12.4dB、12.9dB、11.8dBおよび14.1dBであり、いずれも良好な範囲であった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、電磁超音波探触子を構成する磁力発生手段内の自己共振を低減することができるので、電磁超音波探触子のノイズを低減することができる。従って、この電磁超音波探触子を用いれば、従来よりも高い精度で、電磁超音波を用いた評価をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る電磁超音波探触子を示す模式図。
【図2】電磁超音波探触子の例を示す模式図。
【図3】電磁超音波探触子を用いた電磁超音波法における測定原理を示す模式図。(a)は、コイルに電流を流す前の状態を示し、(b)および(c)は、それぞれ逆方向に電流を流した状態を示す。
【図4】スペーサなしの電磁超音波探触子を用いて検出した共鳴スペクトルの図。
【図5】2μmの銅箔製スペーサを用いた電磁超音波探触子を用いて検出した共鳴スペクトルの図。
【図6】10μmの銅箔製スペーサを用いた電磁超音波探触子を用いて検出した共鳴スペクトルの図。
【図7】50μmの銅箔製スペーサを用いた電磁超音波探触子を用いて検出した共鳴スペクトルの図。
【図8】50μmのZn箔製スペーサを用いた電磁超音波探触子を用いて検出した共鳴スペクトルの図。
【図9】50μmのPd箔製スペーサを用いた電磁超音波探触子を用いて検出した共鳴スペクトルの図。
【図10】100μmのOHPシート製スペーサを用いた電磁超音波探触子を用いて検出した共鳴スペクトルの図。
【図11】500μmのシリコンゴム製スペーサを用いた電磁超音波探触子を用いて検出した共鳴スペクトルの図。
【図12】1000μmのシリコンゴム製スペーサを用いた電磁超音波探触子を用いて検出した共鳴スペクトルの図。
【符号の説明】
【0033】
1:電磁超音波探触子
2:磁力発生手段(磁石)
3:コイル
4:被検体
5:渦電流
6:ローレンツ力
7:スペーサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローレンツ力または磁歪により被検体内に電磁超音波を発生させ、被検体の非破壊検査に用いることができる電磁超音波探触子(EMAT:Electromagnetic Acoustic Transducer)に係り、特に、被検体内に超音波共鳴を発生させ、その共鳴スペクトルから金属材料を評価する非破壊検査法(EMAR:Electromagnetic Acoustic Resonance)に用いるのに適した電磁超音波探触子に関する。
【背景技術】
【0002】
非破壊検査方法に関しては、従来、X線を用いた方法、磁気を用いた方法、超音波を用いた方法など、様々な技術が研究されているが、超音波を用いる方法は、肉厚測定、応力測定、ボルト等の軸力測定、結晶粒径測定、疲労・クリープ損傷評価など様々な材料の非破壊検査方法として実用化されてきている。超音波を用いた非破壊検査方法としては、これまで、圧電振動子型超音波探触子を用いたものが一般的であったが、材料表面の研磨等の前処理が必要である。そこで、前処理を要さない非破壊検査方法として、電磁超音波探触子を用いた電磁超音波法の実用化に関心が高まっている。
【0003】
例えば、非特許文献1に記載されているように、電磁超音波探触子としては、超音波の駆動にローレンツ力を用いるローレンツ力型と、強磁性体内の磁区構造の変化を利用する磁歪型があることが知られている。ローレンツ型電磁超音波探触子では、被検体に磁場が負荷された状態で、被検体の表面付近に存在するコイルに高周波電流を流すことにより被検体中に渦電流を生じさせ、その渦電流および磁場によりローレンツ力を発生させ、ローレンツ力の向きを周期的に反転させることによって超音波を発生させるものである。
【0004】
一方、磁歪型電磁超音波探触子においても、被検体が強磁性体であることを除き、ローレンツ型と同様である。即ち、強磁性体に磁場を負荷するとともに、コイル内に高周波電流を流すことで磁区の整列や磁気スピンの回転が起き、この磁歪効果により被検体内に伸び縮みが生じ、これが超音波振動の起点となる。
【0005】
その磁場の向き、形状、個数、磁場とコイルとの位置関係等の条件を替えることにより、横波(被検体表面に垂直な方向に進行し、水平な方向に振動する波。以下同じ。)の超音波を発生させることもできるし、横波および縦波(被検体表面に垂直な方向に進行、振動する波。以下同じ。)超音波を発生させることもできる。また、SH波(被検体表面に水平な方向に進行、振動する波)を発生させることもできる。
【0006】
従来の電磁超音波探触子として、特許文献1には、電磁石を用い、発生する磁界の方向が交互に反転するように前記単位電磁石を複数個配列し、磁界の強さを自在に調整できる構成とした電磁超音波探触子が開示されている。特許文献2には、複数の永久磁石を、その磁極の向きがコイルと平行でかつ全て同一方向になるように並べた電磁超音波探触子が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2006−250911号公報
【特許文献2】特開2003−274488号公報
【非特許文献1】荻博次ほか、電磁超音波共鳴、非破壊検査第43巻12号、平成6年12月、社団法人日本非破壊検査協会発行、764〜770頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図2は、電磁超音波探触子の例を示す模式図であり、図3は、電磁超音波探触子を用いた電磁超音波法における測定原理を示す模式図である。図3(a)は、コイルに電流を流す前の状態を示し、図3(b)および(c)は、互いに逆方向に電流を流した状態を示す。図2に示すように、電磁超音波探触子1は、磁極を相互に反転させた複数個の磁石(磁力発生手段)2とコイル3とを有する探触子である。
【0009】
図3に示すように、被検体4に磁石2からの磁場が負荷された状態で(図3(a)参照)、被検体4の表面付近に存在するコイル3に高周波電流を流すことにより被検体4中に渦電流5を生じさせると、その渦電流5および磁場によりローレンツ力6が発生する(図3(b)および(c)参照)。コイルに流れる電流の向きが反転すると、ローレンツ力6の向きも反転し、その結果、被検体4中には超音波が発生する。このローレンツ力6は、超音波の進行方向に対して垂直方向に発生するから、被検体4中に発生する超音波は、横波超音波である。
【0010】
電磁超音波探触子は、圧電振動子型超音波探触子と比較して検出感度が低いため、ノイズの低減が重要な課題となっている。また、EMARは、共鳴スペクトルから評価するものであるから、反射法に比べると検出精度が高い方法であると言える。しかしながら、被検体に超音波を発生させると、電磁超音波探触子を構成する磁石内に超音波が発生し、自己共振を生じさせる。自己共振は、ノイズとなって受信され、信号解析の障害となる場合がある。
【0011】
従って、本発明は、磁力発生手段内の自己共振を低減することにより、ノイズを低減した電磁超音波探触子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、「静磁界を形成する磁力発生手段と、コイルとを有し、コイルに高周波電流を流し、被検体内に電磁力を発生させることにより超音波の送受信を行う電磁超音波探触子であって、磁力発生手段とコイルとの間にスペーサが配置されていることを特徴とする電磁超音波探触子。」を要旨とする。
【0013】
上記のスペーサとしては、厚さ10μm以上の導電性材料を有するものを用いることができる。また、厚さ500μm以上の絶縁性材料を有するものを用いることもできる。スペーサとして導電性材料および絶縁性材料の両方を重ねて用いることができるが、この場合、導電性材料の厚さは2μm以上、絶縁性材料の厚さは100μm以上とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電磁超音波探触子を構成する磁力発生手段内の自己共振を低減することができるので、電磁超音波探触子のノイズを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る電磁超音波探触子にはローレンツ型および磁歪型の両方が含まれる。ただし、前述のように、電磁超音波探触子にはローレンツ型と磁歪型とがあるが、これらは超音波の発生原理に違いがあるものの、磁力発生手段とコイルとを有し、磁力発生手段における自己振動によりノイズが発生する点については共通しているので、以下の説明においては、主としてローレンツ型電磁超音波探触子について述べる。
【0016】
図1は、本発明に係る電磁超音波探触子を示す模式図である。図1に示すように、本発明に係る電磁超音波探触子1は、静磁界を形成する磁力発生手段2と、磁力発生手段2および被検体4の間に配置されたコイル3とを有し、コイル3に高周波電流を流すことにより被検体4内に渦電流を励起させて超音波の送受信を行うものである。
【0017】
このように、ローレンツ型電磁超音波探触子においては、磁力発生手段により発生させた静磁場と渦電流とによりローレンツ力が生じ、このローレンツ力は、渦電流の高周波振動に従って周期的に変動するため超音波に変換される(超音波の送信)。なお、図示は省略するが、磁歪型電磁超音波探触子においては、強磁性体である被検体に磁場が負荷され、コイル内に高周波電流を流すことで、被検体内に磁歪を生じさせて超音波振動を発生させる。一方、電磁誘導の法則により被検体表面の超音波振動および静磁場により、センサコイルには起電力が誘起され、超音波受信信号として観測される(超音波の受信)。
【0018】
磁力発生手段は、永久磁石でもよいし、電磁石でもよいが、省スペース化ができる永久磁石の方が望ましい。また、永久磁石としては、単位体積あたりの磁力が強いものが望ましく、ネオジウム−鉄−ボロン系焼結磁石、鉄−ニッケル−コバルト系磁石等を用いることができる。コイルとしては、Cuなどの導電線を巻いたコイルの他、エッチングなどにより基板表面に導電体を形成させたプリントコイルを用いることができる。図1には、送受信を同じコイルで行う構成の電磁超音波探触子の例を示しているが、送信および受信をそれぞれ別のコイルで行う構成の電磁超音波探触子であってもよい。
【0019】
なお、図1および2には、被検体4内に横波の超音波を発生させることができる電磁超音波探触子の構成を示しているが、電磁超音波探触子の構成はこのようなものには限定されない。即ち、磁力発生手段の磁場の向き、個数、形状など、更にはコイルの形状などの諸条件を調整することにより、被検体内に縦波やSH波を発生させることができる。
【0020】
ここで、本発明の電磁超音波探触子1には、磁力発生手段2とコイル3との間にスペーサ7が配置されている。このように、スペーサを挿入することにより、電磁超音波探触子を構成する磁力発生手段内の自己共振を低減することができ、従って、電磁超音波探触子のノイズを低減することができる。
【0021】
スペーサの材質は、導電性材料でもよいし、絶縁性材料でもよい。但し、導電性材料の方が超音波に対するシールド性能が高いため、厚さを薄くできるというメリットがある。ここで、導電性材料としては、例えば、Cu、Zn、Pd、Ag、Au、Pt、W、Niその他の金属材料、これらの合金などを用いることができる。特にノイズ低減効果が大きいのはCuである。また、絶縁性材料としては、各種プラスチックフィルム、樹脂系フィルム、シリコンゴム等を用いることができる。この中で、シリコンゴムは、磁石とコイルとの接触の緩衝材としての効果を有するので特に望ましい。また、スペーサは、これらの材料のいずれか一方のみから構成されているものだけでなく、双方の材料から構成されているものでも良い。
【0022】
導電性材料のスペーサを用いる場合、その厚さが10μm以上の場合に、上記のノイズ低減効果が顕著となる。導電性材料のスペーサを用いる場合の厚さの上限は、特に定めないが、厚さを増加させてもコストを上昇させるだけなので、100μm以下とするのが望ましい。絶縁性材料のスペーサを用いる場合、その厚さが500μm以上の場合に、上記のノイズ低減効果が顕著となる。この場合の上限も特に定めないが、2000μm以下とするのが望ましい。
【0023】
導電性材料および絶縁性材料の両方を重ねて構成したスペーサの場合は、導電性材料によるノイズ低減効果によって、絶縁性材料単体のスペーサに比べて、全体的な厚さを小さくすることができ、軽量化、省スペース化のメリットがある。このノイズ低減効果は、導電性材料の厚さは2μm以上で、かつ絶縁性材料の厚さは100μm以上の場合に顕著となる。ただし、前述のように、厚さ10μm以上の導電性材料のスペーサを用いる場合には、それ単体でも十分なノイズ低減効果を有するため、これとの組み合わせで用いる絶縁性材料の厚さは100μm未満としてもよい。同様の理由から、厚さ500μm以上の絶縁性材料との組み合わせで用いる導電性材料の厚さは2μm未満としてもよい。
【0024】
なお、スペーサの厚さは、あまりに大きくしても、ローレンツ力を微弱化して、検出される共鳴周波数の強度を下げるとともに、探触子の重さを増大させるだけである。従って、スペーサの厚さ(導電性材料および絶縁性材料の両方を重ねて用いたスペーサの場合は、総厚さ)は、2000μm以下とするのが望ましい。
【実施例】
【0025】
本発明の効果を確認するべく、RITEC社製のRAM−10000を用い、測定周波数1〜5MHz、電圧1kV、測定点数4000点(1kHzピッチ)の条件でコイルに電流を流し、厚さ6mmの炭素鋼内に超音波を発生させ、その共鳴スペクトルを検出し、共鳴周波数およびノイズを評価する実験を行った。なお、実験は、スペーサ以外は同じ条件の各種の超音波探触子を用いて行った。
【0026】
図4〜12は、同じ被検体について各種の超音波探触子を用いて検出した共鳴スペクトルを示す図であり、図4は、スペーサなしの例であり、図5〜7は、厚さ2〜50μmのCu箔製のスペーサを挿入した例であり、図8は、厚さ50μmのZn箔製のスペーサを挿入した例である。図9は、厚さ50μmのPd箔製のスペーサを挿入した例である。また、図10は、厚さ100μmのOHPフィルム(ポリエチレンテレフタレート製フィルム)をスペーサとして挿入した例である。図11は、厚さ500μmシリコンゴム製のスペーサを挿入した例であり、図12は、厚さ1000μmシリコンゴム製のスペーサを挿入した例である。
【0027】
なお、いずれの図においても、Sは共鳴スペクトルであり、Nはノイズであり、S/N比(dB)は、下記式から算出される値である。S/N比は、共鳴周波数に対するノイズの値であり、この値が大きいとノイズが小さいことを意味する。本実施例においては、S/N比4.0dB以上をノイズが良好な範囲とする。
(S/N比)=20log10(S/N)
但し、Sは、本来検出すべき信号(周波数:1.32MHz)の強度、Nは、ノイズ(周波数:1.44MHz)の強度をそれぞれ意味する。
【0028】
図4に示すように、スペーサがない場合、周期的に観察される共鳴周波数と、同程度の強度のノイズが生じ、S/N比も2.2dBと小さいため、ノイズを共鳴周波数と誤って検出する可能性が高い。これに対し、例えば、図5に示すように、厚さ2μmのCu箔を挿入した場合にはノイズをS/N比で4.0dBまで下げることができる。また、図6および7に示すように、Cu箔が厚いほど、ノイズは低減し、例えば、厚さ10μmではS/N比が8.1dBと非常に良好となる。
【0029】
このようなノイズ低減効果は、Cu箔に限られることはなく、その他の導電性材料のスペーサでも得られる。このことは、例えば、図8および9にも示されている。即ち、図8および9には、Zn箔およびPd箔のスペーサの例においても、S/N比が8dB以上の良好なノイズ低減効果が得られることが示されている。
【0030】
一方、図10〜12に示すように、絶縁性材料製のスペーサを挿入した場合にも、ノイズを低減することができる。但し、厚さ100μmでは、スペーサが挿入されていない図4の例と比較すると、ノイズが低減されているが、S/N比は2.7dBであり、検出される共鳴スペクトルの強度によっては、不十分となる場合がある。従って、例えば、図11および12に示すように、絶縁性材料製のスペーサを挿入する場合には、その厚さを500μm以上とするのが望ましいことが分かる。
なお、図示はしないが、スペーサとしてAg箔、Au箔、Pt箔、W箔およびNi箔(いずれも、厚さ50μm)を用いた例のS/N比は、それぞれ13.7dB、12.4dB、12.9dB、11.8dBおよび14.1dBであり、いずれも良好な範囲であった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、電磁超音波探触子を構成する磁力発生手段内の自己共振を低減することができるので、電磁超音波探触子のノイズを低減することができる。従って、この電磁超音波探触子を用いれば、従来よりも高い精度で、電磁超音波を用いた評価をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る電磁超音波探触子を示す模式図。
【図2】電磁超音波探触子の例を示す模式図。
【図3】電磁超音波探触子を用いた電磁超音波法における測定原理を示す模式図。(a)は、コイルに電流を流す前の状態を示し、(b)および(c)は、それぞれ逆方向に電流を流した状態を示す。
【図4】スペーサなしの電磁超音波探触子を用いて検出した共鳴スペクトルの図。
【図5】2μmの銅箔製スペーサを用いた電磁超音波探触子を用いて検出した共鳴スペクトルの図。
【図6】10μmの銅箔製スペーサを用いた電磁超音波探触子を用いて検出した共鳴スペクトルの図。
【図7】50μmの銅箔製スペーサを用いた電磁超音波探触子を用いて検出した共鳴スペクトルの図。
【図8】50μmのZn箔製スペーサを用いた電磁超音波探触子を用いて検出した共鳴スペクトルの図。
【図9】50μmのPd箔製スペーサを用いた電磁超音波探触子を用いて検出した共鳴スペクトルの図。
【図10】100μmのOHPシート製スペーサを用いた電磁超音波探触子を用いて検出した共鳴スペクトルの図。
【図11】500μmのシリコンゴム製スペーサを用いた電磁超音波探触子を用いて検出した共鳴スペクトルの図。
【図12】1000μmのシリコンゴム製スペーサを用いた電磁超音波探触子を用いて検出した共鳴スペクトルの図。
【符号の説明】
【0033】
1:電磁超音波探触子
2:磁力発生手段(磁石)
3:コイル
4:被検体
5:渦電流
6:ローレンツ力
7:スペーサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁界を形成する磁力発生手段と、コイルとを有し、コイルに高周波電流を流し、被検体内に電磁力を発生させることにより超音波の送受信を行う電磁超音波探触子であって、磁力発生手段とコイルとの間にスペーサが配置されていることを特徴とする電磁超音波探触子。
【請求項2】
スペーサが、厚さ10μm以上の導電性材料を有することを特徴とする請求項1に記載の電磁超音波探触子。
【請求項3】
スペーサが、厚さ500μm以上の絶縁性材料を有することを特徴とする請求項1に記載の電磁超音波探触子。
【請求項4】
スペーサが、厚さ2μm以上の導電性材料および厚さ100μm以上の絶縁性材料からなることを特徴とする請求項1に記載の電磁超音波探触子。
【請求項1】
静磁界を形成する磁力発生手段と、コイルとを有し、コイルに高周波電流を流し、被検体内に電磁力を発生させることにより超音波の送受信を行う電磁超音波探触子であって、磁力発生手段とコイルとの間にスペーサが配置されていることを特徴とする電磁超音波探触子。
【請求項2】
スペーサが、厚さ10μm以上の導電性材料を有することを特徴とする請求項1に記載の電磁超音波探触子。
【請求項3】
スペーサが、厚さ500μm以上の絶縁性材料を有することを特徴とする請求項1に記載の電磁超音波探触子。
【請求項4】
スペーサが、厚さ2μm以上の導電性材料および厚さ100μm以上の絶縁性材料からなることを特徴とする請求項1に記載の電磁超音波探触子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−14466(P2009−14466A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−175721(P2007−175721)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(592244376)住友金属テクノロジー株式会社 (43)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(592244376)住友金属テクノロジー株式会社 (43)
【Fターム(参考)】
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