説明

電解質膜の製造方法

【課題】ネックインやシワ、たわみなどの変形を抑制し、薄膜化が可能な電解質膜の製造方法を提供する。
【解決手段】所定の間隔を空けて配置された少なくとも2つの接着層を同一の面に備える支持材を用意し、接着層の間を跨ぐように前記接着層上に電解質膜を配置して、接着層の間を切断する。前記電解質膜は少なくとも片面に補強材を備える。切断された前記電解質膜に電解質を含浸して、イオン導電性を付与する。前記支持材は接着層の間を切断された後再利用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(以下、単に「燃料電池」と呼ぶ)は、電解質膜の両面に電極が配置された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly、MEA)を備える。燃料電池に用いられる電解質膜は、イオン伝導性を向上させるために薄膜化される傾向にあるが、薄膜化された電解質膜は、機械的強度が低いため、加工性や取り扱い性等が低下する。そこで、このような薄い電解質膜の搬送を行う場合等には、電解質膜の全面に高剛性のバックアップフィルム等の支持材を密着させることで、加工性や取り扱い性等を向上させている。
【0003】
しかし、このような支持材と電解質膜とを全面で密着させると、支持材から電解質膜を剥離する際に、電解質膜に引っ張り応力がかかることによって電解質膜に膜幅方向の収縮(以下、「ネックイン」ともいう)やシワ、たわみなどの変形が生じることがあった。電解質膜の変形を抑制する技術として、例えば、特許文献1には、電解質膜の外周部分を補強用面状材によって保持する技術が開示されている。しかし、この技術では、燃料電池の発電の際に生じる電解質膜の膨潤・収縮によるシワなどの発生を抑制することを図っているものの、補強用面状材の中央部分を電解質膜から剥離する際に生じる電解質膜のネックインやシワ、たわみなどの変形については考慮されていなかった。かかる問題は、固体高分子形燃料電池に限らず、薄い電解質膜を用いた燃料電池、例えば、ダイレクトメタノール形燃料電池などにも共通する問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−027227号公報
【特許文献2】特開2002−280012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の問題を考慮し、本発明が解決しようとする課題は、ネックインやシワ、たわみなどの変形を抑制可能な電解質膜の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]電解質膜の製造方法であって、所定の間隔を空けて配置された少なくとも2つの接着層を同一の面に備える支持材を用意する第1工程と、前記接着層の間を跨いで前記接着層上に電解質膜を配置する第2工程と、前記接着層上に配置された前記電解質膜を前記接着層の間で切断する第3工程と、を備える製造方法。
【0008】
このような製造方法であれば、支持材は所定の間隔を空けて配置された少なくとも2つの接着層を同一の面に備えており、その接着層の間を跨いで電解質膜が配置される。したがって、その接着層の間を切断して電解質膜を得ることで、電解質膜にネックインやシワ、たわみなどの変形が生じることを軽減することができる。
【0009】
[適用例2]適用例1に記載の製造方法であって、前記電解質膜は少なくとも片面に補強材を備える、製造方法。このような製造方法であれば、電解質膜の強度を補強材によって補うことができる。
【0010】
[適用例3]適用例1または適用例2に記載の製造方法であって、切断された前記電解質膜に電解質を含浸して、イオン伝導性を付与する、製造方法。このような製造方法であれば、切断された補強材および電解質膜に電解質を含浸して、イオン伝導性を付与することで燃料電池の電解質膜として利用できる。
【0011】
[適用例4]適用例1から適用例3までのいずれか一の適用例に記載の製造方法であって、さらに前記第3工程後に前記支持材上に残存した前記電解質膜を剥離する第4工程を備え、前記第4工程で前記電解質膜が剥離された前記支持材を前記第1工程で用意する支持材として用いる、製造方法。このような製造方法であれば、支持材上に残存した電解質膜を剥離するので、支持材を電解質膜の製造に再利用することができる。その結果、電解質膜の製造にかかるコストを低減することができる。
【0012】
本発明は、上述した電解質膜の製造方法のほか、種々の形態で実現することが可能である。例えば、電解質膜の製造装置、電解質膜を備えた膜電極接合体や、膜電極接合体を備えた燃料電池、燃料電池を備えた燃料電池システム、燃料電池システムを搭載した車両等の形態で実現することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態としての製造方法により製造された電解質膜を備える燃料電池の概略構成を示す部分断面図である。
【図2】電解質膜の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】ステップS10を説明するための模式図である。
【図4】ステップS20を説明するための模式図である。
【図5】ステップS40を説明するための模式図である。
【図6】ステップS70を説明するための模式図である。
【図7】支持材を再利用する様子を示した模式図である。
【図8】電解質膜のネックイン量の測定結果を示した図である。
【図9】燃料電池のサイクル数とクロスリーク量の関係を示した図である。
【図10】接着層の上で補強材と電解質膜材前駆体を切断する様子を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
A.電解質膜を備える燃料電池の構成:
図1は、本発明の一実施形態としての製造方法によって製造された電解質膜を備える、燃料電池100の概略構成を示す部分断面図である。この燃料電池100は、反応ガスとして燃料ガス(例えば水素)と酸化剤ガス(例えば酸素)の供給を受けて発電する固体高分子形燃料電池である。燃料電池100は、複数の単セル30が積層されたスタック構造を有する。
【0015】
単セル30は、電解質膜10と、電解質膜10の両面にそれぞれ形成されるアノード側電極31aおよびカソード側電極31cと、を有する膜電極接合体20を備える。膜電極接合体20は、一方の面にアノード側ガス拡散層32aを、もう一方の面にカソード側ガス拡散層32cを備えており、アノード側ガス拡散層32aはアノード側セパレータ33aと、カソード側ガス拡散層32cはカソード側セパレータ33cと隣接している。アノード側ガス拡散層32aとアノード側セパレータ33aの間には、燃料ガス流路34aが、カソード側ガス拡散層32cとカソード側セパレータ33cとの間には、酸化剤ガス流路34cが形成されている。
【0016】
電解質膜10は、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を示すフッ素樹脂系のイオン交換膜であり、本実施形態においては電解質膜材11のアノード側の面に補強材12aが配置され、カソード側の面に補強材12cが配置された三層構造を有している。電解質膜10を構成する電解質膜材11は、固体高分子材料としてのフッ素系スルホン酸ポリマーにより形成された高分子電解質膜であり、湿潤状態において良好なプロトン伝導性を有する。本実施形態では、電解質膜材11として、ナフィオン(デュポン社製:登録商標)を用いる。補強材12aおよび12cは、プロトン伝導性を有する層であり、電解質膜材11を補強する部材である。本実施形態では補強材12aおよび12cとして、薄膜状に形成されたPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を用いる。以降、補強材12aおよび12cをまとめて単に補強材12とも記す。
【0017】
アノード側電極31aおよびカソード側電極31cは、白金や白金合金などの触媒を担持したカーボン粒子と、プロトン伝導性を示す固体高分子形電解質樹脂とを含んでいる。アノード側ガス拡散層32aおよびカソード側ガス拡散層32cは、ガス透過性を有するとともに導電性を有する材料で形成されている。アノード側ガス拡散層32aおよびカソード側ガス拡散層32cの材料としては、例えばカーボンペーパーやカーボンクロスなどの炭素系多孔質体や、金属メッシュ、発泡金属などの金属多孔質体を用いることができる。
【0018】
アノード側セパレータ33aおよびカソード側セパレータ33cは、ガス遮断性および電子伝導性を有する部材によって形成されている。本実施形態では、アノード側セパレータ33aおよびカソード側セパレータ33cは、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボンによって形成されている。なお、アノード側セパレータ33aおよびカソード側セパレータ33cは、緻密質カーボン等のカーボン製部材の他に、プレス成形されたステンレス鋼などの金属部材によって形成することができる。
【0019】
燃料ガス流路34aはアノード側ガス拡散層32aとアノード側セパレータ33aの間に、酸化剤ガス流路34cはカソード側ガス拡散層32cとカソード側セパレータ33cとの間にそれぞれ形成されている。燃料ガス流路34aは水素(H2)ガスの流炉として、酸化剤ガス流路34cは酸素(O2)ガスの流路である。
【0020】
B.電解質膜の製造方法:
図2は、補強材12を備える電解質膜10の製造方法を示すフローチャートである。図3〜図5は、図2のフローチャートに示されたステップS10からステップS40を説明するための模式図である。具体的には、図3は、ステップS10を説明するための模式図であり、図4(a)〜(c)は、ステップS20の工程を説明するための模式図である。また、図5(a)および(b)は、ステップS40を説明するための模式図である。ステップS10は本願の第1工程に、ステップS20は第2工程に、ステップS40は第3工程にそれぞれ対応している。
【0021】
ステップS10では、図3に示すように、所定の間隔を空けて配置された2つの接着層3を同一の面に備える支持材4を用意する。支持材4は、電解質膜10の備える補強材12よりも剛性が高いという性質を有し、補強材12や電解質膜材11の形状を保持してネックインやシワ、たわみなどの変形なく搬送するための搬送材として用いられる。支持材4は、例えば、フィルム状に形成されたPET(ポリエチレンテレフタラート)、PP(ポリプロピレン)、PEI(ポリエーテルイミド)、PI(ポリイミド)、フッ素樹脂などのバックアップフィルムを用いることができる。接着層3は、補強材12aと支持材4とを接着させるために用いられる。接着層3が支持材4上に配置される間隔(一方の接着層3の最端部から、他方の接着層3の最端部までをいい、図3に「L1」で示した長さを意味する)は、後述するステップS40において、支持材4から電解質膜10を切断する幅(例えば、図3に「L2」で示した長さ)よりも広い間隔である。接着層3は、例えばシリコーンゴムを基材とした幅数mmから20mmのテープを用いることができる。接着層3としては、その他、天然ゴムや、アクリル酸エステル共重合体などを基材としたテープを用いてもよい。
【0022】
接着層3を同一の面に備える支持材4を用意した後、ステップS20では、接着層3上に補強材12および電解質膜材11の前駆体を配置する。電解質膜材11の前駆体(以降、電解質膜材前駆体11fとも記す)とは、イオン伝導性が付与される前の電解質膜材11を意味する。ステップS20においては、具体的には、例えば、図4(a)に示すように、接着層3の間を跨いで補強材12aを配置する。補強材12aは、支持材4の高い剛性により、支持材4上に接着層3を介してネックインやシワ、たわみなどの変形なく配置される。接着層3を備える支持材4上に配置された補強材12aの上には、電解質膜材前駆体11fが配置される(図4(b))。電解質膜材前駆体11fは、例えば押出成形により、補強材12a上に配置することができる。電解質膜材11の両面を補強する場合は、電解質膜材11上に、さらに補強材12cを貼りあわせる(図4(c))。このように設置された電解質膜材前駆体11fおよび補強材12(12aおよび12c)は、接着層3の間において、支持材4と密着していない箇所が存在する。
【0023】
支持材4上に接着層3の間を跨いで補強材12および電解質膜材前駆体11fが配置されると、補強材12および電解質膜材前駆体11fは、支持材4により所定の加工位置まで搬送される(ステップS30)。補強材12および電解質膜材前駆体11fの搬送は、支持材4の高い剛性により、ネックインやシワ、たわみなどの変形が抑制された状態で行われる。
【0024】
ステップS40では、ステップS20において支持材4上の接着層3の間を跨いで配置された補強材12と電解質膜材前駆体11fとを、例えばカッター9で切断する。図5(a)に示すように、補強材12と電解質膜材前駆体11fを備える積層体を切断する箇所は、接着層3の間において、支持材と密着していない箇所である。また、その切断する幅は、図3および図5(a)において「L2」で示した幅である。したがって、切断された補強材12と電解質膜材前駆体11fを備える積層体は、図5(b)に示すように、接着層3および支持材4を有していない。また、補強材12と電解質膜材前駆体11fを備える積層体を切断するカッター9の先端の侵入深さは、図5(a)に示すように支持材4にカッター9が接していない深さである。したがって、本実施形態においては、補強材12と電解質膜材前駆体11fを備える積層体の切断によって、支持材4にダメージが与えられていない。なお、補強材12と電解質膜材前駆体11fを備える積層体は、図5(b)に示すように切断した後に支持材4から分離されても、電解質膜材前駆体11fがある程度の粘着力を有しているので、積層体としての形状を保つ程度に一体化している。
【0025】
以上のステップS10からステップS40を行えば、補強材12と電解質膜材前駆体11fが積層された電解質膜10を得ることができる。本実施形態において得られる補強材12と電解質膜材前駆体11fが積層された電解質膜10は、支持材4上の2箇所の接着層3の間において図3および図5(a)で「L2」で示した幅を支持材4と密着していない箇所において切断するため、図5(b)に示すように、接着層3および支持材4を備えていない。
【0026】
次に、上記ステップS40で得られた補強材12および電解質膜材前駆体11fが積層された電解質膜10に電解質を含浸する(ステップS50)。電解質の含浸は、例えば、補強材12および電解質膜材前駆体11fが積層された電解質膜10に電解質材を含む溶液を塗布した後、搬送用ロール上で熱を加えることにより行う。電解質としては、例えばフッ素系スルホン酸ポリマーなどの電解質ポリマーを用いることができる。その後、電解質を含浸した電解質膜10にイオン伝導性を付与する(ステップS60)。イオン伝導性は、例えば、まずアルカリ溶液(NaOH溶液)に、ステップS50において電解質を含浸した補強材12および電解質膜材前駆体11fが積層された電解質膜10を浸漬して、補強材12および電解質膜材前駆体11fが有する−SO2F基を−SO3Na基に変性させる。その後、それらを水洗して酸性溶液(H2SO4溶液およびH2NO3溶液)に浸漬して−SO3Na基を−SO3H基へ変性させることによって、付与することができる。
【0027】
ステップS50からステップS60を行えば、電解質が含浸され、イオン伝導性が付与された電解質膜10を得ることができる。この電解質膜10の両面に、アノード側電極31a、カソード側電極31cを形成することにより、図1に示す膜電極接合体20を得ることができる。
【0028】
C.支持材の再利用を伴う電解質膜の製造方法:
図6は図2のフローチャートに示されたステップS70を説明するための模式図である。ステップS70では、ステップS40において電解質膜10を切断した後に図6(a)に示すように支持材4上に残存した補強材12a、電解質膜材前駆体11f、補強材12c(以降、支持材4上に残存した補強材12a、電解質膜材前駆体11f、補強材12cをまとめて「端材」ともいう)を、接着層3から剥離する。なお、ステップS70は本願の第4工程に対応する。端材が剥離されると、支持材4上には接着層3のみが残るため(図6(b))、端材が剥離された支持材4を上記ステップS10で用いる支持材4として再利用することができる。
【0029】
図7は、ステップS10からステップS70を行うことで支持材4を再利用する様子を示した模式図である。上記のような電解質膜10の製造方法であれば、図7に示すように電解質膜10を製造する工程で、接着層3を備える支持材4をベルトコンベアやラインコンベアで循環させて電解質膜10を製造することができる。したがって、接着層3を備える支持材4をステップS10において毎回用意する必要がなくなり、作業性を向上させることができる。また、比較的高価な支持材4を電解質膜10の製造に再利用することができるため、電解質膜10の製造コストを低減することができる。なお、接着層3の接着力が、補強材12を接着するために十分な接着力でなくなった場合には、ステップS70において支持材4から十分な接着力でなくなった接着層3をいったん剥離した後に、その支持材4にあらたな接着層3を配置して循環させることもできる。
【0030】
D.実験結果:
図8は、本実施形態において作製した電解質膜10と比較対象の電解質膜とのネックイン量の測定結果を示した図である。比較対象の電解質膜は支持材4と全面で密着した電解質膜であり、次のように作製した。まず、支持材4上にフィルム状の接着層3を全面に貼り合わせ、その上に直接補強材12a、電解質膜材前駆体11f、補強材12cの順に重ね合わせて、図3および図5(a)において「L2」で示した幅をカッター9で切断した。次に、フィルム状の接着層3が全面に貼り合わせられた支持材4から、補強材12aと電解質膜材前駆体11fと補強材12cが重ねて貼り合わされた電解質膜を剥離した。この剥離した電解質膜を比較対象の電解質膜とした。電解質膜のネックイン量は、それぞれの電解質膜をカッター9で切断する幅(カット幅)を基準として、作製後の電解質膜の幅を測定することにより、基準に対して収縮した割合を以下の式(1)にて算出した。
【0031】
((カット幅−作製後の電解質膜の幅)/カット幅)×100 …(1)
【0032】
図8に示すように、比較対象の電解質膜のネックイン量は約15%であるのに対して、本実施形態の電解質膜10のネックイン量は1%未満である。この結果から、本実施形態において作製した電解質膜10は、比較対象の電解質膜よりもネックイン量が大幅に減少することがわかる。
【0033】
図9は、本実施形態において作製した電解質膜10を備える燃料電池100を「本実施形態品」、比較対象の電解質膜を備える燃料電池を「比較対象品」として、それぞれの燃料電池のサイクル数とクロスリーク量の関係を示した図である。サイクル数とは、燃料電池の高温状態と低温状態を1サイクルとした場合の繰り返し回数であり、具体的には、燃料電池の起動と停止を1サイクルとした場合の繰り返し回数を意味する。クロスリーク量とは、アノードとカソードとの間のガスのリーク量(透過量)であり、図9では、単セル30におけるクロスリーク量を示している。図9に示すように、本実施形態の電解質膜10を用いた燃料電池100は、比較対象の電解質膜を用いた燃料電池と比べると、サイクル数の増加に伴うクロスリーク量の増加が抑制されていた。
【0034】
燃料電池の高温状態と低温状態を繰り返すと電解質膜も収縮・膨潤を繰り返すが、電解質膜がネックインやシワ、たわみなどにより変形している箇所は強度が弱いことから、そのような箇所においては電解質膜が劣化してクロスリークが生じやすい。本実施形態の電解質膜10を用いた燃料電池100は、比較対象の電解質膜を用いた燃料電池と比べて電解質膜のネックイン量が少ないために、サイクル数が増加しても電解質膜の劣化が少なく、クロスリーク量の増加が抑制されたと考えられる。
【0035】
以上説明したように、本実施形態の電解質膜10の製造方法によれば、電解質膜10は、支持材4を用いて搬送されるので、搬送中のネックインやシワ、たわみなどの変形を抑制することができる。また、電解質膜10は、支持材4上の2箇所の接着層3上に配置され、接着層3の間において切断されるので、電解質膜10から支持材4を剥離する際に生じる電解質膜10のネックインやシワ、たわみなどの変形も抑制することができる。その結果、本実施形態の電解質膜10を備える燃料電池は、高温状態と低温状態を繰り返しても、クロスリーク量が少なく、耐久性が高い。さらに、本実施形態の電解質膜10の製造方法は、比較的高価な支持材4を電解質膜10の製造に再利用することが可能である。そのため、電解質膜10の製造コストを低減することができる。すなわち、本実施形態の電解質膜10の製造方法は、電解質膜10の品質の向上と、製造コストの低減とを同時に達成することができる。
【0036】
E.変形例:
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこのような実施形態に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の構成を採ることができる。例えば、以下のような変形が可能である。
【0037】
上述した電解質膜の製造方法では、電解質膜材11として、ナフィオンを用いたが、電解質膜材11はこれに限定されず、例えば、アシプレックス(登録商標)、フレミオン(登録商標)等の他のフッ素系スルホン酸膜を用いることができる。また、電解質膜材11として、フッ素系ホスホン酸膜、フッ素系カルボン酸膜、フッ素炭化水素系グラフト膜、炭化水素系グラフト膜、芳香族膜等が用いられてもよい。
【0038】
上述した電解質膜の製造方法では、補強材12として、PTFEフィルムを用いたが、補強材12はこれに限定されず、耐酸性、アルカリ性の素材で形成することができ、例えば、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)などのフッ素系樹脂で形成することができる。また、補強材12は、電解質膜材11を部分的に補強する形状(例えば、電解質膜材11を部分的に補強する格子状の形状や、電解質膜の外周部を補強する形状)であってもよい。
【0039】
上述した電解質膜の製造方法におけるステップS10では、図3に示すように「L1」の間隔を空けて2つの接着層3を備える支持材4を用意したが、支持材4が備える接着層3の数はこれに限らない。例えば、4つの接着層3を矩形状に備える支持材4を用意することもできる。
【0040】
上述した電解質膜の製造方法におけるステップS20では、接着層3上に補強材12aを設置し、その上に電解質膜材前駆体11fを設置してさらに補強材12cを設置したが、接着層3上に補強材12および電解質膜材前駆体11fを設置する順番はこれに限らない。設置する順番は、接着層3上に電解質膜材前駆体11fを設置し、その上に補強材12aを設置する順番でもよい。また、ステップS20では、十分な強度を有する電解質膜材11(例えば、厚さ30μm程度の電解質膜材11)であれば、補強材12の設置を省略することができる。
【0041】
上述した電解質膜の製造方法におけるステップS40では、補強材12と電解質膜材前駆体11fを備える積層体を、接着層3の間でかつ接着層3に接していない箇所において切断したが、切断箇所は、一方の接着層3の最端部から、他方の接着層3の最端部までであれば、接着層3の上であってもかまわない。図10は、接着層3の上で補強材12と電解質膜材前駆体11fを切断する様子を示した図である。このような場合でも、上述した比較対象の電解質膜の製造方法のように補強材12aの全面に接着層3や支持材4が貼りあわされていないので、接着層3を剥離する際に生じるネックインやシワ、たわみなどの変形を抑制することができる。なお、接着層3と支持材4の接着力の方が、接着層3と補強材12との接着力よりも大きいと、接着層3は支持材4上に残るので、図7に示すように接着層3を備える支持材4を電解質膜の製造に容易に再利用することができる。
【0042】
上述した電解質膜の製造方法におけるステップS40では、補強材12と電解質膜材前駆体11fを備える積層体を切断するカッター9の先端の侵入深さは、支持材4にカッター9が触れることがない深さであったが、カッター9の先端の侵入深さは支持材4の剛性を保つことができる程度の深さであれば、支持材4に触れる深さであってもよい。このような深さで支持材4上の補強材12と電解質膜材前駆体11fを備える積層体を切断しても、支持材4の再利用が可能である。
【符号の説明】
【0043】
3…接着層
4…支持材
9…カッター
10…電解質膜
11…電解質膜材
11f…電解質膜材前駆体
12(12a、12c)…補強材
20…膜電極接合体
30…単セル
31a…アノード側電極
31c…カソード側電極
32a…アノード側ガス拡散層
32c…カソード側ガス拡散層
33a…アノード側セパレータ
33c…カソード側セパレータ
34a…燃料ガス流路
34c…酸化剤ガス流路
100…燃料電池
L1…接着層が支持材上に配置される間隔
L2…支持材から電解質膜を切断する幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の製造方法であって、
所定の間隔を空けて配置された少なくとも2つの接着層を同一の面に備える支持材を用意する第1工程と、
前記接着層の間を跨いで前記接着層上に電解質膜を配置する第2工程と、
前記接着層上に配置された前記電解質膜を前記接着層の間で切断する第3工程と、
を備える製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法であって、
前記電解質膜は少なくとも片面に補強材を備える、
製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の製造方法であって、
切断された前記電解質膜に電解質を含浸して、イオン伝導性を付与する、
製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の製造方法であって、
さらに前記第3工程後に前記支持材上に残存した前記電解質膜を剥離する第4工程を備え、
前記第4工程で前記電解質膜が剥離された前記支持材を前記第1工程で用意する支持材として用いる、
製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−73671(P2013−73671A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209399(P2011−209399)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】