説明

電解粗面化処理方法及び装置並びに平版印刷版原版の製造方法及び製造装置

【課題】アルミニウム支持体に形成されるピットを分散させ効率良く粗面化し、より低コストでアルミニウム支持体を製造する。
【解決手段】帯状の金属板を酸性電解液の中で搬送しつつ交番波形電圧の印加により電解粗面化処理する電解粗面化処理方法において、少なくとも1回、前記交番波形電圧の印加の間に、前記金属板が負になるように該金属板に対して負電圧を印加する工程を有するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解粗面化処理方法及び装置並びに平版印刷版原版の製造方法及び製造装置に関し、特に帯状の金属板を酸性電解液の中で搬送しつつ交番波形電流の印加により電解粗面化処理する電解粗面化処理方法及び装置並びに平版印刷版原版の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、純アルミニウムまたはその合金(以下、「アルミニウム」ということがある。)及び陽極酸化皮膜を生成させたアルミニウム上に、着色、染色、塗装、あるいは平版印刷版用として感光性組成物を設ける際に、アルミニウム支持体との密着性をあげる方法として、アルミニウム支持体表面を粗面化することが一般的に行われている。
【0003】
このアルミニウム支持体表面の粗面化は、アルミニウム支持体を電解処理することにより行われ、電解粗面化処理と呼ばれる。
【0004】
電解粗面化処理は、酸性電解液中でアルミニウム支持体に正弦波電流、矩形波電流、又は台形波電流等の交番波形電流、もしくは直流を印加することにより行われる。
【0005】
電解粗面化処理に用いられる酸性電解液は、通常、硝酸、塩酸、硫酸、燐酸、もしくはこれらをある一定の比率で混合したものである。
【0006】
交流による電解粗面化処理では、アノード反応によりピットが生成し、カソード反応によりピット部に水酸化アルミ(以下、スマットと呼ぶ)が生成するが、このスマット生成量が不十分であると、ピット部の抵抗が下がり電流がピット部へ集中し、ピットの分散性が低下する。ピットの分散性を上げるには、交流電解粗面化処理の電流密度を上げる必要があるが、電力の増加によりコストアップになる問題が生じる。
【0007】
上記問題を解決するために、ピットを分散させるための手段として、例えば特許文献1がある。特許文献1では、交流のアノード反応時間とカソード反応時間との比が1〜20、アノード時の電気量とカソード時の電気量との比が2〜20、アノード反応時間が5〜1000msecであることが良いとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−30200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1では、アノード反応とカソード反応の電解反応差により生じる縞状の光沢ムラであるチャタマークが悪化するという問題がある。これを防ぐには、アノード時の電気量とカソード時の電気量を低く設定する必要があるが、これにより、電解粗面化処理の時間が長くなるため、ラインスピードを遅く設定しなければならない。さらに、アノード時の電気量に対して、カソード時の電気量が多いと、対極として用いる電極はアノード時の電気量が多くなるため、電極の劣化が早くなるという問題もある。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、アルミニウム支持体などの帯状の金属板のピットを分散させ効率良く粗面化し、より低コストで電解粗面化処理する方法や装置などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記目的を達成するために、帯状の金属板を酸性電解液の中で搬送しつつ交番波形電圧の印加により電解粗面化処理する電解粗面化処理方法において、少なくとも1回、前記交番波形電圧の印加の間に、前記金属板が負になるように該金属板に対して負電圧を印加する工程を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、帯状の金属板を電解粗面化処理する電解粗面化処理装置において、酸性電解液を貯留し、内部を前記帯状の金属板が搬送される電解槽と、前記酸性電解液中に連続又は断続して設けられ、交番波形電圧を印加する交番波形電圧印加手段と、該交番波形電圧印加手段の間に、少なくとも1つ、前記金属板が負になるように該金属板に対して負電圧を印加する負電圧印加手段と、を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、交番波形電圧による帯状の金属板の電解粗面化中に、局所的に金属板に対して負電圧を印加して、ピット部にスマットを補充することで、ピットを分散させ、効率良く粗面化し、より低コストで電解粗面化処理することができる。
【0014】
なお、本明細書において、ピットの均一性は、SEM写真を解析して判断している。そして、アルミの表面積は、AFMにより解析している。また、光沢度計(スガ試験器)によりアルミ表面形状を定量化している。
【0015】
本発明において、負電圧を印加する工程での電流密度は、−30A/dm以上−20A/dm以下とすることが好ましい。
【0016】
なお、負電圧を印加する際の電流密度は、−10A/dm以下が好ましく、−20A/dm以下がより好ましい。そして、−50A/dm以上が好ましく、−30A/dm以上がより好ましい。
【0017】
本発明において、前記負電圧を印加する工程の印加回数は、6回以上であること、前記負電圧を印加する負電圧印加手段は、6つ以上であることが好ましい。
【0018】
金属板に対して局所的に負電圧を印加するのは、本発明においては1回以上あれば良いが、回数が多いほうが好ましく、具体的には6回以上であることが好ましい。
【0019】
本発明において、前記酸性電解液は、硝酸、塩酸、硫酸、燐酸、又はこれらをある割合で混合した酸性溶液であること、前記帯状の金属板は、アルミニウム板であることが好ましい。
【0020】
本発明において、前記酸性溶液は、水素過電圧が650mV以上の金属のイオンを3ppm以上含有することが好ましい。
【0021】
本発明において、前記水素過電圧が650mV以上の金属のイオンは、少なくとも亜鉛イオン、スズイオン、及び鉛イオンから選ばれる何れか1つであることが好ましい。
【0022】
負電圧印加時に、アルミニウム支持体上に水酸化アルミの皮膜が形成されるために、その後の交流電解で形成される酸化皮膜の形成が抑制されるが、同時に水素発生により皮膜が剥離するため、交流電解の酸化皮膜形成抑制効果が小さくなる。
【0023】
しかし、水溶液中に水素過電圧の大きい金属イオンが存在すると、負電圧印加時にアルミニウム支持体上に上記金属、または上記金属の酸化物や水酸化物が析出し、水素過電圧が大きくなるために水素発生が抑制され、水酸化アルミの皮膜剥離が起こりにくくなり、水酸化アルミの緻密な皮膜が形成される。
【0024】
このため、交流電解の酸化皮膜形成が抑制され、ピットが分散する。これにより、ピット径が小さく、数が多く、大きさの均一なピットを形成することができる。
【0025】
本発明において、前記交番波形電圧の印加の前にも、前記金属板が負になるように該金属板に対して負電圧を印加する工程を有すること、前記交番波形電圧印加手段の前にも、前記金属板が負になるように該金属板に対して負電圧を印加する負電圧印加手段を備えることが好ましい。
【0026】
交番波形電圧の印加による交流電解処理を行う前に、負電圧を印加して金属板の表面に予め水酸化物イオン(OH)を分布させるようにすることで、金属板への交流電解処理がアノード反応から開始した箇所であっても、水酸化物イオンが金属表面に分布することでアノード反応を抑制することができる。
【0027】
また、本発明において、前記負電圧印加手段の電極は、白金族の電極を用いることが好ましい。
【0028】
負電圧を印加する電極は、白金族の電極を用いることにより、電極の劣化を十分に抑え、かつ低い電力で粗面化処理を行うことができる。
【0029】
また、本発明は、前記目的を達成するために、上記の電解粗面化処理方法を用いて平版印刷版原版を製造することを特徴とする平版印刷版原版の製造方法を提供する。また、本発明は、前記目的を達成するために、上記の電解粗面化処理装置により支持体を電解粗面化処理し、該支持体に製版層を形成して平版印刷版原版を製造することを特徴とする平版印刷版原版の製造装置を提供する。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、帯状の金属板を酸性電解液の中に搬送しつつ交番波形電圧により連続的に交流電解処理する際に、金属板に大きさの均一なピットを形成でき、ピット個数を増加させることができるので、金属板の表面積を増加させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第1実施形態におけるラジアル型交流電解槽を備える電解粗面化処理装置の一例を示す断面図である。
【図2】第2実施形態におけるフラット型交流電解槽を備える電解粗面化処理装置の他の一例を示す断面図である。
【図3】本発明に係る電解粗面化方法に用いられる装置系の一例を示す説明図である。
【図4】交流電解処理において負電圧を印加するタイミング等を示す説明図である。
【図5】実施例の実験結果を示す図である。
【図6】実施例の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0033】
〔電解処理方法及び電解処理装置〕
本発明で用いられる酸性溶液としては、硝酸溶液、塩酸溶液、硫酸溶液、燐酸溶液、およびそれらの混合溶液をあげることができる。電解粗面化処理で使用される酸性水溶液としては、特に限定されないが、硝酸を主体とする水溶液及び塩酸を主体とする水溶液が好ましい。
【0034】
電解処理方法のうち、硝酸溶液による交流粗面化処理に本発明を適用した一例を以下に説明する。
【0035】
[第1実施形態]
本実施形態では、連続した帯状のアルミニウム板であるアルミニウムウェブを交流電解して電解粗面化処理する電解粗面化処理装置のうち、ラジアル型のものに本発明を適用した一例につき、以下に説明する。
【0036】
図1は、本発明に好適に用いられるラジアル型交流電解槽を備える電解粗面化処理装置の一例の断面模式図を示す。
【0037】
図1に示されるように、電解粗面化処理装置10は、酸性電解液が貯留される電解槽12Aが内部に設けられた電解槽本体12と、電解槽12A内部に、水平方向に伸びる軸線の周りに回転可能に配設され、帯状に連続した薄板であるアルミニウムウェブWを矢印aの方向、即ち図1における左方から右方に向かって送る送りローラ14と、を備えている。
【0038】
電解槽12Aの内壁面は、送りローラ14を囲むように略円筒状に形成され、電解槽12Aの内壁面上には、半円筒状の電極16A及び16Bが送りローラ14を挟んで設けられている。電極16A及び16Bは、それぞれ円周方向に沿って複数の小電極18A及び18Bに分割され、各小電極18A及び18Bの間には、それぞれ絶縁層20A及び20Bが介装されている。小電極18A及び18Bは、例えば、グラファイトや金属等を用いて形成でき、絶縁層20A及び20Bは、例えば塩化ビニル樹脂等により形成できる。絶縁層20A及び20Bの厚さは、1〜10mmが好ましい。また、図1では省略されているが、従来においては、電極16A及び16Bの何れにおいても、小電極18A及び18Bは、それぞれ電源ACに接続されていた。
【0039】
なお、本実施形態においては、小電極18A’及び18B’は負電圧を印加する。
【0040】
小電極18A、18A’、18B、18B’及び絶縁層20A、20Bは、何れも絶縁性の電極ホルダー20Cによって保持されて電極16A及び16Bを形成している。
【0041】
電源AC(不図示)は、交番波形電流を小電極18A及び18Bに供給する機能を有する。電源ACは、誘導電圧調整器及び変圧器を用いて商用交流を電流・電圧調整することにより正弦波を発生させる正弦波発生回路、商用交流を整流する等の手段により得られた直流から台形波電流又は矩形波電流を発生させるサイリスタ回路等が挙げられる。
【0042】
電解槽12Aの上部には、交流電解粗面化処理時において、本実施形態の金属板の一例であり、連続帯状のアルミニウム板であるアルミニウムウェブWが導入及び導出される開口部12Bが形成されている。開口部12Bにおける電極16Bの下流側末端近傍には、電解槽12Aに酸性電解液を補充する酸性電解液補充流路22が設けられている。このような酸性電解液としては、硝酸溶液、塩酸溶液、硫酸溶液、燐酸溶液、およびそれらの混合溶液をあげることができる。
【0043】
電解槽12Aの上方における開口部12B近傍には、アルミニウムウェブWを電解槽12A内部に案内する一群の上流側案内ローラ24Aと、電解槽12A内で電解粗面化処理されたアルミニウムウェブWを電解槽12Aの外部に案内する下流側案内ローラ24Bとが配設されている。
【0044】
電解槽本体12における電解槽12Aの上流側には、溢流槽12Cが設けられている。溢流槽12Cは、電解槽12Aから溢流した酸性電解液を一時貯留し、電解槽12Aの液面高さを一定に保持する機能を有する。
【0045】
電解槽本体12における電解槽12Aの下流側には、補助電解槽12’が設けられている。補助電解槽12’は、底面28Aが平面状に形成されている。そして、底面28A上には、電極16Cが設けられている。
【0046】
交流の周波数は、特に限定されないが、40〜120Hzであるのが好ましく、40〜80Hzであるのがより好ましく、50〜60Hzであるのが更に好ましい。
【0047】
電解粗面化処理における開始時から終了時までの電気量は、アルミニウムウェブWがアノードの時の総和で、10〜1000C/dm2であるのが好ましく、10〜800C/dm2であるのがより好ましく、40〜500C/dm2であるのが更に好ましい。
【0048】
交流におけるアノードサイクル側のピーク時の電流Iap、及びカソードサイクル側のピーク時の電流Icpは、それぞれ10〜100A/dm2であるのが好ましく、20〜80A/dm2であるのがより好ましく、30〜60A/dm2 であるのが更に好ましい。また、Icp/Iapは、0.9〜1.5であるのが好ましく、0.9〜1.0であるのがより好ましい。
【0049】
電解粗面化処理においては、1又は2以上の電解槽において、アルミニウムウェブWに交流が流れない休止期間を1回以上設け、休止期間の長さを0.001〜0.6秒とすると、ハニカムピットがアルミニウムウェブWの表面全体に均一に形成されるので好ましい。
【0050】
以下、本実施形態における電解粗面化処理装置10の作用について説明する。
【0051】
図1における左方から電解槽本体12に案内されたアルミニウムウェブWは、先ず、上流側案内ローラ24Aによって電解槽12Aに案内される。
【0052】
電解槽12Aに導入されたアルミニウムウェブWは、最初に、負電圧の小電極18A’を通過する。このとき、負電圧の小電極18A’により、アルミニウムウェブWに負電圧が印加され、アルミニウムウェブWではカソード反応が起こる。これにより、アルミニウムウェブWの直流電流部26に向いた側の面で水酸化物イオンが生成する。
【0053】
表面で水酸化物イオンが生成したアルミニウムウェブWは、負電圧の小電極18A’を通過したのち、電極16Aに沿って搬送され、電源ACから小電極18Aに印加された交番波形電圧により、電極16Aに向いた側の面がアノード又はカソード反応する。
【0054】
次いで、アルミニウムウェブWは、既述したのと同様に、電極16Bに沿って搬送され、電源ACから電極16Bに印加された交番波形電圧により、電極16Bに向いた側の面がアノード又はカソード反応して、全面にハニカムピットが形成される。
【0055】
そして、本発明では、少なくとも1回は、交番波形電圧の印加の間に、アルミニウムウェブWが負になるようにアルミニウムウェブWに対して負電圧を印加される。
【0056】
負電圧の小電極18A’、18B’により、交番波形電圧によるアルミニウムウェブWの電解粗面化中に、局所的にアルミニウムウェブWに対して負電圧を印加して、ピット部にスマットを補充することで、ピットを分散させ、効率良く粗面化し、より低コストで電解粗面化処理することができる。
【0057】
負電圧を印加する際の電流密度は、−10A/dm以下が好ましく、−20A/dm以下がより好ましい。そして、−50A/dm以上が好ましく、−30A/dm以上がより好ましい。
【0058】
また、本発明において、交番波形電圧の印加の間に負電圧を印加する回数は、6回以上であることが好ましい。アルミニウムウェブWに対して局所的に負電圧を印加するのは、本発明においては1回以上あれば良いが、回数が多いほうが好ましく、具体的には6回以上であることが好ましい。
【0059】
次いで、送りローラ14によって図1における左方から右方に向って送られ、下流側案内ローラ24Bによって電解槽12Aの外に導かれる。
【0060】
そして、電解槽12Aの外に導かれたアルミニウムウェブWは、補助電解槽12’に導入される。
【0061】
以上のように、本実施形態における電解粗面化処理装置10は、従来の電解粗面化装置に新たに付加する部品が少ないため、従来の電解粗面化装置から安価に改造できるという特徴も有する。
【0062】
[第2実施形態]
本実施形態では、連続した帯状のアルミニウム板であるアルミニウムウェブを交流電解して電解粗面化処理する電解粗面化処理装置のうち、フラット型のものに本発明を適用した一例につき、以下に説明する。
【0063】
図2に、本発明に好適に用いられるフラット型交流電解槽を備える電解粗面化処理装置の一例の断面模式図を示す。同図の電解粗面化処理装置30は、アルミニウムウェブWを略水平方向に搬送しつつ交流を印加して電解粗面化処理を施す電解粗面化処理装置である。
【0064】
図2に示されるように、電解粗面化処理装置30は、主に、アルミニウムウェブWの搬送方向aに沿って延在し上面が開放された浅い箱状の電解槽32を備えている。
【0065】
電解槽32は、主に、電解槽32の底面近傍に搬送方向aに沿って、アルミニウムウェブWの搬送経路である搬送面Tに対して平行に配設された4つの板状の電極34Aと、電解槽32の内部における搬送方向aに対して上流側(以下、単に「上流側」という。)及び搬送方向aに対して下流側(以下、単に「下流側」という。)の端部近傍に配設され、電解槽32内部においてアルミニウムウェブWを搬送する搬送ローラ38A及び38Bと、電解槽32の上方における上流側に位置し、アルミニウムウェブWを電解槽32の内部に導入する導入ローラ40Aと、電解槽32の上方における下流側に位置し、電解槽32内部を通過したアルミニウムウェブWを電解槽32の外部に導出する導出ローラ40Bと、を備えている。電解槽32内部には、上述した酸性水溶液が貯留されており、電極34A、34A’が備えられている。電解槽32の電極34Aには交番波形電圧が印加されている。そして、電極34A’からアルミニウムウェブWが負になるようにアルミニウムウェブWに対して負電圧を印加する。なお、負電圧を印加は、交番波形電圧の印加の間であっても、後半で行うほうが効果が大きい。ここで、前半・後半とは総電気量の1/2の値を基準とし、1/2より少ない場合を前半、1/2以上の場合を後半と定義する。
【0066】
以下、本実施形態における電解粗面化処理装置30の作用について説明する。
【0067】
アルミニウムウェブWは、導入ローラ40Aによって電解槽32の内部に導入され、搬送ローラ38A及び38Bによって搬送方向aに沿って一定速度で搬送される。
【0068】
次いで、電解槽32に導入されたアルミニウムウェブWは、電極34Aから交流を印加される。これにより、アルミニウムウェブWにおいて、アノード反応とカソード反応とが交互に起き、アノード反応が起きているときには主にピットが生じ、カソード反応が起きているときには主にピット部にスマットが生じて、表面が粗面化される。
【0069】
次いで、補助電解槽42に導入されたアルミニウムウェブWは、電極44からアルミニウムウェブWが負になるようにアルミニウムウェブWに対して負電圧が印加される。
【0070】
負電圧の電極44により、交番波形電圧によるアルミニウムウェブWの電解粗面化中に、局所的にアルミニウムウェブWに対して負電圧を印加して、ピット部にスマットを補充することで、ピットを分散させ、効率良く粗面化し、より低コストで電解粗面化処理することができる。
【0071】
負電圧を印加する際の電流密度は、−10A/dm以下が好ましく、−20A/dm以下がより好ましい。そして、−50A/dm以上が好ましく、−30A/dm以上がより好ましい。
【0072】
また、本発明において、交番波形電圧の印加の間に負電圧を印加する回数は、6回以上であることが好ましい。即ち、図2の装置を6段以上にすることが好ましい。アルミニウムウェブWに対して局所的に負電圧を印加するのは、本発明においては1回以上あれば良いが、回数が多いほうが好ましく、具体的には6回以上であることが好ましい。
【0073】
以上、本発明に係る電解粗面化処理方法について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、各種の態様が採り得る。
【0074】
さらに、本発明において、酸性電解液は、硝酸、塩酸、硫酸、燐酸、又はこれらをある割合で混合した酸性溶液であることが好ましいが、この酸性溶液には、水素過電圧が650mV以上の金属のイオンを3ppm以上含有することが好ましい。ここで、水素過電圧が650mV以上の金属のイオンは、少なくとも亜鉛イオン、スズイオン、および鉛イオンから選ばれるいずれか1つであることが好ましい。
【0075】
負電圧印加時に、アルミニウム支持体上に水酸化アルミの皮膜が形成されるために、その後の交流電解で形成される酸化皮膜の形成が抑制されるが、同時に水素発生により皮膜が剥離するため、交流電解の酸化皮膜形成抑制効果が小さくなる。
【0076】
しかし、水溶液中に水素過電圧の大きい金属イオンが存在すると、負電圧印加時にアルミニウム支持体上に上記金属、または上記金属の酸化物や水酸化物が析出し、水素過電圧が大きくなるために水素発生が抑制され、水酸化アルミの皮膜剥離が起こりにくくなり、水酸化アルミの緻密な皮膜が形成される。
【0077】
このため、交流電解の酸化皮膜形成が抑制され、ピットが分散する。これにより、ピット径が小さく、数が多く、大きさの均一なピットを形成することができる。
【0078】
なお、ピット径、数、均一性は、SEM写真を解析して判断することができる。また、水素過電圧の値は、著書「電気化学便覧 電解化学会編 第5版」のp.459の表13.6を参考にすることができる。
【0079】
一方、水素過電圧が600mV以下の金属についても検討したが、同様の効果は得られなかった。
【0080】
ここで、金属イオンの溶解は、金属塩の添加によるものでもよく、金属からなる電極を用いて溶け出した金属イオンを利用するのでもよい。
【0081】
また、水素過電圧が650mV以上の金属のイオンは、3ppm以上が良いが、10ppm以上が好ましく、100ppm以上がより好ましい。
【0082】
酸性溶液に、水素過電圧が650mV以上の金属のイオンを3ppm以上含有する実施形態は、以下でさらに詳しく述べる電解粗面化処理の硝酸電解処理にも塩酸電解処理にも好ましく適用することができるが、本実施形態が適用される好ましい粗面化処理工程のパターンとしては以下の表1の通りである。なお、例えば、表1のパターン1は硝酸電解処理のみで粗面化処理を行うことを示したものであり、パターン7は機械的粗面化、硝酸電解、塩酸電解の順で粗面化処理を行うことを示したものである。
【0083】
【表1】

【0084】
〔平版印刷版原版支持体および平版印刷版原版の作製〕
次に、本発明に係る電解処理方法及び装置を適用した一例として、平版印刷版原版を製造する方法について説明する。
【0085】
<アルミニウムウェブ(圧延アルミ)>
本実施形態においてアルミニウムウェブWとして使用されるアルミニウム板は、寸度的に安定なアルミニウムを主成分とする金属である。アルミニウム板には、既述したように、アルミニウム合金板も含まれており、以下、これらを総称してアルミニウム板という。
【0086】
アルミニウム板としては、アルミニウム合金がラミネートされ又は蒸着されたプラスチックフィルム又は紙を用いることもできる。更に、特公昭48−18327号公報に記載されているようなポリエチレンテレフタレートフィルム上にアルミニウムシートが結合された複合体シートを用いることもできる。また、アルミニウム板は、Bi、Ni等の元素や不可避不純物を含有することができる。
【0087】
アルミニウム板は、従来から公知公用の素材のもの、例えば、JIS A1050、JIS A1100、JIS A3003、JIS A3004、JIS A3005、国際登録合金3103A等のアルミニウム板を適宜利用することができる。
【0088】
また、アルミニウム板の製造方法は、連続鋳造方式及びDC鋳造方式のいずれでもよく、DC鋳造方式の中間焼鈍や、均熱処理を省略したアルミニウム板も用いることができる。最終圧延においては、積層圧延や転写等により凹凸を付けたアルミニウム板を用いることもできる。また、アルミニウム板は、連続した帯状のシート材又は板材である、アルミニウムウェブであってもよく、製品として出荷される平版印刷版原版に対応する大きさ等に裁断された枚葉状シートであってもよい。
【0089】
また、アルミニウム板の厚さは、通常、0.05〜1mm程度であり、0.1mm〜0.5mmであるのが好ましい。この厚さは印刷機の大きさ、印刷版の大きさ及びユーザの希望により適宜変更することができる。
【0090】
本実施形態における平版印刷版原版の製造方法においては、上記アルミニウム板に、酸性水溶液の中での電解粗面化処理を含む各種表面処理を施して平版印刷版原版を得るが、この表面処理には、更に各種の処理が含まれていてもよい。
【0091】
電解粗面化処理の前には、アルカリエッチング処理又はデスマット処理を施すのが好ましく、また、アルカリエッチング処理とデスマット処理とをこの順に施すのも好ましい。また、電解粗面化処理の後には、アルカリエッチング処理又はデスマット処理を施すのが好ましく、また、アルカリエッチング処理とデスマット処理とをこの順に施すのも好ましい。また、電解粗面化処理後のアルカリエッチング処理は、省略することもできる。本発明においては、これらの処理の前に機械的粗面化処理を施すのも好ましい。また、電解粗面化処理を2回以上行ってもよい。また、これらの後に、陽極酸化処理、封孔処理、親水化処理等を施すのも好ましい。
【0092】
以下、機械的粗面化処理、第1アルカリエッチング処理、第1デスマット処理、電解粗面化処理、第2アルカリエッチング処理、第2デスマット処理、陽極酸化処理、封孔処理及び親水化処理のそれぞれについて、詳細に説明する。尚、本実施形態においては、電解粗面化処理の前に行う処理に「第1」という序数をつけて呼び、電解粗面化処理の後に行う処理に「第2」という序数をつけて呼ぶ場合がある。
【0093】
<機械的粗面化処理>
機械的粗面化処理は、電解粗面化処理の前に行うのが好ましい。機械的粗面化処理は、一般に、円柱状の胴の表面に、ナイロン(登録商標)、プロピレン、塩化ビニル樹脂等の合成樹脂からなる合成樹脂毛等のブラシ毛を多数植設したローラ状ブラシを用い、回転するローラ状ブラシに研磨剤を含有するスラリー液を噴きかけながら、上記アルミニウムウェブの表面の一方又は両方を擦ることにより行う。上記ローラ状ブラシ及びスラリー液の代わりに、表面に研磨層を設けたローラである研磨ローラを用いることもできる。ローラ状ブラシにおけるブラシ毛の長さは、ローラ状ブラシの外径及び胴の直径に応じて適宜決定することができるが、一般的には、10〜100mmである。
【0094】
研磨剤は公知の物が使用できる。例えば、パミストン、ケイ砂、水酸化アルミニウム、アルミナ粉、火山灰、カーボランダム、金剛砂等の研磨剤、又はこれらの混合物を用いることができる。中でも、パミストン、ケイ砂が好ましいが、特にケイ砂はパミストンに比べて硬く、壊れにくいので、粗面化効率が優れる点で好ましい。研磨剤の平均粒径は、粗面化効率に優れ、かつ、砂目立てピッチを狭くすることができる点で、3〜50μmであるのが好ましく、6〜45μmであるのがより好ましい。研磨剤としてパミストンを用いる場合、平均粒径が40〜45μmであるのが特に好ましく、また、研磨剤としてケイ砂を用いる場合、平均粒径が20〜25μmであるのが特に好ましい。研磨剤は、例えば、水中に懸濁させて、研磨スラリー液として用いる。研磨スラリー液には、研磨剤のほかに、増粘剤、分散剤(例えば、界面活性剤)、防腐剤等を含有させることができる。平均粒径とは、研磨スラリー液中に含有される全研磨剤の体積に対し、各粒径の研磨剤粒子の占める割合の累積分布をとったとき、累積割合が50%となる粒径をいう。
【0095】
また、機械的粗面化処理においては、まず、ブラシグレイニングを行うに先立ち、所望により、アルミニウムウェブの表面の圧延油を除去するための脱脂処理、例えば、界面活性剤、有機溶剤、アルカリ性水溶液等による脱脂処理が行われてもよい。
【0096】
<第1アルカリエッチング処理>
第1アルカリエッチング処理は、上記アルミニウムウェブをアルカリ溶液に接触させることにより、エッチングを行う。第1アルカリエッチング処理は、機械的粗面化処理を行っていない場合には、アルミニウムウェブ(圧延アルミ)の表面の圧延油、汚れ、自然酸化皮膜を除去することを目的として、また、機械的粗面化処理を行った場合には、機械的粗面化処理によって生成した凹凸のエッジ部分を溶解させ、滑らかなうねりを持つ表面を得ることを目的として行われる。アルミニウムウェブをアルカリ溶液に接触させる方法としては、例えば、アルカリ溶液を入れた槽の中にアルミニウムウェブを通過させる方法、アルカリ溶液を入れた槽の中にアルミニウムウェブを浸漬させる方法、アルカリ溶液をアルミニウムウェブの表面に噴き付ける方法等が挙げられる。
【0097】
エッチング量は、次の工程で電解粗面化処理を施す面については、1〜15g/m2であるのが好ましく、電解粗面化処理を施さない面については、0.1〜5g/m2(電解粗面化処理を施す面の約10〜40%)であるのが好ましい。
【0098】
アルカリ溶液に用いられるアルカリとしては、例えば、カセイアルカリ、アルカリ金属塩が挙げられる。具体的には、カセイアルカリとしては、例えば、カセイソーダ、カセイカリが挙げられる。また、アルカリ金属塩としては、例えば、タケイ酸ソーダ、ケイ酸ソーダ、メタケイ酸カリ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩;炭酸ソーダ、炭酸カリ等のアルカリ金属炭酸塩;アルミン酸ソーダ、アルミン酸カリ等のアルカリ金属アルミン酸塩;グルコン酸ソーダ、グルコン酸カリ等のアルカリ金属アルドン酸塩;第二リン酸ソーダ、第二リン酸カリ、第三リン酸ソーダ、第三リン酸カリ等のアルカリ金属リン酸水素塩が挙げられる。中でも、エッチング速度が速い点及び安価である点から、カセイアルカリの溶液、及び、カセイアルカリとアルカリ金属アルミン酸塩との両者を含有する溶液が好ましい。特に、カセイソーダの水溶液が好ましい。
【0099】
アルカリ溶液の濃度は、エッチング量に応じて決定することができるが、1〜50質量%であるのが好ましく、10〜35質量%であるのがより好ましい。アルカリ溶液中にアルミニウムイオンが溶解している場合には、アルミニウムイオンの濃度は、0.01〜10質量%であるのが好ましく、3〜8質量%であるのがより好ましい。アルカリ溶液の温度は20〜90℃であるのが好ましい。処理時間は1〜120秒であるのが好ましい。エッチング処理の量は、1〜15g/m2溶解するのが好ましく、3〜12g/m2溶解するのがより好ましい。第1アルカリエッチング処理は、アルミニウムウェブのエッチング処理に通常用いられるエッチング槽を用いて行うことができる。エッチング槽としては、バッチ式及び連続式のいずれも用いることができる。また、アルカリ溶液をアルミニウムウェブの表面に噴きかけて第1アルカリエッチング処理を行う場合は、スプレー装置を用いることができる。
【0100】
<第1デスマット処理>
第1デスマット処理は、例えば、上記アルミニウムウェブを塩酸、硝酸、硫酸等の濃度0.5〜30質量%の酸性溶液(アルミニウムイオン0.01〜5質量%を含有する。)に接触させることにより行う。アルミニウムウェブを酸性溶液に接触させる方法としては、例えば、酸性溶液を入れた槽の中にアルミニウムウェブを通過させる方法、酸性溶液を入れた槽の中にアルミニウムウェブを浸漬させる方法、酸性溶液をアルミニウムウェブの表面に噴き付ける方法が挙げられる。第1デスマット処理においては、酸性溶液として、後述する電解粗面化処理において排出される硝酸を主体とする水溶液もしくは塩酸を主体とする水溶液の廃液、又は、後述する陽極酸化処理において排出される硫酸を主体とする水溶液の廃液を用いるのが好ましい。第1デスマット処理の液温は、25〜90℃であるのが好ましい。また、第1デスマット処理の処理時間は、1〜180秒であるのが好ましい。
【0101】
<電解粗面化処理>
電解粗面化処理で使用される酸性水溶液としては、特に限定されないが、硝酸を主体とする水溶液及び塩酸を主体とする水溶液が好ましい。硝酸を主体とする水溶液は、硝酸濃度が3〜20g/Lであるのが好ましく、5〜15g/Lであるのがより好ましく、また、アルミニウムイオン濃度が3〜15g/Lであるのが好ましく、3〜7g/Lであるのがより好ましい。硝酸を主体とする水溶液におけるアルミニウムイオンの濃度は、硝酸濃度の硝酸水溶液に硝酸アルミニウムを添加することにより調整することができる。塩酸を主体とする水溶液は、塩酸濃度が3〜15g/Lであるのが好ましく、5〜10g/Lであるのがより好ましく、また、アルミニウムイオン濃度が3〜15g/Lであるのが好ましく、3〜7g/Lであるのがより好ましい。塩酸を主体とする水溶液におけるアルミニウムイオンの濃度は、上記塩酸濃度の塩酸水溶液に塩化アルミニウムを添加することにより調整することができる。
【0102】
<第2アルカリエッチング処理>
第2アルカリエッチング処理は、上記アルミニウムウェブをアルカリ溶液に接触させることにより、エッチングを行う。アルカリの種類、アルミニウムウェブをアルカリ溶液に接触させる方法及びそれに用いる装置は、第1アルカリエッチング処理の場合と同様のものが挙げられる。エッチング量は、電解粗面化処理を施した面については、0.001〜5g/m2であるのが好ましく、0.01〜3g/m2であることがより好ましく、0.05〜2g/m2であることがさらに好ましい。
【0103】
アルカリ溶液に用いられるアルカリとしては、第1アルカリエッチング処理の場合と同様のものが挙げられる。アルカリ溶液の濃度は、エッチング量に応じて決定することができるが、0.01〜80質量%であるのが好ましい。アルカリ溶液の温度は20〜90℃であるのが好ましい。処理時間は1〜60秒であるのが好ましい。後述する第2デスマット処理において、硫酸を100g/L以上含有し、かつ、液温が60℃以上である酸性溶液を用いるときは、第2アルカリエッチング処理を省略することもできる。
【0104】
<第2デスマット処理>
第2デスマット処理は、例えば、上記アルミニウムウェブをリン酸、塩酸、硝酸、硫酸等の濃度0.5〜30質量%の酸性溶液(アルミニウムイオン0.01〜5質量%を含有する。)に接触させることにより行う。アルミニウムウェブを酸性溶液に接触させる方法は、第1デスマット処理の場合と同様のものが挙げられる。第2デスマット処理においては、酸性溶液として、後述する陽極酸化処理において排出される硫酸溶液の廃液を用いるのが好ましい。また、廃液の代わりに、硫酸濃度が100〜600g/L、アルミニウムイオン濃度が1〜10g/Lであり、液温が60〜90℃である硫酸溶液を用いることもできる。第2デスマット処理の液温は、25〜90℃であるのが好ましい。また、第2デスマット処理の処理時間は、1〜180秒であるのが好ましい。第2デスマット処理に用いられる酸性溶液には、アルミニウム及びアルミニウム合金成分が溶け込んでいてもよい。
【0105】
<陽極酸化処理>
上記の如く処理されたアルミニウムウェブには、更に、陽極酸化処理が施されるのが好ましい。陽極酸化処理はこの分野の従来の方法で行うことができる。具体的には、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、アミドスルホン酸等の単独の又は2種以上を組み合わせた水溶液又は非水溶液である電解液の中で、アルミニウムウェブに直流、脈流又は交流を流すとアルミニウムウェブの表面に陽極酸化皮膜を形成することができる。
【0106】
中でも、電解液として硫酸溶液を用いるのが好ましい。電解液中の硫酸濃度は、10〜300g/L(1〜30質量%)であるのが好ましく、また、アルミニウムイオン濃度は、1〜25g/L(0.1〜2.5質量%)であるのが好ましく、2〜10g/L(0.2〜1質量%)であるのがより好ましい。このような電解液は、例えば、硫酸濃度が50〜200g/Lである希硫酸にアルミニウムを添加することにより調製することができる。
【0107】
硫酸を含有する電解液中で陽極酸化処理を行う場合には、アルミニウムウェブに直流を印加してもよく、交流を印加してもよい。アルミニウムウェブに直流を印加する場合においては、電流密度は、1〜60A/dm2であるのが好ましく、5〜40A/dm2であるのがより好ましい。連続的に陽極酸化処理を行う場合には、アルミニウムウェブの一部に電流が集中していわゆる「焼け」が生じないように、陽極酸化処理の開始当初は、5〜10A/dm2の低電流密度で電流を流し、陽極酸化処理が進行するにつれ、30〜50A/dm2又はそれ以上に電流密度を増加させるのが好ましい。連続的に陽極酸化処理を行う場合には、アルミニウムウェブに、電解液を介して給電する液給電方式により行うのが好ましい。
【0108】
アルミニウムウェブに給電する電極としては、鉛、酸化イリジウム、白金、フェライト等により形成された電極を用いることができる。中でも、主に酸化イリジウムから形成された電極、及び、基材の表面を酸化イリジウムで被覆した電極が好ましい。そのような基材としては、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム等のいわゆるバルブ金属を用いるのが好ましく、バルブ金属の中でも、チタン、ニオブが好ましい。バルブ金属は、比較的電気抵抗が大きいため、銅からなる芯材の表面にバルブ金属をクラッドして基材を形成させてもよい。銅からなる芯材の表面にバルブ金属をクラッドする場合には、複雑な形状の基材を作製することは困難であるため、基材を部品毎に分割した形態の芯材にバルブ金属をクラッドし、その後、各部品を組み合わせて基材を組み立ててもよい。
【0109】
陽極酸化処理の条件は、使用される電解液によって種々変化するので一概に決定され得ないが、一般的には電解液濃度1〜80質量%、液温5〜70℃、電流密度1〜60A/dm2、電圧1〜100V、電解時間10〜300秒であるのが適当である。陽極酸化処埋は、陽極酸化皮膜量が1〜5g/m2になるように行うのが、平版印刷版の耐刷性の点から好ましい。また、アルミニウムウェブの中央部と縁部近傍との間の陽極酸化皮膜量の差が1g/m2以下になるように行うのが好ましい。
【0110】
<封孔処理>
陽極酸化皮膜を形成させたアルミニウム合金板を、沸騰水、熱水または水蒸気に接触させて陽極酸化処理によって形成された小孔(マイクロポア)を封じる封孔処理を行うことが好ましい。
【0111】
<親水化処理>
陽極酸化処理後又は封孔処理後、ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液に浸せきさせる方法、親水性ビニルポリマー又は親水性化合物を塗布して親水性の下塗り層を形成させる方法等により、親水化処理を行うのが好ましい。この方法に用いられる親水性ビニルポリマーとしては、例えば、ポリビニルスルホン酸、スルホン酸基を有するp−スチレンスルホン酸等のスルホン酸基含有ビニル重合性化合物と(メタ)アクリル酸アルキルエステル等の通常のビニル重合性化合物との共重合体が挙げられる。また、この方法に用いられる親水性化合物としては、例えば、−NH2基、−COOH基及びスルホ基からなる群から選ばれる少なくとも一つを有する化合物が挙げられる。
【0112】
〔中間層および感光層の形成〕
<中間層>
上記の親水化処理した平版印刷版用支持体、あるいは親水化処理後さらに酸性水溶液処理した平版印刷版用支持体の上に直接感光層を設けることができるが、必要に応じて、上記各支持体上に中間層を設け、該中間層上に感光層を設けることもできる。
【0113】
(酸基とオニウム基とを有する高分子化合物の中間層)
中間層形成に用いる高分子化合物として、酸基を有する、あるいは、酸基を有する構成成分と共にオニウム基を有する構成成分をも有する高分子化合物が一層好適に用いられる。この高分子化合物の構成成分の酸基としては、酸解離指数(pKa)が7以下の酸基が好ましく、より好ましくは−COOH、−SOH、−OSOH、−PO、−OPO、−CONHSO、−SONHSO−であり、特に好ましくは−COOHである。好適なる酸基を有する構成成分は、下記の一般式(1)あるいは一般式(2)で表される重合可能な化合物である。
【0114】
【化1】

【0115】
式中、Aは2価の連結基を表す。Bは芳香族基あるいは置換芳香族基を表す。D及びEはそれぞれ独立して2価の連結基を表す。Gは3価の連結基を表す。X及びX′はそれぞれ独立してpKaが7以下の酸基あるいはそのアルカリ金属塩あるいはアンモニウム塩を表す。R1 は水素原子、アルキル基又はハロゲン原子を表す。a,b,d,eはそれぞれ独立して0又は1を表す。tは1〜3の整数である。酸基を有する構成成分の中でより好ましくは、Aは−COO−又はCONH−を表し、Bはフェニレン基あるいは置換フェニレン基を表し、その置換基は水酸基、ハロゲン原子あるいはアルキル基である。D及びEはそれぞれ独立してアルキレン基あるいは分子式がCnHnO、CnHnSあるいはCnH2n+1Nで表される2価の連結基を表す。Gは分子式がCnHn−1、CnHn−1O、CnHn−1SあるいはCnHnNで表される3価の連結基を表す。但し、ここでnは1〜12の整数を表す。X及びX′はそれぞれ独立してカルボン酸、スルホン酸、ホスホン酸、硫酸モノエステルあるいは燐酸モノエステルを表す。R1は水素原子又はアルキル基を表す。a,b,d,eはそれぞれ独立して0又は1を表すが、aとbは同時に0ではない。酸基を有する構成成分の中で特に好ましくは一般式(1)で示す化合物であり、Bはフェニレン基あるいは置換フェニレン基を表し、その置換基は水酸基あるいは炭素数1〜3のアルキル基である。D及びEはそれぞれ独立して炭素数1〜2のアルキレン基あるいは酸素原子で連結した炭素数1〜2のアルキレン基を表す。R1は水素原子あるいはメチル基を表す。Xはカルボン酸基を表す。aは0であり、bは1である。
【0116】
酸基を有する構成成分の具体例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸等が挙げられ、さらに下記のものが挙げられる。
【0117】
【化2】

【0118】
【化3】

【0119】
【化4】

【0120】
上記のような酸基を有する構成成分は、1種類あるいは2種類以上組み合わせてもよい。
【0121】
(オニウム基を有する高分子化合物の中間層)
また、上記中間層形成に用いられる高分子化合物の構成成分のオニウム基として好ましいものは、周期律表第V族あるいは第VI族の原子からなるオニウム基であり、より好ましくは窒素原子、リン原子あるいはイオウ原子からなるオニウム基であり、特に好ましくは窒素原子からなるオニウム基である。また、この高分子化合物は、その主鎖構造がアクリル樹脂やメタクリル樹脂やポリスチレンのようなビニル系ポリマーあるいはウレタン樹脂あるいはポリエステルあるいはポリアミドであるポリマーが好ましい。中でも、主鎖構造がアクリル樹脂やメタクリル樹脂やポリスチレンのようなビニル系ポリマーがさらに好ましい。特に好ましい高分子化合物は、オニウム基を有する構成成分が下記の一般式(3)、一般式(4)あるいは一般式(5)で表される重合可能な化合物であるポリマーである。
【0122】
【化5】

【0123】
式中、Jは2価の連結基を表す。Kは芳香族基あるいは置換芳香族基を表す。Mはそれぞれ独立して2価の連結基を表す。Y1 は周期律表第V族の原子を表し、Y2は周期律表第VI族の原子を表す。Z- は対アニオンを表す。R2は水素原子、アルキル基又はハロゲン原子を表す。R3,R4,R5,R7はそれぞれ独立して水素原子あるいは場合によっては置換基が結合してもよいアルキル基、芳香族基、アラルキル基を表し、R6はアルキリジン基あるいは置換アルキリジンを表すが、R3とR4あるいはR6とR7はそれぞれ結合して環を形成してもよい。j,k,mはそれぞれ独立して0又は1を表す。uは1〜3の整数を表す。オニウム基を有する構成成分の中でより好ましくは、Jは−COO−又はCONH−を表し、Kはフェニレン基あるいは置換フェニレン基を表し、その置換基は水酸基、ハロゲン原子あるいはアルキル基である。Mはアルキレン基あるいは分子式がCnHnO、CnHnSあるいはCn H2n+1Nで表される2価の連結基を表す。但し、ここでnは1〜12の整数を表す。Y1 は窒素原子又はリン原子を表し、Y2はイオウ原子を表す。Z- はハロゲンイオン、PF- 、BF- あるいはRSO- を表す。R2は水素原子又はアルキル基を表す。R3,R4,R5,R7はそれぞれ独立して水素原子あるいは場合によっては置換基が結合してもよい炭素数1〜10のアルキル基、芳香族基、アラルキル基を表し、R6は炭素数1〜10のアルキリジン基あるいは置換アルキリジンを表すが、R3とR4あるいはR6とR7はそれぞれ結合して環を形成してもよい。j,k,mはそれぞれ独立して0又は1を表すが、jとkは同時に0ではない。オニウム基を有する構成成分の中で特に好ましくは、Kはフェニレン基あるいは置換フェニレン基を表し、その置換基は水酸基あるいは炭素数1〜3のアルキル基である。Mは炭素数1〜2のアルキレン基あるいは酸素原子で連結した炭素数1〜2のアルキレン基を表す。Z- は塩素イオンあるいはRSO- を表す。R2は水素原子あるいはメチル基を表す。jは0であり、kは1である。
【0124】
<感光層>
上記中間層が形成される前の平版印刷版用支持体又は上記中間層が形成された平版印刷版用支持体に感光層を設けることにより、平版印刷版原版を得ることができる。
【0125】
感光層は、特に限定されないが、例えば、通常の可視光で露光する可視光露光型製版層、赤外線レーザ光等のレーザ光で露光するレーザ露光型製版層が挙げられる。以下、可視光露光型製版層及びレーザ露光型製版層について説明する。
【0126】
(1)可視光露光型製版層
可視光露光型製版層は、感光性樹脂及び必要に応じて着色剤等を含有する組成物により形成することができる。感光性樹脂としては、光が当たると現像液に溶けるようになるポジ型感光性樹脂、光が当たると現像液に溶解しなくなるネガ型感光性樹脂が挙げられる。ポジ型感光性樹脂としては、例えば、キノンジアジド化合物、ナフトキノンジアジド化合物等のジアジド化合物と、フェノールノボラック樹脂、クレゾール−ノボラック樹脂等のフェノール樹脂との組み合わせが挙げられる。ネガ型感光性樹脂としては、例えば、ジアゾ樹脂(例えば、芳香族ジアゾニウム塩とホルムアルデヒド等のアルデヒド類との縮合物)、前記ジアゾ樹脂の無機酸塩、前記ジアゾ樹脂の有機酸塩等のジアゾ化合物と、(メタ)アクリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂等の結合剤との組み合わせ、(メタ)アクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂等のビニルポリマーと、(メタ)アクリル酸エステル、スチレン等のビニル重合性化合物と、ベンゾイン誘導体、ベンゾフェノン誘導体、チオキサントン誘導体等の光重合開始剤との組み合わせが挙げられる。
【0127】
上記着色剤としては、通常の色素のほか、露光により発色する露光発色色素、露光によりほとんど又は完全に無色になる露光消色色素等を用いることができる。露光発色色素としては、例えば、ロイコ色素が挙げられる。露光消色色素としては、例えば、トリフェニルメタン系色素、ジフェニルメタン系色素、オキザジン系色素、キサンテン系色素、イミノナフトキノン系色素、アゾメチン系色素、アントラキノン系色素が挙げられる。
【0128】
可視光露光型製版層は、例えば、上記感光性樹脂と上記着色剤とを溶剤に配合した感光性樹脂溶液を塗布し、その後、乾燥させることにより形成することができる。感光性樹脂溶液に用いられる溶剤としては、上記感光性樹脂を溶解することができ、かつ、室温である程度の揮発性を有する溶剤が挙げられる。具体的には、例えば、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、アミド系溶剤、炭酸エステル系溶剤が挙げられる。アルコール系溶剤としては、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノールが挙げられる。ケトン系溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、ジエチルケトンが挙げられる。エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、ギ酸メチル、ギ酸エチルが挙げられる。エーテル系溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサンが挙げられる。グリコールエーテル系溶剤としては、例えば、エチルセロソルブ、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブが挙げられる。アミド系溶剤としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドが挙げられる。炭酸エステル系溶剤としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジエチル、炭酸ジブチルが挙げられる。
【0129】
感光性樹脂溶液の塗布方法は、特に限定されず、回転塗布法、ワイヤーバー塗布法、ディップ塗布法、エアーナイフ塗布法、ロール塗布法、ブレード塗布法等の従来公知の方法を用いることができる。
【0130】
(2)レーザ露光型製版層
レーザ露光型製版層としては、例えば、レーザ光を照射した部分が残存するネガ型レーザ製版層、レーザ光を照射した部分が除去されるポジ型レーザ製版層、レーザ光を照射すると光重合する光重合型レーザ製版層が主なものとして挙げられる。
【0131】
ネガ型レーザ製版層は、(A)熱又は光により分解して酸を発生させる酸前駆体、(B)酸前駆体(A)が分解して発生した酸により架橋する酸架橋性化合物、(C)アルカリ可溶性樹脂、(D)赤外線吸収剤、及び(E)フェノール性水酸基含有化合物を適当な溶剤に溶解させ、又は懸濁させたネガ型レーザ製版層形成液を用いて形成することができる。
【0132】
酸前駆体(A)としては、例えば、イミノフォスフェート化合物のように、紫外光、可視光又は熱により分解してスルホン酸を発生させる化合物が挙げられる。ほかには、光カチオン重合開始剤、光ラジカル重合開始剤、光変色剤等として一般に使用されている化合物も、酸前駆体(A)として用いることができる。酸架橋性化合物(B)としては、例えば、アルコキシメチル基及びヒドロキシル基のうち少なくとも一方を有する芳香族化合物、N−ヒドロキシメチル基、N−アルコキシメチル基又はN−アシルオキシメチル基を有する化合物、エポキシ化合物が挙げられる。アルカリ可溶性樹脂(C)としては、例えば、ノボラック樹脂、ポリ(ヒドロシスチレン)等の側鎖にヒドロキシアリール基を有するポリマーが挙げられる。
【0133】
赤外線吸収剤(D)としては、例えば、波長760〜1200nmの赤外線を吸収する染料及び顔料が挙げられる。具体的には、例えば、黒色顔料、赤色顔料、金属粉顔料、フタロシアニン系顔料;前記波長の赤外線を吸収するアゾ染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、シアニン色素が挙げられる。フェノール性水酸基含有化合物(E)としては、例えば、一般式(R1−X)n−Ar−(OH)m(式中、R1は、炭素数6〜32のアルキル基又はアルケニル基であり、Xは、単結合、O、S、COO又はCONHであり、Arは、芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基又は複素環基であり、n及びmは、それぞれ1〜8の自然数である。)で表される化合物が挙げられる。そのような化合物としては、例えば、ノニルフェノール等のアルキルフェノール類が挙げられる。ネガ型レーザ製版層形成液には、上記各成分のほかに、可塑剤等を配合することもできる。
【0134】
ポジ型レーザ製版層は、(F)アルカリ可溶性高分子、(G)アルカリ溶解阻害剤、及び(H)赤外線吸収剤を適当な溶剤に溶解させ、又は懸濁させたポジ型レーザ製版層形成液を用いて形成することができる。アルカリ可溶性高分子(F)としては、例えば、フェノール樹脂、クレゾール樹脂、ノボラック樹脂、ピロガロール樹脂、ポリ(ヒドロキシスチレン)等のフェノール性水酸基を有するフェノール系ポリマー;少なくとも一部のモノマー単位がスルホンアミド基を有するポリマーであるスルホンアミド基含有ポリマー;N−(p−トルエンスルホニル)(メタ)アクリルアミド基等の活性イミド基を有するモノマーの単独重合又は共重合により得られる活性イミド基含有ポリマーが挙げられる。
【0135】
アルカリ溶解阻害剤(G)としては、例えば、加熱等によりアルカリ可溶性高分子(F)と反応してアルカリ可溶性高分子(F)のアルカリ溶解性を低下させる化合物が挙げられる。具体的には、例えば、スルホン化合物、アンモニウム塩、スルホニウム塩、アミド化合物が挙げられる。アルカリ可溶性高分子(F)とアルカリ溶解阻害剤(G)の組み合わせとしては、アルカリ可溶性高分子(F)としてノボラック樹脂、アルカリ溶解阻害剤(G)としてスルホン化合物の一種であるシアニン色素の組み合わせが好適に挙げられる。赤外線吸収剤(H)としては、例えば、スクワリリウム色素、ピリリウム色素、カーボンブラック、不溶性アゾ染料、アントラキノン系染料等の波長750〜1200nmの赤外域に吸収領域があり、光/熱変換能を有する色素、染料及び顔料が挙げられる。
【0136】
光重合型レーザ製版層は、(I)分子末端にエチレン性不飽和結合を有するビニル重合性化合物を含有する光重合型レーザ製版層形成液を用いて形成することができる。光重合型レーザ製版層形成液には、必要に応じて、(J)光重合開始剤、(K)増感剤等を配合することができる。ビニル重合性化合物(I)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸と脂肪族多価アルコールとのエステルであるエチレン性不飽和カルボン酸多価エステル;前記エチレン性不飽和カルボン酸と多価アミンとからなるメチレンビス(メタ)アクリルアミド;キシリレン(メタ)アクリルアミド等のエチレン性不飽和カルボン酸多価アミドが挙げられる。ビニル重合性化合物(I)としては、ほかに、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等のエチレン性不飽和カルボン酸モノエステルが挙げられる。光重合開始剤(J)としては、ビニル系モノマーの光重合に通常使用される光重合開始剤を用いることができる。増感剤(K)としては、例えば、チタノセン化合物、トリアジン化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾイミダゾール系化合物、シアニン色素、メロシアニン色素、キサンテン色素、クマリン色素が挙げられる。
【0137】
上述したネガ型レーザ製版層形成液、ポジ型レーザ製版層形成液及び光重合型レーザ製版層形成液に使用される溶剤、ならびに、ネガ型レーザ製版層形成液、ポジ型レーザ製版層形成液及び光重合型レーザ製版層形成液の塗布方法については、上記感光性樹脂溶液について挙げた溶剤及び塗布方法を用いることができる。尚、光重合型レーザ製版層を形成させる場合においては、シラン化合物を水、アルコール又はカルボン酸で部分分解して得られる部分分解型シラン化合物等の反応性官能基を有するシリコーン化合物を用いて、平版印刷版用支持体の粗面化処理面を予め処理しておくと、支持体と光重合型レーザ製版層との接着性が向上するので、好ましい。
【0138】
<マット層>
上記のようにして設けられた感光層の表面には、真空焼き枠を用いた密着露光の際の真空引きの時間を短縮し、かつ、焼きボケを防止するため、マット層が設けられてもよい。具体的には、特開昭50−125805号公報、特公昭57−6582号公報、同61−28986号公報に記載されているようなマット層を設ける方法、特公昭62−62337号公報に記載されているような固体粉末を熱蒸着させる方法等が挙げられる。
【0139】
<バックコート層>
上述したようにして得られる平版印刷版原版には、重ねても感光層が傷付かないように、裏面(感光層が設けられない側の面)に、有機高分子化合物からなる被覆層(以下「バックコート層」ともいう。)を必要に応じて設けてもよい。バックコート層の主成分としては、ガラス転移点が20℃以上の、飽和共重合ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂及び塩化ビニリデン共重合樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を用いるのが好ましい。
【0140】
飽和共重合ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸ユニットとジオールユニットとからなる。ジカルボン酸ユニットとしては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、テトラブロムフタル酸、テトラクロルフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、アゼライン酸、コハク酸、シュウ酸、スベリン酸、セバチン酸、マロン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
【0141】
バックコート層は、更に、着色のための染料や顔料、支持体との密着性を向上させるためのシランカップリング剤、ジアゾニウム塩からなるジアゾ樹脂、有機ホスホン酸、有機リン酸、カチオン性ポリマー、滑り剤として通常用いられるワックス、高級脂肪酸、高級脂肪酸アミド、ジメチルシロキサンからなるシリコーン化合物、変性ジメチルシロキサン、ポリエチレン粉末等を適宜含有することができる。
【0142】
バックコート層の厚さは、基本的には合紙がなくても、感光層を傷付けにくい程度であればよく、0.01〜8μmであるのが好ましい。厚さが0.01μm未満であると、平版印刷版原版を重ねて取り扱った場合の感光層の擦れ傷を防ぐことが困難である。また、厚さが8μmを超えると、印刷中、平版印刷版周辺で用いられる薬品によってバックコート層が膨潤して厚みが変動し、印圧が変化して印刷特性を劣化させることがある。
【0143】
バックコート層を平版印刷版原版の裏面に設ける方法としては、種々の方法を用いることができる。例えば、上記バックコート層用成分を適当な溶媒に溶解させ溶液にして塗布し、又は乳化分散液して塗布し、乾燥する方法;予めフイルム状に成形したものを接着剤や熱での平版印刷版原版に貼り合わせる方法;溶融押出機で溶融被膜を形成し、平版印刷版原版に貼り合わせる方法が挙げられる。好適な厚さを確保するうえで最も好ましいのは、バックコート層用成分を適当な溶媒に溶解させ溶液にして塗布し、乾燥する方法である。
【0144】
平版印刷版原版の製造においては、裏面のバックコート層と表面の感光層のどちらを先に支持体上に設けてもよく、また、両者を同時に設けてもよい。
【0145】
このようにして得られた平版印刷版原版を、必要に応じて、適当な大きさに裁断して、露光し現像して製版することにより、平版印刷版が得られる。可視光露光型製版層(感光性製版層)を設けた平版印刷版原版の場合には、印刷画像が形成された透明フイルムを重ねて通常の可視光を照射することにより露光し、その後、現像を行うことにより製版することができる。レーザ露光型製版層を設けた平版印刷版原版の場合には、各種レーザ光を照射して印刷画像を直接書き込むことにより露光し、その後、現像することにより製版することができる。
【0146】
以上、平版印刷版用支持体の製造方法に本発明を適用する例について説明したが、金属板の表面を電解粗面化処理するその他の技術分野にも、本発明を適用できる。
【0147】
[実施例]
次に、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0148】
図3を参照して説明する。図3は、本発明に係る電解粗面化方法に用いられる装置系の一例を示す説明図である。400×300×800mmの大きさの容器200中で、硝酸溶液を用いた交流による電解粗面化処理を実施した。
【0149】
図3に示す装置系において、硝酸溶液210の濃度を10g/l、液温を35℃に設定し、台形波形(図4参照)を用いて交流電解処理を行った。直流電源を用いて交流電解処理途中にアルミニウムが負になるようにアルミニウムに対して負電圧を印加した。SEMを用いて電解処理後の表面形状を観察し、平均ピット径、ピット密度、ピット均一性を評価した。AFMを用いて表面積を測定した。表面の光沢度は光沢度計(スガ試験器)で測定した。
【0150】
アルミニウム支持体230とカーボン電極240とを硝酸溶液210中でそれぞれの平面同士を対向させて配置し、アルミニウム支持体230とカーボン電極240とをそれぞれ交流電源250に接続した。アルミニウム支持体230とカーボン電極240との間の距離は10mmとした。また、アルミニウム支持体230は、アルミニウム材としてA1050を使用した。
【0151】
(実験1)
1%の硝酸溶液210が静止した状態でアルミニウム支持体230を電解粗面化処理した。交流電解電流密度を35A/dm、総電気量を100C/dmとした。このとき、電解粗面化処理では、直流の電流密度50A/dm、電気量を5C/dmとし、直流を印加する回数を変更して行った。
【0152】
なお、直流の印加は、印加回数が1回の場合は、図4に示すように、電気量が20C/dmのとき、印加回数が2回の場合は、電気量が20C/dm及び40C/dmのとき、印加回数が3回の場合は、電気量が20C/dm及び40C/dm及び60C/dmのとき、印加回数が4回の場合は、電気量が20C/dm及び40C/dm及び60C/dm及び80C/dmのときとした。
【0153】
粗面化されたアルミニウム支持体230表面のSEM写真撮影を行った。また、表面の光沢度を光沢度計(スガ試験器)で測定した。実験結果を図5に示す。
【0154】
直流の印加回数を増やすほど、アルミニウム支持体230の光沢度が下がり、ピットが均一化していることが分かる。したがって、直流の印加回数を増やすほど、ピット密度が大きく、ピットの均一性が更に良好なアルミニウム支持体を製造することができることが分かる。
【0155】
また、直流(負電圧)の印加回数が1回の場合において、直流を印加するタイミングを変えて実験を行った。交流の総電気量を100C/dmとしたとき、電気量が20C/dmをときに直流を印加したもの(図4の(1))と、80C/dmをときに直流を印加したもの(図4の(2))とで、アルミニウム支持体230表面の光沢度とSEM写真の比較を行った。実験結果を図6に示す。
【0156】
図6の実験結果から分かるように、負電圧を印加は、交番波形電圧の印加の間であっても、後半で行うほうが効果が大きい。
【0157】
(実験2)
1%の硝酸溶液210が静止した状態でアルミニウム支持体230を電解粗面化処理した。交流電解電流密度を35A/dm、総電気量を240C/dmとした。このとき、電解粗面化処理は、パラメータとして直流の電流密度、直流を印加する回数を変更して行った。10回直流を印加した際の負電圧の印加位置は、前半に処理した場合と後半に処理した場合に分けた。
【0158】
つまり、前半の場合の負電圧の位置は、電気量が10C/dmのとき、20C/dmのとき、30C/dmのとき、40C/dmのとき、50C/dmのとき、60C/dmのとき、70C/dmのとき、80C/dmのとき、90C/dmのとき、100C/dmのときとした。一方、後半の場合、負電圧の位置は、電気量が130C/dmのとき、140C/dmのとき、150C/dmのとき、160C/dmのとき、170C/dmのとき、180C/dmのとき、190C/dmのとき、200C/dmのとき、210C/dmのとき、220C/dmのときとした。
【0159】
後半に1回印加する場合は電気量が130C/dmのとき、後半に2回印加する場合は電気量が130C/dmおよび140C/dmのとき、後半に3回印加する場合は電気量が130C/dm、140C/dmおよび150C/dmのとき、後半に6回印加する場合は電気量が130C/dm、140C/dmおよび150C/dm、160C/dm、170C/dm、および180C/dmのとき、並びに後半に10回印加する場合は電気量が130C/dm、140C/dmおよび150C/dm、160C/dm、170C/dm、180C/dm、190C/dm、200C/dm、210C/dm、および220C/dmのときとした。
【0160】
粗面化されたアルミニウム支持体230表面のSEM写真撮影を行い、表面を観察することにより、平均ピット径、ピット密度、ピットの均一性を評価した。AFMを用いて表面積比ΔS(投影面積に対する実面積の増加率)を測定した。表面の光沢度は光沢度計(スガ試験器)で測定した。評価結果を表2に示す。
【0161】
【表2】

【0162】
平均ピット径とピット密度は、174×254μmのSEM写真を解析することにより算出した。ピット均一性の評価レベルとしては、比較例を基準に以下の4段階評価とした。
【0163】
◎…………ピット均一性優良
○…………ピット均一性良
○〜△……ピット均一性やや良
△…………ピット均一性可
×…………ピット均一性不可
この表2から分かるように、電解粗面化処理を行う際の直流の電流密度は、−10A/dm以下が好ましく、−20A/dm以下がより好ましく、また、−50A/dm以上が好ましく、−30A/dm以上がより好ましい。これにより、ピット密度が大きく、ピットの均一性が良好なアルミニウム支持体を製造することができる。
【0164】
また、直流の印加回数は6回以上行うことが更に好ましく、10回以上行うことが最も好ましい。これにより、ピット密度が更に大きく、ピットの均一性が更に良好なアルミニウム支持体を製造することができる。
【0165】
本発明において、カソード反応を入れる位置は、電解粗面化処理工程の後半が好ましい。
【0166】
〔平版印刷版用支持体としての利用〕
(酸性水溶液中でのデスマット処理)
得られた粗面化処理されたアルミニウム板に、硫酸濃度170g/L、アルミニウムイオン濃度5g/L、温度50℃の水溶液をスプレー管から吹き付けて、5秒間デスマット処理を行った。硫酸水溶液としては、後述する陽極酸化処理工程の廃液を用いた。
【0167】
その後、ニップローラで液切りした。液切り後、水洗処理を行わずに、陽極酸化処理工程に供した。
【0168】
(陽極酸化処理)
電解液としては、170g/L硫酸水溶液に硫酸アルミニウムを溶解させてアルミニウムイオン濃度を5g/Lとした電解液(温度50℃)を用いた。陽極酸化処理は、アルミニウム板がアノード反応する間の平均電流密度が15A/dm2となるように行い、最終的な酸化皮膜量は2.7g/m2であった。
【0169】
その後、ニップローラで液切りし、更に、扇状に噴射水が広がるスプレーチップを有するスプレー管を用いて5秒間水洗処理し、更に、ニップローラで液切りした。
【0170】
(親水化処理)
アルミニウム板をケイ酸ソーダ1質量%水溶液(温度20℃)に10秒間浸せきさせた。蛍光X線分析装置で測定したアルミニウム板表面のSi量は、3.5mg/m2であった。その後、ニップローラで液切りし、更に、扇状に噴射水が広がるスプレーチップを有するスプレー管を用いて5秒間水洗処理し、更に、ニップローラで液切りした。更に、90℃の風を10秒間吹き付けて乾燥させて、平版印刷版用支持体を得た。
【0171】
(平版印刷版原版の作製)
上記で得られた各平版印刷版用支持体に、以下のようにしてサーマルポジタイプの画像記録層を設けて平版印刷版原版を得た。なお、画像記録層を設ける前には、後述するように下塗層を設けた。
【0172】
平版印刷版用支持体上に、下記組成の下塗液を塗布し、80℃で15秒間乾燥し、下塗層の塗膜を形成させた。乾燥後の塗膜の被覆量は15mg/m2であった。
【0173】
<下塗液組成>
・下記高分子化合物 0.3g
・メタノール 100g
・水 1g
【0174】
【化6】

【0175】
更に、下記組成の感熱層塗布液を調製し、下塗層を設けた平版印刷版用支持体に、この感熱層塗布液を乾燥後の塗布量(感熱層塗布量)が1.8g/m2になるよう塗布し、乾燥させて感熱層(サーマルポジタイプの画像記録層)を形成させ、平版印刷版原版を得た。
【0176】
<感熱層塗布液組成>
・ノボラック樹脂(m−クレゾール/p−クレゾール=60/40、重量平均分子量7,000、未反応クレゾール0.5質量%含有) 0.90g
・メタクリル酸エチル/メタクリル酸イソブチル/メタクリル酸共重合体(モル比35/35/30) 0.10g
・下記構造式で表されるシアニン染料A 0.1g
・テトラヒドロ無水フタル酸 0.05g
・p−トルエンスルホン酸 0.002g
・エチルバイオレットの対イオンを6−ヒドロキシ−β−ナフタレンスルホン酸にしたもの 0.02g
・フッ素系界面活性剤(メガファックF−780F、大日本インキ化学工業社製、固形分30質量%) 0.0045g(固形分換算)
・フッ素系界面活性剤(メガファックF−781F、大日本インキ化学工業社製、固形分100質量%) 0.035g
・メチルエチルケトン 12g
【0177】
【化7】

【0178】
(平版印刷版原版の評価)
得られた平版印刷版原版について露光・現像の感度、及び、上層との密着性について評価を行った。
【0179】
(1)露光・現像の感度評価
得られた平版印刷版原版をCreo社製TrendSetterを用いてドラム回転速度150rpm、ビーム強度10Wで画像状に描き込みを行った。その後、下記組成のアルカリ現像液を仕込んだ富士写真フイルム(株)製PSプロセッサー940Hを用い、液温を30℃に保ち、現像時間20秒で現像し、平版印刷版を得た。
【0180】
その結果、上記、表1の実施例1〜3,比較例のいずれの条件で作製した平版印刷版原版も感度は良好であった。
【0181】
上記露光・現像の感度評価に用いたアルカリ現像液の組成を以下に示す。
【0182】
<アルカリ現像液組成>
・D−ソルビット 2.5質量%
・水酸化ナトリウム 0.85質量%
・ポリエチレングリコールラウリルエーテル(重量平均分子量1,000) 0.5質量%
・水 96.15質量%
(2)上層との密着性評価(耐刷性評価)
次に、上層との密着性評価を行った。ここで、上層との密着性評価とは、ピットが形成されたアルミニウム支持体表面と、そのアルミニウム支持体表面の上に形成された層との密着性を評価するものである。ここで、上層との密着性は耐刷性を評価することにより判断した。耐刷性の評価は、各条件(表1の実施例1〜3、比較例)での印刷可能枚数を評価することにより行い、比較例の印刷可能枚数を100%としたときの指数で表した。
【0183】
〔耐刷試験の条件〕
得られた平版印刷版を、小森コーポレーション社製のリスロン印刷機で、大日本インキ化学工業社製のDIC−GEOS(N)墨のインキを用いて印刷し、ベタ画像の濃度が薄くなり始めたと目視で認められた時点の印刷枚数により、通常耐刷性を評価した。
【0184】
[試験結果2-1]
アルミニウム支持体を静止した状態でテストした結果を表3に示す(直流を印加していない場合の耐刷枚数を指数100とした)。この表において、各実施例、比較例は、表3の各実施例、比較例と同じ条件で電解粗面化処理を行ったサンプルである。
【0185】
【表3】

【0186】
特に、実施例4の結果から分かるように、電解粗面化処理を行う際の直流の電流密度は、−10A/dm以下が好ましく、−20A/dm以下がより好ましく、また、−50A/dm以上が好ましく、−30A/dm以上がより好ましい。このことから、粗面化途中の負電圧印加によるスマット付与がピットの均一性、つまり耐刷性に寄与していることが分かる。
【0187】
表3に示されるように、実施例1〜6は、すべて比較例よりも耐刷性が向上した。これは、交流電解途中にアルミニウム支持体が負になるようにアルミニウム支持体に対して負電圧を印加することにより、ピットの均一性が向上して表面積が増加し、上層との密着性が良くなることにより耐刷性が向上したものと考えられる。
【0188】
[試験結果2-2]
フラット型の装置系(図2参照)において、ラインスピードを60m/分に設定し、台形波形(図4参照)を用いてアルミニウム支持体の交流電解連続処理を行った。ここで、硝酸溶液の濃度は10g/l、液温は35℃に設定した。アルミニウム支持体230は、アルミニウム材としてA1050を使用した。交流電解電流密度を35A/dm、総電気量を100C/dmとした。交流電解の間に直流電源を用いて交流電解処理途中にアルミニウムが負になるようにアルミニウムに対して負電圧を印加した。このとき、直流の電流密度を25A/dm、電気量を5C/dmとした。なお、直流の印加回数は4回とし、交流電解電気量が20C/dm及び40C/dm及び60C/dm及び80C/dmのときに直流を印加した。アルミニウム支持体を連続処理した後の陽極酸化処理、親水化処理は前述と同様のバッチ式を用いた。その後、実施例1と同様に、感熱層を設けて平版印刷版原版を得た。なお、感熱層を設ける前には、前述と同じように下塗層を設けた。得られた平版印刷版原版について露光・現像の感度、及び、上層との密着性について評価を行った。耐刷試験の条件は上述と同様にした。結果を表3に示す(実施例10)。直流を印加していない場合の耐刷枚数を指数100とした(比較例3)。
【0189】
【表4】

【0190】
表4に示されるように、実施例8は、比較例3よりも耐刷性が向上した。これは、交流電解途中に直流を印加することにより、ピットの均一性が向上して表面積が増加し、上層との密着性が良くなることにより耐刷性が向上したものと考えられる。また、交流電解途中に直流を印加することにより、チャタマークを改善できることが分かる。これにより、アルミニウムウェブWを酸性電解液中に搬送しつつ交番波形電流により連続的に交流電解処理する際に、大きさの均一なピットを形成させることが可能となり、耐刷性が向上したアルミニウム支持体を製造できることが立証された。
【0191】
一方、直流を印加しなかった比較例は、耐刷性が乏しくなることが分かった。
【0192】
(実験3)
液温35℃の1%の硝酸溶液が静止した状態でアルミニウム支持体を電解粗面化処理した。交流電解電流密度を35A/dm、総電気量を240C/dmとした。このとき、電解粗面化処理では、直流の電流密度を25A/dm、電気量を5C/dmとした。電荷をかける位置は、(実験2)の位置と同様である。
【0193】
ここで、以下に示す表5の添加金属を表記載の濃度で液温35℃の1%の硝酸溶液に加えた。
【0194】
なお、亜鉛イオンを含有する溶液は、硝酸亜鉛(6水和物)を添加することにより得た。銅イオンを含有する溶液は、硝酸銅(3水和物)を添加することにより得た。鉛イオンを含有する溶液は、硝酸鉛を添加することにより得た。錫イオンを含有する溶液は、酸化スズ(II)を添加することにより得た。
【0195】
粗面化されたアルミニウム支持体表面のSEM写真撮影を行った。また、表面の光沢度を光沢度計(スガ試験器)で測定した。
【0196】
粗面化されたアルミニウム支持体230表面のSEM写真撮影を行い、表面を観察することにより、平均ピット径、ピット密度、ピットの均一性を評価した。AFMを用いて表面積比△S(投影面積に対する実面積の増加率)を測定した。表面の光沢度は光沢度計(スガ試験器)で測定した。評価結果を表5に示す。なお、以下の実施例1及び2、比較例1及び3は、上記の実験2と同じものである。
【0197】
【表5】

【0198】
この表5から分かるように、酸性溶液において水素過電圧650mV以上の金属のイオンを3ppm以上含有することで電解粗面化処理を行うことが好ましいことが分かる。これにより、ピット密度が大きく、ピットの均一性が良好なアルミニウム支持体を製造することができる。
【0199】
〔平版印刷版用支持体としての利用〕
上記実験2と全く同じ処理を行った((実験2)の〔平版印刷版用支持体としての利用〕の(酸性水溶液中でのデスマット処理)、(陽極酸化処理)、(親水化処理)、(平版印刷版原版の作製)、(平版印刷版原版の評価)、及び、〔耐刷試験の条件〕の記載を参照のこと)。
)。
【0200】
[試験結果3-1]
アルミニウム支持体を静止した状態でテストした結果を表6に示す(直流を印加していない場合の耐刷枚数を指数100とした)。この表において、各実施例、比較例は、表5の各実施例、比較例と同じ条件で電解粗面化処理を行ったサンプルである。
【0201】
【表6】

【0202】
表6の結果から分かるように、酸性溶液において水素過電圧650mV以上の金属のイオンを3ppm以上含有することが、耐刷性に寄与していることが分かる。
【0203】
[試験結果3-2]
フラット型の装置系(図2参照)において、ラインスピードを60m/分に設定し、台形波形(図4参照)を用いてアルミニウム支持体の交流電解連続処理を行った。ここで、硝酸溶液の濃度は10g/l、液温は35℃に設定した。アルミニウム支持体230は、アルミニウム材としてA1050を使用した。交流電解電流密度を35A/dm、総電気量を100C/dmとした。交流電解の間に直流電源を用いて交流電解処理途中にアルミニウムが負になるようにアルミニウムに対して負電圧を印加した。このとき、直流の電流密度を25A/dm、電気量を5C/dmとした。アルミニウム支持体を連続処理した後の陽極酸化処理、親水化処理は前述と同様のバッチ式を用いた。その後、感熱層を設けて平版印刷版原版を得た。なお、感熱層を設ける前には、前述と同じように下塗層を設けた。得られた平版印刷版原版について露光・現像の感度、及び、上層との密着性について評価を行った。耐刷試験の条件は上述と同様にした。結果を表7に示す(実施例19、20)。直流を印加していない場合の耐刷枚数を指数100とした(比較例3)。
【0204】
【表7】

【0205】
表7に示されるように、溶液において金属のイオンを含有させても、耐刷性が向上することが分かった。
【符号の説明】
【0206】
10、30…電解粗面化処理装置、12…電解槽本体、12’…補助電解槽、12A、32…電解槽、12C…溢流槽、14…送りローラ、16A、16B、16C…電極、18A、18B…小電極、18A’、18B’…電極(負電圧の電極)、34A…電極、34A’…電極(負電圧の電極)、200…アルミニウム、210…硝酸溶液、230…アルミニウム支持体、240…カーボン電極、250…電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の金属板を酸性電解液の中で搬送しつつ交番波形電圧の印加により電解粗面化処理する電解粗面化処理方法において、
少なくとも1回、前記交番波形電圧の印加の間に、前記金属板が負になるように該金属板に対して負電圧を印加する工程を有することを特徴とする電解粗面化処理方法。
【請求項2】
前記負電圧を印加する工程での電流密度は、−30A/dm以上−20A/dm以下とすることを特徴とする請求項1に記載の電解粗面化処理方法。
【請求項3】
前記負電圧を印加する工程の印加回数は、6回以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電解粗面化処理方法。
【請求項4】
前記酸性電解液は、硝酸、塩酸、硫酸、燐酸、又はこれらをある割合で混合した酸性溶液であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1に記載の電解粗面化処理方法。
【請求項5】
前記酸性溶液は、水素過電圧が650mV以上の金属のイオンを3ppm以上含有することを特徴とする請求項4に記載の電解粗面化処理方法。
【請求項6】
前記水素過電圧が650mV以上の金属のイオンは、少なくとも亜鉛イオン、スズイオン、及び鉛イオンから選ばれる何れか1つであることを特徴とする請求項5に記載の電解粗面化処理方法。
【請求項7】
前記交番波形電圧の印加の前にも、前記金属板が負になるように該金属板に対して負電圧を印加する工程を有することを特徴とする請求項1〜6の何れか1に記載の電解粗面化処理方法。
【請求項8】
前記帯状の金属板は、アルミニウム板であることを特徴とする請求項1〜7の何れか1に記載の電解粗面化処理方法。
【請求項9】
請求項8に記載の電解粗面化処理方法を用いて平版印刷版原版を製造することを特徴とする平版印刷版原版の製造方法。
【請求項10】
帯状の金属板を電解粗面化処理する電解粗面化処理装置において、
酸性電解液を貯留し、内部を前記帯状の金属板が搬送される電解槽と、
前記酸性電解液中に連続又は断続して設けられ、交番波形電圧を印加する交番波形電圧印加手段と、該交番波形電圧印加手段の間に、少なくとも1つ、前記金属板が負になるように該金属板に対して負電圧を印加する負電圧印加手段と、を備えることを特徴とする電解粗面化処理装置。
【請求項11】
前記負電圧を印加する負電圧印加手段は、6つ以上であることを特徴とする請求項10に記載の電解粗面化処理装置。
【請求項12】
前記交番波形電圧印加手段の前にも、前記金属板が負になるように該金属板に対して負電圧を印加する負電圧印加手段を備えることを特徴とする請求項10又は11に記載の電解粗面化処理装置。
【請求項13】
前記負電圧印加手段の電極は、白金族の電極を用いることを特徴とする請求項10〜12の何れか1に記載の電解粗面化処理装置。
【請求項14】
請求項10〜13の何れか1に記載の電解粗面化処理装置により支持体を電解粗面化処理し、該支持体に製版層を形成して平版印刷版原版を製造することを特徴とする平版印刷版原版の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−49259(P2013−49259A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−24196(P2012−24196)
【出願日】平成24年2月7日(2012.2.7)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】