説明

電解質膜・電極接合用液状硬化性樹脂組成物及び電解質膜・電極接合体の製造方法

【解決手段】 一分子中に少なくとも1個のエチレン性不飽和基と少なくとも1個のイオン伝導性基もしくはその前駆体基とを有する化合物を含有し、25℃における粘度が100,000mPa・s以下であることを特徴とする電解質膜・電極接合用液状硬化性樹脂組成物。
【効果】 本発明によれば、ホットプレスすることなく、電解質膜と電極を十分な強度をもって接合することができるため、電解質膜と電極の接合体を作製する工程が簡略になる。また、熱による電解質膜や電極の劣化がないため、内部抵抗の低い燃料電池を作製することができ、固体高分子型燃料電池及びダイレクトメタノール型燃料電池用電解質膜・電極接合体として特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池の電解質膜・電極接合用液状硬化性樹脂組成物及び電解質膜・電極接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池用電解質膜を用いた燃料電池は、作動温度が100℃以下と低く、そのエネルギー密度が高いことから、電気自動車の電源や簡易補助電源として広く実用化が期待されている。この固体高分子型燃料電池においては、電解質膜、白金系の触媒、ガス拡散電極、及び電解質膜と電極の接合体などに関する重要な要素技術があり、この中でも、電解質膜と電極の接合体は、燃料電池としての特性に関与する最も重要な技術の一つである。
【0003】
従来、この固体高分子型燃料電池の電解質膜・電極接合体の製造方法には、大別して次の2つの方法が知られている。
(1)電解質膜に直接電極触媒を析出させる方法(例えば、特許文献1:特公昭58−47471号公報参照)。
(2)触媒能を有する電極シートを作製し、ホットプレスにより電解質膜に接合する方法(以下、ホットプレス法という。例えば、特許文献2〜4:米国特許第3134697号明細書、米国特許第3297484号明細書及び特公平2−7398号公報参照)。
【0004】
現在では、少量の触媒を有効に利用できる(2)のホットプレス法が主流となっている。これまでの固体高分子型燃料電池の研究では、ガス拡散電極シート上に触媒層を形成する方法として、例えば、電気化学的析出法(特許文献5:米国特許第5084144号明細書参照)、触媒ペーストの塗布(特許文献6:特開平4−162365号公報等参照)など、種々の方法が提案されているが、最終的にイオン交換膜と接合する方法に関してはホットプレスに頼っていた。
【0005】
ホットプレス法では、電解質膜と電極間の接合強度、電気的接合状態を得るため、温度は電解質膜を形成する樹脂のガラス転移点である100℃以上、圧力は樹脂が電極に一部食い込むようにするため必要な20kgf/cm2以上が一般的である。
【0006】
しかしながら、100℃以上、20kgf/cm2以上でホットプレスした場合、カーボンペーパーやカーボンクロスからなる電極や細孔構造を形成しているポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂が変形し易くなり、気孔率の低下や細孔のつぶれが生じることにより、燃料拡散性が悪化する問題があった。
【0007】
また、電解質膜と電極を高温でプレスするに際し、電解質膜が乾燥することにより含水率が低下し、膜抵抗が増大する問題や、ホットプレス温度を高くしすぎた場合には、膜の変質が起こる問題、及びホットプレス圧力を高くしすぎた場合には、膜が破損するなどの問題があった。
【0008】
ホットプレス法では、これらの問題は不可避であり、常温・非加圧で電極とイオン交換膜とを接合するプロセスが求められていた。また、大面積の接合体を作製する場合には、非加熱・非加圧の方が量産性の点で有利である。
【0009】
生産性、密着性を向上するために、特許文献7:特開平7−220741号公報には特定の溶剤に溶解した電解質膜を接合剤として用い、比較的低温で接合することが提案されているが、高分子の電解質膜は基材表面にとどまり易く、内部に浸透し難いため、接合性は必ずしも十分ではなかった。
【特許文献1】特公昭58−47471号公報
【特許文献2】米国特許第3134697号明細書
【特許文献3】米国特許第3297484号明細書
【特許文献4】特公平2−7398号公報
【特許文献5】米国特許第5084144号明細書
【特許文献6】特開平4−162365号公報
【特許文献7】特開平7−220741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、固体高分子型燃料電池用電解質膜・電極接合体において、上記問題を解決し、高性能な接合体を簡便に製造することを可能とする新規な電解質膜・電極接合用液状硬化性樹脂組成物及びそれを用いた電解質膜・電極接合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、一分子中に少なくとも1個のエチレン性不飽和基と少なくとも1個のイオン伝導性基もしくはその前駆体基とを有する化合物を含有し、25℃における粘度が100,000mPa・s以下である電解質膜・電極接合用液状硬化性樹脂組成物を電解質膜又は電極の少なくともいずれか一方に塗布し、前記液状硬化性樹脂組成物が電解質膜と電極間に介在するよう貼り合わせた後、加熱及び/又は放射線照射により硬化させることにより、前記電解質膜と前記電極とがこの硬化膜によってホットプレスなしで良好に接合し得、燃料電池用として有用な電解質膜・電極接合体を工業的に有利に製造できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0012】
従って、本発明は、下記に示す電解質膜・電極接合用液状硬化性樹脂組成物及び電解質膜・電極接合体の製造方法を提供する。
[請求項1]
一分子中に少なくとも1個のエチレン性不飽和基と少なくとも1個のイオン伝導性基もしくはその前駆体基とを有する化合物を含有し、25℃における粘度が100,000mPa・s以下であることを特徴とする電解質膜・電極接合用液状硬化性樹脂組成物。
[請求項2]
一分子中に少なくとも1個のエチレン性不飽和基と少なくとも1個のイオン伝導性基もしくはその前駆体基とを有する分子量が1,000未満のモノマーと、一分子中に少なくとも2個の反応性基を有する数平均分子量が1,000以上のオリゴマーを質量比10/90〜90/10で含有してなり、25℃における粘度が100,000mPa・s以下であることを特徴とする電解質膜・電極接合用液状硬化性樹脂組成物。
[請求項3]
イオン伝導性基が、スルホン酸基であることを特徴とする請求項1又は2記載の電解質膜・電極接合用液状硬化性樹脂組成物。
[請求項4]
請求項1、2又は3記載の電解質膜・電極接合用液状硬化性樹脂組成物を予め作製した電解質膜又は電極の少なくともいずれか一方に塗布し、前記液状硬化性樹脂組成物が電解質膜と電極間に介在するよう貼り合わせた後、前記液状硬化性樹脂組成物を加熱及び/又は放射線照射により硬化させることにより、前記電解質膜と前記電極硬化膜を接合することを特徴とする固体高分子型燃料電池用電解質膜・電極接合体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ホットプレスすることなく、電解質膜と電極を十分な強度をもって接合することができるため、電解質膜と電極の接合体を作製する工程が簡略になる。また、熱による電解質膜や電極の劣化がないため、内部抵抗の低い燃料電池を作製することができ、固体高分子型燃料電池及びダイレクトメタノール型燃料電池用電解質膜・電極接合体として特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の電解質膜・電極接合用液状硬化性樹脂組成物は、一分子中に少なくとも1個のエチレン性不飽和基と、少なくとも1個のイオン伝導性基もしくはその前駆体基とを有する化合物を含有するものであり、好ましくは、この化合物と、一分子中に少なくとも2個の反応性基を有するオリゴマーを含有するものである。
【0015】
本発明に用いられる一分子中に少なくとも1個のエチレン性不飽和基とカルボン酸基(−COOH)、スルホン酸基(−SO3H)等の少なくとも1個のイオン伝導性基もしくはその前駆体基を有する化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸、スチレンスルホン酸、アリルベンゼンスルホン酸、アリルオキシベンゼンスルホン酸、アクリルアミド2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、フルオロビニルスルホン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸フルオロビニルエーテル、パーフルオロビニルエーテルスルホン酸などのスルホン酸基含有モノマー及びそのアルカリ金属塩、グリシジル(メタ)アクリレートモノマーなどが例示される。
【0016】
これらの中でも、分子量1,000未満、特に200〜500のモノマーが、硬化膜のイオン(プロトン)伝導性を高くするために望ましい。
【0017】
本発明においては、イオン伝導性基としてスルホン酸基、更にスルホン酸基の前駆体基を有するものが、高イオン伝導度の点から好ましい。なお、スルホン酸基の前駆体基としては、スルホン酸の金属塩、亜硫酸ナトリウムなどでスルホン酸金属塩とするためのグリシジル基などが挙げられる。
【0018】
本発明に用いられる一分子中に少なくとも2個の反応性基を有するオリゴマーにおいて、反応性基としては、エチレン性不飽和基と共重合もしくは付加反応する基であればよく、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基、メルカプト基、珪素原子に直結する水素原子などが挙げられ、かかるオリゴマーとしては、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,ポリテトラメチレングリコール,ポリブチレングリコールのジウレタン(メタ)アクリレートなどのポリエーテルポリアクリレート、ポリエステルポリアクリレート、(メタ)アクリロキシ基含有オルガノポリシロキサン、ビニル基含有オルガノポリシロキサン、珪素原子に直結する水素原子含有オルガノポリシロキサンなどが例示され、数平均分子量1,000以上、特に1,000〜4,000のものが、組成物の塗工性、硬化性に優れるために望ましい。
【0019】
本発明の電解質膜・電極接合用液状硬化性樹脂組成物において、上記一分子中に少なくとも1個のエチレン性不飽和基と少なくとも1個のイオン伝導性基もしくはその前駆体基を有する化合物(モノマー)と、一分子中に少なくとも2個の反応性基を有するオリゴマーの質量比(モノマー/オリゴマー)は10/90〜90/10、望ましくは20/80〜80/20、更に望ましくは30/70〜70/30であることが好ましい。上記モノマーとオリゴマーの質量比が10/90未満であるとイオン伝導度が低下する場合があり、90/10を超えると硬化性が損なわれる場合がある。
【0020】
本発明の電解質膜・電極接合用液状硬化性樹脂組成物には、電解質膜と電極の接合性を調整する目的で、イオン伝導性基もしくはその前駆体基を有しないモノマー、例えば、スチレン、t−ブチルスチレン、n−ラウリルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、2−フェノキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレートなどを、得られる電解質膜・電極接合体のイオン伝導性を損なわない範囲で併用してもよい。
【0021】
更に本発明では、イオン伝導性を向上する目的でリンタングステン酸などのヘテロポリ酸、あるいは燃料電池の水素又はアルコール、水、酸素の透過を防ぐ目的で酸化物、窒化物、炭化物等の無機化合物を充填剤として添加することができる。充填剤の具体例としては、窒化硼素、炭化珪素、シリカなどが挙げられる。
【0022】
本発明の電解質膜・電極接合用液状硬化性樹脂組成物の製造方法は特に限定されるものではなく、常法に準じて調製される。なお、電解質膜・電極接合用液状硬化性樹脂組成物の回転粘度計により測定した25℃における粘度は、塗布性の観点から100,000mPa・s以下であり、望ましい粘度は100〜10,000mPa・sである。組成物の粘度が100,000mPa・sを超えるとレベリング性が悪く、薄く均一に塗工することが困難になり、100mPa・s未満になるとハジキや基材へのしみ込みが大きくなる場合がある。
【0023】
また、本発明における電解質膜・電極接合用液状硬化性樹脂組成物には、粘度を調整する目的で溶剤を併用することができる。このとき用いる溶剤としては、組成物を均一に溶解するものが好ましく、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、n−ヘプタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族乃至脂環族炭化水素、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、水などの極性溶剤、あるいはこれらの混合溶剤が用いられる。これらの中でも極性溶剤がより好ましい。
【0024】
上記電解質膜・電極接合用液状硬化性樹脂組成物を白金などの金属触媒が担持されたカーボンペーパーなどの電極上に塗布し、これに電解質膜を貼り合わせ、更に電解質膜・電極接合用液状硬化性樹脂組成物が塗布してあるもう一方の電極を電解質膜の反対面に貼り合わせ、加熱及び/又は放射線を照射することで硬化させ、電解質膜・電極接合体が作製できるが、これに限定されるものではなく、樹脂組成物を電解質膜に塗布し、これに電極を貼り合わせるようにしてもよい。
【0025】
本発明の電解質膜・電極接合用液状硬化性樹脂組成物を硬化させるには、加熱及び/又は放射線を照射する必要がある。なお、本発明においては、組成物を加熱した後に、更に放射線を照射して硬化させることもできる。組成物を硬化する雰囲気としては、ラジカル重合を容易に進行させるため、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気が好ましく、該ガス中の酸素濃度は500ppm以下が好ましく、200ppm以下が更に好ましい。
【0026】
ここで、加熱により硬化させる場合、温度は電解質膜、電極が変質しない温度であることが好ましく、120℃以下、望ましくは80〜100℃、加熱時間は0.1〜30分間、望ましくは3〜10分間である。組成物の温度が80℃未満の加熱では硬化が不十分となる場合があり、120℃を超えると電解質膜、電極及び電解質膜・電極接合用液状硬化性樹脂が変質するおそれがある。加熱時間が0.1分未満であると組成物の硬化性が不十分となるおそれがあり、30分を超えると生産性が悪くなる場合がある。なお、加熱硬化を行う場合は、組成物の硬化を促進するため、公知の重合開始剤を使用することができ、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリルなどが例示される。
【0027】
放射線は電子線、γ線、X線、紫外線などが例示され、電子線が特に好ましい。放射線を照射する際の温度は室温付近でよいが、樹脂組成物の粘度を塗布し易いように調整したり、膜厚や塗工面の状態を一定にするため、予め樹脂組成物の温度や照射雰囲気の温度を一定に調整したほうがよい。この場合、樹脂組成物、照射雰囲気の温度は25〜60℃の範囲で、一定の温度であることが望ましい。
【0028】
電子線を用いて硬化する場合、加速電圧50〜300kVの加速器が使用でき、望ましい吸収線量は5kGy以上、より望ましい吸収線量は5〜500kGy、更に望ましい吸収線量は10〜100kGyである。5kGy未満であると硬化が不十分になるおそれがあり、また500kGyを超えると樹脂の分解が生じるおそれがある。
【0029】
また、紫外線を照射して硬化させる場合は、望ましい照射エネルギーは20mJ/cm2以上であり、より望ましい照射エネルギーは50〜1,000mJ/cm2である。照射エネルギーが20mJ/cm2未満であると硬化が不十分になるおそれがあり、1,000mJ/cm2を超えるとエネンルギーが無駄になる以外に樹脂が損傷するおそれもある。なお、紫外線硬化を行う場合は、組成物の硬化を促進するため、公知の光重合開始剤を使用することができる。公知の光重合開始剤としては、例えば、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、フェニルアセトフェノンジエチルケタール、アルコキシアセトフェノン、ベンジルメチルケタール、ベンゾフェノン及び3,3−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、4,4−ジメトキシベンゾフェノン、4,4−ジアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体、ベンゾイル安息香酸アルキル、ビス(4−ジアルキルアミノフェニル)ケトン、ベンジル及びベンジルメチルケタール等のベンジル誘導体、ベンゾイル及びベンゾインブチルメチルケタール等のベンゾイン誘導体、ベンゾインイソプロピルエーテル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、2,4−ジエチルチオキサントン及び2,4−ジクロロチオキサントン等のチオキサントン誘導体、フルオレン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]2−モルホリノプロパン−1,2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(モルホリノフェニル)−ブタノン−1、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド等のホスフィンオキシド誘導体、過酸化ベンゾイル、t−ブチルペルオキシド、クメンハイドロペルオキシド等の有機過酸化物、アゾビスシアノ吉草酸、アゾビスブチロニトリル、アゾビス−(2,4−ジメチル)バレロニトリル、アゾビス−(2−アミノプロパン)ハイドロクロライドのような有機アゾ化合物等が挙げられる。
【0030】
これら光重合開始剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上使用してもよい。配合量は、本発明の組成物の硬化性を向上し、特性を損なわない範囲で使用でき、通常組成物中、20質量%以下で使用される。好ましい使用量は0.1〜10質量%、特に1〜5質量%である。
【0031】
上記電解質膜・電極接合用液状硬化性樹脂組成物の膜厚は、100μm以下、望ましくは0.1〜10μmである。100μmを超えると電解質膜・電極接合体とした場合の硬化膜の抵抗が大きくなり、0.1μm未満では電解質膜と電極の接合性が不十分になるため接触抵抗が大きくなり、出力が低下するおそれがある。
【0032】
なお、イオン伝導性前駆体基を有する化合物を含有する組成物を用いて硬化した場合、例えば、硬化物中のスルホン酸金属塩は、塩酸、硫酸などの酸でイオン交換し、グリシジル基は亜硫酸ナトリウムなどでスルホン酸金属塩とした後に酸処理することにより、硬化物中に存在するイオン伝導性前駆体基をイオン伝導性基とすることができる。
【0033】
本発明にかかわる電解質膜・電極接合用液状硬化性樹脂組成物は、燃料電池用の電解質膜と電極の接合性を向上する役割を果たすが、この電解質膜と電極の接合体は、例えば、下記方法により製造することができる。
(i)触媒が担持された第一の電極上に、電解質膜・電極接合用液状硬化性樹脂組成物を塗布し、電解質膜を貼り合わせた後、加熱及び/又は放射線を照射することにより組成物を硬化させ、電解質膜と電極を接合させる工程を行う。
(ii)触媒が担持された第一の電極上に、電解質膜・電極接合用液状硬化性樹脂組成物を塗布し、電解質膜を貼り合わせた後、更に、電解質膜・電極接合用液状硬化性樹脂組成物を塗布した触媒が担持された第二の電極を貼り合わせた後、加熱及び/又は放射線を照射して前記樹脂組成物を硬化させ、電解質膜と電極を接合させる工程を行う。
【0034】
図1は、上記(ii)の方法を説明するもので、図中1は、カーボンペーパー2上に触媒層3が形成された空気極、4は、同じくカーボンペーパー5上に触媒層6が形成された燃料極で、7は電解質膜、8,9は本発明の液状硬化性樹脂組成物の層であり、例えば燃料極4の触媒層6面上に液状硬化性樹脂組成物層9、電解質膜7、液状硬化性樹脂組成物層8、空気極1の触媒層3面の順に積層し、次いで加熱及び/又は電子線等の放射線を照射し、上記組成物8,9を硬化させて、電解質膜・電極接合体を得るものである。
【0035】
上記の触媒が担持された電極としては、通常の燃料電池の電極(燃料極、空気極)に触媒が担持されたものを用いることができる。この場合、これら電極の構成、材質は、燃料電池として公知の構成、材質とすることができ、触媒としても、燃料電池として公知の触媒、例えば白金系触媒等を使用することもできる。
【0036】
電極と接合する電解質膜としては、例えば、パーフルオロアルキレン基を主鎖として側鎖にパーフルオロエーテルスルホン酸を有するパーフルオロスルホン酸系電解質膜、ポリテトラフルオロエチレンやエチレン・テトラフルオロエチレン共重合フイルムに放射線を照射し、スチレン、ジビニルベンゼンをグラフトした後、スルホン化した放射線グラフト電解質膜、ポリベンズイミダゾールやポリエーテルエーテルケトンにスルホン酸基を導入した炭化水素系電解質膜が例示される。また、本発明の組成物を予め熱及び/又は放射線を用いて硬化させ、フイルム状にしたものも電解質膜として使用できる。
【0037】
上記工程において、電極に塗工膜あるいは電解質膜を接合させるには、プレス等を用いて0.05〜5kgf/cm2程度で圧着させればよく、電解質膜と電極とを高温でプレスしなくても良好に密着させることができる。
【0038】
本発明の電解質膜・電極接合用液状硬化性樹脂組成物及び電解質膜・電極接合体は、燃料電池用として好適に用いられるものである。燃料電池は、燃料極と空気極との間に各極に良好に密着した薄膜の固体高分子電解質膜が設けられているものであり、固体高分子電解質膜の両面に触媒層・燃料拡散層及びセパレータを配置することで発電特性に優れる燃料電池を製造することができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において数平均分子量はゲルパーミュエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定したポリスチレン換算値を示し、粘度はB型回転粘度計を用い、ローターNo.3、回転数30rpmの条件により測定した25℃における値を示す。
【0040】
[実施例1]
数平均分子量410のフルオロテトラエチレングリコール100g、2,6−ジ−tert−ブチルヒドロキシトルエン(BHT)0.05gを反応容器に仕込み、窒素通気下、65〜70℃で2,4−トリレンジイソシアネート84.9gを滴下した。滴下後更に70℃で2時間反応させ、次いでジブチルチンジラウレート0.02gを添加し、乾燥空気下で2−ヒドロキシエチルアクリレート56.6gを滴下した。更に、70℃で5時間反応させ、数平均分子量990のフルオロポリエーテルウレタンアクリレートオリゴマー(オリゴマーA)を得た。
【0041】
オリゴマーA50g、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸100g、数平均分子量543,000のフッ化ポリビニリデンパウダー(PVDF)100g、溶剤としてN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)900gを混合し、25℃の粘度が8,000mPa・sで蛍光色透明の液状硬化性樹脂組成物Bを得た。
【0042】
次に、アプリケーターを用い、ガラス板上に液状硬化性樹脂組成物Bを200μmになるよう塗工し、酸素濃度50ppm以下の窒素雰囲気下で加速電圧300kV、吸収線量が50kGyになるよう電子線照射して硬化させ、膜厚が約30μmの電解質膜Cを得た。
【0043】
ナフィオンの5%イソプロピルアルコール溶液(アルドリッチ社製)と白金を50質量%担持したTEC10E50E(田中貴金属社製)を混練してペースト状とした触媒ペーストをカーボンペーパーTGP−H−060(東レ社製)上に白金触媒が3mg/cm2になるようワイヤーバーを用いて塗工した後、熱風循環式乾燥器内で60℃,30分間乾燥させ、電極(空気極)を得た。
【0044】
同様にして白金・ルテニウム合金を54質量%担持したカーボンTEC61E54(田中貴金属社製)を混練してペースト状とした触媒ペーストをカーボンペーパーTGP−H−060(東レ社製)上に白金・ルテニウム触媒が3mg/cm2になるようワイヤーバーを用いて塗工した後、熱風循環式乾燥器内で60℃,30分間乾燥させ、電極(燃料極)を得た。
【0045】
これらの電極の触媒層面上にそれぞれ液状硬化性樹脂組成物Bを膜厚が約20μmになるようアプリケーターを用いて塗工し、電解質膜Cの両面に貼り合わせ、室温で5kgf/cm2のローラーを2往復させ、圧着した。その後、電子線照射装置を用い、図1に示す態様で、酸素濃度50ppm以下の窒素雰囲気下で加速電圧300kV、吸収線量が50kGyになるよう電子線照射したところ、液状硬化性樹脂組成物Bは良好に硬化し、電解質膜と各電極は強固に接合していた。
【0046】
この電解質膜・電極接合体を用い、1M/Lの濃度のメタノールを燃料とし、30℃で発電させたところ、電流100mA/cm2で、20mW/cm2の出力を得た。
【0047】
[比較例1]
実施例1で作製した燃料極(アノード)と空気極(カソード)の間に、液状硬化性樹脂組成物を塗布しないで直接電解質膜Cを挟み、室温で5kgf/cm2のローラーを2往復させて圧着したが、全く密着しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の電解質膜・電極接合体を作製する方法の一例を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 空気極
2,5 カーボンペーパー
3,6 触媒層
4 燃料極
7 電解質膜
8,9 液状硬化性樹脂組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一分子中に少なくとも1個のエチレン性不飽和基と少なくとも1個のイオン伝導性基もしくはその前駆体基とを有する化合物を含有し、25℃における粘度が100,000mPa・s以下であることを特徴とする電解質膜・電極接合用液状硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
一分子中に少なくとも1個のエチレン性不飽和基と少なくとも1個のイオン伝導性基もしくはその前駆体基とを有する分子量が1,000未満のモノマーと、一分子中に少なくとも2個の反応性基を有する数平均分子量が1,000以上のオリゴマーを質量比10/90〜90/10で含有してなり、25℃における粘度が100,000mPa・s以下であることを特徴とする電解質膜・電極接合用液状硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
イオン伝導性基が、スルホン酸基であることを特徴とする請求項1又は2記載の電解質膜・電極接合用液状硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の電解質膜・電極接合用液状硬化性樹脂組成物を予め作製した電解質膜又は電極の少なくともいずれか一方に塗布し、前記液状硬化性樹脂組成物が電解質膜と電極間に介在するよう貼り合わせた後、前記液状硬化性樹脂組成物を加熱及び/又は放射線照射により硬化させることにより、前記電解質膜と前記電極硬化膜を接合することを特徴とする固体高分子型燃料電池用電解質膜・電極接合体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−100207(P2006−100207A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−287561(P2004−287561)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】