説明

電解コンデンサ用アルミニウム箔

【課題】電解コンデンサ用アルミニウム箔を無電解エッチングによって高い粗面化率を得ることを可能にする。
【解決手段】エッチングに供される電解コンデンサ用アルミニウム箔であって、質量比で、Fe:5〜50ppm未満、Si:5〜60ppmを含有し、さらにMn、Zn、Ni、Sn、Ag、Pt、Auの内、一種又は二種以上を合計で40超〜500ppm含有し、残部が99.9%以上のAlと不回避不純物よりなり、該不回避不純物中のCu量を15ppm未満に規制する。化学溶解性が向上し、無電解でのエッチングが可能になり、低純度による化成皮膜の劣化も招かない。電解エッチングの適用も可能であり、反応速度をより高めたエッチングが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチングによって粗面化処理が施されて電解コンデンサの電極に用いられる電解コンデンサ用アルミニウム箔に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電解コンデンサ用アルミニウム箔は、99.9%以上のアルミニウム純度のアルミニウム箔を用い、強酸中で交流または直流電解を行い、微細なピットを発生させ、表面積を拡大した後、化成を行うことで必要な耐電圧を付加して使用している(例えば特許文献1)。
静電容量はエッチング後の表面積に比例するため、電解エッチングにおける電解条件の選定が重要である。特に、低電圧用に用いられるエッチング箔は、その表面積を高めるため、交流電流を用いた電解を行っている。
【特許文献1】特開2001−294961号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、アルミニウム箔の電解で採用される交流電解においては、大電流を消費するため、多大なコストがかかり、低コスト化の障壁になっている。
一方、陰極に用いられる箔の一部では、アルミニウム純度を99%程度に低下させ、化学溶解性の高い箔を用い、無電解で表面積拡大が行われている。これは、陰極箔では、低純度によって問題を引き起こす化成工程を必要としないため、上記のように低純度のアルミニウム箔を用いて化学溶解性を高めることが可能になるからである。
しかし、陽極箔に用いられるエッチング箔では、アルミニウム純度を低下させて化学溶解性を高めた場合、その後の化成工程において、化成皮膜中の不純物が多くなり、漏れ電流の増加等に見られる皮膜劣化が生じるため、著しく品質が低下してしまう。このため陽極箔では、化成皮膜の劣化を避けるために99.9%以上のアルミ箔を用いる必要があり、その結果、化学溶解性が低くて無電解溶解が困難で、電解法でのエッチングが不可欠である。
【0004】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、高い純度のままで化学溶解性を高め、よって無電解でのエッチングが可能になるとともに低純度による化成皮膜の劣化を招くことのない電解コンデンサ用アルミニウム箔を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、アルミニウム純度を低下させることなく、アルミニウム箔の化学溶解性を飛躍的に高める元素を見いだし、本発明を完成するに至ったものである。
【0006】
すなわち、本願の電解コンデンサ用アルミニウム箔の発明は、エッチングに供される電解コンデンサ用アルミニウム箔であって、質量比で、Fe:5〜50ppm未満、Si:5〜60ppmを含有し、さらにMn、Zn、Ni、Sn、Ag、Pt、Auの内、一種又は二種以上を合計で40超〜500ppm含有し、残部が99.9%以上のAlと不回避不純物よりなり、該不回避不純物中のCu量が15ppm未満に規制されていることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、無電解によるエッチングピットの生成、成長を可能とするために、Mn、Zn、Ni、Sn、Ag、Pt、Auの中から選択される1種又は2種以上を含有しており、これら元素とバルクのアルミニウムとが局部電池反応を起こし、ピット生成が引き起こされる。これにより高い化学溶解性を示すことになる。以下に、さらに各成分の作用および限定理由について説明する。なお、以下の成分量はいずれも質量比である。
【0008】
Fe:5ppm〜50ppm未満
Feは、Alと金属間化合物を生成し、化学溶解性を高める元素である。ただし、下限未満では上記作用が十分に得られず、一方、上限を超えると析出物が大きくなり化成皮膜の欠陥となる。したがって、Fe含有量を5〜50ppm未満に定める。なお、同様の理由で下限を20ppm、上限を40ppmとするのが望ましい。
【0009】
Si:5ppm〜60ppm
Siは、Feと同様にAlと金属間化合物を生成し、化学溶解性を高める元素である。ただし、下限未満では上記作用が十分に得られず、一方、上限を超えると析出物が大きくなり化成皮膜の欠陥となる。したがって、Si含有量を5〜60ppmに定める。なお、同様の理由で下限を20ppm、上限を40ppmとするのが望ましい。
【0010】
Cu:15ppm未満
Cuも化学溶解性を高める元素であるが、Cuを含む金属間化合物周辺を集中的に溶解させて均一溶解性を低下させるため、本願発明では積極的には添加せず、その含有量を15ppm未満に規制する。望ましくは10ppm以下である。
【0011】
Mn、Zn、Ni、Sn、Ag、Pt、Au:40超〜500ppm
これら元素は、Alと金属間化合物を生成し電位的に貴な状態を作るため、バルクのアルミニウムとの間で局部電池反応を起こし化学溶解性を高めることができる。さらにその化合物は、nmオーダーであるため、エッチング後の化成における皮膜欠陥にならないため、高品質が保てるものである。ただし、その合計含有量が40ppm以下では、上記作用が十分に得られず化学溶解性が低くなりすぎる。一方、500ppmを越えると、μmサイズの析出物が生成され化成皮膜の欠陥となる。したがって、これら元素の合計量を40超〜500ppmに定める。なお、これら元素は、1種以上を含有していればよく、その組合せは、上記合計量を満たす限りは1種〜7種の間で任意に定めることができる。
なお、上記合計量は、同様の理由で下限を50ppm、上限を200ppmとするのが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
すなわち、本発明の電解コンデンサ用アルミニウム箔によれば、エッチングに供される電解コンデンサ用アルミニウム箔であって、質量比で、Fe:5〜50ppm未満、Si:5〜60ppmを含有し、さらにMn、Zn、Ni、Sn、Ag、Pt、Auの内、一種又は二種以上を合計で40超〜500ppm含有し、残部が99.9%以上のAlと不回避不純物よりなり、該不回避不純物中のCu量が15ppm未満に規制されているので、化学溶解性が向上し、よって無電解でのエッチングが可能になる。また、99.9%以上のアルミニウム純度が確保されているので低純度による化成皮膜の劣化が回避される。よって高品質で低コストの陽極用エッチング箔の生産を可能にするものである。
なお、本発明のアルミニウム箔を電解エッチングに供することも可能であり、その場合、高い化学溶解性によって粗面化率、反応速度が向上し、また、低電力での電解を行うことも可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の一実施形態を説明する。
好適には純度99.9%以上で、本発明の成分となるように調製されたアルミニウム材は、常法により得ることができ、本発明としては特にその製造方法が限定されるものではない。例えば、半連続鋳造によって得たスラブを熱間圧延したものを用いることができる。その他に連続鋳造により得られるアルミニウム材を対象とするものであってもよい。上記熱間圧延または連続鋳造圧延によって例えば数mm厚程度のシート材とする。このシート材に対し冷間圧延を行い、例えば50μmから120μmのアルミニウム箔を得る。なお、冷間圧延の途中で1回以上の中間焼鈍を行うことも可能であり、本発明としては、該中間焼鈍の条件が特に限定されるものではない。例えば、200〜270℃、1〜6時間のバッチ炉での処理や、250〜300℃、30秒〜10分の連続炉での処理を示すことができる。又、冷間圧延途中又は、圧延後に薬液による表面洗浄を行っても良い。
上記冷間圧延後には、最終焼鈍を行って軟質箔とすることができる。最終焼鈍時加熱温度としては、250〜600℃の温度を例示することができる。また、本発明のアルミニウム箔は、上記冷間圧延後に、最終焼鈍を行うことなく硬質箔として提供されるものであってもよい。
【0014】
上記各工程を経て得られたアルミニウム箔には、その後、エッチング処理がなされる。
なお、通常、エッチング処理前には、表面の清浄化などを目的としてアルカリや酸などを用いた化学的な前処理がなされる。本発明としては、エッチング前処理における処理内容が特定のものに限定されるものではない。
【0015】
エッチング工程は塩酸を主体とする電解液や塩酸を含まない電解液を用いた無電解エッチングにより行うことができる。ただし、本発明としては、電解エッチングを採用するものであってもよく、その場合にも良好な粗面化率が得られる。
エッチング処理においては、無電解においてもピットが高密度で形成され、高い粗面化率が得られる。この箔を化成処理し、必要な耐電圧を得た後、常法により電解コンデンサに電極として組み込むことにより静電容量の高いコンデンサが得られる。
【0016】
本発明は低圧電解コンデンサの陽極として使用するのが好適であるが、本発明としてはこれに限定されるものではなく、より化成電圧の高いコンデンサ用としても使用することができ、また電解コンデンサの陰極用の材料として使用することもできる。
【実施例1】
【0017】
以下に、本発明の実施例を説明する。
表1、2に示す組成(各成分量はppm、残部:99.9%以上Al+不回避不純物)のアルミニウム材を常法により溶製し、熱間圧延、冷間圧延を経て、厚さ100μmのアルミニウム箔を得た。
表1に示す供試材のアルミニウム箔は、そのまま硬質箔と、表2に示すアルミニウム箔には、300℃×4hrの最終焼鈍を行って軟質箔とした。それぞれの箔について引張強度を測定し、その結果を各表1、2に示した。
【0018】
さらに上記アルミニウム箔に、薬液による表面洗浄を行った後、上記箔を20%塩酸、0.5%硫酸 50℃溶液中に600sec浸漬して無電解エッチングを行い、15%アジピン酸アンモニウム溶液85℃、化成電圧50Vの化成を行い、その後の静電容量を評価した。又、化成箔を15%アジピン酸アンモニウム溶液85℃に浸漬し、50Vの定電圧を印加し、漏れ電流を測定した。各測定結果を表1、2に示した。
【0019】
表1、2に示す通り、Mn、Zn、Ni、Sn、Ag、Pt、Auのいずれか1種以上を含む実施例では、50Vの化成後、高い静電容量が得られており、表面積が拡大されていることがわかる。また、上記必要元素を含まないが、又は少ない場合(比較例1,2)では、化学溶解が進行しないため、静電容量が著しく低くなった。さらに添加元素が上限を超えた場合(比較例3)では比較的高い静電容量が得られるが、漏れ電流が大きくなり、化成皮膜が劣化していることがわかる。また、Cuが多い場合、均一溶解性が低下し、静電容量が低くなった。さらにFe、Siを増加させた場合、容量は得られるが、漏れ電流が高くなった。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エッチングに供される電解コンデンサ用アルミニウム箔であって、質量比で、Fe:5〜50ppm未満、Si:5〜60ppmを含有し、さらにMn、Zn、Ni、Sn、Ag、Pt、Auの内、一種又は二種以上を合計で40超〜500ppm含有し、残部が99.9%以上のAlと不回避不純物よりなり、該不回避不純物中のCu量が15ppm未満に規制されていることを特徴とする電解コンデンサ用アルミニウム箔。

【公開番号】特開2007−131922(P2007−131922A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−326981(P2005−326981)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)