電解ドレッシング研削方法
【目的】 ツルーイングを短時間で完了し、加工初期より高能率で安定した球面創成加工を続けることにより、精度の高い光学素子を安定して得る。
【構成】 電源装置15の(+)極はブラシ1を介して導電性砥石2に、(−)極はドレス電極4に電気的に接続されている。導電性砥石2の加工面3とドレス電極4との隙間に弱電性クーラント5が供給される。
【構成】 電源装置15の(+)極はブラシ1を介して導電性砥石2に、(−)極はドレス電極4に電気的に接続されている。導電性砥石2の加工面3とドレス電極4との隙間に弱電性クーラント5が供給される。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ガラスセラミックス等の高脆材料を研削加工する電解インプロセスドレッシング研削方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、光学素材等の被加工物を研削加工する球面創成加工法としては、加工技術データファイル(1982年機械振興協会より刊行)に提案されたCG(カーブジェネレータ)による球面創成加工方法がある。
【0003】上記提案技術を図10にて説明する。図10R>0は球面研削機械の要部を示す。図10に示す様に、回転自在に構成されたチャック71に装着されているワーク72の軸心73に対して、スイベル角αに配設したカップ形状の砥石74が回転軸心75にて回転自在に保持されている。砥石74の加工面76は、ワーク72の研削仕上げ面の曲率RAと同一曲率形状に形成されている。上記構成による加工方法は、チャック71と砥石74とを回動し、加工面76をワーク72に当接して研削加工を行う。
【0004】また、図11〜図13に示す様に、一般にCG加工における初期製造後の砥石81の加工面82は、曲率をRAに精密に創成された球面ラップ工具83に対して、砥石81の加工面82を加圧揺動するとともに、遊離砥粒84を供給しながらラッピング加工を行うことにより、曲率RAの加工面85に創成される。
【0005】さらに、高強度の導電性メタルボンド砥石を用いる光学素材の球面創成加工に対して電解インプロセスドレッシング研削法を適用した例としては、例えば特開平3−60973号公報記載の発明がある。図14は上記発明における研削装置の主要部を示したものである。図14に示す様に、電源装置91の(+)極はブラシ92を介して導電性砥石93の外周部に電気的に接続され、(−)極は研削仕上げ面の曲率RAと近似形状に形成され、導電性砥石93の加工面94との間に僅かな隙間lを設けて配設されるドレス電極95と接続されている。また、上記導電性砥石93の加工面94とドレス電極95との隙間に図示されていないクーラント供給装置により、弱電性クーラント96を供給するノズル97が配設されている。
【0006】上記構成による加工方法は、チャック98と導電性砥石93とを回動し、加工面94をワーク99に当接して研削加工を行う。この際、弱電性クーラント96を供給しながら、ドレス電極95とブラシ92とに電源装置91によって電圧を印加する。これによって、加工面94が加工中に常時電解ドレッシングされて常に安定した加工が行える。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかるに、前記各従来技術においては、以下の様な問題がある。すなわち、CGによる球面創成加工方法においては、初期製造後の砥石のラッピング加工作業は手作業により行われることが普通であるため、曲率RAを砥石の加工面に精密に創成することが困難であり、研削装置へ砥石を装着した際に、研削装置の砥石軸の回転中心に対して砥石の加工面形状の中心は偏心(シフトおよびチルト)している。
【0008】従って、従来のCG加工の加工初期においては砥石加工面の偏心により、砥石の加工面全面がワークの被加工面に当接しないことがあった。従来、CG加工においては、砥石の加工面全面がワークの被加工面に当接しなくても、球面創成加工を行うことが可能なため、低速で球面創成加工を行うことにより、砥石をツルーイングしていた。
【0009】以下にこのツルーイングの方法を説明する。まず、ワークに対して低速で球面創成加工を行うことにより砥石の加工面を消耗させる。この球面創成加工を数個のワークに対して行う。そして、ワークの被加工面に対して砥石の加工面を除々に倣わせて前記偏心を除去し、砥石の加工面全面をワークの被加工面に当接させてツルーイングを終了する。ツルーイングが終了したら、所定の加工速度にて通常の曲面創成加工を行う。ここで、砥石の偏心が除去される(ツルーイングが終了する)までに曲面創成加工を行ったワークは、製品として十分に利用可能なものである。
【0010】上記ツルーイング方法によると、球面創成加工の初期(ツルーイング開始直後)においては、砥石のツルーイングが完全でないため、ワークに対して安定した加工が行えず、また、砥石の加工面とワークの被加工面との接触面積は小さいために加工効率が悪く、ワークの被加工面に対して砥石の加工面を倣わせる(ツルーイングする)のに時間がかかった。
【0011】また、特開平3−60973号公報記載の電解インプロセスドレッシング研削法による球面創成加工においても、加工初期においては導電性砥石のツルーイングができておらず、安定した加工が行えないという不具合があった。
【0012】これらの不具合は多種少量生産に対応するために、加工製品の切り替えのたびに砥石の交換が行われ、また高精度の球面創成加工を行うために、できるだけ磨耗しにくい高強度ボンド砥石を用いる今日の生産現場においては、ツルーイングに要する時間が長く、大きな問題となる。
【0013】因って、本発明は前記各従来技術における問題点に鑑みて開発されたもので、加工機に砥石を装着したのち、砥石のツルーイングを短時間で行うことによって、精度のよい光学素子を安定して連続的に得ることのできる電解ドレッシング研削方法の提供を目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段および作用】本発明は、電解ドレッシング研削方法において、導電性砥石によるワークに対する加工初期に電解電流値を大きくして導電性砥石をツルーイングし、ツルーイング終了後は通常の電解電流値によって加工を行う方法である。
【0015】図1に本発明を達成するための装置の概念図を示し。図2〜図7にその加工方法を適用した場合の各工程におけるグラフと砥石加工面の状態の概念図とを示す。図1に示す様に、電源装置15の(+)極はブラシ1を介して導電性砥石2に接続され、(−)極は導電性砥石2の加工面3との間に僅かな隙間lを設けたドレス電極4に電気的に接続されている。また、上記導電性砥石2の加工面3とドレス電極4との隙間に、弱電性クーラント5が供給され、電解インプロセスドレッシング研削法が行える構成となっている。
【0016】上記構成において、導電性砥石2を研削装置本体(図示省略)に装着後、弱電性クーラント5を供給しながら導電性砥石2を回動する。この時、通常の電解インプセスドレッシング研削時よりドレス電流値を大きくしながら、加工面3をワーク16に当接して低速切り込み速度による加工を所定量行う。その後、通常ドレス電流値・通常加工速度で球面創成加工を行う。
【0017】本発明の特徴は、電解ドレッシング研削方法において、導電性砥石によるワークに対する加工初期に電解電流値を大きくして導電性砥石をツルーイングし、ツルーイング終了後は通常の電解電流値によって加工を行うことである。
【0018】通常、電解ドレッシング研削加工を行うと、導電性砥石を構成するボンド材の酸化膜が導電性砥石加工面に生成される。この酸化膜は、研削加工による研削抵抗によって除去される。酸化膜の除去に伴って導電性砥石のボンド材の電解溶出が進行して砥石の目立てをし、砥石の加工面は常にワークを加工するのに最適な状態を維持することが可能である。
【0019】本発明では、この電解ドレッシング研削において、ドレス電極に印加する電流を、通常の電解ドレッシング研削時の電流値に比べて大きくすることによって、酸化膜の生成速度を早め、導電性砥石の形状を早くワークの非加工面に倣わせ、ツルーイングするものである。以下、図を用いてその電解ドレッシング研削方法を説明する。
【0020】図2は研削装置に導電性砥石を装着した直後の回転による砥石の振れ、図3はツルーイング終了後の回転による砥石の振れ、図4は通常の電解インプロセスドレッシング研削工程中の回転による砥石の振れを示すグラフである。図5は研削装置に導電性砥石を装着した直後の砥石の加工面の状態、図6はツルーイング終了後の砥石の加工面の状態、図7は通常の電解インプロセスドレッシング研削工程中の砥石の加工面の状態を示す概念図である。
【0021】球面加工装置にワークおよび導電性砥石を装着して回転する。このとき、導電性砥石の回転軸の回転中心と、導電性砥石の加工面の形状の中心とが偏心している場合、図2に図示の如く、砥石には回転によって振れが生じてしまう。また、図5に図示の如く、このときの導電性砥石の加工面はまだ新品の導電性砥石であるため、加工面に砥粒が突き出ていない。
【0022】次に、ワークと導電性砥石との間に弱電性のクーラントを供給し、ドレス電極にてドレス電流を印加して導電性砥石を電解ドレスすることにより、導電性砥石の表面に砥粒を突出させる。ここで印加する電流は、通常の電解ドレッシングに比べて大きな電流である。
【0023】導電性砥石表面に砥粒が突出したら、導電性砥石をワークに対して切り込み、電解ドレッシング研削を行う。このときのドレス電流値も、電解ドレッシング時と同様に通常の電解ドレッシング研削に比べて大きな電流のままである。このような、大きな電解電流による電解ドレッシング研削を導電性砥石のツルーイングとし、数個のワークに対して行う。導電性砥石のツルーイングは、砥石の加工面がワークの被加工面に倣った時点で終了とする。
【0024】砥石の加工面がワークの被加工面に倣うと、砥石の回転軸と砥石加工面の形状の中心とが一致し、図3に図示の如く、回転による砥石の振れはなくなる。また、ツルーイング終了後は図6に図示の如く、砥石の加工面には酸化膜が生成され、砥粒は十分な研削能力を有した状態で砥石の加工面に突出している。
【0025】ツルーイングが終了したら、以後、通常の電解ドレッシング研削と同様の電解電流値にて、多数のワークの加工を行う。通常の電解ドレッシング研削中は、図4および図7に図示の如く、回転による砥石の振れがなく、加工面表面には、加工能力を十分に有している砥粒が突出しており、安定した加工が行える。
【0026】
【実施例1】図8は本実施例で用いる装置を示す概略構成図である。導電性砥石6の加工面7は、ダイヤモンド粉末などの砥粒と、Cu,SnおよびFe等の金属粉末とを特殊配合し、熱処理した焼結合金により構成されている。また、上記装置外に設けた電源装置8の(+)極はブラシ9を介して導電性砥石6の外周部へ電気的に接続され、(−)極は曲率RAと近似形状に形成されて導電性砥石6の加工面7との間に僅かな隙間lを設けて配設されるドレス電極10と接続されている。また、上記導電性砥石6の加工面7とドレス電極10との隙間に、図示されていないクーラント供給装置により、弱電性クーラント11を供給するノズル12が配設されている。
【0027】上記加工装置による加工方法を以下に説明する。ワーク14および導電性砥石6を研削装置に装着して導電性砥石6を回転させ、この導電性砥石6とドレス電極10との間に弱電性クーラント11を供給し、導電性砥石6を電解ドレッシングする。ここで、ドレス電極10に印加する電流は通常の電解ドレッシングに比べて大きな電流を印加する。通常の電解ドレッシングおよび電解ドレッシング研削においては、電解電流は0.5A以下であるが本実施例においてはこの電解電流を2Aとした。
【0028】次に、電解ドレッシングを行いつつワーク14に対して導電性砥石6を切り込み、ワーク14に対して電解ドレッシング研削を行う。このときのドレス電流値も先の電解ドレッシング同様、通常の電解ドレッシング研削に比べて大きな電流(2A)を印加する。上記のように電解電流値を大きくして行う電解ドレッシング研削を導電性砥石6のツルーイング工程とするが、本実施例においてはCG研削方法を用いているため、このツルーイング工程においても、ワーク14に対して所望の形状を形成し、製品とすることができる。このツルーイング工程を数個のワーク14に対して行う。
【0029】上記のように電解電流値を大きくすることにより、通常の電解ドレッシング研削に比べて導電性砥石6の加工面7のボンド材および砥粒の流出が早いため、導電性砥石6の回転軸の回転中心に対して加工面7の形状の中心が偏心し、導電性砥石6の加工面7全面がワーク14の被加工面に当接していない場合でも、短時間で導電性砥石6の加工面7の全面がワーク14の被加工面に当接し、導電性砥石6の加工面7の形状はワーク14の被加工面の形状に倣う。
【0030】数個のワーク14に対して電解ドレッシング研削加工を行い、導電性砥石6の加工面7の形状がワーク14の被加工面の形状に倣った時点でツルーイング工程を終了する。ツルーイング工程の完了後、電源装置8によって印加する電流値を、通常電解インプロセスドレッシング研削時の値に設定し、通常加工速度にてワーク14の球面創成加工を行う。
【0031】本実施例によれば、上記ツルーイング工程により短時間で導電性砥石のツルーイグが完了し、通常研削速度による高能率な球面創成加工工程に移行できるため、加工初期より砥石の加工能力を十分に発揮した加工が行え、安定した加工が持続できる。また、砥石の回転軸の回転中心に対して砥石加工面の形状の中心が偏心し、砥石の加工面全面がワークの被加工面に当接していない場合においても、この電解ドレッシング研削によると、短時間でツルーイングを終了することが可能となり、以後の通常の電解ドレッシング研削においてワークを精度良く加工することが可能となる。
【0032】
【実施例2】図9は本実施例で用いる装置を示す概略構成図である。本実施例は、前記実施例1におけるワーク14に代わり粗粒砥石21を用いた点が異なり、他の構成は同一な構成部分から成るもので、同一構成部分には同一番号を付してその説明を省略する。
【0033】本実施例においては、アルミナセラミックス等の砥粒からなる粗粒砥石21の球面創成加工に本発明の電解ドレッシング研削方法を用いた。
【0034】本実施例によれば、ツルーイング工程でのワークが粗粒砥石21であるために、導電性砥石の加工面の表面の絶縁酸化皮膜の除去効率が高まり、更に短時間でツルーイング工程の加工が完了する。
【0035】
【発明の効果】以上説明した様に、本発明に係る電解ドレッシング研削方法によれば、電解インプロセスドレッシング研削法を適用した光学素子の球面創成加工において、ツルーイングが短時間で完了するため、加工初期より高能率で安定した球面創成加工が続けられ、精度の高い光学素子を安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を示す概念図である。
【図2】本発明を示すグラフである。
【図3】本発明を示すグラフである。
【図4】本発明を示すグラフである。
【図5】本発明を示す砥石加工面の状態の概念図である。
【図6】本発明を示す砥石加工面の状態の概念図である。
【図7】本発明を示す砥石加工面の状態の概念図である。
【図8】実施例1を示す概略構成図である。
【図9】実施例2を示す概略構成図である。
【図10】従来例を示す概略構成図である。
【図11】従来例を示す概略構成図である。
【図12】従来例を示す部分拡大断面図である。
【図13】従来例を示す部分拡大断面図である。
【図14】従来例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
1 ブラシ
2 導電性砥石
3 加工面
4 ドレス電極
5 弱電性クーラント
15 電源装置
16 ワーク
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ガラスセラミックス等の高脆材料を研削加工する電解インプロセスドレッシング研削方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、光学素材等の被加工物を研削加工する球面創成加工法としては、加工技術データファイル(1982年機械振興協会より刊行)に提案されたCG(カーブジェネレータ)による球面創成加工方法がある。
【0003】上記提案技術を図10にて説明する。図10R>0は球面研削機械の要部を示す。図10に示す様に、回転自在に構成されたチャック71に装着されているワーク72の軸心73に対して、スイベル角αに配設したカップ形状の砥石74が回転軸心75にて回転自在に保持されている。砥石74の加工面76は、ワーク72の研削仕上げ面の曲率RAと同一曲率形状に形成されている。上記構成による加工方法は、チャック71と砥石74とを回動し、加工面76をワーク72に当接して研削加工を行う。
【0004】また、図11〜図13に示す様に、一般にCG加工における初期製造後の砥石81の加工面82は、曲率をRAに精密に創成された球面ラップ工具83に対して、砥石81の加工面82を加圧揺動するとともに、遊離砥粒84を供給しながらラッピング加工を行うことにより、曲率RAの加工面85に創成される。
【0005】さらに、高強度の導電性メタルボンド砥石を用いる光学素材の球面創成加工に対して電解インプロセスドレッシング研削法を適用した例としては、例えば特開平3−60973号公報記載の発明がある。図14は上記発明における研削装置の主要部を示したものである。図14に示す様に、電源装置91の(+)極はブラシ92を介して導電性砥石93の外周部に電気的に接続され、(−)極は研削仕上げ面の曲率RAと近似形状に形成され、導電性砥石93の加工面94との間に僅かな隙間lを設けて配設されるドレス電極95と接続されている。また、上記導電性砥石93の加工面94とドレス電極95との隙間に図示されていないクーラント供給装置により、弱電性クーラント96を供給するノズル97が配設されている。
【0006】上記構成による加工方法は、チャック98と導電性砥石93とを回動し、加工面94をワーク99に当接して研削加工を行う。この際、弱電性クーラント96を供給しながら、ドレス電極95とブラシ92とに電源装置91によって電圧を印加する。これによって、加工面94が加工中に常時電解ドレッシングされて常に安定した加工が行える。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかるに、前記各従来技術においては、以下の様な問題がある。すなわち、CGによる球面創成加工方法においては、初期製造後の砥石のラッピング加工作業は手作業により行われることが普通であるため、曲率RAを砥石の加工面に精密に創成することが困難であり、研削装置へ砥石を装着した際に、研削装置の砥石軸の回転中心に対して砥石の加工面形状の中心は偏心(シフトおよびチルト)している。
【0008】従って、従来のCG加工の加工初期においては砥石加工面の偏心により、砥石の加工面全面がワークの被加工面に当接しないことがあった。従来、CG加工においては、砥石の加工面全面がワークの被加工面に当接しなくても、球面創成加工を行うことが可能なため、低速で球面創成加工を行うことにより、砥石をツルーイングしていた。
【0009】以下にこのツルーイングの方法を説明する。まず、ワークに対して低速で球面創成加工を行うことにより砥石の加工面を消耗させる。この球面創成加工を数個のワークに対して行う。そして、ワークの被加工面に対して砥石の加工面を除々に倣わせて前記偏心を除去し、砥石の加工面全面をワークの被加工面に当接させてツルーイングを終了する。ツルーイングが終了したら、所定の加工速度にて通常の曲面創成加工を行う。ここで、砥石の偏心が除去される(ツルーイングが終了する)までに曲面創成加工を行ったワークは、製品として十分に利用可能なものである。
【0010】上記ツルーイング方法によると、球面創成加工の初期(ツルーイング開始直後)においては、砥石のツルーイングが完全でないため、ワークに対して安定した加工が行えず、また、砥石の加工面とワークの被加工面との接触面積は小さいために加工効率が悪く、ワークの被加工面に対して砥石の加工面を倣わせる(ツルーイングする)のに時間がかかった。
【0011】また、特開平3−60973号公報記載の電解インプロセスドレッシング研削法による球面創成加工においても、加工初期においては導電性砥石のツルーイングができておらず、安定した加工が行えないという不具合があった。
【0012】これらの不具合は多種少量生産に対応するために、加工製品の切り替えのたびに砥石の交換が行われ、また高精度の球面創成加工を行うために、できるだけ磨耗しにくい高強度ボンド砥石を用いる今日の生産現場においては、ツルーイングに要する時間が長く、大きな問題となる。
【0013】因って、本発明は前記各従来技術における問題点に鑑みて開発されたもので、加工機に砥石を装着したのち、砥石のツルーイングを短時間で行うことによって、精度のよい光学素子を安定して連続的に得ることのできる電解ドレッシング研削方法の提供を目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段および作用】本発明は、電解ドレッシング研削方法において、導電性砥石によるワークに対する加工初期に電解電流値を大きくして導電性砥石をツルーイングし、ツルーイング終了後は通常の電解電流値によって加工を行う方法である。
【0015】図1に本発明を達成するための装置の概念図を示し。図2〜図7にその加工方法を適用した場合の各工程におけるグラフと砥石加工面の状態の概念図とを示す。図1に示す様に、電源装置15の(+)極はブラシ1を介して導電性砥石2に接続され、(−)極は導電性砥石2の加工面3との間に僅かな隙間lを設けたドレス電極4に電気的に接続されている。また、上記導電性砥石2の加工面3とドレス電極4との隙間に、弱電性クーラント5が供給され、電解インプロセスドレッシング研削法が行える構成となっている。
【0016】上記構成において、導電性砥石2を研削装置本体(図示省略)に装着後、弱電性クーラント5を供給しながら導電性砥石2を回動する。この時、通常の電解インプセスドレッシング研削時よりドレス電流値を大きくしながら、加工面3をワーク16に当接して低速切り込み速度による加工を所定量行う。その後、通常ドレス電流値・通常加工速度で球面創成加工を行う。
【0017】本発明の特徴は、電解ドレッシング研削方法において、導電性砥石によるワークに対する加工初期に電解電流値を大きくして導電性砥石をツルーイングし、ツルーイング終了後は通常の電解電流値によって加工を行うことである。
【0018】通常、電解ドレッシング研削加工を行うと、導電性砥石を構成するボンド材の酸化膜が導電性砥石加工面に生成される。この酸化膜は、研削加工による研削抵抗によって除去される。酸化膜の除去に伴って導電性砥石のボンド材の電解溶出が進行して砥石の目立てをし、砥石の加工面は常にワークを加工するのに最適な状態を維持することが可能である。
【0019】本発明では、この電解ドレッシング研削において、ドレス電極に印加する電流を、通常の電解ドレッシング研削時の電流値に比べて大きくすることによって、酸化膜の生成速度を早め、導電性砥石の形状を早くワークの非加工面に倣わせ、ツルーイングするものである。以下、図を用いてその電解ドレッシング研削方法を説明する。
【0020】図2は研削装置に導電性砥石を装着した直後の回転による砥石の振れ、図3はツルーイング終了後の回転による砥石の振れ、図4は通常の電解インプロセスドレッシング研削工程中の回転による砥石の振れを示すグラフである。図5は研削装置に導電性砥石を装着した直後の砥石の加工面の状態、図6はツルーイング終了後の砥石の加工面の状態、図7は通常の電解インプロセスドレッシング研削工程中の砥石の加工面の状態を示す概念図である。
【0021】球面加工装置にワークおよび導電性砥石を装着して回転する。このとき、導電性砥石の回転軸の回転中心と、導電性砥石の加工面の形状の中心とが偏心している場合、図2に図示の如く、砥石には回転によって振れが生じてしまう。また、図5に図示の如く、このときの導電性砥石の加工面はまだ新品の導電性砥石であるため、加工面に砥粒が突き出ていない。
【0022】次に、ワークと導電性砥石との間に弱電性のクーラントを供給し、ドレス電極にてドレス電流を印加して導電性砥石を電解ドレスすることにより、導電性砥石の表面に砥粒を突出させる。ここで印加する電流は、通常の電解ドレッシングに比べて大きな電流である。
【0023】導電性砥石表面に砥粒が突出したら、導電性砥石をワークに対して切り込み、電解ドレッシング研削を行う。このときのドレス電流値も、電解ドレッシング時と同様に通常の電解ドレッシング研削に比べて大きな電流のままである。このような、大きな電解電流による電解ドレッシング研削を導電性砥石のツルーイングとし、数個のワークに対して行う。導電性砥石のツルーイングは、砥石の加工面がワークの被加工面に倣った時点で終了とする。
【0024】砥石の加工面がワークの被加工面に倣うと、砥石の回転軸と砥石加工面の形状の中心とが一致し、図3に図示の如く、回転による砥石の振れはなくなる。また、ツルーイング終了後は図6に図示の如く、砥石の加工面には酸化膜が生成され、砥粒は十分な研削能力を有した状態で砥石の加工面に突出している。
【0025】ツルーイングが終了したら、以後、通常の電解ドレッシング研削と同様の電解電流値にて、多数のワークの加工を行う。通常の電解ドレッシング研削中は、図4および図7に図示の如く、回転による砥石の振れがなく、加工面表面には、加工能力を十分に有している砥粒が突出しており、安定した加工が行える。
【0026】
【実施例1】図8は本実施例で用いる装置を示す概略構成図である。導電性砥石6の加工面7は、ダイヤモンド粉末などの砥粒と、Cu,SnおよびFe等の金属粉末とを特殊配合し、熱処理した焼結合金により構成されている。また、上記装置外に設けた電源装置8の(+)極はブラシ9を介して導電性砥石6の外周部へ電気的に接続され、(−)極は曲率RAと近似形状に形成されて導電性砥石6の加工面7との間に僅かな隙間lを設けて配設されるドレス電極10と接続されている。また、上記導電性砥石6の加工面7とドレス電極10との隙間に、図示されていないクーラント供給装置により、弱電性クーラント11を供給するノズル12が配設されている。
【0027】上記加工装置による加工方法を以下に説明する。ワーク14および導電性砥石6を研削装置に装着して導電性砥石6を回転させ、この導電性砥石6とドレス電極10との間に弱電性クーラント11を供給し、導電性砥石6を電解ドレッシングする。ここで、ドレス電極10に印加する電流は通常の電解ドレッシングに比べて大きな電流を印加する。通常の電解ドレッシングおよび電解ドレッシング研削においては、電解電流は0.5A以下であるが本実施例においてはこの電解電流を2Aとした。
【0028】次に、電解ドレッシングを行いつつワーク14に対して導電性砥石6を切り込み、ワーク14に対して電解ドレッシング研削を行う。このときのドレス電流値も先の電解ドレッシング同様、通常の電解ドレッシング研削に比べて大きな電流(2A)を印加する。上記のように電解電流値を大きくして行う電解ドレッシング研削を導電性砥石6のツルーイング工程とするが、本実施例においてはCG研削方法を用いているため、このツルーイング工程においても、ワーク14に対して所望の形状を形成し、製品とすることができる。このツルーイング工程を数個のワーク14に対して行う。
【0029】上記のように電解電流値を大きくすることにより、通常の電解ドレッシング研削に比べて導電性砥石6の加工面7のボンド材および砥粒の流出が早いため、導電性砥石6の回転軸の回転中心に対して加工面7の形状の中心が偏心し、導電性砥石6の加工面7全面がワーク14の被加工面に当接していない場合でも、短時間で導電性砥石6の加工面7の全面がワーク14の被加工面に当接し、導電性砥石6の加工面7の形状はワーク14の被加工面の形状に倣う。
【0030】数個のワーク14に対して電解ドレッシング研削加工を行い、導電性砥石6の加工面7の形状がワーク14の被加工面の形状に倣った時点でツルーイング工程を終了する。ツルーイング工程の完了後、電源装置8によって印加する電流値を、通常電解インプロセスドレッシング研削時の値に設定し、通常加工速度にてワーク14の球面創成加工を行う。
【0031】本実施例によれば、上記ツルーイング工程により短時間で導電性砥石のツルーイグが完了し、通常研削速度による高能率な球面創成加工工程に移行できるため、加工初期より砥石の加工能力を十分に発揮した加工が行え、安定した加工が持続できる。また、砥石の回転軸の回転中心に対して砥石加工面の形状の中心が偏心し、砥石の加工面全面がワークの被加工面に当接していない場合においても、この電解ドレッシング研削によると、短時間でツルーイングを終了することが可能となり、以後の通常の電解ドレッシング研削においてワークを精度良く加工することが可能となる。
【0032】
【実施例2】図9は本実施例で用いる装置を示す概略構成図である。本実施例は、前記実施例1におけるワーク14に代わり粗粒砥石21を用いた点が異なり、他の構成は同一な構成部分から成るもので、同一構成部分には同一番号を付してその説明を省略する。
【0033】本実施例においては、アルミナセラミックス等の砥粒からなる粗粒砥石21の球面創成加工に本発明の電解ドレッシング研削方法を用いた。
【0034】本実施例によれば、ツルーイング工程でのワークが粗粒砥石21であるために、導電性砥石の加工面の表面の絶縁酸化皮膜の除去効率が高まり、更に短時間でツルーイング工程の加工が完了する。
【0035】
【発明の効果】以上説明した様に、本発明に係る電解ドレッシング研削方法によれば、電解インプロセスドレッシング研削法を適用した光学素子の球面創成加工において、ツルーイングが短時間で完了するため、加工初期より高能率で安定した球面創成加工が続けられ、精度の高い光学素子を安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を示す概念図である。
【図2】本発明を示すグラフである。
【図3】本発明を示すグラフである。
【図4】本発明を示すグラフである。
【図5】本発明を示す砥石加工面の状態の概念図である。
【図6】本発明を示す砥石加工面の状態の概念図である。
【図7】本発明を示す砥石加工面の状態の概念図である。
【図8】実施例1を示す概略構成図である。
【図9】実施例2を示す概略構成図である。
【図10】従来例を示す概略構成図である。
【図11】従来例を示す概略構成図である。
【図12】従来例を示す部分拡大断面図である。
【図13】従来例を示す部分拡大断面図である。
【図14】従来例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
1 ブラシ
2 導電性砥石
3 加工面
4 ドレス電極
5 弱電性クーラント
15 電源装置
16 ワーク
【特許請求の範囲】
【請求項1】 電解ドレッシング研削方法において、導電性砥石によるワークに対する加工初期に電解電流値を大きくして導電性砥石をツルーイングし、ツルーイング終了後は通常の電解電流値によって加工を行うことを特徴とする電解ドレッシング研削方法。
【請求項1】 電解ドレッシング研削方法において、導電性砥石によるワークに対する加工初期に電解電流値を大きくして導電性砥石をツルーイングし、ツルーイング終了後は通常の電解電流値によって加工を行うことを特徴とする電解ドレッシング研削方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開平5−345273
【公開日】平成5年(1993)12月27日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−179157
【出願日】平成4年(1992)6月12日
【出願人】(000000376)オリンパス光学工業株式会社 (11,466)
【公開日】平成5年(1993)12月27日
【国際特許分類】
【出願日】平成4年(1992)6月12日
【出願人】(000000376)オリンパス光学工業株式会社 (11,466)
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