説明

電荷校正装置

【課題】従来の放電電荷測定で測定される電荷は見かけの電荷であり、真電荷とは異なるものであった。このため、さらに精度の高い電荷校正装置が求められていた。
【解決手段】以上の課題を解決するため、本発明は、両電極を絶縁性材料からなる部材で支持することにより部分放電の際に外部回路に流れる電流を抑制し、ギャップに流れる電流を発生源とする電磁波を検出することで、真電荷の校正を行うことが可能な電荷校正装置を提案するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷の校正を行うための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高電圧機器の絶縁診断において、部分放電測定は欠くことのできないコア技術である。これは絶縁物内で部分放電が発生すると、真電荷の放電に起因する材料劣化が進むためである。このため、部分放電測定は古くから実施されており、今日では種々の部分放電計測器が市販されている。
図1は、部分放電に対する等価回路の一例を示す図である。図において、コンデンサCは、部分放電の発生を模擬したコンデンサであり、直流電源により保護用インピーダンスZ、漏れ抵抗RならびにRを介して充電される。部分放電の発生源であるコンデンサCのギャップ間の電圧が充電により放電電圧に達すると、ギャップ間で火花放電が生じる。この時ギャップの放電電流iは、図に示すように、インピーダンスZを介して流れる。したがって、ギャップを流れる電流を時間積分したものは放電によって移動する真電荷の量になる。すなわち、次の数式が成り立つ。
【数1】

従来の部分放電測定では、直接的に電流iを測定することが困難であるため、外部回路を経由して流れる電流iを検出インピーダンスZm1またはZm2により検出し、電荷を測定していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−331687
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、図1に示すように、供試物の浮遊容量Cs3に起因する電流も存在するため、従来の放電電荷測定で測定される電荷は見かけの電荷であり、真電荷とは異なるものであった。このため、さらに精度の高い電荷校正装置が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するため、本発明は、電荷を蓄積するための第一電極と、この第一電極と所定のギャップを挟んで対向し、蓄積された電荷をギャップを介して第一電極との間で放電するための第二電極と、直流電源と、第一電極を支持し、直流電源に接続可能で絶縁性材料からなる第一支持部と、第二電極を支持し、接地接続された絶縁性材料からなる第二支持部と、からなる電荷校正装置を提案する。
【発明の効果】
【0006】
上記の構成をとる本発明では、外部回路に流れる電流が小さくなるため、電磁波の発生源となる電流は第一電極と第二電極の間(ギャップ)とみなすことが可能である。当該電流による電磁波を検出し、電磁波と電流の理論的関係に基づいて電流を算出することで、真電荷の校正を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】部分放電に対する等価回路の一例を示す図
【図2】実施例1に係る電荷校正装置の構成図と回路図
【図3】実施例2に係る電荷校正装置の構成図と回路図
【図4】実施例3に係る電荷校正装置の構成図と回路図
【図5】実施例4に係る電荷校正装置の構成図と回路図
【図6】パッチアンテナに対する等価回路を示した図
【図7】ループアンテナに対する等価回路を示した図
【図8】実施例5に係る電荷校正装置の構成図と回路図
【図9】実施例6に係る電荷校正装置の構成図と回路図
【図10】実施例7に係る電荷校正装置の構成図と回路図
【図11】実施例8に係る電荷校正装置の構成図と回路図
【図12】実施例8に係る電荷校正装置の電界分布を示す図
【図13】実施例9に係る電荷校正装置の構成図と回路図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施例を説明する。なお、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において、様々な態様で実施しうる。実施例と請求項の相互の関係は、以下のとおりである。実施例1は主に請求項1、9などに関し、実施例2は主に請求項2などに関し、実施例3は主に請求項3などに関し、実施例4は主に請求項4などに関し、実施例5は主に請求項5、6などに関し、実施例6は主に請求項7などに関し、実施例7は請求項8、9などに関し、実施例8は請求項10、11などに関し、実施例9は請求項12などに関する。
【実施例1】
【0009】
<概要>
本実施例の電荷校正装置は、放電を行う第一電極及び第二電極を絶縁性材料からなる支持物で支持するため、外部回路に流れる電流が小さくなり、第一電極と第二電極の間(ギャップ)を電磁波の発生源として特定することが可能になる。これにより、ギャップに流れる電流を電磁波で検出することにより、真電荷の校正を行うことが可能になる。
【0010】
<構成>
図2は、本実施例の電荷校正装置の構成図と回路図である。図に示すように、本実施例の「電荷校正装置」(0201)は、「第一電極」(0202)と、「第二電極」(0203)と、「直流電源」(0204)と、「第一支持部」(0205)と、「第二支持部」(0206)とから構成される。以下、本実施例の電荷校正装置の各構成について説明する。
【0011】
「第一電極」(0202)は、電荷を蓄積するための機能を有している。また、「第二電極」(0203)は、上記第一電極と所定のギャップを挟んで対向し、蓄積された電荷をギャップを介して第一電極との間で放電するための機能を有している。
ここで、電極の形状としては、球状のものが好ましい。ただし、放電現象をトリガーするものであれば形状は特に限定されない。また、電極の材料としては、真鍮性のものが考えられるが、導電性であれば特に限定されないものである。電極間の距離などを適宜変更可能な構成とし、放電に至るまでの条件を調整することも可能である。
電極のサイズは、例えば球状の電極である場合は、直径20mm程度とすることが考えられるが、サイズは特に限定されないものである。
なお、電荷校正を容易にするためには、設定条件を単純にして、第一電極と第二電極を同一形状とすることが好ましい。
【0012】
「直流電源」(0204)としては、電極電圧を放電電圧にまで印加可能なものを用いる。電圧の値は絶縁体の種類やギャップ間の距離等に基づいて適宜変更可能な構成とすることも考えられる。直流電源は電源のオン・オフを切り替えるためのスイッチを設ける構成も可能であり、また、直流電源の第一電極に対する極性を切り替えるためのスイッチを設ける構成も可能である。
【0013】
「第一支持部」(0205)は、第一電極を支持し、直流電源に接続可能で絶縁性材料からなる。また、「第二支持部」(0206)は、第二電極を支持し、接地接続された絶縁性材料からなる。支持部として高抵抗の絶縁性材料を用いることにより、放電による電流を外部回路に極力流さないようにすることが可能である。なお、高圧の直流電源等を用いることにより、漏れ抵抗を介して電極を充電させることが可能である。支持部に用いる部材としては、例えば碍子を用いることが考えられるが、その他の絶縁性材料を用いることも可能である。ここで、各支持部の軸が電極の中心を通るように配置し、両支持部の軸が一致することが好ましい。
【0014】
<効果>
以上のように、本実施例の電荷校正装置では、外部回路に流れる電流を小さくすることができるため、部分放電に起因する電磁波を高い精度で検出することができ、電荷校正を行うことが可能になる。
【実施例2】
【0015】
<概要>
本実施例の電荷校正装置は、基本的に実施例1と共通するが、絶縁性材料からなる両支持部に対して高抵抗体を直列に接続することで、外部回路に流れる電流をさらに小さくすることができる。これにより、より精度の高い電荷校正を行うことが可能になる。
【0016】
<構成>
図3は、本実施例の電荷校正装置の構成図と回路図を示したものである。この図にあるように、本実施例の「電荷校正装置」(0301)は、「第一電極」(0302)と、「第二電極」(0303)と、「直流電源」(0304)と、「第一支持部」(0305)と、「第二支持部」(0306)と、「第一高抵抗体」(0307)と、「第二高抵抗体」(0308)とから構成される。以下、実施例1との相違点である「第一高抵抗体」と、「第二高抵抗体」について説明する。
【0017】
「第一高抵抗体」(0307)は、第一支持部の第一電極接続側と反対側で直流電源との間に配置される。「第二高抵抗体」(0308)は、第二支持部の第二電極接続側と反対側で接地との間に配置される。つまり、電極と支持部を高抵抗で挟む構成となっている。当該構成とすることにより、ギャップの放電によって外部回路に流れる電流をさらに減らすことが可能になる。また、各支持部が浮遊容量を有していることに起因して放電時に高周波振動が発生するが、高抵抗を直列に配置することによって当該高周波を抑制することが可能になる。
なお、電極の充電は高圧の直流電源により高抵抗ならびに支持部の漏れ抵抗を利用して行うことが可能である。また、高抵抗としては、例えば100MΩなどの抵抗を用いることが考えられるが、抵抗値は適宜変更可能な構成とすることも考えられる。
【0018】
<効果>
以上のように、本実施例の電荷校正装置は、外部回路に流れる電流をさらに小さくすることができるため、より精度の高い電荷校正を行うことが可能になる。
【実施例3】
【0019】
<概要>
本実施例の電荷校正装置は、基本的に実施例1と共通するが、各電極に電極センサを設け、両電極センサの電位を測定することで、放電される電荷をさらに正確に求めることが可能になる。これにより、より精度の高い電荷校正を行うことが可能である。
【0020】
<構成>
図4は、本実施例の電荷校正装置の構成図と回路図を示したものである。この図にあるように、本実施例の「電荷校正装置」(0401)は、「第一電極」(0402)と、「第二電極」(0403)と、「直流電源」(0404)と、「第一支持部」(0405)と、「第二支持部」(0406)と、「第一電極センサ」(0407)と、「第二電極センサ」(0408)と、「電位測定部」(0409)とから構成される。以下、実施例1との相違点である「第一電極センサ」と、「第二電極センサ」と、「電位測定部」について説明する。
【0021】
「第一電極センサ」(0407)は、前記両電極と絶縁状態にて第一電極よりに配置される。また、「第二電極センサ」(0408)は、前記両電極と絶縁状態にて第二電極よりに配置される。また、「電位測定部」(0409)は、両電極センサの電位を測定するための機能を有する。電極の両側に絶縁されたセンサ電極を取り付け、この電圧をモニターすることにより電極の電位を測定することが可能になる。具体的には、センサ電極の出力を演算することにより高圧側ならびに低圧側電極の電圧を演算アルゴリズムにより推定することになる。
【0022】
ギャップが放電する場合、放電前は高圧側と接地側電極の電位差は電源電圧Vに等しいと考えられるが、放電後は放電維持電圧の存在や接地側電極の電位上昇により電圧が完全に0に到達する前に放電が停止する。このため、両電極間に所定の電圧が残留する。当該残留電圧Vrを算出することによって、Q=CVの関係式から部分放電(火花放電)発生時に移動する真電荷を推定することが可能になる。これと電磁波から求められる真電荷の量を比較することで、より精度の高い電荷校正を行うことが可能になる。
【0023】
図4の例で説明すると、放電した状態での第一センサの電圧V3、第二センサの電圧V4を測定し、重畳の理による以下の数式2を用いることで、第一電極の電圧V1、第二電極の電圧V2を算出することが可能である。
【数2】

ここで、pij(i,j=1,2,3,4)は電位係数であり、Qは各電極の電荷、Vは各電極の電位を表す。
【0024】
直流電源により、電源1の充電が完了した状態では、V1のみが電位を持ち、残りの電極は抵抗により接地されているため、次の数式3が成り立つ。
【数3】

数式3において、pijは既知の値であるから、Q(1)は、数値計算により算出される。また、電荷には次の数式4が成り立つ。
【数4】

【0025】
次に、電極1と電極2で放電が生じ、電極1と電極2の電位が同じになった時の残留電圧をVrとすれば、次の数式5が成り立つ。
【数5】

また、電荷には次の数式6が成り立つ。
【数6】

【0026】
数式5において、V3、V4は電位測定部の測定結果により得られる。未知数はVrであるが、これは数式3、数式5の行列の差をとった以下の数式7を解く事で算出される。
【数7】

【0027】
以上の計算処理を、電位測定部が行うことにより、第一電極及び第二電極の電圧を測定することが可能になる。
<効果>
以上のように、本実施例の電荷校正装置は、両電極の電位を測定することが可能であるため、より正確に放電される電荷量を求めることが可能になり、精度の高い電荷校正を行うことができる。
【実施例4】
【0028】
<概要>
本実施例の電荷校正装置は、基本的に実施例1と共通するが、放電によりギャップ付近で発生する電磁波を検出することが可能であるため、精度の高い電荷校正を行うことが可能になる。
【0029】
<構成>
図5は、本実施例の電荷校正装置の構成図と回路図を示したものである。この図にあるように、本実施例の「電荷校正装置」(0501)は、「第一電極」(0502)と、「第二電極」(0503)と、「直流電源」(0504)と、「第一支持部」(0505)と、「第二支持部」(0506)と、「電磁波検出部」(0507)とから構成される。以下、実施例1との相違点である「電磁波検出部」について説明する。
【0030】
「電磁波検出部」(0507)は、放電によりギャップ付近で発生する電磁波を検出するための機能を有する。ここで、スカラーポテンシャルとベクトルポテンシャルは電気双曲子及び磁気双曲子に対するヘルツベクトルにより、以下の数式8のように表わされる。
【数8】

また、部分放電に伴う電磁界は、数式8を解いた以下の数式9により表わされる。
【数9】

【0031】
電磁波検出部により上記で示された電界と磁界を正確に測定できれば、部分放電に対する真電荷の校正が可能になる。電磁波検出部としては、磁流アンテナ、線条アンテナ、開口面アンテナ、アレーアンテナなど種々のものが考えられる。例えば、磁界の時間変化を検出する磁流アンテナとして、パッチアンテナやループアンテナを用いることが考えられる。
【0032】
図6はパッチアンテナに対する等価回路を示した図である。パッチアンテナは電極板を絶縁物で支持したもので、出力は電界の時間変化に比例する。また、図7はループアンテナに対する等価回路を示した図である。ループアンテナは、円形あるいは正方形や長方形にコイルを巻いたもので、出力はループ内の磁束の時間変化に比例する。
【0033】
なお、電磁波を検出する際に電磁波検出部の接地電位あるいは周囲からの反射波の影響、周囲の導体における散乱(近接効果)を考慮して検出することが可能な構成とすることも考えられる。
<効果>
以上のように、本実施例の電荷校正装置は、放電によりギャップ付近で発生する電磁波を検出することが可能であり、精度の高い電荷校正を行うことが可能になる。
【実施例5】
【0034】
<概要>
本実施例の電荷校正装置は、基本的に実施例1と共通するが、放電によりギャップ付近で発生する電磁波を片側に反射するための反射板をさらに備えているため、電磁波を片側に集中させることが可能である。これにより、電磁波の検出感度が向上し、精度の高い電荷校正を行うことが可能になる。
【0035】
<構成>
図8は、本実施例の電荷校正装置の構成図と回路図を示したものである。この図にあるように、本実施例の「電荷校正装置」(0801)は、「第一電極」(0802)と、「第二電極」(0803)と、「直流電源」(0804)と、「第一支持部」(0805)と、「第二支持部」(0806)と、「反射板」(0807)とから構成される。以下、実施例1との相違点である「反射板」について説明する。
【0036】
「反射板」(0807)は、放電によりギャップ付近で発生する電磁波を片側に反射するための機能を有する。当該反射板を片側に配置することで、当該方向に放出された電磁波が反射され、他方向に電磁波を集中させることが可能になる。これにより、電磁波の検出感度を向上させることが可能になる。
反射板の必ずしも平面状である必要はなく、曲面状とすることも可能である。特に反射板をパラボラアンテナ型にすることで、反射される電磁波を平面波に近い状態にすることが可能になる。
反射板の材質又は表面の塗料としては、銀、銅、ニッケル等を用いることが可能である。また、広い周波数帯の電磁波を反射するために複数の導電性物質を組み合わせることも可能である。
【0037】
<効果>
以上のように、本実施例の電荷校正装置は、電磁波を片側に集中させることが可能であるため、電磁波の検出感度が向上し、精度の高い電荷校正を行うことが可能になる。
【実施例6】
【0038】
<概要>
本実施例の電荷校正装置は、基本的に実施例1と共通するが、放電をトリガーするための電極をさらに備えているため、特定のタイミングで放電をトリガーすることができ、より高い精度で電荷校正を行うことが可能になる。
【0039】
<構成>
図9は、本実施例の電荷校正装置の構成を示したものである。この図にあるように、本実施例の「電荷校正装置」(0901)は、「第一電極」(0902)と、「第二電極」(0903)と、「直流電源」(0904)と、「第一支持部」(0905)と、「第二支持部」(0906)と、「第三電極」(0907)とから構成される。以下、実施例1との相違点である「第三電極」について説明する。
【0040】
「第三電極」(0907)は、ギャップに対して近接離間自在で放電をトリガーするための機能を有する。ここで、ギャップに対して近接離間自在とは、ギャップに対して近づいたり離れたりすることが自在にできることをいう。第三電極の具体的な構成としては、抵抗体あるいは特定のインピーダンスを内蔵させたものが考えられる。つまり、第三電極を近づけることによりギャップの電界を歪ませて、放電現象をトリガーすることが可能になる。なお、第三電極に直流電圧を印加する構成も可能である。また、図ではギャップの下側に第三電極を設ける構成としているが、上側に設ける構成や両側に設ける構成も可能である。
【0041】
第三電極を近づける速度や、近づける距離については適宜設定可能な構成とすることも考えられる。当該構成とすることにより、放電のタイミングを調整することができる。また、電界の強さを検知し、その強度に応じてギャップに近づいたり離れたりする構成とすることも可能である。当該構成とすることにより、適切なタイミングで放電をトリガーすることができる。
【0042】
<効果>
以上のように、本実施例の電荷校正装置は、特定のタイミングで放電をトリガーすることができ、より高い精度で電荷校正を行うことが可能になる。
【実施例7】
【0043】
<概要>
本実施例の電荷校正装置は、基本的に実施例1と共通するが、さらに第一電極に対する直流電源の極性を切り替えることが可能である。当該構成とすることにより残留電圧の逆極性の電圧で充電することができるため、余分な直流電圧を印加することなくさらに放電を起こすことが可能になる。これにより、放電を複数回にわたってトリガーすることが容易になり、さらに精度の高い電荷校正が可能になる。
【0044】
<構成>
図10は、本実施例の電荷校正装置の構成図と回路図を示したものである。この図にあるように、本実施例の「電荷校正装置」(1001)は、「第一電極」(1002)と、「第二電極」(1003)と、「直流電源」(1004)と、「第一支持部」(1005)と、「第二支持部」(1006)とから構成される。さらに、本実施例の電荷校正装置は、「直流電源」が「切替手段」を有することを特徴とする。以下、当該特徴点について説明する。
【0045】
直流電源は第一電極に対する極性を切り替えるための切替手段を有する。ギャップ間で放電が行われると、放電維持電圧の存在や接地側電極の電位上昇により電圧が完全に0に到達する前に放電が停止する。このため、両電極には所定の電圧が残留する。このため、通常の直流電源を用いて再度放電を引き起こしたい場合は、残留電圧を加算した電圧を印加する必要がある。
これに対して本実施例の電荷校正装置は、放電前と逆極性の電圧で印加することにより、低い電圧の印可で再度放電現象を引き起こすことが可能である。例えば、放電電圧を10kV、対地静電容量が両電極とも同じであると仮定すると、1回目から4回目の各電極の放電前と放電後の電圧は以下の表のようになる。
【表1】

この表に示されているように、初回は第一電極を+10kVまで印加し、放電をトリガーしている。放電後においては、両電極には残留電圧が+5kV残っている。このため、再度放電を行うためには、本来ならば第一電極を+15kVまで印加する必要がある。しかし、本実施例の電荷校正装置においては、直流電源の極性を切り替えて第一電極を−5kVにまで減少させて、2回目の放電をトリガーすることが可能である。3回目においては、1回目と同じ極性で第一電極を+10kVまで印加させ放電をトリガーすることになる。以下、同様のプロセスを経ることにより、電圧の絶対値を増加させることなく、放電現象を連続して引き起こすことが可能になる。
なお、両電極の放電条件を同一にするためには、第一電極と第二電極の形状を同一にすることが好ましい。当該構成とすることで、放電される電荷の値が同一になり、さらに容易に電荷校正を行うことが可能になる。
【0046】
<効果>
以上のように、本実施例の電荷校正装置は、余分な直流電圧を印加することなく再度放電をトリガーすることが可能になる。これにより、精度の高い電荷校正が可能になる。
【実施例8】
【0047】
<概要>
本実施例の電荷校正装置は、基本的に実施例1と共通するが、さらに相対する放電電極を絶対値が同じで、かつ、逆極性の電圧で充電して、放電を発生させることが可能である。当該構成とすることにより、放電後の各電極の電荷や残留電圧を少なくすることができ、連続して放電を行う場合にも安定した放電環境を整えることが可能になる。その結果、より精度の高い電荷校正をすることが可能になる。
【0048】
<構成>
図11は、本実施例の電荷校正装置の構成図と回路図を示したものである。この図にあるように、本実施例の「電荷校正装置」(1101)は、「第一電極」(1102)と、「第二電極」(1103)と、「第一直流電源」(1104)と、「第二直流電源」(1105)と、「第一X支持部」(1106)と、「第二X支持部」(1107)とから構成される。
【0049】
「第一直流電源」は、第一電極を所定電圧で充電する。また、「第二直流電源」は、第二電極を第一電極と絶対値が同じで、かつ、逆極性の電圧で充電する。なお、「第一直流電源」及び「第二直流電源」の具体的な構成は基本的に実施例1で説明した「直流電源」と同様である。
【0050】
「第一X支持部」は、第一電極を支持し、第一直流電源に接続可能で絶縁性材料からなる。また、「第二X支持部」は、第二電極を支持し、第二直流電源に接続可能で絶縁性材料からなる。ここで、「第一X支持部」及び「第二X支持部」の具体的な構成は、実施例1で説明した「第一支持部」と同様である。
【0051】
電荷校正装置を上記構成とすることにより、図12に示すように放電前の各電極には同じ絶対値で逆極性の電荷がそれぞれ蓄えられることになり、放電後の各電極は電荷が中和される。これによって残留電圧が小さくなり、電界分布が近接物の影響を受けにくくなるため、電界分布の形を一定に保ちやすくなる。つまり、連続して放電を行う場合にも、前回の放電時と同様の放電環境を整えることが容易になる。
【0052】
結果として、各放電のばらつきを少なくすることができ、安定した放電電圧を得ることができる。これにより放電電荷のばらつきを抑えることが可能になるため、より精度の高い電荷校正を行うことが可能になる。
【0053】
なお、実施例2で示した構成と同様に、第一X支持部の第一電極接続側と反対側で第一直流電源との間に配置される「第一X高抵抗体」と、第二X支持部の第二電極接続側と反対側で第二直流電源との間に配置される「第二X高抵抗体」と、を上記の構成に加えることも可能である。また、その他の実施例で示した構成を本実施例の電荷校正装置に適用することも同様に可能である。
【0054】
<効果>
以上のように、本実施例の電荷校正装置は、放電後の残留電圧を少なくすることができるため、各放電のばらつきを少なくすることができ、より精度の高い電荷校正が可能になる。
【実施例9】
【0055】
<概要>
本実施例の電荷校正装置は、基本的に実施例8と共通するが、第一電極に対する第一直流電源の極性を切り替える手段と、それに応じて第二電極に対する極性を切り替えるための手段を有することを特徴とする。当該構成とすることにより、連続放電によりわずかな残留電圧が生じても、2つの切替手段を用いて残留電圧の影響を小さくすることが可能になる。その結果、より精度の高い電荷校正をすることが可能になる。
【0056】
<構成>
図13は、本実施例の電荷校正装置の構成図と回路図を示したものである。この図にあるように、本実施例の「電荷校正装置」(1301)は、「第一電極」(1302)と、「第二電極」(1303)と、「第一直流電源」(1304)と、「第二直流電源」(1305)と、「第一X支持部」(1306)と、「第二X支持部」(1307)とから構成される。さらに、本実施例の電荷校正装置は、「第一直流電源」が「第一切替手段」を有し、「第二直流電源」が「第二切替手段」を有することを特徴とする。以下、当該特徴点について説明する。
【0057】
第一直流電源は第一電極に対する極性を切り替えるための第一切替手段を有する。また、第二直流電源は、第一切替手段による切り替えに応じて、第二電極に対する極性を切り替えるための第二切替手段を有する。なお、第一切替手段と第二切替手段の具体的な構成は実施例7で説明した切替手段と同様である。
【0058】
ここで、第一切替手段による切り替えに応じて、第二電極に対する極性を切り替える構成としては、第一切替手段による切り替えを検知して自動的に行う構成とすることも可能であるし、手動で行う構成とすることも可能である。
【0059】
実施例8で説明したように、相対する放電電極を絶対値が同じで、かつ、逆極性の電圧で充電して放電させた場合、残留電圧を小さくできるという効果がある。しかしながら、この場合でも、正極性と負極性で火花電圧が異なる、いわゆる極性効果が発生する可能性がある。理想的な平等電界では極性効果は現れないと考えて良いが、放電を繰り返すことにより、電極表面があれてくるため、電界分布が非対称となり、上記の極性効果が出やすくなる。また、実施例8のように電源を二つ用いた場合でも、完全に両電極の電圧の絶対値が一致しない場合があるため、放電後に若干の残留電圧が生じる可能性がある。
【0060】
このような状況で、残留電圧による影響を、2つの切替手段を用いてできる限り小さくすることが好ましい。例えば、両電極の電圧値[V、V]を[+10、―10]→[α、β]→[―10、+10]→[γ、δ](α、β、γ、δは任意の数)と切り替え手段を用いて変化させることで、仮に正又は負の残留電圧が生じた場合でも、両電極の電圧値を交互に切り替えることで、残留電圧の影響を小さくすることができる。結果として、より精度の高い電荷校正を行うことが可能になる。
【0061】
<効果>
以上のように、本実施例の電荷校正装置は、放電を繰り返し行う場合でも残留電圧の影響を小さくすることができるため、より精度の高い電荷校正が可能になる。
【符号の説明】
【0062】
0201 電荷校正装置
0202 第一電極
0203 第二電極
0204 直流電源
0205 第一支持部
0206 第二支持部
0307 第一高抵抗体
0308 第二高抵抗体
0407 第一電極センサ
0408 第二電極センサ
0409 電位測定部
0507 電磁波検出部
0807 反射板
0907 第三電極
1104 第一直流電源
1105 第二直流電源
1106 第一X支持部
1107 第二X支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電荷を蓄積するための第一電極と、
この第一電極と所定のギャップを挟んで対向し、蓄積された電荷をギャップを介して第一電極との間で放電するための第二電極と、
直流電源と、
第一電極を支持し、直流電源に接続可能で絶縁性材料からなる第一支持部と、
第二電極を支持し、接地接続された絶縁性材料からなる第二支持部と、
からなる電荷校正装置。
【請求項2】
第一支持部の第一電極接続側と反対側で直流電源との間に配置される第一高抵抗体と、
第二支持部の第二電極接続側と反対側で接地との間に配置される第二高抵抗体と、
をさらに有する請求項1に記載の電荷校正装置。
【請求項3】
前記両電極と絶縁状態にて第一電極よりに配置される第一電極センサと、
前記両電極と絶縁状態にて第二電極よりに配置される第二電極センサと、
両電極センサの電位を測定するための電位測定部と、
をさらに有する請求項1または2に記載の電荷校正装置。
【請求項4】
放電によりギャップ付近で発生する電磁波を検出するための電磁波検出部をさらに有する請求項1から3のいずれか一に記載の電荷校正装置。
【請求項5】
放電によりギャップ付近で発生する電磁波を片側に反射するための反射板をさらに備えた請求項1から4のいずれか一に記載の電荷校正装置。
【請求項6】
前記反射板は、パラボラアンテナ型である請求項5に記載の電荷校正装置。
【請求項7】
ギャップに対して近接離間自在で放電をトリガーするための第三電極を備えた請求項1から6のいずれか一に記載の電荷校正装置。
【請求項8】
前記直流電源は第一電極に対する極性を切り替えるための切替手段を有することを特徴とする、
請求項1から7のいずれか一に記載の電荷校正装置。
【請求項9】
前記第一電極及び前記第二電極は同じ大きさの球電極で構成されることを特徴とする請求項1から8のいずれか一に記載の電荷校正装置。
【請求項10】
電荷を蓄積するための第一電極と、
この第一電極と所定のギャップを挟んで対向し、蓄積された電荷をギャップを介して第一電極との間で放電するための第二電極と、
第一電極を所定電圧で充電する第一直流電源と、
第二電極を第一電極と絶対値が同じで、かつ、逆極性の電圧で充電する第二直流電源と、
第一電極を支持し、第一直流電源に接続可能で絶縁性材料からなる第一X支持部と、
第二電極を支持し、第二直流電源に接続可能で絶縁性材料からなる第二X支持部と、
からなる電荷校正装置。
【請求項11】
第一X支持部の第一電極接続側と反対側で第一直流電源との間に配置される第一X高抵抗体と、
第二X支持部の第二電極接続側と反対側で第二直流電源との間に配置される第二X高抵抗体と、
をさらに有する請求項10に記載の電荷校正装置。
【請求項12】
前記第一直流電源は第一電極に対する極性を切り替えるための第一切替手段を有し、
前記第二直流電源は、前記第一切替手段による切り替えに応じて、第二電極に対する極性を切り替えるための第二切替手段を有することを特徴とする請求項10又は11に記載の電荷校正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−210606(P2010−210606A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197574(P2009−197574)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(599016431)学校法人 芝浦工業大学 (109)
【出願人】(504325667)株式会社 電子制御国際 (9)
【Fターム(参考)】