説明

電解質膜・触媒層接合体の製造方法

【課題】比較的低い温度での熱処理を経て、チタン等を用いた高い触媒活性を有する燃料電池用電極触媒を製造し、この触媒を用いて、均一かつ均質な多孔質形状の触媒層を有する、電解質膜・触媒層接合体(MEA)を低コストで製造する方法を提供すること。
【解決手段】(A)チタン等を含有する触媒前駆体溶液を得る工程、溶媒を除去する工程、および固形分残渣を熱処理して燃料電池用電極触媒を得る工程を含む触媒製造工程と、(B)前記電極触媒等を含む触媒層形成用塗液を転写フィルムの表面に塗布する塗布工程と、(C)塗布された触媒層形成用塗液を乾燥し多孔質状の触媒層を形成する乾燥工程と、(D)転写フィルム上の触媒層を電解質膜表面に転写する転写工程と、(E)転写フィルムを、電解質膜表面に転写された触媒層から剥離する剥離工程とを有することを特徴とする、電解質膜の両面に触媒層を有する固体高分子型燃料電池用MEAの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体高分子型燃料電池に用いられる触媒層と電解質膜との接合体(以下「MEA」ともいう。)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、固体高分子電解質をアノードとカソードとで挟み、アノードに燃料を供給し、カソードに酸素または空気を供給して、カソードで酸素が還元されて電気を取り出す形式の燃料電池である。燃料には水素またはメタノールなどが主として用いられる。
【0003】
従来、燃料電池の反応速度を高め、燃料電池のエネルギー変換効率を高めるために、燃料電池のカソード(空気極)表面やアノード(燃料極)表面には、触媒を含む層(以下「触媒層」とも記す。)が設けられていた。
【0004】
燃料電池を構成する部材として、電解質膜の両面に触媒層を形成してなる電解質膜・触媒層接合体(MEA)がある。発電効率を高めるためには、MEAに対して、触媒が均質かつ均一に分散された、均一な膜厚の触媒層が形成されていること、燃料が触媒層内に拡散されやすいよう触媒層が多孔質形状であることが求められている。
【0005】
特許文献1には、特定の工程からなるMEAの製造方法が開示されており、この製造方法によれば、均一かつ均質な多孔質形状の触媒層を有する、電解質膜と触媒層との接合体(MEA)を作製することができ、これにより、燃料(水素、酸素)を触媒へ効率よく供給することができるため、燃料電池の出力の向上を図ることができる、と記載されている。
【0006】
この触媒としては、白金等が用いられている。しかし、白金等の価格が高いことからMEAの製造コストが高いという問題があった。また白金等の資源量が限られていることから、代替可能な触媒およびこれを用いたMEAの開発が求められる。
【0007】
また、カソード表面に用いる貴金属は、酸性雰囲気下では溶解する場合があり、長期間に渡る耐久性が必要な用途には適さないという問題があった。このため酸性雰囲気下で腐食せず、耐久性に優れ、高い酸素還元能を有する触媒およびこれを用いたMEAの開発が強く求められる。
【0008】
貴金属代替触媒として、貴金属を一切使わない卑金属炭化物、卑金属酸化物、卑金属炭窒酸化物、カルコゲン化合物及び炭素触媒などが報告されている(例えば、特許文献2〜特許文献5を参照)。これらの材料は、白金などの貴金属材料に比べて、安価であり、資源量が豊富である。
【0009】
しかしながら、特許文献2及び特許文献3に記載された卑金属材料を含むこれらの触媒は、実用的に充分な酸素還元能が得られていないという問題点がある。
また、特許文献4及び特許文献5に記載された触媒は、高い酸素還元触媒活性を示すが、燃料電池運転条件下での安定性が非常に低いことが問題点である。
【0010】
このような貴金属代替触媒として、特許文献6及び特許文献7でのNb及びTi炭窒酸化物は上記性能を有効に発現できることから、特に注目されている。
特許文献6及び特許文献7に記載された触媒は、従来の貴金属代替触媒に比べてきわめて高性能であるが、その製造工程の一部において1600℃〜1800℃という高温下での加熱処理が必要であった(例えば特許文献6 実施例1または特許文献7 実施例1)。
【0011】
このような高温加熱処理は工業的には不可能ではないが困難をともない、設備費の高騰や運転管理の困難を招き、ひいては製造コストが高くなることからより安価に製造出来る方法の開発が望まれていた。
【0012】
特許文献8には炭素、窒素及び酸素を含有するカーボン含有チタンオキシナイトライドの製造に関する技術が報告されている。
しかしながら、特許文献8に記載されている製造方法では、カーボン含有チタンオキシナイトライドを製造するために、窒素含有有機化合物とチタン前駆体との反応によるチタンオキシナイトライドの製造とフェノール樹脂とチタンオキシナイトライド前駆体との反応によるカーボン含有チタンオキシナイトライド製造の二段階合成が必要であり、工程が複雑である。特に、チタンオキシナイトライド前駆体の製造は80℃での攪拌、過熱、および還流、ならびに冷却および減圧濃縮などの複雑な工程が必要であるため、製造コストが高い。
【0013】
また、フェノール樹脂は3次元網目構造を持つ熱硬化性樹脂であるため、金属酸化物と均一に混合して反応させることが難しい。特に、フェノール樹脂の熱分解温度は400℃〜900℃であるため、1000℃以下の温度で、フェノール樹脂の完全分解による炭化反応が起こりにくい問題点もある。
【0014】
さらに、特許文献8および非特許文献1には、その用途として太陽光集熱器用の薄膜および光触媒としての応用が記されているだけで、電極触媒として有用性の高い粒状または繊維状などの形状を持つ金属炭窒酸化物の製造方法及びその用途は開示も検討もなされていない。
【0015】
特許文献9には、酸化物と炭素材料前駆体との混合材料を焼成することを特徴とする電極触媒の製造方法が開示されているが、充分な触媒性能を持つ電極触媒は得られていない。
【0016】
また、特許文献10には、コバルトなどの多核錯体を用いてなる燃料電池用電極触媒が開示されているが、原料の毒性が高く、高コストであり、充分な触媒活性を持たないという問題があった。
【0017】
非特許文献2には、チタンアルコキシドと炭素材料前駆体との混合材料を焼成することを特徴とする電極触媒の製造方法が開示されているが、製造工程においては、窒素を含有する有機物は使用されておらず、充分な触媒性能を持つ電極触媒は得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2010−225421号公報
【特許文献2】特開2004−303664号公報
【特許文献3】国際公開第07/072665号パンフレット
【特許文献4】米国特許出願公開第2004/0096728号明細書
【特許文献5】特開2005−19332号公報
【特許文献6】国際公開第2009/031383パンフレット
【特許文献7】国際公開第2009/107518パンフレット
【特許文献8】特開2009−23887号公報
【特許文献9】特開2009−255053号公報
【特許文献10】特開2008−258150号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Journal of Inorganic Materials (Chinese) 20, 4, P785
【非特許文献2】Electrochemistry Communications Volume 12, Issue 9, September 2010, Pages 1177-1179
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明はこのような従来技術における問題点の解決を課題とする。
すなわち本発明の目的は、比較的低い温度での熱処理を経て(すなわち、高温での熱処理(焼成)工程を設けることなく)、遷移金属(チタン等)を用いた高い触媒活性を有する、白金等の代替触媒となる燃料電池用電極触媒を製造し、均一かつ均質な多孔質形状の触媒層を有する、電解質膜と触媒層との接合体(MEA)を低コストで製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、たとえば以下の(1)〜(5)に関する。
(1)
電解質膜の両面に触媒層を有する固体高分子型燃料電池用電解質膜・触媒層の接合体の製造方法であって、
(A)少なくとも遷移金属含有化合物、窒素含有有機化合物および溶媒を混合して触媒前駆体溶液を得る工程a1、
前記触媒前駆体溶液から溶媒を除去する工程a2、および
工程a2で得られた固形分残渣を500〜1100℃の温度で熱処理して燃料電池用電極触媒を得る工程a3を含み、
前記遷移金属含有化合物の一部または全部が、遷移金属元素として周期表第4族および第5族の元素から選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素M1を含有する化合物である
触媒製造工程と、
(B)電解質成分と有機溶媒と前記燃料電池用電極触媒とを含む触媒層形成用塗液を転写フィルムの表面に塗布する塗布工程と、
(C)塗布された触媒層形成用塗液を乾燥し多孔質状の触媒層を形成する乾燥工程と、
(D)前記転写フィルム上の前記触媒層を電解質膜表面に転写する転写工程と、
(E)前記転写フィルムを、前記電解質膜表面に転写された前記触媒層から剥離する剥離工程と、
を有することを特徴とする電解質膜・触媒層接合体の製造方法。
【0022】
(2)
前記塗布工程(B)では、吸着テーブル上で前記転写フィルムが搬送されており、
前記触媒層形成用塗液の前記転写フィルムへの塗布は、前記搬送を一旦停止させて吸着テーブル上で前記転写フィルムを保持し、停止された転写フィルム上に塗布ヘッドにより前記触媒層形成用塗液を塗布する間欠塗工でなされる、
ことを特徴とする上記(1)に記載の電解質膜・触媒層接合体の製造方法。
【0023】
上記(2)の発明は、塗布工程(B)においてフィルム搬送を停止し、塗布ヘッドを移動させることにより、塗布に最適なスピードで任意の膜厚、形状の触媒層を形成させるものである。
【0024】
(3)
前記転写工程(D)では、吸着プレート上で、前記電解質膜と、前記触媒層が形成された前記転写フィルムとが搬送されており、
前記電解質膜表面への前記触媒層の転写は、前記搬送を一旦停止させて、前記吸着プレート上で転写ロールで前記転写フィルムを前記電解質膜に押し付けつつ、前記転写ロールが前記吸着プレート上で移動することでなされる、
ことを特徴とする上記(1)または(2)に記載の電解質膜・触媒層接合体の製造方法。
【0025】
上記(3)に記載の発明は、図62に示すように電解質膜に一定のギャップで相対する転写フィルム上の触媒層を、図63に示すように転写ロールにより加熱ラミネートし転写するものであり、最適な温度、速度、圧力条件にて転写することで触媒層の多孔質形状を崩さず、触媒層と電解質膜との接合面密着性の向上を図るものである。
【0026】
(4)
前記剥離工程(E)における前記転写フィルムの剥離は、前記転写工程(D)での搬送の停止を継続させた状態で、前記電解質膜の搬送路から離れる方向に前記転写フィルムの搬送路の向きを変える剥離ロールを前記吸着プレート上で移動させることでなされる、
ことを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の電解質膜・触媒層接合体の製造方法。
【0027】
上記(4)に記載の発明によれば、図64に示すように触媒層が電解質膜に転写された後に、図65に示すように、転写フィルムを支持する剥離ロール1と剥離ロール2を水平方向に移動することで、一定の速度、剥離角度、剥離力で剥離を行うことができる。それにより、転写シートへの剥離残り、剥離後の触媒層表面形状の荒れを防ぐことができる。
【0028】
したがって、本発明によれば、塗布、乾燥、転写、剥離がRtoRの同ライン上にあるものの、上記記載の発明内容であることより、ラインスピードに寄らず、各プロセスに最適のスピードで電解質膜表面に触媒層の形成を行うことができる。
【0029】
また、本発明によれば、触媒層を電解質膜表面に転写する際に、吸着プレートに吸着された電解質膜を電解質膜の巻出巻取ごと、水平方向、回転方向に移動し、アライメントが可能となる。
【0030】
(5)
前記塗布工程(B)、前記乾燥工程(C)、前記転写工程(D)、前記剥離工程(E)は、前記電解質膜の両面において行われ、
前記転写工程(D)の前に、前記電解質膜の両面に形成される触媒層の位置合わせが行われる、
ことを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の電解質膜・触媒層接合体の製造方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明の電解質膜・触媒層接合体の製造方法によれば、比較的低い温度での熱処理を経て(すなわち、高温での熱処理(焼成)工程を設けることなく)、遷移金属(チタン等)を用いた高い触媒活性を有する、白金等の代替触媒となる燃料電池用電極触媒を製造し、この触媒を用いて、均一かつ均質な多孔質形状の触媒層を有する、電解質膜と触媒層との接合体(MEA)を低コストで製造することができる。
【0032】
これにより、燃料(水素、酸素)を触媒へ効率よく供給することができるため、燃料電池の出力の向上を図ることができる。従来の技術と比較し接合部の界面密着性、表面形状の改善が図れることから燃料電池の耐久性も向上も見込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、触媒製造例1−1の触媒(1)の粉末X線回折スペクトルである。
【図2】図2は、触媒製造例1−2の触媒(2)の粉末X線回折スペクトルである。
【図3】図3は、触媒製造例1−3の触媒(3)の粉末X線回折スペクトルである。
【図4】図4は、触媒製造例1−4の触媒(4)の粉末X線回折スペクトルである。
【図5】図5は、触媒製造例1−5の触媒(5)の粉末X線回折スペクトルである。
【図6】図6は、触媒製造例1−6の触媒(6)の粉末X線回折スペクトルである。
【図7】図7は、触媒製造例1−7の触媒(7)の粉末X線回折スペクトルである。
【図8】図8は、触媒製造例8の触媒(8)の粉末X線回折スペクトルである。
【図9】図9は、触媒製造例2−1の触媒を用いた燃料電池用電極(1)の酸素還元能を評価した電流−電位曲線を示す。
【図10】図10は、触媒製造例2−2の触媒を用いた燃料電池用電極(2)の酸素還元能を評価した電流−電位曲線を示す。
【図11】図11は、触媒製造例2−3の触媒を用いた燃料電池用電極(3)の酸素還元能を評価した電流−電位曲線を示す。
【図12】図12は、触媒製造例2−4の触媒を用いた燃料電池用電極(4)の酸素還元能を評価した電流−電位曲線を示す。
【図13】図13は、触媒製造例2−5の触媒を用いた燃料電池用電極(5)の酸素還元能を評価した電流−電位曲線を示す。
【図14】図14は、触媒製造例3−1の触媒の粉末X線回折スペクトルである。
【図15】図15は、触媒製造例3−1の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図16】図16は、触媒製造例3−2の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図17】図17は、触媒製造例3−3の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図18】図18は、触媒製造例3−4の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図19】図19は、触媒製造例3−5の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図20】図20は、触媒製造例3−6の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図21】図21は、触媒製造例3−7の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図22】図22は、触媒製造例3−8の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図23】図23は、触媒製造例3−9の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図24】図24は、触媒製造例3−11の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図25】図25は、触媒製造例3−12の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図26】図26は、触媒製造例3−13の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図27】図27は、触媒製造例3−14の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図28】図28は、触媒製造例3−15の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図29】図29は、触媒製造例3−16の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図30】図30は、触媒製造例3−17の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図31】図31は、触媒製造例3−18の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図32】図32は、触媒製造例3−19の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図33】図33は、触媒製造例3−20の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図34】図34は、触媒製造例3−21の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図35】図35は、触媒製造例3−22の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図36】図36は、触媒製造例3−23の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図37】図37は、触媒製造例3−24の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図38】図38は、触媒製造例3−25の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図39】図39は、触媒製造例3−26の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図40】図40は、触媒製造例3−27の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図41】図41は、触媒製造例3−28の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図42】図42は、触媒製造例3−29の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図43】図43は、触媒製造例3−30の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図44】図44は、触媒製造例3−31の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図45】図45は、触媒製造例3−32の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図46】図46は、触媒製造例3−33の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図47】図47は、触媒製造例3−34の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図48】図48は、触媒製造例3−36の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図49】図49は、触媒製造例3−37の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図50】図50は、触媒製造例3−38の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図51】図51は、触媒製造例3−39の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図52】図52は、触媒製造例3−40の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図53】図53は、触媒製造例3−41の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図54】図54は、触媒製造例3−42の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図55】図55は、触媒製造例3−43の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図56】図56は、比較触媒製造例3−1の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図57】図57は、比較触媒製造例3−2の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図58】図58は、比較触媒製造例3−3の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図59】図59は、比較触媒製造例3−4の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図60】図60は、比較触媒製造例3−5の触媒を用いた燃料電池用電極の酸素還元能を評価した酸素還元電流密度−電位曲線を示す。
【図61】燃料電池の触媒層と電解質膜との接合体の製造装置の概略図である。
【図62】(触媒層)転写工程(D)の説明図である。
【図63】(触媒層)転写工程(D)の説明図である。
【図64】(触媒層)転写工程(D)の説明図である。
【図65】(保護フィルム)剥離工程(E)の説明図である。
【図66】(保護フィルム)剥離工程(E)の説明図である。
【図67】電解質膜両面に触媒層を有する接合体の製造装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
<触媒製造工程(A)>
前記触媒製造工程(A)は、
少なくとも遷移金属含有化合物、窒素含有有機化合物および溶媒を混合して溶液(本明細書において「触媒前駆体溶液」とも記す。)を得る工程a1、
前記触媒前駆体溶液から溶媒を除去する工程a2、および
工程a2で得られた固形分残渣を500〜1100℃の温度で熱処理して燃料電池用電極触媒を得る工程a3を含み、
前記遷移金属含有化合物の一部または全部は、遷移金属元素として周期表第4族および第5族の元素から選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素M1を含有する化合物である。なお本明細書において、特段の事情がない限り、原子およびイオンを、厳密に区別することなく「原子」と記載する。
【0035】
(工程a1)
工程a1では、少なくとも遷移金属含有化合物、窒素含有有機化合物および溶媒を混合して触媒前駆体溶液を得る。
【0036】
前記混合の手順としては、たとえば、
手順(i):1つの容器に溶媒を準備し、そこへ前記遷移金属含有化合物および前記窒素含有有機化合物を添加し、溶解させて、これらを混合する、
手順(ii):前記遷移金属含有化合物の溶液、および前記窒素含有有機化合物の溶液を準備し、これらを混合するが挙げられる。
【0037】
各成分に対して溶解性の高い溶媒が異なる場合には、手順(ii)が好ましい。また、前記遷移金属含有化合物が、たとえば、後述する金属ハロゲン化物の場合には、手順(i)が好ましく、前記遷移金属含有化合物が、たとえば、後述する金属アルコキシドまたは金属錯体の場合には、手順(ii)が好ましい。
【0038】
前記遷移金属含有化合物として後述する第1の遷移金属含有化合物および第2の遷移金属含有化合物を用いる場合の、前記手順(ii)における好ましい手順としては、
手順(ii'):前記第1の遷移金属含有化合物の溶液、ならびに前記第2の遷移金属含有化合物および前記窒素含有有機化合物の溶液を準備し、これらを混合するが挙げられる。
【0039】
混合操作は、溶媒への各成分の溶解速度を高めるために、撹拌しながら行うことが好ましい。
遷移金属含有化合物の溶液と窒素含有有機化合物の溶液とを混合する場合には、一方の溶液に対して他方の溶液を、ポンプ等を用いて一定の速度で供給することが好ましい。
【0040】
また、窒素含有有機化合物の溶液へ遷移金属含有化合物の溶液を少量ずつ添加する(すなわち、全量を一度に添加しない。)ことも好ましい。
前記触媒前駆体溶液には遷移金属含有化合物と窒素含有有機化合物との反応生成物が含まれると考えられる。溶媒へのこの反応生成物の溶解度は、遷移金属含有化合物、窒素含有有機化合物および溶媒等の組み合わせによっても異なる。
【0041】
このため、たとえば遷移金属含有化合物が金属アルコキシドまたは金属錯体の場合には、前記触媒前駆体溶液は、溶媒の種類、窒素含有有機化合物の種類にもよるが、好ましくは沈殿物や分散質を含まず、含むとしてもこれらは少量(たとえば溶液全量の10重量%以下、好ましくは5重量%以下、より好ましくは1重量%以下。)である。また、前記触媒前駆体溶液は、好ましくは澄明であり、たとえばJIS K0102に記載された液体の透視度の測定法において測定された値が、好ましくは1cm以上、より好ましくは2cm以上、さらに好ましくは5cm以上である。
【0042】
一方、たとえば遷移金属含有化合物が金属ハロゲン化物の場合には、前記触媒前駆体溶液中には、溶媒の種類、窒素含有有機化合物の種類にもよるが、遷移金属含有化合物と窒素含有有機化合物との反応生成物と考えられる沈殿物が生じやすい。
【0043】
工程a1では、オートクレーブ等の加圧可能な容器に遷移金属含有化合物、窒素含有有機化合物、溶媒を入れ、常圧以上の圧力をかけながら、混合を行ってもよい。
遷移金属含有化合物と窒素含有有機化合物と溶媒とを混合する際の温度は、たとえば、0〜60℃である。遷移金属含有化合物と窒素含有有機化合物とから錯体が形成されると推測されるところ、この温度が過度に高いと、溶媒が水を含む場合に錯体が加水分解され水酸化物の沈殿を生じ、優れた触媒が得られないと考えられ、この温度が過度に低いと、錯体が形成される前に遷移金属含有化合物が析出してしまい、優れた触媒が得られないと考えられる。
【0044】
<遷移金属含有化合物>
前記遷移金属含有化合物の一部または全部は、遷移金属元素として周期表第4族および第5族の元素から選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素M1を含有する化合物である。前記遷移金属元素M1としては、具体的にはチタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブおよびタンタルが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0045】
遷移金属元素M1の中でも、コストおよび得られる触媒の性能の観点から、チタン、ジルコニウム、ニオブおよびタンタルが好ましく、チタンおよびジルコニウムがさらに好ましい。
【0046】
前記遷移金属含有化合物は、好ましくは、酸素原子およびハロゲン原子から選ばれる少なくとも1種を有しており、その具体例としては、金属リン酸塩、金属硫酸塩、金属硝酸塩、金属有機酸塩、金属酸ハロゲン化物(金属ハロゲン化物の中途加水分解物)、金属アルコキシド、金属ハロゲン化物、金属ハロゲン酸塩および金属次亜ハロゲン酸塩、金属錯体が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0047】
前記金属アルコキシドとしては、前記遷移金属のメトキシド、プロポキシド、イソプロポキシド、エトキシド、ブトキシド、およびイソブトキシドが好ましく、前記遷移金属のイソプロポキシド、エトキシドおよびブトキシドがさらに好ましい。前記金属アルコキシドは、1種のアルコキシ基を有していてもよく、2種以上のアルコキシ基を有していてもよい。
【0048】
酸素原子を有する遷移金属含有化合物としては、アルコキシド、アセチルアセトン錯体、酸塩化物および硫酸塩が好ましく、コストの面から、アルコキシド、アセチルアセトン錯体がより好ましく、前記液相中の溶媒への溶解性の観点から、アルコキシド、アセチルアセトン錯体がさらに好ましい。
【0049】
前記金属ハロゲン化物としては、前記遷移金属の塩化物、臭化物およびヨウ化物が好ましく、前記金属酸ハロゲン化物としては、前記遷移金属の酸塩化物、酸臭化物、酸ヨウ化物が好ましい。
【0050】
金属過ハロゲン酸塩としては金属過塩素酸塩が好ましく、金属次亜ハロゲン酸塩としては金属次亜塩素酸塩が好ましい。
前記遷移金属含有化合物の具体例としては、
チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトライソブトキシド、チタンテトラペントキシド、チタンテトラアセチルアセトナート、チタンオキシジアセチルアセトナート、トリス(アセチルアセトナト)第二チタン塩化物([Ti(acac)3]2[TiCl6])、四塩化チタン、三塩化チタン、オキシ塩化チタン、四臭化チタン、三臭化チタン、オキシ臭化チタン、四ヨウ化チタン、三ヨウ化チタン、オキシヨウ化チタン等のチタン化合物;
ニオブペンタメトキシド、ニオブペンタエトキシド、ニオブペンタイソプロポキシド、ニオブペンタブトキシド、ニオブペンタペントキシド、五塩化ニオブ、オキシ塩化ニオブ、五臭化ニオブ、オキシ臭化ニオブ、五ヨウ化ニオブ、オキシヨウ化ニオブ等のニオブ化合物;
ジルコニウムテトラメトキシド、ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシド、ジルコニウムテトライソブトキシド、ジルコニウムテトラペントキシド、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、四塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、四臭化ジルコニウム、オキシ臭化ジルコニウム、四ヨウ化ジルコニウム、オキシヨウ化ジルコニウム等のジルコニウム化合物;
タンタルペンタメトキシド、タンタルペンタエトキシド、タンタルペンタイソプロポキシド、タンタルペンタブトキシド、タンタルペンタペントキシド、タンタルテトラエトキシアセチルアセトナート、五塩化タンタル、オキシ塩化タンタル、五臭化タンタル、オキシ臭化タンタル、五ヨウ化タンタル、オキシヨウ化タンタル等のタンタル化合物;
ハフニウムテトラメトキシド、ハフニウムテトラエトキシド、ハフニウムテトラプロポキシド、ハフニウムテトライソプロポキシド、ハフニウムテトラブトキシド、ハフニウムテトライソブトキシド、ハフニウムテトラペントキシド、ハフニウムテトラアセチルアセトナート、四塩化ハフニウム、オキシ塩化ハフニウム、臭化ハフニウム、オキシ臭化ハフニウム、ヨウ化ハフニウム、オキシヨウ化ハフニウム等のハフニウム化合物;
バナジウムオキシトリメトキシド、バナジウムオキシトリエトキシド、バナジウムオキシトリイソプロポキシド、バナジウムオキシトリブトキシド、バナジウム(III)アセチルアセトナート、バナジウム(IV)アセチルアセトナート、五塩化バナジウム、オキシ塩化バナジウム、五臭化バナジウム、オキシ臭化バナジウム、五ヨウ化バナジウム、オキシヨウ化バナジウム等のバナジウム化合物が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0051】
これらの化合物の中でも、得られる触媒が均一な粒径の微粒子となり、その活性が高いことから、
チタンテトラエトキシド、四塩化チタン、オキシ塩化チタン、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラアセチルアセトナート、
ニオブペンタエトキシド、五塩化ニオブ、オキシ塩化ニオブ、ニオブペンタイソプロポキシド、
ジルコニウムテトラエトキシド、四塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、
タンタルペンタメトキシド、タンタルペンタエトキシド、五塩化タンタル、オキシ塩化タンタル、タンタルペンタイソプロポキシド、およびタンタルテトラエトキシアセチルアセトナートが好ましく、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラアセチルアセトナート、ニオブエトキシド、ニオブイソプロポキシド、オキシ塩化ジルコニウム、ジルコニウムテトライソプロポキシド、およびタンタルペンタイソプロポキシドがさらに好ましい。
【0052】
また、前記遷移金属含有化合物として、遷移金属元素として周期表第4族または第5族の遷移金属元素M1を含む遷移金属含有化合物(以下「第1の遷移金属含有化合物」ともいう。)と共に、遷移金属元素として、遷移金属元素M1とは異なる元素であって、鉄、ニッケル、クロム、コバルト、バナジウムおよびマンガンから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素M2を含む遷移金属含有化合物(以下「第2の遷移金属含有化合物」ともいう。)が併用されてもよい。第2の遷移金属含有化合物を用いると、得られる触媒の性能が向上する。
【0053】
触媒のXPSスペクトルの観察から、第2の遷移金属含有化合物を用いると、遷移金属元素M1(たとえばチタン)と窒素原子との結合形成が促進され、その結果、触媒の性能が向上するのではないかと推測される。
【0054】
第2の遷移金属含有化合物中の遷移金属元素M2としては、コストと得られる触媒の性能とのバランスの観点から、鉄およびクロムが好ましく、鉄がさらに好ましい。
第2の遷移金属含有化合物の具体例としては、
塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、硫化鉄(II)、硫化鉄(III)、フェロシアン化カリウム、フェリシアン化カリウム、フェロシアン化アンモニウム、フェリシアン化アンモニウム、フェロシアン化鉄、硝酸鉄(II)、硝酸鉄(III)、シュウ酸鉄(II)、シュウ酸鉄(III)、リン酸鉄(II)、リン酸鉄(III)フェロセン、水酸化鉄(II)、水酸化鉄(III)、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、四酸化三鉄、酢酸鉄(II)、乳酸鉄(II)、クエン酸鉄(III)等の鉄化合物;
塩化ニッケル(II)、硫酸ニッケル(II)、硫化ニッケル(II)、硝酸ニッケル(II)、シュウ酸ニッケル(II)、リン酸ニッケル(II)、ニッケルセン、水酸化ニッケル(II)、酸化ニッケル(II)、酢酸ニッケル(II)、乳酸ニッケル(II)等のニッケル化合物;
塩化クロム(II)、塩化クロム(III)、硫酸クロム(III)、硫化クロム(III)、硝酸クロム(III)、シュウ酸クロム(III)、リン酸クロム(III)、水酸化クロム(III)、酸化クロム(II)、酸化クロム(III)、酸化クロム(IV)、酸化クロム(VI)、酢酸クロム(II)、酢酸クロム(III)、乳酸クロム(III)等のクロム化合物;
塩化コバルト(II)、塩化コバルト(III)、硫酸コバルト(II)、硫化コバルト(II)、硝酸コバルト(II)、硝酸コバルト(III)、シュウ酸コバルト(II)、リン酸コバルト(II)、コバルトセン、水酸化コバルト(II)、酸化コバルト(II)、酸化コバルト(III)、四酸化三コバルト、酢酸コバルト(II)、乳酸コバルト(II)等のコバルト化合物;
塩化バナジウム(II)、塩化バナジウム(III)、塩化バナジウム(IV)、オキシ硫酸バナジウム(IV)、硫化バナジウム(III)、オキシシュウ酸バナジウム(IV)、バナジウムメタロセン、酸化バナジウム(V)、酢酸バナジウム、クエン酸バナジウム等のバナジウム化合物;
塩化マンガン(II)、硫酸マンガン(II)、硫化マンガン(II)、硝酸マンガン(II)、シュウ酸マンガン(II)、水酸化マンガン(II)、酸化マンガン(II)、酸化マンガン(III)、酢酸マンガン(II)、乳酸マンガン(II)、クエン酸マンガン等のマンガン化合物が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0055】
これらの化合物の中でも、
塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、フェロシアン化カリウム、フェリシアン化カリウム、フェロシアン化アンモニウム、フェリシアン化アンモニウム、酢酸鉄(II)、乳酸鉄(II)、
塩化ニッケル(II)、酢酸ニッケル(II)、乳酸ニッケル(II)、
塩化クロム(II)、塩化クロム(III)、酢酸クロム(II)、酢酸クロム(III)、乳酸クロム(III)、
塩化コバルト(II)、塩化コバルト(III)、酢酸コバルト(II)、乳酸コバルト(II)、
塩化バナジウム(II)、塩化バナジウム(III)、塩化バナジウム(IV)、オキシ硫酸バナジウム(IV)、酢酸バナジウム、クエン酸バナジウム、
塩化マンガン(II)、酢酸マンガン(II)、乳酸マンガン(II)が好ましく、
塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、フェロシアン化カリウム、フェリシアン化カリウム、フェロシアン化アンモニウム、フェリシアン化アンモニウム、酢酸鉄(II)、乳酸鉄(II)、塩化クロム(II)、塩化クロム(III)、酢酸クロム(II)、酢酸クロム(III)、乳酸クロム(III)がさらに好ましい。
【0056】
<窒素含有有機化合物>
前記窒素含有有機化合物としては、前記遷移金属含有化合物中の金属原子に配位可能な配位子となり得る化合物(好ましくは、単核の錯体を形成し得る化合物)が好ましく、多座配位子(好ましくは、2座配位子または3座配位子)となり得る(キレートを形成し得る)化合物がさらに好ましい。
【0057】
前記窒素含有有機化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
前記窒素含有有機化合物は、好ましくは、アミノ基、ニトリル基、イミド基、イミン基、ニトロ基、アミド基、アジド基、アジリジン基、アゾ基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、オキシム基、ジアゾ基、ニトロソ基などの官能基、またはピロール環、ポルフィリン環、イミダゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環などの環(これらの官能基および環をまとめて「含窒素分子団」ともいう。)を有する。
【0058】
前記窒素含有有機化合物は、含窒素分子団を分子内に有すると、工程a1での混合を経て、前記遷移金属含有化合物に由来する遷移金属原子により強く配位することができると考えられる。
【0059】
前記含窒素分子団の中では、アミノ基、イミン基、アミド基、ピロール環、ピリジン環およびピラジン環がより好ましく、アミノ基、イミン基、ピロール環およびピラジン環がさらに好ましく、アミノ基およびピラジン環が、得られる触媒の活性が特に高くなることから、特に好ましい。
【0060】
前記窒素含有有機化合物(ただし、酸素原子を含まない。)の具体例としては、メラミン、エチレンジアミン、エチレンジアミン・二塩酸塩、トリアゾール、アセトニトリル、アクリロニトリル、エチレンイミン、アニリン、ピロール、ポリエチレンイミンなどが挙げられ、これらの中でも、得られる触媒の活性が高いことからエチレンジアミンおよびエチレンジアミン・二塩酸塩が好ましい。
【0061】
前記窒素含有有機化合物は、好ましくは、水酸基、カルボキシル基、アルデヒド基、酸ハライド基、スルホ基、リン酸基、ケトン基、エーテル基またはエステル基(これらをまとめて「含酸素分子団」ともいう。)を有する。前記窒素含有有機化合物は、含酸素分子団を分子内に有すると、工程a1での混合を経て、前記遷移金属含有化合物に由来する遷移金属原子により強く配位できると考えられる。
【0062】
前記含酸素分子団の中では、カルボキシル基およびアルデヒド基が、得られる触媒の活性が特に高くなることから、特に好ましい。
分子中に酸素原子を含む前記窒素含有有機化合物としては、前記含窒素分子団および前記含酸素分子団を有する化合物が好ましい。このような化合物は、工程a1を経て、前記遷移金属含有化合物に由来する遷移金属原子に特に強く配位できると考えられる。
【0063】
前記含窒素分子団および前記含酸素分子団を有する化合物としては、アミノ基およびカルボキシル基を有するアミノ酸、ならびにその誘導体が好ましい。
前記アミノ酸としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、ノルバリン、グリシルグリシン、トリグリシンおよびテトラグリシンが好ましく、得られる触媒の活性が高いことから、アラニン、グリシン、リシン、メチオニン、チロシンがより好ましく、得られる触媒が極めて高い活性を示すことから、アラニン、グリシンおよびリシンが特に好ましい。
【0064】
分子中に酸素原子を含む前記窒素含有有機化合物の具体例としては、上記アミノ酸等に加えて、アセチルピロールなどのアシルピロール類、ピロールカルボン酸、アセチルイミダゾールなどのアシルイミダゾール類、カルボニルジイミダゾール、イミダゾールカルボン酸、ピラゾール、アセトアニリド、ピラジンカルボン酸、ピペリジンカルボン酸、ピペラジンカルボン酸、モルホリン、ピリミジンカルボン酸、ニコチン酸、2−ピリジンカルボン酸、2,4−ピリジンジカルボン酸、8−キノリノール、およびポリビニルピロリドンが挙げられ、得られる触媒の活性が高いことから、2座配位子となり得る化合物、具体的にはピロール−2−カルボン酸、イミダゾール−4−カルボン酸、2−ピラジンカルボン酸、2−ピペリジンカルボン酸、2−ピペラジンカルボン酸、ニコチン酸、2−ピリジンカルボン酸、2,4−ピリジンジカルボン酸、および8−キノリノールが好ましく、2−ピラジンカルボン酸、および2−ピリジンカルボン酸がより好ましい。
【0065】
工程a1で用いられる前記遷移金属含有化合物の遷移金属元素の総原子数Aに対する、工程a1で用いられる前記窒素含有有機化合物の炭素の総原子数Bの比(B/A)は、工程a3での熱処理時に二酸化炭素、一酸化炭素等の炭素化合物として脱離する成分を少なくすることが可能であり、すなわち触媒製造時に排気ガスを少量とすることができることから、好ましくは200以下、より好ましくは150以下、さらに好ましくは80以下、特に好ましくは30以下であり、良好な活性の触媒を得るという観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、さらに好ましくは3以上、特に好ましくは5以上である。
【0066】
工程a1で用いられる前記遷移金属含有化合物の遷移金属元素の総原子数Aに対する、工程a1で用いられる前記窒素含有有機化合物の窒素の総原子数Cの比(C/A)は、良好な活性の触媒を得るという観点から、好ましくは28以下、より好ましくは17以下、さらに好ましくは12以下、特に好ましくは8.5以下であり、良好な活性の触媒を得るという観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2.5以上、さらに好ましくは3以上、特に好ましくは3.5以上である。
【0067】
工程a1で用いられる前記第1の遷移金属含有化合物と前記第2の遷移金属含有化合物との割合を、遷移金属元素M1の原子と遷移金属元素M2の原子とのモル比(M1:M2)に換算して、M1:M2=(1−a):aと表わすと、aの範囲は、好ましくは0.01≦a≦0.5、さらに好ましくは0.02≦a≦0.4、特に好ましくは0.05≦a≦0.3である。
【0068】
<溶媒>
前記溶媒としては、たとえば水、アルコール類および酸類が挙げられる。アルコール類としては、エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノールおよびエトキシエタノールが好ましく、エタノールおよびメタノールさらに好ましい。酸類としては、酢酸、硝酸(水溶液)、塩酸、リン酸水溶液およびクエン酸水溶液が好ましく、酢酸および硝酸がさらに好ましい。これらは、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
前記遷移金属含有化合物が金属ハロゲン化物の場合の溶媒としてはメタノールが好ましい。
【0069】
<沈殿抑制剤>
前記遷移金属含有化合物が、塩化チタン、塩化ニオブ、塩化ジルコニウム、塩化タンタルなど、ハロゲン原子を含む場合には、これらの化合物は一般的に水によって容易に加水分解され、水酸化物や、酸塩化物等の沈殿を生じやすい。よって、前記遷移金属含有化合物がハロゲン原子を含む場合には、強酸を1重量%以上添加することが好ましい。たとえば酸が塩酸であれば、溶液中の塩化水素の濃度が5重量%以上、より好ましくは10重量%以上となるように酸を添加すると、前記遷移金属含有化合物に由来する沈殿の発生を抑制しつつ、澄明な触媒前駆体溶液を得ることができる。
【0070】
前記遷移金属含有化合物が金属錯体であって、かつ前記溶媒として水を単独でまたは水と他の化合物とを用いる場合にも、沈殿抑制剤を用いることが好ましい。この場合の沈殿抑制剤としては、ジケトン構造を有する化合物が好ましく、ジアセチル、アセチルアセトン、2,5−ヘキサンジオンおよびジメドンがより好ましく、アセチルアセトンおよび2,5−ヘキサンジオンがさらに好ましい。
【0071】
これらの沈殿抑制剤は、遷移金属含有化合物溶液(前記遷移金属含有化合物を含有し、前記窒素含有有機化合物を含有しない溶液)100重量%中に好ましくは1〜70重量%、より好ましくは、2〜50重量%、さらに好ましくは15〜40重量%となる量で添加される。
【0072】
これらの沈殿抑制剤は、触媒前駆体溶液100重量%中に好ましくは0.1〜40重量%、より好ましくは、0.5〜20重量%、さらに好ましくは2〜10重量%となる量で添加される。
【0073】
前記沈殿抑制剤は、工程a1の中でのいずれの段階で添加されてもよい。
工程a1では、好ましくは、前記遷移金属含有化合物および前記沈殿抑制剤を含む溶液を調製して、次いでこの溶液と前記窒素含有有機化合物とを混合して触媒前駆体溶液を得る。また、前記遷移金属含有化合物として前記第1の遷移金属含有化合物および前記第2の遷移金属含有化合物を用いる場合であれば、工程a1では、好ましくは、前記第1の遷移金属含有化合物および前記沈殿抑制剤を含む溶液を調製して、次いでこの溶液と前記窒素含有有機化合物および前記第2の遷移金属含有化合物とを混合して触媒前駆体溶液を得る。このように工程a1を実施すると、前記沈殿の発生をより確実に抑制することができる。
【0074】
(工程a2)
工程a2では、工程a1で得られた前記触媒前駆体溶液から溶媒を除去する。
溶媒の除去は大気下で行ってもよく、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム)雰囲気下で行ってもよい。不活性ガスとしては、コストの観点から、窒素およびアルゴンが好ましく、窒素がより好ましい。
【0075】
溶媒除去の際の温度は、溶媒の蒸気圧が大きい場合には常温であってもよいが、触媒の量産性の観点からは、好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは50℃以上であり、工程a1で得られる溶液中に含まれる、キレート等の金属錯体であると推定される触媒前駆体を分解させないという観点からは、好ましくは250℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは110℃以下である。
【0076】
溶媒の除去は、溶媒の蒸気圧が大きい場合には大気圧下で行ってもよいが、より短時間で溶媒を除去するため、減圧(たとえば、0.1Pa〜0.1MPa)下で行ってもよい。減圧下での溶媒の除去には、たとえばエバポレーターを用いることができる。
【0077】
溶媒の除去は、工程a1で得られた混合物を静置した状態で行ってもよいが、より均一な固形分残渣を得るためには、混合物を回転させながら溶媒を除去することが好ましい。
前記混合物を収容している容器の重量が大きい場合は、撹拌棒、撹拌羽根、撹拌子などを用いて、溶液を回転させることが好ましい。
【0078】
また、前記混合物を収容している容器の真空度を調節しながら溶媒の除去を行う場合には、密閉できる容器で乾燥を行うこととなるため、容器ごと回転させながら溶媒の除去を行うこと、たとえばロータリーエバポレーターを使用して溶媒の除去を行うことが好ましい。
【0079】
溶媒の除去の方法、あるいは前記遷移金属含有化合物または前記窒素含有有機化合物の性状によっては、工程a2で得られた固形分残渣の組成または凝集状態が不均一であることがある。このような場合に、固形分残渣を、混合し、解砕して、より均一、微細な粉末としたものを工程a3で用いると、粒径がより均一な触媒を得ることができる。
【0080】
固形分残渣を混合し、解砕するには、たとえば、ロール転動ミル、ボールミル、小径ボールミル(ビーズミル)、媒体撹拌ミル、気流粉砕機、乳鉢、自動混練乳鉢、槽解機、ジェトミルを用いることができ、固形分残渣が少量であれば、好ましくは、乳鉢、自動混練乳鉢、またはバッチ式のボールミルが用いられ、固形分残渣が多量であり連続的な混合、解砕処理を行う場合には、好ましくはジェットミルが用いられる。
【0081】
(工程a3)
工程a3では、工程a2で得られた固形分残渣を熱処理して燃料電池用電極触媒を得る。
【0082】
この熱処理の際の温度は、500〜1100℃であり、好ましくは600〜1050℃であり、より好ましくは700〜950℃である。
熱処理の温度が上記範囲よりも高すぎると、得られた電極触媒の粒子相互間においての焼結、粒成長がおこり、結果として電極触媒の比表面積が小さくなってしまうため、この粒子を塗布法により触媒層に加工する際の加工性が劣ってしまう。一方、熱処理の温度が上記範囲よりも低過ぎると、高い活性を有する電極触媒を得ることができない。
【0083】
前記熱処理の方法としては、たとえば、静置法、攪拌法、落下法、粉末捕捉法が挙げられる。
静置法とは、静置式の電気炉などに工程a2で得られた固形分残渣を置き、これを加熱する方法である。加熱の際に、量り取った前記固形分残渣は、アルミナボード、石英ボードなどのセラミックス容器に入れてもよい。静置法は、大量の前記固形分残渣を加熱することができる点で好ましい。
【0084】
攪拌法とは、ロータリーキルンなどの電気炉中に前記固形分残渣を入れ、これを攪拌しながら加熱する方法である。攪拌法の場合は、大量の前記固形分残渣を加熱することができ、かつ、得られる電極触媒の粒子の凝集および成長を抑制することができる点で好ましい。さらに、撹拌法は、加熱炉に傾斜をつけることによって、連続的に電極触媒を製造することが可能である点で好ましい。
【0085】
落下法とは、誘導炉中に雰囲気ガスを流しながら、炉を所定の加熱温度まで加熱し、該温度で熱的平衡を保った後、炉の加熱区域である坩堝中に前記固形分残渣を落下させ、これを加熱する方法である。落下法は、得られる電極触媒の粒子の凝集および成長を最小限度に抑制できる点で好ましい。
【0086】
粉末捕捉法とは、微量の酸素ガスを含む不活性ガス雰囲気中で、前記固形分残渣を飛沫にして浮遊させ、これを所定の加熱温度に保たれた垂直の管状炉中に捕捉して、加熱する方法である。
【0087】
前記静置法で熱処理を行う場合には、昇温速度は、特に限定されないが、好ましくは1℃/分〜100℃/分程度であり、さらに好ましくは5℃/分〜50℃/分である。また、加熱時間は、好ましくは0.1〜10時間、より好ましくは0.5時間〜5時間、さらに好ましくは0.5〜3時間である。静置法において加熱を管状炉で行なう場合、電極触媒粒子の加熱時間は、0.1〜10時間、好ましくは0.5時間〜5時間である。前記加熱時間が前記範囲内であると、均一な電極触媒粒子が形成される傾向がある。
【0088】
前記攪拌法の場合、前記固形分残渣の加熱時間は、通常10分〜5時間であり、好ましくは30分〜2時間である。本法において、炉に傾斜をつけるなどして連続的に加熱を行う場合は、定常的な炉内のサンプル流量から計算された平均滞留時間を前記加熱時間とする。
【0089】
前記落下法の場合、前記固形分残渣の加熱時間は、通常0.5〜10分であり、好ましくは0.5〜3分である。前記加熱時間が前記範囲内であると、均一な電極触媒粒子が形成される傾向がある。
【0090】
前記粉末捕捉法の場合、前記固形分残渣の加熱時間は、0.2秒〜1分、好ましくは0.2〜10秒である。前記加熱時間が前記範囲内であると、均一な電極触媒粒子が形成される傾向にある。
【0091】
前記静置法で熱処理を行う場合には、熱源としてLNG(液化天然ガス)、LPG(液化石油ガス)、軽油、重油、電気などを用いた加熱炉を熱処理装置として用いてもよい。この場合、本発明においては前記固形分残渣を熱処理する際の雰囲気が重要であるので、燃料の炎が炉内に存在する、炉の内部から加熱する装置ではなく、炉の外部からの加熱する装置が好ましい。
【0092】
前記固形分残渣の量が1バッチあたり50kg以上となるような加熱炉を用いる場合には、コストの観点から、LNG,LPGを熱源とする加熱炉が好ましい。
触媒活性の特に高い電極触媒を得たい場合には、厳密な温度制御が可能な、電気を熱源とした電気炉を用いることが望ましい。
【0093】
炉の形状としては、管状炉、上蓋型炉、トンネル炉、箱型炉、試料台昇降式炉(エレベーター型)、台車炉などが挙げられ、この中でも雰囲気を特に厳密にコントロールすることが可能な、管状炉、上蓋型炉、箱型炉および試料台昇降式炉が好ましく、管状炉および箱型炉が好ましい。
【0094】
前記撹拌法を採用する場合も、上記の熱源を用いることができるが、撹拌法の中でもとくにロータリーキルンに傾斜をつけて、前記固形分残渣を連続的に熱処理する場合には、設備の規模が大きくなり、エネルギー使用量が大きくなりやすいので、LPG等燃料由来の熱源を利用することが好ましい。
【0095】
前記熱処理を行う際の雰囲気としては、得られる電極触媒の活性を高める観点から、その主成分が不活性ガス雰囲気であることが好ましい。不活性ガスの中でも、比較的安価であり、入手しやすい点で窒素、アルゴン、ヘリウムが好ましく、窒素およびアルゴンがさらに好ましい。これらの不活性ガスは、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。なお、これらのガスは一般的な通念上不活性といわれるガスであるが、工程(2)の前記熱処理の際にこれらの不活性ガスすなわち、窒素、アルゴン、ヘリウム等が、前記固形分残渣と反応している可能性はある。
【0096】
前記熱処理の雰囲気中に反応性ガスが存在すると、得られる電極触媒がより高い触媒性能を発現することがある。
たとえば、熱処理を、窒素ガス、アルゴンガスもしくは窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガス、または窒素ガスおよびアルゴンガスから選ばれる一種以上のガスと水素ガス、アンモニアガスおよび酸素ガスから選ばれる一種以上のガスとの混合ガスの雰囲気で行うと、高い触媒性能を有する電極触媒が得られる傾向がある。
【0097】
前記熱処理の雰囲気中に水素ガスが含まれる場合には、水素ガスの濃度は、たとえば100体積%以下、好ましくは0.01〜10体積%、より好ましくは1〜5体積%である。
【0098】
前記熱処理の雰囲気中に酸素ガスが含まれる場合には、酸素ガスの濃度は、たとえば0.01〜10体積%、好ましくは0.01〜5体積%である。
また、前記遷移金属含有化合物、前記窒素含有有機化合物および前記溶媒の何れもが酸素原子を有さない場合には、前記熱処理は、好ましくは酸素ガスを含む雰囲気で行われる。
【0099】
前記熱処理で得られた熱処理物は、そのまま電極触媒として使用してもよく、さらに解砕してから電極触媒として用いてもよい。なお、本明細書において、解砕、破砕等、熱処理物を細かくする操作を、特に区別せず「解砕」と表記する。解砕を行うと、得られた電極触媒を用いて電極を製造する際の加工性、および得られる電極の特性を改善できることがある。この解砕には、たとえば、ロール転動ミル、ボールミル、小径ボールミル(ビーズミル)、媒体撹拌ミル、気流粉砕機、乳鉢、自動混練乳鉢、槽解機またはジェトミルを用いることができる。電極触媒が少量の場合には、乳鉢、自動混練乳鉢、バッチ式のボールミルが好ましく、熱処理物を連続的に多量に処理する場合には、ジェットミル、連続式のボールミルが好ましく、連続式のボールミルの中でもビーズミルがさらに好ましい。
上記解砕は、好ましくは下記条件で行われる。
【0100】
(解砕条件):前記熱処理に与える衝撃力(機械的エネルギー)が2〜100Gの範囲
ボールミルを用いる場合、自転遠心加速度が2〜20Gの範囲
以下では、ボールミルを用いて解砕を行う場合を例に、解砕条件をさらに詳細に説明する。
【0101】
上記解砕は、適切な自転遠心加速度に設定することによって、バッチ式のボールミル(ポット型のボールミルなど)、あるいは連続式のボールミルを用いても達成することができる。
【0102】
自転によって生じる加速度が、2G以上であると、解砕を行う時間を短縮できるため、触媒を工業的に製造する上で優位であり、20G以下であると、触媒の表面が受けるダメージが小さくなり、活性が高い触媒が得られる。
【0103】
前記熱処理物のスラリーをミル内に循環させるタイプのボールミル、すなわち浅田鉄工所製グレンミルに例示されるような連続式のボールミルを用いて解砕を行う場合、解砕を行う時間とは、実質的に、ボールミルのミル破砕室(解砕室)の中に前記熱処理物が存在する時間である。したがって、ミル全体に循環させている前記熱処理物のスラリーの体積がミル破砕室(解砕室)の容積の2倍であった場合、"ボールミルによる解砕を行う時間"は、実際にミルを稼動させている時間の1/2であり、ミル全体に循環させている前記熱処理物のスラリーの体積がミル破砕室(解砕室)の容積の3倍であった場合、"ボールミルによる解砕を行う時間"は、実際にミルを稼動させている時間の1/3である。
【0104】
前記ボールミルのボールの直径は、好ましくは0.01〜5.0mmであり、より好ましくは0.05〜3.0mmであり、さらに好ましくは0.1〜1.0mmであることがより好ましい。ボールの直径が上記範囲にあると、高い触媒能(酸素還元能)を有する燃料電池用触媒が得られる。
【0105】
前記ボールミルのボールの材質および、ボールミルの容器としては、ジルコニア、ガラス、アルミナ等が挙げられる。ボールの材質としては、耐磨耗性が高いジルコニアが好ましい。
【0106】
前記ボールミルのボールの添加量は、ミル容器内に入れる前記熱処理物の質量に対して好ましくは10〜100倍である。
前記ボールミルによる解砕を行う際の自転遠心加速度は、好ましくは2〜20Gの範囲であり、より好ましくは4〜18Gの範囲であり、さらに好ましくは6〜16Gの範囲である。自転遠心加速度が上記範囲にあると、高い触媒能(酸素還元能)を有する燃料電池用触媒が得られる。
【0107】
なお、本発明において、ボールミルによる解砕を行う際の自転遠心加速度は、以下の式より求められる。
自転遠心加速度(単位:重力加速度G)=1118×R1×N12×10-8
1:自転半径(cm)
1:自転回転数(rpm)
【0108】
前記ボールミルが遊星ボールミルである場合には、前記遊星ボールミルによる解砕を行う際の公転遠心加速度は、好ましくは5〜50Gであり、より好ましくは8〜45Gの範囲であり、さらに好ましくは10〜35Gの範囲である。公転遠心加速度が上記範囲にあると、高い触媒能(酸素還元能)を有する燃料電池用触媒が得られる。
【0109】
なお、本発明において、遊星ボールミルによる解砕を行う際の公転遠心加速度は、以下の式より求める。
公転遠心加速度(単位:重力加速度G)=1118×R2×N22×10-8
2:公転半径(cm)
2:公転回転数(rpm)
【0110】
解砕を湿式で行う場合、熱処理物と分散媒との混合割合(熱処理物の質量:分散媒の質量)は、好ましくは1:1〜1:50であり、より好ましくは1:3〜1:20であり、さらに好ましくは1:5〜1:10である。
【0111】
前記分散媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノ―ル、2-プロパノ―ル、1-ブタノ−ル、2‐ブタノ−ル、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、ペンタノ−ル、2−ヘプタノ−ル、ベンジルアルコール等のアルコール類;
アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイゾブチルケトン、メチルアミルケトン、アセトニルアセトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトンなどのケトン類;
テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、メトキシトルエン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類;
イソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ジエチルアミンなどのアミン類;
蟻酸プロピル、蟻酸イソブチル、蟻酸アミル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチルなどのエステル類;
アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等の極性溶媒が好ましい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0112】
前記分散媒は、好ましくは水を実質的に含まない。具体的には、前記分散媒中の水の含量は、好ましくは0〜0.1質量%である。
前記分散媒は、ミル容器内に前記熱処理物およびボールを入れた状態でミル容器全体の好ましくは1〜3割を充填するように添加する。
【0113】
乾式で(すなわち、分散媒を用いずに)の解砕は、解砕後、触媒を回収しやすい点で好ましい。
前記解砕は、通常、常温常圧下で行うが、温度、圧力を調整して行ってもよい。
【0114】
(燃料電池用電極触媒)
触媒製造工程(A)で製造される燃料電池用電極触媒(以下、単に「電極触媒」、「触媒」などともいう)を構成する遷移金属元素(ただし、遷移金属元素M1と遷移金属元素M2とを区別しない。)、炭素、窒素および酸素の原子数の比を、遷移金属元素:炭素:窒素:酸素=1:x:y:zと表すと、好ましくは、0<x≦7、0<y≦2、0<z≦3である。
【0115】
電極触媒の活性が高いことから、xの範囲は、より好ましくは0.15≦x≦5.0、さらに好ましくは0.2≦x≦4.0であり、特に好ましくは1.0≦x≦3.0であり、yの範囲は、より好ましくは0.01≦y≦1.5、さらに好ましくは0.02≦y≦0.5であり、特に好ましくは0.03≦y≦0.4であり、zの範囲は、より好ましくは0.6≦z≦2.6であり、さらに好ましくは0.9≦z≦2.0であり、特に好ましくは1.3≦z≦1.9である。
【0116】
また前記触媒が、前記遷移金属元素として、周期表第4族および第5族の元素からなる群から選択される1種の遷移金属元素M1、および鉄、ニッケル、クロム、コバルト、バナジウムおよびマンガンより選択される少なくとも1種の遷移金属元素M2を含む場合には、前記触媒を構成する遷移金属元素M1、遷移金属元素M2、炭素、窒素および酸素の原子数の比を、遷移金属元素M1:遷移金属元素M2:炭素:窒素:酸素=(1−a):a:x:y:zと表すと、好ましくは、0<a≦0.5、0<x≦7、0<y≦2、0<z≦3である。前記触媒は、このようにM2を含むと、より性能が高くなる。
【0117】
電極触媒の活性が高いことから、x、yおよびzの好ましい範囲は上述のとおりであり、aの範囲は、より好ましくは0.01≦a≦0.5、さらに好ましくは0.02≦a≦0.4、特に好ましくは0.05≦a≦0.3である。
前記a、x、yおよびzの値は、後述する触媒製造例で採用した方法により測定した場合の値である。
【0118】
<遷移金属元素M2が存在することにより発揮されると予想される効果>
遷移金属元素M2(M1とは異なる、鉄、ニッケル、クロム、コバルト、バナジウムおよびマンガンより選択される少なくとも1種の金属元素)が存在することにより予想される効果は以下のとおりである。
【0119】
(1)遷移金属元素M2または遷移金属元素M2を含む化合物が、電極触媒を合成する際に、遷移金属元素M1原子と窒素原子との結合を形成するための触媒として作用している。
【0120】
(2)遷移金属元素M1が溶出するような高電位、高酸化性雰囲気下で電極触媒を使用する場合であっても、遷移金属元素M2が不動態化することによって、遷移金属元素M1のさらなる溶出を防ぐ。
【0121】
(3)工程a3の熱処理の際に、熱処理物の焼結、すなわち比表面積の低下を防ぐ。
(4)電極触媒中に遷移金属元素M1、遷移金属元素M2および存在することによって、双方の金属元素原子が隣接しあう部位において、電荷の偏りが生じ、金属元素として遷移金属元素M1のみを有する電極触媒ではなしえない、基質の吸着もしくは反応、または生成物の脱離が発生する。
【0122】
前記触媒は、好ましくは、遷移金属元素、炭素、窒素および酸素の各原子を有し、前記遷移金属元素の酸化物、炭化物または窒化物単独あるいはこれらのうちの複数の結晶構造を有する。前記触媒に対するX線回折分析による結晶構造解析の結果と、元素分析の結果とから判断すると、前記触媒は、前記遷移金属元素の酸化物構造を有したまま、酸化物構造の酸素原子のサイトを炭素原子または窒素原子で置換した構造、あるいは前記遷移金属元素の炭化物、窒化物または炭窒化物の構造を有したまま、炭素原子または窒素原子のサイトを酸素原子で置換した構造を有するか、あるいはこれらの構造を含む混合物ではないかと推測される。
【0123】
<BET比表面積>
前記触媒製造工程(A)によれば、比表面積の大きな燃料電池用電極触媒が製造され、この触媒のBET法で算出される比表面積は、好ましくは30〜350m2/g、より好ましくは50〜300m2/g、さらに好ましくは100〜300m2/gである。
【0124】
前記触媒の、下記測定法(A)において、酸素雰囲気での還元電流と窒素雰囲気での還元電流とに0.05mA/cm2以上の差が現れ始める電位(酸素還元電位E@0.05mA/cm2)は、可逆水素電極を基準として好ましくは0.6V(vs.RHE)以上、より好ましくは0.7V(vs.RHE)以上、さらに好ましくは0.8V以上である。
【0125】
〔測定法(A):
電子伝導性物質であるカーボンに分散させた触媒が1質量%となるように、該触媒及びカーボンを溶剤中に入れ、超音波で攪拌し懸濁液を得る。なお、カーボンとしては、カーボンブラック(比表面積:100〜300m2/g)(例えばキャボット社製 VULCAN(登録商標) XC−72)を用い、触媒とカーボンとが質量比で95:5になるように分散させる。また、溶剤としては、イソプロピルアルコール:水(質量比)=2:1を用いる。
【0126】
前記懸濁液を、超音波をかけながら10μLを採取し、すばやくグラッシーカーボン電極(直径:5.2mm)上に滴下し、120℃で5分間乾燥させる。乾燥することにより触媒を含む燃料電池用触媒層が、グラッシーカーボン電極上に形成される。この滴下及び乾燥操作を、カーボン電極表面に1.0mg以上の燃料電池触媒層が形成されるまで行う。
【0127】
次いでNAFION(登録商標)(デュポン社 5%NAFION(登録商標)溶液(DE521))をイソプロピルアルコールで10倍に希釈したものを、さらに前記燃料電池用触媒層上に10μL滴下する。これを、120℃で1時間乾燥する。
【0128】
このようにして、得られた電極を用いて、酸素雰囲気及び窒素雰囲気で、0.5mol/Lの硫酸水溶液中、30℃の温度で、同濃度の硫酸水溶液中での可逆水素電極を参照電極とし、5mV/秒の電位走査速度で分極することにより電流−電位曲線を測定した際の、酸素雰囲気での還元電流と窒素雰囲気での還元電流とに0.2μA/cm2以上の差が現れ始める電位を酸素還元開始電位とする。〕
本発明において、酸素還元電流密度は、以下のとおり求めることができる。
【0129】
まず、上記測定法(A)の結果から、特定の電位(たとえば0.7V(vsRHE))における、酸素雰囲気での還元電流と窒素雰囲気での還元電流との差を算出する。算出した値を、さらに電極面積で除した値を酸素還元電流密度(mA/cm2)とする。
【0130】
触媒製造工程(A)で製造された触媒は、白金触媒の代替触媒として使用することができる。
燃料電池用触媒層には、アノード触媒層、カソード触媒層があるが、前記触媒はいずれにも用いることができる。前記触媒は、耐久性に優れ、酸素還元能が大きいので、カソード触媒層に用いることが好ましい。
【0131】
<工程(B)〜(E)>
次に、前記塗布工程(B)、前記乾燥工程(C)、前記転写工程(D)および前記剥離工程(E)、ならびに本発明の製造方法によって製造される電解質膜・触媒層接合体(以下、単に「接合体」ともいう。)などについて、図を参照し説明する。
【0132】
図61は本発明で用いることのできる、接合体の製造装置の概略図である。この製造装置は転写フィルム3表面に触媒層形成用塗液を塗布する塗布部、触媒層2の乾燥部、触媒層2を電解質膜1表面に転写する転写部、および接合体から転写フィルムを剥離する剥離部からなる。各部の詳細は後述する。
【0133】
各材料について説明する。転写フィルム3としては、たとえばPET、PPフィルム上をシリコンコーティングしたものや、フッ素樹脂フィルム等の離型性に優れたものを用いることができる。
【0134】
電解質膜1としては、たとえばフッ素系イオン交換樹脂(デュポン社製「ナフィオン(NAFION(登録商標))」など)等からなり、厚さ10〜300μm程度に形成された薄膜を用いることができる。
【0135】
電解質膜1としては、炭化水素系電解質膜、高分子微多孔膜に液体電解質を含浸させた膜または多孔質体に高分子電解質を充填させた膜などを用いてもよい。
触媒層形成用塗液としては、前記触媒製造工程(A)で製造された触媒と電解質成分(フッ素系イオン交換樹脂など)と有機溶媒(IPAなど)を混合したものを用いる。
【0136】
本発明においては、燃料電池のカソードに用いられる触媒層(カソード用触媒層)2の形成用の触媒層形成用塗液には、触媒として前記触媒製造工程(A)で製造された触媒が含まれるが、燃料電池のアノードに用いられる触媒層(アノード用触媒層)2の形成用の触媒層形成用塗液には、触媒として前記触媒製造工程(A)で製造された触媒が含まれていてもよく、白金もしくは他金属からなる触媒が含まれていてもよい。
【0137】
前記電解質成分としては高分子電解質が挙げられる。前記高分子電解質としては、燃料電池用触媒層において一般的に用いられているものであれば特に限定されない。具体的には、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体(例えば、ナフィオン(NAFION(登録商標))、スルホン酸基を有する炭化水素系高分子化合物、リン酸などの無機酸をドープさせた高分子化合物、一部がプロトン伝導性の官能基で置換された有機/無機ハイブリッドポリマー、高分子マトリックスにリン酸溶液や硫酸溶液を含浸させたプロトン伝導体などが挙げられる。これらの中でも、ナフィオン(NAFION(登録商標)が好ましい。前記燃料電池用触媒層を形成する際のナフィオン(NAFION(登録商標))の供給源としては、5%ナフィオン(NAFION(登録商標))溶液(DE521、デュポン社)などが挙げられる。
【0138】
前記触媒層形成塗液は、好ましくは、電子伝導性粉末(電子伝導性粒子)をさらに含む。前記触媒を含む燃料電池用触媒層がさらに電子伝導性粉末を含む場合には、還元電流をより高めることができる。電子伝導性粉末は、前記触媒に、電気化学的反応を誘起させるための電気的接点を生じさせるため、還元電流を高めると考えられる。
【0139】
前記電子伝導性粒子は通常、触媒の担体として用いられる。
前記触媒はある程度の導電性を有するが、触媒により多くの電子を与える、あるいは、反応基質が触媒から多くの電子を受け取るために、触媒に、導電性を付与するための担体粒子を混合してもよい。これらの担体粒子は、触媒製造工程(A)における工程a1〜工程a3を経て製造された触媒に混合されてもよく、工程a1〜工程a3のいずれかの段階で混合されてもよい。
【0140】
電子伝導性粒子の材質としては、炭素、導電性高分子、導電性セラミックス、金属または酸化タングステンもしくは酸化イリジウムなどの導電性無機酸化物が挙げられ、それらを1種単独または組み合わせて用いることができる。特に、炭素からなる電子伝導性粒子は比表面積が大きいため、また、安価に小粒径のものを入手しやすく、耐薬品性、耐高電位性に優れるため、炭素単独または炭素とその他の電子伝導性粒子との混合物が好ましい。すなわち燃料電池用触媒層としては、前記触媒と炭素とを含むことが好ましい。
【0141】
炭素としては、カーボンブラック、グラファイト、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、フラーレン、多孔体カーボン、グラフェンなどが挙げられる。炭素からなる電子伝導性粒子の粒径は、小さすぎると電子伝導パスが形成されにくくなり、また大きすぎると燃料電池用触媒層のガス拡散性の低下や触媒の利用率の低下が起こる傾向があるため、好ましくは10〜1000nmであり、より好ましくは10〜100nmである。
【0142】
電子伝導性粒子が炭素からなる場合、前記触媒と電子伝導性粒子との重量比(触媒:電子伝導性粒子)は、好ましくは4:1〜1000:1である。
前記導電性高分子としては特に限定は無いが、例えばポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン、ポリアニリン、ポリアルキルアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリインドール、ポリ−1,5−ジアミノアントラキノン、ポリアミノジフェニル、ポリ(o−フェニレンジアミン)、ポリ(キノリニウム)塩、ポリピリジン、ポリキノキサリン、ポリフェニルキノキサリン等が挙げられる。これらの中でも、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンが好ましく、ポリピロールがより好ましい。
【0143】
前記触媒層形成塗液から形成される触媒層は、アノード触媒層またはカソード触媒層のいずれにも用いることができる。この触媒層は、高い酸素還元能を有し、酸性電解質中において高電位であっても腐蝕しがたい触媒を含むため、燃料電池のカソードに設けられる触媒層(カソード用触媒層)として有用である。
【0144】
前記触媒を、担体である前記電子伝導性粒子上に分散させる方法としては、気流分散、液中分散等の方法が挙げられる。液中分散は、溶媒中に触媒および電子伝導性粒子を分散したものを、塗布工程(B)に使用できるため好ましい。液中分散としては、オリフィス収縮流による方法、回転せん断流による方法または超音波による方法等があげられる。液中分散の際、使用される溶媒は、触媒や電子伝導性粒子を浸食することがなく、分散できるものであれば特に制限はないが、揮発性の液体有機溶媒または水等が一般に使用される。
【0145】
また、前記触媒を、前記電子伝導性粒子上に分散させる際、さらに上記電解質成分と分散剤とを同時に分散させてもよい。
塗布部においては図61のように、転写フィルム3の搬送を一旦停止し、巻き出された転写フィルム3を吸着テーブル7で保持し、塗布ヘッド6にて触媒層形成用塗液を間欠塗布し、転写フィルム上に厚さ5〜50μmの触媒層を形成する。このときフィルム3の搬送は停止しているので、塗布に最適な塗布スピードで塗布を行うことがきる。よって、均一な膜厚の、一様に触媒が分散した、表面形状の良い、触媒層を形成することができる。塗工方式はダイコーティング方式を用いて説明を行っているが、塗工方式はこれに限らず、スクリーン印刷方式、スプレーコーティング、アプリケータ方式等、公知の塗工方法を用いることができる。
【0146】
乾燥部では図61の乾燥炉8内に塗工後の触媒層が搬送され、触媒層形成用塗液中の有機溶剤、水を蒸発させ多孔質状の触媒層を形成する。
転写は図62〜図64に示すように行われる。図62のように、転写部まで触媒層2が搬送され、転写フィルム3および電解質膜1の搬送が一旦停止され、電解質膜1が吸着プレート14に保持される。その後、図63のように転写ロール9により触媒層2が電解質膜1へ押し付けられる。転写ロール9としては加熱加圧に耐えうる耐熱性、強度を持つものを用いる。転写ロール9を、転写ロール3に押し付けたまま水平方向に移動させることで、加熱ラミネートを行う。この場合、転写ロール9は回転しつつ移動してもよい。この方法においては任意の最適な温度、圧力、速度にてラミネートを行える。これにより、多孔質形状を崩すことなく触媒層と電解質膜との充分な密着性を得ることができる。
【0147】
剥離は、転写終了後、転写工程(D)での転写フィルム3および電解質膜1の搬送の停止を継続させた状態で、剥離ロール10、17を図65のように水平方向に移動させることで行う。すなわち、剥離は、電解質膜1の搬送路から離れる方向に転写フィルム3の搬送路の向きを変える剥離ロール10、17を吸着プレート14上で移動させることでなされる。これより最適な速度にて剥離を行うことができる。よって、転写フィルム3への剥離残り、無理な剥離による表面形状の荒れが軽減される。
【0148】
転写フィルム3は、電解質膜1上に触媒層2が形成された後、処理面を保護フィルム16によって保護し、巻き取られる。
上記の方法、製造装置により、電解質膜1上の片面に触媒層2を形成することができる。燃料電池の電極用の電解質膜・触媒層接合体では、電解質膜1両面への触媒層2の形成が必要である。
【0149】
電解質膜1両面へ触媒層2を形成するには、上述の塗布工程(B)、乾燥工程(C)、転写工程(D)、剥離工程(E)を、電解質膜の両面において行ない、転写工程(C)の前に、電解質膜の両面に形成される触媒層の位置合わせを行えばよい。
【0150】
すなわち、上記の製造装置を用いて燃料電池の電極用の電解質膜・触媒層接合体を製造するための一つの方法としては、片面に触媒層2を形成後、再度この装置を用い裏面に触媒層2を形成する方法、および図に示すように一つの製造装置内で両面に触媒層2を形成する方法が挙げられる。後者について以下に説明する。
【0151】
一製造装置内で電解質膜1両面に触媒層2を形成する場合における製造装置の一例の概略を、図67に示す。
電解質膜1両面に転写ユニットが相対する為、上述の製造方法により、触媒層2を電解質膜1の両面に形成することができる。
【0152】
最初に電解質膜1下面に触媒層2が形成される。この後、上面にも触媒層2を形成する際に、両面の触媒層2のズレが生じないようにする必要がある。触媒層2の端点をカメラ11で認識し、もしくは塗布工程(B)において電解質膜1にアライメントマークを付加し、このアライメントマークをカメラ11で認識し、電解質膜1の巻き出し巻取りのユニット自体を水平方向、回転方向に自由に移動可能な機能とすることで、位置合わせを行える。
【0153】
正確な位置合わせが行えることで、触媒層2が両面に形成された、発電に有効なエリアを確保することができる。
前記触媒製造工程(A)で製造される触媒を用いた前記電解質膜・触媒層接合体を有する燃料電池は性能が高く、また、白金を触媒として用いた場合と比較してきわめて安価であるという特徴を持つ。この燃料電池は、発電機能、発光機能、発熱機能、音響発生機能、運動機能、表示機能および充電機能からなる群より選ばれる少なくとも一つの機能を有し燃料電池を備える物品の性能、特に携帯可能な物品の性能を向上させることができる。前記燃料電池は、好ましくは物品の表面または内部に備えられる。
【0154】
<燃料電池を備えた物品の具体例>
本発明の製造方法で製造される電解質膜・触媒層接合体を有する燃料電池を備えることができる前記物品の具体例としては、ビル、家屋、テント等の建築物、蛍光灯、LED等、有機EL、街灯、屋内照明、信号機等の照明器具、機械、車両そのものを含む自動車用機器、家電製品、農業機器、電子機器、携帯電話等を含む携帯情報端末、美容機材、可搬式工具、風呂用品トイレ用品等の衛生機材、家具、玩具、装飾品、掲示板、クーラーボックス、屋外発電機などのアウトドア用品、教材、造花、オブジェ、心臓ペースメーカー用電源、ペルチェ素子を備えた加熱および冷却器用の電源が挙げられる。
【0155】
[触媒製造例]
以下に、触媒製造工程(A)で製造される触媒の製造例を示す。
また、触媒製造例および比較触媒製造例における各種測定は、下記の方法により行った。
【0156】
[分析方法]
1.粉末X線回折 理学電機株式会社製 ロータフレックスを用いて、試料の粉末X線回折を行った。
【0157】
各試料の粉末X線回折における回折線ピークの本数は、信号(S)とノイズ(N)の比(S/N)が2以上で検出できるシグナルを1つのピークとしてみなして数えた。
なお、ノイズ(N)は、ベースラインの幅とした。
【0158】
2.元素分析
炭素:試料約0.1gを量り取り、堀場製作所 EMIA−110で測定を行った。
窒素・酸素:試料約0.1gを量り取り、Ni−Cupに封入後、ON分析装置で測定を行った。
遷移金属元素(チタンなど):試料約0.1gを白金皿に量り取り、酸を加えて加熱分解した。この加熱分解物を定容後、希釈し、ICP−MSで定量を行った。
【0159】
3.BET比表面積
試料を0.15g採取し、全自動BET比表面積測定装置 マックソーブ((株)マウンテック製)で比表面積測定を行った。前処理時間、前処理温度は、それぞれ30分、200℃に設定した。
【0160】
[触媒製造例1−1]
1.触媒の製造
チタンテトライソプロポキシド(純正化学)5mL及びアセチルアセトン(純正化学)5mLをエタノール(和光純薬)15mLと酢酸(和光純薬)5mLとの溶液に加え、室温で攪拌しながらチタン含有混合物溶液を作製した。また、グリシン(和光純薬)2.507gを純水20mLに加え、室温で攪拌して完全に溶解させてグリシン含有混合物溶液を作製した。チタン含有混合物溶液をグリシン含有混合物溶液にゆっくり添加し、透明な触媒前駆体溶液を得た。ロータリーエバポレーターを用い、窒素雰囲気の減圧下で、ホットスターラーの温度を約100℃に設定し、前記触媒前駆体溶液を加熱かつ攪拌しながら、溶媒をゆっくり蒸発させた。完全に溶媒を蒸発させて得られた固形分残渣を乳鉢で細かく均一に潰して、粉末を得た。
【0161】
この粉末を管状炉に入れ、4容量%水素と窒素との混合ガス(すなわち、水素ガス:窒素ガス=4体積%:96体積%の混合ガス。以下も同様。)雰囲気下で昇温速度10℃/minで900℃まで加熱し、900℃で1時間保持し、自然冷却することにより粉末(以下「触媒(1)」または「熱処理物(1)」とも記す。)を得た。
【0162】
触媒(1)の粉末X線回折スペクトルを図1に示す。立方晶構造を持つチタン化合物およびルチル構造を持つ酸化チタンの回折線ピークが観測された。
また、触媒(1)の元素分析結果を表1に示す。炭素、窒素及び酸素の存在が確認された。
触媒(1)のBET比表面積は146m2/gであった。
【0163】
[触媒製造例1−2]
1.触媒の製造
チタンテトライソプロポキシド(純正化学(株)製)5mL及びアセチルアセトン(純正化学)5mLをエタノール(和光純薬(株)製)15mLと酢酸(和光純薬(株)製)5mLとの溶液に加え、室温で攪拌しながらチタン含有混合物溶液を作製した。また、グリシン(和光純薬(株)製)2.507g及び酢酸鉄(Aldrich社製)0.153gを純水20mLに加え、室温で攪拌して完全に溶解させてグリシン含有混合物溶液を作製した。チタン含有混合物溶液をグリシン含有混合物溶液にゆっくり添加し、透明な触媒前駆体溶液を得た。ロータリーエバポレーターを用い、窒素雰囲気の減圧下で、ホットスターラーの温度を約100℃に設定し、前記触媒前駆体溶液を加熱かつ攪拌しながら、溶媒をゆっくり蒸発させた。完全に溶媒を蒸発させて得られた固形分残渣を乳鉢で細かく均一に潰して、粉末を得た。
【0164】
この粉末を管状炉に入れ、4容量%水素と窒素との混合ガス雰囲気下で昇温速度10℃/minで900℃まで加熱し、900℃で1時間保持し、自然冷却することにより粉末(以下「触媒(2)」または「熱処理物(2)」とも記す。)を得た。
【0165】
触媒(2)の粉末X線回折スペクトルを図2に示す。立方晶構造を持つチタン化合物およびルチル構造を持つ酸化チタンの回折線ピークが観測された。
また、触媒(2)の元素分析結果を表1に示す。炭素、窒素及び酸素の存在が確認された。
触媒(2)のBET比表面積は172m2/gであった。
【0166】
[触媒製造例1−3]
1.触媒の製造
チタンテトライソプロポキシド(純正化学(株)製)5mL及びアセチルアセトン(純正化学(株)製)5mLをエタノール(和光純薬(株)製)15mLと酢酸(和光純薬(株)製)5mLとの溶液に加え、室温で攪拌しながらチタン含有混合物溶液を作製した。また、グリシン(和光純薬(株)製)2.507g及び酢酸鉄(Aldrich社製)0.306gを純水20mLに加え、室温で攪拌して完全に溶解させてグリシン含有混合物溶液を作製した。チタン含有混合物溶液をグリシン含有混合物溶液にゆっくり添加し、透明な溶液を得た。ロータリーエバポレーターを用い、窒素雰囲気の減圧下で、ホットスターラーの温度を約100℃に設定し、前記溶液を加熱かつ攪拌しながら、溶媒をゆっくり蒸発させた。完全に溶媒を蒸発させて得られた固形分残渣を乳鉢で細かく均一に潰して、粉末を得た。
【0167】
この粉末を管状炉に入れ、アルゴンガス雰囲気下で昇温速度10℃/minで900℃まで加熱し、900℃で1時間保持し、自然冷却することにより粉末(以下「触媒(3)」とも記す。)を得た。
【0168】
触媒(3)の粉末X線回折スペクトルを図3に示す。立方晶構造を持つチタン化合物およびルチル構造を持つ酸化チタンの回折線ピークが観測された。
また、触媒(3)の元素分析結果を表1に示す。炭素、窒素及び酸素の存在が確認された。
触媒(3)のBET比表面積は181m2/gであった。
【0169】
[触媒製造例1−4]
1.触媒の製造
チタンテトライソプロポキシド(純正化学(株)製)5mL及びアセチルアセトン(純正化学(株)製)5mLをエタノール(和光純薬(株)製)15mLと酢酸(和光純薬(株)製)5mLとの溶液に加え、室温で攪拌しながらチタン含有混合物溶液を作製した。また、グリシン(和光純薬(株)製)1.254g及び酢酸鉄(Aldrich社製)0.153gを純水20mLに加え、室温で攪拌して完全に溶解させてグリシン含有混合物溶液を作製した。チタン含有混合物溶液をグリシン含有混合物溶液にゆっくり添加し、透明な触媒前駆体溶液を得た。ロータリーエバポレーターを用い、窒素雰囲気の減圧下で、ホットスターラーの温度を約100℃に設定し、前記触媒前駆体溶液を加熱かつ攪拌しながら、溶媒をゆっくり蒸発させた。完全に溶媒を蒸発させて得られた固形物残渣を乳鉢で細かく均一に潰して、粉末を得た。
【0170】
この粉末を管状炉に入れ、アルゴンガス雰囲気下で昇温速度10℃/minで800℃まで加熱し、800℃で1時間保持し、自然冷却することにより粉末(以下「触媒(4)」とも記す。)を得た。
【0171】
触媒(4)の粉末X線回折スペクトルを図4に示す。立方晶構造を持つチタン化合物およびルチル構造を持つ酸化チタンの回折線ピークが観測された。
また、触媒(4)の元素分析結果を表1に示す。炭素、窒素及び酸素の存在が確認された。
触媒(4)のBET比表面積は181m2/gであった。
【0172】
[触媒製造例1−5]
1.触媒の製造
チタンテトライソプロポキシド(純正化学(株)製)5mL及びアセチルアセトン(純正化学(株)製)5mLをエタノール(和光純薬(株)製)15mLと酢酸(和光純薬(株)製)5mLとの溶液に加え、室温で攪拌しながらチタン含有混合物溶液を作製した。また、グリシン(和光純薬(株)製)2.507gを純水20mLに加え、室温で攪拌して完全に溶解させてグリシン含有混合物溶液を作製した。チタン含有混合物溶液をグリシン含有混合物溶液にゆっくり添加し、透明な触媒前駆体溶液を得た。ロータリーエバポレーターを用い、窒素雰囲気の減圧下で、ホットスターラーの温度を約100℃に設定し、前記触媒前駆体溶液を加熱かつ攪拌しながら、溶媒をゆっくり蒸発させた。完全に溶媒を蒸発させて得られた固形分残渣を乳鉢で細かく均一に潰して、粉末を得た。
【0173】
この粉末を管状炉に入れ、4容量%水素と窒素ガス雰囲気下で昇温速度10℃/minで500℃まで加熱し、500℃で2時間保持し、自然冷却することにより粉末(以下「触媒(5)」とも記す。)を得た。
【0174】
触媒(5)の粉末X線回折スペクトルを図5に示す。立方晶構造を持つチタン化合物およびルチル構造を持つ酸化チタンの回折線ピークが観測された。
また、触媒(5)の元素分析結果を表1に示す。炭素、窒素及び酸素の存在が確認された。
触媒(5)のBET比表面積は51m2/gであった。
【0175】
[触媒製造例1−6]
1.触媒の製造
チタンテトライソプロポキシド(純正化学(株)製)5mL及びアセチルアセトン(純正化学(株)製)3mLをエタノール(和光純薬(株)製)15mLと酢酸(和光純薬(株)製)5mLとの溶液に加え、室温で攪拌しながらチタン含有混合物溶液を作製した。また、ポリビニルピロリドン(Aldrich社製)1.859gと酢酸鉄(Aldrich社製)0.145gとを純水15mLに加え、室温で攪拌して完全に溶解させてグリシン含有混合物溶液を作製した。チタン含有混合物溶液をグリシン含有混合物溶液にゆっくり添加し、透明な触媒前駆体溶液を得た。ロータリーエバポレーターを用い、窒素雰囲気の減圧下で、ホットスターラーの温度を約100℃に設定し、前記触媒前駆体溶液を加熱かつ攪拌しながら、溶媒をゆっくり蒸発させた。完全に溶媒を蒸発させて得られた固形分残渣を乳鉢で細かく均一に潰して、粉末を得た。
【0176】
この粉末を管状炉に入れ、窒素ガス雰囲気下で昇温速度10℃/minで900℃まで加熱し、900℃で3時間保持し、自然冷却することにより粉末(以下「触媒(6)」とも記す。)を得た。
【0177】
触媒(6)の粉末X線回折スペクトルを図6に示す。立方晶構造を持つチタン化合物およびルチル構造を持つ酸化チタンの回折線ピークが観測された。
また、触媒(6)の元素分析結果を表1に示す。炭素、窒素及び酸素の存在が確認された。
触媒(6)のBET比表面積は260m2/gであった。
【0178】
[触媒製造例1−7]
1.触媒の製造
チタンテトライソプロポキシド(純正化学(株)製)5mLをエタノール(和光純薬(株)製)15mLと酢酸(和光純薬(株)製)5mLとの溶液に加え、室温で攪拌しながらチタン含有混合物溶液を作製した。また、ポリビニルピロリドン(Aldrich社製)1.859g及び酢酸鉄(Aldrich社製)0.145gを純水15mLに加え、室温で攪拌して完全に溶解させてグリシン含有混合物溶液を作製した。チタン含有混合物溶液をグリシン含有混合物溶液にゆっくり添加し、透明な触媒前駆体溶液を得た。ロータリーエバポレーターを用い、窒素雰囲気の減圧下で、ホットスターラーの温度を約100℃に設定し、前記触媒前駆体溶液を加熱かつ攪拌しながら、溶媒をゆっくり蒸発させた。完全に溶媒を蒸発させて得られた固形分残渣を乳鉢で細かく均一に潰して、粉末を得た。
【0179】
この粉末を管状炉に入れ、窒素ガス雰囲気下で昇温速度10℃/minで600℃まで加熱し、600℃で2時間保持し、自然冷却することにより粉末(以下「触媒(7)」とも記す。)を得た。
【0180】
触媒(7)の粉末X線回折スペクトルを図7に示す。立方晶構造を持つチタン化合物およびルチル構造を持つ酸化チタンの回折線ピークが観測された。
また、触媒(7)の元素分析結果を表1に示す。炭素、窒素及び酸素の存在が確認された。
触媒(7)のBET比表面積は65m2/gであった。
【0181】
[触媒製造例1−8]
1.触媒の製造
チタンテトライソプロポキシド(純正化学(株)製)5mL及びアセチルアセトン(純正化学(株)製)5mLをエタノール(和光純薬(株)製)15mLと酢酸(和光純薬(株)製)5mLとの溶液に加え、室温で攪拌しながらチタン含有混合物溶液を作製した。また、グリシン(和光純薬(株)製)3.762g及び酢酸鉄(Aldrich社製)0.306gを純水20mLに加え、室温で攪拌して完全に溶解させたグリシン含有混合物溶液を作製した。チタン含有混合物溶液をグリシン含有混合物溶液にゆっくり添加し、透明な触媒前駆体溶液を得た。ロータリーエバポレーターを用い、窒素雰囲気の減圧下で、ホットスターラーの温度を約100℃に設定し、前記触媒前駆体溶液を加熱かつ攪拌しながら、溶媒をゆっくり蒸発させた。完全に溶媒を蒸発させて得られた固形分残渣を乳鉢で細かく均一に潰して、粉末を得た。
【0182】
この粉末を管状炉に入れ、4容量%水素と窒素の混合ガス雰囲気下で昇温速度10℃/minで900℃まで加熱し、900℃で1時間保持し、自然冷却することにより粉末(以下「触媒(8)」とも記す。)を得た。
【0183】
触媒(8)の粉末X線回折スペクトルを図8に示す。立方晶構造を持つチタン化合物およびルチル構造を持つ酸化チタンの回折線ピークが観測された。
また、触媒(8)の元素分析結果を表1に示す。炭素、窒素及び酸素の存在が確認された。
触媒(8)のBET比表面積は241m2/gであった。
【0184】
[触媒製造例2−1]
1.燃料電池用電極の製造
触媒(2)0.095gとカーボン(キャボット社製 XC−72)0.005gとを、イソプロピルアルコール:純水=2:1の質量比で混合した溶液10gに入れ、超音波で撹拌、懸濁して混合した。この混合物30μlをグラッシーカーボン電極(東海カーボン社製、直径:5.2mm)に塗布し、120℃で1時間乾燥し、カーボン電極表面に1.0mg以上の燃料電池触媒層が形成された。さらに、燃料電池用触媒層の上にNAFION(登録商標)(デュポン社 5%NAFION(登録商標)溶液(DE521))を10倍にイソプロピルアルコールで希釈したもの10μlを塗布し、120℃で1時間乾燥し、燃料電池用電極(1)を得た。
【0185】
2.酸素還元能の評価
作製した燃料電池用電極(1)を、酸素雰囲気および窒素雰囲気で、0.5mol/dm3の硫酸溶液中、30℃、5mV/秒の電位走査速度で分極し、電流−電位曲線を測定した。その際、同濃度の硫酸溶液中での可逆水素電極を参照電極とした。
【0186】
上記測定結果から、酸素雰囲気での還元電流と窒素雰囲気での還元電流とに0.2μA/cm2以上差が現れ始める電位を酸素還元開始電位とした。また、0.7V(vsRHE)における、酸素雰囲気での還元電流と窒素雰囲気での還元電流との差を算出した。算出した値を、さらに電極面積で除した値を酸素還元電流密度(mA/cm2)とした。
【0187】
酸素還元開始電位および酸素還元電流密度により、作製した燃料電池用電極(1)の触媒能を評価した。
すなわち、酸素還元開始電位が高いほど、酸素還元電流密度が大きいほど、燃料電池用電極における触媒の触媒能が高いことを示す。
【0188】
図9に、上記測定により得られた電流−電位曲線を示す。
触媒製造例1−2で作製した触媒(2)は、酸素還元開始電位が1.01V(vs.RHE)、酸素還元電流密度が1.28mA/cm2であり、高い触媒能を有することがわかった(表2)。
【0189】
[触媒製造例2−2]
1.燃料電池用電極の製造
触媒(3)0.095gとカーボン(キャボット社製 XC−72)0.005gとを、イソプロピルアルコール:純水=2:1の質量比で混合した溶液10gに入れ、超音波で撹拌、懸濁して混合した。この混合物30μlをグラッシーカーボン電極(東海カーボン社製、直径:5.2mm)に塗布し、120℃で1時間乾燥し、カーボン電極表面に1.0mg以上の燃料電池触媒層が形成された。さらに、燃料電池用触媒層の上にNAFION(登録商標)(デュポン社 5%NAFION(登録商標)溶液(DE521))を10倍にイソプロピルアルコールで希釈したもの10μlを塗布し、120℃で1時間乾燥し、燃料電池用電極(2)を得た。
【0190】
2.酸素還元能の評価
作製した燃料電池用電極(2)を、酸素雰囲気および窒素雰囲気で、0.5mol/dm3の硫酸溶液中、30℃、5mV/秒の電位走査速度で分極し、電流−電位曲線を測定した。その際、同濃度の硫酸溶液中での可逆水素電極を参照電極とした。
【0191】
上記測定結果から、酸素雰囲気での還元電流と窒素雰囲気での還元電流とに0.2μA/cm2以上差が現れ始める電位を酸素還元開始電位とした。また、0.7V(vsRHE)における、酸素雰囲気での還元電流と窒素雰囲気での還元電流との差を算出した。算出した値を、さらに電極面積で除した値を酸素還元電流密度(mA/cm2)とした。
【0192】
酸素還元開始電位および酸素還元電流密度により、作製した燃料電池用電極(2)の触媒能を評価した。
すなわち、酸素還元開始電位が高いほど、酸素還元電流密度が大きいほど、燃料電池用電極における触媒の触媒能が高いことを示す。
【0193】
図10に、上記測定により得られた電流−電位曲線を示す。
触媒製造例1−3で作製した触媒(3)は、酸素還元開始電位が1.01V(vs.RHE)、酸素還元電流密度が1.90mA/cm2であり、高い触媒能を有することがわかった(表2)。
【0194】
[触媒製造例2−3]
1.燃料電池用電極の製造
触媒(6)0.095gとカーボン(キャボット社製 XC−72)0.005gとを、イソプロピルアルコール:純水=2:1の質量比で混合した溶液10gに入れ、超音波で撹拌、懸濁して混合した。この混合物30μlをグラッシーカーボン電極(東海カーボン社製、直径:5.2mm)に塗布し、120℃で1時間乾燥し、カーボン電極表面に1.0mg以上の燃料電池触媒層が形成された。さらに、燃料電池用触媒層の上にNAFION(登録商標)(デュポン社 5%NAFION(登録商標)溶液(DE521))を10倍にイソプロピルアルコールで希釈したもの10μlを塗布し、120℃で1時間乾燥し、燃料電池用電極(3)を得た。
【0195】
2.酸素還元能の評価
作製した燃料電池用電極(3)を、酸素雰囲気および窒素雰囲気で、0.5mol/dm3の硫酸溶液中、30℃、5mV/秒の電位走査速度で分極し、電流−電位曲線を測定した。その際、同濃度の硫酸溶液中での可逆水素電極を参照電極とした。
【0196】
上記測定結果から、酸素雰囲気での還元電流と窒素雰囲気での還元電流とに0.2μA/cm2以上差が現れ始める電位を酸素還元開始電位とした。また、0.7V(vsRHE)における、酸素雰囲気での還元電流と窒素雰囲気での還元電流との差を算出した。算出した値を、さらに電極面積で除した値を酸素還元電流密度(mA/cm2)とした。
【0197】
酸素還元開始電位および酸素還元電流密度により、作製した燃料電池用電極(3)の触媒能を評価した。
すなわち、酸素還元開始電位が高いほど、酸素還元電流密度が大きいほど、燃料電池用電極における触媒の触媒能が高いことを示す。
【0198】
図11に、上記測定により得られた電流−電位曲線を示す。
触媒製造例1−6で作製した触媒(6)は、酸素還元開始電位が1.04V(vs.RHE)、素還元電流密度が0.68mA/cm2であり、高い触媒能を有することがわかった(表2)。
【0199】
[触媒製造例2−4]
1.燃料電池用電極の製造
触媒(7)0.095gとカーボン(キャボット社製 XC−72)0.005gとを、イソプロピルアルコール:純水=2:1の質量比で混合した溶液10gに入れ、超音波で撹拌、懸濁して混合した。この混合物30μlをグラッシーカーボン電極(東海カーボン社製、直径:5.2mm)に塗布し、120℃で1時間乾燥し、カーボン電極表面に1.0mg以上の燃料電池触媒層が形成された。さらに、燃料電池用触媒層の上にNAFION(登録商標)(デュポン社 5%NAFION(登録商標)溶液(DE521))を10倍にイソプロピルアルコールで希釈したもの10μlを塗布し、120℃で1時間乾燥し、燃料電池用電極(4)を得た。
【0200】
2.酸素還元能の評価
作製した燃料電池用電極(4)を、酸素雰囲気および窒素雰囲気で、0.5mol/dm3の硫酸溶液中、30℃、5mV/秒の電位走査速度で分極し、電流−電位曲線を測定した。その際、同濃度の硫酸溶液中での可逆水素電極を参照電極とした。
【0201】
上記測定結果から、酸素雰囲気での還元電流と窒素雰囲気での還元電流とに0.2μA/cm2以上差が現れ始める電位を酸素還元開始電位とした。また、0.7V(vsRHE)における、酸素雰囲気での還元電流と窒素雰囲気での還元電流との差を算出した。算出した値を、さらに電極面積で除した値を酸素還元電流密度(mA/cm2)とした。
【0202】
酸素還元開始電位および酸素還元電流密度により、作製した燃料電池用電極(4)の触媒能を評価した。
すなわち、酸素還元開始電位が高いほど、酸素還元電流密度が大きいほど、燃料電池用電極における触媒の触媒能が高いことを示す。
【0203】
図12に、上記測定により得られた電流−電位曲線を示す。
触媒製造例1−7で作製した触媒(7)は、酸素還元開始電位が0.82V(vs.RHE)、酸素還元電流密度が0.4mA/cm2であり、高い触媒能を有することがわかった(表2)。
【0204】
[触媒製造例2−5]
1.燃料電池用電極の製造
触媒(8)0.095gとカーボン(キャボット社製 XC−72)0.005gとを、イソプロピルアルコール:純水=2:1の質量比で混合した溶液10gに入れ、超音波で撹拌、懸濁して混合した。この混合物30μlをグラッシーカーボン電極(東海カーボン社製、直径:5.2mm)に塗布し、120℃で1時間乾燥し、カーボン電極表面に1.0mg以上の燃料電池触媒層が形成された。さらに、燃料電池用触媒層の上にNAFION(登録商標)(デュポン社 5%NAFION(登録商標)溶液(DE521))を10倍にイソプロピルアルコールで希釈したもの10μlを塗布し、120℃で1時間乾燥し、燃料電池用電極(5)を得た。
【0205】
2.酸素還元能の評価
作製した燃料電池用電極(5)を、酸素雰囲気および窒素雰囲気で、0.5mol/dm3の硫酸溶液中、30℃、5mV/秒の電位走査速度で分極し、電流−電位曲線を測定した。その際、同濃度の硫酸溶液中での可逆水素電極を参照電極とした。
【0206】
上記測定結果から、酸素雰囲気での還元電流と窒素雰囲気での還元電流とに0.2μA/cm2以上差が現れ始める電位を酸素還元開始電位とした。また、0.7V(vsRHE)における、酸素雰囲気での還元電流と窒素雰囲気での還元電流との差を算出した。算出した値を、さらに電極面積で除した値を酸素還元電流密度(mA/cm2)とした。
【0207】
酸素還元開始電位および酸素還元電流密度により、作製した燃料電池用電極(5)の触媒能を評価した。
すなわち、酸素還元開始電位が高いほど、酸素還元電流密度が大きいほど、燃料電池用電極における触媒の触媒能が高いことを示す。
【0208】
図13に、上記測定により得られた電流−電位曲線を示す。
触媒製造例1−8で作製した触媒(8)は、酸素還元開始電位が0.95V(vs.RHE)、酸素還元電流密度が1.50mA/cm2であり、高い触媒能を有することがわかった(表2)。
【0209】
[触媒製造例3−1]
1.触媒の製造
第1の遷移金属含有化合物としてチタンテトライソプロポキシド(純正化学(株)製)9.37g及びアセチルアセトン(純正化学)5.12gをエタノール(和光純薬(株)製)15mLと酢酸(和光純薬(株)製)5mLとの溶液に加え、室温で攪拌しながら第1の遷移金属含有混合物溶液を作製した。また、窒素含有有機化合物としてグリシン(和光純薬(株)製)10.0g及び第2の遷移金属含有化合物として酢酸鉄(Aldrich社製)0.582gを純水20mLに加え、室温で攪拌して完全に溶解させて窒素含有有機化合物含有混合物溶液を作製した。第1の遷移金属含有混合物溶液を窒素含有有機化合物含有混合物溶液にゆっくり添加し、透明な触媒前駆体溶液を得た。ロータリーエバポレーターを用い、窒素雰囲気の減圧下で、ホットスターラーの温度を約100℃に設定し、前記触媒前駆体溶液を加熱かつ攪拌しながら、溶媒をゆっくり蒸発させた。完全に溶媒を蒸発させて得られた固形分残渣を乳鉢で細かく均一に潰して、粉末を得た。
【0210】
この粉末を管状炉に入れ、水素ガスを4体積%含む窒素ガスの雰囲気下で昇温速度10℃/minで890℃まで加熱し、890℃で1時間保持し、自然冷却することにより粉末状の触媒を得た。この触媒のBET比表面積および元素分析結果を表3に示す。
【0211】
2.燃料電池用電極の製造
次いで、この触媒0.095gとカーボン(キャボット社製 XC−72)0.005gとを、イソプロピルアルコール:純水=2:1の質量比で混合した溶液10gに入れ、超音波で撹拌、懸濁して混合した。この混合物30μlをグラッシーカーボン電極(東海カーボン社製、直径:5.2mm)に塗布し、120℃で5分間乾燥し、カーボン電極表面に1.0mg以上の燃料電池触媒層が形成された。さらに、燃料電池用触媒層の上にNAFION(登録商標)(デュポン社 5%NAFION(登録商標)溶液(DE521))をイソプロピルアルコールで10倍に希釈したもの10μlを塗布し、120℃で1時間乾燥し、燃料電池用電極を得た。
【0212】
3.酸素還元能の評価
作製した燃料電池用電極を、酸素雰囲気および窒素雰囲気で、0.5mol/Lの硫酸水溶液中、30℃、5mV/秒の電位走査速度で分極し、電流−電位曲線を測定した。その際、同濃度の硫酸溶液中での可逆水素電極を参照電極とした。酸素雰囲気での還元電流と窒素雰囲気での還元電流とに0.05mA/cm2以上差が現れ始める電位を酸素還元電位E@0.05mA/cm2とした。この酸素還元電位により、作製した燃料電池用電極の触媒能を評価した。すなわち、この酸素還元電位が高いほど、燃料電池用電極における触媒の触媒能が高いことを示す。
【0213】
[触媒製造例3−2〜3−26、3−29〜3−38、比較触媒製造例3−1〜3−3]
第1の遷移金属含有化合物、窒素含有有機化合物および第2の遷移金属含有化合物として表3に記載された化合物を表3に記載された重量で用いたこと以外は触媒製造例3−1と同様の手順で触媒を製造し、その分析を行い、さらに燃料電池用電極を得て、その酸素還元能を評価した。結果を表3に示す。
【0214】
[触媒製造例3−27〜3−28]
1.触媒の製造
第1の遷移金属含有化合物、窒素含有有機化合物および第2の遷移金属含有化合物として表3に記載された化合物を表3に記載された重量で用いたこと以外は触媒製造例3−1と同様の手順で透明な触媒前駆体溶液を得た。ロータリーエバポレーターを用い、窒素雰囲気の減圧下で、ホットスターラーの温度を約100℃に設定し、前記触媒前駆体溶液を加熱かつ攪拌しながら、溶液量が半分になるまで溶媒をゆっくり蒸発させた。溶液中に析出した固体をろ過操作によって取り出し、この固体を窒素中で乾燥させて得られた固形分残渣を乳鉢で細かく、均一に潰して粉末を得た。
【0215】
この粉末を管状炉に入れ、水素ガスを4体積%含む窒素ガスの雰囲気下で昇温速度10℃/minで890℃まで加熱し、890℃で1時間保持し、自然冷却することにより粉末状の触媒を製造し、その分析を行い、さらに燃料電池用電極を得て、その酸素還元能を評価した。結果を表3に示す。
【0216】
[触媒製造例3−39]
加熱温度を890℃から1000℃に変更したこと以外は触媒製造例3−1と同様の手順で触媒を製造し、その分析を行い、さらに燃料電池用電極を得て、その酸素還元能を評価した。結果を表3に示す。
【0217】
[触媒製造例3−40]
第1の遷移金属含有化合物、窒素含有有機化合物および第2の遷移金属含有化合物として表3に記載された化合物を表3に記載された重量で用い、エタノールに代えてメタノール(特級、和光ケミカル)50mlを用い、酢酸を用いなかったこと以外は触媒製造例3−1と同様の手順で触媒を製造し、その分析を行い、さらに燃料電池用電極を得て、その酸素還元能を評価した。結果を表3に示す。
【0218】
[触媒製造例3−41]
1.触媒の製造
ビーカーに、アセチルアセトン2.60gを入れ、これを攪拌しながら第1の遷移金属含有化合物としてバナジウムイソプロポキシド4.30gを滴下し、さらに酢酸28mlを2分間かけて滴下し、第1の遷移金属含有混合物溶液を調製した。
【0219】
ビーカーに水60ml、エタノール50ml、および酢酸60mlを入れ、ここに窒素含有有機化合物としてピラジンカルボン酸8.74gを加えて完全に溶解させた。得られた溶液に、これを攪拌しながら、さらに酢酸鉄0.290gを少量ずつ加えて溶解させた。次に温度を室温に保ちながら、かつ攪拌しながら、第1の遷移金属含有混合物溶液をゆっくり(10分間かけて)滴下し、滴下後さらに30分間攪拌を行い、透明な触媒前駆体溶液(3−41)を得た。
【0220】
ロータリーエバポレーターを用い、窒素雰囲気の減圧下で、ホットスターラーの温度を約100℃に設定し、前記触媒前駆体溶液を加熱かつ攪拌しながら、溶媒をゆっくり蒸発させた。完全に溶媒を蒸発させて得られた固形分残渣を乳鉢で細かく均一に潰して、粉末を得た。
【0221】
この粉末のうち1.2gをロータリーキルン炉に入れ、水素ガスを4体積%含む窒素ガスを20ml/分の速度で流しながら、昇温速度10℃/分で890℃まで加熱し、890℃で0.5時間保持し、自然冷却することにより、粉末状の触媒を得た。この触媒のBET比表面積および元素分析結果を表3に示す。
【0222】
[触媒製造例3−42]
ビーカーに、酢酸80mlを入れ、これを攪拌しながらバナジウム(III)アセチルアセトナート6.13gを滴下し、第1の遷移金属含有混合物溶液を調製した。
【0223】
攪拌子(長さ30mm)が1個入った容量500mlのナスフラスコに水60ml、エタノール50ml、および酢酸60mlを入れ、ここに窒素含有有機化合物としてピラジンカルボン酸8.74gを加えて完全に溶解させた。得られた溶液に、これを攪拌しながら、さらに酢酸鉄0.290gを少量ずつ加えて溶解させた。次に温度を室温に保ちながら、かつ攪拌しながら、第1の遷移金属含有混合物溶液をゆっくり(10分間かけて)滴下し、滴下後さらに30分間攪拌を行い、透明な触媒前駆体溶液(3−42)を得た。
【0224】
触媒前駆体溶液(3−41)を触媒前駆体溶液(3−42)に変更したこと以外は触媒製造例3−41と同様の操作により粉末状の触媒を得た。この触媒のBET比表面積および元素分析結果を表3に示す。
【0225】
[触媒製造例3−43]
1.触媒の製造
第1の遷移金属含有化合物としてチタンテトライソプロポキシド(純正化学(株)製)9.37g及びアセチルアセトン(純正化学)5.12gを酢酸(和光純薬(株)製)5mLとの溶液に加え、室温で攪拌しながら第1の遷移金属含有混合物溶液を作製した。また、窒素含有有機化合物としてグリシン(和光純薬(株)製)10.0g及び第2の遷移金属含有化合物として酢酸鉄(Aldrich社製)0.582gを純水20mLに加え、室温で攪拌して完全に溶解させて窒素含有有機化合物含有混合物溶液を作製した。第1の遷移金属含有混合物溶液を窒素含有有機化合物含有混合物溶液にゆっくり添加し、透明な触媒前駆体溶液を得た。ロータリーエバポレーターを用い、窒素雰囲気の減圧下で、ホットスターラーの温度を約80℃に設定し、前記触媒前駆体溶液を加熱かつ攪拌しながら、溶媒をゆっくり蒸発させた。完全に溶媒を蒸発させて得られた固形分残渣を乳鉢で細かく均一に潰して、粉末を得た。
【0226】
この粉末を管状炉に入れ、水素ガスを4体積%含む窒素ガスの雰囲気下で昇温速度20℃/minで890℃まで加熱し、890℃で30分間保持し、自然冷却することにより粉末状の触媒を得た。この触媒のBET比表面積および元素分析結果を表3に示す。
【0227】
[比較触媒製造例3−4]
遷移金属含有化合物である酸化チタン(アナターゼ型、100m2/g)を管状炉に入れ、水素ガスを4体積%含む窒素ガスの雰囲気下で昇温速度10℃/minで900℃まで加熱し、900℃で1時間保持し、自然冷却することにより粉末状の触媒を製造した。その分析を行い、さらに燃料電池用電極を得て、その酸素還元能を評価した。結果を表3に示す。
【0228】
[比較触媒製造例3−5]
遷移金属含有化合物である酸化チタン(アナターゼ型、100m2/g)2gとカーボンブラック(キャボット社製、VULCAN(登録商標) XC72)0.75gを乳鉢中でよく混合し、管状炉に入れ、水素ガスを4体積%含む窒素ガスの雰囲気下で昇温速度10℃/minで1700℃まで加熱し、1700℃で3時間保持し、自然冷却することにより粉末状の触媒を製造した。その分析を行い、さらに燃料電池用電極を得て、その酸素還元能を評価した。結果を表3に示す。
【0229】
[比較触媒製造例3−6]
触媒製造例3−1で得た粉末を管状炉に入れ、水素ガスを4体積%含む窒素ガスの雰囲気下で昇温速度10℃/minで170℃まで加熱し、170℃で1時間保持し、自然冷却することにより粉末状の触媒を製造した。その分析を行い、さらに燃料電池用電極を得て、その酸素還元能を評価した。結果を表4に示す。
【0230】
[比較触媒製造例3−7]
触媒製造例3−1で得た粉末を管状炉に入れ、水素ガスを4体積%含む窒素ガスの雰囲気下で昇温速度10℃/minで240℃まで加熱し、240℃で1時間保持し、自然冷却することにより粉末状の触媒を製造した。その分析を行い、さらに燃料電池用電極を得て、その酸素還元能を評価した。結果を表4に示す。
【0231】
[比較触媒製造例3−8]
触媒製造例3−1で得た粉末を管状炉に入れ、水素ガスを4体積%含む窒素ガスの雰囲気下で昇温速度10℃/minで300℃まで加熱し、300℃で1時間保持し、自然冷却することにより粉末状の触媒を製造した。その分析を行い、さらに燃料電池用電極を得て、その酸素還元能を評価した。結果を表4に示す。
【0232】
[比較触媒製造例3−9]
触媒製造例3−1で得た粉末を管状炉に入れ、水素ガスを4体積%含む窒素ガスの雰囲気下で昇温速度200℃/hで1200℃まで加熱し、1200℃で2時間保持し、自然冷却することにより粉末状の触媒を製造した。さらに燃料電池用電極を得て、その酸素還元能を評価した。結果を表4に示す。
【0233】
[比較触媒製造例3−10]
触媒製造例3−1で得た粉末を管状炉に入れ、水素ガスを4体積%含む窒素ガスの雰囲気下で昇温速度200℃/hで1400℃まで加熱し、1400℃で2時間保持し、自然冷却することにより粉末状の触媒を製造した。さらに燃料電池用電極を得て、その酸素還元能を評価した。結果を表4に示す。
【0234】
[比較触媒製造例3−11]
触媒製造例3−1で得た粉末を管状炉に入れ、水素ガスを4体積%含む窒素ガスの雰囲気下で昇温速度200℃/hで1600℃まで加熱し、1600℃で2時間保持し、自然冷却することにより粉末状の触媒を製造した。さらに燃料電池用電極を得て、その酸素還元能を評価した。結果を表4に示す。
【0235】
【表1】

【0236】
【表2】

※酸素還元電位E@0.05mA/cm2・・・酸素雰囲気での還元電流と窒素雰囲気での還元電流とに0.05mA/cm2以上差が現れ始める電位
【0237】
【表3】

【0238】
【表4】

表3、4中の略号の意味は以下のとおりである。
【0239】
Acac:アセチルアセトン
Ti−iP:チタンテトライソプロポキシド
TiAcac錯体:チタンテトラアセチルアセトナート
Zr−B:ジルコニウムテトラブトキシド
Ta−E:タンタルペンタエトキシド
Nb−E:ニオブペンタエトキシド
V−iP:バナジウムオキシトリイソプロポキシド(VO(O−iPr)3
VAcac錯体:バナジウムアセチルアセトナート(V(acac)3
【符号の説明】
【0240】
1・・・電解質膜
2・・・触媒層
3・・・転写フィルム
4・・・転写フィルム巻出
5・・・転写フィルム巻取
6・・・塗布ヘッド
7・・・吸着テーブル
8・・・乾燥炉
9・・・転写ロール
10・・・剥離ロール1
11・・・アライメントカメラ
12・・・電解質膜巻出
13・・・電解質膜巻取
14・・・吸着テーブル
15・・・電解質膜巻出巻取ユニット
16・・・保護フィルム
17・・・剥離ロール2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の両面に触媒層を有する固体高分子型燃料電池用電解質膜・触媒層の接合体の製造方法であって、
(A)少なくとも遷移金属含有化合物、窒素含有有機化合物および溶媒を混合して触媒前駆体溶液を得る工程a1、
前記触媒前駆体溶液から溶媒を除去する工程a2、および
工程a2で得られた固形分残渣を500〜1100℃の温度で熱処理して燃料電池用電極触媒を得る工程a3を含み、
前記遷移金属含有化合物の一部または全部が、遷移金属元素として周期表第4族および第5族の元素から選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素M1を含有する化合物である
触媒製造工程と、
(B)電解質成分と有機溶媒と前記燃料電池用電極触媒とを含む触媒層形成用塗液を転写フィルムの表面に塗布する塗布工程と、
(C)塗布された触媒層形成用塗液を乾燥し多孔質状の触媒層を形成する乾燥工程と、
(D)前記転写フィルム上の前記触媒層を電解質膜表面に転写する転写工程と、
(E)前記転写フィルムを、前記電解質膜表面に転写された前記触媒層から剥離する剥離工程と、
を有することを特徴とする電解質膜・触媒層接合体の製造方法。
【請求項2】
前記塗布工程(B)では、吸着テーブル上で前記転写フィルムが搬送されており、
前記触媒層形成用塗液の前記転写フィルムへの塗布は、前記搬送を一旦停止させて吸着テーブル上で前記転写フィルムを保持し、停止された転写フィルム上に塗布ヘッドにより前記触媒層形成用塗液を塗布する間欠塗工でなされる、
ことを特徴とする請求項1に記載の電解質膜・触媒層接合体の製造方法。
【請求項3】
前記転写工程(D)では、吸着プレート上で、前記電解質膜と、前記触媒層が形成された前記転写フィルムとが搬送されており、
前記電解質膜表面への前記触媒層の転写は、前記搬送を一旦停止させて、前記吸着プレート上で転写ロールで前記転写フィルムを前記電解質膜に押し付けつつ、前記転写ロールが前記吸着プレート上で移動することでなされる、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の電解質膜・触媒層接合体の製造方法。
【請求項4】
前記剥離工程(E)における前記転写フィルムの剥離は、前記転写工程(D)での搬送の停止を継続させた状態で、前記電解質膜の搬送路から離れる方向に前記転写フィルムの搬送路の向きを変える剥離ロールを前記吸着プレート上で移動させることでなされる、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電解質膜・触媒層接合体の製造方法。
【請求項5】
前記塗布工程(B)、前記乾燥工程(C)、前記転写工程(D)、前記剥離工程(E)は、前記電解質膜の両面において行われ、
前記転写工程(D)の前に、前記電解質膜の両面に形成される触媒層の位置合わせが行われる、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電解質膜・触媒層接合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【図58】
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【図59】
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【図60】
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【図61】
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【図62】
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【図63】
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【図64】
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【図65】
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【図66】
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【図67】
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【公開番号】特開2012−221928(P2012−221928A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90277(P2011−90277)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】