説明

電解装置

【課題】メンテナンスのコストの低減およびメンテナンスの作業効率の向上が可能な電解装置を提供する。
【解決手段】電解装置10の電解槽11においては、電解槽本体11aの上部の開口H1がシール部材11cを挟んで第1の蓋体11bにより閉塞される。第1の蓋体11bの開口H2は、シール部材11eを挟んで第2の蓋体11dにより閉塞される。開口H2は開口H1よりも小さい。第2の蓋体11dの下面には、電解槽本体11a内を陽極室14aと陰極室14bとに分離する隔壁13が一体的に設けられる。陽極室14aは、シール部材11eの内側の領域に配置される。陽極15aは陽極室14a内において第2の蓋体11dに取り付けられ、電解槽本体11aの内面には陰極15bが形成される。電解槽11内の電解浴12が電気分解されることにより、陽極室14aにおいてフッ素ガスが発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解槽を備えた電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体の製造工程等において、材料の洗浄および表面改質等の種々の用途でフッ素ガスが用いられている。この場合、フッ素ガス自体が用いられることもあり、フッ素ガスを基に合成されたNF(三フッ化窒素)ガス、NeF(フッ化ネオン)ガスおよびArF(フッ化アルゴン)ガス等の種々のフッ素系ガスが用いられることもある。
【0003】
フッ素ガスを安定に供給するために、通常、HF(フッ化水素)を電気分解してフッ素ガスを発生する電解装置が用いられる。このような電解装置では、例えば、電解槽内にKF−HF(カリウム−フッ化水素)系の混合溶融塩からなる電解浴が形成される。電解槽内の電解浴が電気分解されることによりフッ素ガスが発生される。
【0004】
例えば、特許文献1に記載された溶融塩電解装置は、電解槽本体と上蓋とにより構成された電解槽を有する。電解槽の内部は、隔壁により電解槽の中心部に位置する陽極室とその陽極室を取り囲む陰極室とに分離されている。陽極室には陽極が配置され、陰極室には陰極が設けられている。上蓋の略中央部には、陽極を電解槽本体内に挿入するための開口部が形成され、開口部を覆うように蓋体が設けられている。蓋体と上蓋との間には、ガスシール材が介在される。蓋体には、陽極を保持する連結棒が垂直に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−48290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された溶融塩電解装置においては、蓋体を上蓋から取り外すことにより、陽極を上蓋とともに容易に電解槽本体から取り外すことができる。これにより、陽極が消耗した場合でも、陽極を容易に交換することが可能になる。
【0007】
しかしながら、上記溶融塩電解装置においては、蓋体と上蓋との間に介在されるガスシール材には、フッ素ガスに対する耐食性が要求される。また、フッ素ガスに対して耐食性を有するガスシール材であっても、長期的にフッ素ガスに接することにより腐食する。そのため、頻繁にガスシール材を交換する必要がある。その結果、メンテナンスのコストが増加する。また、ガスシール材を交換する頻度は、陽極を交換する頻度よりも多いため、メンテナンスの作業効率が悪い。
【0008】
本発明の目的は、メンテナンスのコストの低減およびメンテナンスの作業効率の向上が可能な電解装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る電解装置は、電解浴を電気分解することによりフッ素および他の気体を発生するための電解装置であって、電解浴を収容する電解槽を備え、電解槽は、第1の開口を上部に有する電解槽本体と、第1の開口よりも小さい第2の開口を有し、第1の開口を閉塞するように電解槽本体に設けられる第1の蓋体と、第2の開口を取り囲むように第1の蓋体に設けられる第1のシール部材と、第2の開口を閉塞するように第1のシール部材を挟んで第1の蓋体上に設けられる第2の蓋体と、第2の蓋体に取り付けられる第1の電極と、電解槽本体内をフッ素が発生される第1室と他の気体が発生される第2室とに分離する隔壁とを含み、隔壁は、第1室が第1のシール部材の内側の領域に配置されるように形成されるものである。
【0010】
この電解装置においては、電解槽本体の上部の第1の開口が第1の蓋体により閉塞される。第1の蓋体の第2の開口は、第1のシール部材を挟んで第2の蓋体により閉塞される。第1の電極が第2の蓋体に取り付けられる。第2の開口は第1の開口よりも小さいので、第2の蓋体は第1の蓋体よりも小型でかつ軽量な構成となる。そのため、第1の電極が消耗した場合でも、第2の蓋体を第1の蓋体から取り外すことにより第1の電極を容易に交換することができる。
【0011】
また、第1室は隔壁により第1のシール部材の内側の領域に配置される。この場合、第1室において発生されるフッ素が第1のシール部材に接触することがないので、第1のシール部材の腐食が防止される。これにより、第1のシール部材を交換する頻度が減少する。
【0012】
これらの結果、電解装置のメンテナンスのコストが低減するとともに、メンテナンスの作業効率が向上する。
【0013】
(2)隔壁は、第1の電極の周囲を取り囲むように第1の蓋体に一体的に設けられてもよい。この場合、第2の蓋体を第1の蓋体から取り外すことにより隔壁を容易に点検することができる。これにより、電解装置のメンテナンスのコストがより低減するとともに、メンテナンスの作業効率がより向上する。
【0014】
(3)電解槽本体が第2の電極として機能してもよい。この場合、第2の電極を別個に設ける必要がない。これにより、電解装置の構成を単純化することができる。
【0015】
(4)電解装置は、第1の開口を取り囲むように電解槽本体に設けられる第2のシール部材をさらに備え、第1の蓋体は、第2のシール部材を挟んで電解槽本体上に設けられてもよい。
【0016】
この場合、第1の蓋体を電解槽本体から取り外すことが可能になる。そのため、第1の蓋体を電解槽本体から取り外すことにより電解装置の内部を点検することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電解装置のメンテナンスのコストの低減およびメンテナンスの作業効率の向上が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態に係る電解装置の模式的断面図である。
【図2】図1の電解槽の分解斜視図である。
【図3】第2の蓋体の下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施の形態に係る電解装置について図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施の形態に係る電解装置の模式的断面図である。図1の電解装置10は、フッ素ガスを発生する気体発生装置である。図1に示すように、電解装置10は電解槽11を備える。電解槽11は、電解槽本体11a、第1の蓋体11b、シール部材11c、第2の蓋体11dおよびシール部材11eにより構成される。第2の蓋体11dの下面には、電解槽本体11a内の中心部の空間を取り囲むように隔壁13が一体的に設けられる。電解槽本体11a、第1および第2の蓋体11b,11dならびに隔壁13は、例えばNi(ニッケル)、モネル、純鉄もしくはステンレス鋼等の金属または合金により形成される。
【0021】
電解槽11では、高電流の電力が扱われる。また、陰極室14b内に水素等の気体が存在する場合、静電気または放電による陰極室14b内の放電を防止する必要がある。そのため、陰極室14bの第1の蓋体11bは、アース線L1により接地される。これにより、電解槽11からの漏電による感電等が防止されるとともに水素等の気体が爆発することを防止することができる。
【0022】
電解槽11内には、KF−HF(カリウム−フッ化水素)系混合溶融塩からなる電解浴12が形成される。電解槽11内において、隔壁13の内側に陽極室14aが形成され、隔壁13の外側に陰極室14bが形成される。
【0023】
陽極室14a内に陽極15aが配置される。隔壁13の一部および陽極15aは電解浴12に浸漬する。電解槽本体11aの内面には、陰極15bが形成される。陰極15bの材料としては、例えばNiを用いることが好ましい。
【0024】
HFを供給するためのHF供給ライン18aが第1の蓋体11bに接続される。HF供給ライン18aは温度調整用ヒータ18bで覆われる。これにより、HF供給ライン18aでHFが液化することが防止される。電解浴12の液面の高さは液面検出装置(図示せず)により検出される。液面検出装置により検出される液面の高さが所定値よりも低くなると、HF供給ライン18aを通して電解槽11内にHFが供給される。
【0025】
この電解装置10は、制御部23を備える。電解槽11内の電解浴12は、室温でかつ大気圧下では固体状態をとる。そのため、電解浴12の電気分解を行うためには、電解浴12を80〜90℃に加熱し、液体状態に溶解させる必要がある。制御部23は、温度センサ(図示せず)により検出される電解浴12の温度に基づいて温度制御部(図示せず)を制御し、電解浴12の温度を80〜90℃に維持する。
【0026】
制御部23により陽極15aと陰極15bとの間に電圧が印加される。それにより、電解槽11内の電解浴12が電気分解される。その結果、陽極室14aにおいて主にフッ素ガスが発生する。また、陰極室14bにおいて主に水素ガスが発生する。
【0027】
第2の蓋体11dにはガス排出口16aが設けられ、第1の蓋体11bにはガス排出口16bが設けられる。ガス排出口16aには排気管17aが接続され、ガス排出口16bには排気管17bが接続される。ガス排出口16aは陽極室14aに連通し、ガス排出口16bは陰極室14bに連通する。陽極室14aで発生される気体は、ガス排出口16aから排気管17aを通して排出され、陰極室14bで発生する気体はガス排出口16bから排気管17bを通して排出される。
【0028】
図2は、図1の電解槽11の分解斜視図である。図3は、第2の蓋体11dの下面図である。
【0029】
図2に示すように、電解槽本体11aは、底面部および4つの側面部を有し、上部に矩形の開口H1を有する。シール部材11cは、開口H1を取り囲むように4つの側面部の上端面上に設けられる。シール部材11cは、例えばフッ素ゴムからなるOリングである。第1の蓋体11bは、矩形形状を有するとともに開口H1よりも大きな寸法を有する。この第1の蓋体11bは、電解槽本体11aの開口H1を閉塞するようにシール部材11c上に配置される。それにより、電解槽本体11aと第1の蓋体11bとが、シール部材11cにより互いに電気的に絶縁されつつ密封される。
【0030】
第1の蓋体11bは、略中央部に矩形の開口H2を有する。シール部材11eは、開口H2における第1の蓋体11bの縁部に沿って開口H2を取り囲むように第1の蓋体11bの上面に設けられる。シール部材11eは、例えばフッ素ゴムからなるOリングである。第2の蓋体11dは、矩形形状を有するとともに、開口H2よりも大きな寸法を有する。この第2の蓋体11dは、第1の蓋体11bの開口H2を閉塞するようにシール部材11e上に配置される。それにより、第1の蓋体11bと第2の蓋体11dとが、シール部材11eにより互いに電気的に絶縁されつつ密封される。第1の蓋体11bには、HF供給ライン18aが挿入されるHF供給孔18cが設けられる。
【0031】
隔壁13は、4つの側壁13a,13b,13c,13dからなる。図3に示すように、隔壁13は、第2の蓋体11dの下面に第2の蓋体11dと一体的に設けられる。隔壁13の4つの側壁13a〜13dは、例えばNiまたはモネルからなる。第2の蓋体11dの下面側で隔壁13の4つの側壁13a〜13dにより取り囲まれる空間内に矩形板状の陽極15aが図2の取り付け部材19を介して取り付けられる。陽極15aの材料としては、例えば低分極性炭素電極が用いられる。
【0032】
本実施の形態に係る図1の電解装置10においては、シール部材11c,11eが陽極室14aの外側に配置される。そのため、陽極室14a内で発生するフッ素ガスがシール部材11c,11eと接触しない。それにより、シール部材11c,11eの腐食を防止することができる。その結果、シール部材11c,11eの点検および交換をする頻度が低減される。
【0033】
また、第2の蓋体11dを第1の蓋体11bから取り外すことにより、陽極15aを第2の蓋体11dとともに電解槽本体11aから容易に取り外すことができる。これにより、陽極15aが消耗した場合でも、陽極15aを容易に交換することが可能になる。特に、電解槽11が大型化する場合、電解槽本体11aおよび第1の蓋体11bは大型化するとともに重量化する。このような場合でも、第2の蓋体11dを大型化する必要がないので、第2の蓋体11dを第1の蓋体11bから容易に取り外すことができる。
【0034】
さらに、電解装置10を長期に渡って使用した場合、隔壁13が消耗しているか否かを点検する必要がある。このような場合でも、第2の蓋体11dを第1の蓋体11bから取り外すことにより、隔壁13を第1の蓋体11bから取り外すことができる。それにより、隔壁13を容易に点検することが可能になる。
【0035】
これらの結果、電解装置10のメンテナンスのコストを低減するとともにメンテナンスの作業効率の向上させることができる。
【0036】
上記実施の形態において、電解槽本体11aは、底面部および4つの側面部を有し、上部に矩形の開口H1を有するが、これに限定されない。例えば、電解槽本体11aは、底面部および円筒状の側面部を有し、上部に円形の開口を有してもよい。この場合、電解槽本体11aの開口は、円形形状を有する第1の蓋体11bにより閉塞される。
【0037】
第1の蓋体11bは矩形の開口H2を有するが、これに限定されない。例えば、第1の蓋体11bは円形の開口を有してもよい。この場合、第1の蓋体11bの開口は、円形形状を有する第2の蓋体11dにより閉塞される。
【0038】
隔壁13は4つの側壁13a〜13dにより構成されるが、これに限定されない。例えば、隔壁13は円筒状の側壁により構成されてもよい。また、隔壁13と第2の蓋体11dとが一体的に設けられることが好ましく、別個の金属材料により形成された隔壁13および第2の蓋体11dが溶接されることにより一体的に設けられることがより好ましいが、これに限定されない。隔壁13と第2の蓋体11dとが鋳造により一体的に設けられてもよい。
【0039】
第2の蓋体11dとの間の密着性が確保され、陽極室14aの気密性が保持されるのであれば、隔壁13は第2の蓋体11dと別個に設けられてもよい。この場合、隔壁13と第2の蓋体11dとの間に金属シール等の耐食性の高いシール材を設けることにより密着性を確保することが好ましい。
【0040】
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応の例について説明するが、本発明は下記の例に限定されない。
【0041】
上記実施の形態においては、電解浴12が電解浴の例であり、電解装置10が電解装置であり、水素が他の気体の例であり、電解槽11が電解槽の例であり、電解槽本体11aが電解槽本体の例である。開口H1が第1の開口の例であり、開口H2が第2の開口の例であり、第1の蓋体11bが第1の蓋体の例であり、第2の蓋体11dが第2の蓋体の例であり、シール部材11eが第1のシール部材の例であり、シール部材11cが第2のシール部材の例である。陽極15aが第1の電極の例であり、陰極15bが第2の電極の例であり、陽極室14aが第1室の例であり、陰極室14bが第2室の例であり、隔壁13が隔壁の例である。
【0042】
請求項の各構成要素として、請求項に記載されている構成または機能を有する他の種々の要素を用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、気体発生装置等の電解装置に有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
10 電解装置
11 電解槽
11a 電解槽本体
11b,11d 蓋体
11c,11e シール部材
12 電解浴
13 隔壁
13a〜13d 側壁
14a 陽極室
14b 陰極室
15a 陽極
15b 陰極
16a,16b ガス排出口
17a,17b 排気管
18a HF供給ライン
18b 温度調整用ヒータ
18c HF供給孔
19 取り付け部材
23 制御部
H1,H2 開口
L1 アース線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解浴を電気分解することによりフッ素および他の気体を発生するための電解装置であって、
電解浴を収容する電解槽を備え、
前記電解槽は、
第1の開口を上部に有する電解槽本体と、
前記第1の開口よりも小さい第2の開口を有し、前記第1の開口を閉塞するように前記電解槽本体に設けられる第1の蓋体と、
前記第2の開口を取り囲むように前記第1の蓋体に設けられる第1のシール部材と、
前記第2の開口を閉塞するように前記第1のシール部材を挟んで前記第1の蓋体上に設けられる第2の蓋体と、
前記第2の蓋体に取り付けられる第1の電極と、
前記電解槽本体内をフッ素が発生される第1室と他の気体が発生される第2室とに分離する隔壁とを含み、
前記隔壁は、前記第1室が前記第1のシール部材の内側の領域に配置されるように形成されることを特徴とする電解装置。
【請求項2】
前記隔壁は、前記第1の電極の周囲を取り囲むように前記第1の蓋体に一体的に設けられることを特徴とする請求項1記載の電解装置。
【請求項3】
前記電解槽本体が第2の電極として機能することを特徴とする請求項1または2記載の電解装置。
【請求項4】
前記第1の開口を取り囲むように前記電解槽本体に設けられる第2のシール部材をさらに備え、
前記第1の蓋体は、前記第2のシール部材を挟んで前記電解槽本体上に設けられることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電解装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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