説明

電解質及び該電解質を備えた電気化学デバイス

【課題】 流動性が抑制され且つ電気化学デバイスにおける電気的特性の低下が抑制されている電解質を提供することを課題とする。また、該電解質を備えた電気化学デバイスを提供することを課題とする。
【解決手段】 イオン液体とアルギン酸とを含むことを特徴とする電解質などを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質及び該電解質を備えた電気化学デバイスに関するものであり、具体的には例えば、電気二重層キャパシタや非水電解質二次電池などの電気化学デバイスに備えられる電解質、及び、該電解質を備えた電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電解質としては、イオン伝導性を有しつつ難揮発性や難燃性を有するイオン液体と、イオン液体の流動性を抑制するための高分子化合物とを含んでいるものが知られている。斯かる電解質は、イオン液体によりイオン伝導性を有しつつ難燃性であり、しかも、電池などに備えられた場合の液漏れ等を防ぐべく高分子化合物によって例えばゲル状にされており、流動性が抑制されている。
【0003】
斯かる電解質としては、具体的には、イオン液体と高分子化合物としてのポリアクリロニトリルとを含むものが知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のごときイオン液体とポリアクリロニトリルとを含む電解質は、ゲル状になって流動性が抑制されているものの、ポリアクリロニトリルによって、電解質の性能として必要なイオン伝導性が不十分なものになっているという問題がある。また、電池や電気二重層キャパシタなどの電気化学デバイスに備えられた場合に、ポリアクリロニトリルの影響によって電気的特性が比較的低いものになるという問題がある。即ち、流動性を抑制し液漏れ等を防ぐためのポリアクリロニトリルによって、電気化学デバイスにおける容量保持率やクーロン効率などの電気的特性が十分なものになっていないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−130537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題点等に鑑み、流動性が抑制され且つ電気化学デバイスにおける電気的特性の低下が抑制されている電解質を提供することを課題とする。また、該電解質を備えた電気化学デバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電解質は、イオン液体とアルギン酸とを含むことを特徴とする。
上記構成からなる電解質においては、アルギン酸によって流動性が抑制され且つ電気化学デバイスにおける電気的特性の低下が抑制されている。
【0008】
本発明の電解質は、前記アルギン酸が、架橋されたアルギン酸であることが好ましい。電解質に含まれているアルギン酸が架橋されたものであることにより、流動性がより抑制され且つ電気化学デバイスにおける電気的特性が低下しにくいという利点がある。
【0009】
本発明の電解質は、前記イオン液体がビス(フルオロスルフォニル)イミドアニオン[(FSO22-]を含むイオン液体であることが好ましい。ビス(フルオロスルフォニル)イミドアニオン含むイオン液体であることにより、電解質の電気的特性がより優れたものでありつつ電気化学デバイスにおける電気的特性の低下が抑制されるという利点がある。
【0010】
本発明の電気化学デバイスは、前記電解質を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電解質は、流動性が抑制され且つ電気化学デバイスにおける電気的特性の低下が抑制されているという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】充放電試験における電流密度と放電容量との関係を表すグラフ。
【図2】各温度での充放電試験における電流密度と放電容量との関係を表すグラフ。
【図3】充放電試験における電流密度と放電容量との関係を表すグラフ。
【図4】充放電試験における電流密度と放電容量との関係を表すグラフ。
【図5】充放電試験における充放電曲線を表すグラフ。
【図6】充放電試験における充放電曲線を表すグラフ。
【図7】交流インピーダンス測定の結果を表すグラフ。
【図8】繰り返し充放電試験におけるサイクル数と容量保持率との関係を表すグラフ。
【図9】繰り返し充放電試験におけるサイクル数とクーロン効率との関係を表すグラフ。
【図10】繰り返し充放電試験におけるサイクル数とクーロン効率との関係を表すグラフ。
【図11】繰り返し充放電試験におけるサイクル数とクーロン効率との関係を表すグラフ。
【図12】繰り返し充放電試験における電流密度とクーロン効率との関係を表すグラフ。
【図13】自己放電試験の結果を表すグラフ。
【図14】耐電圧試験における時間と電圧との関係を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る電解質の実施形態について詳しく説明する。
【0014】
本実施形態の電解質は、イオン液体とアルギン酸とを含むものである。
該電解質は、イオン液体との親和性が高いアルギン酸を含むことから、電解質の流動性が抑制され、且つ、該電解質のイオン伝導性が前記イオン液体自体のイオン伝導性より低いものになることが抑制され得る。また、電気二重層キャパシタなどの電気化学デバイスに備えられた前記電解質は、該アルギン酸を含むことから、放電容量やクーロン効率などの電気的特性が前記イオン液体のみからなる電解質より低いものになることが抑制され得る。
【0015】
前記イオン液体は、アニオンとカチオンとを含む常温(20℃)で液体状の塩である。前記イオン液体としては、特に限定されず、従来公知の一般的なものが挙げられる。
【0016】
前記イオン液体のアニオンとしては、例えば、BF4-、NO3-、PF6-、SbF6-、CH3CH2OSO3-、CH3CO2-、(FSO22-[ビス(フルオロスルフォニル)イミドアニオン]、又はフルオロアルキル基含有アニオン等が挙げられる。
前記フルオロアルキル基含有アニオンとしては、例えば、CF3CO2-、パーフルオロアルキルスルホニル基含有アニオン等が挙げられる。
【0017】
前記パーフルオロアルキルスルホニル基含有アニオンとしては、例えば、CF3SO3-、(CF3SO22-[ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド]、(CF3SO23-等が挙げられる。
【0018】
前記イオン液体のカチオンとしては、例えば、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、テトラアルキルアンモニウム、ピラゾリウム、又はホスホニウム等が挙げられる。
【0019】
前記イミダゾリウムとしては、例えば、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−アリル−3−メチルイミダゾリウム、1−アリル−3−エチルイミダゾリウム、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウム、1,3−ジアリルイミダゾリウム等が挙げられる。
前記ピリジニウムとしては、例えば、1−プロピルピリジニウム、1−ブチルピリジニウム、1−エチル−3−(ヒドロキシメチル)ピリジニウム、1−エチル−3−メチルピリジニウム等が挙げられる。
前記ピロリジニウムとしては、例えば、N−メチル−N−プロピルピロリジニウム、N−メチル−N−ブチルピロリジニウム、N−メチル−N−メトキシメチルピロリジニウム等が挙げられる。
前記ピペリジニウムとしては、例えば、N−メチル−N−プロピルピペリジニウム等が挙げられる。
前記テトラアルキルアンモニウムとしては、例えば、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウム、メチルトリオクチルアンモニウム等が挙げられる。
前記ピラゾリウムとしては、例えば、1−エチル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム、1−プロピル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム、1−ブチル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム等が挙げられる。
【0020】
前記イオン液体としては、これら各種アニオンの少なくとも1種とこれら各種カチオンの少なくとも1種とを組み合わせたものを採用することができる。なかでも、電気化学デバイスにおける電気的特性がより優れたものとなりつつ該電気的特性の低下が抑制されるという点、大気中での取り扱いが容易という点では、パーフルオロアルキルスルホニル基含有アニオンを含むイオン液体が好ましく、(FSO22-[ビス(フルオロスルフォニル)イミドアニオン]を含むイオン液体がより好ましい。
また、前記イオン液体としては、入手しやすくイオン液体の有する電気的特性の低下が電気化学デバイスにおいてより抑制されるという点では、テトラフルオロボレート(BF4-)アニオンを含むイオン液体が好ましい。
【0021】
また、前記イオン液体としては、比較的低粘度であり、イオン伝導性に優れ、電気化学的な安定性に優れるという点で、イミダゾリウムカチオン又はピロリジニウムカチオンを含むイオン液体が好ましい。
【0022】
具体的には、前記イオン液体としては、アニオンとしてのビス(フルオロスルフォニル)イミドアニオン又はテトラフルオロボレートと、カチオンとしてのイミダゾリウムとの塩が好ましく、より具体的には、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(フルオロスルフォニル)イミド、又は、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレートが好ましい。
【0023】
なお、前記イオン液体は、1種が単独で、又は2種以上が組み合わされて用いられ得る。
【0024】
前記イオン液体が電解質に含まれる量としては、特に限定されるものではないが、電解質の電気化学デバイスにおける電気的特性をより十分なものにし得るという点で、電解質中に30質量%以上が好ましく、50重量%以上がより好ましい。また、前記イオン液体が電解質に含まれる量は、通常、電解質中に80質量%以下である。
【0025】
前記アルギン酸は、β−D−マンヌロン酸と、α−L−グルロン酸とが1,4結合した高分子多糖類の基本分子構造を有するものである。なお、前記アルギン酸は、通常、コンブ、ワカメ、カジメなどの褐藻類植物由来のものである。
【0026】
前記アルギン酸としては、例えば、架橋されていないアルギン酸(以下、アルギン酸非架橋物ともいう)、架橋されたアルギン酸(以下、アルギン酸架橋物ともいう)が挙げられ、流動性がより抑制され且つ電気化学デバイスにおける電気的特性が低下しにくいという点で、架橋されたアルギン酸(アルギン酸架橋物)が好ましい。
【0027】
前記アルギン酸非架橋物としては、例えば、イオン化していない遊離アルギン酸、又はアルギン酸一価塩などが挙げられる。
【0028】
前記アルギン酸一価塩としては、アルギン酸カリウム塩、アルギン酸ナトリウム塩などのアルギン酸アルカリ金属塩;アルギン酸アンモニウム塩等が挙げられる。
【0029】
前記アルギン酸一価塩は、1%(w/v)水溶液の20℃における粘度が300〜2000mPa・sであるものが好ましく、500〜1000mPa・sであるものがより好ましい。
なお、斯かる粘度は、回転式粘度計(ブルックフィールド社製)により、RV−1スピンドルを用いて、20℃で回転数60rpm、測定時間1分の条件で測定したときの値である。
【0030】
前記アルギン酸架橋物としては、例えば、遊離アルギン酸やアルギン酸一価塩と二価以上の金属イオンとの塩であるアルギン酸多価塩、遊離アルギン酸やアルギン酸一価塩などを硫酸により架橋したアルギン酸硫酸架橋物などが挙げられる。なかでも、前記アルギン酸架橋物としては、電気化学デバイスにおける電解質の電気的特性がより優れたものになり得るという点で、アルギン酸多価塩が好ましい。
【0031】
前記アルギン酸多価塩としては、具体的には例えば、アルギン酸カルシウム塩、アルギン酸マグネシウム塩などのアルギン酸アルカリ土類金属塩;アルギン酸鉄塩などのアルギン酸遷移金属塩等が挙げられる。
また、前記アルギン酸アルカリ土類金属塩としては、電気化学デバイスにおける電解質の電気的特性が比較的高温で優れたものになり得るという点で、アルギン酸カルシウム塩が好ましい。
【0032】
前記アルギン酸は、アルギン酸一価塩の水溶液を用いて調製されたものが好ましく、より好ましくは、アルギン酸一価塩の水溶液を用いて調製された架橋されたアルギン酸(アルギン酸架橋物)である。
また、前記アルギン酸は、1質量%以上のアルギン酸一価塩の水溶液を用いて調製されたものであることが好ましく、2質量%以上のアルギン酸一価塩の水溶液を用いて調製されたものであることがより好ましい。また、3質量%以下のアルギン酸一価塩の水溶液を用いて調製されたものであることが好ましい。アルギン酸が1質量%以上3質量%以下、より好ましくは2質量%以上3質量%以下のアルギン酸一価塩の水溶液を用いて調製されたものであることにより、電気化学デバイスにおける電解質の電気的特性の低下がより抑制され得るという利点がある。
【0033】
前記電解質は、前記イオン液体、前記アルギン酸以外にも、電気化学デバイスにおける電気的特性をより十分なものにするための添加剤を含み得る。該添加剤としては、例えば、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジメチルエーテル等が挙げられる。
【0034】
前記電解質は、適宜適当な方法によって製造できる。
詳しくは、前記アルギン酸がアルギン酸架橋物(カルシウムによって架橋されたアルギン酸カルシウム塩、又は、硫酸によって架橋されたアルギン酸硫酸架橋物)である場合、前記電解質は、例えば、以下のようにして製造できる。
【0035】
即ち、アルギン酸ナトリウムを水に溶解させてアルギン酸ナトリウム水溶液を調製し、このアルギン酸ナトリウム水溶液をガラスプレート上にキャストし、キャストした該水溶液に塩化カルシウム水溶液又は硫酸水溶液を加えることにより、アルギン酸架橋物を含むゲル状膜を作製する。そして、このゲル状膜をエタノール等に浸漬することにより、含まれる水や遊離イオンを除去し、さらにイオン液体に浸漬して減圧下でエタノール等を除去することにより、イオン液体とアルギン酸架橋物とを含む電解質を製造できる。
【0036】
また、前記電解質は、例えば、次のようにして製造できる。即ち、アルギン酸ナトリウム水溶液を冷凍させることにより固化させた後、その固化物の上に例えば硫酸水溶液を加え、アルギン酸架橋物を生成させながら自然解凍させる。自然解凍によって得られたゲル状体をエタノール等に浸漬して脱水操作を行い、さらにイオン液体に漬ける。そして、減圧下に置くことにより、エタノールを除去し、イオン液体とアルギン酸架橋物とを含む電解質を製造できる。
【0037】
前記アルギン酸ナトリウムとしては、市販されているものを用いることができ、例えば、商品名「ダックアルギン」(フードケミファ社製)を用いることができる。
【0038】
なお、前記電解質は、前記アルギン酸が前記アルギン酸非架橋物である場合、例えば、イオン液体とアルギン酸非架橋物(遊離アルギン酸やアルギン酸一価塩)とを撹拌混合することにより製造することができる。
【0039】
前記電解質は、電気化学デバイス用電解質など、様々な用途において使用することができる。具体的には、前記電解質は、例えば、電気二重層キャパシタにおける電解質、リチウムイオン電池や色素増感型太陽電池などの電池における電解質等の用途で使用することができる。なかでも、前記電解質は、イオン伝導性に優れ、炭素材料との親和性に優れるという点で、電気二重層キャパシタ用電解質として好適に使用される。
【0040】
本発明の電気化学デバイスは、前記電解質を備えたものであり、該電気化学デバイスの実施形態としては、例えば上記したように、リチウムイオン電池などの非水電解質二次電池、色素増感型太陽電池、電気二重層キャパシタなどが挙げられる。なお、前記電気化学デバイスは、従来公知の一般的な方法によって製造できる。
【0041】
本実施形態の電解質及び電気化学デバイスは、上記例示の通りであるが、本発明は、上記例示の電解質及び電気化学デバイスに限定されるものではない。また、本発明では、一般の電解質及び電気化学デバイスにおいて採用される種々の形態を、本発明の効果を損ねない範囲で採用することができる。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
以下に示す原料を用いて、電気二重層キャパシタ用電解質を製造した。
・イオン液体 (1−エチル−3−メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレート)
[以下、EMImBF4ともいう]
・アルギン酸ナトリウム
1(w/v)%水溶液粘度(20℃):1000mPa・s、
フードケミファ社製 商品名「ダックアルギンNSPH2」
具体的には、上記アルギン酸ナトリウムの1質量%水溶液をガラスプレート上にキャストし、キャストした該水溶液に1mol/L濃度の硫酸水溶液を加え、アルギン酸ナトリウムを硫酸架橋させた。そして、架橋により生成したアルギン酸架橋物を含むゲル状体をエタノールに浸漬したあと乾燥させることにより、水を取り除き、シート形状のアルギン酸架橋物を得た。その後、アルギン酸架橋物を上記イオン液体に浸漬し、ゲル状且つシート形状の電解質を製造した。
【0044】
(実施例2)
原料として用いるアルギン酸ナトリウムが2質量%濃度になるように水溶液を調製した点以外は、実施例1と同様にしてゲル状且つシート形状の電解質を製造した。
【0045】
(実施例3)
原料として用いるアルギン酸ナトリウムが3質量%濃度になるように水溶液を調製した点以外は、実施例1と同様にしてゲル状且つシート形状の電解質を製造した。
【0046】
(実施例4)
硫酸水溶液に代えて3質量%の塩化カルシウム水溶液を用いることにより、カルシウムで架橋されたアルギン酸架橋物を得た点以外は、実施例1と同様にして、ゲル状且つシート形状の電解質を製造した。
【0047】
(実施例5)
原料として用いるアルギン酸ナトリウムが2質量%濃度になるように水溶液を調製した点、硫酸水溶液に代えて3質量%の塩化カルシウム水溶液を用いることにより、カルシウムで架橋されたアルギン酸架橋物を得た点以外は、実施例1と同様にしてゲル状且つシート形状の電解質を製造した。
【0048】
(実施例6)
原料として用いるアルギン酸ナトリウム水溶液が3質量%濃度になるように水溶液を調製した点、硫酸水溶液に代えて3質量%の塩化カルシウム水溶液を用いることにより、カルシウムで架橋されたアルギン酸架橋物を得た点以外は、実施例1と同様にしてゲル状且つシート形状の電解質を製造した。
【0049】
(実施例7)
実施例1で用いたアルギン酸ナトリウムに代えて下記のアルギン酸ナトリウムを用い、次のようにしてゲル状且つシート形状の電解質を製造した。
・アルギン酸ナトリウム
1(w/v)%水溶液粘度(20℃):500mPa・s、
和光純薬社製 商品名「アルギン酸ナトリウム」
即ち、3質量%の上記アルギン酸ナトリウムの水溶液をガラスプレート上にキャストし、ガラスプレートごと−15℃に置いて水溶液を冷凍させた。該水溶液が冷凍したものに1mol/L濃度の硫酸水溶液を加え、その後、アルギン酸ナトリウムを硫酸架橋させつつ自然解凍させ、ゲル状体を得た。そして、アルギン酸架橋物を含むゲル状体をエタノールに浸漬して脱水操作を行い、アルギン酸架橋物を上記イオン液体(EMImBF4)に浸漬し、減圧下でエタノールを取り除き、ゲル状且つシート形状の電解質を製造した。
【0050】
(実施例8)
原料として用いるアルギン酸ナトリウムが3質量%濃度になるように水溶液を調製した点、イオン液体として下記のイオン液体を用いた点以外は、実施例1と同様にしてゲル状且つシート形状の電解質を製造した。
・イオン液体 (1−エチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(フルオロ
スルフォニル)イミド) [以下、EMImFSIともいう]
【0051】
(実施例9)
原料として用いるアルギン酸ナトリウムが2質量%濃度になるように水溶液を調製した点、硫酸水溶液に代えて3質量%の塩化カルシウム水溶液を用いることにより、カルシウムで架橋されたアルギン酸架橋物を得た点、イオン液体として上記のイオン液体[EMImFSI]を用いた点以外は、実施例1と同様にしてゲル状且つシート形状の電解質を製造した。
【0052】
(実施例10)
原料として用いるアルギン酸ナトリウムが3質量%濃度になるように水溶液を調製した点、イオン液体として下記のイオン液体を用いた点以外は、実施例1と同様にしてゲル状且つシート形状の電解質を製造した。
・イオン液体 (1−エチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチル
スルフォニル)イミド)
【0053】
(実施例11)
原料として用いるアルギン酸ナトリウムが3質量%濃度になるように水溶液を調製した点、イオン液体として下記のイオン液体を用いた点以外は、実施例1と同様にしてゲル状且つシート形状の電解質を製造した。
・イオン液体 (N−メチル−N−プロピルピロリジニウム ビス(フルオロ
スルフォニル)イミド)
【0054】
(実施例12)
原料として用いるアルギン酸ナトリウムが3質量%濃度になるように水溶液を調製した点、イオン液体として下記のイオン液体を用いた点以外は、実施例1と同様にしてゲル状且つシート形状の電解質を製造した。
・イオン液体 (N−メチル−N−プロピルピロリジニウム ビス(トリフルオロ
メチルスルフォニル)イミド)
【0055】
(実施例13)
原料として用いるアルギン酸ナトリウムが3質量%濃度になるように水溶液を調製した点、イオン液体として下記のイオン液体を用いた点以外は、実施例1と同様にしてゲル状且つシート形状の電解質を製造した。
・イオン液体(N−メチル−N−メトキシメチルピロリジニウム テトラフルオロ
ボレート)
【0056】
以上、各実施例の電解質が均一ゲル状になったことから、イオン液体とアルギン酸とには親和性があることがわかった。
【0057】
(比較例1)
イオン液体EMImBF4のみからなる電解質を製造した。
【0058】
(比較例2)
イオン液体EMImFSIのみからなる電解質を製造した。
【0059】
まず、下記に示す通り、製造した各電解質のイオン伝導性を測定した。
【0060】
<電解質のイオン伝導度>
実施例3,5の電解質及び比較例1の電解質(イオン液体自体[EMImBF4])におけるイオン伝導度をそれぞれ以下の方法によって測定した。
即ち、0〜80℃において開回路電圧でインピーダンス測定を行い、イオン伝導度の温度特性を調べた。インピーダンス測定においては、恒温槽内で電解質が所定温度に達してから計測を行い、その結果からイオン伝導度(σ:S/cm)を求めた。
【0061】
25℃及び0℃におけるそれぞれの電解質のイオン伝導度を表1に示す。なお、表1におけるPEOは、ポリエチレンオキサイドを表し、PANはポリアクリロニトリルを表す。斯かる2成分を用いたときの値は、PEO 又はPAN をそれぞれ67.2及び22.6質量%含むものの値であり、A. Lewandowski, A. Swiderska, Solid State Ionics, 169,21 (2004)から抜粋したものである。
【0062】
【表1】

【0063】
次に、各実施例、各比較例の電解質を備えた電気二重層キャパシタにおける電気的特性を評価するため、電気二重層キャパシタを作製し、以下の各評価試験を行った。
【0064】
(試験例1)
以下の材料を用いて、電気二重層キャパシタを作製した。
・電解質(実施例1のゲル状の電解質)
・集電体(11φの白金板)
・電極(10φの活性炭繊維布ACFC 商品名「ACC-507-15」日本カイノール社製)
・フレーム(フッ素樹脂製)
即ち、実施例1の電解質を2枚の上記電極(活性炭繊維布)で挟み、さらに上記集電体(白金板)で挟み込んだ後、フッ素樹脂製フレームで固定し、電気二重層キャパシタを作製した。
【0065】
(試験例2〜7)
実施例2〜7のゲル状の電解質をそれぞれ用いた点以外は、試験例1と同様にしてそれぞれの電気二重層キャパシタを作製した。
【0066】
(試験例8,9)
実施例8,9のゲル状の電解質(イオン性液体としてEMImFSIを含有)をそれぞれ用いた点以外は、試験例1と同様にしてそれぞれの電気二重層キャパシタを作製した。
【0067】
(試験例10)
ゲル状電解質に代えて、イオン液体[EMImBF4]のみからなる電解質(比較例1)を用いた点、セパレータとしてグラスファイバー(商品名「GB100R」 ADVANTEC社製)を用いた点以外は、試験例1と同様にして電気二重層キャパシタを作製した。
【0068】
(試験例11)
ゲル状電解質に代えて、イオン液体[EMImFSI]のみからなる電解質(比較例2)を用いた点、セパレータとしてグラスファイバー(商品名「GB100R」 ADVANTEC社製)を用いた点以外は、試験例1と同様にして電気二重層キャパシタを作製した。
【0069】
<電気二重層キャパシタの充放電試験>
試験例1〜11の電気二重層キャパシタについて、下記に示す条件で充放電試験を行った。
詳しくは、電圧範囲0〜2.5V(終止電圧2.5V)に設定し、充電及び放電における電流密度を2.5mAcm-2〜25mAcm-2の範囲で2.5mAcm-2ずつ変化させて定電流充放電試験を行った。ただし、2.5mAcm-2の電流密度で50サイクル後(プレサイクル後)に行った。温度条件は25℃、60℃、又は0℃とした。
【0070】
・放電特性
試験例1〜3の電気二重層キャパシタについて、横軸を電流密度、縦軸を放電容量とした温度25℃における試験結果をプロットしたものを図1(a)に示す。また、試験例4〜6の電気二重層キャパシタにおける同様な条件での試験結果をプロットしたものを図1(b)に示す。
また、試験例3、5、10の電気二重層キャパシタについて、温度25℃、60℃、0℃の条件での試験結果をプロットしたものをそれぞれ図2(a)、図2(b)、図2(c)に示す。
また、試験例7、10の電気二重層キャパシタについて、温度25℃において行った試験結果をプロットしたものを図3に示す。
また、試験例8、9、11の電気二重層キャパシタについて、温度25℃で行った試験結果をプロットしたものを図4に示す。
図1〜図4から、イオン液体とアルギン酸とを含む電解質は、イオン液体の流動性を抑制するための高分子化合物を含んでいるにもかかわらず、該高分子化合物がアルギン酸であることにより、電気的特性(放電容量)が低下しにくいことが認識できる。また、イオン液体のみからなる電解質よりも電気的特性が優れたものになり得ることが認識できる。
【0071】
・充放電曲線
試験例3、試験例5、及び試験例10の電気二重層キャパシタについて、電流密度2.5mAcm-2において行った、温度25℃、60℃、0℃での充放電曲線を表したものをそれぞれ図5(a)、図5(b)、図5(c)に示す。
試験例8、試験例9、及び試験例11の電気二重層キャパシタについて、温度25℃、電流密度2.5mAcm-2において行った、電圧範囲0〜2.5Vでの充放電曲線を表したものを図6に示す。
図5、図6から、イオン液体とアルギン酸とを含む電解質は、イオン液体の流動性を抑制するための高分子化合物を含んでいるにもかかわらず、該高分子化合物がアルギン酸であることにより、電気的特性が低下しにくいことが認識できる。また、電気的特性がイオン液体のみからなる電解質と同等なもの、又はそれより優れたものになり得ることが認識できる。
【0072】
<電気二重層キャパシタの交流インピーダンス測定>
作製した電気二重層キャパシタを用いて、温度25℃、交流振幅10mV、周波数範囲20kHz〜10mHz、電圧範囲0〜2.5Vの測定条件おいて、交流インピーダンス測定を行った。X軸に実数のインピーダンス(Z’)、Y軸に虚数のインピーダンス(Z”)をとったNyquistプロット(Cole-Coleプロット)でその結果を示す。
試験例3及び試験例10の電気二重層キャパシタにおける結果を図7(a)に示す(拡大図を含む)。また、試験例7、及び試験例10の電気二重層キャパシタにおける結果を図7(b)に示す。
また、試験例8、試験例9、及び試験例11の電気二重層キャパシタについて、上記と同様な条件で測定した結果を図7(c)に示す(拡大図を含む)。
図7(a)と図7(c)とを比較することにより、ビス(フルオロスルフォニル)イミドアニオン含有のイオン液体を含む電解質は、イオン拡散性能を反映する抵抗値がより低いという点で優れていると認識され、従って、斯かる電解質は、電気化学デバイスにおける放電出力の点で優れたものになり得るといえる。
【0073】
<電気二重層キャパシタの繰り返し充放電試験>
作製した電気二重層キャパシタを用いて、電流密度12.5mAcm-2、電圧範囲0〜2.5Vの試験条件により、繰り返し充放電試験を行った。なお、特に記載のない限り温度条件25℃で行った。
【0074】
・容量保持率
縦軸が容量保持率、横軸が繰り返し回数(サイクル数)であるグラフに、試験例3及び試験例10の電気二重層キャパシタを用いて行った繰り返し充放電試験の結果をプロットしたものを図8に示す。なお、容量保持率は、プレサイクル後1サイクル目の放電容量に対する所定サイクル後の放電容量の百分率により算出した。
図8から、イオン液体とアルギン酸とを含む電解質は、イオン液体の流動性を抑制するための高分子化合物を含んでいるにもかかわらず、該高分子化合物がアルギン酸であることにより、電気的特性が低下しにくいことが認識できる。また、イオン液体のみからなる電解質よりも電気的特性が優れたものになり得ることが認識できる。
【0075】
・クーロン効率
縦軸がクーロン効率、横軸が繰り返し回数(サイクル数)であるグラフに、試験例3及び試験例10の電気二重層キャパシタを用いて行った繰り返し充放電試験の結果をプロットしたものを図9に示す。
試験例3、試験例5、及び試験例10の電気二重層キャパシタを用いて、温度60℃及び0℃で行った繰り返し充放電試験の結果をプロットしたものをそれぞれ図10(a)、図10(b)に示す。
試験例8、試験例9、及び試験例11の電気二重層キャパシタを用いて、温度25℃で同様に行った繰り返し充放電試験の結果をプロットしたものを図11に示す。
試験例7及び試験例10の電気二重層キャパシタを用いて、温度25℃、電流密度2.5〜25mAcm-2(2.5mAcm-2ずつ増加)の試験条件で行った繰り返し充放電試験の結果を、縦軸がクーロン効率、横軸が電流密度であるグラフにプロットしたものを図12に示す。
図9〜図12から、イオン液体とアルギン酸とを含む電解質は、イオン液体の流動性を抑制するための高分子化合物を含んでいるにもかかわらず、該高分子化合物がアルギン酸であることにより、電気的特性(クーロン効率)がイオン液体のみからなる電解質と同等であることが認識できる。
【0076】
<電気二重層キャパシタの自己放電試験>
作製した電気二重層キャパシタを用いて、電流密度2.5mAcm-2の条件で2.5Vまで充電したものを温度条件25℃、開回路で放置し、経時的に電圧を測定することにより、自己放電試験を行った。
試験例3及び試験例10の電気二重層キャパシタを用いて行った自己放電の結果を図13(a)に示す。
また、試験例7及び試験例10の電気二重層キャパシタを用いて同様に行った自己放電試験の結果を図13(b)に示す。
図13から、イオン液体とアルギン酸とを含む電解質は、イオン液体の流動性を抑制するための高分子化合物を含んでいるにもかかわらず、該高分子化合物がアルギン酸であることにより、電気的特性が低下しにくいことが認識できる。
【0077】
<電気二重層キャパシタの耐電圧試験>
作製した電気二重層キャパシタを用いて、温度条件25℃、4.0Vまでの様々な電圧で充電を行ったものについて、耐電圧試験を行った。
試験例3、試験例5、及び試験例10の電気二重層キャパシタについて、各充電電圧における時間−作動電圧曲線を表したものをそれぞれ図14(a)、図14(b)、図14(c)に示す。
図14から、試験例3及び試験例5の電気二重層キャパシタは、3.5Vの電圧まで曲線が安定しており、比較的高電圧の充電においても安定であることが認識できる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の電解質は、各種の電気化学デバイスの電解質として用いられ得る。具体的には、例えば、リチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池、色素増感型太陽電池、電気二重層キャパシタの電解質として好適に用いられ得る。
また、二酸化炭素などの気体を吸収できるというイオン液体の有する特性を活かすべく、例えば、流動性が抑制されてゲル状となった電解質を気体吸収性ゲル膜に転用して用いることもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン液体とアルギン酸とを含むことを特徴とする電解質。
【請求項2】
前記アルギン酸が架橋されたアルギン酸である請求項1記載の電解質。
【請求項3】
前記イオン液体がビス(フルオロスルフォニル)イミドアニオンを含むイオン液体である請求項1又は2記載の電解質。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の電解質を備えたことを特徴とする電気化学デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−187320(P2011−187320A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51773(P2010−51773)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔研究集会名〕 第50回電池討論会〔主催者〕 社団法人 電気化学会〔刊行物名〕 第50回電池討論会講演要旨集〔発行年月日〕 平成21年11月30日
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】