説明

電線用絶縁フィルム及びそれを用いた電線

【課題】 本発明は、伝送特性を向上させた発泡絶縁電線に好適な多孔質性を有した電線用絶縁フィルムにおいて、高空隙率かつ薄肉でありながら規定の機械的強度(引張強度、耐屈曲性等)を有することができ、しかも、加熱により収縮、変形、空孔のシャットダウンを引き起こしにくい耐熱性を有した安価でリサイクル性の良好な多孔質フィルムからなる低誘電率の電線用絶縁フィルムとそれを用いた電線を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の電線用絶縁フィルムは、溶融製膜によって形成される、重量平均分子量50万以上のポリオレフィン系樹脂20質量%以上と無機粉体50質量%以上を主体構成とし、平均孔径1μm以下の連続気孔を全体に有した三次元網目構造をなす、空隙率50%以上、厚さ100μm以下の無機質含有微多孔膜からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線の絶縁層あるいは被覆層等として使用可能な電線用絶縁フィルム、特に同軸ケーブル用絶縁フィルムとして好適な電線用絶縁フィルムとそれを用いた電線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高度情報化社会の発展により、情報通信機器の伝送速度の高速化、伝送距離の長距離化の要請が高まっている。このため、これらの機器に用いられる同軸ケーブルにあっても、特性インピーダンス、静電容量、伝送速度等の伝送特性により高特性が求められるようになっている。同軸ケーブルの伝送特性は、絶縁層の誘電率と極めて密接な関係にあり、絶縁層の誘電率が低い程、同軸ケーブルの伝送特性は向上する。
従来、伝送特性を向上させた発泡絶縁電線(絶縁層に気泡又は空孔を持たせ絶縁層の低誘電率化を図った電線)としては、絶縁層として、誘電率が低く、耐熱性、耐摩耗性、耐薬品性に優れ、機械的強度が高いフッ素樹脂製の多孔質フィルムを用い、これをテープ状にして導体に捲回・被覆したものがよく知られている(例えば、特許文献1〜4)。このような多孔質フィルムからなる絶縁層(絶縁フィルム)では、フィルムの空隙率を例えば70〜80%といった高空隙率に設定し、極めて低い誘電率を得ている。また、最近の発泡絶縁電線では、低特性インピーダンス化のため、絶縁層厚が減少される傾向にあり、絶縁フィルムに薄肉化が求められるようになってきている。したがって、このような絶縁フィルムにあっては、高空隙率かつ薄肉でありながら、規定の機械的強度を有するものでなければならない。
ところが、フッ素樹脂製多孔質フィルムは、非常に高価であるという難点があり、フッ素樹脂製多孔質フィルムに代わる安価な絶縁フィルムとして、重量平均分子量が50〜800万の超高分子量ポリエチレン樹脂製の多孔質フィルムが提案されている(例えば、特許文献5〜7)。超高分子量ポリエチレン樹脂製多孔質フィルムは、耐摩耗性、耐薬品性、機械的強度において、フッ素樹脂製多孔質フィルムとほぼ同等の特性を有するものの、耐熱性が低いという難点がある。そこで、フッ素樹脂製多孔質フィルムよりも安価であり、超高分子量ポリエチレン樹脂製多孔質フィルムよりも耐熱性が高い絶縁フィルムとして、架橋構造のポリプロピレン樹脂製の多孔質フィルムが提案されている(例えば、特許文献8)。
【特許文献1】特開昭62−5521号公報
【特許文献2】特開平5−250924号公報
【特許文献3】特開平10−283853号公報
【特許文献4】実開平5−83940号全文公報
【特許文献5】特開平9−82139号公報
【特許文献6】特開2001−297633号公報
【特許文献7】特開2002−50239号公報
【特許文献8】特開平5−54729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記超高分子量ポリエチレン樹脂製多孔質フィルムからなる絶縁フィルムでは、耐熱性が低く、加熱により収縮や変形を起こし、融点以上の温度では空孔が閉塞(シャットダウン)するため、例えば、電線を二次加工する際の半田付け時にかかる高温に耐えられないという問題があった。
また、前記架橋構造のポリプロピレン樹脂製多孔質フィルムからなる絶縁フィルムでは、架橋構造としたことにより、前記超高分子量ポリエチレン樹脂製多孔質フィルムからなる絶縁フィルムに比し、耐熱性が向上されるものの、逆に、柔軟性やリサイクル性が低下するという問題があった。つまり、架橋構造とされたポリプロピレン樹脂は、放射線の照射により劣化を生じ伸び性が著しく低下する。絶縁フィルムの伸び性が低下すると、耐屈曲性(柔軟性)が不足し、電線の折り曲げ等によってフィルムが破壊・破損し、絶縁層としての機能を十分に果たし得なくなる。また、架橋構造とされたポリプロピレン樹脂は、熱可塑性を有さなくなるため、電線のリサイクルに際し、絶縁フィルム部分を分離・回収しても、プラスチック原料として再溶融・再使用することができない。
そこで、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、伝送特性を向上させた発泡絶縁電線に好適な多孔質性を有した電線用絶縁フィルムにおいて、高空隙率かつ薄肉でありながら規定の機械的強度(引張強度、耐屈曲性等)を有することができ、しかも、加熱により収縮、変形、空孔のシャットダウンを引き起こしにくい耐熱性を有した安価でリサイクル性の良好な多孔質フィルムからなる低誘電率の電線用絶縁フィルムとそれを用いた電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の電線用絶縁フィルムは、前記目的を達成するべく、溶融製膜によって形成される、重量平均分子量50万以上のポリオレフィン系樹脂20質量%以上と無機粉体50質量%以上を主体構成とし、平均孔径1μm以下の連続気孔を全体に有した三次元網目構造をなす、空隙率50%以上、厚さ100μm以下の無機質含有微多孔膜からなることを特徴とする。
また、請求項2記載の電線用絶縁フィルムは、請求項1記載の電線用絶縁フィルムにおいて、前記無機質含有微多孔膜が、前記ポリオレフィン系樹脂と、前記無機粉体と、可塑剤を主体とした原料組成物を溶融混練し、シート状に押し出し、圧延・延伸等の薄肉化処理により成形後、前記可塑剤を除去してなるものであることを特徴とする。
また、請求項3記載の電線用絶縁フィルムは、請求項1又は2記載の電線用絶縁フィルムにおいて、前記ポリオレフィン系樹脂が重量平均分子量80万以上のポリエチレンであることを特徴とする。
また、請求項4記載の電線用絶縁フィルムは、請求項1乃至3の何れかに記載の電線用絶縁フィルムにおいて、前記無機粉体がシリカであることを特徴とする。
また、請求項5記載の電線用絶縁フィルムは、請求項1乃至4の何れかに記載の電線用絶縁フィルムにおいて、前記無機質含有微多孔膜の空隙率が70%以上であることを特徴とする。
また、本発明の電線は、前記目的を達成するべく、請求項6に記載の通り、請求項1乃至5の何れかに記載の電線用絶縁フィルムを用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明の電線用絶縁フィルムは、溶融製膜によって形成される、重量平均分子量50万以上のポリオレフィン系樹脂20質量%以上と無機粉体50質量%以上を主体構成とし、平均孔径1μm以下の連続気孔を全体に有した三次元網目構造をなす、空隙率50%以上、厚さ100μm以下の無機質含有微多孔膜により構成したので、高空隙率かつ薄肉でありながら規定の機械的強度を有することができ、加熱により収縮、変形、空孔のシャットダウンを引き起こしにくい耐熱性を有し、しかも、安価でリサイクル性の良好な低誘電率の電線用絶縁フィルムとすることができる。
よって、本発明の電線用絶縁フィルムを電線に用いた場合には、本発明の電線用絶縁フィルムの高多孔性(高空隙性)と薄膜性(薄肉性)により、絶縁層の低誘電率化すなわち伝送速度の高速化と、低特性インピーダンス化がもたらされ、本発明の電線用絶縁フィルムの良好な機械的強度により、良好な電線組立性と、良好な電線取り扱い性(耐屈曲性)がもたらされ、本発明の電線用絶縁フィルムの良好な耐熱性により、良好な電線二次加工性(半田耐熱性)がもたらされ、更に、本発明の電線用絶縁フィルムの良好な低廉性とリサイクル性により、電線の低価格化と、良好な電線リサイクル性がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の電線用絶縁フィルムは、溶融製膜によって形成される、重量平均分子量50万以上のポリオレフィン系樹脂20質量%以上と無機粉体50質量%以上を主体構成とし、平均孔径1μm以下の連続気孔を全体に有した三次元網目構造をなす、空隙率50%以上、厚さ100μm以下の無機質含有微多孔膜からなるものである。
前記無機質含有微多孔膜の空隙率を50%以上とすることにより、低誘電率の電線用絶縁フィルムとすることができ、空隙率70%以上とすれば極めて低誘電率となり好ましい。
前記無機質含有微多孔膜は、前記ポリオレフィン系樹脂と、前記無機粉体と、可塑剤を主成分とした原料組成物を溶融混練し、シート状に押し出し、圧延・延伸等の薄肉化処理により成形後、前記可塑剤を除去してなるものであることが好ましい。
【0007】
前記ポリオレフィン系樹脂は、前述の通り、重量平均分子量が50万以上であることが必要である。重量平均分子量が50万未満であると、無機質含有微多孔膜の機械的強度が低下し、無機質含有微多孔膜を高空隙率化あるいは薄肉化した場合に、規定の機械的強度が得られなくなる。尚、重量平均分子量の異なる2種類以上の材料を混合使用することも可能で、例えば、重量平均分子量が50万以上の材料と重量平均分子量が50万未満の材料を組み合わせて重量平均分子量50万以上としてもよい。尚、前記ポリオレフィン系樹脂の重量平均分子量は、800万以下であることが好ましい。重量平均分子量が800万を超えると、ポリオレフィン系樹脂の加工性が著しく低下し、無機質含有微多孔膜製造時の押出性や成形性が低下し生産性の低下を招くので好ましくない。このようなポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等の1種又は2種以上を使用することができる。特に、重量平均分子量80万以上のポリエチレンを使用すれば、機械的強度の優れた無機質含有微多孔膜が得られ、無機質含有微多孔膜を高空隙率かつ薄肉とした場合にも、規定の機械的強度を確保することができるので好ましい。
【0008】
前記無機粉体としては、シリカ、チタニア、アルミナ、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、カオリンクレー、タルク、珪藻土、ガラス繊維粉等の1種又は2種以上を使用することができる。前記無機粉体の中では、粒子径、比表面積等の各種粉体特性の選択範囲が広く、比較的安価で入手し易く、不純物が少ない点で、シリカが好ましい。このような無機粉体は、超微細な一次粒子が凝集して二次粒子を形成した複雑な微細構造をしており、ポリオレフィン系樹脂が作り出す無機質含有微多孔膜の網目構造体の全体に分散状態にて保持されるため、無機質含有微多孔膜の耐熱性確保のために50質量%以上を含有させているにも拘わらず、無機質含有微多孔膜の高空隙率化に寄与できる。
【0009】
本発明の電線用絶縁フィルムは、前述の通り、溶融製膜によって形成される、重量平均分子量50万以上の前記ポリオレフィン系樹脂20質量%以上と前記無機粉体50質量%以上を主体構成とした無機質含有微多孔膜からなるものであるが、従来の実質的にポリオレフィン系樹脂のみからなる微多孔膜に対して、無機粉体を50質量%以上含有させるようにしたことで、加熱により収縮、変形、空孔のシャットダウンを引き起こしにくくする耐熱性を持たせることができ、電線を二次加工する際の半田付け時にかかる高温にも耐え得る電線用絶縁フィルムとすることができるようになる。尚、前記ポリオレフィン系樹脂の含有量が20質量%未満である場合には、電線用絶縁フィルムに求められる規定の機械的強度(例えば、電線組立工程の捲回時に必要な強度)が得られなくなるので不適である。
前記無機質含有微多孔膜中の前記ポリオレフィン系樹脂及び前記無機粉体の含有量としては、前記ポリオレフィン系樹脂が20〜50質量%、前記無機粉体が50〜80質量%であることが好ましい。尚、前記ポリオレフィン系樹脂の含有量が50質量%を超えると、相対的に、前記無機粉体の含有量が50質量%未満となるので好ましくない。同様に、前記無機粉体の含有量が80質量%を超えると、相対的に、前記ポリオレフィン系樹脂の含有量が20質量%未満となるため好ましくない。
【0010】
前記無機質含有微多孔膜は、前述の通り、溶融製膜によって形成されるものであるが、具体的には、例えば、次のような方法によって得ることができる。まず、前記ポリオレフィン系樹脂、前記無機粉体、可塑剤の所定量を、レーディゲミキサあるいはヘンシェルミキサにて均一に混合する。得られた混合物を、押出成形機にて加熱溶融・混練しながら、シート状に押し出す。次いで、圧延・延伸等の薄肉化処理により目的厚さのシートに成形する。得られたシートを、適当な抽出溶剤中に浸漬して前記シート中の前記可塑剤を抽出除去した後、乾燥すれば、目的の無機質含有微多孔膜が得られる。
尚、上記乾燥工程の際、あるいは、乾燥工程の後工程において、前記シートに対して、適当な温度(ポリオレフィン系樹脂としてポリエチレンを使用する場合には、130〜140℃程度)で加熱処理を行うようにすれば、無機質含有微多孔膜の耐熱性(熱的寸法安定性)を更に向上させることができ、高温加熱時の収縮や変形を最小限に抑えることができるようになる。ただし、加熱処理を行った無機質含有微多孔膜では、加熱処理の条件(温度、時間、緩和率等)にもよるが、一般的な加熱処理条件下では、空隙率の低下が生じる。
前記可塑剤としては、飽和炭化水素からなる工業用潤滑油に代表される鉱物オイル、あるいは、フタル酸ジ−2−エチルヘキシルに代表される樹脂用可塑剤が使用できる。
前記抽出溶剤としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の飽和炭化水素系の有機溶剤や、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等のハロゲン化炭化水素系の有機溶剤が使用できる。
【実施例】
【0011】
次に、本発明の実施例を比較例及び従来例と共に詳細に説明する。尚、以下において、配合量を示す部とは、質量部を指すものとする。
(実施例1)
ポリオレフィン系樹脂として、重量平均分子量200万のポリエチレン樹脂粉体24部と重量平均分子量20万のポリエチレン樹脂粉体10部をブレンドした重量平均分子量150万のポリエチレン樹脂34部と、無機粉体として平均粒子径2.3μmのシリカ微粉体66部と、可塑剤として鉱物オイル140部とをヘンシェルミキサにて均一に攪拌・混合した。得られた混合物を、二軸押出成形機を用いて加熱溶融・混練しながらTダイからシート状に押し出し、成形ロール間を通して圧延し、厚さ120μmのシートとした。得られたシートを、更に、一軸方向に延伸して厚さ40μmのシートとした後、抽出溶剤であるn−デカン中に浸漬して前記シート中の前記可塑剤の全量を抽出除去し、乾燥して、前記ポリエチレン樹脂34質量%と前記シリカ微粉体66質量%で構成される厚さ40μmの無機質含有微多孔膜からなる電線用絶縁フィルムを得た。
【0012】
(実施例2)
実施例1と同一材料及び同一配合比にて得られた混合物を、二軸押出成形機を用いて加熱溶融・混練しながらTダイからシート状に押し出し、直ちに、近接して連続多段に配置された圧延ロール間を連続的に通して圧延し、厚さ40μmのシートとした。得られたシートを、抽出溶剤であるn−デカン中に浸漬して前記シート中の前記可塑剤の全量を抽出除去し、乾燥して、前記ポリエチレン樹脂34質量%と前記シリカ微粉体66質量%で構成される厚さ40μmの無機質含有微多孔膜からなる電線用絶縁フィルムを得た。
尚、前記圧延ロール及び圧延装置は、高精度な厚さ精度が出せるように特別に設計された非常に精密なものを使用した。
【0013】
(実施例3)
ポリオレフィン系樹脂として重量平均分子量100万のポリエチレン樹脂粉体45部と、無機粉体として平均粒子径2.3μmのシリカ微粉体55部と、可塑剤として鉱物オイル130部とをヘンシェルミキサにて均一に攪拌・混合した。得られた混合物を用いて実施例1と同様に製造して、前記ポリエチレン樹脂45質量%と前記シリカ微粉体55質量%で構成される厚さ40μmの無機質含有微多孔膜からなる電線用絶縁フィルムを得た。
【0014】
(実施例4)
実施例1と同一材料及び同一配合比にて得られた混合物を、二軸押出成形機を用いて加熱溶融・混練しながらTダイからシート状に押し出し、成形ロール間を通して圧延し、厚さ100μmのシートとした。得られたシートを、抽出溶剤であるn−デカン中に浸漬して前記シート中の前記可塑剤の全量を抽出除去し、乾燥して、前記ポリエチレン樹脂34質量%と前記シリカ微粉体66質量%で構成される厚さ100μmの無機質含有微多孔膜からなる電線用絶縁フィルムを得た。
【0015】
(比較例1)
ポリオレフィン系樹脂として重量平均分子量80万のポリエチレン樹脂粉体60部と、無機粉体として平均粒子径2.3μmのシリカ微粉体40部と、可塑剤として鉱物オイル90部とをヘンシェルミキサにて均一に攪拌・混合した。得られた混合物を用いて実施例1と同様に製造して、前記ポリエチレン樹脂60質量%と前記シリカ微粉体40質量%で構成される厚さ40μmの無機質含有微多孔膜からなる電線用絶縁フィルムを得た。
【0016】
(比較例2)
ポリオレフィン系樹脂として重量平均分子量20万のポリエチレン樹脂粉体45部と、無機粉体として平均粒子径2.3μmのシリカ微粉体55部と、可塑剤として鉱物オイル130部とをヘンシェルミキサにて均一に攪拌・混合した。得られた混合物を用いて実施例1と同様に製造して、前記ポリエチレン樹脂45質量%と前記シリカ微粉体55質量%で構成される厚さ40μmの無機質含有微多孔膜からなる電線用絶縁フィルムを得た。
【0017】
(従来例1)
ポリオレフィン系樹脂として重量平均分子量100万のポリエチレン樹脂粉体45部と、無機粉体として平均粒子径2.3μmのシリカ微粉体55部と、可塑剤として鉱物オイル130部とをヘンシェルミキサにて均一に攪拌・混合した。得られた混合物を、二軸押出成形機を用いて加熱溶融・混練しながらTダイからシート状に押し出し、成形ロール間を通して圧延し、厚さ120μmのシートとした。得られたシートを、更に、一軸方向に延伸して厚さ40μmのシートとした後、抽出溶剤であるn−デカン中に浸漬して前記シート中の前記可塑剤の全量を抽出除去し、乾燥し、更に、水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬して前記シリカ微粉体の全量を抽出除去し、水洗、乾燥して、前記ポリエチレン樹脂100質量%で構成される厚さ40μmの微多孔膜からなる電線用絶縁フィルムを得た。
【0018】
(従来例2)
加速電圧200kVの電子線を20Mrad照射して架橋したポリプロピレン樹脂100質量%で構成される厚さ40μmの微多孔膜を電線用絶縁フィルムとした。
【0019】
次に、上記にて得られた実施例1〜4、比較例1〜2、従来例1〜2の各電線用絶縁フィルムについて、厚さ、空隙率、平均孔径、引張強度、伸び、誘電率、耐熱性を以下の方法により測定した。結果を表1に示す。
〈厚さ〉
0.001mm目盛のダイヤルシックネスゲージで測定した。
〈空隙率〉
前記電線用絶縁フィルムの細孔容積(水銀圧入法)と真密度(浸漬法)から、次式により算出した。
空隙率=Vp/((1/ρ)+Vp)
但し、Vp:細孔容積(cm3/g)、ρ:真密度(g/cm3
〈平均孔径〉
水銀圧入法により測定した。
〈引張強度〉
JIS K 7127に準拠した等速引張試験機を用いて、引張速度100mm/分、試験片幅15mm、標点間距離20mmの条件にて測定した。
尚、この引張強度は、例えば、テープ状の電線用絶縁フィルムが導体に捲回される際の張力に対する耐性の指標とすることを目的としていることから、測定方向は、本発明の電線用絶縁フィルムをテープ状とした際の長さ方向となるMD方向を測定方向とした。
〈伸び〉
上記の引張強度測定時に試験片が破断した時点での試験片の伸び率(%)を測定し、伸びとした。
尚、この伸びは、例えば、テープ状の電線用絶縁フィルムが捲回されてなる電線の折り曲げに対する耐性(耐屈曲性)の指標とすることを目的としていることから、測定方向は、本発明の電線用絶縁フィルムをテープ状とした際の幅方向となるCD方向を測定方向とした。
〈誘電率〉
ASTM D 150に準拠した方法により、温度23℃、湿度50%RH、周波数1kHzの条件にて測定した。
〈耐熱性(破断温度)〉
前記電線用絶縁フィルムの両端を固定した状態で箱形乾燥機内に静置し、徐々に加温して、前記フィルムが破断した時点の温度(℃)を測定し、破断温度とした。
〈耐熱性(シャットダウン温度)〉
前記電線用絶縁フィルムの透気度が10000秒/cc以上となる温度(℃)を算出し、シャットダウン温度とした。
〈耐熱性(熱収縮率)〉
前記電線用絶縁フィルムを所定寸法に切り取って試料とし、長側辺の寸法(L0)を測定する。この試料を所定温度(120℃/150℃)に設定された箱形乾燥機内に無緊張状態にて60分間静置する。その後、試料を取り出し、15分間放置して室温まで冷却し、長側辺の寸法(LT)を測定する。次式により、熱収縮率を算出する。
熱収縮率(%)=(L0−LT)/(L0)×100
【0020】
【表1】

【0021】
表1から以下のようなことが分かった。
(1)本発明の実施例1〜4の電線用絶縁フィルムは、厚さが100μm以下でかつ空隙率が60%以上でありながら、引張強度及び伸びが基準を十分に満足し、機械的強度が良好であった。つまり、実施例1〜4の電線用絶縁フィルムは、例えば電線組立工程の捲回時にかかる張力に耐え得る十分な引張強度を有し、また、例えば電線の折り曲げに耐え得る十分な耐屈曲性を有することが推測できた。特に、実施例1の電線用絶縁フィルムは、十分な機械的強度を確保しつつ、厚さが40μmと極めて薄肉で、空隙率が80%と極めて高空隙率なフィルムとすることができた。
(2)本発明の実施例1〜4の電線用絶縁フィルムは、60%以上の高空隙率が得られたことにより、誘電率を1.5以下の低誘電率にすることができた。特に、80%の極めて高空隙率が得られた実施例1の電線用絶縁フィルムでは、誘電率が1.20と極めて低誘電率にすることができた。
(3)本発明の実施例1〜4の電線用絶縁フィルムは、ポリエチレン樹脂100質量%からなる従来例1の電線用絶縁フィルムに比べ、破断温度、シャットダウン温度、熱収縮率の各特性が改善されており、耐熱性を向上できた。特に、実施例2の電線用絶縁フィルムは、厚さが40μmと極めて薄肉で、空隙率が75%と極めて高空隙率であるにも拘わらず、同じ厚さの架橋したポリプロピレン樹脂100質量%からなる従来例2の電線用絶縁フィルムと同等以上の耐熱性を得ることができた。
(4)本発明の実施例1〜4の電線用絶縁フィルムは、熱可塑性を有するポリエチレン樹脂からなるので、電線のリサイクルに際し、絶縁フィルム部分を分離・回収すれば、プラスチック原料として再溶融・再使用することができ、リサイクル性が良好である。
(5)これに対し、比較例1の電線用絶縁フィルムは、無機粉体の含有量が40質量%と少なかったため、120℃でフィルムの破断を、135℃で空孔のシャットダウンを生じ、ポリエチレン樹脂100質量%からなる従来例1の電線用絶縁フィルムに比べ、明確な耐熱性の向上は見られなかった。
(6)また、比較例2の電線用絶縁フィルムは、ポリエチレン樹脂の重量平均分子量が20万と低分子量であったため、機械的強度が低下し、引張強度において基準を満足できなかった。
(7)また、従来例1の電線用絶縁フィルムは、重量平均分子量が100万のポリエチレン樹脂を用いたものの無機粉体を含有せず実質的にポリエチレン樹脂のみで構成したため、機械的強度は基準を十分に満足できたものの、100℃でフィルムの破断を、135℃で空孔のシャットダウンを生ずる等、耐熱性が良好ではなかった。
(8)また、従来例2の電線用絶縁フィルムは、架橋したポリプロピレン樹脂100質量%で構成したため、耐熱性は、ポリエチレン樹脂100質量%からなる従来例1の電線用絶縁フィルムに比べ大幅に向上できたものの、架橋したポリプロピレン樹脂が熱可塑性を有しないため、電線のリサイクルに際し、絶縁フィルム部分を分離・回収しても、プラスチック原料として再溶融・再使用することができず、リサイクル性が良好でない。
(9)以上より、本発明の電線用絶縁フィルムは、薄肉かつ高空隙率でありながら十分な機械的強度を有し、耐熱性及びリサイクル性が良好な電線用絶縁フィルムであり、従来のフッ素樹脂製多孔質フィルムからなる電線用絶縁フィルムとほぼ同等の機械的強度と高空隙率を有し、従来の架橋構造のポリプロピレン樹脂製多孔質フィルムからなる電線用絶縁フィルムとほぼ同等の耐熱性を有し、従来の超高分子量ポリエチレン樹脂製多孔質フィルムからなる電線用絶縁フィルムとほぼ同等の低廉性を有することが推測できた。
よって、本発明の電線用絶縁フィルムを用いて電線を形成した場合には、本発明の電線用絶縁フィルムの高多孔性(高空隙性)と薄膜性(薄肉性)により、絶縁層の低誘電率化すなわち伝送速度の高速化と、低特性インピーダンス化をもたらし、本発明の電線用絶縁フィルムの良好な機械的強度により、良好な電線組立性と、良好な電線取り扱い性(耐屈曲性)をもたらし、本発明の電線用絶縁フィルムの良好な耐熱性により、良好な電線二次加工性(半田耐熱性)をもたらし、更に、本発明の電線用絶縁フィルムの良好な低廉性とリサイクル性により、電線の低価格化と、良好な電線リサイクル性をもたらすことが推測できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融製膜によって形成される、重量平均分子量50万以上のポリオレフィン系樹脂20質量%以上と無機粉体50質量%以上を主体構成とし、平均孔径1μm以下の連続気孔を全体に有した三次元網目構造をなす、空隙率50%以上、厚さ100μm以下の無機質含有微多孔膜からなることを特徴とする電線用絶縁フィルム。
【請求項2】
前記無機質含有微多孔膜が、前記ポリオレフィン系樹脂と、前記無機粉体と、可塑剤を主体とした原料組成物を溶融混練し、シート状に押し出し、圧延・延伸等の薄肉化処理により成形後、前記可塑剤を除去してなるものであることを特徴とする請求項1記載の電線用絶縁フィルム。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系樹脂が重量平均分子量80万以上のポリエチレンであることを特徴とする請求項1又は2記載の電線用絶縁フィルム。
【請求項4】
前記無機粉体がシリカであることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の電線用絶縁フィルム。
【請求項5】
前記無機質含有微多孔膜の空隙率が70%以上であることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の電線用絶縁フィルム。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載の電線用絶縁フィルムを用いたことを特徴とする電線。

【公開番号】特開2006−24473(P2006−24473A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−202260(P2004−202260)
【出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】