説明

電解コンデンサ用電極箔の製造方法

【課題】静電容量の向上、および漏れ電流の低減を図ることができる電解コンデンサ用電極箔の製造方法を提供する。
【解決手段】エッチングされたアルミニウム箔を陽極酸化する電解コンデンサ用電極箔の製造方法において、前記陽極酸化の前処理として、前記アルミニウム箔に水和皮膜を形成した後、該水和皮膜を冷却することを特徴とし、前記水和皮膜の冷却温度が、−40〜−10℃であり、前記水和皮膜の冷却時間が、10分以上5時間以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム電解コンデンサ用電極箔の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電解コンデンサの小形化、高性能化、高信頼性化が求められており、それに伴い、使用される電極箔においてもさらなる高容量化とともに、より一層の高信頼性化、低漏れ電流化が求められている。
【0003】
一般に、電解コンデンサ用電極箔の製造方法としては、エッチング処理されたアルミニウム箔を高温純水中に浸漬(水和処理)して水和皮膜を形成した後、リン酸やホウ酸、有機酸等を含むバリアー型皮膜生成溶液中で、化成(陽極酸化)を行い、陽極酸化皮膜を生成させる。
【0004】
また、漏れ電流特性を向上させる手段としては、熱処理、化学溶解による減極処理、修復化成等があり、これらを繰り返し行う(例えば、非特許文献1参照)。
具体的には、水和処理工程後、陽極酸化皮膜を形成し、該皮膜に熱処理によりクラックを生成させる処理と、この生成したクラックを、酸性またはアルカリ性の水溶液に浸漬して拡大する減極処理を連続して行い、この減極処理後、再化成を行うことで、漏れ電流の小さい陽極酸化皮膜を形成する手段が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、上記の手段では、静電容量の向上、および漏れ電流の低減を十分に図ることができなかった。すなわち、より高い静電容量を得るためには、陽極酸化皮膜の結晶化度を高めて、耐電圧当たりの陽極酸化皮膜の膜厚を薄くしなければならないが、上記の手段では、陽極酸化皮膜の結晶化度を促進させた場合、ボイド、クラックが増大し、これにより漏れ電流増加を引き起こしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3555392号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】永田伊佐也著、「電解液陰極アルミニウム電解コンデンサ」、日本蓄電器工業株式会社、平成9年2月24日、第2版第1刷、P311〜314
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、陽極酸化皮膜の結晶化度を高め、耐電圧当たりの陽極酸化皮膜の膜厚を薄くして静電容量の向上を図るととともに、陽極酸化皮膜のボイド、クラック増大を抑え、漏れ電流を低減できる電解コンデンサ用電極箔の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、エッチングされたアルミニウム箔を陽極酸化する電解コンデンサ用電極箔の製造方法において、前記陽極酸化の前処理として、前記アルミニウム箔を高温純水中に浸漬し、水和皮膜を形成した後、該水和皮膜を冷却することを特徴とする電解コンデンサ用電極箔の製造方法である。
【0009】
また、前記水和皮膜の冷却温度が、−40〜−10℃であることを特徴とする電解コンデンサ用電極箔の製造方法である。
【0010】
さらに、前記水和皮膜の冷却時間が、10分以上5時間以下であることを特徴とする電解コンデンサ用電極箔の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、エッチングされたアルミニウム箔を高温純水中に浸漬し、水和皮膜を形成した後、該水和皮膜を−40〜−10℃の範囲において、10分以上5時間以下で冷却した後、化成溶液中で所定の電圧まで陽極酸化することにより、水和皮膜から変質した結晶化度の高い陽極酸化皮膜を均一に形成することができると考えられ、電解コンデンサにおける静電容量の向上、および漏れ電流の低減を図ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
【0013】
[実施例1〜7]水和皮膜の冷却温度の比較
エッチングされたアルミニウム箔を90℃の純水中に10分間浸漬し、水和皮膜を生成させた後、表1に示すように、0℃、−5℃、−10℃、−15℃、−20℃、−40℃、−50℃に設定した恒温槽内に1時間放置し、水和皮膜を冷却した。
【0014】
次に、70g/Lのホウ酸に1ml/Lのアンモニア水を添加した水溶液中(液温85℃)に、上記冷却処理を施したアルミニウム箔を浸漬し、電流密度20mA/cmの直流電流で電圧300Vまで陽極酸化を行い、300V到達後、定電圧で30分間保持し、バリアー型皮膜を形成した。
次に、加熱処理・酸浸漬処理により酸化皮膜中のボイド、クラックを露呈させ、上記ホウ酸アンモニウム水溶液中で再化成を数回行い、電極箔試料を作製した。
【0015】
[実施例8〜12、4]水和皮膜の冷却時間の比較
エッチングされたアルミニウム箔を、上記実施例と同様にして水和皮膜を生成させた後、表1に示すように、−15℃に設定した恒温槽内に5、10、30分、1、5、7時間放置し、水和皮膜を冷却した後、上記実施例と同様にして陽極酸化、加熱処理・酸浸漬処理、再化成を行い、電極箔試料を作製した。
【0016】
(従来例)
エッチングされたアルミニウム箔を、上記実施例と同様にして水和皮膜を生成させた後、水和皮膜の冷却を行わなかった以外は、上記実施例と同様にして陽極酸化、加熱処理・酸浸漬処理、再化成を行い、電極箔試料を作製した。
【0017】
上記の本発明の実施例1〜12、および従来例の電極箔試料について、ホウ酸アンモニウム水溶液中で静電容量を測定し、70g/Lのホウ酸水溶液中で100V、200Vの電圧を印加し、漏れ電流を測定した(設定電流2A、20分後)。その結果を表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
表1から明らかなように、実施例1〜7は、従来例と比較して、高い静電容量と低い漏れ電流特性が得られており、その中でも冷却温度−50〜−10℃とした実施例3〜7が特に優れている。
また、表1から明らかなように、実施例8〜12、4は、従来例と比較して、高い静電容量と低い漏れ電流特性が得られており、その中でも冷却時間10分〜7時間とした実施例9〜12、4が特に優れている。
ただし、水和皮膜の冷却条件は、静電容量、漏れ電流特性と、工数との兼ね合いから、−40〜−10℃、10分以上5時間以下とするのが好適である。
【0020】
なお、本発明は、アルミニウム箔として、表面がエッチングにより粗面化されたものだけでなく、粗面化されていない箔(プレーン箔)にも適用できる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
エッチングされたアルミニウム箔を陽極酸化する電解コンデンサ用電極箔の製造方法において、
前記陽極酸化の前処理として、前記アルミニウム箔に水和皮膜を形成した後、該水和皮膜を冷却することを特徴とする電解コンデンサ用電極箔の製造方法。
【請求項2】
前記水和皮膜の冷却温度が、−40〜−10℃であることを特徴とする請求項1に記載の電解コンデンサ用電極箔の製造方法。
【請求項3】
前記水和皮膜の冷却時間が、10分以上5時間以下であることを特徴とする請求項1に記載の電解コンデンサ用電極箔の製造方法。