電線結束用封止材及び電線結束方法
【課題】隣接する電線間或いは電線の束間を、ピンホールを生じることなく、高分子材料で埋め尽くした状態で複数の電線或いは電線の束を簡便に結束でき、これにより、電線の結束部における充分な防水性能を達成する電線結束用封止材及び電線結束方法の提供。
【解決手段】複数の、電線或いは電線の束を電線相互の間隙を高分子材料で埋めた状態で結束する際に用いられる電線結束用封止材であって、熱溶融性の高分子材料で形成されており、その形状が、電線を嵌め込んだ状態とした場合に、電線或いは電線の束の外周の全てが覆われる状態となる径の上下が開放された円筒部分を有し、且つ、該円筒部分の1箇所に、その長さ方向にわたって、1本の電線或いは複数本の電線の束を円筒内部に嵌め込むための切り込み或いは細いスリットが設けられたものである電線結束用封止材。
【解決手段】複数の、電線或いは電線の束を電線相互の間隙を高分子材料で埋めた状態で結束する際に用いられる電線結束用封止材であって、熱溶融性の高分子材料で形成されており、その形状が、電線を嵌め込んだ状態とした場合に、電線或いは電線の束の外周の全てが覆われる状態となる径の上下が開放された円筒部分を有し、且つ、該円筒部分の1箇所に、その長さ方向にわたって、1本の電線或いは複数本の電線の束を円筒内部に嵌め込むための切り込み或いは細いスリットが設けられたものである電線結束用封止材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の、電線或いは電線の束を結束するための電線結束用封止材及びこれを用いた電線結束方法に関し、更に詳しくは、隣接する電線間を、或いは複数本の電線の束間を、隙間なく高分子材料で完全に埋めた状態になるように複数の、電線或いは電線の束を結束して、電線の結束部に充分な防水性能を確保することができる電線結束用封止材及び電線結束方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のエンジンルームと車室との間を仕切るダッシュボードの穴などに通される複数の電線は、それらの電線相互同士の間隙からの水の浸入を防ぐために、複数の電線を封止材の融着により結束している。この場合の結束方法としては、例えば、図8に示すような、櫛状に成型された封止材を使用する方法の提案がある(特許文献1参照)。この方法では、櫛状に成型された封止材の溝に電線の結束予定部位が挿入される。そして、結束対象の全ての電線を複数の封止材によって保持し、その後、電線の結束予定部位の外周に、加圧復元力を持つ磁性体が添加された耐熱ゴム製の弾性グロメットを嵌め合わせ、その弾性収縮力によって、電線の結束予定部位の外周を加圧することで、複数の電線を拘束する。そして、更に、該グロメットの外方のコイルから封止材に高周波をかけ、交流磁界内において、グロメットの構成材料である磁性体を誘導加熱し、その発熱によって封止材を溶融させると同時に、グロメットの弾性収縮力により、溶融した封止材材料を加圧して電線の間に流し込んで、複数の電線を結束している(図9参照)。
【0003】
又、ホットメルトを環状に折り曲げ可能に波板状に加工した電線保持材を、封止材とする方法の提案もある(特許文献2参照)。この方法で使用される封止材であるホットメルトは、図10に示すように、R状のヒンジを介して隣接した複数の電線保持部材(波板の谷の部分)を有し、この保持部材はヒンジを介して環状に折り曲げ可能に形成されている。各保持部材は、断面が略C字形状を有し、電線を1本ずつ保持可能になっている。そして、電線を結束する際には、各保持部材のC字形状の部分に電線を1本ずつ保持させ、図11に示すように、この状態のホットメルトを環状に巻き、その後、ホットメルトの外周部に熱収縮チューブを巻回した後、熱収縮チューブ及びホットメルトを熱風等によって加熱する。この結果、ホットメルトが溶融して電線の間に回りこんで、複数の電線間の隙間を埋め、結束が完了する。
【0004】
【特許文献1】特開平9−27221号公報
【特許文献2】特開2000−188024公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの従来の方法では、基本的に、封止材或いはホットメルトを溶融させる前の状態において、電線の周りが、封止材或いはホットメルトで(即ち、これらを構成している溶融材料で)覆われていない部分があり、電線同士が接する可能性がある。又、保持した部分から電線が離れ、電線同士が接する可能性もある。このような状態において材料を溶融させて、複数の電線を結束させた場合には、隣接している電線によって形成された間隙に溶融材料が入っていかないで、電線間に、溶融材料が充填されない隙間を生じる可能性がある。例えば、図12のように3本の電線を結束した場合に、3本の電線の中心に溶融材料が充填されていないピンホールが生じることがあり、このピンホールによって結束部の防水性が低下することが懸念される。
【0006】
従って、本発明の目的は、隣接する電線間或いは複数本の電線の束間を、上記したようなピンホール(隙間)を生じることなく、高分子材料で完全に埋め尽くした状態で複数の電線或いは電線の束を簡便に結束でき、これにより、電線の結束部における充分な防水性能を達成することができる電線結束用封止材及び電線結束方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記した従来技術の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、熱溶融性の高分子材料で形成してなる、電線或いは電線の束への嵌め込みが容易にでき、電線或いは電線の束を嵌め込んだ状態とした場合に、電線或いは電線の束の外周の全てが覆われる状態になる特定の形状を有する封止材を用いれば、各電線或いは各電線の束を、それぞれ独立した状態で封止材に容易に嵌め込むことができ、しかも、これによって、各電線或いは各電線の束の外周が、熱溶融性の高分子材料で完全に覆われた状態となる。この結果、この状態の封止材を複数束ねて加熱した場合に、封止材を形成している溶融材料が溶融して電線或いは電線の束相互の間隙が確実に埋まり、隙間のない結束部が形成され、防水効果に優れた電線結束が達成されることを見いだして本発明に至った。
【0008】
上記の目的は、以下の本発明によって達せられる。即ち、本発明は、複数の、電線或いは電線の束を電線相互の間隙を高分子材料で埋めた状態で結束する際に用いられる電線結束用封止材であって、熱溶融性の高分子材料で形成されており、その形状が、電線を嵌め込んだ状態とした場合に電線或いは電線の束の外周の全てが覆われる状態となる径の、上下が開放された円筒部分を有し、且つ、該円筒部分の1箇所に、その長さ方向にわたって、1本の電線或いは複数本の電線の束を円筒内部に嵌め込むための切り込み或いは細いスリットが設けられてなるものであることを特徴とする電線結束用封止材である。かかる電線結束用封止材の好ましい形態としては、上記円筒部分を少なくとも2以上有し、これらの円筒部分が一体に構成されている電線結束用封止材が挙げられる。又、電線結束用封止材の好ましい形態としては、上記熱溶融性の高分子材料が、塩化ビニル系ポリマー、エチレン系ポリマー、エステル系ポリマー、アミド系ポリマー及びウレタン系ポリマーから選ばれる、1種の樹脂、又は2種以上のポリマーブレンド或いはポリマーアロイのいずれかである電線結束用封止材が挙げられる。
【0009】
更に好ましい形態としては、上記において、加熱した場合に容易に溶融し、しかも、複数の電線を保持した状態で、各電線間を埋め尽くす状態となる適切な融点を持った適切な材料で形成された電線結束用封止材が挙げられる。特に、熱溶融性の高分子材料として、結束の対象とする電線を被覆している被覆材料の融点よりも低い融点を有するものを用いることが挙げられる。
【0010】
又、本発明の別の形態は、上記いずれかの電線結束用封止材を用いる電線結束方法において、電線結束用封止材の円筒部分に設けられている切り込み或いは細いスリットから1本の電線或いは複数本の電線の束を円筒内部に嵌め込み、この状態の円筒部分を複数個まとめ、その後、加熱して電線結束用封止材の構成材料である熱溶融性の高分子材料を溶融し、複数の、電線或いは電線の束を電線相互間を隙間なく高分子材料で埋めた状態で結束することを特徴とする電線結束方法である。かかる電線結束方法の好ましい形態としては、更に、熱収縮性材料からなる部材の内部に、1本の電線或いは複数本の電線の束が円筒内部に嵌め込まれた状態の電線結束用封止材を複数入れ、上記管状部材の外側から熱で加熱する方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる電線結束用封止材によれば、結束すべき複数の電線のそれぞれ1本を、或いは複数本の電線からなる束を、電線結束用封止材の円筒部分の切り込み或いは細いスリット(図1〜5参照)から簡単に嵌め込むことができ、しかも、該円筒部分が、上記電線或いは電線の束を嵌め込んだ状態とした場合に、電線或いは電線の束の外周の全てが覆われる状態となる径を有するものであるため、電線の結束作業において、電線或いは電線の束が封止材より脱落することがなく、電線の結束操作を容易に且つ確実にすることができる。又、本発明によれば、電線結束用封止材の各円筒部分に、それぞれ電線を1本、或いは複数本からなる電線の束を嵌め込むことで、各電線或いは電線の束の外周の全てが電線結束用封止材を構成する熱溶融性の高分子材料で覆われる状態となるため、この状態で複数の円筒部分をまとめて加熱し、構成材料である熱溶融性の高分子材料を溶融することで複数の円筒部分を融着して容易に一体化できる。本発明にかかる電線結束用封止材によれば、その際に、それぞれの電線或いは電線の束の周囲に、十分な量で該封止材を構成する熱溶融性の高分子材料が存在する状態となるため、各電線或いは電線の束間に高分子材料が充填されていない状態になることはない。このため、結束された各電線或いは電線の束間に隙間を生じることがなく、電線相互間を高分子材料で埋め尽くした状態とでき、結束部は、防水性に優れたものとなる。
【0012】
更に、本発明にかかる円筒部分を複数有する形態の電線結束用封止材(図2〜4参照)とすれば、電線結束用封止材に嵌め込んだ複数の電線或いは電線の束をよりまとめやすくできる。又、本発明にかかる電線結束用封止材は、電線或いは電線の束を嵌め込んだ状態とした場合に脱落することがないので、結束すべき電線或いは電線の束のそれぞれに、予め電線結束用封止材を嵌め込んだ状態として用意しておくことが可能である。このようにしておけば、加熱前の現場作業の際に、電線或いは電線の束に封止材を取り付けるといった手間がなくなるので、電線の結束工程の時間短縮が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。図1は、本発明にかかる電線結束用封止材の円筒部分に、電線を1本嵌め込む形態の場合を模式的に示したものである。本発明はこれに限定されず、図5に示したように、電線結束用封止材の円筒部分に、電線を複数本束にして嵌め込むようにしてもよい。本発明にかかる電線結束用封止材は、先ず、図1或いは図5に例示したように、その形状が、電線を嵌め込んだ状態とした場合に、1本の電線、或いは、複数本からなる電線の束の外周の全てが覆われる状態となる径の円筒部分を有することを特徴とする。更に、本発明にかかる電線結束用封止材は、該円筒部分の上下は開放されており、且つ、該円筒部分の1箇所に、その長さ方向にわたって、円筒内部に、少なくとも1本の電線に嵌め込むための切り込み或いは細いスリットが設けられていることを特徴とする。図1或いは図5に示した例では、円筒部分が1個設けられているが、図2〜4に示ように、円筒部分が複数個設けられている封止材も好ましい形態である。
【0014】
本発明にかかる電線結束用封止材では、その円筒部分の径を、1本の電線或いは複数本からなる電線の束を嵌め込んだ状態とした場合に、電線或いは電線の束の外周の全てが封止材で覆われる状態となるようにすることを要する。このようにするためには、結束対象である種々の太さの電線に合わせて、更には、内部に嵌め込む電線の本数に応じて、円筒部分の径を種々に変更したものを作成し、用意しておくことが好ましい。具体的には、電線を嵌め込んだ状態で、図1(b)或いは図6に示したように、1本の電線或いは複数の電線の束の外周が電線結束用封止材の構成材料である熱溶融性の高分子材料で覆われた状態とできるものであればよい。例えば、図1(c)に示したように、電線或いは電線の束を嵌め込んだ状態で、切り込み或いは細いスリット部分が一部重なった状態となるものであってもよい。円筒部分の具体的な形状としては、電線の太さ等の形状によるが、1本の電線を嵌め込むものとしては、例えば、内径が1〜10mm程度で、肉厚が0.5〜3.0mm程度とする。複数本の電線の束を嵌め込むための封止材である場合には、各電線の太さや束にする本数等によって、その内径や肉厚を適宜に決定すればよい。又、円筒部分の長さは、結束部を設ける用途に応じて適宜に決定すればよい。例えば、10〜100mm程度とする。
【0015】
本発明にかかる電線結束用封止材では、上記したような円筒部分の1箇所に、その長さ方向にわたって、円筒内部に電線或いは電線の束を嵌め込むための切り込み或いは細いスリットが設けられている。このように構成することで、電線或いは電線の束に封止材を容易に嵌め込むことができる。スリットを設ける場合の幅としては、電線或いは電線の束に嵌め込んだ状態とした場合に、途切れる部分が生じることなく、電線或いは電線の束の外周が電線結束用封止材の構成材料である熱溶融性の高分子材料で覆われた状態とできるものであればよいが、狭くすることが好ましい。
【0016】
本発明にかかる電線結束用封止材では、上記したように、熱溶融性の高分子材料で形成された円筒部分に、長さ方向にわたって切り込み或いは細いスリットが設けられているため、結束すべき電線或いは電線の束は、この切れ目、或いはスリットによって簡単に円筒内に挿入される。又、円筒部分が、可撓性を有する熱溶融性の高分子材料で形成されているため、電線に嵌め込んだ状態で、本発明にかかる電線結束用封止材は固定されて脱落することがない。
【0017】
本発明にかかる電線結束用封止材は、熱溶融性の高分子材料で形成されてなるが、具体的には、熱溶融性の高分子材料として、塩化ビニル系ポリマー、エチレン系ポリマー、エステル系ポリマー、アミド系ポリマー及びウレタン系ポリマーから選ばれる、1種の樹脂、又は2種以上のポリマーブレンド或いはポリマーアロイを用いることが好ましい。これらの中でも、加熱溶融した場合に、電線への接着性に優れるものを使用することが好ましい。特に、電線被覆に用いられている、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン等の材料よりも低い融点を持つものを使用することが好ましい。
【0018】
上記における塩化ビニル系ポリマーとしては、例えば、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマー等が挙げられる。上記におけるエチレン系ポリマーとしては、例えば、ポリエチレン、エチレン・塩化ビニルコポリマー、エチレン・塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマー、エチレン・ビニルアルコールコポリマー、エチレン・酢酸ビニルコポリマー、エチレン・アクリル酸コポリマー、エチレン・アクリル酸エステルコポリマー、エチレン・メタクリル酸コポリマー、エチレン・メタクリル酸エステルコポリマー、エチレン・α−オレフィンコポリマー、アイオノマー、エチレン・エチルアクリレート・無水マレイン酸コポリマー等が挙げられる。上記におけるウレタン系ポリマーとしては、ポリウレタン、ウレタン系コポリマー等が挙げられる。上記におけるエステル系ポリマーとしては、ポリエステル、エステル系コポリマー等が挙げられる。上記におけるアミド系ポリマーとしては、ポリアミド、アミド系コポリマー等が挙げられる。これらは1種の樹脂、又は2種以上の樹脂のポリマーブレンド或いはポリマーアロイ等として用いられる。材料を選択する場合には、先に述べたように、電線の被覆材料との兼ね合いで適宜な溶融温度を有し、電線或いは電線の束を容易に嵌め込むことができる程度の適度な可撓性を有し、且つ、溶融して電線或いは電線の束を保持した状態で適度な強度を有するものとなるものを選択することが好ましい。
【0019】
本発明にかかる電線結束用封止材は、例えば、下記のようにして製造することができる。上記に挙げたような熱溶融性の高分子材料を公知の方法で混練し、押出成形等の方法で、1以上の円筒部分を有し、且つ円筒部分の一箇所に、長さ方向にわたって形成された切り込み或いは細いスリットを有するものを、数m〜数10mの長い状態で成形する。次に、得られた円筒部分を有するものを(図1に例示した形態のものでは円筒管)、適宜な長さに切断する。
【0020】
以下に、上記したような構成の本発明にかかる電線結束用封止材を使用して複数の電線或いは電線の束を結束する電線結束方法について説明する。前述したように、本発明にかかる電線結束用封止材は、図1〜4に示したように、円筒部分を1或いは複数有してなるものである。複数の、電線或いは電線の束の結束にあたっては、先ず、これらの円筒部分を、それぞれ1本の電線の、或いは複数本からなる電線の束の、結束する所望の位置に、切り込み或いはスリットを用いて嵌め込む。次に、このようにして封止材を嵌めた電線或いは電線の束を複数、封止材の位置でまとめて冶具で固定し、封止材を加熱する。
【0021】
より好ましい形態としては、図6又は7に示したように、更に熱収縮性材料からなる部材(例えば、熱収縮性チューブ等)を用いる形態が挙げられる。この場合には、電線或いは電線の束がそれぞれに嵌め込まれている封止材の位置で複数の封止材をまとめて、これらの封止材の回りに、上記熱収縮性部材を巻き回す等して複数の封止材を固定し、熱収縮性部材の内部に、電線或いは電線の束が収納されている状態の封止材が複数入った状態とする(図6又は7参照)。そして、この状態で熱収縮性材料を加熱する。この場合、複数の封止材をまとめた部分を熱風等で加熱することで、各封止材を構成している熱溶融性の高分子材料が溶融し、更に、これらの封止材の周りに設けた熱収縮性部材は、熱収縮する。この際に、封止材及び熱収縮性部材の形成材料中に磁性粉体を混入させておけば、高周波による誘導加熱によって結束操作をすることも可能である。上記の結束操作の結果、図7(b)に示すように、各電線或いは電線の束の周囲は、高分子材料で埋め尽くされた状態となり、又、それぞれの封止材は融着し、隙間のない状態で一体化する。
【0022】
上記した結束操作において、加熱を減圧下で行うことも好ましい形態である。このようにすれば、各封止材を構成する溶融した高分子材料が融着する際に、隙間が生じるという欠陥をより減少した状態で結束することができる。又、加圧復元力をもつ弾性材料でできたグロメットに、電線或いは電線の束を嵌め込んだ状態の本発明にかかる電線結束用封止材を装着し、この状態で、複数の封止材を束ねて加熱することも好ましい形態である。このようにすれば、溶融した高分子材料は、電線或いは電線の束同士の間隙を埋めながら電線或いは電線の束の長さ方向に拡がる。この方法では、高分子材料によって確実に電線或いは電線の束は被覆され、又、複数の封止材は融着し、一体化した封止材間に隙間は生じない。これにより、より防水性に優れた複数の電線の結束が可能となる。
【実施例】
【0023】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。文中、「部」又は「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
【0024】
実施例1
電線結束用封止材の材料としてエステル系ポリマーを用い、押出成形により、内径が1.5mm、肉厚0.5mmで、長さ方向に沿って切れ目を有する、長尺の円筒状のものを形成した。これを長さ50mmに切断して、図1に示した形状を有する本実施例の電線結束用封止材を30個得た。このようにして得た封止材のそれぞれを、外径が1.5mmのポリ塩化ビニル製絶縁被覆を有する電線の所望の位置に嵌め込んで、合計30本の封止材が嵌め込まれた電線を用意した。電線に封止材を嵌め込むことは簡単に行え、作業は短時間で終了した。又、嵌め込んだ封止材は、電線から脱落することもなかった。
【0025】
次に、上記のようにして得た封止材が嵌め込まれた30本の電線を、ポリエチレン製の熱収縮性チューブ内に挿入して、封止材の部分がチューブ内に収納されるようにした。次に、熱収縮性チューブの上から120℃の熱風で加熱し、封止材を溶融させた。冷却後、熱収縮性チューブを除去して、電線の結束状態を観察したところ、電線相互の間隙は、封止材を構成する前記のポリマーが埋め尽くされており、電線相互は強固に結束されていた。更に、防水性も充分に確保されており、本実施例の電線結束用封止材は実用的であることが確認された。
【0026】
実施例2
電線結束用封止材の形状が、内径が5mm、肉厚1mmである5本の封止材を使用し、該封止材のそれぞれを、7本ずつの電線の束に嵌め込んだ以外は実施例1と同様にして、複数の電線の結束操作を行った。この結果、電線の束は相互に強固に結束されており、結束部分においての防水性も充分に確保されていることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の活用例としては、隣接する電線或いは電線の束間を、ピンホール(隙間)を生じることなく、高分子材料で完全に埋め尽くし、封止材同士が融着して隙間がない状態で一体化した状態で結束でき、複数の、電線或いは電線の束の結束部において充分な防水性能を達成することができる電線結束用封止材が挙げられる。又、このような電線結束用封止材を用いることで、結束操作を確実に且つ簡便にでき、結束工程の時間短縮が図れる電線結束方法が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明にかかる電線結束用封止材の1例の斜視図、及び1本の電線を嵌め込んだ状態を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明にかかる電線結束用封止材の、円筒部分を2つ有する例の斜視図である。
【図3】本発明にかかる電線結束用封止材の、円筒部分を3つ有する例の斜視図である。
【図4】本発明にかかる電線結束用封止材の、円筒部分を4つ有する例の斜視図である。
【図5】本発明にかかる電線結束用封止材の別の例における、複数本の電線の束を嵌め込んだ状態を模式的に示す断面図である。
【図6】図5の電線結束用封止材の使用を説明するための概略断面図である。
【図7】本発明にかかる電線結束用封止材の使用を説明するための概略断面図である。
【図8】従来の封止材の斜視図である。
【図9】従来の封止材に熱収縮性チューブを取り付けた状態を示す概略断面図である。
【図10】従来の封止材の斜視図である。
【図11】従来の封止材を丸め込んで、外周部に熱収縮性チューブを取り付けた状態を示す概略断面図である。
【図12】従来の封止材を加熱溶融し、電線の間にピンホールが発生した状態を示す概略断面図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の、電線或いは電線の束を結束するための電線結束用封止材及びこれを用いた電線結束方法に関し、更に詳しくは、隣接する電線間を、或いは複数本の電線の束間を、隙間なく高分子材料で完全に埋めた状態になるように複数の、電線或いは電線の束を結束して、電線の結束部に充分な防水性能を確保することができる電線結束用封止材及び電線結束方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のエンジンルームと車室との間を仕切るダッシュボードの穴などに通される複数の電線は、それらの電線相互同士の間隙からの水の浸入を防ぐために、複数の電線を封止材の融着により結束している。この場合の結束方法としては、例えば、図8に示すような、櫛状に成型された封止材を使用する方法の提案がある(特許文献1参照)。この方法では、櫛状に成型された封止材の溝に電線の結束予定部位が挿入される。そして、結束対象の全ての電線を複数の封止材によって保持し、その後、電線の結束予定部位の外周に、加圧復元力を持つ磁性体が添加された耐熱ゴム製の弾性グロメットを嵌め合わせ、その弾性収縮力によって、電線の結束予定部位の外周を加圧することで、複数の電線を拘束する。そして、更に、該グロメットの外方のコイルから封止材に高周波をかけ、交流磁界内において、グロメットの構成材料である磁性体を誘導加熱し、その発熱によって封止材を溶融させると同時に、グロメットの弾性収縮力により、溶融した封止材材料を加圧して電線の間に流し込んで、複数の電線を結束している(図9参照)。
【0003】
又、ホットメルトを環状に折り曲げ可能に波板状に加工した電線保持材を、封止材とする方法の提案もある(特許文献2参照)。この方法で使用される封止材であるホットメルトは、図10に示すように、R状のヒンジを介して隣接した複数の電線保持部材(波板の谷の部分)を有し、この保持部材はヒンジを介して環状に折り曲げ可能に形成されている。各保持部材は、断面が略C字形状を有し、電線を1本ずつ保持可能になっている。そして、電線を結束する際には、各保持部材のC字形状の部分に電線を1本ずつ保持させ、図11に示すように、この状態のホットメルトを環状に巻き、その後、ホットメルトの外周部に熱収縮チューブを巻回した後、熱収縮チューブ及びホットメルトを熱風等によって加熱する。この結果、ホットメルトが溶融して電線の間に回りこんで、複数の電線間の隙間を埋め、結束が完了する。
【0004】
【特許文献1】特開平9−27221号公報
【特許文献2】特開2000−188024公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの従来の方法では、基本的に、封止材或いはホットメルトを溶融させる前の状態において、電線の周りが、封止材或いはホットメルトで(即ち、これらを構成している溶融材料で)覆われていない部分があり、電線同士が接する可能性がある。又、保持した部分から電線が離れ、電線同士が接する可能性もある。このような状態において材料を溶融させて、複数の電線を結束させた場合には、隣接している電線によって形成された間隙に溶融材料が入っていかないで、電線間に、溶融材料が充填されない隙間を生じる可能性がある。例えば、図12のように3本の電線を結束した場合に、3本の電線の中心に溶融材料が充填されていないピンホールが生じることがあり、このピンホールによって結束部の防水性が低下することが懸念される。
【0006】
従って、本発明の目的は、隣接する電線間或いは複数本の電線の束間を、上記したようなピンホール(隙間)を生じることなく、高分子材料で完全に埋め尽くした状態で複数の電線或いは電線の束を簡便に結束でき、これにより、電線の結束部における充分な防水性能を達成することができる電線結束用封止材及び電線結束方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記した従来技術の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、熱溶融性の高分子材料で形成してなる、電線或いは電線の束への嵌め込みが容易にでき、電線或いは電線の束を嵌め込んだ状態とした場合に、電線或いは電線の束の外周の全てが覆われる状態になる特定の形状を有する封止材を用いれば、各電線或いは各電線の束を、それぞれ独立した状態で封止材に容易に嵌め込むことができ、しかも、これによって、各電線或いは各電線の束の外周が、熱溶融性の高分子材料で完全に覆われた状態となる。この結果、この状態の封止材を複数束ねて加熱した場合に、封止材を形成している溶融材料が溶融して電線或いは電線の束相互の間隙が確実に埋まり、隙間のない結束部が形成され、防水効果に優れた電線結束が達成されることを見いだして本発明に至った。
【0008】
上記の目的は、以下の本発明によって達せられる。即ち、本発明は、複数の、電線或いは電線の束を電線相互の間隙を高分子材料で埋めた状態で結束する際に用いられる電線結束用封止材であって、熱溶融性の高分子材料で形成されており、その形状が、電線を嵌め込んだ状態とした場合に電線或いは電線の束の外周の全てが覆われる状態となる径の、上下が開放された円筒部分を有し、且つ、該円筒部分の1箇所に、その長さ方向にわたって、1本の電線或いは複数本の電線の束を円筒内部に嵌め込むための切り込み或いは細いスリットが設けられてなるものであることを特徴とする電線結束用封止材である。かかる電線結束用封止材の好ましい形態としては、上記円筒部分を少なくとも2以上有し、これらの円筒部分が一体に構成されている電線結束用封止材が挙げられる。又、電線結束用封止材の好ましい形態としては、上記熱溶融性の高分子材料が、塩化ビニル系ポリマー、エチレン系ポリマー、エステル系ポリマー、アミド系ポリマー及びウレタン系ポリマーから選ばれる、1種の樹脂、又は2種以上のポリマーブレンド或いはポリマーアロイのいずれかである電線結束用封止材が挙げられる。
【0009】
更に好ましい形態としては、上記において、加熱した場合に容易に溶融し、しかも、複数の電線を保持した状態で、各電線間を埋め尽くす状態となる適切な融点を持った適切な材料で形成された電線結束用封止材が挙げられる。特に、熱溶融性の高分子材料として、結束の対象とする電線を被覆している被覆材料の融点よりも低い融点を有するものを用いることが挙げられる。
【0010】
又、本発明の別の形態は、上記いずれかの電線結束用封止材を用いる電線結束方法において、電線結束用封止材の円筒部分に設けられている切り込み或いは細いスリットから1本の電線或いは複数本の電線の束を円筒内部に嵌め込み、この状態の円筒部分を複数個まとめ、その後、加熱して電線結束用封止材の構成材料である熱溶融性の高分子材料を溶融し、複数の、電線或いは電線の束を電線相互間を隙間なく高分子材料で埋めた状態で結束することを特徴とする電線結束方法である。かかる電線結束方法の好ましい形態としては、更に、熱収縮性材料からなる部材の内部に、1本の電線或いは複数本の電線の束が円筒内部に嵌め込まれた状態の電線結束用封止材を複数入れ、上記管状部材の外側から熱で加熱する方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる電線結束用封止材によれば、結束すべき複数の電線のそれぞれ1本を、或いは複数本の電線からなる束を、電線結束用封止材の円筒部分の切り込み或いは細いスリット(図1〜5参照)から簡単に嵌め込むことができ、しかも、該円筒部分が、上記電線或いは電線の束を嵌め込んだ状態とした場合に、電線或いは電線の束の外周の全てが覆われる状態となる径を有するものであるため、電線の結束作業において、電線或いは電線の束が封止材より脱落することがなく、電線の結束操作を容易に且つ確実にすることができる。又、本発明によれば、電線結束用封止材の各円筒部分に、それぞれ電線を1本、或いは複数本からなる電線の束を嵌め込むことで、各電線或いは電線の束の外周の全てが電線結束用封止材を構成する熱溶融性の高分子材料で覆われる状態となるため、この状態で複数の円筒部分をまとめて加熱し、構成材料である熱溶融性の高分子材料を溶融することで複数の円筒部分を融着して容易に一体化できる。本発明にかかる電線結束用封止材によれば、その際に、それぞれの電線或いは電線の束の周囲に、十分な量で該封止材を構成する熱溶融性の高分子材料が存在する状態となるため、各電線或いは電線の束間に高分子材料が充填されていない状態になることはない。このため、結束された各電線或いは電線の束間に隙間を生じることがなく、電線相互間を高分子材料で埋め尽くした状態とでき、結束部は、防水性に優れたものとなる。
【0012】
更に、本発明にかかる円筒部分を複数有する形態の電線結束用封止材(図2〜4参照)とすれば、電線結束用封止材に嵌め込んだ複数の電線或いは電線の束をよりまとめやすくできる。又、本発明にかかる電線結束用封止材は、電線或いは電線の束を嵌め込んだ状態とした場合に脱落することがないので、結束すべき電線或いは電線の束のそれぞれに、予め電線結束用封止材を嵌め込んだ状態として用意しておくことが可能である。このようにしておけば、加熱前の現場作業の際に、電線或いは電線の束に封止材を取り付けるといった手間がなくなるので、電線の結束工程の時間短縮が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。図1は、本発明にかかる電線結束用封止材の円筒部分に、電線を1本嵌め込む形態の場合を模式的に示したものである。本発明はこれに限定されず、図5に示したように、電線結束用封止材の円筒部分に、電線を複数本束にして嵌め込むようにしてもよい。本発明にかかる電線結束用封止材は、先ず、図1或いは図5に例示したように、その形状が、電線を嵌め込んだ状態とした場合に、1本の電線、或いは、複数本からなる電線の束の外周の全てが覆われる状態となる径の円筒部分を有することを特徴とする。更に、本発明にかかる電線結束用封止材は、該円筒部分の上下は開放されており、且つ、該円筒部分の1箇所に、その長さ方向にわたって、円筒内部に、少なくとも1本の電線に嵌め込むための切り込み或いは細いスリットが設けられていることを特徴とする。図1或いは図5に示した例では、円筒部分が1個設けられているが、図2〜4に示ように、円筒部分が複数個設けられている封止材も好ましい形態である。
【0014】
本発明にかかる電線結束用封止材では、その円筒部分の径を、1本の電線或いは複数本からなる電線の束を嵌め込んだ状態とした場合に、電線或いは電線の束の外周の全てが封止材で覆われる状態となるようにすることを要する。このようにするためには、結束対象である種々の太さの電線に合わせて、更には、内部に嵌め込む電線の本数に応じて、円筒部分の径を種々に変更したものを作成し、用意しておくことが好ましい。具体的には、電線を嵌め込んだ状態で、図1(b)或いは図6に示したように、1本の電線或いは複数の電線の束の外周が電線結束用封止材の構成材料である熱溶融性の高分子材料で覆われた状態とできるものであればよい。例えば、図1(c)に示したように、電線或いは電線の束を嵌め込んだ状態で、切り込み或いは細いスリット部分が一部重なった状態となるものであってもよい。円筒部分の具体的な形状としては、電線の太さ等の形状によるが、1本の電線を嵌め込むものとしては、例えば、内径が1〜10mm程度で、肉厚が0.5〜3.0mm程度とする。複数本の電線の束を嵌め込むための封止材である場合には、各電線の太さや束にする本数等によって、その内径や肉厚を適宜に決定すればよい。又、円筒部分の長さは、結束部を設ける用途に応じて適宜に決定すればよい。例えば、10〜100mm程度とする。
【0015】
本発明にかかる電線結束用封止材では、上記したような円筒部分の1箇所に、その長さ方向にわたって、円筒内部に電線或いは電線の束を嵌め込むための切り込み或いは細いスリットが設けられている。このように構成することで、電線或いは電線の束に封止材を容易に嵌め込むことができる。スリットを設ける場合の幅としては、電線或いは電線の束に嵌め込んだ状態とした場合に、途切れる部分が生じることなく、電線或いは電線の束の外周が電線結束用封止材の構成材料である熱溶融性の高分子材料で覆われた状態とできるものであればよいが、狭くすることが好ましい。
【0016】
本発明にかかる電線結束用封止材では、上記したように、熱溶融性の高分子材料で形成された円筒部分に、長さ方向にわたって切り込み或いは細いスリットが設けられているため、結束すべき電線或いは電線の束は、この切れ目、或いはスリットによって簡単に円筒内に挿入される。又、円筒部分が、可撓性を有する熱溶融性の高分子材料で形成されているため、電線に嵌め込んだ状態で、本発明にかかる電線結束用封止材は固定されて脱落することがない。
【0017】
本発明にかかる電線結束用封止材は、熱溶融性の高分子材料で形成されてなるが、具体的には、熱溶融性の高分子材料として、塩化ビニル系ポリマー、エチレン系ポリマー、エステル系ポリマー、アミド系ポリマー及びウレタン系ポリマーから選ばれる、1種の樹脂、又は2種以上のポリマーブレンド或いはポリマーアロイを用いることが好ましい。これらの中でも、加熱溶融した場合に、電線への接着性に優れるものを使用することが好ましい。特に、電線被覆に用いられている、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン等の材料よりも低い融点を持つものを使用することが好ましい。
【0018】
上記における塩化ビニル系ポリマーとしては、例えば、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマー等が挙げられる。上記におけるエチレン系ポリマーとしては、例えば、ポリエチレン、エチレン・塩化ビニルコポリマー、エチレン・塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマー、エチレン・ビニルアルコールコポリマー、エチレン・酢酸ビニルコポリマー、エチレン・アクリル酸コポリマー、エチレン・アクリル酸エステルコポリマー、エチレン・メタクリル酸コポリマー、エチレン・メタクリル酸エステルコポリマー、エチレン・α−オレフィンコポリマー、アイオノマー、エチレン・エチルアクリレート・無水マレイン酸コポリマー等が挙げられる。上記におけるウレタン系ポリマーとしては、ポリウレタン、ウレタン系コポリマー等が挙げられる。上記におけるエステル系ポリマーとしては、ポリエステル、エステル系コポリマー等が挙げられる。上記におけるアミド系ポリマーとしては、ポリアミド、アミド系コポリマー等が挙げられる。これらは1種の樹脂、又は2種以上の樹脂のポリマーブレンド或いはポリマーアロイ等として用いられる。材料を選択する場合には、先に述べたように、電線の被覆材料との兼ね合いで適宜な溶融温度を有し、電線或いは電線の束を容易に嵌め込むことができる程度の適度な可撓性を有し、且つ、溶融して電線或いは電線の束を保持した状態で適度な強度を有するものとなるものを選択することが好ましい。
【0019】
本発明にかかる電線結束用封止材は、例えば、下記のようにして製造することができる。上記に挙げたような熱溶融性の高分子材料を公知の方法で混練し、押出成形等の方法で、1以上の円筒部分を有し、且つ円筒部分の一箇所に、長さ方向にわたって形成された切り込み或いは細いスリットを有するものを、数m〜数10mの長い状態で成形する。次に、得られた円筒部分を有するものを(図1に例示した形態のものでは円筒管)、適宜な長さに切断する。
【0020】
以下に、上記したような構成の本発明にかかる電線結束用封止材を使用して複数の電線或いは電線の束を結束する電線結束方法について説明する。前述したように、本発明にかかる電線結束用封止材は、図1〜4に示したように、円筒部分を1或いは複数有してなるものである。複数の、電線或いは電線の束の結束にあたっては、先ず、これらの円筒部分を、それぞれ1本の電線の、或いは複数本からなる電線の束の、結束する所望の位置に、切り込み或いはスリットを用いて嵌め込む。次に、このようにして封止材を嵌めた電線或いは電線の束を複数、封止材の位置でまとめて冶具で固定し、封止材を加熱する。
【0021】
より好ましい形態としては、図6又は7に示したように、更に熱収縮性材料からなる部材(例えば、熱収縮性チューブ等)を用いる形態が挙げられる。この場合には、電線或いは電線の束がそれぞれに嵌め込まれている封止材の位置で複数の封止材をまとめて、これらの封止材の回りに、上記熱収縮性部材を巻き回す等して複数の封止材を固定し、熱収縮性部材の内部に、電線或いは電線の束が収納されている状態の封止材が複数入った状態とする(図6又は7参照)。そして、この状態で熱収縮性材料を加熱する。この場合、複数の封止材をまとめた部分を熱風等で加熱することで、各封止材を構成している熱溶融性の高分子材料が溶融し、更に、これらの封止材の周りに設けた熱収縮性部材は、熱収縮する。この際に、封止材及び熱収縮性部材の形成材料中に磁性粉体を混入させておけば、高周波による誘導加熱によって結束操作をすることも可能である。上記の結束操作の結果、図7(b)に示すように、各電線或いは電線の束の周囲は、高分子材料で埋め尽くされた状態となり、又、それぞれの封止材は融着し、隙間のない状態で一体化する。
【0022】
上記した結束操作において、加熱を減圧下で行うことも好ましい形態である。このようにすれば、各封止材を構成する溶融した高分子材料が融着する際に、隙間が生じるという欠陥をより減少した状態で結束することができる。又、加圧復元力をもつ弾性材料でできたグロメットに、電線或いは電線の束を嵌め込んだ状態の本発明にかかる電線結束用封止材を装着し、この状態で、複数の封止材を束ねて加熱することも好ましい形態である。このようにすれば、溶融した高分子材料は、電線或いは電線の束同士の間隙を埋めながら電線或いは電線の束の長さ方向に拡がる。この方法では、高分子材料によって確実に電線或いは電線の束は被覆され、又、複数の封止材は融着し、一体化した封止材間に隙間は生じない。これにより、より防水性に優れた複数の電線の結束が可能となる。
【実施例】
【0023】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。文中、「部」又は「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
【0024】
実施例1
電線結束用封止材の材料としてエステル系ポリマーを用い、押出成形により、内径が1.5mm、肉厚0.5mmで、長さ方向に沿って切れ目を有する、長尺の円筒状のものを形成した。これを長さ50mmに切断して、図1に示した形状を有する本実施例の電線結束用封止材を30個得た。このようにして得た封止材のそれぞれを、外径が1.5mmのポリ塩化ビニル製絶縁被覆を有する電線の所望の位置に嵌め込んで、合計30本の封止材が嵌め込まれた電線を用意した。電線に封止材を嵌め込むことは簡単に行え、作業は短時間で終了した。又、嵌め込んだ封止材は、電線から脱落することもなかった。
【0025】
次に、上記のようにして得た封止材が嵌め込まれた30本の電線を、ポリエチレン製の熱収縮性チューブ内に挿入して、封止材の部分がチューブ内に収納されるようにした。次に、熱収縮性チューブの上から120℃の熱風で加熱し、封止材を溶融させた。冷却後、熱収縮性チューブを除去して、電線の結束状態を観察したところ、電線相互の間隙は、封止材を構成する前記のポリマーが埋め尽くされており、電線相互は強固に結束されていた。更に、防水性も充分に確保されており、本実施例の電線結束用封止材は実用的であることが確認された。
【0026】
実施例2
電線結束用封止材の形状が、内径が5mm、肉厚1mmである5本の封止材を使用し、該封止材のそれぞれを、7本ずつの電線の束に嵌め込んだ以外は実施例1と同様にして、複数の電線の結束操作を行った。この結果、電線の束は相互に強固に結束されており、結束部分においての防水性も充分に確保されていることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の活用例としては、隣接する電線或いは電線の束間を、ピンホール(隙間)を生じることなく、高分子材料で完全に埋め尽くし、封止材同士が融着して隙間がない状態で一体化した状態で結束でき、複数の、電線或いは電線の束の結束部において充分な防水性能を達成することができる電線結束用封止材が挙げられる。又、このような電線結束用封止材を用いることで、結束操作を確実に且つ簡便にでき、結束工程の時間短縮が図れる電線結束方法が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明にかかる電線結束用封止材の1例の斜視図、及び1本の電線を嵌め込んだ状態を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明にかかる電線結束用封止材の、円筒部分を2つ有する例の斜視図である。
【図3】本発明にかかる電線結束用封止材の、円筒部分を3つ有する例の斜視図である。
【図4】本発明にかかる電線結束用封止材の、円筒部分を4つ有する例の斜視図である。
【図5】本発明にかかる電線結束用封止材の別の例における、複数本の電線の束を嵌め込んだ状態を模式的に示す断面図である。
【図6】図5の電線結束用封止材の使用を説明するための概略断面図である。
【図7】本発明にかかる電線結束用封止材の使用を説明するための概略断面図である。
【図8】従来の封止材の斜視図である。
【図9】従来の封止材に熱収縮性チューブを取り付けた状態を示す概略断面図である。
【図10】従来の封止材の斜視図である。
【図11】従来の封止材を丸め込んで、外周部に熱収縮性チューブを取り付けた状態を示す概略断面図である。
【図12】従来の封止材を加熱溶融し、電線の間にピンホールが発生した状態を示す概略断面図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の、電線或いは電線の束を電線相互の間隙を高分子材料で埋めた状態で結束する際に用いられる電線結束用封止材であって、熱溶融性の高分子材料で形成されており、その形状が、電線を嵌め込んだ状態とした場合に電線或いは電線の束の外周の全てが覆われる状態となる径の、上下が開放された円筒部分を有し、且つ、該円筒部分の1箇所に、その長さ方向にわたって、1本の電線或いは複数本の電線の束を円筒内部に嵌め込むための切り込み或いは細いスリットが設けられてなるものであることを特徴とする電線結束用封止材。
【請求項2】
前記円筒部分を少なくとも2以上有し、これらの円筒部分が一体に構成されている請求項1に記載の電線結束用封止材。
【請求項3】
前記熱溶融性の高分子材料が、塩化ビニル系ポリマー、エチレン系ポリマー、エステル系ポリマー、アミド系ポリマー及びウレタン系ポリマーから選ばれる、1種の樹脂、又は2種以上のポリマーブレンド或いはポリマーアロイのいずれかである請求項1又は2に記載の電線結束用封止材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の電線結束用封止材を用いる電線結束方法において、電線結束用封止材の円筒部分に設けられている切り込み或いは細いスリットから1本の電線或いは複数本の電線の束を円筒内部に嵌め込み、この状態の円筒部分を複数個まとめ、その後、加熱して電線結束用封止材の構成材料である熱溶融性の高分子材料を溶融し、複数の、電線或いは電線の束を電線相互間を隙間なく高分子材料で埋めた状態で結束することを特徴とする電線結束方法。
【請求項5】
更に、熱収縮性材料からなる部材内部に、1本の電線或いは複数本の電線の束が円筒内部に嵌め込まれた状態の電線結束用封止材を複数入れ、上記管状部材の外側から熱で加熱する請求項4に記載の電線結束方法。
【請求項1】
複数の、電線或いは電線の束を電線相互の間隙を高分子材料で埋めた状態で結束する際に用いられる電線結束用封止材であって、熱溶融性の高分子材料で形成されており、その形状が、電線を嵌め込んだ状態とした場合に電線或いは電線の束の外周の全てが覆われる状態となる径の、上下が開放された円筒部分を有し、且つ、該円筒部分の1箇所に、その長さ方向にわたって、1本の電線或いは複数本の電線の束を円筒内部に嵌め込むための切り込み或いは細いスリットが設けられてなるものであることを特徴とする電線結束用封止材。
【請求項2】
前記円筒部分を少なくとも2以上有し、これらの円筒部分が一体に構成されている請求項1に記載の電線結束用封止材。
【請求項3】
前記熱溶融性の高分子材料が、塩化ビニル系ポリマー、エチレン系ポリマー、エステル系ポリマー、アミド系ポリマー及びウレタン系ポリマーから選ばれる、1種の樹脂、又は2種以上のポリマーブレンド或いはポリマーアロイのいずれかである請求項1又は2に記載の電線結束用封止材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の電線結束用封止材を用いる電線結束方法において、電線結束用封止材の円筒部分に設けられている切り込み或いは細いスリットから1本の電線或いは複数本の電線の束を円筒内部に嵌め込み、この状態の円筒部分を複数個まとめ、その後、加熱して電線結束用封止材の構成材料である熱溶融性の高分子材料を溶融し、複数の、電線或いは電線の束を電線相互間を隙間なく高分子材料で埋めた状態で結束することを特徴とする電線結束方法。
【請求項5】
更に、熱収縮性材料からなる部材内部に、1本の電線或いは複数本の電線の束が円筒内部に嵌め込まれた状態の電線結束用封止材を複数入れ、上記管状部材の外側から熱で加熱する請求項4に記載の電線結束方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−49307(P2006−49307A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−199718(P2005−199718)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]