説明

電線導体及び絶縁電線

【課題】機械的強度(引張強度、耐屈曲性)に優れるとともに導体抵抗が低い、特に、自動車用配線として好適な電線導体と、該電線導体を使用した絶縁電線を提供すること。
【解決手段】ステンレス鋼線2aと銅線2bとを撚り合せた電線導体2において、上記電線導体2の単位長さにおけるステンレス鋼線2aの重量率が、2%以上45%以下である電線導体2。中心にステンレス鋼線2aが配置されている電線導体2。最外層が銅線2bから構成されている電線導体2。上記ステンレス鋼線2aにおける破断するまでの伸び量は、上記銅線2bにおける破断するまでの伸び量の1倍以上4倍以下である電線導体。上記電線導体2と、該電線導体2を被覆する絶縁被覆3とからなる絶縁電線1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的強度(引張強度、耐屈曲性)に優れるとともに導体抵抗が低い、特に、自動車用配線として好適な電線導体と、該電線導体を使用した絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、産業ロボット、電気機器、熱機器等においては、その高性能化とともに配線箇所が多くなり、またそれらの配線に使用される電線に対して要求される信頼性も一層強まってきている。
【0003】
このような要求に対して、例えば、特許文献1においては、ステンレス鋼線と銅線とを撚り合わせた導通部と、該導通部を被覆する被覆部とからなり、且つ、上記導通部の直径方向の断面におけるステンレス鋼線の断面占有率は、30〜70%である検出器用のリード線が開示されている。また、特許文献2においては、ステンレスからなる第一素線を複数本と、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、銅被覆アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の第二素線とを7本以上組合せて構成された自動車用導体が開示されている。
【0004】
また、本件に関連する技術として、特許文献3,4がある。
【0005】
【特許文献1】特開平9−147631号公報
【特許文献2】特開2004−207079公報
【特許文献3】特開2006−147507公報
【特許文献4】特願2006−270807明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、特に昨今の自動車においては、エアバッグシステム、アンチロックブレーキシステムといった安全部品の増加や、エンジン・駆動の電子制御化、或いは、衝突時の衝撃吸収空間の確保などにより、配線される電線数は増加する一方、作業スペースは極端に減少している。そのため、とりわけ、配線時における作業効率の向上と不良の発生防止のため、使用される電線の引張強度や耐屈曲性は、重視されてきている。また、自動車部品は常時、振動及びそれに伴う繰返しの屈曲が電線に働くため、耐屈曲性の向上は避けられない課題とされている。これに加えて、上記の電子制御化のみならず、ナビゲーションシステム、ETC、エアコンディショナーの多機能化など、アクセサリー部品の増加も著しいことから、消費電力の減少も要求されており、電線自体の抵抗損失も問題となりつつある。更には、スペースの確保や車重の低減のため、特に信号線として使用されるような電線においては、益々の細径化が要求されている。そのような場合でも、元の径のものと同等程度の機械的強度(引張強度、耐屈曲性)を備えるとともに、ISO規格等に合致した抵抗値を有する電線とする必要がある。このように、昨今の自動車用電線においては、機械的強度(引張強度、耐屈曲性)と導体抵抗の両方について、高次元でバランスが取れているものが要求されている。
【0007】
しかしながら、このような課題に正面から取り組んだ技術については、未だ開示されていない。例えば、特許文献1においては、ステンレス鋼線が過多となり、導体抵抗が大きくなり過ぎたものとなってしまう。また、特許文献2においては、導体抵抗については知見があるものの、耐屈曲性については全く考慮されていないものである。
【0008】
本発明はこのような従来技術の問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、機械的強度(引張強度、耐屈曲性)に優れるとともに導体抵抗が低い、特に、自動車用配線として好適な電線導体と、該電線導体を使用した絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するべく、本発明の請求項1による電線導体は、ステンレス鋼線と銅線とを撚り合せた電線導体において、上記電線導体の単位長さにおけるステンレス鋼線の重量率が、2%以上45%以下であることを特徴とするものである。
また、請求項2による電線導体は、請求項1記載の電線導体において、上記電線導体は、中心にステンレス鋼線が配置されていることを特徴とするものである。
また、請求項3による電線導体は、請求項1又は請求項2記載の電線導体において、上記電線導体は、最外層が銅線から構成されていることを特徴とするものである。
また、請求項4による電線導体は、請求項1〜請求項3記載の電線導体において、上記ステンレス鋼線における破断するまでの伸び量は、上記銅線における破断するまでの伸び量の1倍以上4倍以下であることを特徴とするものである。
また、請求項5による電線導体は、請求項1〜請求項4記載の電線導体において、上記電線導体の撚り幅が、層芯径の8倍以上22倍以下であることを特徴とするものである。
また、請求項6による絶縁電線は、請求項1〜請求項5記載の電線導体と、該電線導体を被覆する絶縁被覆とからなるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明による電線導体は、ステンレス鋼線と銅線とを特定の重量割合で撚り合せて構成しているため、機械的強度(引張強度、耐屈曲性)に優れるとともに導体抵抗が低いものとすることができる。
また、屈曲時、振動時、或いは、引張時に最も張力がかかる中心部に、引張強度の強いステンレス鋼線を配置することで、機械的強度(引張強度、耐屈曲性)を更に向上させることができる。
また、抵抗値の低い銅線によって最外層を構成することで、コネクタ接続等のために端子を接続する際、この端子と接触するのが銅線となるため、端子との接触抵抗を減少させることができる。そのため、結果として、電線導体としての抵抗も減少させることにつながる。
また、ステンレス鋼線における破断するまでの伸び量が、上記銅線における破断するまでの伸び量の1倍以上4倍以下であれば、電線導体が破断する際に、ステンレス鋼線と銅線がほぼ同時に破断することになる。従って、ステンレス鋼線の抗張力と銅線の抗張力が分散することなく、集中することで電線導体の機械的強度(引張強度、耐屈曲性)を更に向上させることができる。
また、電線導体の撚り幅が、層芯径の22倍以下であるため、屈曲時に電線導体に働く応力の方向が長手方向の角度に近くなることから、電線導体が断線し難くなり、耐屈曲性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の構成について図1及び図2を参照して説明する。本実施の形態は、電線導体の外周に絶縁被覆を被覆した絶縁電線に係るものである。また、以下の説明では、ステンレス鋼線又は銅線の何れかを指し示す際に、「導体素線」と称することがある。
【0012】
ステンレス鋼線2aは、SUS304、SUS316など、公知のステンレス鋼を用いれば良く、特に限定されない。好ましくは、生産性が向上することから、軟線であるSUS304W−1が使用される。また、ステンレス鋼の表面に、ニッケル、スズ、銅、銀等がコーティングされたものを使用しても良い。
【0013】
銅線2bも公知のものを用いれば良く、特に限定されない。勿論、メッキや蒸着等によりニッケル、スズ、銀等がコーティングされた銅線を使用することも考えられる。また、銅線2b自体の抗張力を高めるため、銅合金線、或いは、ニッケル、スズ、銀等がコーティングされた銅合金線を使用しても良い。
【0014】
上記したステンレス鋼線2aと銅線2bとは、破断するまでの伸び量が同程度になるよう選択されることが好ましく、具体的には、上記ステンレス鋼線における破断するまでの伸び量が、上記銅線における破断するまでの伸び量の1倍以上4倍以下であることが好ましい。4倍を超えると、ステンレス鋼線2aの優れた抗張力性を活かしきることができない。即ち、張力等を受けた時、ステンレス鋼線2aが弾性変形している段階で銅線2bが先に破断してから、ステンレス鋼線2aが破断するのでの抗張力が分散して働いてしまい、電線導体2としての引張強度が低下することがある。また、1倍以下であると、特に屈曲時において、ステンレス鋼線2aが屈曲に追従できず先に破断してしまうため、優れた耐屈曲性が得られないことがある。
【0015】
上記ステンレス鋼線2aと銅線2bとを撚り合せて電線導体2bとする。撚り合わせる方法にも限定はなく、多層撚りにする際には、それぞれの層が同方向に撚られていても良いし、隣接する層が逆方向に撚られる所謂SZ撚りという方法を用いても良い。また、導体素線の径が全ての層で同じである必要も無く、例えば、中心のみに径の太いステンレス鋼線を使用したり、特定の層のみ径の太い銅線を使用したりすることも考えられる。また、撚り合わせた後に円形圧縮加工を施しても良い。
【0016】
この際、屈曲時、振動時、或いは、引張時に最も張力がかかる中心部に、引張強度の強いステンレス鋼線2aを配置すれば、機械的強度(引張強度、耐屈曲性)を更に向上させることができるため好ましい。また、抵抗値の低い銅線2bによって最外層を構成すれば、コネクタ接続等のために端子を接続する際、この端子と接触するのが銅線2bとなるため、端子との接触抵抗を減少させることができ、結果として、電線導体2としての抵抗も減少させることにつながることから好ましい。
【0017】
ここで、電線導体2の撚り幅は、層芯径の8倍以上22倍以下であると好ましい。8倍未満であると、生産が難しくなり、コストも高騰してしまう。また、22倍を超えると、撚りが崩れ易くなる上、屈曲時に導体素線に働く応力の方向が、導体素線長手方向と垂直の角度に近くなることから、導体素線が断線し易くなり、耐屈曲性が低下する傾向がある。
【0018】
尚、上記した「撚り幅」とは、図2中にてLと示すもので、最外層に位置する導体素線(ここでは銅線2b)が一周回るのに要した長さのことを示す。また、上記した「層芯径」とは、図1及び図2中にてRと示すもので、電線導体1の断面で見たときに、最外層に位置する導体素線(ここでは銅線2b)の中心点を結んで形成される円の直径を示す。
【0019】
また、上記のようにして撚り合せて構成した電線導体2において、電線導体2の単位長さにおけるステンレス鋼線2aの重量割合が、2%以上45%以下である必要がある。45%を超えると、電線導体2としての導体抵抗が大きくなり、消費電力の増加を招く他、車載用センサの信号線等として使用した場合は、印加電圧の減衰を招くことになり、センサの動作に不具合を発生させることになる。また、2%以下であると、特に自動車用途のような過酷な環境下では、機械的強度(引張強度、耐屈曲性)が不十分なものとなってしまう。特に、電線導体2の単位長さにおけるステンレス鋼線2aの重量割合が、2%以上21%以下であることがより好ましい。
【0020】
このような電線導体2の外周に絶縁被覆3を被覆することで、絶縁電線1とすることができる。絶縁被覆3の材料についても特に限定はなく、フッ素樹脂の他に、塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、シリコーンゴムや各種エラストマー材料など、公知の絶縁材料を必要特性に応じて適宜使用すれば良い。また、被覆を行う際にも、押出成形やフィルム巻など適宜に工法を選択すれば良い。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の実施例及び比較例について図面を参照にして説明する。本実施例及び比較例は、電線導体の外周に絶縁被覆を被覆した絶縁電線に係るものである。
【0022】
(実施例1:図3参照)
電線導体2は、4本のステンレス鋼線2aと15本の銅線2bとを撚り合わせたものからなる。ステンレス鋼線2aとしては、SUS304W−1(0.2mmφ)を使用する。銅線2bとしては、ニッケルメッキ軟銅線(0.2mmφ)を使用する。ステンレス鋼線2aと銅線2bの配置は、中心にステンレス鋼線2aが配置され、その外周に3本のステンレス鋼線2aと3本の銅線2bとがそれぞれ交互になるように配置され、その外周に12本の銅線2bが配置されている。層芯径は0.8mmとなっているとともに、導体2の撚り幅は12.0mmとなり、導体2の撚り幅は層芯径の15倍となっている。また、導体2の単位長さにおけるステンレス鋼線2aの重量割合は、19%である。この導体2の外周に、絶縁被覆3としてフッ素樹脂を厚さ0.34mmで押出被覆し、絶縁電線1とする。この絶縁電線1の総断面積は2.22mmである。
【0023】
(実施例2:図4参照)
電線導体2は、3本のステンレス鋼線2aと16本の銅線2bとを撚り合わせたものからなる。ステンレス鋼線2aと銅線2bの配置は、中心に銅線2bが配置され、その外周に3本のステンレス鋼線2aと3本の銅線2bとがそれぞれ交互になるように配置され、その外周に12本の銅線2bが配置されている。その他の構成は実施例1と同様にして絶縁電線1を得た。
【0024】
(実施例3:図5参照)
電線導体2は、4本のステンレス鋼線2aと16本の銅線2bとを撚り合わせたものからなる。ステンレス鋼線2aと銅線2bの配置は、中心にステンレス鋼線2aが配置され、その外周に6本の銅線2bが配置され、その外周に3本のステンレス鋼線2aと9本の銅線2bが配置されている。その他の構成は実施例1と同様にして絶縁電線1を得た。
【0025】
(実施例4:図3参照)
ステンレス鋼線2aとしては、SUS304W−1(0.2mmφ)を使用し、破断するまでの伸び量は12%である。銅線2bとしては、ニッケルメッキ軟銅線(0.2mmφ)を使用し、破断するまでの伸び量は29%である。ステンレス鋼線2aにおける破断するまでの伸び量は、銅線2bにおける破断するまでの伸び量の0.4倍となっている。その他の構成は実施例1と同様にして絶縁電線1を得た。
【0026】
(実施例5:図3参照)
ステンレス鋼線2aとしては、SUS304W−1(0.2mmφ)を使用し、破断するまでの伸び量は45%である。銅線2bとしては、ニッケルメッキ軟銅線(0.2mmφ)を使用し、破断するまでの伸び量は8%である。ステンレス鋼線2aにおける破断するまでの伸び量は、銅線2bにおける破断するまでの伸び量の5.6倍となっている。その他の構成は実施例1と同様にして絶縁電線1を得た。
【0027】
(実施例6:図3参照)
層芯径は0.8mmとなっているとともに、導体2の撚り幅は5.2mmとなり導体2の撚り幅は層芯径の6.5倍となっている。その他の構成は実施例1と同様にして絶縁電線1を得た。
【0028】
(実施例7:図3参照)
層芯径は0.8mmとなっているとともに、導体2の撚り幅は20mmとなり導体2の撚り幅は層芯径の25倍となっている。その他の構成は実施例1と同様にして絶縁電線1を得た。
【0029】
(実施例8:図6参照)
電線導体2は、7本のステンレス鋼線2aと12本の銅線2bとを撚り合わせたものからなる。ステンレス鋼線2aと銅線2bの配置は、中心にステンレス鋼線2aが配置され、その外周に6本のステンレス鋼線2aが配置され、その外周に12本の銅線2bが配置されている。また、導体2の単位長さにおけるステンレス鋼線2aの重量割合は、34%である。その他の構成は比較例1と同様にして絶縁電線1を得た。
【0030】
(比較例1:図7参照)
電線導体2は、19本の銅線2bを撚り合わせたものからなる。銅線2bとしては、ニッケルメッキ軟銅線(0.2mmφ)を使用した。層芯径は0.8mmとなっているとともに、導体2の撚り幅は12.0mmとなり、導体2の撚り幅は層芯径の15倍となっている。また、導体2の単位長さにおけるステンレス鋼線2aの重量割合は、0%である。この導体2の外周に、絶縁被覆3としてフッ素樹脂を厚さ0.34mmで押出被覆し、絶縁電線1とする。この絶縁電線1の総断面積は2.22mmである。
【0031】
上記のようにして得られた実施例1〜8及び比較例1の絶縁電線1を試料として、下記の試験を行った。試験結果を表1に示す。
(導体抵抗測定)
JIS C3002に従い、長さ1mの試料の両端を電極に接続し、低抵抗計にて測定を行う。
(引張強度測定)
JIS C3002に準拠し、試料の片側を固定し、他端を引張試験機にて引張り、試料が切断されるときの強度を測定する。
(耐屈曲性試験)
片端を固定した状態でもう一方の端を毎分30回の速度で左右に90°屈曲させ、導体素線が全断するまでの回数を確認する。
(生産性評価)
単位時間当たりの電線導体2の出来高(m)を測定する。
【0032】
【表1】

【0033】
実施例1と実施例2の比較より、中心にステンレス鋼線2aがある実施例1の方が、引張強度が高く、優れた引張強度を有していることが確認できる。また、実施例1と実施例3を比較すると、引張強度及び耐屈曲性の数値は同程度であったが、実施例3は最外層にステンレス鋼線2aを使用しているため、端子等に接続する際には、接触抵抗が増大してしまうことが懸念される。
【0034】
実施例1、実施例4及び実施例5を比較により以下の点が確認できる。ステンレス鋼線2aの破断までの伸び量が銅線2bの破断までの伸び量の1倍未満である実施例4(0.4倍)、ステンレス鋼線2aの破断までの伸び量が銅線2bの破断までの伸び量の4倍を超える実施例5(5.6倍)ともに、引張強度及び耐屈曲性の値が実施例1よりも低くなっている。特に、1倍未満である実施例4の方が、引張強度及び耐屈曲性の値が低下している。
【0035】
実施例1、実施例6及び実施例7を比較により、以下の点が確認できる。撚り幅が層芯径の8倍未満の実施例6(6.5倍)は、引張強度及び耐屈曲性の数値は実施例1と同程度であったが、生産性の値は実施例1の半分程度であった。撚り幅が層芯径の22倍以上である実施例7(25倍)は、実施例1に比べて耐屈曲性の値が劣ることとなった。また、実施例7は生産性の値は高くなっているが、これは導体電線を生産する際のことであり、導体電線2上に押出成形によって絶縁被覆3を被覆する際には、圧力により撚りが崩れてしまうことから、押出圧力を低く設定せざるを得ず、返って生産性は低下することになっていた。
【0036】
実施例8は、電線導体2の単位長さにおけるステンレス鋼線2aの重量率が本願発明の範囲(2〜45%)には入っているものの、特に好ましい範囲(2〜21%)には入っていない。そのため、絶縁抵抗の値は実施例1よりも劣り、実用上最低ラインの値となっていた。
【0037】
比較例1においては、ステンレス鋼線を全く使用していないため、実施例1と比較して、遥かに引張強度及び耐屈曲性の値が劣り、自動車用途のような過酷な環境下では、機械的強度(引張強度、耐屈曲性)が不十分なものであった。
【0038】
次いで、上記実施例1〜8とは導体素線の本数が異なる実施例について図面を参照にして説明する。本実施の形態は、電線導体の外周に絶縁被覆を被覆した絶縁電線に係るものである。
【0039】
(実施例9:図8参照)
電線導体2は、7本のステンレス鋼線2aと30本の銅線2bとを撚り合わせたものからなる。ステンレス鋼線2aとしては、SUS304W−1(0.14mmφ)を使用し、破断するまでの伸び量は35%である。銅線2bとしては、ニッケルメッキ軟銅線(0.14mmφ)を使用し、破断するまでの伸び量は、18%である。ステンレス鋼線2aにおける破断するまでの伸び量は、銅線2bにおける破断するまでの伸び量の1.9倍となっている。ステンレス鋼線2aと銅線2bの配置は、中心にステンレス鋼線2aを配置し、その外周に6本のステンレス鋼線を配置し、その外周に12本の銅線2bを配置し、その外周に18本の銅線2bを配置している。層芯径は0.84mmとなっているとともに、導体2の撚り幅は10.5mmとなり、導体2の撚り幅は層芯径の12.5倍となっている。また、導体2の単位長さにおけるステンレス鋼線2aの重量割合は、17.2%である。この導体2の外周に、絶縁被覆3としてフッ素樹脂を厚さ0.35mmで押出被覆し、絶縁電線1とする。この絶縁電線1の総断面積は2.22mmである。
【0040】
(実施例10:図9参照)
電線導体2は、7本のステンレス鋼線2aと24本の銅線2bとを撚り合わせたものからなる。ステンレス鋼線2aとしては、SUS304W−1(0.12mmφ)を使用し、破断するまでの伸び量は32%である。銅線2bとしては、ニッケルメッキ軟銅線(0.12mmφ)及びニッケルメッキ軟銅線(0.2mmφ)を使用し、破断するまでの伸び量は0.12mmφで19%、0.2mmφで29%である。ステンレス鋼線2aにおける破断するまでの伸び量は、銅線2bにおける破断するまでの伸び量の1.7倍(0.12mmφのもの)、又は、1.1倍(0.2mmφのもの)となっている。ステンレス鋼線2aと銅線2bの配置は、中心にステンレス鋼線2aを配置し、その外周に6本のステンレス鋼線を配置し、その外周に12本の銅線2b(0.12mmφ)を配置し、その外周に12本の銅線2b(0.2mmφ)を配置している。層芯径は0.8mmとなっているとともに、導体2の撚り幅は12mmとなり、導体2の撚り幅は層芯径の15倍となっている。また、導体2の単位長さにおけるステンレス鋼線2aの重量割合は、12%である。この導体2の外周に、絶縁被覆3としてフッ素樹脂を厚さ0.34mmで押出被覆し、絶縁電線1とする。この絶縁電線1の総断面積は2.22mmである。
【0041】
(実施例11:図10参照)
電線導体2は、12本のステンレス鋼線2aと19本の銅線2bとを撚り合わせたものからなる。ステンレス鋼線2aとしては、SUS304W−1(0.12mmφ)を使用し、破断するまでの伸び量は32%である。銅線2bとしては、ニッケルメッキ軟銅線(0.12mmφ)及びニッケルメッキ軟銅線(0.2mmφ)を使用し、破断するまでの伸び量は0.12mmφで19%、0.2mmφで29%である。ステンレス鋼線2aにおける破断するまでの伸び量は、銅線2bにおける破断するまでの伸び量の1.7倍(0.12mmφのもの)、又は、1.1倍(0.2mmφのもの)となっている。ステンレス鋼線2aと銅線2bの配置は、中心に銅線2b(0.12mmφ)を配置し、その外周に6本の銅線2b(0.12mmφ)を配置し、その外周に12本のステンレス鋼線2aを配置し、その外周に12本の銅線2b(0.2mmφ)を配置している。層芯径は0.8mmとなっているとともに、導体2の撚り幅は12mmとなり、導体2の撚り幅は層芯径の15倍となっている。また、導体2の単位長さにおけるステンレス鋼線2aの重量割合は、21%である。この導体2の外周に、絶縁被覆3としてフッ素樹脂を厚さ0.34mmで押出被覆し、絶縁電線1とする。この絶縁電線1の総断面積は2.22mmである。
【0042】
(比較例2:図11参照)
電線導体2は、19本のステンレス鋼線2aと18本の銅線2bとを撚り合わせたものからなる。ステンレス鋼線2aと銅線2bの配置は、中心にステンレス鋼線2aが配置され、その外周に6本のステンレス鋼線2aが配置され、その外周に12本のステンレス鋼線2aが配置され、その外周に18本の銅線2bが配置されている。また、導体2の単位長さにおけるステンレス鋼線2aの重量割合は、48%である。その他の構成は実施例9と同様にして絶縁電線1を得た。
【0043】
上記のようにして得られた実施例9〜11、及び比較例2の絶縁電線1に対し、実施例1〜9及び比較例1と同様の試験を行った。試験結果を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
実施例1と導体素線の本数を変えた実施例9〜11であっても、電線導体2の単位長さにおけるステンレス鋼線2aの重量率が、2%以上45%以下であることから、何れも導体抵抗、引張強度及び耐屈曲性に優れるものである。特に、実施例10,11は銅線2bの径が太いものを併せて使用したが、何れも自動車用途に充分に使用できる特性を得ることができる。これに対し、比較例2は、ステンレス鋼線2bの重量率が45%を超える(48%)ため、絶縁抵抗の値が大きくなりすぎており、実使用が困難となっていることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上詳述したように本発明によれば、機械的強度(引張強度、耐屈曲性)に優れるとともに導体抵抗が低い電線導体と、該電線導体を使用した絶縁電線を得ることができる。そのため、この電線導体と絶縁電線は、自動車、産業ロボット、電気機器、熱機器等の配線に使用される電線として有用である。特に、過酷な環境下に晒される自動車用配線、更には、細径化がなされた信号線としても好適に使用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態による絶縁電線の構成を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態による絶縁電線の構成を示す一部切欠斜視図である。
【図3】本発明の実施例による絶縁電線の構成を示す断面図である。
【図4】本発明の実施例による絶縁電線の構成を示す断面図である。
【図5】本発明の実施例による絶縁電線の構成を示す断面図である。
【図6】本発明の実施例による絶縁電線の構成を示す断面図である。
【図7】本発明の比較例による絶縁電線の構成を示す断面図である。
【図8】本発明の実施例による絶縁電線の構成を示す断面図である。
【図9】本発明の実施例による絶縁電線の構成を示す断面図である。
【図10】本発明の実施例による絶縁電線の構成を示す断面図である。
【図11】本発明の比較例による絶縁電線の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 絶縁電線
2 電線導体
2a ステンレス鋼線
2b 銅線
3 絶縁被覆
L 撚り幅
R 層芯径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼線と銅線とを撚り合せた電線導体において、上記電線導体の単位長さにおけるステンレス鋼線の重量率が、2%以上45%以下であることを特徴とする電線導体。
【請求項2】
請求項1記載の電線導体において、上記電線導体は、中心にステンレス鋼線が配置されていることを特徴とする電線導体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の電線導体において、上記電線導体は、最外層が銅線から構成されていることを特徴とする電線導体。
【請求項4】
請求項1〜請求項3記載の電線導体において、上記ステンレス鋼線における破断するまでの伸び量は、上記銅線における破断するまでの伸び量の1倍以上4倍以下であることを特徴とする電線導体。
【請求項5】
請求項1〜請求項4記載の電線導体において、上記電線導体の撚り幅が、層芯径の8倍以上22倍以下であることを特徴とする電線導体。
【請求項6】
請求項1〜請求項5記載の電線導体と、該電線導体を被覆する絶縁被覆とからなる絶縁電線。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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