説明

静圧気体軸受直線案内装置

【課題】高速移動可能、かつ移動ストロークの広い静圧気体軸受直線案内装置に適する気体配管の構造を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の静圧気体軸受直線案内装置は、駆動源と直動案内部と気体により直動案内部に浮上して移動可能な移動体とを有する直動案内アクチュエータと、一端が移動体に回転自在に固定され、他端が直動案内アクチュエータ外に回転自在に固定される、マジックハンド構造の支持機構と、支持機構に屈曲可能に固定され、移動体に気体を供給するチューブと、を備えることが特徴とするものである。これにより、気体供給チューブは移動体の直線運動に合わせて回転・伸縮運動をすることができ、高速移動による配管の破損や撓みなどを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高精度な工作機械、加工装置、測定装置、検査装置および半導体製造装置等において、これらの試料、工具及び検出器等を移動する際に用いる静圧気体軸受直線案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高精度な工作機械、加工装置、測定装置、検査装置および半導体製造装置等においては、これらの試料、工具および検出器等を高精度で位置決める必要がある。その為、例えば、試料等の載置台の位置決め装置に摩擦の殆どない静圧気体軸受直線案内装置を用いる。静圧気体軸受直線案内装置は、外部から供給された気体により移動体が常に浮上しているため、スライド面の摩擦が極めて小さく、高精度でスムーズな動作が可能である。また、発塵が少ないためクリーンルームでの使用にも適している。
【0003】
静圧気体軸受直線案内装置に使用される静圧気体軸受では、常時軸受部分に圧力空気を供給する必要がある。従来より、静圧気体軸受へ圧力空気を供給する構造としては、特許文献1及び特許文献2に示すものが知られている。
【0004】
特許文献1に示すものは、多軸エアスライドテーブルの空気軸受に、圧力空気を供給するものである。ガイドとスライダとの間の摺動面に供給される圧力空気により形成される空気軸受で、スライダを摺動自在に支持する摺動ユニットを所要軸数結合して構成したもので、各摺動ユニットの空気軸受の形成される摺動面に摺動ユニットの許容摺動範囲にわたって圧力空気供給溝を設けると共に、圧力空気供給溝に連通する通気孔をスライダ側に設け、摺動ユニットに供給される圧力空気を、圧力空気供給溝及び通気孔を経って、摺動ユニットのスライダに結合される次段の摺動ユニットに供給するように構成されている。
【0005】
特許文献2に示す静圧気体軸受は、空気噴出用多孔面を有していると共に、空気噴出用多孔面における多数の開口に高圧空気を供給する通路手段を有している固定の円柱状の軸部材と、軸部材の空気噴出用多孔面に微小幅の隙間をもって対面する噴出空気受容面を有している軸部材に可動に装着された可動の円筒状の軸受部材とを具備している。
【0006】
固定の軸部材が空気噴出用多孔面における多数の開口に高圧気体を供給する通路手段を有しており、通路手段に高圧空気供給用の配管を連結できるので、軸受部材の移動に対して不確定な抵抗の負荷がなくなり、軸受部材の微妙な位置制御、速度制御等を正確に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平05‐069256号公報
【特許文献2】特開2005‐214288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の構成では、各軸の固定ベースを通して空気を供給する為、各軸のスライダはスライダの移動範囲全体において、固定ベースの空気取出し孔をカバーする必要があるため、スライダの移動範囲を広くすることができないという課題があった。
【0009】
また、特許文献2においては、軸部材全体から常に空気が噴出しているので、全長が長くなるほど圧縮空気の必要流量が多くなり、大容量の空気供給源が必要となってしまう。しかも空気は一部しか使用されないので効率が悪い。また、移動体のない部分から噴出した空気がダストを噴き上げてしまうため、クリーン環境での使用には適されないという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記問題を解決するために、移動ストロークの広く、かつ移動体が高速移動の静圧気体軸受直線案内装置に適する配管構造を提供している。本発明の静圧気体軸受直線案内装置は、駆動源、直動案内部、気体により直動案内部に浮上して移動可能な移動体を有する直動案内アクチュエータと、一端が移動体に回転自在に固定され、他端が直動案内アクチュエータ外に回転自在に固定される、マジックハンド構造の支持機構と、支持機構に屈曲可能に固定され、移動体に気体を供給するチューブと、を備えることが特徴とするものである。これにより、気体供給チューブは移動体の直線運動に合わせて回転・伸縮運動をすることができ、高速移動による配管の破損や撓みを防止できる。
また、直動案内アクチュエータが水平に設置される場合、支持機構に形成される面は、水平面に対して垂直、又は平行(水平面と重なる場合も含む)であることが好ましい。これにより、移動体移動時、支持機構がスムーズに伸縮することができる。また、支持機構の一端を移動体に固定し、他端を直線案内装置の上方、下方、側面の何れか一方に固定してよい。
その他、支持機構への気体供給チューブの固定の一例として、気体供給チューブは支持機構のリンクに沿ってリンクの本体に固定し、且つ各リンクの連結回転部近傍では気体供給チューブを固定しない。これにより、チューブの屈曲が最小屈曲半径以下になることを防ぐことができる。
なお、本発明の直動案内アクチュエータは、公知のものを利用している。例えば、主軸移動体のみ有するもの、若しくは主軸移動体とカウンタ軸移動体両方を有するものの何れにしてもよい。主軸移動体とカウンタ軸移動体両方を有するものの一例として、特開2008−101642に開示されているアクチュエータを利用することができる。
その他、本発明のマジックハンド構造の支持機構は、空気配管の固定に用いることに限らず、直線案内装置の移動体に搭載される各種機器の配線などを支持するために用いてもよい。たとえば移動体に搭載される電気装置の電気配線に用いることができる。この場合、空気配管の代わりに、配線が支持機構に固定される。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、気体供給の為に、マジックハンド構造の支持機構と屈曲可能のチューブの組合せたものを利用することで、高速移動によるチューブの破損や撓みの発生を抑制できる。チューブは移動体に空気を供給する構造である為、前述の従来構造のように移動ストロークの全長に渡って気体を供給することが不要となり、気体の放出量を低減できる。この構造は、特に移動ストロークが広く、かつ移動体が高速移動する直線案内装置に適しているという効果が有る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】静圧気体軸受直線案内装置の斜視図である。
【図2】図1の静圧気体軸受直線案内装置の支持機構の動きを説明する概略図である。
【図3】図1の静圧気体軸受直線案内装置のリンクベースとリンクの組立図である。
【図4】図1の静圧気体軸受直線案内装置の第1リンクおよび第2リンクの組立図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、図1を参照して、本実施形態の静圧気体軸受直線案内装置の全体構造について説明する。静圧気体軸受直線案内装置1000は、マジックハンド構造の空気供給配管支持リンク100(支持機構)と、直線案内アクチュエータ200と、空気配管(チューブ)501と、図示していない空気供給源から構成される。
【0014】
直線案内アクチュエータ200は、図1に示すように、ベース201a,201bと、ベース201aに固定された駆動モータ202と,駆動モータ202の出力軸に連結された駆動プーリ203と、ベース201bに回転自在に支持される従動プーリ204と、駆動プーリ203と従動プーリ204にかけられた歯付きベルト205と、ベース201に固定されたコの字状の主軸ガイド301(主軸直動案内部)と、主軸ガイド301上に移動する主軸移動体302と、主軸移動体302(主軸受)と歯付きベルト205を連結する主軸連結部材303と、ベース201に固定された2本のカウンタ軸ガイド401(カウンタ軸直動案内部)と、カウンタ軸ガイド401の軸上を移動するカウンタ軸移動体402(カウンタ軸受)と、カウンタ軸移動体402と歯付きベルト205を連結するカウンタ軸連結部材403からなる。主軸移動体302とカウンタ軸移動体402をほぼ同重量とし、移動体の移動ストローク中心に対して対称な位置に取り付けると、移動体が動く際の反力が相殺されるため、装置全体の振動を抑制することができる。
【0015】
また、主軸移動体302とカウンタ軸移動体402には図示しない空気供給源から空気配管501を通して圧縮空気が供給される。それぞれ主軸ガイド301とカウンタ軸ガイド401の表面とわずかな間隔をおいて浮上している。
【0016】
静圧気体軸受直線案内装置1000の動作に関しては、駆動モータ202を回転させると、歯付きの駆動プーリ203が回転し、従動プーリ204とにかけられた歯付きベルト205が駆動され、歯付きベルト205に連結された主軸移動体302およびカウンタ軸移動体402がそれぞれのガイド軸上を直線案内されて移動する。
【0017】
直線案内アクチュエータ200は、全体バランスをよくする為、主軸移動体302のほかには、カウンタ軸移動体402も採用しているが、主軸移動体302のみを備える形態にしてもよい。この場合、従動プーリ204、カウンタ軸ガイド401を備えない構造である。そのほか、本実施形態では、歯付きベルトを採用しているが、Vベルトを利用する形態にしてもよい。
【0018】
空気供給配管支持リンク100は、一端のリンクベース101を直線案内装置100の上方の不動部位に固定し、他端の回転軸を直線案内装置の移動体に回転自在に連結する。空気供給配管支持リンク100の伸縮する平面が直線案内装置の移動体の動く平面に対し垂直になっている。これにより、空気供給配管支持リンク100は、移動体の動作に追従して空気供給配管支持リンク100が伸縮しながら、移動体の移動ストロークに応じて回転可能となる。
【0019】
空気配管501は、空気供給配管支持リンク100の各リンクに沿うように固定されており、かつリンクの回転軸付近では、空気配管501はその許容曲率以内の曲率で固定される。これにより、直線案内装置の移動体が高速で移動しても、空気配管501が安定に空気供給配管支持リンク100に固定されている。
【0020】
また、本実施形態では、直線案内装置の上方に空気供給配管支持リンク100を設置しているが、直線案内装置の側面又は下方に設置してもよい。ただし、空気供給配管支持リンク100の必要伸縮寸法を考慮すると、直線案内装置上方の移動ストローク中央に設置することが好ましい。
【0021】
次に、本実施形態の空気供給配管支持リンク100の構造と組立てについて、図2〜4を参照しながら、説明する。
【0022】
図2には、移動体移動時の支持機構の動きを示している。移動体が移動ストローク中央の上方に位置する際に、マジックハンドがやや短くなり、移動体が中央から移動ストローク両端のいずれの方向へ移動すると、マジックハンドが回転角度を変えると同時に伸びていく。
【0023】
図3は、空気供給配管支持リンク100の基本構成のみを示しており、リンクの重複する部分を省略している。空気供給配管支持リンク100は、リンクベース101と、複数本の第1リンク110と、複数本の第2リンク120と、2本の第3リンク130と、2本の第4リンク140から構成される。リンクベース101は、図示しない直線案内アクチュエータ200上方にある固定部に固定される。空気供給配管支持リンク100の固定位置と、直線案内装置の移動体の移動ストロークによって、空気供給配管支持リンク100の必要伸縮範囲が決まるので、それに応じて各リンクの長さや第1リンク110と第2リンク120の本数を調整すればよい。
【0024】
リンクベース101は図1に示すように直動案内アクチュエータ上方にある固定側の固定に用いる。また、図3に示すように、第1リンク110と第2リンク120は、長さが同じであり、それらの中央と両端に回転軸を有している。また、第3リンク130と第4リンク140は、第1リンク110の半分の長さで、それらの両端に回転軸を有している。
【0025】
各リンクの組立て順番について、まず、第3リンク130と第4リンク140の一端の回転軸をリングベース101に回転自由に連結する。次に、第3リンク130のもう一端の回転軸と第2リンク120の一端の回転軸を回転自由に連結し、第4リンク140のもう一端の回転軸と第1リンク110の一端の回転軸を回転自由に連結するとともに、第1リンク110と第2リンク120の中央の回転軸を回転自由に連結する。そして、同様に第1リンク110と第2リンク120を交互に回転自由に連結する。最後に、第1リンク110のもう一端の回転軸に第4リンク140の一端の回転軸を回転自由に連結し、第2リンク120の一端の回転軸を第3リンク130の一端の回転軸に回転自由に連結するとともに、第3リンク130と第4リンク140のもう一端の回転軸を回転自由に連結し、さらにその回転軸を移動体に回転自由に連結する。これにより菱形が連なるような、伸縮可能なリンク機構が形成される。
【0026】
図4には、第1リンク110と第2リンク120の組立を示す。第1リンク110は、リンク板111、ベアリンピン113、玉軸受114、スペーサー115から構成される。リンク板111には、その中央と両端対称に段付穴112が形成されている。スペーサー115の外径は、玉軸受114の内輪端面と接するような寸法とする。第2リンク120は、第1リンク110と同じリンク板111、玉軸受114、ベアリングピンカラー121から構成される。ベアリンピンカラー121の外径は玉軸受114の内輪端面と接するような寸法とする。
【0027】
第1リンク110と第2リンク120の組立て順番について、まず、リンク板111の段付穴112に玉軸受114を挿入する。次に、スペーサー115を介して両リンクの玉軸受114にベアリングピン113を挿入し、第2リンク120の背面側からベアリングピンカラー121をベアリンピン113に圧入する。これにより両リンクの玉軸受114の内輪同士が固定されるとともに、第1リンク110と第2リンク120が回転自由に連結される。また、ベアリングピン113とベアリングカラー121のかわりに、端部にねじが形成されたベアリングピンと内径にめねじが形成されたベアリング押さえを用いてもよい。
【0028】
第3リンク130と第4リンク140の組立ては、上述した第1リンク110と第2リンク120の組立てと同様である。
【0029】
本実施形態では、上述のマジックハンド構造の支持機構により、空気配管が直動案内アクチュエータ上方に伸縮可能に固定され、移動体の移動とともに、円滑に回転・伸縮運動を行うことができるので、移動体の高速移動に阻害することなく、移動体の浮上に必要な空気量を供給することができる。
【0030】
その他、本発明の静圧気体軸受直線案内装置は、本実施形態に限定するものではなく、本発明の技術的思想から、脱逸しない転用・改良された技術内容についても、本発明の権利範囲に属するものである。
【産業上の利用可能性】
【0031】
配管が伸縮しながら案内装置の移動体の直線運動とともに安定に移動できる気体静圧軸受案内装置を提供するので、産業上の有用なものである。
【符号の説明】
【0032】
100 空気供給配管支持リンク
101 リンクベース
110 第1リンク
120 第2リンク
130 第3リンク
140 第4リンク
200 直線案内アクチュエータ
501 空気配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源、直動案内部、気体により前記直動案内部に浮上して移動可能な移動体を有する直動案内アクチュエータと、
一端が前記移動体に回転自在に固定され、他端が前記直動案内アクチュエータ外に回転自在に固定されるマジックハンド構造の支持機構と、
前記支持機構に屈曲可能に固定され、前記移動体に気体を供給する為のチューブと、を備えることを特徴とする静圧気体軸受直線案内装置。
【請求項2】
前記気体供給チューブは、前記支持機構のリンクに沿って、屈曲可能に固定されることを特徴とする請求項1に記載の静圧気体軸受直線案内装置。
【請求項3】
前記支持機構の他端が前記直動案内アクチュエータの上方に固定され、かつ、該支持機構に形成される面は水平面に対して略垂直又は略平行であることが特徴とする請求項2に記載の静圧気体軸受直線案内装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−247367(P2011−247367A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−122152(P2010−122152)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】