説明

青色発光トリス(8−オキソキノリン)アルミニウム(III)(Alq3)

固体状態のα-Alq3を350℃に等しいか若しくは350℃よりも高く且つ420℃よりも低い温度で加熱し、γ-Alq3及びδ-Alq3の混合物を得る工程を備えるトリス(8-オキソキノリン)アルミニウム(III)(Alq3)のfac異性体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロルミネセント分子であるトリス(8-オキソキノリン)アルミニウム(III)(Alq3)のfac立体異性体の分離、その大量生産並びにその溶液中及び固体状態での特性評価に関する。
【背景技術】
【0002】
高効率で低電圧駆動の最初の有機エレクトロルミネセント素子(OLED)は、タン(Tang)及びバンスライク(Van Slyke)(非特許文献1)により報告され、Alq3を基礎としていた。15年後の今もなお、Alq3は主要なエレクトロルミネセント化合物であり、市販素子に広く使用され、そして、エレクトロルミネセント素子の活性層として使用される物質分野全体の原型となっている。近年、素子の効率及び安定性において重要な改良が得られ(非特許文献2-6)、そして、多層構造及び化学ドーピングを使用しながら、Alq3ベースのOLEDの典型的な緑色発光を引き延ばし且つ修正することを目的として多くの努力が費やされてきた(非特許文献7-9)。
【0003】
Alq3のようなトリスキレート8面体型錯体は、fac又はmer異性体の形態で存在することができる。トリスオキソキノリン錯体(Mq3)の場合、mer立体異性体のみ報告され、そして特性評価されている。唯一報告されている非mer異性体の例はSbq3錯体であるが(非特許文献10)、しかしながら、Sbq3錯体は、立体化学的に活性な非共有電子対の存在により、8面体型ではない。
【0004】
Alq3の分子において、別の幾何異性体が存在する可能性は今もなお未解決の問題である。数年間の多くの研究努力にも拘わらず(非特許文献11-14)、Alq3のfac立体異性体は直接に観測されていない。常に、マトリックスから分離された分子、溶液及び多形の結晶相についての分光学的研究は、緑色発光のmer異性体のみの存在を証明してきた(非特許文献13,15)。キュリオーニ(Curioni)らは、fac異性体がmer異性体よりも不安定であること(ΔE≒4 kcal/mol)、及び、7 Debyeの双極子モーメントとともに、0.3 eV高いエネルギーギャップ(HOMO-LUMO)を有することを計算モデルにより理論的に予想した(非特許文献16)。
【0005】
mer-Alq3は、α相及びβ相として(そして多くの包接化合物内で)結晶化し、その光学的性質は、π-π分子内接触(intramolecular contacts)の性質により決定される(非特許文献15)。加えて、上昇された温度にて生成される、γ及びδと呼ばれる2つの相についての部分的な結晶学的情報も報告されている(非特許文献15,17)。
【非特許文献1】C. W. Tang, S. A. Van Slyke, Appl. Phys. Lett. 51,913 (1987).
【非特許文献2】P. E. Burrows ET AL., J. APPL. PHYS. 79,7991 (1996).
【非特許文献3】J. Shi, C. W. Tang, Appl. Phys. Lett. 70,1665 (1997).
【非特許文献4】L. S. Hung, C. W. Tang, M. G. Mason, Appl. Phys. Lett. 70,152 (1997).
【非特許文献5】H. Aziz, D. Popovic, N. -X. Hu, A. -M. Hor, G. Xu, Science 283,1900 (1999).
【非特許文献6】S. Barth et al., Phys. Rev. B 60,8791 (1999).
【非特許文献7】Z. Shen, P. E. Burrows, V. Bulovic, S. R. Forrest, M. E. Thompson, Science 276,2009 (1997).
【非特許文献8】Y. Hamada, IEEE Trans. Electron Devices 44,1208 (1997).
【非特許文献9】C. W. Tang, S. A. VanSlyke, C. H. Chen, J. APPL. Phys. 65, 3610 (1989).
【非特許文献10】L. Y. PECH ET AL., ZH. NEORG KHIM. 45,940 (2000).
【非特許文献11】B. C. Baker, D. T. Sawyer, Analytical Chem. 40,1945 (1968).
【非特許文献12】J. R. MAJER, J. A. Reade, Chem. COMM., 58 (1970).
【非特許文献13】G. P. Kushto, Y. IIZUMI, J. Kido, Z. H. KAFAFI, J. PHYS. CHEM. A 104, 3670 (2000).
【非特許文献14】M. D. Halls, R. Aroca, Can. J. Chem. 76,1730 (1998).
【非特許文献15】M. Brinkmann et AL., JAM. CHEM. SOC 122,5147 (2000).
【非特許文献16】A. Curioni, M. Boero, W. Andreoni, Chem. Phys. Lett. 294,263 (1998).
【非特許文献17】M. Braun et AL., J. Chem. Phys. 114,9625 (2001).
【非特許文献18】H. SCHMIDBAUR, J. Lettenbauer, D. L. Wilkinson, G. Mueller, O. KUMBERGER, Zeit. Naturforschung B46, 901 (1991).
【非特許文献19】P. Mei, M. Murgia, C. Taliani, E. Lunedei, M. Muccini, J. APPL. PHYS. 88,5158 (2000).
【非特許文献20】M. MUCCINI, M. A. Loi, G. Ruani, to be published.
【非特許文献21】A. Degli Esposti, M. BRINKMANN, G. Ruani, J. CHEM. PHYS. 116,798 (2002).
【非特許文献22】S. F. Alvarado, L. Libioulle, P. F. SEIDLER, Synth. Met. 91,69 (1997).
【非特許文献23】A. Curioni, W. Andreoni, J. Am. Chem. Soc. 121,8216 (1999).
【非特許文献24】X. L. Xu et al., J. Appl. Phys. 89,1082 (2001).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の主な課題は、溶液中及び固体状態の両方でのAlq3のfac異性体(以下においで、青色発光種であることが示される)の分離にある。
本発明の目的は、Alq3の入手し難いfac異性体をそれぞれ含む、大量の青色発光のγ及びδ相の作製を可能にする手段を提供することである。
本発明のもう一つの目的は、溶液中でAlq3のfac異性体を安定化可能な方法を提供することにある。
【0007】
本発明の更にもう一つの目的は、Alq3の青色発光薄膜を得る方法を提供することにある。
本発明のもう一つの目的は、Alq3を基礎とした青色発光エレクトロルミネセント素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的及び以下の説明から明らかとなる他の目的はfac異性体(γ-Alq3)の固体合成により達成される。固体合成では、350℃よりも高く且つ420℃よりも低い温度(概して390℃)でα-Alq3を加熱する。その後に、加熱により得られた生成物を有機溶媒(例えばアセトン)中で懸濁し、懸濁液を室温で保持することにより、δ-Alq3相へのその変態が続く。
【0009】
概して、50〜350℃の温度範囲では10℃/minの温度勾配で固相のα-Alq3の加熱が行われる。
好ましくは、350℃から390〜420℃までの温度範囲でのその後の加熱は、1℃/minの温度勾配により行われる。
更なる態様として、予備的な作製を備えたδ及びγ-Alq3の薄膜作製の手段を提供する。この手段は、-10℃よりも低い温度でδ及びγ-Alq3溶液(例えば、CHCl3中)を予め作製し、この後に基板への前記溶液の薄膜の堆積が続き、そしてこの後に速やかに溶媒を蒸発させる。
【0010】
溶媒の蒸発は、室温でもまた達成することができる。
以下において、我々は、NMR分光法によるAlq3分子のfac異性体の直接観測を報告し、更に、市販のα-Alq3材料から出発した固−固反応による、その分離及び大量生産のための主要な工程も報告する。溶液中、多結晶粉末及び膜の双方でのfac異性体の光学発光特性は、mer異性体のそれらと比較される。γ及びδ相でのfac異性体の結晶構造は、粉末X線回折法(XRPD)により決定され、オキシキノリン配位子間でのπ-π分子内接触(intramolecular contacts)の不存在を証明している。
【0011】
fac(faicial)異性体は、mer(meridianal)異性体での典型的な緑色発光とはかなり違った青色発光を示す。
相変態のダイアグラム、及び、mer異性体の粉末から出発するfac異性体の製造方法が提供される。
fac異性体は、2つの多形の種にて結晶化し、これらの構造は、ab initio粉末X線回折法により決定された。両結晶相は、青色発光のγ及びδ-Alq3が、fac異性体を固体状態で含有するMq3種の唯一知られた例であることを示している。
【0012】
Alq3異性体(isomery)についての長年の問題の解決は、Alq3を基礎とした青色発光エレクトロルミネセント素子の開発への道を開いた。
【0013】
<発明の実施方法>
Alq3異性体(isomery)
α-Alq3の多結晶体粉末は、390℃と420℃との間の温度の大気圧で加熱することにより大部分がγ相に変態させられる。我々は、数滴の液体アセトンがγ相からδ相への変態を助ける一方、γ(又はδ)の核を用いたmer-Alq3の過飽和溶液のシーディングが、δ相を産出しないことを見出した。これら実験上の証拠は、異なるAlq3異性体の存在を示唆し、新しい系統的な分光分析及び構造解析を促した。これらの調査結果は、図1に描かれた相変態のダイアグラム中に報告され、このダイアグラムは、2つの異なる立体異性体の存在を基礎として、(溶媒和されていない(unsolvated))Alq3での4つの異なる固相の存在を示している。fac異性体は、固相反応(青矢印(図1中、符号Bを付した矢印))によってのみ得ることができる。しかしながら、fac異性体の薄い溶液は、もしそれが-10℃よりも下で動力学的に安定ならば、低温でγ(又はδ)相から得ることができる。
【0014】
室温では出発原料(α相、γ相又はδ相)と無関係に、溶液の1H及び13C-NMR実験は、mer-Alq3が唯一存在する種であることを示している。しかしながら、固体のγ-又はδ-Alq3粉末をCDCl3中へ50℃の温度で懸濁すると、1H-NMR信号は、fac-Alq3異性体だけの存在を示す。これは、γ-及びδ-Alq3が、室温にて固体状態で動力学的に安定なfac異性体を含有していることを明確に示している。
【0015】
図2に示されたスペクトルから、低温では、8.8 ppmのδ(ケミカルシフト)近くでのH2信号の不在を観測することができ、これは、(磁気的に等価な)H4核のみが観測されていることを加味し、fac異性体のみが存在することを示している。溶液の加熱により観測される信号対雑音比の増加は、fac異性体のより溶解し易いmer-Alq3への進行性の変態の現れである。
【0016】
更に、図2に報告されているスペクトルは、約-10℃よりも上の温度で前記異性化が始まることを示している。注目されるのは、急速なfacからmerへの変態の結果として、δ-Alq3から室温で作製した溶液がmer異性体のみ含有することである。
mer-及びfac-Alq3の溶液のホトルミネッセンススペクトルは、図3の上段に示されている。fac-Alq3溶液は、γ又はδ相の粉末を-50℃の温度にてCHCl3中で溶解することにより作製した。-50℃の温度での溶液中のfac-Alq3のホトルミネッセンスは、2.59eVに中心があり且つブリリアントブルー色を有する。ホトルミネッセンスのスペクトルの位置は、-10℃よりも下の温度では変化しないものの、より高い温度では低エネルギ側に徐々にシフトする。スペクトル放射の最大値は、温度の上昇に伴って常に減少し、室温で2.36eV(緑(図3中、符号Gを付した))の最小値に達する。これは、NMR分光法の結果と一致し、-10℃よりも上の温度でのfacからmerへの変化を示している。ホトルミネッセンススペクトルから、我々は、この変態が室温にて数時間後に完了することを見出した。
【0017】
このようにして、ホトルミネッセンスのスペクトル放射特性は、各異性体に特有の顕著な特徴を提供する。
固体−固体変態(Solid-solid Transformations)
ab initio量子力学計算に基づけば、気相内では、mer異性体はfac異性体よりも約4 kcal/molだけ安定であるが、しかし、極めて低い双極子モーメントを有する(4.1対7.1Debye)。溶液中でもこれが適用できると仮定すれば、Alq3の溶液化学がmer異性体により優位を占められること、換言すれば、溶液中で化学的方法によりfac-Alq3を得ることができないことを簡単に説明することができる。これらの結果は、調査された全ての温度でmer異性体のみを示した、長い間知られている1H-NMR実験(非特許文献11)と全く一致する。固体状態で温度を上昇させることによって、小さなエネルギ差は、エントロピ的な寄与(entropic contributions)により、最終的にはキャビティ効果(cavity effect)又はより効率的な結晶パッキングに助けられ、乗り越えることができる。実際には、merからfacへの固体状態での変態は、α相から出発し、390℃近傍のみで発生する。驚くべきことに、固体状態では無限に安定なγ相は、もし数滴の液体アセトンが添加されれば、室温でδ相へと容易に変態することができる。アセトン分子は、異性化よりもかなり前に、より高密度で且つより安定なδ相として結晶化するfac異性体に有限の移動度を与える。
γ-Alq3の結晶データ
C27H18AlN303, 分子量409.43 g/mol, 三方晶系, 空間群P-3, a=14.3807(6), c=6.2107(4)Å; V=1112.3(1)Å3, Z=2; ρC=1.371 g/cm3; Rwp=0.133, Rp=0.102 (5°<2θ<75°の範囲で集められた3501のデータにて), RBRAGG=0.037
δ-Alq3の結晶データ
C27H18AlN303, 分子量409.43 g/mol, 三斜晶系, 空間群 P-1, a=14.44479(9), b=13.2620(7), c=6.1887(4)Å ; α=95.865(5); β=88.613(5); γ=113.922(4)° ; V=1078.1(1) Å3, Z=2;ρC=1. 415 g/cm3; Rwp=0.161, Rp=0.124 (5°<2θ<75°の範囲で集められた3501のデータにて), RBRAGG=0.061
Alq3の結晶は、三方晶系の空間群P-3に属する。fac-Alq3は、C3対称性を示す。δ-Alq3は三斜晶系で、空間群P-1であり、従って、その3つのオキソキノリン配位子は結晶学的に独立である。図4は、δ-Alq3の擬似的な三方晶系の結晶パッキングを示している。γ-Alq3の結晶構造は似ており、三方晶系の空間群P-3における3回の結晶軸上に位置する分子を備える。2つの相は、適当な群−部分群により相互に関連付けられる。なぜならば、δ相は、反転中心を保ちながらではあるが、γ相の3回回転軸を取り除くことにより得られるからである。γ-及びδ-Alq3の結晶パッキングでの小さな差は、それらのラマンスペクトルにおいて明らかであり、ラマンスペクトルは、同じ分子内フォノンモードを含むが、異なる格子モードも含む(非特許文献20)。γ-及びδ-Alq3の光学的な発光スペクトルは、後で議論するように同一である。
【0018】
α-Alq3(非特許文献15)、γ-及びδ-Alq3は、類似した格子定数を有し、従って、相違する立体異性体が類似したパッキングモードを採用可能なことを示す。共通の特色は、擬似的な三方晶系でab面内に充填され、c軸に平行な[Alq3]∞のキラル列(chiral columns)の存在である。これら全ての相では、中心対称の性質により、(±)Alq3の分子及び反対のキラリティの列が等モル比で共存する。
固体状態での光学的性質
Alq3の青色発光薄膜作製の可能性は、Alq3異性体の理解と、相変態のダイアグラムから生じた。fac-Alq3の安定な溶液の利用可能性は、fac-Alq3異性体に特有の青色発光を保つ膜の作製を可能にする。図3の下段は、fac-Alq3の溶液及びmer-Alq3の溶液の水晶基板への堆積により得られた膜を示している(図3中、それぞれの膜に符号fac,merを付した)。facからmerへの変態は、低温では比較的遅く、基板が室温で保たれたときでさえ、溶媒蒸発後に固体状態でのfac異性体の安定化を許容する。図3の下段は、α-Alq3(緑(図3中、符号Gを付した))並びにδ及びγ-Alq3(青(図3中、符号Bを付した))の多結晶体粉末について4Kで測定されたホトルミネッセンススペクトルを示している。上述したように、γ及びδ相のホトルミネッセンススペクトルに有意差はない。α-及びγ-Alq3のスペクトルは、両方の場合において、約2.6のHuang-Rhys因子により説明される、525cm-1での屈曲モードによる同一の振電連鎖(vibronic progression)を示す(非特許文献21)。これは、両異性体において、発光性の電子遷移に同一の強力な電子-フォノン結合が存在することを示唆している。
【0019】
mer及びfac異性体の薄膜のホトルミネッセンススペクトルは、α及びγ(又はδ)の粉末のホトルミネッセンススペクトルに似ているが、赤方偏移され、そして、低温でさえも、振電連鎖(vibronic progression)を示さない。この振る舞いは、Alq3の薄膜における典型であり、そして、2つの異性体の共存の結果と過去に解釈されてきた(非特許文献2,16)。ここで報告された結果を考慮すると、Alq3の薄膜の非晶質な性質は、ラセミ化合物の性質よりはむしろ、Alq3の多形による可能性が高い。
【0020】
Alq3の青色発光相の発見は、Alq3を基礎とした高効率青色発光OLEDの製造を可能にする。これは、Alq3の光学的及び電子的性質のより深い知識とともに、RGB(赤,緑,青)型のカラー視覚化装置(color visualization device)における独特の活物質の使用を可能にする。
NMR分光法
α-Alq3は、数多くの有機溶媒中で簡単に溶解される。それとは異なって、δ-Alq3は非常に低い溶解度を示す。NMR実験の最初のシリーズでは、α-Alq3及びδ-Alq3の粉末は、室温にてCDCH3中で溶解された。1H及び13C NMRスペクトルは、400MHz Bruker NMR AVANCE装置によって集められた。
【0021】
mer-Alq3の室温での1H-NMRスペクトルは、非特許文献18で報告されたスペクトルと全く一致した。溶液中での分子凝集は、蛍光分光法により最初に観測されいてるが(非特許文献18)、“外部”のプロトン特にH4の、濃度に依存したケミカルシフトから確認された。このスペクトルの独特な点は、3つのH2原子のうちの一つのケミカルシフトの異常な低下(1.5ppm)である。これは、隣接する芳香環の方を向いている、このH2原子の独特な分子内環境による。この情報は、fac-Alq3の-50℃での1H-NMRスペクトルの解釈において大きな関連性がある。
【0022】
実際に、fac-Alq3の立体化学は、全てのH2原子が反磁性環電流を感受することを求める。
NMR実験の2番目のシリーズでは、固体δ-Alq3が、NMRチューブ内で液体窒素温度まで冷却された。CDCl3が添加され、そして、温度は制御された速度で約30分間で-50℃まで上昇された。一連の1H-NMRスペクトルは、この温度で測定され、数時間後でも分子の異性化の不在を実証した。その後、室温まで、10℃間隔で温度を上昇させたときに、更なるスペクトルが集められた。システムを熱的に安定にすべく、各スペクトルの後で10分の猶予が与えられた。
【0023】
fac-Alq3異性体は、そのC3対称性によって、より単純な1H-NMRスペクトルを示す。このスペクトルは、8.36ppm(H4)及び7.52ppm(H6)のδ(ケミカルシフト)近傍に中心が位置する2つの多重線及び7.1〜7.4ppmの範囲(H2,H3,H5及びH7)で大きく重なりあった多数のピークからなる。H2原子の全ての共鳴は、まさにmer-Alq3の独特のH2原子と同じように(δ=7.22ppm,非特許文献18参照)、高磁界へとシフトする。
粉末X線回折分析
γ-Alq3の回折パターンの指数付けは、報告されている三方晶系の評価指標を立証し、そして、より良い性能指数[a=14.364, c=6.208Å; M(22)=42, F(22)=56(0,009,43)]を与えた。完全なリートベルト解析に基づき、正しい三方晶系の空間群はP-31c(非特許文献15)ではなくP-3である(001反射は不測のオーバーラップにより不明瞭である)。我々は、mer異性体を基礎としたγ-Alq3の最初の同定は、質の低いXPRDパターン(リートベルト法による完全なモデリングを許さない)を用いて、試しに提供されたことに気付いた。このことに気付いた際、純化された粉末中にはmer-Alq3のみが存在することも併せて考慮した。ここで報告される完全なリートベルト解析は、最も確実な方法でγ-Alq3の分子(fac)及び結晶構造を決定する。δ多形体の回折パターンの指数付けは、三斜晶系の格子[a=14.503, b=13.288, C=6.208Å; α=95.9; β=89.7; γ=114.0; M (23)=21, F(23)=53 (0.009, 47)]へとつながった。γ-及びδ-Alq3の構造の分解がシュミレーテッドアニーリング(simulated annealing)法(Bruker AXS 2000; Topas V2.0.)により実施された。ニ相の混合物の構造モデルの最終的な精密化は、ステップサイズΔ2θ=0.02°でt=60(Γ)又は100(Δ)s/stepにて、5°<2θ<75°の範囲で集められた2つの異なるデータセット(Γ及びΔ、それぞれγ-及びδ-Alq3がリッチ)にて実施された。我々は、解法及び精密化工程の双方において、理想的構造のオキシキノリンのフラグメントを用いた。このフラグメントは、弾性的な拘束によってAl近傍にヒンジ付けされている[fac立体異性体の分子内接触(intramolecular contacts) 1.2 Al/X 及び 1.3 X/X (ただし、X=N, O)にて]。XRPD図形は、通常の粉末回折装置(フィリップス PW1820)によって集められ、この装置は、ソラースリット、2次ビームのグラファイトモノクロメータ及びCu-Kα線,λ=1.5418Å,40kV,40mAを装備していた。
【0024】
以下の実施例は、本発明の限定のためではなく、例として与えられる。
【実施例】
【0025】
実施例#1 γ-Alq3の作製:
市販のα-Alq3は、50〜350℃の範囲では10℃/minの温度勾配、350℃と395℃との間では1℃/minの温度勾配を用いて、395℃まで加熱された。システムはこの温度で数分間保持された後、室温まで急速に冷却された。XRPD分析は、その結果生じた暗い黄色の粉末が、γ-Alq3及びδ-Alq3相の混合物からなることを示している。15mgのα-Alq3の粉末を用いたときのγ-Alq3/δ-Alq3比は10/1に近かった。前記比は、10℃/minまで加熱速度を大きくすること、又は、1℃/minまで冷却速度を小さくすることによって大きくは変化しない。
【0026】
その上に、この比は、410℃の最大の昇華前温度にて加熱することによっても変わらないままであった。より多量の原材料(グラム)の使用は、より低いγ-Alq3/δ-Alq3比を概して与えることが見出された。
実施例#2 δ-Alq3(多結晶体粉末)の作製:
実施例#1で述べたようにして作製され、従ってすでに少量のδ-Alq3を含むγ-Alq3は、室温で15時間、時々撹拌しながらアセトン中に懸濁された。この後、結果として生じた明るい黄色の粉末が、遠心分離により回収された。XRPD分析は、残存する4%未満のγ-Alq3を伴う(略純粋な)δ-Alq3相の存在を示している。、溶媒の体積や、出発粉末でのγ-Alq3/δ-Alq3比は、最終混合物でのγ-Alq3/δ-Alq3比に影響を及ぼさない。
【0027】
本出願が優先権を主張するイタリア国特許出願番号MI2002A001330中での開示は引用して組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
発明は、以下の図面を用いてより詳しく説明される。
【図1】Alq3の相変態のダイアグラムである。
【図2】CDCl3中に溶解したδ-Alq31H NMRスペクトル(8-9 ppmレンジ,複数の温度にて)である。
【図3】上段は紫外レーザ光線により励起されたfac及びmer異性体溶液のホトルミネッセンススペクトル、下段は、溶液から得られ且つ紫外レーザ光線により照らされた、膜形状のα-及びγ-Alq3のホトルミネッセンススペクトルである。挿入部分は、fac及びmer異性体の分子構造を示す。
【図4】[001]に沿って見下ろしたときのδ-Alq3の三斜晶系結晶の結晶パッキングである。この図の分解能では、三方晶系のγ-Alq3の結晶構造はかなり似ている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体状態のα-Alq3を350℃に等しいか若しくは350℃よりも高く且つ420℃よりも低い温度で加熱し、γ-Alq3及びδ-Alq3の混合物を得る工程を備えるトリス(8-オキソキノリン)アルミニウム(III)(Alq3)のfac異性体の製造方法。
【請求項2】
前記混合物を有機溶媒中に懸濁し、前記懸濁物を大気温度に保つ工程を更に備える請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶媒がアセトンである請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
溶媒中にfac-Alq3を溶解した溶液を-10℃よりも低い温度で作製する工程と、
基板に前記溶液の薄層を付与する工程と、
薄膜を得るべく前記溶媒を蒸発させる工程と
を備えるfac-Alq3の薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記溶媒はCHCl3である請求項3記載の製造方法。
【請求項6】
mer-Alq3の薄膜を390〜420℃の範囲の温度にて加熱する工程を含むfac-Alq3の薄膜の製造方法。
【請求項7】
fac-Alq3に基づいた青色発光エレクトロルミネセント素子。
【請求項8】
電荷輸送及び/又は再結合に適した電気活性素子を作製するため及び/又は光の放射のためのfac-Alq3の使用。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−507224(P2006−507224A)
【公表日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−513255(P2004−513255)
【出願日】平成15年6月12日(2003.6.12)
【国際出願番号】PCT/EP2003/006197
【国際公開番号】WO2003/106422
【国際公開日】平成15年12月24日(2003.12.24)
【出願人】(504457898)
【氏名又は名称原語表記】CONSIGLIO NAZIONALE DELLE RICERCHE
【住所又は居所原語表記】Piazzale Aldo Moro, 7, I−00185 Roma (IT)
【出願人】(504457670)ユニベルシタ デリ ストゥディ ディ ミラノ (3)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITA’ DEGLI STUDI DI MILANO
【住所又は居所原語表記】Via Festa del Perdono, 7, I−20122 Milano (IT)
【出願人】(504457692)ユニベルシタ デリ ストゥディ デリンスブリア (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITA’ DEGLI STUDI DELL’INSUBRIA
【住所又は居所原語表記】Via Ravasi, 2,I−21100 Varese
【Fターム(参考)】