説明

電線加工品

【課題】該筐体の形状の如何を問わず、筐体の往復運動に因る断線の懸念のない電線加工品を提供する。
【解決手段】電線束2の中間部を、繊維メッシュからなる非導電性メッシュ状スリーブ3に、電線同士の自由度を保った状態で挿通する。該スリーブが、ポリエステルまたはポリアミド繊維からなるのが好ましい。そして、接続端末は、コネクタ5a,5b、プリントサーキット基板、または、該コネクタまたはプリントサーキット基板に接続するための保持具であるのがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一軸方向に往復運動する筐体間を電気的に接続するのに有用な電線加工品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、一軸方向に往復運動する複数の筐体を有する電子機器が広く普及している。その典型的な例はスライド型携帯電話である。このような機器において、各筐体に内蔵された電子回路間は、ヒンジ部を介して配線された電線あるいはフレキシブルプリント基板(FPC)などの信号線により電気的に接続される。
【0003】
ところで、これらの信号線は、電子機器の小型・軽量化および高機能化の要求が強まるにつれて、高本数・高密度化の傾向にある。この要求に対して、FPCはシールド性能の面で限界があることから、耐屈曲性およびシールド性に優れた同軸ケーブル束の特殊な利用が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
この提案による電線加工品では、同軸ケーブル束の各端は、それぞれに対応するコネクタに接続され、その際、該ケーブル束は、各コネクタの一端側に収束するように結束されている。この端部結束部により、中間部のケーブル束は、筐体間のヒンジ部に大きな曲率半径で配置できるため、筐体の往復運動時にケーブル束に掛かる負荷が軽減される。しかし、一方では、該筐体の厚みおよび幅方向の形状が該端部結束部に依存するため、筐体設計の自由度が制限される。
【0005】
また、この提案においては、ケーブル配線時やコネクタ移動時における同軸ケーブル束のバラケを防止するため、該ケーブル束全体にテープを巻きつけることも推奨されている。しかし、この場合には、コネクタ移動時に、電線間、およびテープと電線束との間の摩擦が急増し、断線につながりかねない。
【0006】
【特許文献1】特開2008−210583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、該筐体の形状の如何を問わず、筐体の往復運動に因る断線の懸念のない電線加工品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、繊維からなる非導電性メッシュ状スリーブの呈する、低張力下での拡径性に着目した。その結果、このメッシュ状スリーブに電線束の中間部を挿通するとき、挿通部での電線同士の自由度が保持され、もって、電線間の摩擦が可及的に軽減されることを究明した。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電線加工品にあっては、電線束の中間部が繊維からなる非導電性メッシュ状スリーブ(以下、“メッシュ状スリーブ”)で保持されるので、以下のような顕著な効果が奏される。
a.各電線の自由度が確保されるので、ケーブル同士の摩擦あるいはメッシュ状スリーブと電線束との摩擦が発生せず、断線の懸念が払拭される。
b.スライド式携帯電話に配される際の電線加工品は、中間部がU字状(ないし湾曲状)に折り返す形状をとる(図2)。このとき、メッシュ状スリーブの拡径性(可逆性)が如何なく発揮され、各電線はより大きな曲率半径で折り返すことができ、かつ、外周と内周の差による内周ケーブルの極端な曲がりが発生しにくいので、筐体の往復運動時にケーブル束に掛かる負荷が軽減される。
c.メッシュ状スリーブは、テープに比べて安価で且つテープ巻き作業に比べて電線の挿通作業が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一態様を、添付図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る電線加工品の一態様を示す平面図である。
図2は、図1の電線加工品1をスライド型携帯電話に適用した際の一様態を示す斜視図である。
【0011】
図1において、1は電線加工品で、2は電線束、3は電線束2の中間部に挿通したメッシュ状スリーブ、4a,4bはメッシュ状スリーブ3の両端を電線束2に固着するための固定部材、そして、5a,5bは電線束1の各端に設けられたコネクタである。また、Lは電線加工品1の中間部の長さ、そして、La,Lbは電線加工品1の端部の長さを示す。
【0012】
上記の挿通状態においては、メッシュ状スリーブ3の内径が、電線加工品1の束径とほぼ同じか、やや大きい状態にある。これにより、電線加工品1は形態上、可逆的に保持される。すなわち、メッシュ状スリーブ3は、拡径自在であるので、電線加工品1の動きあるいは各電線の動きに追従する。
【0013】
上記の電線加工品は、例えば、以下の手順で得られる。まず、Lに相当する長さのメッシュ状スリーブ3を拡径具に被せて、拡径する。ついで、電線束2を拡径されたメッシュ状スリーブ3に挿通し、該束の中間部に位置させてから、拡径具を引き抜いて、メッシュ状スリーブ3を収縮させればよい。このとき、内径の戻りが低いメッシュスリーブ3にあっては、該スリーブを解放後、長手方向に引っ張って、内径を調節してもよい。なお、この拡径操作は、メッシュ状スリーブ3の長さにもよるが、手動で実施できる場合もある。
【0014】
ここで、メッシュ状スリーブ3の端部ホツレを防止するために、メッシュ状スリーブ3の両端部は、図示したように、粘着テープなどの固定部材4a,4bで電線束2の外周部の電線に固着するのが好ましい。このとき、多少伸縮性のある粘着テープを、電線束2の屈曲に支障/影響のない箇所に貼付するのが有利である。また、接続端末5a,5bは、電線加工品3をメッシュ状スリーブ3に挿通する前、挿通後、電子機器への配線時などの、任意の時点で取り付ければよい。
【0015】
図2には、図1の電線加工品1をスライド型携帯電話に配線した際の態様が示されている。この図においては、電線加工品1の中間部がU字状に折り返しながら、その両端部5aと5bとが上下に重なり合って折り畳み構造に形成されている。この折りたたみ構造において、電線加工品の上部側端部5a、U字状折り返し部6および下部側端部5bは、それぞれに、スライド型携帯電話の上部側筐体、ヒンジ部および下部側筐体に配される。
【0016】
スライド型携帯電話の筐体が一軸方向に往復運動を繰り返す際には、該運動による屈曲および屈曲応力が発生する。そして、このような応力は、U字状の折り返し部の各電線に集中する傾向がある。この点、図2に示したU字状折り返し部では、電線同士は互いに拘束せず且つ、個々の電線単位の屈曲挙動に追従するメッシュ状スリーブ3の存在により、曲げRがより大きい状態で折り返すことができる。その結果、上述した応力は、該U字状折り返し部で容易に分散される。
【0017】
このように、電線加工品1の中間部は、筐体の往復運動に伴う電線加工品1の変形に確実に追従するので、テープなどの被覆材により密着固定された態様では期待できない効果が得られる。すなわち、該中間部では、電線同士、あるいはメッシュ状スリーブ3と電線束2との間の摩擦は極めて軽微となり、その結果、各電線の自由度が確保されるので、繰り返し屈曲性が著しく改善される。
【0018】
以上のことからも明らかなように、電線加工品1の中間部は、主としてU字状の折り返し部を形成する部分である。この折り返し部を形成するには、中間部長さL(図1)が電線加工品1の全長(L+La+Lb)の50%〜80%の範囲から適宜選定すればよい。また、電線加工品1の端部(La,Lb部分)は、接続端末5a,5bに並列状態で接続されたままに維持するのが好ましい。もちろん、必要に応じて、これら端部は、丸く束ねたり、コネクタの一端側に寄せたりしてもよい。
【0019】
本発明において、電線束2とは、導体に絶縁層を被覆してなる電線および/または導体に誘電体層、シールド層および絶縁体層を被覆してなる同軸ケーブルを言う。電線加工品1の耐屈曲性およびシールド性能を考慮すると、後者が好ましく用いられる。この場合、電子機器の小型・軽量化の面から、同軸ケーブルとしては、外径0.2mmから0.4mmの同軸ケーブルを20本から40本採用すればよい。
【0020】
メッシュ状スリーブ3は、網状、編組状、横編または経編組織の筒状体を利用して得られる。これらの組織を構成する繊維としては、50デニール程度の綿、麻、絹等の天然繊維、または、ポリアミド、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、ポリオレフィン、ポリアクリル、ポリウレタン等の合成繊維、またはこれらの混合繊維のマルチフィラメントあるいはモノフィラメントを採用すればよい。さらに、前記の合成繊維にあっては、伸縮性を有する仮撚巻縮加工糸やトルクヤーンを採用すると、拡径性に加えて伸縮性のあるメッシュ状スリーブ3が得られる。このような太さの繊維は、従来採用されたテープ厚より細いので、電子機器の小型化・薄型化に寄与する。
【0021】
上記メッシュ状スリーブ3の各端の固定部材4a、4bとしては、該スリーブ3の端部を固定するだけで足り、厚みが0.8mm程度で幅が5mm程度の極薄の片面粘着テープを用いるのが好ましい。
【0022】
さらに、接続端末5a,5bとしては、コネクタ、プリントサーキット基板、または、該コネクタないしプリントサーキット基板に接続するための保持具などが挙げられる。電線加工品1は、この接続端末を介してそれぞれの筐体に内蔵された電子回路に接続される。
【実施例】
【0023】
[実施例]
外径が0.3mmの同軸ケーブル30本からなる電線束2の両端をコネクタ5に接続した。このとき、コネクタ間の距離は110mmとした。
【0024】
一方、50デニールのナイロン6のモノフィラメントを64打の製紐機で編んで、内径が2mmのメッシュ状スリーブを作成した。このメッシュ状スリーブ60mmにカットして、メッシュ状スリーブ3とした。
【0025】
ついで、このメッシュ状スリーブ3を径方向に250%程度引っ張りながら内径が5mmになるように拡径し、これに上記電線束2を挿通してから該拡径状態を開放した。このとき、メッシュ状スリーブ3は電線束2の中間部に配置し、メッシュ状スリーブ3の端部とコネクタ5a、5bとの距離は一方は20mm、他方は30mmとした。
【0026】
さらに、メッシュ状スリーブ3の両端を、フッ素樹脂を基材とした片面粘着テープ(厚み0.8mm、幅5mm)で電線束2へ固定し、電線加工品1を得た。
【0027】
[比較例]
実施例において、メッシュ状スリーブ2のかわりに同軸ケーブル全体にフッ素樹脂を基材とする多孔質のテープ(厚み0.04mm)を巻きつける以外は、同様の操作を繰り返した。
【0028】
このようにして得られた各電線加工品を、スライド式携帯電話へ固定し、スライド試験を行った。このとき、該携帯電話の上部側筐体を1分間に30往復の速さで往復運動させ、20万往復後および100万往復後の同軸ケーブルの断線の有無を検査した。結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
現状の試験法では、スライド式携帯電話に組み込まれている同軸ケーブルの耐屈曲性能は、上記条件において、20万往復で行われる。従って、表1の結果から、実施例の電線加工品は、実使用に耐えうる十分な屈曲性能を有する。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の電線加工品は、往復運動だけでなく、屈曲、捻回に対しても優れた屈曲性能を有するため、スライド型電子機器に限らず、折り畳み型電子機器や二軸回転型電子機器にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る電線加工品の一態様を示す平面図。
【図2】図1の電線加工品1をスライド型携帯電話に適用した際の一様態を示す斜視図。
【符号の説明】
【0033】
1 電線加工品
2 電線束
3 メッシュ状スリーブ
4a,4b 固定部材
5a,5b コネクタ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線束の中間部が繊維からなる非導電性メッシュ状スリーブに挿通されてなることを特徴とする電線加工品。
【請求項2】
該非導電性メッシュ状スリーブが、メッシュ組織である請求項1に記載の電線加工品。
【請求項3】
該非導電性メッシュ状スリーブが、ポリエステルまたはポリアミド繊維からなる請求項1または2に記載の電線加工品。
【請求項4】
該電線加工品の各端が接続端末を有する請求項1〜3のいずれかに記載の電線加工品。
【請求項5】
該接続端末が、コネクタ、プリントサーキット基板、または、該コネクタまたはプリントサーキット基板に接続するための保持具である請求項1〜4のいずれかに記載の電線加工品。
【請求項6】
その中間部でU字状に折り返しながら、その両端部近傍では上下に重なり合って折り畳み構造に配置された請求項1〜5のいずれかに記載の電線加工品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate