説明

電車線路用支持がいしおよびその組み付け方法

【課題】電線振動によって振動する電車線路用支持がいしにおいて、ベース金具の固定に用いるベース金具固定部材が疲労破壊する問題を効果的に回避可能とする技術を提供する。
【解決手段】先端部に係合部材を備え、他端部にベース金具1を備えた中実円柱状磁器体7からなる電車線路用支持がいしであって、該ベース金具1の下面を取付アーム2に固定するベース金具固定部材3は、多角形状の頭部31とねじ溝を形成した軸部32からなり、該頭部31を回転不能に保持する頭部保持孔11を、該ベース金具1の上面に形成し、該軸部32を挿通する軸部挿通孔12を、該ベース金具を貫通して形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電車線路用支持がいし、およびその組み付け方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
LP碍子(ラインポスト碍子)は、特に米国において頻繁に使用される、電線を連架するための屋外用碍子であり、先端部にクランプと呼ばれる係合部材、もう一方の端部にはベース金具と呼ばれる支持金具を備えた中実円柱状磁器体を主体として構成され、電柱や鉄塔等の支柱に、該ベース金具を固定して中実円柱状磁器体を支持し、中実円柱状磁器体先端のクランプに電線を係合することにより、電線を固定支持する構造を有している(例えば、特許文献1)。
【0003】
従来、該ベース金具の固定構造としては、図3に示すように、ベース金具1のねじ穴に、ベース金具固定部材3を挿入後、取付アーム2のねじ穴へ挿入し、ベース金具固定部材3の下部をダブルナット4でねじ止めする構造が採用されてきた。当該構造においてはベース金具1と1取付アーム2とを強固に固定する手段として、図4に示すように、ベース金具側とベース金具固定部材3側の双方にラチェット部5を形成し、該2か所のラチェット部5間に、更に、ばね座金6を挟み込む構造が採用されている。
【0004】
当該ラチット構造では、円周上にラチットが12山存在するため、構造上30度のゆるみは許容されているが、当該LP碍子を電車線路用支持がいしとして使用した場合、電車の運行に伴い、該LP碍子に繰り返し電線振動が加わって、ばね座金5に摩耗が生じると、先のラチット構造において、30度以上のゆるみが生じやすくなる。ラチット構造において、30度以上のゆるみが生じると、これに伴って、図5に示すように、ベース金具1とがいし取付アーム2との間に隙間(ガタ)が生じ、当該状態において電線振動によって中実円柱状磁器体7からなるがいし本体が繰り返し振動すると、図6に示すように、ベース金具固定部材に圧縮ストレスと引張ストレス、曲げ荷重が繰り返し加わるため、当該部分から疲労破壊を起しやすいという問題があった。
【0005】
また、がいしの組み付け作業時に、ばね座金6を挟み込み忘れた場合にも、ラチット構造部分にゆるみが生じやすくなり、当該状態において電線振動によってがいしが繰り返し振動すると、上記と同様に、ベース金具固定部材に圧縮ストレスと引張ストレス、曲げ荷重が繰り返し加わるため、当該部分から疲労破壊を起しやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−139474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は前記の問題を解決し、電線振動によって振動する電車線路用支持がいしにおいて、ベース金具の固定に用いるベース金具固定部材が疲労破壊する問題を効果的に回避可能とする技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明の電車線路用支持がいしは、先端部に係合部材を備え、他端部にベース金具を備えた中実円柱状磁器体からなる電車線路用支持がいしであって、該ベース金具の下面を取付アームに固定するベース金具固定部材は、多角形状の頭部とねじ溝を形成した軸部からなり、該頭部を回転不能に保持する頭部保持孔を、該ベース金具の上面に形成し、該軸部を挿通する軸部挿通孔を、該ベース金具を貫通して形成したことを特徴とするものである。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の電車線路用支持がいしにおいて、該ベース金具の下面を取付アームに固定するベース金具固定部材は、ダブルナットで固定されることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の電車線路用支持がいしの組み付け方法であって、取付アームに形成した軸部挿通孔と、ベース金具を貫通して形成した軸部挿通孔とを位置合わせ後、ベース金具の頭部保持孔側からベース金具固定部材を挿入し、該ベース金具固定部材の頭部を頭部保持孔で保持した後、ベース金具を貫通して形成した軸部の下部側から、ダブルナットで固定する工程と、該ベース金具に形成された中実円柱状磁器体保持部にセメントを充填する工程と、セメントを充填した中実円柱状磁器体保持部に中実円柱状磁器体を挿入する工程を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る電車線路用支持がいしは、先端部に係合部材を備え、他端部にベース金具を備えた中実円柱状磁器体からなる電車線路用支持がいしであって、該ベース金具の下面を取付アームに固定するベース金具固定部材は、多角形状の頭部とねじ溝を形成した軸部からなり、該頭部を回転不能に保持する頭部保持孔を、該ベース金具の上面に形成し、該軸部を挿通する軸部挿通孔を、該ベース金具を貫通して形成する構成を有し、ベース金具固定部材において、従来のラチェット構造(2か所のラチェット部間に、更に、ばね座金を挟み込む構造)を有さないため、ばね座金の摩耗やばね座金の挟み込み忘れに起因して、ラチット構造部分にゆるみを生じる現象が起こらず、このため、従来、電線振動が繰り返された際に当該部分から生じていた疲労破壊を効果的に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の電車線路用支持がいしの全体説明図である。
【図2】本発明におけるベース金具の固定構造の説明図である。
【図3】従来のベース金具の固定構造の説明図である。
【図4】従来のベース金具の固定構造の説明図である。
【図5】従来のベース金具の固定構造の説明図である。
【図6】従来のベース金具の固定構造の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
【0014】
図1には、本発明の電車線路用支持がいしの全体説明図を示し、図2には、ベース金具の固定構造を示している。
【0015】
電車線路用支持がいしは、先端部にクランプと呼ばれる係合部材(図示略)、もう一方の端部にはベース金具1と呼ばれる支持金具を備えた中実円柱状磁器体7を主体として構成され、電柱や鉄塔等の支柱に、該ベース金具1を固定して中実円柱状磁器体7を支持し、中実円柱状磁器体先端のクランプに電線を係合することにより、電線を固定支持する構造を有している。以上の構成は従来のLP碍子と同じである。
【0016】
本発明の電車線路用支持がいしの特徴は、図2に示すように、該ベース金具1の下面を取付アーム2に固定するベース金具固定部材3を、多角形状の頭部31とねじ溝を形成した軸部32とからなる構造とし、該頭部31を回転不能に保持する頭部保持孔11を、該ベース金具1の上面に形成し、該軸部32を挿通する軸部挿通孔12を、該ベース金具1を貫通して形成した点にある。
【0017】
該ベース金具1を取付アーム2の固定作業は、取付アーム2に形成した軸部挿通孔21と、ベース金具1を貫通して形成した軸部挿通孔12とを位置合わせ後、ベース金具1の頭部保持孔11側からベース金具固定部材3の軸部32を挿入し、該ベース金具固定部材3の頭部31を、ベース金具1に形成した頭部保持孔11で保持した後、取付アーム2の軸部挿通孔21を貫通させた軸部32の下部側から、ダブルナット4を締め付けて行われる。
【0018】
当該構造によれば、従来のラチェット構造(2か所のラチェット部5間に、更に、ばね座金6を挟み込む構造)によらず、ベース金具1と取付アーム2とを固定することができるため、ばね座金6の摩耗やばね座金6の挟み込み忘れに起因して、ラチット構造部分にゆるみを生じる現象が起こらず、このため、従来の構造では、電線振動が繰り返された際に、当該部分から生じていた疲労破壊を効果的に回避することができる。また、従来、取付アーム2の下部側から、ベース金具1のねじ穴に、ベース金具固定部材3を挿入していた際には、作業時の不注意やネジ溝部のめっき溜り等の要因によるベース金具固定部材3のねじ込み不足に起因するガタの発生の問題もあったが、ベース金具固定部材3の頭部31を、ベース金具1の頭部保持孔11で保持する本発明によれば、ベース金具固定部材のねじ込み不足に起因するガタの発生も回避することができる。
【0019】
本実施形態では、ベース金具1に形成された頭部保持孔11およびベース金具固定部材3の頭部31を四角形状とし、頭部保持孔11に保持された頭部の回転を回避している。頭部保持孔11は、ベース金具の底部を鍛造により突出させて形成しており、その突出した頭頂部13で中実円柱状磁器体を支持する構造を有している。
【0020】
前記のようにベース金具1と取付アーム2とを固定後、該ベース金具の内周面にセメント8を充填し、更に、中実円柱状磁器体7の下端部をベース金具内に挿入する。この際、ベース金具内に充填されたセメントは粘性が低いため、中実円柱状磁器体7の下端部は、ベース金具1の底部に形成された頭頂部13に達するまで挿入され、セメントの硬化により、中実円柱状磁器体7の下端部とベース金具1とが固定される。
【符号の説明】
【0021】
1 ベース金具
11 頭部保持孔
12 軸部挿通孔
13 頭頂部
2 取付アーム
21 軸部挿通孔
3 ベース金具固定部材
31 頭部
32 軸部
4 ダブルナット
5 ラチェット部
6 ばね座金
7 中実円柱状磁器体
8 セメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部に係合部材を備え、他端部にベース金具を備えた中実円柱状磁器体からなる電車線路用支持がいしであって、
該ベース金具の下面を取付アームに固定するベース金具固定部材は、多角形状の頭部とねじ溝を形成した軸部からなり、
該頭部を回転不能に保持する頭部保持孔を、該ベース金具の上面に形成し、
該軸部を挿通する軸部挿通孔を、該ベース金具を貫通して形成した
ことを特徴とする電車線路用支持がいし。
【請求項2】
該ベース金具の下面を取付アームに固定するベース金具固定部材は、ダブルナットで固定されることを特徴とする請求項1記載の電車線路用支持がいし。
【請求項3】
請求項1または2記載の電車線路用支持がいしの組み付け方法であって、
取付アームに形成した軸部挿通孔と、ベース金具を貫通して形成した軸部挿通孔とを位置合わせ後、ベース金具の頭部保持孔側からベース金具固定部材を挿入し、該ベース金具固定部材の頭部を頭部保持孔で保持した後、ベース金具を貫通して形成した軸部の下部側から、ダブルナットで固定する工程と、
該ベース金具に形成された中実円柱状磁器体保持部にセメントを充填する工程と、
セメントを充填した中実円柱状磁器体保持部に中実円柱状磁器体を挿入する工程
を有することを特徴とする電車線路用支持がいしの組み付け方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−204033(P2012−204033A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65301(P2011−65301)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】