説明

電解質及び固体高分子型燃料電池

【課題】炭化水素系電解質やパーフルオロ系電解質の過酸化水素耐性を向上させることが可能であり、しかもPtの溶出に起因する電池性能の低下を抑制することが可能な新規な添加剤を含む電解質、及び、これを用いた燃料電池を提供すること。
【解決手段】固体高分子電解質と、Biオキシ化合物とを含む電解質、及び、このような電解質を電解質膜及び/又は触媒層内電解質用いた固体高分子型燃料電池。Biオキシ化合物は、Biイオン及び/又はオキシビスマスイオンを含む水溶液と、固体高分子電解質とを接触させ、固体高分子電解質の酸基のプロトンの全部又は一部をBiイオン又はオキシビスマスイオンでイオン交換し、次いで前記固体高分子電解質と、水又は塩基性水溶液とを接触させ、Biイオン又はオキシビスマスイオンをBiオキシ化合物として沈殿させることにより得られるものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質及び固体高分子型燃料電池に関し、さらに詳しくは、過酸化物ラジカル耐性及びCl-イオン固定作用に優れた電解質、及び、これを用いた固体高分子型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、固体高分子電解質膜の両面に電極が接合された膜電極接合体(MEA)を基本単位とする。また、固体高分子型燃料電池において、電極は、一般に、拡散層と触媒層の二層構造をとる。拡散層は、触媒層に反応ガス及び電子を供給するためのものであり、カーボンペーパー、カーボンクロス等が用いられる。また、触媒層は、電極反応の反応場となる部分であり、一般に、白金等の電極触媒を担持したカーボンと固体高分子電解質との複合体からなる。
【0003】
このようなMEAを構成する電解質膜あるいは触媒層内電解質には、耐酸化性に優れたパーフルオロ系電解質(高分子鎖内にC−H結合を含まない電解質。例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成(株)製)、フレミオン(登録商標、旭硝子(株)製)等。)を用いるのが一般的である。
また、パーフルオロ系電解質は、耐酸化性に優れるが、一般に極めて高価である。そのため、固体高分子型燃料電池の低コスト化を図るために、炭化水素系電解質(高分子鎖内にC−H結合を含み、C−F結合を含まない電解質)、又は、部分フッ素系電解質(高分子鎖内にC−H結合とC−F結合の双方を含む電解質)の使用も検討されている。
【0004】
しかしながら、固体高分子型燃料電池を車載用動力源等として実用化するためには、解決すべき課題が残されている。例えば、MEAを構成する電解質膜は、触媒層で副生成する過酸化水素又はその分解生成物であるラジカルに対して不安定であり、耐久性を向上させる必要がある。触媒層内電解質や電解質膜がパーフルオロ系電解質である場合には、耐久性の低下は比較的少ない。これに対し、炭化水素系電解質の場合は、過酸化水素及びラジカルに対する安定性がパーフルオロ系電解質に比べて著しく劣るため、燃料電池を長期間安定的に作動させることは困難である。
【0005】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、炭化水素系固体高分子電解質膜に、二酸化マンガンなどの酸化物触媒、鉄フタロシアニンなどの大環状金属錯体触媒、又は、Cu−Ni合金粒子などの遷移金属合金触媒を添加した固体高分子電解質膜が開示されている。
同文献には、炭化水素系電解質に酸化物触媒等を添加すると、過酸化水素が不均化反応により水に分解し、過酸化水素による電解質の劣化を抑制できる点が記載されている。
また、特許文献2には、高分子電解質に、過酸化水素を接触分解させる分解能を持つ遷移金属酸化物を添加した高耐久性高分子電解質が開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、スルホン化ポリフェニレンサルファイド膜のスルホン酸基のプロトンの一部をMg、Ca、Al、Laなどの多価金属で置換したプロトン伝導性高分子膜が開示されている。
同文献には、スルホン酸基のプロトンの一部を、ある種の多価金属で置換すると、過酸化物ラジカルに対する耐性(耐酸化性)が向上する点が記載されている。
【0007】
また、特許文献4には、電解質膜の耐久性を向上させる添加物としてBiの燐酸塩が記載されている。
さらに、特許文献5には、Pt/Cと、固体高分子電解質と、Ni、Bi等の添加剤とを含む燃料極触媒層が開示されている。同文献には、燃料極触媒層にNi、Bi等の金属を添加すると、燃料欠乏時における炭素担体の酸化が抑制される点が記載されている。
【0008】
パーフルオロ系電解質に対してある種の大環状金属錯体や遷移金属酸化物を添加し、あるいは、パーフルオロ系電解質のプロトンの一部をある種の金属イオンで置換すると、過酸化水素及びラジカルに対する耐性を向上させることができる。しかしながら、これらの技術をそのまま炭化水素系電解質に転用しても、十分な耐久性が得られない場合が多い。
これは、炭化水素系電解質は、パーフルオロ系電解質に比べて基本骨格が不安定であるため、過酸化水素を分解する作用を持つ添加物が過酸化水素だけでなく炭化水素骨格も分解するためと考えられる。
【0009】
また、従来、高分子電解質の過酸化水素耐性試験には、フェントン試験を用いるのが一般的であった。フェントン試験(Fe2+イオン添加過酸化水素水浸漬試験)は、高湿度状態(飽和湿度)下での劣化程度を調べる方法である。
一方、燃料電池運転中には、MEAは十分な湿潤状態ではなく、ドライな状態に置かれる場合も多く、高分子電解質の耐久性を評価するにはフェントン試験のみでは不十分である。そのため、最近では、低湿度下(ドライ環境)で高温の過酸化水素蒸気を被試験体に当てる、いわゆるドライフェントン試験がMEAの劣化を模擬できる促進試験として採用されつつある。
ここで注意すべき事は、上述した耐久性改善法で処理した電解質膜をドライフェントン試験で評価すると、フェントン試験とは全く別の結果を示すものがある点である。特に、炭化水素系電解質にある種の添加物を添加した場合、フェントン試験では耐性改善に効果があるが、ドライフェントン試験では耐久性が改善されないばかりか、逆に耐久性が低下する場合も数多く見受けられた。
【0010】
また、炭化水素系電解質に上述した各種の化合物やイオンを添加すると、炭化水素系電解質の一般的な欠点である剛直さが一層高まり、機械的強度や可撓性が大きく低下する場合がある。そのため、燃料電池の運転早期にクロスリーク(孔開きや割れ)に至ることがあった。すなわち、炭化水素系電解質に求められる添加剤の必要条件は、パーフルオロ系電解質に比べて遙かに厳しいものがある。言い換えれば、炭化水素系電解質の化学的耐性を向上させる作用があれば、パーフルオロ系電解質においても同様の効果が期待できると考えられる。
さらに、電解質膜の耐性を改善するためにの添加剤としてBiの燐酸塩を用いると、燐酸塩から溶出した燐酸イオンが電極を被毒しやすいという問題がある。また、触媒層内のPtは、不純物アニオン(特に、Cl-)存在下で溶出し、電池性能を低下させることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−106203号公報
【特許文献2】特開2001−118591号公報
【特許文献3】特開2004−018573号公報
【特許文献4】特開2005−071760号公報
【特許文献5】特開2008−27848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、炭化水素系電解質やパーフルオロ系電解質の過酸化水素耐性を向上させることが可能であり、しかもPtの溶出に起因する電池性能の低下を抑制することが可能な新規な添加剤を含む電解質、及び、これを用いた燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために本発明に係る電解質は、固体高分子電解質と、Biオキシ化合物とを含むことを要旨とする。
本発明に係る固体高分子型燃料電池は、本発明に係る電解質を電解質膜及び/又は触媒層内電解質用いたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
固体高分子電解質にBiオキシ化合物を添加すると、電池性能の低下を生ずることなく、過酸化水素耐性が向上する。
これは、
(1)Biオキシ化合物が過酸化水素の非ラジカル分解(接触分解)を促進させるため、及び、
(2)オキシビスマスイオン(例えば、BiO+など)がCl-イオンと難溶性の塩を形成し、Cl-イオンに起因するPtの溶出を抑制するため、
と考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 電解質]
本発明に係る電解質は、固体高分子電解質と、Biオキシ化合物とを含む。
【0016】
[1.1. 固体高分子電解質]
本発明において、固体高分子電解質の材質は、特に限定されるものではなく、種々の材料を用いることができる。
すなわち、固体高分子電解質の材質は、高分子鎖内にC−H結合を含み、かつC−F結合を含まない炭化水素系電解質、及び高分子鎖内にC−F結合を含むフッ素系電解質のいずれであっても良い。また、フッ素系電解質は、高分子鎖内にC−H結合とC−F結合の双方を含む部分フッ素系電解質であっても良く、あるいは、高分子鎖内にC−F結合を含み、かつC−H結合を含まないパーフルオロ系電解質であっても良い。
なお、フッ素系電解質は、フルオロカーボン構造(−CF2−、−CFCl−)の他、クロロカーボン構造(−CCl2−)や、その他の構造(例えば、−O−、−S−、−C(=O)−、−N(R)−等。但し、「R」は、アルキル基)を備えていてもよい。また、固体高分子電解質膜を構成する高分子の分子構造は、特に限定されるものではなく、直鎖状又は分岐状のいずれであっても良く、あるいは環状構造を備えていても良い。
【0017】
また、固体高分子電解質に備えられる酸基の種類についても、特に限定されるものではない。酸基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、スルホンイミド基等がある。固体高分子電解質には、これらの酸基の内、いずれか1種類のみが含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。さらに、これらの酸基は、直鎖状固体高分子化合物に直接結合していても良く、あるいは、分枝状固体高分子化合物の主鎖又は側鎖のいずれかに結合していても良い。
【0018】
炭化水素系電解質としては、具体的には、
(1)高分子鎖のいずれかにスルホン酸基等の酸基が導入されたポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル系樹脂、ポリエステル、ポリサルホン、ポリエーテル等、及びこれらの誘導体(脂肪族炭化水素系電解質)、
(2)高分子鎖のいずれかにスルホン酸基等の酸基が導入されたポリスチレン、芳香環を有するポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリサルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート等、及びこれらの誘導体(部分芳香族炭化水素系電解質)、
(3)高分子鎖のいずれかにスルホン酸基等の酸基が導入されたポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリフェニレン、ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド等、及びこれらの誘導体(全芳香族炭化水素系電解質)、
などがある。
【0019】
また、部分フッ素系電解質としては、具体的には、高分子鎖のいずれかにスルホン酸基等の酸基が導入されたポリスチレン−グラフト−エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、ポリスチレン−グラフト−ポリテトラフルオロエチレン等、及びこれらの誘導体などがある。
また、パーフルオロ系電解質としては、具体的には、デュポン社製ナフィオン(登録商標)、旭化成(株)製アシプレックス(登録商標)、旭硝子(株)製フレミオン(登録商標)等、及びこれらの誘導体などがある。
【0020】
一般に、フッ素系電解質、特にパーフルオロ素系電解質は、高分子鎖内にC−F結合を有しているため、耐酸化性に優れているが、フッ素系電解質に対して本発明を適用すると、さらに耐酸化性が向上する。また、炭化水素系電解質は、フッ素系電解質に比べて耐酸化性が低い。そのため、炭化水素系電解質に対して本発明を適用すると、燃料電池の作動環境下(特に、ドライ環境下)においても高い耐酸化性を示し、しかも低コストな固体高分子型燃料電池が得られる。
【0021】
[1.2. Biオキシ化合物]
[1.2.1. 定義及び具体例]
「Biオキシ化合物」とは、一般式:Binmp+(n、m、pは、それぞれ整数。p=α×n−2m。αは、Biの価数で、+3、+4又は+5。)で表されるオキシビスマスイオンを含む化合物をいう。
Biの化合物としては、オキシ化合物の他にも、
(1)Biの酸化物、
(2)硝酸塩、リン酸塩などの無機酸塩、
(3)クエン酸塩、シュウ酸塩などの有機酸塩、
などが知られている。
これらの中でも、オキシ化合物は、酸化物のように高温で生成させる必要がなく、湿式法で製造できるため、高純度の微粒子を得やすいという特徴を有する。また、オキシ化合物は、リン酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩のような吸着力の強い対アニオンを持たないため、万が一溶出したとしても、対アニオンによる電極の被毒作用も小さいという特徴を有する。
【0022】
Biオキシ化合物としては、具体的には、
BiOCl、(BiO)2OHCl、(BiO)2CrO4、BiOCl4・H2O、
CsBiO(ClO4)2、BaBiO2Cl、CaBi34Cl3、BiOF、
CaBi(CO3)OF、BiPbFO、BiONO3・1/2H2O、
(BiO)2CO3・1/2H2O、(BiO)4CO3(OH)2
などがある。
【0023】
また、硝酸ビスマス(Bi(NO3)3・5H2O)を加水分解すると、部分的に硝酸イオンを含んだBiのオキシ硝酸塩が得られる。Biのオキシ硝酸塩は、難溶性化合物である。また、NO3-の吸着力(触媒の被毒作用)は、比較的小さい。そのため、Biのオキシ硝酸塩は、固体高分子電解質に添加するBiオキシ化合物として用いることができる。
Biのオキシ硝酸塩としては、具体的には、
[Bi5O(OH)9](NO3)4
[Bi64(OH)4](NO3)6・4H2O、[Bi65(OH)3](NO3)5・3H2O、
[Bi66(OH)3](NO3)3・1.5H2O、[Bi64(OH)5](NO3)5・0.5H2O、
[Bi66(OH)2](NO3)4・2H2O、[Bi64(OH)4](NO3)6・H2
などがある。
電解質には、これらのいずれか1種のBiオキシ化合物が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
【0024】
[1.2.2. 含有量]
Biオキシ化合物の含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて任意に選択することができる。
一般に、Biオキシ化合物の含有量が多くなるほど、固体高分子電解質の過酸化水素耐性が向上し、あるいは、電池性能の低下が抑制される。このような効果を得るためには、Biオキシ化合物の含有量は、Bi換算で20ppm以上が好ましい。Biオキシ化合物の含有量は、さらに好ましくは、100ppm以上、さらに好ましくは、300ppm以上である。
一方、Biオキシ化合物の含有量が過剰になると、電解質の機械的性質が低下し、電解質が脆化しやすい。また、過度に親水性が増して水移動を阻害しやすくなり、電池性能が低下する。従って、Biオキシ化合物の含有量は、30000ppm以下が好ましい。Biオキシ化合物の含有量は、さらに好ましくは、20000ppm以下である。
Biオキシ化合物は、電解質と接していることが好ましい。Biオキシ化合物は、電解質膜又は触媒層のいずれか一方に添加しても良く、あるいは、双方に添加しても良い。
ここで、「Biオキシ化合物の含有量」とは、固体高分子電解質の重量に対するBiの重量(Biオキシ化合物のBi換算での重量)の割合をいう。
【0025】
[1.2.3. 添加方法]
固体高分子電解質にBiオキシ化合物を添加する方法には、
(1)固体高分子電解質、又は、これを溶解若しくは分散させた溶液に、粉末状のBiオキシ化合物を添加し、これらを混合する第1の方法、
(2)(a)Biイオン及び/又はオキシビスマスイオンを含む水溶液と、固体高分子電解質とを接触させ、固体高分子電解質の酸基のプロトンの全部又は一部をBiイオン又はオキシビスマスイオンでイオン交換し、(b)固体高分子電解質を水又は塩基性水溶液と接触させ、Biイオン又はオキシビスマスイオンの全部又は一部をBiオキシ化合物として沈殿させる第2の方法、
などがある。本発明においては、いずれの方法を用いても良い。
特に、第2の方法は、固体高分子電解質内にBiオキシ化合物を均一かつ微細に分散させることができるという利点がある。また、条件を選べば、電解質膜の界面にBiオキシ化合物を濃化して添加することも可能である。第2の方法(イオン交換+沈殿法)の詳細については、後述する。
【0026】
[2. 固体高分子型燃料電池]
本発明に係る固体高分子型燃料電池は、本発明に係る電解質を電解質膜及び/又は触媒層内電解質として用いたことを要旨とする。
本発明に係る電解質は、電解質膜又は触媒層内電解質のいずれにも用いることができる。また、本発明に係る電解質を電解質膜に用いる場合、電解質膜は、本発明に係る電解質のみからなるものでも良く、あるいは、本発明に係る電解質と、多孔質材料、長繊維材料、短繊維材料等からなる補強材との複合体であっても良い。
特に、触媒層に不純物としての塩化物イオン含有量が多い場合において、触媒層にBiオキシ化合物を添加すると、遊離の塩化物イオンの量を少なくすることができる。この点は、電解質膜にBiオキシ化合物を添加する場合も同様である。
【0027】
[3. 電解質の製造方法]
[3.1. Biオキシ化合物粉末の製造方法]
粉末状のBiオキシ化合物は、可溶性のBiの塩を加水分解することによりオキシビスマスイオンを生成させ、オキシビスマスイオンを沈殿させることにより得られる。
可溶性のBi塩としては、例えば、硝酸ビスマス、次クエン酸ビスマス、次サリチル酸ビスマス、メタンスルホン酸ビスマス等の有機スルホン酸ビスマス、スルホコハク酸ビスマスなどがある。
Biの塩は、中性の水にはほとんど不溶であるが、硝酸塩、クエン酸塩などは、希硝酸、又は、酢酸、メタンスルホン酸等の有機酸に可溶である。これらの酸性溶媒にBi塩を溶解させる場合において、酸性溶媒のpHが相対的に低いときには、Biは、Bi3+として存在する。一方、酸性溶媒のpHが相対的に高いときは、Biは、加水分解によって、BiO+などのオキシビスマスイオンとして存在する。
酸性溶媒にBi塩を溶解させた後、pH調整すると、オキシビスマスイオンを含む水溶液が得られる。この水溶液に、大量の水を加えるか、あるいは、アルカリを加えてpHを3以上に調製すると、Biオキシ化合物を沈殿させることができる。
アルカリを用いて沈殿させた場合、アルカリ(例えば、Cs+、Ba2+、Ca2+など)を含んだビスマスのオキシ化合物が得られる場合がある。この場合、アルカリは、難溶性のBiオキシ化合物として固定され、電解質の酸基を置換しないので、電池性能を低下させることはない。
【0028】
[3.2. 触媒層への添加方法]
Biオキシ化合物を含む触媒層を製造する方法には、
(1)触媒インクにBiオキシ化合物の粉末を添加し、この触媒インクを用いて触媒層を製造する第1の方法、
(2)Biオキシ化合物を含まない触媒インクを用いて触媒層を形成した後、イオン交換+沈殿法により、触媒層内電解質中にBiオキシ化合物を生成させる第2の方法、
などがある。
特に、第2の方法は、触媒層中に均一かつ微細なBiオキシ化合物が形成されるので、触媒層への添加方法として好適である。なお、イオン交換+沈殿法の詳細については、後述する。
【0029】
[3.3. 電解質膜への添加方法]
Biオキシ化合物を含む電解質膜を製造する方法には、
(1)固体高分子電解質にBiオキシ化合物の粉末を加え、溶融混合し、この融液を膜化する第1の方法、
(2)固体高分子電解質を溶解又は分散させた溶液にBiオキシ化合物の粉末を加え、この溶液をキャスト成膜する第2の方法、
(3)Biオキシ化合物を含まない電解質膜を種々の方法により製造した後、イオン交換+沈殿法により、電解質膜内にBiオキシ化合物を生成させる第3の方法、
などがある。
特に、第3の方法は、電解質膜中に均一かつ微細なBiオキシ化合物が形成されるので、電解質膜への添加方法として好適である。なお、イオン交換+沈殿法の詳細については、後述する。
【0030】
[3.4. イオン交換+沈殿法]
イオン交換+沈殿法は、
(1)Biイオン、及び/又は、オキシビスマスイオンを含む水溶液と固体高分子電解質とを接触させ、固体高分子電解質の酸基のプロトンの全部又は一部をBiイオン又はオキシビスマスイオンでイオン交換し、
(2)固体高分子電解質と、水又は塩基性水溶液とを接触させ、Biイオン又はオキシビスマスイオンの全部又は一部をBiオキシ化合物として固体高分子電解質内に沈殿させる
方法である。
【0031】
[3.4.1. イオン交換工程]
オキシビスマスイオンとしては、例えば、BiO+、(BiO)22+、(Bi24)2+、Bi34+などがある。これらの中でも、BiO+が好ましい。これは、一般的なオキシビスマスイオンとしてオキシビスマス化合物中に安定的に存在できる形であるためである。
Biイオン又はオキシビスマスイオンを含む水溶液は、例えば、硝酸ビスマスなどのBi塩を希硝酸に溶解させ、溶液のpHを調整することにより製造することができる。Bi塩をpHの低い希硝酸に溶解させると、酸性溶液中にBi3+などのBiイオンが生成する。次いで、酸性溶液のpHを相対的に高くすると、Biイオンの全部又は一部が加水分解され、BiO+などのオキシビスマスイオンが生成する。
【0032】
Biイオン又はオキシビスマスイオンを含む水溶液に、電解質膜や、PTFE等のフィルム上に形成した転写用触媒層を浸漬すると、電解質内にBiイオン又はオキシビスマスイオンが導入される。導入されたBiイオン又はオキシビスマスイオンは、電解質の酸基のプロトンとイオン交換され、強固に電解質に吸着する。
なお、硝酸ビスマスを希硝酸に溶解した場合、水溶液のpHが酸性であるため、BiO+などのオキシビスマスイオンは、仕込量の数%程度しか電解質内に導入されない。従って、予備試験により、実際にどの程度のBiが電解質内に導入されるかを調べておく事が望ましい。
【0033】
[3.4.2. 沈殿工程]
電解質内に導入されたBiイオン又はオキシビスマスイオンを沈殿させる方法としては、
(1)イオン交換した電解質膜や転写用触媒層を大量の純水で、かつ必要に応じて加温しながら水洗する第1の方法、
(2)イオン交換した電解質膜や転写用触媒層を、Na+、Ca2+、アンモニウムイオン(アルキルアンモニウムイオンを含む)、ホスホニウムイオン、イミダゾリウムイオン等を含むpH3以上の塩基性水溶液に浸漬する第2の方法、
などがある。
このような処理を施すと、Biイオンは、オキシビスマスイオンに加水分解される。また、オキシビスマスイオンは、Biオキシ化合物となって沈殿する。
なお、沈殿工程において、すべてのBiイオン及びオキシビスマスイオンをBiオキシ化合物として沈殿させる必要はなく、その一部は、電解質の酸基とイオン交換したままであっても良い。
【0034】
第2の方法を用いて沈殿を生成させる場合において、塩基性水溶液中の塩基性イオンが過剰であるときには、電解質の酸基のプロトンが塩基性イオンでイオン交換され、プロトン伝導性が大幅に低下する事がある。そのため、pH調整のための塩基性イオンの添加量には、注意が必要である。
一方、電解質に含まれる塩基性イオンの量が所定量以下であれば、電池性能の低下は僅かである。また、塩基性イオンは、過酸化水素の非ラジカル分解を促す触媒として作用し、過酸化水素を無害化する。従って、沈殿生成時に電解質内部に適量の塩基性イオンを導入することは、耐久寿命上の観点からは好ましい。
電解質に含まれる塩基性イオンの量は、電解質の酸基の置換割合で0.1〜5%が好ましい。置換割合が0.1%未満であると、耐久向上作用が見られない。一方、置換割合が5%を超えると、電池性能の低下が甚だしい。
【0035】
第2の方法を用いる場合、沈殿生成時の水溶液のpHは、3以上が好ましい。pHが3未満の酸性水溶液と接触させると、イオン交換したBiイオンが電解質内部で反応(加水分解)し、固定されずに電解質外へ溶出する場合がある。
また、第1の方法及び第2の方法のいずれも、純水や塩基性水溶液の温度は、40℃以上が好ましい。反応温度が40℃未満では、短時間で十分な加水分解が起こらず、一部がBiイオンのまま電解質に残る場合がある。残ったBiイオンは、プロトン伝導性を阻害したり、あるいは、運転中に電解質外へ溶出し、電池性能を低下させやすい。すなわち、電解質とBiイオン又はオキシビスマスイオンとを接触させた後、単に室温下において純水ですすぐだけ(イオン交換のみ)では、高い耐久性は得られない。
【0036】
接触時間は、処理液の種類や処理液の温度に応じて、最適な時間を選択する。
例えば、大量の純水で水洗する場合において、水温が40℃以上であるときには、接触時間は、5分〜2時間程度でよい。一方、水温が室温である場合、接触時間は、8時間以上が好ましい。
【0037】
[4. 固体高分子型燃料電池の製造方法]
上述した方法を用いて、電解質膜及び/又は触媒層にBiオキシ化合物を導入した後、電解質膜の両面に触媒層(及び拡散層)を接合すると、MEAが得られる。得られたMEAの両面をセパレータで挟んで単セルとし、単セルを所定個数積層すると、固体高分子型燃料電池が得られる。
【0038】
[5. 電解質及び固体高分子型燃料電池の作用]
電解質にオキシ化合物を添加すると、以下のような作用が期待できる。
【0039】
[5.1. 過酸化水素の非ラジカル分解(接触分解)促進作用]
過酸化水素の非ラジカル分解反応は、(1)式で表される。
2H22→O2+2H2O ・・・(1)
過酸化水素は、触媒層内のPt及び膜内に析出したPt上で生成し、電解質(触媒層内電解質+電解質膜)を拡散する。過酸化水素を(1)式に従って非ラジカル分解させると、過酸化水素を無害化することができる。
【0040】
この接触分解反応は、2分子の過酸化水素が極めて近接した箇所で、それぞれ酸化と還元を受けてプロトンと電子の授受が行われる過程として理解される。すなわち、(1)式は、次の(2)式(酸化)と(3)式(還元)の和として表される。
22→O2+2H++2e- ・・・(2)
22+2H++2e-→2H2O ・・・(3)
【0041】
ここで、Biオキシ化合物の原子価がBi3+の場合、Bi3+は、(2)式の過酸化水素の酸化により生成した電子、あるいは、(4)式で示すクロスオーバーしてきた水素の酸化反応によって生成した電子を受け取る。その結果、Bi3+は、(5)式に示すように、容易にBi2+に還元される。
2→2H++2e- ・・・(4)
Bi3++e-→Bi2+ ・・・(5)
生成したBi2+は、(6)式に示すように、・OHラジカルによって酸化を受ける(ラジカルを消去・クエンチする)。
Bi2++・OH→Bi3++OH- ・・・(6)
【0042】
さらに、酸化を受けて新たに生成した高原子価状態のBi3+は、再度、過酸化水素が酸化する(2)式の反応、又は、クロスオーバーしてきた水素が酸化する(4)式の反応で生成した電子を受け取り、(5)式に示すように低原子価のBi2+に還元される。言い換えれば、Bi2+/Bi3+のスムーズな酸化/還元反応が進行し、過酸化水素からラジカルが生成することなく、過酸化水素が無害化され続ける。
ここで、(4)式がBi原子の近傍で起こると、Biは、さらに還元されやすくなる。そのため、Biの添加場所は、(4)式がスムーズに進行しやすいPt触媒の近傍であることが好ましい。すなわち、膜内部よりも触媒層内電解質や膜/触媒層界面にBiオキシ化合物を添加すると、より効果的である。
【0043】
[5.2. Cl-イオン固定作用]
触媒層のPtは、不純物アニオン(特に、Cl-イオン)存在下で、PtCl42-、PtCl64-のように、錯イオン化して溶出し、膜内に拡散すると言われている。実際に、Cl-イオン存在下では、電池性能の低下が甚だしいことが知られている。また、H22の生成は、微量のCl-イオン存在下で促進されるといわれている。
塩化物イオンを持たないオキシビスマスイオン(例えば、BiO+など)は、このCl-と難溶性の塩;オキシ塩化ビスマス(BiOCl)を形成する。そのため、Cl-イオン存在下でも、Ptの溶出を抑制することができる。
【実施例】
【0044】
(実施例1〜5、比較例1〜4)
[1. 試料の作製]
濃度1モル/Lの硝酸に種々の濃度で硝酸ビスマスを溶解させた。得られた硝酸ビスマス水溶液100mLに、過酸化水素蒸気暴露用の電解質膜を80℃×8hr浸漬した。次いで、イオン交換された電解質膜の加水分解処理を行った。
加水分解の条件は、
(1)純水を用いた80℃×2hr×4回の浸漬処理(沈殿生成)(実施例1〜3、最終pHは5.3〜6.5)、
(2)トリブチルメチルホスホニウムカーボネート(TBMP)溶液(濃度は膜酸基の1%を置換するに等しい量で、pH7.8)を用いた80℃×2hrの浸漬処理+純水を用いた80℃×2hr×3回のすすぎ(実施例4)、又は、
(3)硝酸カルシウム溶液(濃度は膜酸基の1%を置換するに等しい量で、pH5.5)を用いた80℃×2hrの浸漬処理+純水を用いた80℃×2hr×3回のすすぎ(実施例5)
とした。
その後に膜を引き上げ、80℃×2hr真空乾燥した後、膜を過酸化水素蒸気暴露試験に供した。
【0045】
また、比較として、
(1)入手のままの電解質膜(比較例1)、
(2)硝酸ビスマスを加えていない濃度1モル/Lの硝酸水溶液を用いた80℃×8hrの洗浄+純水を用いた80℃×2hr×4回のすすぎを行った電解質膜(比較例2)、
(3)硝酸ビスマス水溶液100mLを用いた80℃×8hrのイオン交換+燐酸水溶液(pH=2.3)を用いた80℃×8hrの浸漬処理(燐酸Bi形成)+純水を用いた80℃×2hr×4回の水洗を行った電解質膜(比較例3)、及び、
(4)硝酸ビスマス水溶液100mLを用いた80℃×8hrのイオン交換+純水を用いた室温でのすすぎを行った電解質膜(比較例4)、
も試験に供した。
【0046】
[2. 試験方法]
[2.1. 過酸化水素暴露試験]
外径120φ、内径90φのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製暴露容器4台に、それぞれ、PTFE製の内容積500mLの蒸発器を接続し、これらを恒温槽に置いた。パイプ及び継ぎ手は、すべてPTFE製とした。ガスが通過する恒温槽の外にあるフッ素樹脂パイプは、結露しないように、リボンヒーターで105℃に加熱した。暴露容器の下流側には、それぞれ、暴露容器から排出される酸性ガス成分及びH22蒸気を回収するための蒸気回収容器を接続した。蒸気回収容器は、回収率を上げるために、断熱材で囲まれた氷浴中に沈めた。
【0047】
湿度コントロール用のN2ガスをニードルバルブ付きの流量計4台を通して、各蒸発器に送った。N2流量は、0.1L/min〜1L/minとした。
過酸化水素水は、テルモ社製の60mLのポリエチレン(PE)製注射器とKD Scientific社製シリンジポンプを用いて、外径2φのPTFEチューブを通して各蒸発器内部に滴下した。送液速度は、0.12mL/minとした。過酸化水素水の濃度は3wt%、送液量と時間は36mL/5hrとした。
【0048】
試料の炭化水素系電解質膜(60mm×60mm□)は、PTFE製の網2枚で挟んで、100℃に加熱した暴露容器内部に固定した。次いで、蒸発器で過酸化水素水を蒸発させ、N2ガスをキャリアとして、蒸発させたガスを暴露容器に所定時間供給した。
試料を通過したガスを、超純水(σ<0.1μScm-1)を100mL入れた内容積500mLのPE製容器にバブリングさせ、酸性ガス成分を捕集した。回収率は約95%、回収液総量は約130mLであった。
【0049】
[2.2. 評価]
[2.2.1. 排水導電率及び排水pH]
捕集された酸成分の量に対する指標として、回収液の導電率を簡易導電率系(ハンナ製;PWT2317)で、pHをpHメータ(堀場製作所製;F−7、緩衝溶液pH4.0とpH6.0で較正)で、それぞれ調べた。
[2.2.2. 破断伸び]
過酸化水蒸気暴露試験後の膜から幅5mm、長さ40mmの引張試験用試験片を切り出した。この試験片を用いて、チャック間距離12mm、速度10mm/minで引張試験を行った。試験後、破断伸びを測定した。
[2.2.3. 膜内Bi]
ICPを用いて、過酸化水蒸気暴露試験前の膜内に含まれるBiの含有量を測定した。
【0050】
[3. 結果]
表1に、結果を示す。表1より、以下のことがわかる。
(1)実施例1〜5は、比較例1〜4に比べて酸性成分の排出量が少ない(すなわち、易水導電率が低く、排水pHが高い)。また、実施例1〜5は、比較例1〜4に比べて引張試験における破断伸びが大きい。
(2)Bi3+換算で置換ねらい値100%は、膜重量の19wt%に相当するが、実際には約3000ppm=0.3wt%しか固定されていなかった。すなわち、本条件では、ねらい値の数%しかBiとして膜に固定されていない事が分かった。
(3)硝酸ビスマス水溶液でイオン交換した後、燐酸水溶液で処理した比較例3は、酸性成分の排出量が多く、破断伸びも小さい。これは、処理により燐酸ビスマスが形成されたものの燐酸ビスマスによる過酸化水素分解作用が小さいか、もしくは燐酸ビスマスの溶解によるためと考えられる。
(4)硝酸ビスマス水溶液でイオン交換した後、すすぎのみを行った比較例4は、酸性成分の排出量が多く、破断伸びも小さい。これは、十分な沈殿生成が行われないため、大部分のビスマスがBi3+として存在し、BiO+として存在していないためと考えられる。
【0051】
【表1】

【0052】
(実施例6〜9、比較例5)
[1. 試料の作製]
濃度0.05M/Lのクエン酸ビスマス水溶液100mLを、濃度0.1M/Lのクエン酸水溶液100mLに溶かした。この溶液に、濃度0.1M/LのNa2CO3水溶液を加え、pHが5になるように調整し、60℃×2hr攪拌した。得られた沈殿を純水で洗浄してろ過し、硝酸イオンを含まないBiオキシ化合物を得た。
【0053】
0.5gの60wt%Pt/C触媒に対し、上記Biオキシ化合物を加えた。Biオキシ化合物の添加量は、触媒層内電解質の重量に対して、Bi換算で20〜30000ppmに相当する量とした。さらに、この混合物に対し、蒸留水2.0g、エタノール2.5g、プロピレングリコール1.0g、22wt%ナフィオン(登録商標)溶液(デュポン社製)0.9gをこの順で加え、超音波ホモジナイザーで分散させ、空気極用触媒インクを作製した。
また、Biオキシ化合物を添加しなかった以外は、空気極用触媒インクと同様にして、燃料極用触媒インクを作製した。
【0054】
次に、膜厚10μmの炭化水素系電解質の両面に、それぞれ、電極面積が13cm2となるように空気極用触媒インク及び燃料極用触媒インクをスプレー塗布して、MEAを作製した。空気極のPt使用量は約0.4mg/cm2、燃料極のPt使用量は約0.2mg/cm2とした。
【0055】
[2. 試験方法]
耐久試験は、アノードガス:H2(100mL/min)、カソードガス:Air(100mL/min)、セル温度:95℃、加湿器温度:80℃(アノード側、カソード側ともに)、耐久試験時間:400時間とした。
耐久試験前後において、電流密度0.8A/cm2における電圧を測定した。また、耐久試験後の電圧低下(=耐久試験前の初期電圧に対する耐久試験後の電圧の変化量)から、耐久性の良否を判定した。
【0056】
[3. 結果]
表2に、結果を示す。表2より、以下のことが分かる。
(1)Biオキシ化合物を添加した実施例6〜9は、Biオキシ化合物無添加の比較例5に比べて、電圧低下が小さい。
(2)Biオキシ化合物の含有量が多くなるほど、電圧低下は小さくなるが、同時に初期電圧も小さくなる。特に、Biオキシ化合物の含有量が20000ppmを超えると、初期電圧は大きく低下する。
【0057】
【表2】

【0058】
(実施例10、比較例6)
[1. 試料の作製]
炭化水素系電解質を溶剤に溶解した。この溶液に、市販の塩基性炭酸ビスマス((BiO)2CO3・1/2H2O)粉末(粒子径:1μm以下)を電解質重量当たり、Bi換算で2500ppmとなるように添加し、超音波で分散させた。この分散液をガラス製シャーレに注ぎ、室温で4hr放置した。さらに、80℃×2hr+100℃×2hrの真空加熱処理により溶媒を除去し、厚さ約80μm、重さ約40mgの電解質膜を得た(実施例10)。
比較として、塩基性炭酸ビスマス粉末を加えなかった以外は実施例10と同様にして、同一厚さ、同一重量の電解質膜を得た(比較例6)。
【0059】
[2. 試験方法及び結果]
得られた膜に対し、実施例1と同様にして、過酸化水素蒸気暴露試験を行った。その結果、実施例9の排水導電率は7.4μScm-1であるのに対し、比較例6の排水導電率は9.3μScm-1であった。
【0060】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明に係る電解質は、固体高分子型燃料電池、水電解装置、ハロゲン化水素酸電解装置、食塩電解装置、酸素及び/又は水素濃縮器、湿度センサ、ガスセンサ等の各種電気化学デバイスに用いられる電解質膜及び電極に用いることができる。
本発明に係る固体高分子型燃料電池は、車載用動力源、定置型小型発電器、コジェネレーションシステム等に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質と、Biオキシ化合物とを含む電解質。
【請求項2】
前記Biオキシ化合物の含有量は、前記固体高分子電解質の重量に対してBi換算で20ppm以上30000ppm以下である請求項1に記載の電解質。
【請求項3】
前記Biオキシ化合物は、
BiOCl、(BiO)2OHCl、(BiO)2CrO4、BiOCl4・H2O、
CsBiO(ClO4)2、BaBiO2Cl、CaBi34Cl3、BiOF、
CaBi(CO3)OF、BiPbFO、BiONO3・1/2H2O、
(BiO)2CO3・1/2H2O、(BiO)4CO3(OH)2、[Bi5O(OH)9](NO3)4
[Bi64(OH)4](NO3)6・4H2O、[Bi65(OH)3](NO3)5・3H2O、
[Bi66(OH)3](NO3)3・1.5H2O、[Bi64(OH)5](NO3)5・0.5H2O、
[Bi66(OH)2](NO3)4・2H2O、及び、[Bi64(OH)4](NO3)6・H2
から選ばれるいずれか1以上である請求項1又は2に記載の電解質。
【請求項4】
前記Biオキシ化合物は、
(1)Biイオン、及び/又は、一般式:Binmp+(但し、n、m、pは、整数。p=α×n−2m。αは、Biの価数。)で表されるオキシビスマスイオンを含む水溶液と、前記固体高分子電解質とを接触させ、前記固体高分子電解質の酸基のプロトンの全部又は一部を前記Biイオン又は前記オキシビスマスイオンでイオン交換し、
(2)前記固体高分子電解質と、水又は塩基性水溶液とを接触させ、前記Biイオン又は前記オキシビスマスイオンの全部又は一部を前記Biオキシ化合物として沈殿させる
ことにより得られるものである請求項1から3までのいずれかに記載の電解質。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれかに記載の電解質を電解質膜及び/又は触媒層内電解質に用いた固体高分子型燃料電池。

【公開番号】特開2012−169041(P2012−169041A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26557(P2011−26557)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】