説明

電解コンデンサ用陰極材料

【課題】
特性が安定したコンデンサが得られる電解コンデンサ用陰極材料を提供する。
【解決手段】
アルミニウムを主成分とする金属箔41表面に、金属チタン薄膜から成る金属薄膜42aが配置され、該金属薄膜42a表面に、ITO薄膜から成る導電性酸化物薄膜43aが配置されている。金属薄膜42aが導電性酸化物薄膜43aで保護され、酸化されないので特性が安定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量の安定性に優れた電解コンデンサ用の電極材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型・軽量・薄型化により電子部品であるコンデンサに対しても小型・大容量化が求められている。電解コンデンサは、一般的にAlやTa、Nb、Ti等の弁金属を陽極に用いその表面に陽極酸化により形成された酸化皮膜を誘電体層とし、集電用の陰極そしてセパレータに保持された電解液から構成される。
陰極の材料には陽極材料と同種の金属が用いられるが、陰極にも自然酸化皮膜層が表面に形成されるため、陰極にも静電容量が生じる。
【0003】
従って、実際のコンデンサ容量としては、陽極側の静電容量と陰極側の静電容量が直列に接続された合成容量となり、このため陽極表面に形成した酸化皮膜の静電容量を十分活用することができなくなる。
【0004】
従って、合成容量の影響を避け、高容量のコンデンサを得るためには、陽極側の静電容量に対し陰極側の静電容量を桁違いに大きくするか、表面に絶縁性の酸化皮膜が形成されない導電性の材料で陰極を被覆するとよい。
【0005】
陰極側の静電容量を高めるには、例えば特開昭61−180420号にあるように、陰極となる材料の表面をエッチング処理し表面積を拡大させた基材に、Ti等の金属を不活性ガス中で蒸着する方法がある。
【0006】
しかし、エッチング処理による表面積拡大にはアルミニウム箔の強度低下などの問題から限界にきている。また、Ti等の蒸着膜については成膜直後の静電容量は高いもののTi表面に形成された誘電体膜の酸化が進行し経時的に酸化皮膜の膜厚が増加するため静電容量が低下してしまうと言う問題がある。
【0007】
陰極の表面に絶縁性の酸化皮膜を形成しない導電性の材料で被覆するものとしては、例えば特開昭60−1826号のように各種導電性金属を物理的成膜法により形成することが知られている。しかし、金や白金等の貴金属はほとんど反応せず安定した導電性を示すが安価で大量生産が要求されるコンデンサには経済的理由から使用されていない。その他の金属は、電解質により表面で反応し酸化皮膜の膜厚が増加することから、静電容量の低下が起こり結果としてコンデンサの特性が安定しない。
【特許文献1】特開昭61−180420号
【特許文献2】特開昭60−1826号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
アルミニウムやアルミニウム合金基材、およびこれら基材上に金属薄膜が形成された電解コンデンサ用陰極電極において、静電容量の経時変化の少ない安定した電解コンデンサ用電極の作製を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、アルミニウムを主成分とする金属箔上に、比抵抗値が1×10-5Ωcm以上100Ωcm以下、且つ膜厚が10nm以上500nm以下の導電性酸化物薄膜が形成されたことを特徴とする電解コンデンサ用陰極材料である。
また、本発明は、前記金属箔と前記導電性酸化物薄膜の間には、前記金属箔とは異なる材料の金属薄膜が配置された電解コンデンサ用陰極材料である。
また、本発明は、前記金属薄膜はチタン薄膜である電解コンデンサ用陰極材料である。
また、本発明は、前記導電性酸化物薄膜はITO薄膜である電解コンデンサ用陰極材料である。
【発明の効果】
【0010】
金属薄膜表面が導電性酸化物薄膜で保護され、金属薄膜が酸化されないので、経時変化の少ないコンデンサが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
電解コンデンサ用電極表面に、比抵抗値1×10-5〜100Ωcmの導電性酸化膜により被覆することで、静電容量の経時変化の少ない安定した特性の電極材料が得られる。
【0012】
用いる基材としては、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属箔で、エッチング処理により基材の表面積を拡大したものやプレーンのままの箔、およびこれら基材上に金属薄膜が形成された箔が使用可能である。
【0013】
アルミニウム箔等の基材上に形成する金属薄膜としては、高い静電容量が得られることからTiが有効である。形成の手段としては、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などの物理的成膜法から選択できる。
【0014】
導電性の酸化膜としては、ITO、In23、ZnO、SnO2、CdO、Cd2SnO4、RuO2、Cu2O、IrO2やこれらの複合化合物およびこれらに一種または複数の元素をドーピングした上記酸化物が使用できる。形成する酸化膜の膜厚は、少なくともアルミニウム基材表面が均一に覆われる必要がある。また、必要以上になると処理時間がかかることなどから10〜500nmの範囲である。酸化膜の形成手段としては、真空蒸着法や各種スパッタリング法などがあるが、低抵抗値で安定した成膜速度が再現性良く制御できることからスパッタリング法が適している。
【0015】
電解コンデンサ用電極箔表面に導電性酸化物を形成することにより、電極の表面が安定して保護され静電容量の経時変化の少ない電極材料が得られる。導電性酸化物は、他の金属材料とは違いもともとが酸化物であるがゆえに、酸化による絶縁皮膜が形成されることがない。
【実施例】
【0016】
図1の符号1は、本発明の電解コンデンサ用陰極材料の製造に用いられる真空装置である。この真空装置1は真空槽15を有しており、その真空槽15の中央には円筒形の冷却ローラ34が横設されている。
冷却ローラ34の周囲の空間は、隔壁201〜203によって区分けされており、巻き取り室21と蒸着室22とスパッタ室23とが真空槽15の内部に形成されている。
【0017】
各室21〜23には、真空排気口12〜14が設けられており、不図示の真空排気系によってそれぞれ個別に真空排気されるように構成されている。
蒸着室22の壁面にはガス導入パイプ8、9が気密に挿通されており、ガス導入パイプ8、9の先端のガス吹出口の近傍位置には水冷ルツボ7が配置されている。
【0018】
水冷ルツボ7内には、金属膜材料6が配置されている。真空槽15の壁面にはEBガン11が設けられており、蒸着室22内部を真空排気し、ガス導入パイプ8、9から不活性ガスを導入しながら電子銃11を動作させ、EBガン11を起動して金属材料6に電子線を照射すると、金属材料6が加熱され、蒸着室22の内部に金属材料6の蒸気が放出されるように構成されている。
水冷ルツボ7の上方には冷却ローラ34の側面が位置しており、放出された蒸気は冷却ローラ34の側面に向かって飛行する。
【0019】
次に、スパッタ室23には、1乃至2台以上のカソード41、42が配置されており各カソード41、42には、酸化物ターゲット51、52が配置されている。
スパッタ室23にはガス導入パイプ10が気密に挿通されており、スパッタ室23を真空排気しながらガス導入パイプ10からスパッタリングガスを導入し、酸化物ターゲット51、52を強磁場下に置いて直流電圧を印加し、酸化物ターゲット51、52をスパッタリングすると、各酸化物ターゲット51、52からスパッタリング粒子が放出される。
【0020】
各酸化物ターゲット51、52は、冷却ローラ34の側面と対向して配置されており、放出されたスパッタリング粒子は冷却ローラ34の側面に向かって飛行する。なお、スパッタリングガスには酸素等の酸化性ガスを添加することができる。
【0021】
巻き取り室21には、巻き出し軸32と巻き取り軸33が配置されている。
巻き出し軸32には、ロール40が取り付けられている。このロール40は、長尺の金属箔41が巻き取られて構成されており、金属箔41は、その巻き取り終了位置から引き出され、冷却ロール34の側面に掛け渡された後、巻き取り軸33に固定され、巻き取り軸33と冷却ロール34を回転させると、金属箔41は、ロール40から引き出され、巻き取り軸33に巻き取られるように構成されている。
このとき、金属箔41は、冷却ロール34と密着した状態で、蒸着室22とスパッタ室23内を移動する。
【0022】
<実施例1>
金属箔41に、エッチングにより表面を拡面処理された厚さ30μmのアルミニウム箔を用い、上記真空装置1によって電解コンデンサ用陰極材料を作成した。用いたアルミニウム箔の静電容量は約150μF/cm2であった。
蒸着材料6として金属チタンをルツボ7内に配置し、酸化物ターゲット51、52としてITOをカソード41、42上に配置した。
【0023】
巻き取り軸33で金属箔41を連続的に巻き取りながら、蒸着室22内に不活性ガスとして窒素ガスを導入すると共に、スパッタ室23内に酸素ガスが添加されたアルゴンガスから成るスパッタリングガスを導入し、蒸着室22内で金属箔41の表面に金属チタン薄膜から成る金属薄膜を形成し、次いで、スパッタ室23内で形成された金属薄膜の表面にITO薄膜から成る導電性酸化物薄膜を形成した。
【0024】
次いで、巻き取り軸33に巻き取ったロール45を取り外し、金属薄膜と導電性酸化物薄膜とが片面に形成された金属箔41を、その導電性酸化物薄膜が冷却ローラ34に密着するように逆向きにして巻き出し軸32に取り付け、冷却ローラ34に掛け渡し、先端を巻き取り軸33に固定し、上記と同様に、冷却ローラ34と巻き取り軸33とを回転させ、金属箔41表面に、金属チタン薄膜から成る金属薄膜とITO薄膜から成る導電性酸化物薄膜をこの順序で形成し、電解コンデンサ用陰極材料を得た。各室21〜23は個別に真空排気した。
【0025】
図2の符号46は得られた電解コンデンサ用陰極材料を示しており、金属箔41の両面に、金属薄膜42a、42bが金属箔41と密着して配置されており、金属薄膜42a、42bの表面に、それぞれ導電性酸化物薄膜43a、43bが配置されている。
金属チタン薄膜から成る金属薄膜42a、42bの形成条件は、0.1Paの窒素ガス雰囲気中でEB出力10kw、蒸着距離270mmであった。
【0026】
ITO薄膜から成る導電性酸化物薄膜の形成条件は、アルゴンガスに微量の酸素ガスを導入し、強磁場の低電圧DCマグネトロン法により実施した。得られたITO薄膜の比抵抗は、5×10-4Ωcmであった。この時のスパッタ圧力は0.5Pa、ターゲット51、52と金属箔41との間の距離は80mmであった。
【0027】
ITOターゲット材料にはIn23に10wt.%のSnO2を添加したITO焼結体ターゲットを用いた。ここで、スパッタ法で形成されるITO薄膜は、基材温度により非晶質なものから結晶性のものまで得られるが、本発明ではどちらでも良いが好ましくは結晶性の膜である。
【0028】
上記の成膜条件で、巻き取り速度を2.0m/minとした。成膜時の冷却ドラムの温度は40℃である。
得られた金属チタン薄膜の膜厚は200nm、ITO薄膜の膜厚は100nmであった。
【0029】
<実施例2>
実施例1と同じ真空装置1により、金属チタン薄膜を形成せず、実施例1と同じ金属箔の両面に、膜厚100nm、比抵抗5×10-4ΩcmのITO薄膜を形成し、電解コンデンサ用陰極材料を得た。
【0030】
<比較例1>
実施例1と同じ真空装置1により、膜厚200nmの金属チタン薄膜を形成し、ITO薄膜を形成せずに電解コンデンサ用陰極材料を得た。
【0031】
<測定結果>
実施例1と比較例1で作製した電解コンデンサ用陰極材料について、それぞれの静電容量について経時変化を測定したところ図3に示す結果が得られた。
【0032】
この結果から明らかなように、ITO薄膜が形成されている電解コンデンサ用陰極材料は、静電容量に経時的な減少が極めて少なく効果があることがわかる。
【0033】
次に、実施例2の電解コンデンサ用陰極材料を陰極とする電解コンデンサと、エッチング処理されたアルミニウム箔を陰極とする電解コンデンサを作製し、定格電圧を印加し、105℃で60日間の寿命試験を行い容量の経時変化を調べた。
【0034】
図4に、容量の変化率の結果を示した。この結果からもITO薄膜を形成することで容量の低下が抑えられ安定した特性が維持できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の作成に用いることができる真空装置の例
【図2】本発明の構造を説明するための断面図
【図3】放置日数と静電容量の値の関係を示すグラフ
【図4】放置日数と容量変化率の関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0036】
41……金属箔
42a、42b……金属薄膜
43a、43b……導電性酸化物薄膜
46……電解コンデンサ用陰極材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムを主成分とする金属箔上に、比抵抗値が1×10-5Ωcm以上100Ωcm以下、且つ膜厚が10nm以上500nm以下の導電性酸化物薄膜が形成されたことを特徴とする電解コンデンサ用陰極材料。
【請求項2】
前記金属箔と前記導電性酸化物薄膜の間には、前記金属箔とは異なる材料の金属薄膜が配置された請求項1記載の電解コンデンサ用陰極材料。
【請求項3】
前記金属薄膜はチタン薄膜である請求項2記載の電解コンデンサ用陰極材料。
【請求項4】
前記導電性酸化物薄膜はITO薄膜である請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の電解コンデンサ用陰極材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−86326(P2006−86326A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−269377(P2004−269377)
【出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)