説明

電線に対する端子の圧着方法

【課題】太物電線に適用した場合にも、小さなエネルギーの超音波振動を加えることにより、電線の導体部を構成する素線間の抵抗を有効に低減することのできるアルミ電線用圧着端子の圧着方法を提供する。
【解決手段】アルミ電線用圧着端子10の圧着部12を、多数の素線3の束よりなる電線1の導体部2に対して、外側から包み込むように圧着する電線に対する端子の圧着方法において、電線の導体部2を単体のまま超音波接合機にセットし、該超音波接合機により導体部に超音波振動を加えることで、導体部を構成している素線3と素線3の接触面間に摺動を起こさせて、素線の表面を粗にする予備工程を実行した後、導体部2の外周に端子の圧着部12を加圧により圧着する本工程を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にアルミニウム電線に対して端子を圧着する場合に有効な圧着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用のワイヤーハーネスに使用されている電線は、従来では一般的に銅電線であったが、最近では、軽量性やリサイクル性の良さからアルミニウム電線に置き換える動きがある。
【0003】
アルミニウムは、銅に比べて、導電率が60%程度であるが、重さが1/3ですむので、大幅な軽量化が期待できるからである。また、銅の融点は1083℃であるのに対し、アルミニウムの融点は660℃であるので、金属回収しやすい利点もあるからである。
【0004】
自動車用のワイヤーハーネスの電線をアルミニウム電線にした場合、特にアルミニウムやアルミニウム合金製の導体部の表面に、強固で電気抵抗の大きい酸化被膜が存在することが、端子を接続する上での問題となることがある。
【0005】
図4は、特許文献1に記載されたアルミニウム電線21とアルミニウム端子30を圧着接続する場合の一般的な例を示している。端子30は、前部に孔31a付きの接続板部31を持ち、後部に圧着部32を持つ。圧着部32は、底板33と、該底板33の幅方向両側縁から上に延設された一対の圧着片34、34とを持つU字形状をなしており、内面にセレーション35を有する。アルミニウム電線21は、撚線等よりなる導体部22の外周を絶縁被覆23で覆ったもので、端子30を圧着する際には、皮剥きした電線21の端末の露出導体22を底板33の上に挿入し、両側の圧着片34を加締装置で内側に曲げて、導体部32を包み込むように加締める。それにより、導体部22に端子30を圧着接続することができる。
【0006】
このように、従来では、圧着部32の内面にセレーション35を形成することによって、圧着時に導体部22の表面の酸化被膜を破壊するようにしている。また、導体部22の表面の酸化被膜を破壊する効果を一層増すために、このセレーション35を斜めに形成することも、特許文献1において提案されている。
【0007】
また、導体部の表面の酸化被膜を破壊しながら端子を圧着する方法として、特許文献2には、電線の導体部に端子の圧着部をセットした状態で、超音波振動を付与して導体部と端子を金属接合させつつ、端子の圧着部を加締めにより導体部に圧着する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2003−249284号公報
【特許文献2】特開2003−86259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に記載の技術は、セレーションを有する端子の板面に接触しながら導体部が伸びる際の摺動によって、導体部の表面の酸化被膜を除去するものであるため、電線の導体部を構成する素線と素線の接触面間に存在する酸化被膜の問題を解消ことはできなかった。即ち、導体部を構成する素線と素線の接触面にも酸化被膜が存在するが、特に太物電線の場合は、この素線間の酸化被膜が障害となって、端子を圧着した際の接続抵抗が小さくならないという問題があった。素線間の抵抗が大きいと、大電流を流す太物電線(例えば、30sq以上の電線)の場合、素線間の抵抗で端子の接続部の温度が上昇し、最悪の場合は溶損という事態にもつながるおそれがある。特に、アルミニウム電線の場合は、アルミニウムが銅に比べて熱伝導率が低いために放熱性が悪いという問題があり、素線間の抵抗を無視できないという事情がある。
【0009】
この点、特許文献2に記載の技術によれば、超音波振動の印加によって、素線間を金属接合させることができるので、素線間の抵抗の問題を無くすことができる。
【0010】
しかしながら、加圧による圧着と同時に超音波振動を印加するので、素線間に有効な振動を起こさせるのに必要なエネルギーが非常に大きくなり、太物電線に適用するのには無理があった。
【0011】
本発明は、上記事情を考慮し、太物電線に適用した場合にも、小さなエネルギーの超音波振動を加えることにより、電線の導体部を構成する素線間の抵抗を有効に低減することのできる圧着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の発明の電線に対する端子の圧着方法は、端子の圧着部を、多数の素線の束よりなる電線の導体部に対して、外側から包み込むように圧着する電線に対する端子の圧着方法において、前記電線の導体部を単体のまま超音波接合機にセットし、該超音波接合機により前記導体部に超音波振動を加えることで、前記導体部を構成している素線と素線の接触面間に摺動を起こさせて、素線の表面を粗にする予備工程を実行した後、前記導体部の外周に前記端子の圧着部を加圧により圧着する本工程を実行することを特徴とする。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1に記載の電線に対する端子の圧着方法であって、前記予備工程にて、表面を粗にした素線と素線の接触面間が予備的に接合するまで超音波振動を加えることを特徴とする。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の電線に対する端子の圧着方法であって、前記素線が、アルミニウムあるいはアルミニウム合金よりなる非メッキ素線であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、素線同士の接触表面を超音波振動の印加によって粗にする予備工程と、電線の導体部に端子を加圧により圧着する本工程とを別に行うので、予備工程において、小さなエネルギーの超音波振動を加えるだけで、表面を粗にするのに必要な有効な摺動を素線間に起こさせることができる。即ち、従来のように、端子を加圧圧着する工程で同時に超音波振動を印加する場合は、端子による拘束が効いた状態での摺動となるために、大きな超音波エネルギーが必要となっていたが、本発明では、端子を圧着する時点ではなくて、端子を接合する前の時点で、つまり素線に対して全く拘束がない自由な状態で、素線間に摺動を起こさせので、太物電線の場合であっても、小さなエネルギーで超音波振動により素線間に摺動を起こして、素線の表面を粗にすることが可能となる。従って、表面を粗にした状態で、本工程の加圧圧着を行うことにより、酸化被膜を破りながら、端子と電線の導体部の間の凝着性や素線と素線の間の凝着性を高めることができる。その結果、接続部の抵抗を低減することができて、それにより、大電流が流れた場合の温度上昇を回避することができる。このことは、銅に比べて熱伝導率の低いアルミの場合に特に有用なことと言える。また、小さなエネルギーの超音波振動を加えるだけでよいので、製造上の負担を軽くすることもできる。
【0016】
請求項2の発明によれば、予備工程の段階において、表面を粗にした素線と素線の接触面間を予備的に接合するので、素線間の接触抵抗をより小さくすることができる。
【0017】
請求項3の発明によれば、アルミニウム電線と端子を圧着する場合に特に有効性を発揮することができる。即ち、アルミニウム電線の場合は、アルミニウムあるいはアルミニウム合金製の素線の表面に強固な酸化被膜が存在し、それが接続抵抗を小さくする上での阻害要因となっているが、素線の表面を粗にした状態で圧着するので、その酸化被膜の影響を排除しながら、小さい電気接続抵抗で端子とアルミニウム電線を接続することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0019】
図1(a)〜(c)は実施形態の圧着方法の工程説明図、図2は予備工程の原理説明図で、図2(a)は超音波振動を加えているときの電線の導体部を正面から見た図、図2(b)は同側面から見た図、図3は本工程による効果の説明用の模式図で、図3(a)は表面を特に粗にしないで圧着を行った場合の圧着作業中の図(左図)と圧着後の図(右図)、図3(b)は表面を粗にした上で圧着を行った場合の圧着作業中の図(左図)と圧着後の図(右図)である。
【0020】
本実施形態の圧着方法は、自動車に使用するワイヤーハーネス用のアルミニウム電線に対して銅製またはアルミ製のアルミ電線用圧着端子(端子)を圧着する場合の方法である。図1(a)に示すように、アルミニウム電線1は、アルミニウムまたはアルミニウム合金製の非メッキ素線2を複数本撚り合わせて構成した導体部2の外周に絶縁被覆4を被せたものである。
【0021】
本圧着方法では、最初の工程で、図1(a)に示すように、電線1の端末部の絶縁被覆4を皮剥きして、導体部2を必要長さだけ露出させる。
【0022】
次に、予備工程で、図2に示すように、超音波接合機7のホーン8とアンビル9の間に、電線1の導体部2を単体のままにセットし、超音波接合機7により導体部2に超音波振動を加えることで、導体部2を構成している素線3と素線3の接触面間に摺動(凝着)を起こさせて、素線3の表面を粗にする。
【0023】
この際、超音波振動の向きは、図2(a)中に矢印Aで示すように、導体部2の長手方向に直交する向きに設定してもよいし、図2(b)中に矢印Bで示すように、導体部2の長手方向に沿った向きに設定してもよいし、その両方の向きに設定してもよい。
【0024】
次に、上述の予備工程を実行した後に、導体部2の外周にアルミ電線用圧着端子としての端子10の圧着部12を加圧により圧着する本工程を実行することで、図1(c)に示すような圧着後の完成品を得る。この端子10は、前部に孔11a付きの接続板部11を持ち、後部に圧着部12を持つもので、圧着部12は、接続板部11から連続する底板13と、該底板13の幅方向両側縁から上に延設された一対の圧着片14、14とを持つU字形状をなしている。
【0025】
本工程では、この端子10の圧着部12の底板13の上に、図1(b)に示す予備的に接合した導体部2を載せ、その状態で両圧着片14を内側に丸めてB型に加締めることで、圧着を完了する。
【0026】
図3は、圧着による素線間の接合状態の違いを示す模式図で、図3(a)は表面を特に粗にしないで圧着を行った比較例の場合の圧着作業中の状態(左)と圧着後の状態(右)を示す図、図3(b)は表面を粗にした上で圧着を行った本実施形態の場合の圧着作業中の状態(左)と圧着後の状態(右)を示す図である。
【0027】
図3(a)に示すように、接触表面Sを特に粗にしない状態で、本工程の加圧圧着を行うと、素線3と素線3の凝着をあまり進行させることができず、凝着面Gの面積が小さくなる。これに対して、図3(b)に示すように、接触表面Sを粗にした状態で、本工程の加圧圧着を行うと、表面に存在する酸化被膜を破りながら、素線3と素線3を凝着させることができ、凝着面Gの面積を増やすことができて、接触抵抗を低減することができる。
【0028】
以上のように、本実施形態の圧着方法では、素線3同士の接触表面を超音波振動の印加によって粗にする予備工程と、電線1の導体部2に端子10を加圧により圧着する本工程とを別に行うようにしているので、予備工程において、小さなエネルギーの超音波振動を加えるだけで、表面を粗にするのに必要な有効な摺動を素線3間に起こさせることができる。
【0029】
即ち、従来のように、端子を加圧圧着する工程で同時に超音波振動を印加する場合は、端子による拘束が効いた状態での摺動となるために、大きな超音波エネルギーが必要となっていたが、本実施形態においては、端子10を圧着する時点ではなくて、端子10を接合する前の時点で、つまり素線3に対して全く拘束がない自由な状態で、素線3間に摺動を起こさせので、太物(大径)電線の場合であっても、小さなエネルギーで超音波振動により素線3間に摺動を起こさせて、素線3の表面を粗にすることが可能となる。
【0030】
従って、表面を粗にした状態で、本工程の加圧圧着を行うことにより、酸化被膜を破りながら、端子10と電線1の導体部2の間の凝着性や素線3と素線3の間の凝着性を高めることができ、その結果として、端子接続部の抵抗を低減することができて、それにより、大電流が流れた場合の温度上昇を回避することができる。
【0031】
このことは、銅電線に比べて放熱性の低いアルミニウム電線の場合に特に有用なことである。また、小さなエネルギーの超音波振動を加えるだけでよいので、製造上の負担を軽くすることもできる。
【0032】
なお、前述の予備工程において、表面を粗にした素線3と素線3の接触面間に更に超音波振動を加えることにより、素線3と素線3の接触面を溶融させて、素線3同士を予備的に接合させておいてもよい。そのようにすれば、素線3間の接触抵抗をより小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】(a)〜(c)は本発明の実施形態の圧着方法の工程説明図である。
【図2】同方法における予備工程の原理説明図で、(a)は超音波振動を加えているときの電線の導体部を正面から見た図、(b)は同側面から見た図である。
【図3】圧着による素線間の接合状態の違いを示す模式図で、(a)は表面を特に粗にしないで圧着を行った比較例の場合の圧着作業中の状態(左)と圧着後の状態(右)を示す図、(b)は表面を粗にした上で圧着を行った本実施形態の場合の圧着作業中の状態(左)と圧着後の状態(右)を示す図である。
【図4】一般的な端子の圧着方法の説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1 電線
2 導体部
3 素線
7 超音波接合機
10 アルミ電線用圧着端子(端子)
12 圧着部
14 圧着片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端子の圧着部を、多数の素線の束よりなる電線の導体部に対して、外側から包み込むように圧着する電線に対する端子の圧着方法において、
前記電線の導体部を単体のまま超音波接合機にセットし、該超音波接合機により前記導体部に超音波振動を加えることで、前記導体部を構成している素線と素線の接触面間に摺動を起こさせて、素線の表面を粗にする予備工程を実行した後、前記導体部の外周に前記端子の圧着部を加圧により圧着する本工程を実行することを特徴とする電線に対する端子の圧着方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電線に対する端子の圧着方法であって、
前記予備工程にて、表面を粗にした素線と素線の接触面間が予備的に接合するまで超音波振動を加えることを特徴とする電線に対する端子の圧着方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電線に対する端子の圧着方法であって、
前記素線が、アルミニウムあるいはアルミニウム合金よりなる非メッキ素線であることを特徴とする電線に対する端子の圧着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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