説明

電解質組成物および光電気化学電池

【課題】 イオン伝導能に優れた電解質組成物およびこの電解質組成物を用いてなる電解質層を備える、光電変換効率および耐久性に優れた光電気化学電池を提供すること。
【解決手段】 酸および塩基の中和反応によって得られる中和塩型イオン液体と、この中和塩型イオン液体に溶解する電解質塩と、この電解質塩の陰イオンと酸化還元対を形成する分子とを少なくとも含む電解質組成物、並びに電解質組成物を含んで形成された電解質層20を半導体電極10および対向電極30間に備えた光電気化学電池1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質組成物および光電気化学電池に関し、さらに詳述すると、中和塩型イオン液体を電解質溶媒として含む電解質組成物およびこの電解質組成物を用いてなる電解質層を備えた光電気化学電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大面積化や低価格化を指向した光電気化学電池として、ルテニウム錯体系色素によって増感された酸化チタン多孔質半導体電極を用いた色素増感型太陽電池の研究開発が盛んに行われている(特許文献1:米国特許第4,927,721号明細書、非特許文献1:ネイチャー(Nature)、第353巻、1991年、p.737〜740等)。
この方式は、製造設備が簡便で、かつ、製造コストも低く、しかも高いエネルギー変換効率が得られるなどの点で有望である。しかし、この方式では、有機または水系の電解液を用いる必要があることから、以下の問題が指摘されている。
(1)長期に亘って使用すると、電解液の枯渇によって光電変換効率が著しく低下する。
(2)破損した場合、可燃性の有機溶剤が漏洩する。
(3)光照射による加熱で有機溶剤が蒸発し、電池内圧が上昇してセルが破裂する虞がある。
【0003】
これらの問題に対し、電解質溶媒として常温溶融塩を用いる解決策が検討されている。具体的には、(A)低融点化合物であるイミダゾリウム塩やトリアゾリウム塩を電解質に使用した光電気化学電池(特許文献2:欧州特許第718,228号明細書、特許文献3:国際公開第95/18456号パンフレット)、(B)揮発性の低いポリエーテル化合物等の高分子電解質を使用した光電気化学電池(特許文献4:国際公開第00/54361号パンフレット、特許文献5:特開2001−199961号公報等)、(C)有機電解液の含有量の少ない擬固体型電解液を使用した光電気化学電池(特許文献6:特開平7−288142号公報、特許文献7:特開平8−88030号公報等)などが検討されている。
【0004】
上記従来技術(A),(B)の電池では、電解質溶媒として用いていた水や有機溶媒が不要、または極少量で済むため、耐久性は多少改善されるが、実用上充分であるとは言い難い。しかも、電解質溶液の粘度が高いため、電池の光電変換効率という点でも不充分である。
上記従来技術(C)の電池では、電解質を擬固体化しているため、電解質中のイオン導電性が低下し、光電変換効率が低くなるという新たな問題が生じている。
【0005】
【特許文献1】米国特許第4,927,721号明細書
【特許文献2】欧州特許第718,228号明細書
【特許文献3】国際公開第95/18456号パンフレット
【特許文献4】国際公開第00/54361号パンフレット
【特許文献5】特開2001−199961号公報
【特許文献6】特開平7−288142号公報
【特許文献7】特開平8−88030号公報
【非特許文献1】ネイチャー(Nature)、第353巻、1991年、p.737〜740
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、イオン伝導能に優れるとともに、蒸気圧の低い電解質組成物およびこの電解質組成物を用いてなる電解質層を備える、耐久性および光電変換効率に優れた光電気化学電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、酸および塩基の中和反応によって得られる中和塩型のイオン液体を電解質溶媒として用いることで、イオン伝導能に優れた電解質組成物が得られること、およびこの電解質組成物からなる電解層を備えた光電気化学電池が光電変換効率に優れ、充分な耐久性を有することを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
1. 酸および塩基の中和反応によって得られる中和塩型イオン液体と、この中和塩型イオン液体に溶解する電解質塩と、この電解質塩の陰イオンと酸化還元対を形成する分子と、を少なくとも含むことを特徴とする電解質組成物、
2. 前記中和塩型イオン液体が、下記式(1)、式(2)、式(3)、式(4)、式(5)および式(6)から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする1の電解質組成物、
【化1】


3. 前記陰イオンが、ヨウ化物イオンまたは臭化物イオンであり、これら各イオンに対応して前記分子がヨウ素または臭素であることを特徴とする1または2の電解質組成物、
4. 半導体電極および対向電極と、これら各電極間に介在する電解質層とを備える光電気化学電池であって、前記電解質層が、1〜3のいずれかの電解質組成物を含んで形成されたことを特徴とする光電気化学電池、
5. 前記半導体電極が、金属酸化物と、この酸化物表面に吸着された色素と、を備えて構成されていることを特徴とする4の光電気化学電池
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電解質組成物は、電解質溶媒として中和塩型イオン液体を用いているから、従来の4級アミン型イオン液体を使用した電解質組成物よりも、粘度が低く、電荷輸送を行うI3-等のレドックス種の拡散速度(イオン伝導度)に優れている。このため、本発明の電解質組成物からなる電解質を備えた光電気化学電池は、光電変換効率に優れている。
中和塩型イオン液体は、光電気化学電池の動作電圧範囲において電気化学的には不活性であるため、電気分解等によるガスの発生が抑えられる。
比較的粘度の低い中和塩型イオン液体を用いているから、電解質組成物中にその他の液体溶剤を使用しなくともよい。この場合、電解質組成物の蒸気圧は、非常に低くなり、従来の電解質組成物のような溶剤の蒸発による危険や、電池の耐久性低下を防止できる。また、その他の液体溶剤を使用する場合、中和塩型イオン液体の融点が低いことから、低温動作時でも確実に液相が存在するため、結晶塩の沈殿による電池性能の劣化が生じにくい。
中和塩型イオン液体は、従来の4級アミン型イオン液体よりも原料が安価であることから、光電気化学電池の作製コストを抑えられる。また、中和塩型イオン液体は、ハロゲンを含まない原料から容易に合成することができ、しかも合成過程で有機溶剤を使用しなくともよいので、より環境負荷の少ない光電気化学電池を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る電解質組成物は、酸および塩基の中和反応によって得られる中和塩型イオン液体と、この中和塩型イオン液体に溶解する電解質塩と、この電解質塩の陰イオンと酸化還元対を形成する分子とを含むことを特徴とする。
ここで、中和塩型イオン液体とは、酸−塩基の中和反応により得られる塩からなるイオン液体(イオン性液体−開発の最前線と未来−、19〜21頁、(株)シーエムシー出版(2003)参照)であり、プロトンが付加してなるカチオンを有するものをいう。
【0010】
中和塩型イオン液体の原料となる塩基としては、例えば、1級アミン、2級アミン、3級アミン等が挙げられ、具体的には、アンモニア、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、2−メトキシエチルアミン、ジエチル(2−メトキシエチル)アミン、ピペリジン、ピロリジン、N−メトキシエチルピロリジン、カルバゾール、インドール、シクロヘキシルアミン、アミノヘキサノール、2−(メチルアミノ)エタノール、イミダゾール、メチルイミダゾール、アニリンなどが挙げられる。中でも、比較的低粘度のイオン液体が得られ易いことから、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、2−メトキシエチルアミン、ジエチル(2−メトキシエチル)アミン、ピペリジン、ピロリジン、N−メトキシエチルピロリジンなどの脂肪族アミンが好ましい。
【0011】
一方、酸としては、例えば、トリフルオロ酢酸,プロピオン酸,ぎ酸等の脂肪族カルボン酸、安息香酸等の芳香族カルボン酸などのカルボン酸類、メタンスルホン酸等のスルホン酸類、HCl、H2SO4、HNO3、HBF4、HPF6、(CF3SO22NHなどが挙げられる。中でも、ハロゲン原子を含まず、環境に優しいという観点からは、芳香族カルボン酸、スルホン酸類が好ましく、低粘度の中和塩型イオン液体を得るという観点からは、トリフルオロ酢酸、(CF3SO22NHが好適である。
【0012】
本発明の電解質組成物に好適な、中和塩型イオン液体としては、例えば、下記式(1)〜(9)で示されるものが挙げられるが、特に式(1)〜(6)で示されるものが好適である。なお、中和塩型イオン液体は、2種以上併用することもできる。
【0013】
【化2】

【0014】
本発明における中和塩型イオン液体は、50℃以下で液状のものが好ましく、25℃以下で液状のものがより好ましい。
また、中和塩型イオン液体の粘度は、上述のように4級アミン型イオン液体よりも低いものであるが、本発明の電解質組成物においてはイオン伝導能をより高めるために、用いる中和塩型イオン液体の25℃での粘度を、200mPa・s以下にすることが好ましく、100mPa・s以下にすることがより好ましく、50mPa・s以下にすることが最適である。なお、本発明における粘度は、粘度計として、ブルックフィールド型回転粘度計を用いて、スピンドル、回転数は、イオン液体の粘度に応じて適宜選択し、25℃で測定した値である。
【0015】
上記中和塩型イオン液体に溶解する電解質塩としては、電解質組成物に含まれる所定の分子に応じ、これと酸化還元対を形成し得る陰イオンを含むものであれば、特に限定されるものではない。陰イオンとしては、特に限定されないが、ヨウ化物イオン、臭化物イオンであることが好ましく、安定性という点から、ヨウ化物イオンであることがより好ましい。
電解質塩の具体例としては、LiI,NaI,KI,CsI,CaI2等の金属ヨウ化物、LiBr,NaBr,CsBr,CaBr2等の金属臭化物、4級ピリジニウム化合物のヨウ素塩および同臭素塩、テトラアルキルアンモニウム化合物のヨウ素塩および同臭素塩等が挙げられる。
【0016】
本発明において、酸化還元対とは、上記電解質塩の陰イオン(または電解質塩)と所定の分子とからなる少なくとも一対の組み合わせをいい、酸化体・還元体を独立に系内に添加した場合に、速やかに電気化学的平衡に達するものである。
上記陰イオンと酸化還元対を形成し得る分子としては、陰イオン種に応じて適宜選択することができるが、陰イオンがヨウ化物イオン(電解質塩がヨウ素化合物)の場合には、ヨウ素(I2)であることが好ましく、一方、陰イオンが臭化物イオン(電解質塩が臭素化合物)である場合には、臭素(Br2)であることが好ましい。
【0017】
ここで、酸化還元対を形成させるための電解質塩および分子の配合割合は、使用する中和塩型イオン液体に応じて適宜設定することができる。一般的に、酸化還元対を形成する各物質の中和塩型イオン液体に対する配合量が多いほど、電解質組成物のイオン伝導性を高めることができるが、配合量が多すぎると、イオンの解離が起こりにくくなり、イオン伝導度が低下してくる。
このバランスを考慮すると、酸化還元対を形成させるための各物質の配合量は、中和塩型イオン液体100質量部に対して、1〜50質量部が好ましく、5〜35質量部がより好ましい。この場合、電解質塩と分子とのモル比(例えば、ヨウ素:ヨウ素化合物、臭素:臭素化合物)は、1:5〜5:1が好ましい。
なお、酸化還元対の平衡電位が問題となる場合には、必要な平衡電位が得られるように、配合量を適宜調整すればよい。
【0018】
本発明の電解質組成物は、上述した各構成成分の他に必要に応じて溶媒を含んでいてもよい。この場合には、電解質組成物全体に対し、溶媒を30質量%以下、特に10質量%以下とすることが好ましい。
使用可能な溶媒としては、例えば、カーボネート化合物(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等)、複素環化合物(3−メチル−2−オキサゾリジノン等)、エーテル化合物(ジオキサン、ジエチルエーテル等)、鎖状エーテル化合物(エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等)、アルコール類(メタノール、エタノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル等)、多価アルコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等)、ニトリル化合物(アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、ビスシアノエチルエーテル類)、エステル類(カルボン酸エステル、リン酸エステル、ホスホン酸エステル等)、非プロトン性極性溶媒(ジメチルスルホキシド、スルホラン等)、水などが挙げられる。これらの中でも、電解質の溶解性、粘度および耐電圧という点から、カーボネート化合物、ニトリル化合物、複素環化合物を用いることが好ましい。
【0019】
本発明に係る電解質組成物の調製法としては、中和塩型イオン液体、電解質塩、および電解質塩の陰イオンと酸化還元対を形成する分子を混合して組成物を調製できる方法であれば、特に制限はない。
具体的には、電解質塩および分子を直接中和型イオン液体中に添加する方法、電解質塩および分子を有機溶媒に溶かした溶液に中和型イオン液体を添加する方法などが挙げられる。
【0020】
本発明に係る光電気化学電池は、半導体電極および対向電極と、これら各電極間に介在する電解質層とを備えるもので、この電解質層が上述した電解質組成物を含んで形成されている。
半導体電極としては、光電気化学電池に通常用いられる公知のものから適宜選択して用いることができるが、後に詳述する金属酸化物と、この酸化物表面に吸着された色素とを備えて構成されたものを用いることが好ましい。
また、半導体電極の具体的な構成としても、特に限定されるものではなく、例えば、透明基体と、この透明基体の表面に形成された透明導電層と、この透明導電層の表面に形成された半導体層とを備えた電極を用いることができる。
【0021】
この場合、透明基体としては、透明で導電層の基板となり得るものであれば、特に制限はなく、ソーダガラス,無アルカリガラス等のガラス基板、透明ポリマーフィルム、これらの積層体などを用いることができる。
上記透明ポリマーフィルムの材料としては、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート、ポリスルフォン、ポリエステルスルフォン(PES)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、環状ポリオレフィン、ブロム化フェノキシ等を用いることができる。
【0022】
透明導電層を構成する材料としても特に限定はなく、例えば、白金,金,銀,銅,亜鉛,チタン,アルミニウム,インジウム,これらの合金等の金属、インジウム−スズ複合酸化物,フッ素またはアンチモンをドープした酸化スズ等の導電性金属酸化物などを用いることができるが、特に、フッ素またはアンチモンをドープした二酸化スズ、インジウム−スズ酸化物(ITO)を用いることが好ましい。この透明導電層は、上記透明基体の表面に塗布または蒸着することで形成できる。
上記半導体層は、光を吸収して電荷分離を行い、電子および正孔が発生する層であるが、色素を吸着した色素増感型の半導体電極では、光吸収、並びにそれによる電子および正孔の発生は主として色素において起こり、半導体層は、この電子(または正孔)を受け取って伝達する役割を担うものである。なお、本発明において、半導体層を構成する半導体は、p型、n型のどちらでもよい。
【0023】
このような半導体層を構成する半導体材料としては、シリコン,ゲルマニウム等の単体半導体、チタン,スズ,亜鉛,鉄等の金属カルコゲナイト(酸化物、硫化物、セレン化物、これらの複合化物等)に代表される化合物半導体、ペロプスカイト構造を有する化合物(チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウム等)などを用いることができる。中でもTiO2、SnO2、Fe23、WO3、ZnO、Nb25等の金属酸化物が好ましく、安定性、安全性および価格の点から、TiO2(酸化チタン)が最適である。
【0024】
また、半導体層の膜厚は、厚くなるほど単位投影面積あたりの色素担持量が増加して光の捕獲率が高くなるが、その一方で、生成した電子の拡散距離が増大するために電荷再結合によるロスも大きくなる。これらを考慮すると、半導体層の厚さは、0.1〜100μmであることが好ましく、1〜30μmであることがより好ましく、2〜25μmであることがより一層好ましい。なお、半導体層は、単層でも複数層でもよい。
【0025】
透明導電層上に半導体層を形成する方法としては、特に限定はなく、湿式製膜法、金属を酸化する方法、金属溶液から配位子交換等を行い液相にて析出させる方法(LPD法)、スパッタ等で蒸着する方法、CVD法、熱分解する金属プレカーサーを加温した基板上に吹き付けて金蔵酸化物を形成する方法(SPD法)等を採用することができる。
【0026】
上述した半導体に吸着させる色素は、可視域や近赤外域に吸収帯を有し、半導体を増感し得るものであればよく、公知の種々の色素を用いることができる。具体例としては、金属錯体色素、メチン色素、ポルフィリン系色素、フタロシアニン系色素等が挙げられる。
これらの中でも、高い光学活性を有し、半導体への吸着性および耐久性に優れているということから、ルテニウム等の金属錯体色素、ポリメチン色素を用いることが好ましく、より好ましくはルテニウム−ビピリジン錯体、中でも、シス−ジ(チオシアナト)−N,N′−ビス(2,2′−ビピリジル−4,4′−ジカルボン酸)ルテニウム(II)が好適である。これらの色素は、1種単独で用いてもよいが、光電変換の波長域をできるだけ広くするとともに、変換効率を高める目的で、2種以上の色素を併用してもよい。
【0027】
半導体に色素を吸着させる方法としては、公知の手法を適宜用いればよく、例えば、色素の溶液中に充分に乾燥させた半導体電極を浸漬させる方法、色素の溶液を半導体層に塗布する方法等を用いることができる。
色素の全吸着量は、半導体電極の単位表面積(1m2)あたり、0.01〜100mmol、特に、1〜70mmolとすることが好ましい。
【0028】
上記対向電極としては、光電気化学電池の正極として作用するものであれば、特に限定はなく、例えば、上述した半導体電極を構成する透明基体と透明導電層とからなる対向電極、金属,炭素材料等の導電性材料を含んで構成される対向電極等を用いることができる。
特に、ガラス基板やプラスチックフィルム等に、白金、金、銀、銅、アルミニウム、およびマグネシウムから選ばれる少なくとも1種の金属を塗布または蒸着させた電極を用いることが好適である。
【0029】
上記電解質層は、上述した本発明の電解質組成物を含んで形成されたものである。
この場合、電解質層の形成法としては、特に限定はなく、電解質組成物を直接半導体電極に含浸させる方法、電解質組成物を不織布に含浸させる方法、両電極間にスペーサーを設け、これにより生じた両極間の隙間に電解質組成物を注入する方法等を採用することができる。
その他、本発明の光電気化学電池には、半導体電極および対向電極のいずれか一方または両方における電解質層と反対側の表面、導電層と基体の間、または基体の中間に、保護層や反射防止層などの機能層を適宜設けてもよい。これらの機能層の形成法としては、その性質に応じて、塗布法、蒸着法、貼付法等を適宜選択して用いることができる。
【0030】
次に、本発明に係る光電気化学電池の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1には、本発明の一実施形態に係る光電気化学電池1が示されている。光電気化学電池1は、半導体電極10と対向電極30と、これら両電極10,30に介在する電解質層20とを備えるとともに、さらにその両側面がエポキシ樹脂等の封止材40で封止されてなるものである。
【0031】
半導体電極10は、透明ガラス等から形成された透明基体11と、これに積層されたガラス基板等の表面に金属などの導電性材料が塗布されて形成された透明導電層12と、さらにこれに積層された金属酸化物微粒子を膜状に形成してなる半導体層13とを備えている。ここで、半導体層13を構成する金属酸化物微粒子の表面には、シス−ジ(チオシアナト)−N,N′−ビス(2,2′−ビピリジル−4,4′−ジカルボン酸)ルテニウム(II)などの色素13Aが吸着されている。
【0032】
対向電極30は、透明基体31と、この上に積層された透明導電層32とを備えて構成されている。ここで、透明基体31および透明導電層32の材質は、上述した半導体電極10を構成する透明基体11および透明導電層12と同様のものを用いている。
電解質層20は、中和塩型イオン液体と、ヨウ素化合物からなる電解質塩と、この電解質塩のヨウ化物イオンと酸化還元対を形成するヨウ素とを含む電解質組成物を各電極10,20間に注入して形成されている。
【0033】
以上のように構成された光電気化学電池1に、半導体電極10側から光を照射すると、この光により色素13A等が励起されるとともに、励起された色素13A中の高エネルギーの電子が、半導体層13の金属酸化物半導体の伝導帯に渡され、さらに拡散により透明導電層12に移動する。このとき、色素13Aの分子は酸化体になっている。
透明導電層12へ移動した電子は、これに接続された回路50を流れて対向電極30へ移動し、電解質層20中で酸化還元対を構成するヨウ素(または三ヨウ化物イオン)をヨウ化物イオンへ還元する。還元により生じたヨウ化物イオンは、電解質層20中を半導体電極10側へ移動し、ここで再酸化されてヨウ素(または三ヨウ化物イオン)へ戻るとともに、色素13Aへ電子が移動する。
このようにして、光電気化学電池1は、光エネルギーを電気エネルギーに変換させる。
【0034】
なお、本発明に係る光電気化学電池は、上記実施形態に限定されるものではなく、各電極の材質、半導体層を構成する半導体および色素、電解質層を構成する中和型イオン液体、電解質塩、分子等については、種々の変更が可能であり、これらは先に説明した各種材料を適宜用いることができる。
また、上記実施形態においては、光電気化学電池1を単独で用いていたが、これに限られず、例えば、光電気化学電池をモジュール化して用いることもでき、この場合、基本的には、従来の太陽電池モジュールと同様の構造を採用し得る。すなわち、金属,セラミック等の支持基板の上に、セルを配置するとともに、それらの上を充填樹脂や保護ガラスで覆い、支持基板の反対側から光を取り込む構造とすることができる。
なお、本発明の光電気化学電池は、上述のように光に応答する機能を有しているため、この機能を利用した光センサとして用いることもできる。
【実施例】
【0035】
以下、合成例、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
[合成例1]中和塩型イオン液体(1)の合成
【化3】

【0036】
蒸留精製したジエチルメチルアミン(ACROS社製)0.05molに、再結晶により精製した1,1,1−トリフルオロ−N−〔(トリフルオロメチル)スルホニル〕メタンスルホンイミド(別名:トリフルオロメタンスルホンイミド、関東化学(株)製)0.05molを氷冷下で加え、15分間混合後、アイスバスをはずして1晩攪拌を続けることで中和塩型イオン液体(1)を定量的に得た。
なお、全ての実験操作は、露点温度が−40℃以下のドライルームにて行った(以下の合成例でも同様)。
【0037】
[合成例2]中和塩型イオン液体(2)の合成
【化4】

【0038】
ピロリジン(和光純薬工業(株)製)87mlと2−メトキシエチルクロライド(関東化学(株)製)48mlとを混合し、得られた混合溶液をオートクレーブ中に入れ、90℃で24時間反応させた。24時間後、析出した結晶と反応液との混合物に水酸化カリウム((株)片山化学工業製)56gを溶解した水溶液200mlを加え、分液ロートで有機層を分液した。さらに、水層に塩化メチレン(和光純薬工業(株)製)100mlを加えて抽出する操作を2回行った。分液および抽出した有機層をまとめ、飽和食塩水で洗浄した後、炭酸カリウム(和光純薬工業(株)製)を加えて乾燥し、減圧濾過した。得られた有機層の溶媒をロータリーエバポレーターを用いて留去し、残留分について常圧蒸留を行い、沸点160℃付近の留分である2−メトキシエチルピロリジンを43g得た。
ジエチルメチルアミンの代わりに得られた2−メトキシエチルピロリジン0.05molを用いた以外は、合成例1と同様の方法で中和塩型イオン液体(2)を定量的に得た。
【0039】
[合成例3]中和塩型イオン液体(3)の合成
【化5】

【0040】
1,1,1−トリフルオロ−N−〔(トリフルオロメチル)スルホニル〕メタンスルホンイミドの代わりに蒸留精製したトリフルオロ酢酸(関東化学(株)製)0.05molを用いた以外は、合成例1と同様の方法で中和塩型イオン液体(3)を定量的に得た。
【0041】
[合成例4]中和塩型イオン液体(4)の合成
【化6】

【0042】
ジエチルメチルアミンの代わりに合成例2で得た2−メトキシエチルピロリジン0.05molを用いた以外は、合成例3と同様の方法で中和塩型イオン液体(4)を定量的に得た。
【0043】
[合成例5]中和塩型イオン液体(5)の合成
【化7】

【0044】
ピロリジンの代わりにジエチルアミン(和光純薬工業(株)製)を用い、オートクレーブの温度を100℃とした以外は、合成例2と同様の方法で2−メトキシエチルジエチルアミンを得た。
ジエチルメチルアミンの代わりに得られた2−メトキシエチルジエチルアミン0.05molを用いた以外は、合成例1と同様の方法で中和塩型イオン液体(5)を定量的に得た。
【0045】
[合成例6]中和塩型イオン液体(6)の合成
【化8】

【0046】
ジエチルメチルアミンの代わりに合成例5で得た2−メトキシエチルジエチルアミン0.05molを用いた以外は、合成例3と同様の方法で中和塩型イオン液体(6)を定量的に得た。
【0047】
[合成例7]中和塩型イオン液体(7)の合成
【化9】

【0048】
ジエチルメチルアミンの代わりに、合成例5で得た2−メトキシエチルジエチルアミン0.05molを、1,1,1−トリフルオロ−N−〔(トリフルオロメチル)スルホニル〕メタンスルホンイミドの代わりに蒸留精製したメタンスルホン酸(関東化学(株)製)0.05molを用いた以外は、合成例1と同様の方法で中和塩型イオン液体(7)を定量的に得た。
【0049】
[実施例1]
[1]電解質組成物の調製
電解質塩としてヨウ化リチウム(和光純薬工業(株)製)0.669g、および酸化還元対を形成する分子としてI2(和光純薬工業(株)製)0.127gを室温で混合し、これに電解質溶媒として合成例1で得られた中和塩型イオン液体(1)を加えて10mlまでメスアップし、電解質組成物を調製した。
[2]半導体分散液の調製
酸化チタン(ST−21、石原産業 製)30質量部、ポリエチレングリコール(平均分子量20,000)12質量部、分散剤(ToritonX−100、アルドリッチ社製)0.5質量部を混合し、湿式微粒化装置(Nano−Mizer II、吉田機械興業(株)製)を用い、180Mpaの圧力で、酸化チタンの平均粒子径が0.9μm以下になるまで分散させ、半導体分散液を調製した。なお、平均粒子径は、マイクロトラックHRA(日機装 製)を用いて測定した。
【0050】
[3]金属酸化物半導体電極の作製
ITOをコーティングした導電性ガラス(セントラルガラス 製)の導電面に、先に調製した半導体分散液をガラス棒で塗布した。この際、導電面の端部に粘着テープを貼って、スペーサーとした。
塗布後、100℃で乾燥させた後、粘着テープを剥離した。続いて、このガラスを電気炉(マッフル炉FP−32型、ヤマト科学 製)に入れ、大気下、500℃で30分間焼成した。焼成後、ガラスを100℃まで冷却し、冷却したガラスをシス−ジ(チオシアナト)−N,N′−ビス(2,2′−ビピリジル−4,4′−ジカルボン酸)ルテニウム(II)(小島化学薬品(株) 製)のエタノール溶液(3×10-4M)に24時間浸漬した後、エタノールで洗浄し、自然乾燥させ、厚さ約7μmの半導体層を有する半導体電極を作製した。
【0051】
[4]対向電極の作製
ITOをコーティングした導電性ガラス(セントラルガラス 製)の導電面側に、ミニスパッタコータ(SC7520、トプコン 製)を用いて白金をスパッタリングして対向電極とした。
[5]光電気化学電池の作製
上記の方法で得られた金属酸化物半導体電極および対向電極を、厚み100μmのスペーサーを介して重ね合わせ、さらにスペーサーによって生じた隙間に先に調製した電解質組成物を注入した後、エポキシ樹脂で封止して光電気化学電池を得た。
【0052】
[実施例2]
電解質溶媒として合成例2で得た中和塩型イオン液体(2)を用いた以外は、実施例1と同様にして光電気化学電池を得た。
[実施例3]
電解質溶媒として合成例3で得た中和塩型イオン液体(3)を用いた以外は、実施例1と同様にして光電気化学電池を得た。
【0053】
[実施例4]
電解質溶媒として合成例4で得た中和塩型イオン液体(4)を用いた以外は、実施例1と同様にして光電気化学電池を得た。
[実施例5]
電解質溶媒として合成例5で得た中和塩型イオン液体(5)を用いた以外は、実施例1と同様にして光電気化学電池を得た。
【0054】
[実施例6]
電解質溶媒として合成例6で得た中和塩型イオン液体(6)を用いた以外は、実施例1と同様にして光電気化学電池を得た。
[実施例7]
電解質溶媒として合成例7で得た中和塩型イオン液体(7)を用いた以外は、実施例1と同様にして光電気化学電池を得た。
【0055】
[比較例1]
電解質溶媒として1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド(関東化学(株)製)を用いた以外は、実施例1と同様にして光電気化学電池を得た。
【0056】
[比較例2]
電解質溶媒としてN,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド(関東化学(株)製)を用いた以外は、実施例1と同様にして光電気化学電池を得た。
【0057】
以上のようにして作製した各実施例および比較例の光電気化学電池について、開放電圧、短絡電流密度および形状因子を測定した。その結果を電解質溶媒に使用したイオン液体の粘度と併せて表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1において、各項目の測定は以下のようにして行った。
光源として500Wのキセノンランプ(ウシオ製)を用い、AM1.5フィルター(Oriel社製)およびシャープカットフィルター(Kenko L−42、ケンコー光学製)を通すことにより、紫外線を含まない模擬太陽光を発生させ、無抵抗電流計を備えたポテンショスタットを用いて開放電圧、短絡電流密度、形状因子を測定した。なお、粘度は、ブルックフィールド型回転粘度計(商品名「デジタルレオメーター DV−III型」、ブルックフィールド社製)を用いた25℃での測定値である。
【0060】
表1に示されるように、中和塩型イオン液体を使用した電解質組成物からなる電解質層を有する実施例1〜7の光化学電池は、従来の4級アミン型イオン液体を使用した比較例1および2の光電気化学電池と同等以上の性能を有することが分かる。また、中和塩型イオン液体は4級アミン型イオン液体よりも原料が安価で製造工程が少なく、またその製造過程で有機溶媒を使用しなくてもよい。よって、4級アミン型イオン液体を用いた場合と比べ、より安価かつ簡便に製造可能で環境負荷の低い光化学電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施形態に係る光電気化学電池を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 光電気化学電池
10 半導体電極
11 透明基体
12 透明導電層
13 半導体層
13A 色素
20 電解質層
30 対向電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸および塩基の中和反応によって得られる中和塩型イオン液体と、この中和塩型イオン液体に溶解する電解質塩と、この電解質塩の陰イオンと酸化還元対を形成する分子と、を含むことを特徴とする電解質組成物。
【請求項2】
前記中和塩型イオン液体が、下記式(1)、式(2)、式(3)、式(4)、式(5)および式(6)から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の電解質組成物。
【化1】

【請求項3】
前記陰イオンが、ヨウ化物イオンまたは臭化物イオンであり、これら各イオンにそれぞれ対応して前記分子がヨウ素または臭素であることを特徴とする請求項1または2記載の電解質組成物。
【請求項4】
半導体電極および対向電極と、これら各電極間に介在する電解質層とを備える光電気化学電池であって、
前記電解質層が、請求項1〜3のいずれか1項記載の電解質組成物を含んで形成されることを特徴とする光電気化学電池。
【請求項5】
前記半導体電極が、金属酸化物と、この酸化物表面に吸着された色素と、を備えて構成されていることを特徴とする請求項4記載の光電気化学電池。

【図1】
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【公開番号】特開2006−286257(P2006−286257A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−101610(P2005−101610)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】