説明

電解水製造装置

【課題】 所望のpHを有する強電解水を大容量で生成することができ、且つ簡単な構造の電解水製造装置を提供する。
【解決手段】 流水式の電解水製造装置100は、中空で多角柱状の内側電極70、隔膜88付き隔膜支持体80及び外側電極90を三重に重ね合わせて備える電解槽10を有する。外側電極の第1側面設けられた水供給口2aと対向する隔膜支持体の第1側面80aは非透水性であり、水供給口2aから外部電極90と隔膜88との間に水流を送り込む際に整流作用をする。電解効率が高く、電解時の電極電流が各側面で均一で且つ安定化するので、強電解水を大容量で生成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気分解により強酸性水または強アルカリ性水を製造する装置に関し、更に詳細には、内視鏡の洗浄などに好適な強酸性水または強アルカリ性水を低エネルギー電解条件で短時間に大量に製造することができる電解水製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、飲料水や医療機器の消毒剤として電解水が使われている。電解水は、その水素イオン濃度(pH)により、強酸性電解水(pH2.3〜2.7)、強アルカリ性電解水(pH11〜11.5)、弱酸性電解水(pH5〜6)、電解次亜水(pH8〜9)、アルカリイオン水(pH8〜10)のように分類される。このうち、強酸性電解水は、その殺菌力及び安全性の観点から、医療機関における院内感染防止用洗浄剤や内視鏡の洗浄消毒に有望であることが報告されている(非特許文献1)。強酸性電解水は、特に、医療器具や人体の皮膚や粘膜にも使用可能であり、また、殺菌対象物も一般細菌のみならずHIV、HBVや芽胞菌までも網羅しているために、グルタールアルデヒドや消毒用エタノールに比べて広範な適用性を有する。このような強酸性電解水は、通常、陽極と陰極が隔膜によって仕切られた電解槽で0.1%以下の食塩水を電気分解(電解)することによって陽極側に生成する。陽極では塩素イオンから塩素ガスが生じ、それがさらに水と反応して塩酸と次亜塩素酸を生じ、強酸性電解水となる。
【0003】
特許文献1は、電解槽を内筒と外筒とからなる二重構造とし、内筒の外壁と外筒の内壁との電極を取り付けた構造の流水式の無隔膜式電解水製造装置を開示している。この装置では、平面板の電極が用いられている。特許文献1には、電解水の生成能力(特に所定pHの電解水の生成流量)については何等開示されていない。
【0004】
特許文献2は、小型化、捨て水の防止等を目的として、電極がそれぞれ設けられた外側容器と内側容器の二重容器で構成され、内部容器の外側にイオン交換膜を備えるとともに内側に電解質を備える電解槽を開示している。この電解槽では、内部容器のメッシュ状の底面上に塩化ナトリウムのような電解質が収容されているので、従来のように水道水に電解質を添加した電解水を流す必要がないとされている。この文献には、電極として柱状の炭素電極とその周囲に配置された円筒状の電極が開示されている。この文献には、電解水の生成能力(特に所定pHの電解水の生成流量)については何等開示されていない。
【0005】
【非特許文献1】「強酸性電解水の基礎と有効利用:医療における強酸性電解水」、堀田国元、第25回日本医学会総会、P1、1999年)
【特許文献1】特開2001−104956号公報
【特許文献2】特開2002−219461号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の流水式の電解水製造装置では、低電圧・低電流の電解条件で所定のpHを有する電解水を十分な容量で生成することが可能ではなかった。特に、院内で内視鏡などの医療器具の洗浄においては短時間で大容量の強電解水が必要とされ、このような用途においては従来の流水式の電解水製造装置の性能は十分とは言えなかった。また、従来の流水式の電解水製造装置では、電解水の未分解塩水濃度は600〜1200ppm程度であり、これを100ppm(0.01%)以下に抑制しないと、電解水による洗浄対象物、例えば、内視鏡のような医療器具が電解水により腐蝕するという問題がある。さらに、電解に伴い発生する塩素ガスの発生を防止する必要もあった。さらに、近年、インフルエンザやSARSのような患者の院内感染や家庭内感染が懸念されており、そのような感染の防止手段として、コンパクトで且つ低廉な電解水製造装置に対する需要もある。
【0007】
そこで、本発明の第1の目的は、小型で、単純な構造の電解槽を有する電解水製造装置を提供することにある。本発明の第2の目的は、低電圧及び低電流の電解により、強酸性水または強アルカリ性水を大容量で製造することができる電解水製造装置を提供することにある。本発明の第3の目的は、未分解塩水濃度が0.01%以下である電解水を生成することができる電解水製造装置を提供することにある。さらに、本発明の第4の目的は、強酸性水または強アルカリ性水を大容量で供給することができる内視鏡洗浄装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様に従えば、流水式の電解水製造装置であって、
中空で多角柱状の内側電極と、中空で多角柱状であり且つ隔膜が支持されている隔膜支持体と、中空で多角柱状の外側電極とを三重に重ね合わせて備える電解槽と;
外側電極または内側電極と隔膜支持体との間の第1空間に水を供給する水供給装置と;
内側電極または外側電極と隔膜支持体との間の第2空間に電解質水を供給する電解質水供給装置と;を備え、
外側電極または内側電極の第1側面に水供給口が形成され、外側電極または内側電極の第1側面と対向する隔膜支持体の第1側面において少なくとも水供給口に対向する部分が非透水性の整流面である電解水製造装置が提供される。
【0009】
本発明の電解水製造装置では、いずれも中空で多角柱状(断面が多角形の筒状)の内側電極、隔膜支持体及び外側電極を三重構造になるように重ね合わせることで電解槽が構成されている。すなわち、電極対と隔膜支持体を同軸に配置し、それらの形状を四角柱のような多角柱で構成したことにより、電極の各側面が平面電極として機能し、電解は対向する平面電極間で行われる。発明者らの実験によると多角柱状電極は円筒電極に比べて電解が安定して行われることが分った。これは、円筒型電極の場合は電極間距離を円周方向で高精度に維持することが困難であること、電極間の水の流れの制御が複雑であることに起因することなどの理由によると考えられる。本発明で採用した多角柱状電極は、一対の平面電極に比べて水分子や電解質イオンが電極に接する機会が一層高くなる(電極間に滞在する時間が長くなる)ので電解効率を向上させることができる。また、多角柱状の電極は、電解室を完全に覆うことができるために、電解槽の外筒及び/または内筒を不要にし、電解槽の部品点数を減らし、製造コストの低廉化及び装置の軽量・コンパクト化に貢献する。
【0010】
さらに、本発明では、水供給口と対向する隔膜支持体の第1側面の部分に整流板(面)を設けている。この整流板は非透水性であるので水供給口から流入する水を受け止めるとともに隔膜支持体の第1側面に沿って均等に分散するように整流する。整流された水流は、第1側面に隣接する二つの側面に向かって二分され、それらの側面に支持された隔膜上でイオン交換する。この整流板の整流作用によって第1側面以外の側面上で極めて安定した水流が生じ、電解電圧及び電流が多角柱の側面間で均一になり且つ安定する。
【0011】
本発明の電解水製造装置において、隔膜支持体の第1側面全体を非透水性の整流板(面)にすることが有利である。これにより、隔膜支持体の製造が容易となり、また、整流も一層に有効に行われる。この場合、高い電解効率を維持するために、隔膜支持体の第1側面以外の全ての側面に隔膜が支持されることが望ましい。
【0012】
本発明の電解水製造装置において、前記内側電極の側面に複数の透過孔が形成され、前記電解質水供給装置が最初に内側電極の内側に電解質水を供給してもよい。このような流水構造を採用することにより、狭い電極間空間に電解質水を供給する必要がなく、装置構成が簡単になると共に電解が一層安定化するという利点がある。
【0013】
本発明において、内側電極、隔膜支持体及び外側電極は、三角柱、四角柱、五角柱、六角柱、七角柱、八角柱などの形状の中空の多角柱で形成し得るが、あまり側面が多くなると、円柱に近くなるために好ましくない。従って、本願では、「多角柱状」とは八角以下の多角柱を意味するものとする。特に、内側電極と外側電極が、四角柱状が好ましい。四角柱は単純な構造であるので製造容易であり、4つの側面は比較的大きな平面電極として機能することができるので電解電圧の安定化に貢献すると考えられる。
【0014】
本発明の第2の態様に従えば、流水式の電解水製造装置であって、
中空で四角柱状の内側電極と、中空で四角柱状であり且つ隔膜が支持されている隔膜支持体と、中空で四角柱状の外側電極とを三重に重ね合わせて備える第1電解槽と;
第1電解槽と直列に接続され、中空で四角柱状の内側電極と中空で四角柱状であり且つ隔膜が支持されている隔膜支持体と中空で四角柱状の外側電極とを三重に重ね合わせて備える第2電解槽と;
第1電解槽の外側電極と隔膜支持体との間の空間に水を供給する水供給装置と;
第1電解槽及び第2電解槽の内側電極と隔膜支持体との間の空間に電解質水を供給する電解質水供給装置と;を備え、
第1電解槽及び第2電解槽において、外側電極の第1側面に水供給口が形成され、外側電極の第1側面と対向する隔膜支持体の第1側面が非透水性の整流面であり、隔膜支持体の第2〜第4側面にそれぞれ隔膜が設けられている電解水製造装置が提供される。
【0015】
本発明の第2の態様の電解水製造装置では、第1の態様で説明した電解槽の二つが直列に接続された構造を有する。第1電解槽で生成された電解水、例えば、酸性電解水は、第2電解槽の外側電極と隔膜との間の空間に供給され、そこでさらに電解されるので一層高濃度(低pH)の酸性電解水が第2電解槽で得られる。第1電解槽の外側電極と隔膜との間の空間は、第2電解槽の外側電極と隔膜との間の空間と槽連結管などにより連結され得る。
【0016】
本発明の電解水製造装置は、低エネルギー、即ち、10V以下及び30A以下、好ましくは7V以下及び26A以下の電解条件で、pH2.3以下、ORP(酸化還元電位)が1170mV以上、残留塩素濃度50mg/リットル以上、未分解食塩濃度0.01%以下の強酸性水を、3.0リットル/分以上の大容量で製造することに成功した。
【0017】
本発明の装置は、さらに、電解により製造される強酸性水に水を混合するブレンダを備え得る。本発明の装置は、10V以下及び30A以下、好ましくは7V以下及び26A以下という低電解条件で、pH2.3以下の強酸性水を3.0リットル/分以上の大容量で提供することができる。従って、pHが2.7、ORP(酸化還元電位)1100mV、残留塩素濃度20mg/リットル程度の強酸性水で足りる用途、例えば、内視鏡の洗浄には、本発明の装置で生成された強酸性水をブレンダを使って希釈することにより、好適なpHの強酸性水を一層大容量(例えば、pH2.6の強酸性水を5.2リットル/分)で製造することが可能となる。
【0018】
本発明では、本発明の態様の電解水製造装置を備えた内視鏡洗浄装置が提供される。本発明の電解水製造装置は、低エネルギーの電解で、内視鏡洗浄に好適なpHの電解水を大容量で供給することができるので、内視鏡洗浄装置に組み込むことで、極めて洗浄能力の高い内視鏡洗浄装置を提供することができる。なお、本明細書において、用語「電解水」とは、酸性電解水またはアルカリ性電解水を示し、電解水製造装置はその電極の極性を変更することによりいずれの電解水も生成することができる。また、用語「強電解水」とは、強酸性電解水または強アルカリ性電解水を示す。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電解水製造装置は、電極及び隔膜支持体がいずれも中空で同様の形状の(相似形の)多角柱状であり、整流板を有するので、電解がいずれの電極面においても安定化し且つ電極面間で均一となり、しかも低電圧・低電流で大容量の強電解水を生成することができる。本発明の電解水製造装置の電解槽は基本的には中空の多角柱状の電極により構成されているので、特に電極を配置するための外筒及び内筒は不要となり、構造が簡単で製造が容易で低コストであるという利点がある。本発明の電解水製造装置を備える内視鏡洗浄装置は、大容量の強電解水を短時間で供給することができるので、高速洗浄が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の電解水製造装置の実施形態について、図を参照しながら説明する。
[第1実施形態]
【0021】
最初に電解水製造装置の概略構造を説明し、次いで電解槽の構造を詳述する。図1に示したように、電解水製造装置100は、主に、電解槽10と、定電圧装置25a,25bと、塩水供給装置30と、水供給管40と、ブレンダ50と、流量制御弁(またはマスフローコントローラー)20、60とを備える。電解槽10は、直列に接続された第1電解槽2と第2電解槽4を備え、それらは支持板6,7,8で支持されている。第1電解槽2と第2電解槽4には、それぞれ、水供給口2a,4a及び電解水排出口2b,4bが形成されている。また、第1電解槽2と第2電解槽4には、定電圧装置25a、25bがそれぞれ取付けられる。定電圧装置25a、25bは、第1及び第2電解槽の電極92に接続されて電極間に制御された一定の電圧を印加する。この例では、第1電解槽2及び第2電解槽4において強酸性電解水が生成される場合を例に挙げて説明する。なお、第1電解槽2と第2電解槽4は上蓋3aと下蓋3bとの間に配置される。
【0022】
塩水供給装置30は、電解槽10に供給するための塩水を生成する塩水タンク34と、その底部に設けられ食塩が蓄積された食塩タンク32と、塩水を循環するための循環ポンプ36とを備える。食塩タンク32に蓄えられた食塩に塩水タンク34中の塩水が接することにより、塩水タンク34中の食塩水が常に飽和濃度に維持されている。
【0023】
塩水供給装置30は、第1電解槽2と塩水供給管38で接続され、第2電解槽2と塩水戻り管39で接続されている。塩水供給装置30で生成された塩水は、塩水供給管38を通じて第1電解槽2に供給され、第1電解槽2内を通過して、次いで支持板7内に形成された塩水通路(不図示)を通って第2電解槽4に供給される。第2電解槽4から排出される塩水は、支持板8に形成された排出口から排出され、塩水戻り管39を通って塩水供給装置30に戻る。すなわち、塩水は、塩水供給装置30と電解槽10との間を循環する。
【0024】
第1電解槽2の水供給口2aには水供給管40が連結されており、水供給管40は図示しない水道管に連結されている。すなわち、この例では水道管を水源として、そこから水供給管40を通して第1電解槽2に水が供給される。第1電解槽2の電解水排出口2bと第2電解槽4の水供給口4aは、槽連結管12で接続されており、第1電解槽2で生成した強酸性水は槽連結管12を通って第2電解槽4に供給される。本発明で用いる水供給装置は、水道管を水源としても良くあるいは、別途、浄水を貯蔵する水タンクを水源として用い、ポンプ等で第1電解槽2に供給しても良い。
【0025】
第2電解槽4は、電解水排出管14を通じてブレンダ50と接続されている。ブレンダ50は、第2電解槽4で生成した電解水(強酸性電解水)を適宜希釈する。このため、第2電解槽4で生成した電解水がブレンダ50の一方の入口50aに流入し、水供給管40bからブレンダ50の他方の入口50bに希釈用の水が流入する。ブレンダ50にはORP(酸化還元電位)センサー55が取り付けられ、ORPセンサー55と水供給管40bに設けられた流量制御弁20により、ブレンダ50内で電解水が所定のpHになるように希釈される。ブレンダ50で希釈された所望pHの電解水はブレンダ出口50cから取り出される。
【0026】
次に、第1電解槽2及び第2電解槽4の構造を、図2を参照して説明する。第2電解槽4は第1電解槽2とほぼ同じ構造を有するために、図2では第1電解槽2のみを表し、第2電解槽4の図示及びその説明は省略する。第1電解槽2は、断面が四角形である筒状の内側電極70、隔膜支持体80及び外側電極90を同軸上(図2のX軸上)に重ね合わせて備える。内側電極70の側面70a〜70dは、厚さ2mmのチタン平板に白金が2μmの厚さでコートされてなる。第1側面70aを除く側面70b、70c、70dには、Φ8mmの孔が定間隔で分散して形成されている。内側電極70は図示しないワイヤを通じて第2電解槽4の内側電極70及び定電圧装置(25a)に接続される。
【0027】
隔膜支持体80は、上枠82、下枠84、その間に挟まれた格子状のガイド枠86、及び隔膜88から構成されている。上枠82及び下枠84は隔膜支持体80よりも厚い所定の厚さを有し、その厚さにより内側電極70と外側電極90との電極間距離を所定値に維持する。隔膜支持体80の3つの側面80b、80c、80dには、塩化ビニル製のガイド枠86が設けられ、ポリフッ化ビニリデンのような樹脂に酸化チタンを被覆した隔膜88がガイド枠86によって支持されている。このため、隔膜88はガイド枠86の開口部に露出しており、露出した隔膜部分でイオン交換が行われる。隔膜支持体80の第1面80aは、開口部のない塩化ビニル板で形成されており、この塩化ビニル板はガイド枠86と一体的に成形されている。塩化ビニル板は非透水性であるために、隔膜支持体80の側面80aを通じてイオン交換は行われないが、後述する外側電極に設けられたの水供給口から供給される水を受け留め、第2面80b及び第4面80dに向う水を整流する役割を果す。従って、電解によるイオン交換は隔膜支持体80の3つの側面80b、80c、80dの隔膜88だけで行われる。
【0028】
外側電極90は、軸方向に垂直に切断した断面が四角形(正方形)の筒状であり、内側電極70及び隔膜支持体80の外側に配置される。外側電極90の四つの側面90a〜90dは、いずれも厚さ2mmのチタン平板に2μm厚の白金膜がコートされてなる。外側電極90の第1側面90aの下方には水供給口2aが、第3側面90cの上方には電解水排出口2bがそれぞれ設けられている。このように水供給口2aと電解水排出口2bが四角柱の外側電極90の中心に対して対称に設けられていることにより、供給されたの水の電解槽中での滞在期間が長くなり電解効率が向上すると考えられる。外側電極90の側面には、電解を均一に実行するために複数の電極端子92が設けられている。電極端子92間はワイヤーで電気接続されてその端部が定電圧装置(25a)に接続されている(図1参照)。
【0029】
第1電解槽2を組み立てるには、軸Xを中心軸として、外側電極90内に隔膜支持体80が挿入され、そして隔膜支持体80内に内側電極70が挿入されることによって、それらが同軸上に三重に重なるように配置される。次いで、支持板6及び7が、内側電極70、隔膜支持体80及び外側電極90の両側の開放端に、それぞれ上蓋及び下蓋として嵌め合わされる。支持板6には、ガス抜き用の孔6aと塩水導入口66が形成されており、孔6aに排気管を接続し得る。塩水導入口66には塩水供給管(38)が接続される。この塩水供給管は塩水濃度を均一化するために支持板6を貫通して内側電極70内にまで延在する方が好ましい。嵌め合わせのために、図2に示すように、支持板7の底面には、槽間の塩水通路7aの外側に内側電極70及び外側電極90の内周と嵌合する枠状突部7b及び7cが設けられている。
【0030】
上記のような構造を有する本発明の強電解水の製造装置の動作について図3を参照しながら説明する。この例では、強酸性電解質を生成するために、外側電極90を陽極(+)とし、内側電極を陰極(−)とした。塩水供給装置30からポンプ36を通じて送出される飽和塩分濃度の塩水は、塩水供給管38を通って第1電解槽2の内側電極70の内部に供給される。前述のように内側電極70には複数の孔が形成されているために、塩水は内側電極70の側壁を通過して隔膜88と内側電極70との間の空間に流入し、塩水通路7aを通過して第2電解槽4の内側電極70の内部に流入する。ここでも、内側電極70には複数の孔が形成されているために、塩水は内側電極70の側壁を通過して隔膜88と内側電極70との間の空間に流入し、第2電解槽4を流出した後、塩水戻り管39を通って塩水供給装置30に戻る。こうして、塩水は塩水供給装置30と第1及び第2電解槽2,4とを循環する。
【0031】
一方、水道管などの水源から水供給管40を通って供給された水流は、管40a及び40bに分岐される。管40a側を流れる水は流量弁60で流量が所定の流量に制御された後、第1電解槽2の外側電極90と整流板(第1面)80aとの間の空間に流入される。そして、水流が整流板80aで整流されて隔膜支持体80の第2〜4側面に設けられている隔膜88上を流れる。この際、電解により塩水中の塩素イオン(Cl)は、後述する反応により隔膜88と外側電極90の間の空間で水と反応して次塩素酸(HClO)となる。それゆえ、水は、第1電解槽2を、次塩素酸(HClO)を含む電解水となって流出する。第1電解槽2を流出する電解水は槽連結管12を通って第2電解槽4の外側電極90と整流板80aの間の空間に流入し、そこで整流された後、第1電解槽2と同様に、隔膜88上を流れ、電解されることによって次塩素酸(HClO)の濃度が高くなる。こうして強酸性化した電解水は第2電解槽4を流出し、電解水排出管14を通ってブレンダ50に流入する。ブレンダ50には、分岐した水供給管40bからの水が流入される。水供給管40bから供給される水量は流量弁20で制御される。従って、ブレンダ50内で、強酸性電解水は水で希釈されて適正なpHに調整されてブレンダ50から排出される。
【0032】
上記電解槽における電気化学反応を簡単に説明する。電気分解により外部電極90、すなわち陽極側では、水から酸素と水素イオン(H)が生成し、内部電極70と隔膜88との間に供給された塩水中の塩素イオン(Cl)は隔膜88を通り、隔膜88と外側電極90の間の空間で塩素(Cl)を介して塩素ガス(Cl)となり、塩素ガスは水と反応して次塩素酸(HClO)及び塩酸(HCl)となる。それゆえ、水は、第1電解槽2の外部電極90と隔膜88との間の空間から、殺菌効果の高い次塩素酸(HClO)を含んで流出する。第1電解槽2から流出する電解水は高濃度の水素イオンを含むために、pHの低い強酸性水となる。
【実施例1】
【0033】
図1〜3に示した電解水製造装置を用いた電解操作の例を示す。外側電極を陽極(+)とし、内側電極を陰極(−)とし、定電圧装置を制御して6V、16Aの電解条件の下で電解を行った。第1電解槽への水供給量は3.2リットル/分であり、この例ではブレンダへ水を供給しなかった。塩水の供給量(循環量)300cc/分とした。電極間距離は、2.0mmであった。この電解により、pH2.30、ORP(酸化還元電位)1180mV、残留塩素濃度60mg/リットル(ppm)の強酸性電解水が3.2リットル/分の流量で得られた。生成した強酸性電解水の未分解食塩濃度をTOWA DKK−HM20T(東亜ディーケーケー株式会社)で測定したところ、0.0096%(96ppm)であることが分った。内部電極及び外部電極の第2〜第4側面での電流値をそれぞれ測定したところ、いずれも5A±0.2Aで均一で且つ安定化していることが分った。
【実施例2】
【0034】
実施例1において、ブレンダへ水を2.0リットル/分で供給した以外は、実施例1と同様の条件で電解を行った。この電解により、pH2.60、ORP1130mV、残留塩素濃度20〜30mg/リットルの強酸性電解水が5.2リットル/分の流量で得られた。
【実施例3】
【0035】
実施例1において、電極極性を入替えて外側電極を陰極(−)とし、内側電極を陽極(+)とした以外は、実施例1と同様の条件で電解を行った。この電解により、pH12.0、ORP−950mVの強アルカリ性電解水が3.2リットル/分の流量で得られた。
【実施例4】
【0036】
実施例3において、ブレンダへ水を2.0リットル/分で供給した以外は、実施例3と同様の条件で電解を行った。この電解により、pH11.3、ORP−800mVの強アルカリ性電解水が5.2リットル/分の流量で得られた。
【0037】
上記実施例では、内側電極面に複数の孔を設け、内側電極の内側に塩水を供給したが、内側電極面に複数の孔を設けることなく、塩水を内側電極と隔膜支持体(隔膜)との間の空間に直接供給してもよい。
【0038】
[第2実施形態]
図4に示すように、いずれも中空の三角柱状の外側電極190、隔膜支持体180及び内側電極170を三重に重ねた構造の電解槽110を用いることも可能である。この場合、外側電極190の水供給口2aが設けられている側面190aと対向する隔膜支持体180の側面180aは非透水性の樹脂板から形成され整流板として機能し、その他の側面180b及び180cには透水性の隔膜が設けられている。従って、電解は、外側電極190の側面190bと隔膜支持体180の側面180bとの間の空間及び外側電極190の側面190cと隔膜支持体180の側面180cとの間の空間で行われる。すなわち、電解は比較的大面積を有する平面電極間で行われることになるために、電解電圧・電流が安定し且つ均一化すると考えられる。電解により得られた強電解水は二つの外側電極190の側面190bと190cの交線上に設けられた電解水排水口2bから排出される。外側電極190の側面190b,190c上には電極92が設けられている。
【0039】
図4では、中空の三角柱状の外側電極、隔膜支持体及び内側電極を備える電解槽を示したが、中空の五角柱、六角柱、七角柱、八角柱などの形態の外側電極、隔膜支持体及び内側電極を備える電解槽でも比較的広い平面電極が確保でき、流水型電解槽中の水の滞留期間が長くなるために、平板電極の場合に比べて電解電圧・電流が安定し且つ均一化され、電解効率が高くなる。
【0040】
[第3実施形態]
図5に、本発明の電解水製造装置を組み込んだ内視鏡洗浄装置の一例を示す。内視鏡洗浄装置200は、貯水量9.0リットルの洗浄槽102と、前記実施例で製造した説明した電解水製造装置100と、電解水製造装置100の動作を制御する制御装置106を備える。洗浄槽102は、電解水製造装置100から供給された強電解水を循環する循環ポンプ104と、洗浄後の電解水を排水する排水管107を備える。制御装置106は、電解水製造装置100で生成される電解水の濃度を調節すると共に、電解水製造装置100の電極に印加する電圧の極性を切り替えて洗浄槽102に強酸性電解水と強アルカリ性電解水を供給するタイミングを制御する。内視鏡洗浄装置200で内視鏡を洗浄するには、最初に、洗浄槽102に内視鏡などの洗浄対象物を入れ、次いで、強酸性電解水を電解水製造装置100から洗浄槽102に供給する。供給した強酸性電解水はポンプ104で所定時間循環した後、排水管107で排水する。次いで、水を洗浄槽102に供給して洗浄槽102と洗浄対象物を洗い流した後に、電解水製造装置100から強アルカリ性電解水を供給する。このように、強酸性電解水と強アルカリ性電解水を交互に供給して洗浄対象物を殺菌洗浄することができる。一般的には、内視鏡の洗浄を実行するために毎分4.5リットルの生成量と未分解食塩濃度0.01%以下の電解水の供給が要求されるが、本発明の内視鏡洗浄装置はこの要求を十分に満たしている。
【0041】
上記実施形態及び実施例では、電解槽として第1及び第2電解槽を直列に接続して用いた例を示したが、用途に応じて第1電解槽だけを使用してもよい。この場合でも、電解電圧8V、電流26Aで、pH約2.6の強酸性電解水が4.5リットル/分で得られる。さらに、第1及び第2電解槽を並列に接続して用いても良い。
【0042】
上記実施形態及び実施例では、隔膜支持体の第1側面全体を整流板(面)としたが、水供給口に対向する部分またはその近傍を含む領域のみを非透水性材料から構成することで、その部分または領域だけを整流面としてもよい。水供給口に対向する部分または領域に水流による圧力がかかり乱流が生じやすく、また隔膜は圧力により撓み易いので、少なくともこの部分または領域を整流面とすることで整流作用が得られると考えられる。
【0043】
上記実施形態及び実施例では、外側電極と隔膜支持体との間の空間に水を供給し、内側電極と隔膜支持体との間の空間に塩水を供給したが、内側電極と隔膜支持体との間の空間に塩水などの電解質水を供給し、外側電極と隔膜支持体との間の空間に水を供給してもよい。また、上記実施形態では塩水は食塩を溶解した食塩水を利用したが、海水を適宜塩分濃度を調整して利用してもよい。また、電解質は塩水をもたらす塩化ナトリウムに限らず、塩化カリウムを使用してもよい。
【0044】
上記実施形態及び実施例では、隔膜支持体として、上枠82、下枠84その間に挟まれた格子状のガイド枠86、及び隔膜88から構成された隔膜支持体を用いたが、剛性のある隔膜、例えば、セラミック膜の場合、ガイド枠を省略して、隔膜自体を隔膜支持体とすることもできる。
【0045】
上記実施形態及び実施例では、第1電解槽及び第2電解槽にそれぞれ内側電極を設けたが、内側電極を軸方向に延在させて第1電解槽及び第2電解槽の隔膜支持体並びに支持体(7)を貫通するような一体型の内側電極にすることができる。このような内側電極構造は、部品点数及び製造コストの低減をもたらす。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の電解水製造装置は、製造コストが低廉であり、コンパクトな構造でありながら、所望のpHを有する電解水を大容量で製造することができるので、病院や家庭での消毒に極めて有用となる。また、低電圧・低電流で所望のpHを有する電解水を大容量で製造することができるので、エネルギーを節約することができる。また、単純な電解槽構造はメンテンナンスを容易し、さらに、塩素及び水素の発生量が少ないために、病院や家庭などの設置環境の安全性に貢献する。さらに、本発明の電解水製造装置は、抑制された未分解食塩濃度の強酸性電解水または強アルカリ性電解水を短時間で大容量で得ることができるので、内視鏡などの医療器具の洗浄に極めて有用である。本発明の内視鏡洗浄装置は、高速洗浄が可能であるために、近年増大する内視鏡を用いた治療・手術のニーズに極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施形態の電解水製造装置の構造を表す概念図である。
【図2】本発明の実施形態の電解水製造装置の電解槽の構造を示す分解概念図である。
【図3】本発明の実施形態の電解水製造装置の動作を説明する図である。
【図4】本発明の電解水製造装置の別の実施形態における電解槽の構造を示す概念図である。
【図5】本発明の内視鏡洗浄装置の一例を示す概念図である。
【符号の説明】
【0048】
2 第1電槽、4 第2電解槽、6,7,8 支持板、10 電解槽、20,60 流量弁、20a,20b 定電圧電源、30 塩水供給装置、34 タンク、36 ポンプ、38 塩水供給管、40 水供給管、50 ブレンダ、55 OPRセンサ、70 内側電極、80 隔膜支持体、82 上枠、84下枠、86 支持ガイド、90 外側電極、100,110 電解水製造装置、200 内視鏡洗浄装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流水式の電解水製造装置であって、
中空で多角柱状の内側電極と、中空で多角柱状であり且つ隔膜が支持されている隔膜支持体と、中空で多角柱状の外側電極とを三重に重ね合わせて備える電解槽と;
外側電極または内側電極と隔膜支持体との間の第1空間に水を供給する水供給装置と;
内側電極または外側電極と隔膜支持体との間の第2空間に電解質水を供給する電解質水供給装置と;を備え、
外側電極または内側電極の第1側面に水供給口が形成され、外側電極または内側電極の第1側面と対向する隔膜支持体の第1側面において少なくとも水供給口に対向する部分が非透水性の整流面である電解水製造装置。
【請求項2】
隔膜支持体の第1側面全体が非透水性の整流面であり、第1側面以外の側面に隔膜が支持されていることを特徴とする請求項1に記載の電解水製造装置。
【請求項3】
前記内側電極の側面に複数の透過孔が形成され、前記電解質水供給装置が最初に内側電極の内側に電解質水を供給することを特徴とする請求項1または2に記載の電解水製造装置。
【請求項4】
内側電極、隔膜支持体及び外側電極が、いずれも四角柱状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電解水製造装置。
【請求項5】
流水式の電解水製造装置であって、
中空で四角柱状の内側電極と、中空で四角柱状であり且つ隔膜が支持されている隔膜支持体と、中空で四角柱状の外側電極とを三重に重ね合わせて備える第1電解槽と;
第1電解槽と直列に接続され、中空で四角柱状の内側電極と中空で四角柱状であり且つ隔膜が支持されている隔膜支持体と中空で四角柱状の外側電極とを三重に重ね合わせて備える第2電解槽と;
第1電解槽の外側電極と隔膜支持体との間の空間に水を供給する水供給装置と;
第1電解槽及び第2電解槽の内側電極と隔膜支持体との間の空間に電解質水を供給する電解質水供給装置と;を備え、
第1電解槽及び第2電解槽において、外側電極の第1側面に水供給口が形成され、外側電極の第1側面と対向する隔膜支持体の第1側面が非透水性の整流面であり、隔膜支持体の第2〜第4側面にそれぞれ隔膜が設けられている電解水製造装置。
【請求項6】
7V以下及び26A以下の電解条件で、pH2.3以下の強酸性水が3.0リットル/分以上の容量で製造されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の電解水製造装置。
【請求項7】
さらに、電解により製造される電解水に水を混合するブレンダを備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の電解水製造装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の電解水製造装置を備えた内視鏡洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−252963(P2007−252963A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−135559(P2004−135559)
【出願日】平成16年4月30日(2004.4.30)
【出願人】(504174054)JWSテクニカ株式会社 (4)
【出願人】(504140129)
【Fターム(参考)】