説明

電解採取設備

【課題】カソード吊手の金具形状に不具合があっても、金属粒の発生を抑制しアノードボックスを損傷することがない電解採取設備を提供する。
【解決手段】カソード2と、カソード2に対置して用いるアノード1とからなる組を電解槽内に設置して電解採取する電解採取設備であって、カソード2が、カソードビーム22からカソード吊手23を介して吊り下げられたカソード板21からなり、アノード1が、アノードビーム12からアノード吊手13を介して吊り下げられたアノード板11と、アノード板11を囲む箱状のアノードボックス14とからなり、アノードボックス14における、カソード吊手23に対向する部位に電気的遮蔽物としての濾布19が貼付されている。濾布19によりカソード吊手23とアノードボックス14の間の通電が遮蔽されるので、金属粒子が生成しにくくなり、引き上げ時のアノードボックス14の損傷も生じない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解採取設備に関する。電解採取では、アノードとカソードの組が多数電解槽に挿入されて用いられる。本発明は、このアノードを保護するためのアノードボックスを改良した電解採取設備に関する。
【背景技術】
【0002】
非鉄金属における湿式精錬法では、乾式製錬から産出されたニッケルマット及び低品位ラテライト鉱石から硫酸浸出によって産出されたニッケル、コバルト等の混合物であるニッケル硫化物を原料として、原料中に含有されるニッケル、コバルト、銅等の金属の大部分を塩素浸出する。そして、塩素浸出して得られた溶液から金属不純物等を除去した後に、電解採取によって電気ニッケル、電気コバルトを製造する。
【0003】
電解採取は、鉱石から目的金属を適当な溶媒を用いて浸出し、その浸出液から浄液工程で不純物除去と目的金属イオンの濃縮を行ってえられる電解液から電解により目的金属をカソード上に析出させる工程である。
電解採取のアノードは、伝導体としてだけ働くもので、たとえば塩素ガスが発生する発生極となる。
カソードは電解精製の場合と同じで、目的金属と同じ純金属を種板として用いる場合と、異なる金属を用い、電析後これをはぎ取る場合とがある。
カソードは純金属性のカソード板に、同種金属リボンで作成した吊手を取り付けて、操業に供される。電解浴は、目的金属の可溶性塩の水溶液を電解液とする。
【0004】
電解採取で使用されるアノード反応は、システムに電流を一巡させるためのもので、不溶性アノード上での塩素ガス等の発生反応が利用される。たとえば、塩化亜鉛の水溶液からの亜鉛の電解採取ではアノードで塩素ガスが発生し、カソードには亜鉛が析出する。この電解を連続的に進行させるため、ある一定の大きさ以上の電圧をかけて操業される。
【0005】
電解採取設備は、通常、電解槽50槽程度で操業されており、電解槽1槽につき、50組程度のアノードとカソードが交互に電解槽に挿入されている。電解槽の構成は図6に示すように、電解槽10の内部に電解液が貯えられており、アノード1とカソード2の組が交互に配置されて電解液中に浸漬されている。そして、アノード1はアノードビーム12に吊り下げられ、アノードビーム12は電解槽の縁にボルト等で固定されている。また、カソード2はカソードビーム22にカソード吊手23を介して吊り下げられており、カソードビーム22は電解槽の縁に引っ掛けられている。
【0006】
上記の電解採取においては、アノード1側から塩素ガス等が発生するため、不溶性アノードはアノードボックス14と称する隔壁内に収められ、発生した塩素ガス等は別途回収される。
カソード2は、電解採取工程の前工程で製造され、この段階で、四角形で広い面積を有するカソード板21にピンセット状の二又に加工したカソード吊手23を取り付け、このカソード吊手23の空間にカソードビーム22を通しており、カソードビーム22によってカソード板21を吊り下げるようになっている。
【0007】
ところで、図7(A)に示すように、カソード吊手23は、製造工程の不具合で二又の片側部分が長くなって、カソード板21から浮いた突出部123が発生することがある。このような突出部123の解消には、吊手金具の製造条件を厳密に管理すれば良いが、そうすれば長時間を要することとなって、操業上好ましくない。
かといって、無理して使うと、突出部123付近は局部的に極間距離が短くなっているので、電気抵抗が小さくなっており、図7(B)に示すように、優先的に金属が析出して金属粒mpが生成する。この金属粒mpが成長して、同図(C)に示すように、アノードボックス14と接触し、更にアノードボックス14を貫いてアノード板に接触すると電気的短絡(ショート)が発生するという電力コスト上の問題が発生する。
また、ショートが発生する前段階で、成長した金属粒mpはアノードボックス14を構成する濾布を貫通するため、ショートするに至らない場合でも、カソード引き上げ時にアノードボックス14を裂開してアノードボックス14の交換頻度が上昇するという設備コスト上の問題が発生する。
【0008】
特許文献1には、カソードスペーサーを使用して電流を適切に遮蔽することにより、カソード周縁部における金属粒mpの発生を防止する方法が公開されている。しかし、この特許文献1の従来技術ではカソード周辺部の電流遮蔽には効果があるがカソード吊手の金具部分における金属粒mpの成長を防止することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平06−287787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑み、カソード吊手の金具形状に不具合があっても、金属粒の発生を抑制し、アノードボックスを損傷することなく、操業の継続が可能な、電解採取設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明の電解採取設備は、カソードと、該カソードに対置して用いるアノードとからなる組を電解槽内に設置して電解採取する電解採取設備であって、前記カソードが、カソードビームからカソード吊手を介して吊り下げられたカソード板からなり、前記アノードが、アノードビームからアノード吊手を介して吊り下げられたアノード板と、該アノード板を囲む箱状のアノードボックスとからなり、前記アノードボックスにおける、前記カソード吊手に対向する部位に電気的遮蔽物が貼付されていることを特徴とする。
第2発明の電解採取設備は、第1発明において、前記電気的遮蔽物が、濾布であることを特徴とする。
第3発明の電解採取設備は、第2発明において、前記濾布がシリコンコーキングで貼付されていることを特徴とする。
第4発明の電解採取設備は、第2または第3発明において、前記アノードボックスにおいて前記濾布を貼付した部位が、前記カソード吊手よりも幅方向および縦方向において大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1発明によれば、電気的遮蔽物によりカソード吊手とアノードボックスの間の通電が遮蔽されるので、金属粒子が生成しにくくなり、ショートも発生せず、引き上げ時のアノードボックスの裂開も生じない。
第2発明によれば、電気的遮蔽物が濾布なので、薄く仕上げることができ、電解槽内でのアノードとカソードの間の間隔を狭いままに維持でき、電解効率を高く維持したまま操業できる。
第3発明によれば、シリコンは塩素浸出後の溶液に侵されないので、濾布が剥がれず、長期にわたって金属粒子の成長を防止しうる。
第4発明によれば、濾布の面積がカソード吊手よりも広いのでアノードやカソードの電解槽への挿入位置に多少のずれがあっても、効果的に通電が遮蔽され金属粒子の生成を防止しうる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る電解採取設備におけるアノードの正面図である。
【図2】(A)は図1のIIa線矢視で示すアノードの側面図、(B)は同図IIb線矢視で示すアノードの断面図である。
【図3】(A)はカソードの正面図、(B)は同側面図である。
【図4】アノードにカソードを重ねた状態の正面図である。
【図5】図4のV−V線矢視側面図である。
【図6】電解採取設備の部分断面図である。
【図7】従来の電解採取設備で生じた問題点の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の電解採取設備はアノードボックスに工夫したものであるが、カソードの構造とも関係する工夫であるので、以下にアノードの構造とカソードの構造を、その順に説明する。
【0015】
図1および図2に基づき、まずアノードを説明する。
アノード1は、アノード板11と、それを吊り下げるアノードビーム12と、アノード板11をアノードビーム12に連結するアノード吊手13を有する。
アノード板11は電解槽内で伝導体として働く金属板であり、チタン板や銅合金板、コバルト合金板などが用いられる。
【0016】
アノード吊手13はアノード板11と同種金属の平板であり、2本用いられている。アノードビームは、銅製の棒材にニッケルメッキなどを施したものであり、ボルト等でアノード吊手13に固定されている。
【0017】
アノード1のアノード板11は塩素ガス等の発生極となるので、発生したガスを集め外部へ逃がすためのアノードボックス14で囲まれている。
このアノードボックス14の構成は、塩化ビニール等の合成樹脂製の枠体15に濾布16を貼付し、濾布16の上端縁をゴム製のOリング17等で止めたものである。つまり、アノード板11は濾布16で正面、背面、両側面を囲まれた構成となっている。
なお、枠体15の上端適所には吸引パイプ18が取付けられ、発生したガスはこの吸引パイプ18から外部に向けて排出されるようになっている。
【0018】
上記構成のアノードボックス14における正面側および裏面側の濾布16に重ねて電気的遮蔽物としての濾布19が貼付されている。
本発明で用いる電気的遮蔽物としては、通電を阻止する遮蔽物であればよいが、アノードボックス14を構成する濾布16に貼付可能で、かつ薄い物が好適である。
本実施形態では、このような電気的遮蔽物として、濾布19を用いている。この濾布19はアノードボックス14を構成する濾布16と全く同じ素材でもよく、多少異なるものであってもよい。
【0019】
図3に基づき、カソード2を説明する。
カソード2は、カソード板21と、それを吊り下げるカソードビーム22と、カソード板21をカソードビーム22に連結するカソード吊手23からなる。
カソード板21は、目的金属と同じ金属を用いたものや異なる金属を用いたものがある。
カソード吊手23は、カソード板21と同種金属の薄い平板をピンセットに似た二又状に折り曲げたものである。このカソード吊手23を2本用い、それぞれの端部をカソード板21の上端縁にスポット溶接等で固定している。そして、カソードビーム22はカソード吊手23の上端湾曲部に通されている。
【0020】
電気的遮蔽物としての濾布19は、図4に示すように、カソード吊手23に対向する部位において、アノードボックス14を構成する濾布16の上に重ねて貼付されている。
この濾布19は薄いので、電解槽内でのアノードとカソードの間の間隔を狭いままに維持でき、電解効率を高く維持したまま操業できる。
【0021】
濾布19を貼り付けるための接着剤は、塩素浸出後の溶液に侵されないものであれば何でも良いが、通常の電解採取操業時において、カソードスペーサー等の補修剤としても用いられるシリコンコーキング剤(例えば、セメダイン社製、品名:セメダイン8060プロ)を使用するのが好ましい。シリコンは塩素浸出後の溶液に侵されず、しかも前記コーキング剤は、わざわざ別の接着剤等を用意しなくてよいので、資材準備の手間が少なくなるからである。
【0022】
濾布19の大きさは、カソード吊手23の電解槽への浸漬部分よりも、深さと幅の両方において、大きくすることが好ましい。この大きくする余裕寸法は、経験的に定めてよいが、たとえば数10mm程度である。
そうすることによって、カソード2やアノード1の電解槽への挿入位置は毎回多少の位置ズレが生ずるが、そうした位置ズレがあったとしても、濾布19の大きさに余裕があれば、通電遮蔽が効果的に行われることになる。したがって、カソード吊手23とアノードボックス14との間で通電が遮蔽され、金属粒子mpが発生しにくくなる。
【0023】
電解採取設備におけるカソード2は、一般的に既にアノード1が槽内に固定された状態の電解槽に、電解クレーンと称する電極用のクレーンを使用して、電解槽に挿入される。本発明の濾布19を用いた電解採取設備では、特にアノード挿入時のクレーンの操作に正確さを求めなくてよくなるので、位置調整に時間を要せず、操業効率を向上させることができる。
【0024】
なお、電気的遮蔽用の濾布19のサイズは、電気的遮蔽の目的ではこのサイズより大きければ大きいほど効果が高くなるが、逆に、電解採取という本来の目的からは、操業効率が低下する方向になるため、上記した余裕寸法を確保しつつ最小限の大きさとすることが望ましい。
【実施例】
【0025】
つぎに、実施例により、その効果を説明する。
(実施例と比較例の共通の条件)
カソード2:約1m四方のコバルト合金製のカソード2を用意した。
カソードの吊手金具23には不具合が発生しており、製造されたカソード2のうち、約10%ではカソード吊手23が、通常の吊手が40mm四方の浸漬部分を有するのに対して、片方の吊手が60mmと長く、しかも端面が5mm程度浮き上がっていた。幅は40mmであった。
アノード1:不溶性アノード板11をアノードボックス14中に備えており、このアノード1は、アノードビーム12を電極であるブスバーを介して電解槽の縁にボルト固定することにより、電解槽内に設置されている。
【0026】
(実施例1)
不具合の発生しているカソード吊手23に正対する位置にあるアノードボックス14には、本発明のアノードボックスを使用した。
上記以外は、カソード吊手23の不具合が無い場合と同様に、電解採取操業を行った。
その結果、実施例1では、1回の電解操業(カソード2を電解槽に装入して、所定量の金属を電着させて引き上げる(電解槽からカソード2を取り出す))の間に、1槽当たりのショートの発生件数ゼロ件。カソード2の引き上げ時のアノードボックス破損件数は、1槽当りゼロ件であった。
【0027】
(比較例1)
実施例1のアノードボックスを使用するかわりに、塩化ビニール製の板で作成した電流遮蔽用のカバーを、アノードボックス14とカソード吊手23の間にぶら下げた。
それ以外は、実施例1と同様に電解操業を行った。
その結果、1回の電化操業の間に、ショートの発生件数、1槽当り1件。カソードの引き上げ時のアノードボックス破損件数は、1槽当り4件であった。
【0028】
(比較例2)
実施例1のアノードボックスを使用するかわりに、濾布で作成した電流遮蔽用のカバーを、アノードボックス14とカソード吊手23の間にぶら下げた。
それ以外は、実施例1と同様に電解操業を行った。
その結果、1回の電化操業の間に、ショートの発生件数、1槽当り2件。カソードの引き上げ時のアノードボックス破損件数は、1槽当り5件であった。
【0029】
本実施形態の電解採取設備によれば、カソード吊手23に不具合があっても、金属粒子mpの発生を抑制し、アノードボックス14を損傷することなく、操業の継続が可能となる。従来はカソード吊手23に不具合が発生している期間に操業すると、1回の電解操業において、5枚/槽(50槽として、250枚)のアノードボックス交換が必要であったにも関わらず、本実施形態のアノードボックス14を使用してからはアノードボックス交換がゼロとなった。
【符号の説明】
【0030】
1 アノード
2 カソード
14 アノードボックス
16 濾布
19 電気的遮蔽物としての濾布
23 カソード吊手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードと、該カソードに対置して用いるアノードとからなる組を電解槽内に設置して電解採取する電解採取設備であって、
前記カソードが、カソードビームからカソード吊手を介して吊り下げられたカソード板からなり、
前記アノードが、アノードビームからアノード吊手を介して吊り下げられたアノード板と、該アノード板を囲む箱状のアノードボックスとからなり、
前記アノードボックスにおける、前記カソード吊手に対向する部位に電気的遮蔽物が貼付されている
ことを特徴とする電解採取設備。
【請求項2】
前記電気的遮蔽物が、濾布である
ことを特徴とする請求項1記載の電解採取設備。
【請求項3】
前記濾布がシリコンコーキングで貼付されている
ことを特徴とする請求項2記載の電解採取設備。
【請求項4】
前記アノードボックスにおいて前記濾布を貼付した部位が、前記カソード吊手よりも幅方向および縦方向において大きい
ことを特徴とする請求項2または3記載の電解採取設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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