説明

電解質膜、及びそれを用いた触媒層−電解質膜積層体、膜電極接合体と燃料電池、並びにその製造方法

【課題】良好な成形性を有し、電解質膜からの液状電解質の染み出しを防ぎ、無加湿状態で良好なイオン伝導性を有する電解質膜、及びそれを用いた触媒層−電解質膜積層体、膜電極接合体と燃料電池、並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の電解質膜10は、少なくとも第1の層1と第2の層2を含み、電解質膜10の片側又は両側の最外層には第1の層1が配置され、第1の層1は液状電解質とバインダーを含み、第2の層2は液状電解質を含み、第1の層1における液状電解質の含有量が第2の層2における液状電解質の含有量より低い。本発明の製造方法は、液状電解質とバインダーを含む第1の層1を形成する工程と、液状電解質を含む第2の層2を形成する工程と、第1の層1が電解質膜10の片側又は両側の最外層に配置されるように第1の層1と第2の層2を積層する工程とを含み、第1の層1における液状電解質の含有量が第2の層2より低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜、及びそれを用いた触媒層−電解質膜積層体、膜電極接合体と燃料電池、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりとともに、CO2や汚染物質を排出しないクリーンエネルギーとして燃料電池が注目されている。その中でも、エネルギー効率が高く、温度領域が100℃前後と一般用に取り扱いやすい固体高分子電解質を用いた固体高分子形燃料電池(PEFC)の開発が期待されている。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、通常固体高分子電解質からなる電解質膜の両面に電極が接合された膜電極接合体を基本単位とする。固体高分子電解質としては、一般的にNafion(登録商標)で知られているパーフルオロスルホン酸等が用いられている。このパーフルオロスルホン酸等を固体高分子電解質として用いる膜電極接合体においては、プロトンがH3+の状態で伝導されるため、加湿機構を備える必要があり、システムが煩雑になるという問題がある。
【0004】
そこで、無加湿状態でイオン伝導性を有する液状電解質としてイオン液体が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、特許文献1に提案されているイオン液体は、液体であるため、成形性が困難であるという問題がある。
【0005】
そこで、特許文献2ではイオン液体にバインダーを添加してフィルム化しているが、バインダーを添加すると電解質本来のイオン伝導性を阻害するおそれがある。そして、電解質膜のイオン伝導性を向上させるためにイオン液体を多くすると電解質膜からイオン液体が触媒層の細孔中に染み込みガス流路を塞ぐという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4036279号
【特許文献2】特開2006−32213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の問題を解決するため、良好な成形性を有し、電解質膜からの液状電解質の染み出しを防ぎ、無加湿状態で良好なイオン伝導性を有する電解質膜、及びそれを用いた触媒層−電解質膜積層体、膜電極接合体と燃料電池、並びにその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電解質膜は、液状電解質を含む電解質膜であって、少なくとも第1の層と第2の層を含み、上記電解質膜の片側又は両側の最外層には第1の層が配置され、上記第1の層は液状電解質とバインダーを含み、上記第2の層は液状電解質を含み、上記第1の層における液状電解質の含有量が上記第2の層における液状電解質の含有量より低いことを特徴とする。
【0009】
本発明の触媒層−電解質膜積層体は、本発明の電解質膜と、一対の触媒層とを備え、上記電解質膜の両方の主面上に上記触媒層がそれぞれ配置されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の膜電極接合体は、本発明の電解質膜と、一対の触媒電極とを備え、上記電解質膜の両方の主面上に上記触媒電極がそれぞれ配置されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の燃料電池は、本発明の電解質膜と、一対の触媒電極と、一対のセパレータとを備え、上記電解質膜の両方の主面上に上記触媒電極と上記セパレータとがこの順番でそれぞれ積層されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の電解質膜の製造方法は、液状電解質を含む電解質膜の製造方法であって、液状電解質とバインダーを含む第1の層を形成する工程と、液状電解質を含む第2の層を形成する工程と、上記第1の層が上記電解質膜の片側又は両側の最外層に配置されるように上記第1の層と上記第2の層を積層する工程とを含み、上記第1の層における液状電解質の含有量が上記第2の層における液状電解質の含有量より低いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、液状電解質とバインダーを含む第1の層と、液状電解質を含む第2の層とを含み、電解質膜の片側又は両側の最外層に第1の層を配置し、第1の層における液状電解質の含有量を第2の層における液状電解質の含有量より低くすることにより、良好な成形性を有し、電解質膜からの液状電解質の染み出しを防ぎ、無加湿状態で高いイオン伝導性を有する電解質膜、及びそれを用いた触媒層−電解質膜積層体、膜電極接合体と燃料電池を提供することができる。また、本発明の製造方法によれば、良好な成形性を有し、電解質膜からの液状電解質の染み出しを防ぎ、無加湿状態で高いイオン伝導性を有する電解質膜が容易に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1Aは本発明の実施形態1に係る電解質膜の一例を示す模式的断面図であり、図1Bは本発明の実施形態1に係る電解質膜の別の一例を示す模式的断面図であり、図1Cは本発明の実施形態1に係る電解質膜のさらに別の一例を示す模式的断面図である。
【図2】図2は本発明の実施形態2に係る触媒層−電解質膜積層体の一例を示す模式的断面図である。
【図3】図3は本発明の実施形態3に係る膜電極接合体の一例を示す模式的断面図である。
【図4】図4は本発明の実施形態4に係る燃料電池の一例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面等に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための材料や製造方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、材料や製造方法等を下記に限定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0016】
本発明において、「液状電解質」とは、液状物質であってかつイオン伝導性を有するものを意味する。
【0017】
[実施形態1]
まず、本発明の実施形態1として、電解質膜について説明する。
【0018】
(電解質膜)
図1Aは本発明の実施形態1に係る電解質膜の一例を示す模式的断面図である。図1Aに示すように、電解質膜10は、第1の層1と第2の層2の二つの層を含み、電解質膜10の片側の最外層には第1の層1が配置されている。そして、第1の層1は、液状電解質とバインダーを含み、第2の層2は液状電解質を含み、第1の層1における液状電解質の含有量が第2の層2における液状電解質の含有量より低い。なお、第1の層1と第2の層2における液状電解質の種類は同様であってもよく、異なっていてもよい。また、第2の層2はバインダーを含んでもよい。第2の層がバインダーを含むと成形性がより良好になり、機械的強度も高くなる。
【0019】
図1B及び図1Cは、それぞれ本発明の実施形態1に係る電解質膜の別の一例を示す模式的断面図である。図1Bは三つの層を有する電解質膜を示す模式的断面図であり、図1Cは五つの層を有する電解質膜を示す模式的断面図である。図1B及び図1Cでは、図1Aと同一の部分には同一の符合を付けており、同一の部分は同一の機能を有する。電解質膜10が三つ以上の層を有する場合、図1B及び図1Cに示しているように、電解質膜10の両側の最外層には、第1の層1が配置されていることが好ましい。電解質膜の機械的強度を高めるとともに、より効果的に電解質膜からの液状電解質の染み出しを防ぐことができる。
【0020】
電解質膜10は、三つの層を有する場合、図1Bに示しているように、第1の層1aと第1の層1bが、それぞれ電解質膜10の最外層に配置されている。すなわち、第1の層1aと第1の層1bが、第2の層2の両方の主面上にそれぞれ配置されている。また、電解質膜10は、五つの層を有する場合でも、図1Cに示しているように、第1の層1aと第1の層1bが、それぞれ電解質膜10の最外層に配置されている。具体的には、図1Cに示しているように、第1の層1a、第2の層2a、第1の層1c、第2の層2b及び第1の層1bが順番に配置されていてもよい。このように、電解質膜10の最外層に液状電解質とバインダーを含む第1の層を配置し、液体電解質の含有量が相対的に高い第2の層を第1の層の間、すなわち電解質膜10の内層に配置することにより、成形性に優れ、無加湿状態でのイオン伝導性が高く、電解質膜からの液状電解質の染み出しが抑えられた電解質膜が得られる。
【0021】
上記において、第1の層1a、第1の層1b、第1の層1cにおける液状電解質の含有量及び種類は同様であってもよく、異なっていてもよい。また、第2の層2a、第2の層2bにおける液状電解質の含有量及び種類は同様であってもよく、異なっていてもよい。
【0022】
なお、図1A〜1Cでは、二層、三層、五層構造の電解質膜を例示しているが、本発明の電解質膜は、上記の層構造の電解質膜に限定されない。電解質膜が、三つ以上の層を有する場合、バインダーを含み、液状電解質の含有量が相対的に低い第1の層が電解質膜10の両側の最外層に配置されることが好ましく、二つの第1の層の間には液状電解質の含有量が相対的に高い第2の層が一つ又は複数配置されていてもよい。また、二つの第1の層の間には第2の層以外に、第1の層が一つ又は複数配置されていてもよい。
【0023】
電解質膜10において、第1の層1における液状電解質の含有量は第2の層2における液状電解質の含有量より低ければよく、特に限定されない。電解質膜からの液状電解質の染み出しを効果的に防ぎ、イオン伝導性を高めるという観点から、第1の層1における液状電解質の含有量は10重量%以上70重量%未満であることが好ましく、20〜50重量%であることがより好ましい。また、第2の層2における液状電解質の含有量は10〜100重量%であることが好ましく、20〜100重量%であることがより好ましく、30〜100重量%であることがさらに好ましい。また、第2の層2における液状電解質の含有量は、第1の層1における液状電解質の含有量より5重量%以上大きいことが好ましく、20重量%以上大きいことがより好ましい。
【0024】
また、図1A〜1Cでは、各層が明確に区分されている電解質膜を例示しているが、各層はその境界が明確に区分されていなくてもよく、電解質膜の厚さ方向において、液状電解質の含有量が異なる二つ以上の部分を有していればよい。なお、電解質膜10の層構造及び液状電解質の含有量は、例えば以下のようにして確認することができる。
(1)電解質膜を厚さ方向に切断し、断面についてSEM(走査電子顕微鏡)観察を行う。
(2)電解質膜を厚さ方向に切断し、断面についてEDX測定(エネルギー分散型X線分析装置による測定)を行い、特定元素の濃度分布を確認する。
(3)グロー放電発光分析にて電解質膜における厚さ方向の特定元素の分析を行う。
(4)電解質膜を斜めに切削し、削られた表面のXPS分析(X線光電子分光法)を行う。
【0025】
電解質膜10は、その厚みは特に限定されないが、通常約10〜1000μm程度であり、機械的強度の観点から、約30〜300μm程度であることが好ましい。また、第1の層1は、その厚みは限定されないが、通常約5〜1000μm程度であり、機械的強度の観点から、約10〜300μm程度であることが好ましい。また、第2の層2は、その厚みは限定されないが、通常約5〜1000μm程度であり、機械的強度の観点から、約10〜300μm程度であることが好ましい。
【0026】
<液状電解質>
液状電解質としては、室温から200℃までの温度範囲、かつ無加湿雰囲気下であってもイオン伝導性を有する液状電解質を用いることができる。本発明において、無加湿雰囲気下とは、液状電解質が置かれた雰囲気中に意図的な加湿を行わないことを意味する。
【0027】
第1の層1に含まれる液状電解質と第2の層2に含まれる液状電解質は同様のものであってもよく異なるものであってもよい。また、各層に含まれる液状電解質は一種類であってもよく二種類以上を組合せたものであってもよい。
【0028】
液状電解質としては、例えば強酸、イオン液体等を用いることができる。
【0029】
強酸としては、例えばリン酸類、硫酸等の無機酸が挙げられる。リン酸類(以下、単に「リン酸」とも記す。)とは、オルトリン酸及びリン酸縮合体をいい、リン酸縮合体としては、ピロリン酸、トリリン酸、メタリン酸(ポリリン酸)等が挙げられる。なお、強酸としてリン酸を使用する場合には、イオン伝導度、濃度、取り扱い性等の観点から、濃度が約85〜122重量%のリン酸(H3PO4)水溶液を用いることが好ましい。
【0030】
本発明において、イオン液体とは、常温溶融塩とも言われ、イオンのみからなる溶融体のうち、常温(20±15℃)において液体状態となるものを意味する。イオン液体は、カチオン成分とアニオン成分とで構成される。
【0031】
イオン液体のカチオン成分としては、特に限定されないが、例えば、イミダゾリウム誘導体、ピリジニウム誘導体、ピロリジニウム誘導体、アンモニウム誘導体、含窒素複素環を持つもの、グアニジニウム誘導体、イソウロニウム誘導体等が挙げられる。中でも、耐熱性、導電性等の観点から、イミダゾリウム誘導体及びアンモニウム誘導体からなる群から選ばれる一種以上であることが好ましく、イミダゾリウムカチオン、2−エチルイミダゾリウムカチオン、1−メチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン及びジエチルメチルアンモニウムカチオンからなる群から選ばれる一種以上であることがより好ましい。
【0032】
イオン液体のアニオン成分としては、特に限定されないが、例えば、スルフェート類、スルホン酸類、アミド類、イミド類、メタン類、ハロゲン類、ホウ素含有アニオン類、リン酸塩類、アンチモン類、ヒドロフッ化物アニオン、フッ素系アニオン、チオシアネート等が挙げられる。中でも、耐熱性、導電性等の観点から、スルフェート類、イミド類及びチオシアネート類からなる群から選ばれる一種以上であることが好ましく、[CF3SO3-、[(FSO22N]-及び[SCN]-からなる群から選ばれる一種以上であることがより好ましい。イオン伝導性に優れるという観点から、アニオン成分が[CF3SO3-、[(FSO22N]-、[SCN]-、[HSO4-及びビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(bis(trifluoromethanesulfonyl)amide、以下においてHTFSIとも記す。)からなる群から選ばれる一種以上であることが好ましく、[CF3SO3-、[HSO4-及びHTFSIからなる群から選ばれる一種以上であることがより好ましい。
【0033】
また、本発明において、イオン液体は、プロティックなイオンを含むことが好ましい。本発明において、「プロティックなイオン」とは、プロトン受容性及び/又はプロトン供与性を有するイオンを意味する。
【0034】
プロティックなイオンとしては、特に限定されないが、例えばプロトン硫酸一水素イオン(HSO4-)、リン酸一水素イオン(HPO42-)、リン酸二水素イオン(H2PO4-)、セレン酸一水素イオン(HSeO4-)、ピロリン酸一水素イオン(HP273-)、ピロリン酸二水素イオン(H2272-)、ピロリン酸三水素イオン(H327-)、ホスホン酸一水素イオン(H2PO3-)等が挙げられる。
【0035】
イオン液体は、上述のカチオン成分を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。また、イオン液体は、上述のアニオン成分を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0036】
イオン液体は、公知の方法(例えば、J. AM. CHEM. SOC. 2010,132,9764−9773頁等参照)によって得ることができる。本発明では、公知の方法にて製造したイオン液体を使用してもよいし、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、三菱マテリアル株式会社製の1−エチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(フルオロスルホニル)イミド(1−Ethyl−3−methylimidazolium bis(fluorosulfonyl)imide)、メルク株式会社製の1−エチル−3−メチルイミダゾリウム トリフラート(1−Ethyl−3−methylimidazolium triflate)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム 硫酸水素塩(1−Ethyl−3−methylimidazolium hydrogensulfate)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム チオシアネート(1−Ethyl−3−methylimidazolium thiocyanate)等を用いることができる。或いは、市販品のカチオン成分とアニオン成分を混合して得られるイオン液体、例えば、東京化成工業社製のイミダゾル(Imidazole)と、和光純薬工業社製のHTFSIを混合して得られるイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、東京化成工業社製の2−エチルイミダゾル(2−ethylimidazole)と、和光純薬工業社製のHTFSIを混合して得られるイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド等を用いてもよい。
【0037】
<バインダー>
バインダーは、結着性を有するものであればよく、特に限定されないが、例えば、フッ素系ポリマー、炭化水素系ポリマー、フッ素系イオノマー、炭化水素系イオノマー、エポキシ系樹脂及びアクリル系樹脂等を用いることができる。中でも、pHが約1〜3程度における耐酸性、温度が約50〜300℃程度における耐熱性を有するものが好ましい。また、イオン伝導性を有していてもよい。
【0038】
上記フッ素系ポリマーとしては、特に限定されないが、例えばテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン、フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、四フッ化エチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等のフッ素樹脂を用いることができる。
【0039】
上記炭化水素系ポリマーとしては、炭化水素系化合物を主骨格とする高分子であって、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスチレンスルファイド、ポリベンズイミダゾール、ポリピリジン、ポリピリミジン、ポリイミダゾ−ル、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾオキザゾール、ポリオキサジアゾ−ル、ポリキリノン、ポリキノキサリン、ポリチアジアゾ−ル、ポリテトラザビレン、ポリオキサゾ−ル、ポリチアゾール、ポリビニールピリジン及びポリビニールイミダゾール等を用いることができる。
【0040】
上記フッ素系イオノマーとしては、特に限定されないが、例えばデュポン社のNafion(登録商標)、旭硝子社のフレミオン(登録商標)、旭化成社のアシプレックス(登録商標)のようなパーフルオロスルホン酸系、アクイヴィオン(登録商標)のようなスルホニルフロリドビニルエーテル(SFVE)−テトラフルオロエチレン共重合体等を用いることができる。
【0041】
上記炭化水素系イオノマーとしては、特に限定されないが、例えばポリアリーレンエーテルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、シンジオタクチックポリスチレンスルホン酸、ポリフェニレンエーテルスルホン酸、変性ポリフェニレンエーテルスルホン酸、ポリエーテルスルホンスルホン酸、ポリエーテルエーテルケトンスルホン酸及びポリフェニレンサルファイドスルホン酸等を用いることができる。
【0042】
上記エポキシ系樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等を用いることができる。また、上記の樹脂とシリカとのハイブリッド樹脂等を用いることもできる。
【0043】
上記アクリル系樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン等を用いることができる。また、上記の樹脂とシリカとのハイブリッド樹脂等を用いることもできる。
【0044】
また、バインダーは、セルロース系ポリマーであってもよい。セルロース系ポリマーとしては、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、酢酸セルロース等が挙げられる。
【0045】
上述したバインダーの中でも、耐久性及び結着性の点より、PTFE、ポリフッ化ビニリデン、パーフルオロスルホン酸、酢酸セルロース、スルホニルフロリドビニルエーテル(SFVE)−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリエーテルエーテルケトンスルホン酸が好適に用いられる。なお、ポリエーテルエーテルケトンスルホン酸(スルホン化ポリエーテルエーテルケトン)は、特に限定されないが、例えばM.L.Di Vona et al、Polymer 46(2005)1754−1758頁に記載されている方法により合成したものを用いることができる。
【0046】
上述したバインダーは、一種類のみを用いてもよいし、二種類以上を適宜組合せて用いてもよい。
【0047】
以下、電解質膜の製造方法について説明する。
【0048】
(電解質膜の製造方法)
本発明の電解質膜10は、特に限定されないが、例えば以下のように製造することができる。電解質膜10は、液状電解質とバインダーを含む第1の層1を形成し、液状電解質を含む第2の層2を形成し、第1の層1が電解質膜10の片側又は両側の最外層に配置されるように第1の層1と第2の層2を積層することで得られる。第1の層1は第1の層形成用電解質組成物を用いて形成することができ、第2の層2は第2の層形成用電解質組成物を用いて形成することができる。
【0049】
<第1の層形成用電解質組成物>
第1の層形成用電解質組成物は液状電解質とバインダーを含む。液状電解質及びバインダーは、上述のものを用いればよい。
【0050】
第1の層形成用電解質組成物は、液状電解質とバインダーを混合することにより作製することができる。或いは、第1の層形成用電解質組成物は、液状電解質をバインダーの溶液若しくはバインダーのディスパージョンに添加した後、さらに溶媒を加えて作製してもよい。溶媒は、バインダーを凝集させないものを用いることができる。具体的には、水、エタノール、メタノール、1−ブタノ−ル、t−ブタノ−ル、プロパノール、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド等を用いることができる。
【0051】
第1の層形成用電解質組成物は、分散機で混合・分散することが好ましい。分散機としては、例えば超音波分散機、ホモゲナイザー、遊星ボールミル、ボールミル分散、スターラー分散等を用いることができる。
【0052】
第1の層形成用電解質組成物における液状電解質の含有量は10重量%以上70重量%未満であることが好ましく、20〜50重量%であることがより好ましい。第1の層形成用電解質組成物における液状電解質の割合が10重量%より少ないとイオン伝導性が乏しいおそれがあり、70重量%より多いと自立性に乏しく、また液状電解質が染み出すおそれがある。また、優れたイオン伝導性を保ちつつ成形性を良好にするという観点から、第1の層形成用電解質組成物において、バインダーの含有量は、30〜90重量%であることが好ましく、50〜80重量%であることがさらに好ましい。本発明において、第1の層形成用電解質組成物における各組成の含有量は、第1の層形成用電解質組成物の固形分と液状電解質のトータル重量に対する各組成の重量の割合をいう。なお、本発明において、バインダーの重量は、バインダーの固形分の重量をいう。
【0053】
<第2の層形成用電解質組成物>
第2の層形成用電解質組成物は、液状電解質を含む。液状電解質としては、上述のものを用いればよい。例えば液状電解質としてイオン液体を用いる場合は、イオン液体をそのまま電解質組成物として用いる。また、イオン液体が二種以上のアニオン成分及び/又はカチオン成分を含む場合は、分散機で混合・分散することが好ましい。分散機としては、上述のものを用いることができる。
【0054】
第2の層形成用電解質組成物は、さらにバインダーを含んでもよい。バインダーとしては、上述のものを用いればよい。第2の形成用電解質組成物がバインダーを含む場合は、第1の層形成用電解質組成物と同様の手法で作製することができる。
【0055】
第2の層形成用電解質組成物における液状電解質の含有量は10〜100重量%であることが好ましく、20〜100重量%であることがより好ましく、30〜100重量%であることが特に好ましい。第2の層形成用電解質組成物における液状電解質の割合が10重量%より少ないとイオン伝導性が乏しいおそれがある。また、優れたイオン伝導性を保ちつつ成形性を良好にするという観点から、第2の層形成用電解質組成物において、バインダーの含有量は90重量%以下であることが好ましく、80重量%以下であることがより好ましく、50重量%以下であることがさらに好ましい。本発明において、第2の層形成用電解質組成物における各組成の含有量は、第2の層形成用電解質組成物の固形分と液状電解質のトータル重量に対する各組成の重量の割合をいう。
【0056】
また、十分なイオン伝導性を得るという観点から、第2の層形成用電解質組成物における液状電解質の含有量は、第1の層形成用電解質組成物における液状電解質の含有量より5重量%以上高いことが好ましく、20重量%以上高いことがより好ましい。
【0057】
<電解質膜の作製>
電解質膜の作製は、特に限定されないが、例えば以下のように行うことができる。
【0058】
(1)まず、第1の層形成用電解質組成物を基材に塗布し、乾燥して第1の層を形成する。次に、基材上に形成した第1の層の主面上に第2の層形成用電解質組成物を塗布し、乾燥して第2の層を形成し、第1の層と第2の層を積層する。或いは、必要に応じて、第1の層と第2の層を積層した後、さらに第2の層の主面上に第1の層形成用電解質組成物を塗布し、乾燥して第2の層の両方の主面上に第1の層を形成する。
(2)まず、第2の層形成用電解質組成物を基材に塗布し、乾燥して第2の層を形成する。次に、基材上に形成した第2の層の主面上に第1の層形成用電解質組成物を塗布し、乾燥して第1の層を形成し、第1の層と第2の層を積層する。或いは、必要に応じて、基材上に形成した第2の層から基材を剥離した後、第2の層の両方の主面上に第1の層形成用電解質組成物を塗布し、乾燥し、第2の層の両方の主面上に第1の層を形成する。
(3)まず、第1の層形成用電解質組成物及び第2の層形成用電解質組成物を各々基材に塗布し、乾燥して第1の層及び第2の層を形成する。次に、基材上に形成した第1の層と基材上に形成した第2の層を、第1の層が電解質膜の片側又は両側の最外層に配置されるように積層する。
なお、上記のいずれの場合でも、基材は第1の層と第2の層を積層する前後において適宜剥離すればよい。
【0059】
電解質組成物の塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、ナイフコーター、バーコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷、圧延法等の方法を適用することができる。
【0060】
乾燥は、熱処理により行うことができる。熱処理温度(乾燥温度)は、好ましくは50〜300℃程度であり、より好ましくは90〜200℃である。熱処理温度が、50℃程度より低いと電解質組成物中に含まれる溶媒が除去できないおそれがあり、300℃程度を超えるとバインダーや液状電解質が熱分解するおそれがある。また、熱処理時間(乾燥時間)は、好ましくは10分〜5時間程度であり、より好ましくは10分〜3時間程度である。
【0061】
基材としては、例えば、高分子フィルム、塗工紙、非塗工紙等を用いることができる。高分子フィルムとしては、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリパルバン酸アラミド、ポリアミド(ナイロン)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレート(PET)等で構成される高分子フィルムを用いることができる。また、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の耐熱性フッ素樹脂で構成される高分子フィルムを用いてもよい。塗工紙としては、例えば、アート紙、コート紙、軽量コート紙等を用いることができ、非塗工紙としては、例えば、ノート用紙、コピー用紙等を用いることができる。中でも、安価で入手が容易な高分子フィルムが好ましく、PETフィルムがより好ましい。
【0062】
また、基材としては、触媒層付電極や触媒転写フィルムを用いることもでき、この場合触媒層側に電解質組成物を塗布してもよい。
【0063】
基材上に形成した第1の層1と基材上に形成した第2の層2の積層は、例えば、第1の層1の主面と第2の層2の主面が接するように重ねることで行うことができる。また、第1の層1の主面と第2の層2の主面が接するように重ねた後、熱プレス、加圧プレス等のプレスを行ってもよい。なお、プレスは特に限定されないが、温度−10〜300℃、圧力0.1〜30MPaの条件で行うことが好ましい。
【0064】
基材の剥離は、通常の方法で行えばよく、特に限定されないが、例えば、180度剥離などにより行うことができる。
【0065】
上記のように、液状電解質とバインダーを含む電解質組成物で第1の層を形成し、液状電解質を含む電解質組成物で第2の層を形成し、第1の層が電解質膜の片側又は両側の最外層に配置されるように第1の層と第2の層を積層し、第1の層における液状電解質の含有量を第2の層における液状電解質の含有量より低くすることで、成形性に優れ、電解質膜からの液状電解質の染み出しを防ぎ、無加湿状態で高いイオン伝導性を有する電解質膜が得られる。
【0066】
[実施形態2]
以下、本発明の実施形態2として、触媒層−電解質膜積層体について説明する。
【0067】
(触媒層−電解質膜積層体)
図2は、本発明の実施形態2に係る触媒層−電解質膜積層体の一例を示す模式的断面図である。触媒層−電解質膜積層体20は、図2に示すように、電解質膜10と、一対の触媒層6、7とを備え、電解質膜10の両方の主面上に触媒層6、7がそれぞれ配置されている。なお、図2では、図1と同一の部分には同一の符合を付けており、重複する説明は省略する。また、図2と図1において同一の部分は、同様の機能を有する。
【0068】
触媒層6、7は、触媒を含有した層であればよく、特に限定されないが、反応場を増加させるという観点から、実施形態1で示した液状電解質を含むことが好ましい。液状電解質は、液状電解質を含む触媒ペーストを用いて触媒層を作製することで触媒層に含ませることができる。或いは、液状電解質を含んでいない触媒層に液状電解質を塗布して含浸させることで、触媒層に液状電解質を含ませてもよい。なお、液状電解質は、触媒層の細孔を塞がない程度で含有されることが好ましい。
【0069】
触媒としては、燃料電池におけるアノード及び/又はカソード反応を促進する物質であればよく、特に限定されない。例えば、白金担持カーボン、白金−ルテニウム担持カーボン、白金−コバルト担持カーボン、金担持カーボン、銀担持カーボン、鉄−コバルト−ニッケル担持カーボン等の金属担持カーボン;白金ブラック、白金−ルテニウムブラック、白金−コバルトブラック、金ブラック、銀ブラック等の金属微粒子;モリブデンカーバイド等の無機物質等を挙げることができる。このうち触媒活性の高い白金担持カーボン、リン酸被毒の少ないモリブデンカーバイド等が好適である。
【0070】
触媒層6、7は、さらにバインダーを含有してもよい。触媒層6、7の形成には、触媒のみでも成形可能であるが、バインダーを添加してペースト化したものを塗工・成形することにより、機械的強度に優れた触媒層を得ることができる。バインダーとしては、例えば、実施形態1で示したバインダーを用いることができる。
【0071】
触媒層6、7の厚みは、電極基材の種類、電解質膜の厚み等を考慮して適宜決定すればよい。触媒層6、7の厚みは、例えば、約20〜3000μm程度、好ましくは、約30〜2000μm程度である。
【0072】
触媒層−電解質膜積層体20は、例えば、触媒を含む触媒ペーストを電解質膜10の両方の主面上に塗布し、乾燥することにより触媒層6、7を形成することで製造できる。また、特に限定されることではないが、カソード側に液状電解質が多いとカソードから生成した水と同時に液状電解質が触媒層へ流れやすいため、電解質膜10における第1の層1をカソード側にするのが好ましい。
【0073】
上記触媒ペーストは、例えば触媒と、液状電解質と、溶媒を含む混合物を、分散機で混合・分散して得られる。分散機としては、超音波分散機、ホモゲナイザー、ボールミル等を用いることができる。上記触媒ペーストがバインダーを含む場合、上記バインダー(固形分)の添加量は、触媒ペースト中の固形分と液状電解質のトータル重量に対して50重量%以下であることが好ましく、40重量%以下であることがより好ましい。この場合、触媒と液状電解質をバインダーの溶液若しくはディスパージョンに添加した後、溶媒を加えて触媒ペーストを作製してもよい。溶媒は、バインダーを凝集させないものが用いられる。具体的には水、エタノール、メタノール、1−ブタノール、t−ブタノール、プロパノール、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド等を用いることができる。
【0074】
触媒ペーストの塗工量としては、例えば、白金担持カーボンを用いる場合、白金担持量として、好ましくは約0.1〜1.0mg/cm2程度、より好ましくは約0.3〜0.6mg/cm2程度である。
【0075】
電解質膜10上への触媒ペーストの塗布方法は、特に限定されるものではなく、例えば、スクリーン印刷、ブレードコート、ダイコート、スプレー塗工、ディスペンサー塗工、インクジェット塗工等を用いることができる。このうち触媒ペーストの作製の簡便さよりスクリーン印刷、ブレードコートを用いるのが好ましい。
【0076】
乾燥は、例えば熱処理により行うことができる。熱処理温度(乾燥温度)は、例えば、約50〜300℃、好ましくは約100〜250℃である。乾燥温度が約50℃より低いと、触媒ペーストに含まれる溶媒が除去できないおそれがある。一方、乾燥温度が約300℃を超えると、液状電解質やバインダーが熱分解するおそれがある。また、乾燥時間は、例えば、約10分〜5時間、好ましくは約10分〜3時間である。
【0077】
本実施形態によれば、良好な成形性を有し、電解質膜からの液状電解質の染み出しを防ぎ、無加湿状態で高いイオン伝導性を有する触媒層−電解質膜積層体を提供することができる。
【0078】
[実施形態3]
以下、本発明の実施形態3として、膜電極接合体について説明する。
【0079】
(膜電極接合体)
図3は、本発明の実施形態3に係る膜電極接合体の一例を示す模式的断面図である。図3に示すように、本発明の実施形態3に係る膜電極接合体30は、実施形態1で示した電解質膜10と、一対の触媒電極16、17とを備え、触媒電極16、17が電解質膜10の両方の主面にそれぞれ配置されている。図3では、図1と同一の部分には同一の符合を付け、重複する説明は省略する。また、図3と図1において同一の部分は、同様の機能を有する。
【0080】
触媒電極16、17は、触媒と多孔質体等ガス拡散性を有する導電材料で構成されており、燃料ガス又は酸化剤ガスが流通できるようになっている。アノード極側触媒電極17は、燃料極であり、カソード極側触媒電極16は、酸化剤極である。燃料極には水素の酸化反応を促進する触媒金属が付着されており、酸化剤極には酸素の還元反応を促進する触媒金属が付着している。
【0081】
触媒電極16、17の厚みは、電極基材の種類、電解質膜の厚み等を考慮して適宜決定すればよい。触媒電極16、17の厚みは、例えば、約20〜3000μm程度、好ましくは、約30〜2000μm程度である。
【0082】
触媒電極16、17は、ガス拡散層と触媒層の2層から構成されていてもよい。ガス拡散層としては、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト等の公知の材料を用いればよい。また、上記の公知の材料に撥水処理を行ったものを用いてもよい。また、ガス拡散層に触媒ペーストを塗工した場合の染み込みを防ぐため平坦化層を設けたガス拡散層を用いてもよい。
【0083】
本実施形態に係る膜電極接合体30は、上記の実施形態1で示した電解質膜10を用い、その両方の主面に触媒電極16,17を圧着等により形成して製造することができる。また、特に限定されることではないが、カソード側に液状電解質が多いとカソードから生成した水と同時に液状電解質が触媒層へ流れやすいため、電解質膜10における第1の層をカソード側にするのが好ましい。
【0084】
本実施形態によれば、良好な成形性を有し、電解質膜からの液状電解質の染み出しを防ぎ、無加湿状態で高いイオン伝導性を有する膜電極接合体を提供することができる。
【0085】
[実施形態4]
以下、本発明の実施形態4として、燃料電池について説明する。
【0086】
(燃料電池)
図4は、本発明の実施形態4に係る燃料電池の一例を示す模式的断面図である。図4に示すように、本発明の実施形態4に係る燃料電池40は、実施形態1で示した電解質膜10と、実施形態3で示した一対の触媒電極16、17と、一対のセパレータ28、29とを備えており、電解質膜10の両方の主面に触媒電極16、17及びセパレータ28、29がそれぞれ順次積層されている。図4では、図1及び図3と同一の部分には同一の符合を付け、重複する説明は省略する。また、図4と図1及び図3において同一の部分は、同様の機能を有する。
【0087】
セパレータ29は、燃料をアノード側触媒電極17に供給するためのものであり、燃料を流通するための燃料流路21を有する。一方、セパレータ28は、酸化剤ガスをカソード側触媒電極16に供給するためのものであり、酸化剤ガスを流通するための酸化剤ガス流路22を有する。
【0088】
セパレータ28、29の材質としては、燃料電池40内の環境においても安定な導電性を有するものであればよい。一般的には、カーボン板に流路を形成したものが用いられる。また、セパレータ28、29は、ステンレススチール等の金属で構成し、その金属の表面にクロム、白金族金属又はその酸化物、導電性ポリマー等の導電性材料からなる被膜を形成したものであってもよい。
【0089】
なお、セパレータ28、29は、燃料電池40を複数個積層して構成した燃料電池に用いる場合、集電体としての機能を有することができる。
【0090】
(燃料電池の動作原理)
燃料流路21により、水素ガス又はメタノール等の水素供給可能な燃料が、アノード側触媒電極17に供給され、この燃料からプロトン(H+)と電子(e-)が生成される。生成されたプロトンは電解質膜10によってカソード側触媒電極16へと搬送される。一方、酸化剤ガス流路22により、空気又は酸素ガス等の酸化剤ガスが、カソード側触媒電極16に供給され、電解質膜10によって搬送されてきたプロトンと外部回路23からくる電子及び酸化剤ガスとが反応して水が生成される。このようにして燃料電池として機能する。
【0091】
本実施形態に係る燃料電池40は、燃料電池の作製に用いられる公知の技術を用いて、電解質膜10の両方の主面に触媒電極16、17及びセパレータ28、29を順次積層することにより、製造することができる。
【0092】
本実施形態によれば、良好な成形性を有し、電解質膜からの液状電解質の染み出しを防ぎ、無加湿状態で高いイオン伝導性を有する電解質膜を用いることにより、安定性に優れ、高性能な燃料電池を提供することができる。
【実施例】
【0093】
以下において、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更実施可能である。
【0094】
(実施例1)
液状電解質として、イオン液体である1−エチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(フルオロスルホニル)イミド(三菱マテリアル株式会社製、以下においてEMIm−SFIとも記す。)を用いた。バインダーとして、M.L.Di Vona et al、Polymer 46(2005)1754−1758頁に記載されている方法に基づいて下記のように合成したスルホン化ポリエーテルエーテルケトン(以下において、SPEEKとも記す。)を用いた。
【0095】
<バインダーの製造例1>
還流冷却管の付いた500mlの丸底フラスコにポリエーテルエーテルケトン(VICTREX社製、以下においてPEEKとも記す。)5gと、96%濃硫酸250mlとを入れ、オイルバス中で50℃に保ち、撹拌しながら18時間還流させた。その後、反応混合物をガラスフィルターでろ過し、ろ取した固形物を純水にて洗浄した。ろ液が中性付近になるまで洗浄を繰り返した後、固形物を50℃で24時間乾燥し、その後60℃で6時間真空乾燥してSPEEKを得た。
【0096】
得られたSPEEK1gとDMA(N’N−ジメチルアセトアミド)20gを混合し、オイルバス中で50℃に保ち、24時間撹拌し、SPEEK溶液を作製した。
【0097】
<第1の層形成用電解質組成物>
上記で得られたSPEEK溶液18gとイオン液体(EMIm−SFI)0.1gを分散機で混合・分散して第1の層形成用電解質組成物を作製した。
【0098】
<第2の層形成用電解質組成物>
上記で得られたSPEEK溶液14gとイオン液体(EMIm−SFI)0.3gを分散機で混合・分散して第2の層形成用電解質組成物を作製した。
【0099】
<電解質膜の作製>
第1の層形成用電解質組成物をブレードコーターでPETフィルム(厚み:25μm)上に塗工し、約95℃で約60分間乾燥して厚み10μmの第1の層を形成した。次いで、第2の層形成用電解質組成物をブレードコーターでPETフィルム(厚み:25μm)上に塗工し、約95℃で約60分間乾燥して厚み50μmの第2の層を形成した。次いで、第2の層からPETフィルムを剥離した後、第2の層を第1の層で挟むように、第1の層を第2の層の両方の主面に重ねて積層し、第1の層からPETフィルムを剥離し、イオン伝導性電解質膜を得た。
【0100】
(実施例2)
液状電解質として、イオン液体である1−エチル−3−メチルイミダゾリウム トリフラート(メルク株式会社製、以下においてEMIm−TfOとも記す。)を用いた。
【0101】
<バインダー>
実施例1と同様にしてSPEEK溶液を得た。
【0102】
<第1の層形成用電解質組成物>
上記で得られたSPEEK溶液16gとイオン液体(EMIm−TfO)0.2gを分散機で混合・分散して第1の層形成用電解質組成物を作製した。
【0103】
<第2の層形成用電解質組成物>
上記で得られたSPEEK溶液6gとイオン液体(EMIm−TfO)0.7gを分散機で混合・分散して第2の層形成用電解質組成物を作製した。
【0104】
<電解質膜の作製>
上記で得られた第1の層形成用電解質組成物と第2の層形成用電解質組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、イオン伝導性電解質膜を得た。
【0105】
(実施例3)
液状電解質として、イオン液体である1−エチル−3−メチルイミダゾリウム 硫酸水素塩(メルク株式会社製、以下においてEMIm−HSO4-とも記す。)を用いた。
【0106】
<バインダー>
実施例1と同様にしてSPEEK溶液を得た。
【0107】
<第1の層形成用電解質組成物>
上記で得られたSPEEK溶液16gとイオン液体(EMIm−HSO4-)0.2gを分散機で混合・分散して第1の層形成用電解質組成物を作製した。
【0108】
<第2の層形成用電解質組成物>
上記で得られたSPEEK溶液8gとイオン液体(EMIm−HSO4-)0.6gを分散機で混合・分散して第2の層形成用電解質組成物を作製した。
【0109】
<電解質膜の作製>
上記で得られた第1の層形成用電解質組成物と第2の層形成用電解質組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、イオン伝導性電解質膜を得た。
【0110】
(実施例4)
液状電解質として、第1の層にはイオン性液体であるEMIm−SFI(三菱マテリアル株式会社製)を用い、第2の層にはイオン性液体であるEMIm−TfO(メルク株式会社製)を用いた。
【0111】
<バインダー>
実施例1と同様にしてSPEEK溶液を得た。
【0112】
<第1の層形成用電解質組成物>
上記で得られたSPEEK溶液16gとイオン液体(EMIm−SFI)0.2gを分散機で混合・分散して第1の層形成用電解質組成物を作製した。
【0113】
<第2の層形成用電解質組成物>
上記で得られたSPEEK溶液8gとイオン液体(EMIm−TfO)0.6gを分散機で混合・分散して第2の層形成用電解質組成物を作製した。
【0114】
<電解質膜の作製>
上記で得られた第1の層形成用電解質組成物と第2の層形成用電解質組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、イオン伝導性電解質膜を得た。
【0115】
(実施例5)
液状電解質として、イオン液体であるEMIm−TfO(メルク株式会社製)を用いた。
【0116】
<バインダー>
実施例1と同様にしてSPEEK溶液を得た。
【0117】
<第1の層形成用電解質組成物>
上記で得られたSPEEK溶液10gとイオン液体(EMIm−TfO)0.5gを分散機で混合・分散して第1の層形成用電解質組成物を作製した。
【0118】
<第2の層形成用電解質組成物>
上記で得られたSPEEK溶液8gとイオン液体(EMIm−TfO)0.6gを分散機で混合・分散して第2の層形成用電解質組成物を作製した。
【0119】
<電解質膜の作製>
上記で得られた第1の層形成用電解質組成物と第2の層形成用電解質組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、イオン伝導性電解質膜を得た。
【0120】
(実施例6)
液状電解質として、イオン液体であるEMIm−HSO4-(メルク株式会社製)を用いた。
【0121】
<バインダー>
実施例1と同様にしてSPEEK溶液を得た。
【0122】
<第1の層形成用電解質組成物>
上記で作製したSPEEK溶液を16gとイオン液体(EMIm−HSO4-)0.2gを分散機で混合・分散して第1の層形成用電解質組成物を作製した。
【0123】
<第2の層形成用電解質組成物>
イオン液体(EMIm−HSO4-)をそのまま第2の層形成用電解質組成物として用いた。
【0124】
<電解質膜の作製>
第1の層形成用電解質組成物をブレードコーターでPETフィルム(厚み:25μm)上に塗工し、約95℃で60分間乾燥して厚み10μmの第1の層を形成した。次いで、第1の層の片側の主面に第2の層形成用電解質組成物をブレードコーターで塗工し、約95℃で60分間乾燥して厚み50μmの第2の層を形成し、第1の層と第2の層の積層物を形成した。次いで、第1の層形成用電解質組成物をブレードコーターでPETフィルム(厚み:25μm)上に塗工し、約95℃で60分間乾燥して厚み10μmの第1の層を形成した。次いで、第2の層を第1の層で挟むように、第1の層と第2の層の積層物の第2の層の主面上に第1の層を重ねて積層した後、第1の層からPETフィルムを剥離し、イオン伝導性電解質膜を得た。
【0125】
(実施例7)
液状電解質として、イオン液体であるEMIm−TfO(メルク株式会社製)を用いた。
【0126】
<バインダー>
実施例1と同様にしてSPEEK溶液を得た。
【0127】
<第1の層形成用電解質組成物>
上記で得られたSPEEK溶液16gとイオン液体(EMIm−TfO)0.2gを分散機で混合・分散して第1の層形成用電解質組成物を作製した。
【0128】
<第2の層形成用電解質組成物>
上記で得られたSPEEK溶液6.6gとイオン液体(EMIm−TfO)0.67gを分散機で混合・分散して第2の層形成用電解質組成物を作製した。
【0129】
<電解質膜の作製>
第1の層形成用電解質組成物をブレードコーターでPETフィルム(厚み:25μm)上に塗工し、約95℃で約60分間乾燥して厚み15μmの第1の層を形成した。次いで、第2の層形成用電解質組成物をブレードコーターでPETフィルム(厚み:25μm)上に塗工し、約95℃で約60分間乾燥して厚み75μmの第2の層を形成した。次いで、第2の層からPETフィルムを剥離した後、第2の層を第1の層で挟むように、第1の層を第2の層の両方の主面に重ねて積層し、第1の層からPETフィルムを剥離し、イオン伝導性電解質膜を得た。
【0130】
(実施例8)
<液状電解質>
アルゴン雰囲気のグローブボックス中で、東京化成工業社製のイミダゾル(Imidazole、以下においてImと記す。)と、和光純薬工業社製のHTFSIを4:1のモル比でゆっくり混合し、イミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(以下において、Im4-HTFSIと記す。)を得た。
【0131】
液状電解質として上記で得られたIm4-HTFSIを用いた以外は、実施例3と同様にしてイオン伝導性電解質膜を得た。
【0132】
(実施例9)
<液状電解質>
アルゴン雰囲気のグローブボックス中で、東京化成工業社製の2−エチルイミダゾル(2−ethylimidazole、以下においてEtImと記す。)と、和光純薬工業社製のHTFSIを4:1のモル比でゆっくり混合し、2−エチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(以下において、EtIm4-HTFSIと記す。)を得た。
【0133】
液状電解質として上記で得られたEtIm4-HTFSIを用いた以外は、実施例3と同様にしてイオン伝導性電解質膜を得た。
【0134】
(比較例1)
実施例1で第1の層形成用電解質組成物として用いた電解質組成物をブレードコーターでPETフィルム(厚み:25μm)上に塗工し、約95℃で約60分間乾燥した後、PETフィルムを剥離し、厚み60μmのイオン伝導性電解質膜を得た。
【0135】
(比較例2)
実施例4で第1の層形成用電解質組成物として用いた電解質組成物をブレードコーターでPETフィルム(厚み:25μm)上に塗工し、約95℃で約60分間乾燥した後、PETフィルムを剥離し、厚み70μmのイオン伝導性電解質膜を得た。
【0136】
(比較例3)
実施例2で第2の層形成用電解質組成物として用いた電解質組成物をブレードコーターでPETフィルム(厚み:25μm)上に塗工し、約95℃で約60分間乾燥した後、PETフィルムを剥離し、厚み60μmのイオン伝導性電解質膜を得た。しかし、自立性がなくハンドリングが困難であった。また、目視でイオン液体がイオン伝導性電解質膜の表面に染み出しているのが確認された。
【0137】
実施例及び比較例で得られた電解質膜のイオン伝導度を以下の方法により測定し、その結果を下記表1に示した。なお、表1には、用いた液状電解質及びその含有量についても示した。
【0138】
(イオン伝導度測定)
電解質膜に対し、電気化学測定装置(1255WB型、Solartron社製)で交流インピーダンス負荷を行い、160℃の温度かつ無加湿環境下でのプロトン伝導度を測定した。
【0139】
【表1】

【0140】
実施例1〜9で得られた電解質膜は、いずれも160℃の温度かつ無加湿環境下でのプロトン導電率が比較例1又は比較例2よりも高い。また、実施例1〜9で得られた電解質膜では、比較例3で観察されたようなイオン液体の染み出しが目視で確認されなかった。また、実施例1〜9で得られた電解質膜は、比較例3の電解質膜に比べて成形性に優れ、自立性があった。
【0141】
以上のことから、本発明の電解質膜は、良好な成形性を有し、電解質膜からの液状電解質の染み出しもなく、無加湿状態で高いイオン伝導性を有することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明は、イオン伝導性電解質膜及びそれを用いた燃料電池に関連した技術分野に好適に適用され得る。
【符号の説明】
【0143】
1、1a、1b、1c 第1の層
2、2a、2b 第2の層
6、7 触媒層
10 電解質膜
16 カソード側触媒電極
17 アノード側触媒電極
20 触媒層−電解質膜積層体
21 燃料流路
22 酸化剤ガス流路
23 外部回路
28、29 セパレータ
30 膜電極接合体
40 燃料電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状電解質を含む電解質膜であって、
少なくとも第1の層と第2の層を含み、
前記電解質膜の片側又は両側の最外層には第1の層が配置され、
前記第1の層は液状電解質とバインダーを含み、前記第2の層は液状電解質を含み、
前記第1の層における液状電解質の含有量が前記第2の層における液状電解質の含有量より低いことを特徴とする電解質膜。
【請求項2】
前記第1の層が前記電解質膜の両側の最外層に配置されている請求項1に記載の電解質膜。
【請求項3】
前記第2の層における液状電解質の含有量が、前記第1の層における液状電解質の含有量より5重量%以上大きい請求項1又は2に記載の電解質膜。
【請求項4】
前記第2の層がさらにバインダーを含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の電解質膜。
【請求項5】
前記液状電解質が、イオン液体である請求項1〜4のいずれか1項に記載の電解質膜。
【請求項6】
前記液状電解質が、プロトン供与性及び/又はプロトン受容性を有するイオンを含むイオン液体である請求項1〜5のいずれか1項に記載の電解質膜。
【請求項7】
前記イオン液体において、アニオン成分がトリフルオロメタンスルホネートである請求項5又は6に記載の電解質膜。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の電解質膜と、一対の触媒層とを備え、
前記電解質膜の両方の主面上に前記触媒層がそれぞれ配置されていることを特徴とする触媒層−電解質膜積層体。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の電解質膜と、一対の触媒電極とを備え、
前記電解質膜の両方の主面上に前記触媒電極がそれぞれ配置されていることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の電解質膜と、一対の触媒電極と、一対のセパレータとを備え、前記電解質膜の両方の主面上に前記触媒電極と前記セパレータとがこの順番でそれぞれ積層されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項11】
液状電解質を含む電解質膜の製造方法であって、
液状電解質とバインダーを含む第1の層を形成する工程と、
液状電解質を含む第2の層を形成する工程と、
前記第1の層が前記電解質膜の片側又は両側の最外層に配置されるように前記第1の層と前記第2の層を積層する工程とを含み、
前記第1の層における液状電解質の含有量が前記第2の層における液状電解質の含有量より低いことを特徴とする電解質膜の製造方法。
【請求項12】
前記第1の層が前記電解質膜の両側の最外層に配置されている請求項11に記載の電解質膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−195194(P2012−195194A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59024(P2011−59024)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】