説明

電解銅箔及びその電解銅箔の製造方法

【課題】厚い銅箔であっても、中程度の粗度を有し、絶縁樹脂基材との一定レベル以上の密着性を確保し、且つ、より薄い絶縁樹脂基材の使用が可能な電解銅箔を提供する。
【解決手段】硫酸系銅電解液を電解して得られる電解銅箔において、当該電解銅箔は90μm〜450μmの厚さを持ち、当該電解銅箔の粗面側が、表面粗さ(Rzjis)=8μm〜15μmの中粗度表面である電解銅箔を提供する。そして、その電解銅箔の製造には、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸と高分子膠と塩素とを添加して得られた硫酸系銅電解液を用いることを特徴とする電解銅箔の製造方法を採用する。この製造方法における前記高分子膠は、初期数平均分子量10000以上である事が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、電解銅箔及びその電解銅箔の製造方法に関する。特に、90μm〜450μmの厚さを持つ厚物電解銅箔であり、その粗面側が中粗度表面であることを特徴とする電解銅箔及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電解銅箔はプリント配線板の基礎材料として広く使用されてきた。そして、プリント配線板が多用される電子及び電気機器には、小型化、軽量化等の所謂軽薄短小化が求められている。従来、このような電子及び電気機器の軽薄短小化を実現するためには、信号回路を可能な限りファインピッチ化するため、より薄い銅箔を採用し、エッチングによって回路を形成する際のオーバーエッチングタイムの不要なロープロファイル銅箔が強く求められてきた。
【0003】
そして、一方で、OA機器の代表であるパーソナルコンピュータのクロック周波数も急激に上昇し、演算速度が飛躍的に速くなっている。これらのパーソナルコンピュータを複数台使用する場合等には、予期せぬデータの消失を防止するため、データのバックアップを目的としてサーバを使用するケースが多く見られる。従って、サーバの演算速度もより高速化することが求められ、小型且つ高性能であることが要求される。従って、これらのコンピュータ及びサーバに用いるプリント配線板にも、小型且つ高機能化した性能が求められ、限られた領域のプリント配線板の中に信号回路と電源回路とが内包されている。
【0004】
限られたプリント配線板面積の中で、より信頼性の高い電源回路を得ようとすると、厚銅の回路を使用することが、発熱を押さえ、大電流を流すという観点からは好ましいため、近年厚い銅箔に対する需要が高まってきている。ところが、厚い銅箔の欠点は、絶縁基材との張り合わせ面の粗度が大きく、絶縁層を薄くすると絶縁層内にある骨格材との接触を起こし、大電流の流れる電源回路間では特にマイグレーション現象が起きやすく、回路同士の短絡を起こしやすいという欠点があるため、絶縁層を薄くすることが出来ず、最終製品であるプリント配線板の軽量化が出来ないということにもなる。
【0005】
このような問題を解決すべく、特許文献1に開示されているように、硫酸酸性銅めっき液の電気分解による電解銅箔の製造方法において、ジアリルジアルキルアンモニウム塩と二酸化硫黄との共重合体を含有する硫酸酸性銅めっき液を用いることを特徴とする電解銅箔の製造方法が提唱され、当該硫酸酸性銅めっき液には、ポリエチレングリコールと塩素と3−メルカプト−1−スルホン酸とを含有することが好ましいとされている。そして、絶縁基材との張り合わせ面の粗度(析出面粗さ)が小さく、厚さ10μmの電解銅箔の場合、Rz=1.0±0.5μm程度の低粗度が得られている。
【0006】
また、特許文献2には、ゼラチンや膠などを用いなくても、析出面の表面粗さが小さく、伸び率に優れた電解銅箔を製造する方法として、硫酸酸性銅めっき液の電気分解による電解銅箔の製造方法において、ポリエチレングリコールと塩素と3−メルカプト−1−スルホン酸とを含有することを特徴とする硫酸酸性銅めっき液を用いることが提唱されている。そして、絶縁基材との張り合わせ面の粗度(析出面粗さ)が小さく、厚さ10μmの電解銅箔の場合、Rz=1.5±0.5μm程度の低粗度が得られている。
【0007】
更に、特許文献3には、未処理銅箔の析出面の表面粗度Rzが該未処理銅箔の光沢面の表面粗度Rzと同じか、それより小さい箔の析出面上に粗化処理を施したことを特徴とする電解銅箔を開示している。そして、その電解銅箔の製造方法であって、未処理銅箔の製造を、メルカプト基を持つ化合物並びにそれ以外の少なくとも1種以上の有機化合物及び塩化物イオンを添加した電解液を用いた電解にて行うことを特徴とする製造方法を採用し、前記のメルカプト基を持つ化合物として3−メルカプト1−プロパンスルホン酸塩を用いている。その結果、得られている電解銅箔の析出面の表面粗度は、厚さ18μmの電解銅箔の場合、Rz=1.1μm〜2.2μm程度の低粗度が得られている。
【0008】
そして、これらの製造方法を用いて、90μm以上の厚い電解銅箔を製造しても、極めて低い粗度の析出面が形成され、ロープロファイル銅箔としては、極めて優れた性質を示す。
【0009】
【特許文献1】特開2004−35918号公報
【特許文献2】特開2004−162144号公報
【特許文献3】特開平9−143785号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、銅箔の場合には厚くなるほど、絶縁樹脂基材に対する密着性を向上させ、耐熱特性(特に、100℃を超える温度で長時間加熱した後の引き剥がし強さ)を向上させるためには、物理的なアンカー効果が必要となる。そのためには、絶縁樹脂基材に張り合わせるための粗化処理、防錆処理等を施す前の未処理銅箔(本件明細書では、「電解銅箔」と称している。)の段階で、その析出面に一定の凹凸が存在する必要がある。特許文献1〜特許文献3のいずれに開示の電解銅箔も、その析出面の粗度が低すぎて、上記要件を充足しない。
【0011】
即ち、従来の製造方法をもって厚い銅箔を製造しようとすると、粗度の極めて粗い電解銅箔(90μm厚さの電解銅箔の場合、Rzjisが20μm以上)か、粗度の極めて低い電解銅箔(90μm厚さの電解銅箔の場合、Rzjisが8μm未満)のいずれかしか作り得ず、中程度の粗度を持つ電解銅箔を安定的且つ工業的量産ベースで製造する技術が存在しなかったのである。
【0012】
以上のことから、厚い銅箔であっても、中程度の粗度を有し、絶縁樹脂基材との一定レベル以上の密着性を確保し、且つ、より薄い絶縁樹脂基材の使用が可能な電解銅箔が望まれてきたのである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本件発明に係る電解銅箔は、硫酸系銅電解液を電解して得られる電解銅箔において、当該電解銅箔は90μm〜450μmの厚さを持ち、当該電解銅箔の粗面側が、表面粗さ(Rzjis)=8μm〜15μmの中粗度表面であることを特徴とするものである。
【0014】
そして、本件発明に係る電解銅箔の製造は、粗面側が中粗度表面である電解銅箔の製造方法であって、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸と高分子膠と塩素とを添加して得られた硫酸系銅電解液を用いることを特徴とする電解銅箔の製造方法を採用することが好ましい。
【0015】
本件発明に係る電解銅箔の製造に用いる上記高分子膠は、初期数平均分子量10000以上である事が好ましい。
【0016】
本件発明に係る電解銅箔の製造に用いる前記硫酸系銅電解液に添加する高分子膠濃度は、0.5ppm〜3ppmである事が好ましい。
【0017】
本件発明に係る電解銅箔の製造に用いる前記硫酸系銅電解液中の3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸濃度は、1ppm〜2ppmである事が好ましい。
【0018】
本件発明に係る電解銅箔の製造に用いる前記硫酸系銅電解液中の塩素濃度は、5ppm〜30ppmであることが好ましい。
【0019】
そして、本件発明に係る電解銅箔の製造に用いる前記硫酸系銅電解液は、液温20℃〜52℃とし、電流密度30A/dm〜90A/dmで電解することが好ましい。
【0020】
本件発明に係る電解銅箔は、その粗面に粗化処理、防錆処理、シランカップリング剤処理のいずれか一種又は二種以上を行った表面処理銅箔として用いることが好ましい。
【0021】
更に、本件発明に係る表面処理銅箔は、その絶縁樹脂基材との張り合わせ面が、表面粗さ(Rzjis)=10μm〜20μmの中粗度表面である。
【発明の効果】
【0022】
本件発明に係る電解銅箔は、その粗面が中程度の粗度を備える。従来の電解銅箔は、高プロファイルか、低プロファイルのいずれかに分類されるものであり、この中間の粗度のプロファイルを持つ電解銅箔は存在しなかった。このような高プロファイルと低プロファイルの中間の粗度を備える電解銅箔は、その表面に各種表面処理を行い表面処理銅箔として、プリント配線板製造に用いる。すると、基板として実用上支障のない耐熱特性、耐薬品性、引き剥がし強さを得ることが可能で、これらの特性のトータルバランスに優れたものとなる。
【0023】
また、本件発明に係る電解銅箔の製造方法を用いることで、本件発明に係る中程度の粗度の粗面を備える電解銅箔を容易に製造出来る。この製造方法によって、従来当業者間で製造困難といわれてきた、中間プロファイルの電解銅箔の工業ベースでの製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
そこで、本件発明者等は、鋭意研究の結果、中程度の粗度を有し、絶縁樹脂基材との一定レベル以上の密着性を確保し、且つ、より薄い絶縁樹脂基材の使用が可能な電解銅箔を得ることに成功し、本件発明に想到したのである。
【0025】
<本件発明に係る電解銅箔>
本件発明に係る電解銅箔は、硫酸系銅電解液を電解して得られる電解銅箔において、当該電解銅箔は90μm〜450μmの厚さを持ち、当該電解銅箔の粗面側が、表面粗さ(Rzjis)=8μm〜15μmの中粗度表面であることを特徴とするものである。
【0026】
本件発明に言う「電解銅箔」とは、何ら表面処理を行っていない状態のものであり「未処理銅箔」、「析離箔」等と称されることがある。この電解銅箔は、一般的に連続生産法が採用され、ドラム形状をした回転陰極と、その回転陰極の形状に沿って対向配置する鉛系陽極又は不溶性陽極(DSA)との間に、硫酸銅系溶液を流し、電解反応を利用して銅を回転陰極のドラム表面に析出させ、この析出した銅が箔状態となり、回転陰極から連続して引き剥がして巻き取ることにより生産される。この段階では、防錆処理等の表面処理は何ら行われていない状況であり、電析直後の銅は活性化した状態にあり空気中の酸素により、非常に酸化しやすい状態にある。
【0027】
この電解銅箔の回転陰極と接触した状態から引き剥がされた面は、鏡面仕上げされた回転陰極表面の形状が転写したものとなり、光沢を持ち滑らかな面であるため光沢面と称する。これに対し、析出サイドであった方の表面形状は、析出する銅の結晶成長速度が結晶面ごとに異なるため、山形の凹凸形状を示すものとなり、これを粗面又は析出面(本件明細書では以下「粗面」を用いる。)と称する。この粗面が銅張積層板を製造する際の絶縁層との張り合わせ面となるのである。
【0028】
そして、この電解銅箔は、表面処理工程により、粗面への粗面化処理と防錆処理とが施されるのが通常である。粗面への粗面化処理とは、硫酸銅溶液中で、いわゆるヤケメッキ条件の電流を流し、粗面の山形の凹凸形状に微細銅粒を析出付着させ、直ちに平滑メッキ条件の電流範囲で被せメッキする事で、微細銅粒の脱落を防止するものである。従って、微細銅粒を析出付着させた粗面のことを「粗化処理面」と称する。続いて、表面処理工程では、電解銅箔の表裏に、亜鉛、亜鉛合金、クロム系のメッキ等により防錆処理が行われ、乾燥して、巻き取ることで製品としての電解銅箔が完成するのである。これを一般に「表面処理箔」と称する。
【0029】
本件発明では、主に厚い電解銅箔を対象としている。一般的に、上記特許文献1〜特許文献3に開示の製造方法のように特殊な製造方法を採用しない限り、従来の電解銅箔の粗面は非常に粗い粗度を持っていた。例えば、70μm厚さの電解銅箔を表面処理するとRzの値が20μmを超え、210μm厚さの電解銅箔を表面処理するとRzの値が40μmを超える等のレベルである。従って、厚い電解銅箔に、上記表面処理を施して絶縁樹脂基材に張り合わせようとすると、自ずと厚い絶縁樹脂基材を使用しなければならないことが理解出来る。しかも、厚い電解銅箔を絶縁樹脂基材に張り合わたときには、物理的なアンカー効果を得ることが容易で耐熱特性には優れるものの、界面の凹凸が激しいため、当該界面でのエッチング液等のしみ込みが大きく、耐薬品性劣化が大きいと言われてきた。
【0030】
これに対して、本件発明に係る電解銅箔は、90μm〜450μmの厚さを持っていても、当該電解銅箔の粗面側の表面粗さ(Rzjis)=8μm〜15μmの中粗度表面であるため、上記表面処理を施して粗化処理を行い、防錆処理等を行っても従来の厚い電解銅箔ほどに粗度の高い表面とはならないのである。
【0031】
このように粗面側の表面が中粗度レベルである電解銅箔を用いて得られる表面処理銅箔は、その粗化処理面の粗度も中程度になる。そして、絶縁樹脂基材に張り合わると、物理的なアンカー効果を適度に得ることが可能で、界面の凹凸も軽減されるため、当該界面でのエッチング液等の薬液のしみ込みが小さく、耐薬品性劣化が小さくなる。
【0032】
<本件発明に係る電解銅箔の製造方法>
本件発明に係る電解銅箔の製造方法は、粗面側が中粗度表面である電解銅箔の製造方法であって、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸と高分子膠と塩素とを添加して得られた硫酸系銅電解液を用いることを特徴とするものである。
【0033】
ここで言う「高分子膠」とは、初期数平均分子量10000以上である膠、ゼラチン、コラーゲン(以下、単に「膠」と総称する。)を含む意で用いている。膠の初期数平均分子量が10000未満の場合には、電解銅箔の粗面が滑らかな平滑面となり、中程度の粗度以下の表面しか得られないのである。ここで、初期数平均分子量とは、硫酸系銅電解液に添加する前の数平均分子量のことである。
【0034】
ここで、上記膠の数平均分子量の測定方法について説明する。本件発明に言う数平均分子量は、上記膠を水に溶解させた濃度3ppm〜5ppmの試料溶液をゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法を用いて測定したものである。本件発明では、移動相としてアセトニトリル20容量%、濃度5mMの希硫酸80容量%の混合溶液を用い、この移動相を送液ポンプで送り出し、これに200μlの試料溶液を注入し、その後直列配置した3本のカラムを通過させた。第1カラムはアムシャムファルマシアバイオテク株式会社製のSephadex G−15(排除限界分子量1500)の粒径66μm以下の充填剤を収容した内径7.5mm、長さ250mmのPEEK製カラムである。第2及び第3カラムは、昭和電工株式会社製のAsahipak GS−320HQ(排除限界分子量40000)、内径7.6mm、長さ300mmのカラムである。第1カラム〜第3カラムを通過して吸光度検出器(UV210nm)を用いて膠の分子量分布を測定し、数平均分子量を算出した。
【0035】
なお、膠の数平均分子量の測定において、検量線の作成に用いた試薬は以下のとおりである。
(試薬)
・ALBUMIN,BOVINE SERUM(シグマアルドリッチジャパン株式会社製、分子量66000)
・CYTOCHROME C(シグマアルドリッチジャパン株式会社製、分子量12400)
・APROTININ(シグマアルドリッチジャパン株式会社製、分子量6500)
・INSULIN(シグマアルドリッチジャパン株式会社製、分子量5734)
・INSULIN CHAIN B,OXIDIZED(シグマアルドリッチジャパン株式会社製、分子量3496)
・NEUROTENSIN(シグマアルドリッチジャパン株式会社製、分子量1673)
・ANGIOTENSIN II(シグマアルドリッチジャパン株式会社製、分子量1046)
・VAL−GLU−GLU−ALA−GLU(シグマアルドリッチジャパン株式会社製、分子量576)
【0036】
そして、前記硫酸系銅電解液に添加する高分子膠濃度は、0.5ppm〜3ppmである事が好ましい。膠濃度が0.5ppm未満の場合には、電解銅箔の粗面が粗くなり、中程度の粗度の維持が困難となる。一方、膠濃度が3ppmを超えると電解銅箔の粗面が中程度の粗度を維持出来ず、平滑化する傾向が強くなる。
【0037】
次に、前記硫酸系銅電解液中の3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸濃度は、1ppm〜2ppmである事が好ましい。この3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸濃度が1ppm未満の場合には、電解銅箔の粗面が粗くなり、中程度の粗度の維持が困難となる。一方、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸濃度が2ppmを超えると、電解銅箔の粗面が平滑化し中程度の粗度を維持出きなくなる。なお、本件発明における3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸は、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸塩をも含む意味で使用しており、濃度の記載値は、ナトリウム塩である3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸ナトリウムとしての換算値である。更に、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸の濃度には、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸の単量体の他、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸の二量体等の電解液中での変性物も含んでいる。
【0038】
更に、前記硫酸系銅電解液の塩素濃度は、5ppm〜30ppmである事が好ましく、より好ましくは10ppm〜30ppmである。この塩素濃度が5ppm未満の場合には、電解銅箔の粗面が平滑化し中程度の粗度を維持出きなくなる。一方、塩素濃度が30ppmを越えると、電解銅箔の粗面が粗くなり、電析状態が安定せず、中程度の粗度の維持が困難となる。
【0039】
しかしながら、前記硫酸系銅電解液中の3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸と高分子膠と塩素との成分バランスが重要であり、これらの量的バランスが上記範囲を逸脱すると、電解銅箔の粗面が平滑化し中程度の粗度を維持出きなくなるか、電解銅箔の粗面が粗くなり中程度の粗度の維持が困難となる。
【0040】
なお、本件発明に言う硫酸系銅電解液の銅濃度は、50g/l〜120g/l、フリー硫酸濃度が60g/l〜250g/l程度の溶液を想定している。
【0041】
そして、上記硫酸系銅電解液を用いて電解銅箔を製造する場合には、液温20℃〜52℃とし、電流密度30A/dm〜90A/dmで電解することが好ましい。液温が20℃〜52℃、より好ましくは40℃〜50℃である。液温が20℃未満の場合には析出速度が低下し伸び及び引張り強さ等の機械的物性のバラツキが大きくなる。一方、液温が52℃を超えると蒸発水分量が増加し液濃度の変動が速く、得られる電解銅箔の粗面の形状にバラツキが大きくなる。また、電流密度は30A/dm〜90A/dmで、より好ましくは50A/dm〜86A/dmである。電流密度が30A/dm未満の場合には銅の析出速度が小さく工業的生産性が劣る。一方、電流密度が90A/dmを超える場合には、得られる電解銅箔の粗面粗さが大きくなり、中程度の粗度を維持出来ない。
【0042】
<本件発明に係る表面処理銅箔>
本件発明に係る電解銅箔は、その粗面に粗化処理、防錆処理、シランカップリング剤処理のいずれか一種又は二種以上を行い表面処理銅箔として、プリント配線板の絶縁層構成材と張り合わせることが一般的である。
【0043】
ここで、粗化処理とは、電解銅箔の粗面に微細金属粒を付着形成させるか、エッチング法で粗化表面を形成するか、いずれかの方法が採用される。ここで、前者の微細金属粒を付着形成する方法として、銅微細粒を粗面に付着形成する方法に関して例示しておく。この粗化処理工程は、電解銅箔の粗面上に微細銅粒を析出付着させる工程と、この微細銅粒の脱落を防止するための被せメッキ工程とで構成される。
【0044】
電解銅箔の粗面上に微細銅粒を析出付着させる工程では、電解条件としてヤケメッキの条件が採用される。従って、一般的に微細銅粒を析出付着させる工程で用いる溶液濃度は、ヤケメッキ条件を作り出しやすいよう、低い濃度となっている。このヤケメッキ条件は、特に限定されるものではなく、生産ラインの特質を考慮して定められるものである。例えば、硫酸銅系溶液を用いるのであれば、濃度が銅5〜20g/l、硫酸50〜200g/l、その他必要に応じた添加剤(α−ナフトキノリン、デキストリン、膠、チオ尿素等)、液温15〜40℃、電流密度10〜50A/dmの条件とする等である。
【0045】
そして、微細銅粒の脱落を防止するための被せメッキ工程では、析出付着させた微細銅粒の脱落を防止するために、平滑メッキ条件で微細銅粒を被覆するように銅を均一析出させるための工程である。従って、ここでは前述のバルク銅の形成槽で用いたものと同様の溶液を銅イオンの供給源として用いることができる。この平滑メッキ条件は、特に限定されるものではなく、生産ラインの特質を考慮して定められるものである。例えば、硫酸銅系溶液を用いるのであれば、濃度が銅50〜80g/l、硫酸50〜150g/l、液温40〜50℃、電流密度10〜50A/dmの条件とする等である。
【0046】
次に、防錆処理層を形成する方法に関して説明する。この防錆処理層は、銅張積層板及びプリント配線板の製造過程で支障をきたすことの無いよう、電解銅箔層の表面が酸化腐食することを防止するためのものである。防錆処理に用いられる方法は、ベンゾトリアゾール、イミダゾール等を用いる有機防錆、若しくは亜鉛、クロメート、亜鉛合金等を用いる無機防錆のいずれを採用しても問題はない。電解銅箔の使用目的に合わせた防錆を選択すればよい。有機防錆の場合は、有機防錆剤を浸漬塗布、シャワーリング塗布、電着法等の手法を採用することが可能となる。無機防錆の場合は、電解で防錆元素を電解銅箔層の表面上に析出させる方法、その他いわゆる置換析出法等を用いることが可能である。例えば、亜鉛防錆処理を行うとして、ピロ燐酸亜鉛メッキ浴、シアン化亜鉛メッキ浴、硫酸亜鉛メッキ浴等を用いることが可能である。例えば、ピロ燐酸亜鉛メッキ浴であれば、濃度が亜鉛5〜30g/l、ピロ燐酸カリウム50〜500g/l、液温20〜50℃、pH9〜12、電流密度0.3〜10A/dmの条件とする等である。
【0047】
そして、シランカップリング剤処理とは、粗化処理、防錆処理等が終了した後に、絶縁層構成材との密着性を化学的に向上させるための処理である。ここで言う、シランカップリング剤処理に用いるシランカップリング剤は、特に限定を要するものではなく、使用する絶縁層構成材、プリント配線板製造工程で使用するメッキ液等の性状を考慮して、エポキシ系シランカップリング剤、アミノ系シランカップリング剤、メルカプト系シランカップリング剤等から任意に選択使用することが可能となる。
【0048】
より具体的には、プリント配線板用にプリプレグのガラスクロスに用いられると同様のカップリング剤を中心にビニルトリメトキシシラン、ビニルフェニルトリメトキシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、4−グリシジルブチルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−3−(4−(3−アミノプロポキシ)プトキシ)プロピル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、イミダゾールシラン、トリアジンシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を用いることが可能である。
【0049】
そして、本件発明に係る電解銅箔を用いて、その表面に上記所望の表面処理を施した表面処理銅箔は、その絶縁樹脂基材との張り合わせ面が、表面粗さ(Rzjis)=10μm〜20μmの中粗度表面であることを特徴とする。このような中粗度の粗化面を備えることで、絶縁層構成材に張り合わせたときの電解銅箔の良好な密着性を確保することが可能で、基板として実用上支障のない耐熱特性、耐薬品性、引き剥がし強さを得ることが可能で、これらの特性のトータルバランスに優れたものとなる。
【実施例1】
【0050】
(電解銅箔の製造)
この実施例では、硫酸系銅電解液として、硫酸銅溶液であって、銅濃度80g/l、フリー硫酸140g/l、表1に記載の塩素濃度、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸濃度、膠濃度(初期数平均分子量20000)、液温50℃の溶液を用いて、電流密度60A/dmで電解し、210μm厚さの電解銅箔を得た。この電解銅箔の片面は、チタン製電極の表面形状の転写した光沢面であり、他面は一定の凹凸を持つ粗面となった。この粗面の粗度に関しては、表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
この表1から分かるように、210μm厚さの電解銅箔であっても、その粗面の表面粗さは、8.0μm〜13.7μmであり、本件発明に於いて定義した中粗度の領域に収まっている。
【0053】
そして、上記試料1〜試料5の電解銅箔の表面処理として、当該粗面に、微細銅粒を析出付着させて、粗化処理面を形成した。この粗化処理面の形成の前に、当該電解銅箔の表面を酸洗処理して、清浄化を行った。この酸洗処理条件は、濃度100g/l、液温30℃の希硫酸溶液を用い、浸漬時間30秒とした。
【0054】
そして、酸洗処理が終了すると、次には電解銅箔の粗面に微細銅粒を形成する工程として、粗面上に微細銅粒を析出付着させる工程と、この微細銅粒の脱落を防止するための被せメッキ工程とを施した。前者の微細銅粒を析出付着させる工程では、硫酸銅系溶液であって、濃度が銅7g/l、硫酸100g/l、液温25℃、電流密度10A/dmの条件で、10秒間電解した。
【0055】
そして、粗面に微細銅粒を付着形成すると、微細銅粒の脱落を防止するための被せメッキ工程として平滑メッキ条件で微細銅粒を被覆するように銅を均一析出させた。ここでは平滑メッキ条件として、硫酸銅溶液であって、濃度が銅60g/l、硫酸150g/l、液温45℃、電流密度15A/dmの条件とし、20秒間電解した。
【0056】
上述した粗化処理が終了すると、次には当該銅箔の両面に防錆処理を施した、ここでは以下に述べる条件の無機防錆を採用した。硫酸亜鉛浴を用い、硫酸濃度70g/l、亜鉛濃度20g/lとし、液温40℃、電流密度15A/dmとし、亜鉛防錆処理を施した。
【0057】
更に、本実施例の場合、前記亜鉛防錆層の上に、電解でクロメート層を形成した。このときの電解条件は、クロム酸5.0g/l、pH 11.5、液温35℃、電流密度8A/dm、電解時間5秒とした。
【0058】
以上のように防錆処理が完了すると水洗後、直ちにシランカップリング剤処理槽で、粗化した面の防錆処理層の上にシランカップリング剤の吸着を行った。このときの溶液組成は、イオン交換水を溶媒として、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを5g/lの濃度となるよう加えたものとした。そして、この溶液をシャワーリングにて吹き付けることにより吸着処理した。
【0059】
シランカップリング剤処理が終了すると、最終的に、電熱器により箔温度が140℃となるよう、雰囲気温度を調整加熱した炉内を4秒かけて通過し、水分をとばし、シランカップリング剤の縮合反応を促進し、完成した表面処理銅箔とした。この結果、いずれも本件発明に言う表面処理銅箔の表面粗さ(Rzjis)=10μm〜20μmの中粗度表面が得られた。
【比較例】
【0060】
(比較例1)
この比較例では、一般的に市販されている表面処理銅箔の製造に用いる210μm厚さの電解銅箔を用いた。この電解銅箔の粗面の粗度は、Rzjis=32.4μmであった。
【0061】
(比較例2)
特許文献1に開示の実施例1のトレース実験として、硫酸銅(試薬)と硫酸(試薬)とを純水に溶解し、銅濃度280g/l、フリー硫酸濃度90g/lとし、ジアリルジアルキルアンモニウム塩と二酸化硫黄との共重合体(日東紡績株式会社製、商品名PAS−A−5、重量平均分子量4000:4ppm)とポリエチレングリコール(平均分子量1000:10ppm)と3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸(5ppm)とを添加し、更に塩化ナトリウムを用いて塩素濃度を20ppmに調製して、硫酸酸性銅めっき液を調製した。
【0062】
そして、陰極としてチタン板電極を用い、表面を2000番の研磨紙を用いて研磨を行った。表面粗さをRaで0.20μmに調整した。そして、陽極には鉛板を用い、上記の電解液を液温40℃、電流密度50A/dmで電解を行い、210μm厚さの電解銅箔を得た。この電解銅箔の粗度は、Rzjisが8μm未満であった。
【0063】
(比較例3)
特許文献2に開示の実施例1のトレース実験として、硫酸銅(試薬)と硫酸(試薬)とを純水に溶解し、ポリエチレングリコール(平均分子量1000)と3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸とを添加し、ついで塩化ナトリウムを用いて塩素濃度を20ppmに調製して、硫酸酸性銅めっき液を調製した。以下、比較例2と同様にして、電解銅箔を製造した。
この電解銅箔の粗度は、Rzjisが8μm未満であった。
【0064】
(比較例4)
特許文献3に開示の実施例1のトレース実験として、銅濃度90g/l、フリー硫酸濃度110g/lの硫酸系銅電解液を、活性炭フィルターに通して清浄処理した。ついで、この電解液に3−メルカプト1−プロパンスルホン酸ナトリウム(0.8ppm)と、高分子多糖類としてヒドロキシエチルセルロース(5ppm)及び低分子量膠(初期数平均分子量1560:5ppm)と、塩素濃度30ppmとなるように、それぞれ添加して電解液を調製した。このようにして調製した電解液を用い、アノードにはDSA電極、陰極にはチタン板を用いて、液温58℃、電流密度50A/dmで電解を行い、210μm厚さの電解銅箔を得た。この電解銅箔の粗度は、Rzjisが8μm未満であった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
従来の電解銅箔は、高プロファイルか、低プロファイルのいずれかに分類されるものであるのに対し、本件発明に係る電解銅箔は、その粗面が中程度の粗度を備える。このような中間の粗度のプロファイルを持つ電解銅箔は存在しなかった。このような高プロファイルと低プロファイルの中間の粗度を備える電解銅箔は、その表面に各種表面処理を行い表面処理銅箔として、プリント配線板製造に用いる。その結果、基板として実用上支障のない耐熱特性、耐薬品性、引き剥がし強さを得ることが可能で、これらの特性のトータルバランスに優れ、大電流を流し、且つ、ある程度のファイン化の必要な電源回路への応用が広がる。
【0066】
また、本件発明に係る電解銅箔の製造方法を用いることで、本件発明に係る中程度の粗度の粗面を備える電解銅箔を容易に製造出来る。この製造方法は、特殊な製造装置を用いることなく、従来の製造装置を活用することが可能であるため、低価格で中間プロファイルの厚い電解銅箔の量産を可能とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸系銅電解液を電解して得られる電解銅箔において、
当該電解銅箔は90μm〜450μmの厚さを持ち、当該電解銅箔の粗面側が、表面粗さ(Rzjis)=8μm〜15μmの中粗度表面であることを特徴とする電解銅箔。
【請求項2】
粗面側が中粗度表面である電解銅箔の製造方法であって、
3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸と高分子膠と塩素とを添加して得られた硫酸系銅電解液を用いることを特徴とする電解銅箔の製造方法。
【請求項3】
前記高分子膠が初期数平均分子量10000以上である請求項2に記載の電解銅箔の製造方法
【請求項4】
前記硫酸系銅電解液に添加した高分子膠濃度が0.5ppm〜3ppmである請求項2又は請求項3に記載の電解銅箔の製造方法。
【請求項5】
前記硫酸系銅電解液中の3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸濃度が1ppm〜2ppmである請求項2〜請求項4のいずれかに記載の電解銅箔の製造方法。
【請求項6】
前記硫酸系銅電解液中の塩素濃度が5ppm〜30ppmである請求項2に記載の電解銅箔の製造方法。
【請求項7】
前記硫酸系銅電解液は、液温20℃〜52℃とし、電流密度30A/dm〜90A/dmで電解することを特徴とする電解銅箔の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の電解銅箔の粗面に粗化処理、防錆処理、シランカップリング剤処理のいずれか一種又は二種以上を行った表面処理銅箔。
【請求項9】
前記表面処理銅箔の絶縁樹脂基材との張り合わせ面が、表面粗さ(Rzjis)=10μm〜20μmの中粗度表面であることを特徴とする請求項8に記載の表面処理銅箔。