説明

電線切断治具及び電線切断方法

【課題】電線を見栄えよく綺麗に切断して刃の寿命も長くする。
【解決手段】電線切断治具1は、固定刃3を有する本体2の軸孔4に、可動刃6を有する回転軸体5を遊挿し、固定刃3の固定溝7と可動刃6の可動溝8とに電線を挿入させた状態で可動刃6を回転させることで、電線を固定刃3と可動刃6との間で二カ所切断可能としたもので、固定刃3における固定溝7の形成部分で、可動刃6の回転に伴う電線の押圧側に、軸孔4の軸方向から見て鋭角状となり、先端が軸孔4の円周上に位置する刃部11を形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、狭い場所に布線されている電線を切断するための電線切断治具と、その電線切断治具を用いた電線切断方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電線を切断する場合、ニッパー等の工具を用いて切断することがよく行われるが、工具が入らないような狭い場所に布線されている電線を切断することができない。そこで、本件出願人は、図3に示すように、軸孔21を開口させた端面に軸孔21の直径方向で軸孔21と連通する固定溝22が凹設された固定刃20と、軸孔21へ回転自在に遊挿され、端面に固定刃20の固定溝22と連続状に繋がる可動溝24が直径方向に凹設された可動刃23とを用いた電線切断方法とその装置とを提供している(特許文献1)。
これによれば、同図(A)に示すように固定刃20と可動刃23との溝22,24が繋がった状態で電線26を挿入し、可動刃23を矢印方向へ回転させることで、可動溝24の両端に位置する刃部25,25が電線26に食い込む格好で固定刃20との間で周方向に電線を二カ所切断することができる(同図(B)(C))。よって、狭い場所でも電線の切断が容易となり、切断後に残る電線間の絶縁距離も確保できるといった利点がある。図において27は電線の絶縁被覆、28は導電体である。
【0003】
【特許文献1】特開2003−80333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記固定刃20と可動刃23とによる切断方法では、同図(B)に示すように、A部では固定刃20の鈍角部で電線26の側面を受けた状態で、B部で可動刃23の鋭角な刃部25が電線26の絶縁被覆27に食い込みながら電線26を切断するため、固定溝22に残る電線26がA部側へ夫々押し潰されるように剪断されることになる。従って、切断面は絶縁被覆27や導電体28がA部側へ偏ったいびつなものとなり、見栄えが悪くなってしまう。また、可動刃23を回転させる際の切断抵抗が大きいため、刃の寿命が短くなる上、作業者への負荷も増大することになる。
【0005】
そこで、本発明は、電線を見栄えよく綺麗に切断でき、刃の寿命が長くなって耐久性に優れ、使い勝手も良好な電線切断治具及び電線切断方法を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、固定刃における固定溝の形成部分で、少なくとも可動刃の回転に伴う電線の受け側に、軸孔の軸方向から見て鋭角状となり、先端が軸孔の円周上に位置する刃部を形成したことを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1の目的に加えて、刃部を簡単に形成するために、固定刃の刃部は、固定刃における固定溝に形成された切欠部の端面を伴って形成される構成としたものである。
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の電線切断治具を用い、固定溝と可動溝とを直線状に連続させた状態で両溝に跨って電線を挿入し、可動刃を回転させることで、電線の可動溝への挿入部分の両端を軸孔の周方向に沿って剪断することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、固定刃にも鋭角状の刃部を設けたことで、電線を見栄えよく綺麗に切断することができる。また、切断抵抗が低減されるので、固定刃及び可動刃の寿命が長くなって耐久性に優れる上、作業者への負荷も軽減されて使い勝手が良好となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の電線切断治具の一例を示す説明図で、電線切断治具(以下単に「治具」という。)1は、端面に固定刃3を備えた横断面矩形の軸体である本体2と、その本体2の中心に形成された軸孔4へ回転可能に遊挿され、固定刃3と同じ側の端面に可動刃6を備えた回転軸体5とを有する。
本体2の固定刃3には、図2(A)にも示すように、軸孔4の直径方向に電線15が挿入可能な固定溝7が所定深さで凹設されて、軸孔4と連通している。一方、可動刃6にも、固定刃3の固定溝7と同じ幅及び深さを有する可動溝8が、回転軸体5の直径方向に形成されて、回転軸体5の回転位置によって固定溝7と直線状に繋がるようになっている。この可動溝8の形成により、可動刃6には、回転軸体5の軸方向で見て、回転軸体5の周面と可動溝8の内面とによって鋭角状の刃部9,9・・が4カ所に形成されることになる。
【0009】
そして、固定刃3における固定溝7の形成部分には、軸孔4の軸方向で見て円弧状となる切欠部10,10が、固定溝7を中心とした左右対称となるように設けられて、当該部分に、軸孔4の軸方向から見て先端が軸孔4の円周上に位置する鋭角状の刃部11,11・・を4カ所形成している。換言すれば、刃部11は、固定溝7に形成された切欠部10の端面を伴って形成されることになる。なお、図2では固定刃3と可動刃6との形状を理解しやすくするために斜線を付している。
図1において12は、回転軸体5における可動刃6と反対側の端部に直径方向へ突設されたハンドル、13は回転軸体5の軸心に設けられて可動溝8と連通する押し出し孔で、この押し出し孔13に遊挿した押し出し棒14の下端を可動溝8内に出没可能としている。
【0010】
以上の如く構成された治具1を用いた電線切断方法を説明する。
まず、本体2の軸孔4に回転軸体5を遊挿し、可動溝8が固定溝7と直線状に繋がるように回転軸体5を回転させた状態で、図2(A)に示すように、両溝7,8に跨る格好で電線15を挿入させる。16は電線15の絶縁被覆、17は導電体で、電線15は例えば自動車のワイヤハーネスに用いられる圧接ジョイントコネクタのハウジングに布線される。
次にハンドル12を利用して回転軸体5を回転させる(図2(B)(C)内の矢印参照)。すると、同図(B)に示すように、電線15における可動溝8への挿入部分が回転しようとすることで、A部では点対称に位置する可動刃6の刃部9,9が回転方向へ進みながら電線15の絶縁被覆16に食い込んで切断を開始する一方、刃部9,9と逆の点対称に位置するB部では、刃部11,11が回転する電線15を受ける格好で絶縁被覆16に食い込んで切断を開始する。よって、電線15における可動溝8への挿入部分の両端が回転軸体5の周面に沿って刃部9,11により剪断される。
【0011】
回転軸体5の回転が進んで刃部9,9が刃部11,11を過ぎると、同図(C)のように電線15が可動溝8の両端で完全に切断されるため、押し出し棒14を可動溝8内に突出させれば、両端で切断された電線15の一部が可動溝8から押し出され、電線15の切断が完了する。このとき固定刃3の固定溝7側に残る電線15の両切断面は、鋭角な刃部9,11による剪断によっていびつになることなく綺麗な面となる。なお、繰り返して切断を行う場合は回転軸体5を図2(A)の状態に再び回転させて次の電線を両溝7,8に挿入させればよい。
【0012】
このように、上記形態の治具1及びその治具1を用いた電線切断方法によれば、固定刃3にも鋭角状の刃部11を設けたことで、電線を見栄えよく綺麗に切断することができる。また、切断抵抗が低減されるので、固定刃3及び可動刃6の寿命が長くなって耐久性に優れる上、作業者への負荷も軽減されて使い勝手が良好となる。さらに、固定刃3の刃部11が、固定溝7に形成された切欠部10の端面を伴って形成されることで、刃部11が簡単に形成可能となっている。
ちなみに、図3で説明した従来の治具では、切断力が20Nで、切断可能回数が17000回までであったものが、本形態の治具1では、切断力が15Nと低くなって切断可能回数も43000回まで増加し、切断抵抗の軽減や耐久性の向上が確認されている。
【0013】
なお、固定刃側の刃部の鋭角状の角度は、切欠部の円弧の半径を変えることで適宜容易に変更することができる。勿論円弧状の切欠部に限らず、切除面が平面となる切欠で鋭角状としてもよい。また、可動刃の回転方向が一方向のみであれば、固定刃側の刃部は、電線の受け側となる点対称位置にのみ形成することも可能である。
さらに、可動刃には、切断後に可動溝内に残る電線を落下させることなく圧接ジョイントコネクタ等から確実に取り出せるように、可動溝の対向面で端面際に電線を保持する突起を突設したり、端面にストッパを設けたりすることもできる。
【0014】
そして、固定刃と可動刃との形状や可動刃の回転構造も上記形態に限らない。例えば複数の治具を連結して各回転軸体に突設したアームをバー部材で連結し、バー部材のスライド操作によって各回転軸体を同時に回転させることで、平行に布線される複数の電線を一度に切断できるようにすることも考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】治具の分解斜視図である。
【図2】電線の切断方法の説明図で、(A)が切断前、(B)が切断開始時、(C)が切断終了時を夫々示す。
【図3】従来の治具による電線の切断方法の説明図で、(A)が切断前、(B)が切断開始時、(C)が切断終了時を夫々示す。
【符号の説明】
【0016】
1・・電線切断治具、2・・本体、3・・固定刃、4・・軸孔、5・・回転軸体、6・・可動刃、7・・固定溝、8・・可動溝、9,11・・刃部、15・・電線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端面に開口する軸孔と、その軸孔の直径方向で前記軸孔と連通するように前記端面に凹設される固定溝とを備えた固定刃と、前記軸孔へ回転可能に遊挿され、前記固定溝側の端面に、前記固定溝と連続状の可動溝を直径方向に凹設した可動刃とを有し、前記固定溝と可動溝とに跨って電線を挿入させた状態で前記可動刃を回転させることで、前記電線を前記固定刃と可動刃との間で切断可能とした電線切断治具であって、
前記固定刃における前記固定溝の形成部分で、少なくとも前記可動刃の回転に伴う前記電線の受け側に、前記軸孔の軸方向から見て鋭角状となり、先端が軸孔の円周上に位置する刃部を形成したことを特徴とする電線切断治具。
【請求項2】
固定刃の刃部は、前記固定刃における固定溝に形成された切欠部の端面を伴って形成される請求項1に記載の電線切断治具。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電線切断治具を用い、固定溝と可動溝とを直線状に連続させた状態で両溝に跨って電線を挿入し、可動刃を回転させることで、前記電線の前記可動溝への挿入部分の両端を前記軸孔の周方向に沿って剪断することを特徴とする電線切断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−93667(P2008−93667A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−274428(P2006−274428)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】