説明

静的格納容器冷却設備及び沸騰水型原子力発電プラントの運転方法

【課題】本発明は、静的格納容器冷却設備の蒸気冷却熱交換器を格納容器外部に設置するシステムにおいて、窒素や水素などの非凝縮性ガスが存在した場合でも静的格納容器冷却設備の除熱性能の低下を抑制可能な手段を提供することである。
【解決手段】本発明は、少なくとも2つ以上の蒸気冷却熱交換器と、前記ドライウェル内の蒸気または蒸気と非凝縮性ガスの混合気体を引き込む気体引込手段と、該気体引込手段から前記蒸気冷却熱交換器の間に設けられた非凝縮性ガス分離装置とを有し、該非凝縮性ガス分離装置内で分離された蒸気または蒸気と非凝縮性ガスの混合気体をそれぞれ別の前記蒸気冷却熱交換器に導くことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沸騰水型原子力発電プラントに適用するのに好適な静的格納容器冷却設備及び沸騰水型原子力発電プラントの運転方法に係わり、特に、窒素や水素などの非凝縮性ガスが存在した場合でも除熱性能の低下を抑制できる静的格納容器冷却設備及び異常な過渡事象や事故事象が発生しても、原子炉の安全を適切に確保できる沸騰水型原子力発電プラントの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子力発電プラントには、異常な過渡事象や事故事象が発生しても、原子炉の安全を適切に確保できるように、多様な安全系設備が設置されている。例えば、原子炉を取り囲むように配置された格納容器内部で主蒸気配管が破断する冷却材喪失事故が発生すると、破断口から流出する蒸気は格納容器内部のドライウェルと呼ばれる領域に放出される。その後、ドライウェルに貯まった蒸気を、同じく格納容器内部のウェットウェルと呼ばれる領域にあるサプレッションプールに導いて冷却、凝縮させる。このような構成をとることで、破断口から放出された蒸気を格納容器内部に閉じ込めると同時に、蒸気放出による格納容器内部の過圧を防止している。
サプレッションプール内の水量は有限であるので、長期間の原子炉の安全性を確保するためにはサプレッションプール水の冷却設備も必要である。従来の原子炉では、サプレッションプール内の水をポンプで熱交換器に送り、熱交換器を通して格納容器外部に放熱させた後、サプレッションプールに戻す系統などを持っている。
【0003】
近年では、安全系機器のメンテナンス性を向上させるため、ポンプなどの動的機器を用いない、静的な安全系設備が注目されている。静的安全系設備の1つとして、ドライウェルに放出された蒸気を冷却、凝縮させる静的格納容器冷却設備が特開2003−240888号広報などで提案されている。この安全系システムは、ドライウェルとウェットウェルの圧力差を利用し、ドライウェルからポンプなどの動的機器を用いることなく蒸気を抜き出し、格納容器外部に設置された冷却プールの中に設置された蒸気冷却熱交換器を通すことで冷却、凝縮させ、サプレッションプールに放出するものである。蒸気の熱を格納容器外部のプール水に放出することでサプレッションプールの温度上昇を抑制している。
【0004】
ところで、沸騰水型原子力発電プラントの格納容器内部には一般的に窒素が存在する(空気を窒素で置換している)。また、発生確率は非常に小さいが、原子炉の炉心を冷却するための注水設備が全台故障した場合などを想定した過酷事故が発生した場合には、炉心に存在する金属(おもにジルカロイ)の酸化反応によって水素が発生する。このように、窒素や水素のような非凝縮性ガスが存在すると、静的格納容器冷却設備の除熱性能が低下することが知られている。このような研究が北海道大学工学部研究報告第122号(1984年)や、Journal of NUCLEAR SCIENCE and TECHNOLOGY, Vol. 46, No. 4, p. 339-345 (2009年)などで報告されている。
【0005】
非凝縮性ガスの存在により静的格納容器冷却設備の除熱性能が低下する場合、性能低下を考慮して蒸気冷却熱交換器の容量をあらかじめ大きくしておく必要がある。この問題を解決するため、過酷事故時に発生する水素を他の物質と化学反応させて取り除く技術が特開平6−130170号公報などで、蒸気冷却熱交換器部分の非凝縮性ガス濃度の過度の上昇を抑制する技術が特開2009−204587号広報などで提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−240888号公報
【特許文献2】特開平6−130170号公報
【特許文献3】特開2009−204587号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】北海道大学工学部研究報告第122号(1984年)
【非特許文献2】Journal of NUCLEAR SCIENCE and TECHNOLOGY, Vol. 46, No. 4, p.339-345 (2009年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
背景技術に記載した従来の発明の内、過酷事故時に発生する水素を他の物質と化学反応させて取り除く技術は、水素発生時には有効であるが、窒素やその他の非凝縮性ガスが存在する場合には有効で無い。蒸気冷却熱交換器部分の非凝縮性ガス濃度の過度の上昇を抑制する技術は、蒸気冷却熱交換器を格納容器内部に設置した場合に、蒸気冷却熱交換器周辺の非凝縮性ガス濃度が上昇するのを抑制するためのもので、蒸気冷却熱交換器を格納容器外部に設置する場合は使用できない。なお、蒸気冷却熱交換器を格納容器内部に設置すると、格納容器が大型化するという問題がある。
【0009】
本発明の第1の目的は、静的格納容器冷却設備の蒸気冷却熱交換器を格納容器外部に設置するシステムにおいて、窒素や水素などの非凝縮性ガスが存在した場合でも静的格納容器冷却設備の除熱性能の低下を抑制可能な手段を提供することである。
【0010】
また、本発明の第2の目的は、異常な過渡事象や事故事象が発生しても、原子炉の安全を適切に確保できる沸騰水型原子力発電プラントの運転方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の目的を達成するために少なくとも以下の特徴を有する。
【0012】
本発明は、第1の目的を達成するため、少なくとも2つ以上の蒸気冷却熱交換器と、前記ドライウェル内の蒸気または蒸気と非凝縮性ガスの混合気体を引き込む気体引込手段と、該気体引込手段から前記蒸気冷却熱交換器の間に設けられた非凝縮性ガス分離装置とを有し、該非凝縮性ガス分離装置内で分離された蒸気または蒸気と非凝縮性ガスの混合気体をそれぞれ別の前記蒸気冷却熱交換器に導くことを第1の特徴とする。
【0013】
また、本発明は、第1の目的を達成するため、前記気体引込手段は前記ドライウェルの壁面に設けられた蒸気引き込み管であることを第2の特徴とする。
さらに、本発明は、第1の目的を達成するため、前記気体引込手段は前記格納容器内部に設けられていることを第3の特徴とする。
【0014】
また、本発明は、第1の目的を達成するため、前記非凝縮性ガス分離装置は前記格納容器内部に設けられていることを第4の特徴とする。
さらに、本発明は、第1の目的を達成するため、前記気体引込手段と前記非凝縮性ガス分離装置とは一体であることを第5の特徴とする。
【0015】
また、本発明は、第1の目的を達成するため、前記非凝縮性ガス分離装置は、圧力バウンダリを構成するシェルと、該シェル内部には前記シェルの上流側(前記ドライウェル側)から流入した蒸気または蒸気と非凝縮性ガスの混合気体に回転力を与える静翼機構と、前記シェル内部の前記静翼機構の下流側(前記蒸気冷却熱交換器側)に設けられた多重円筒構造とを有し、多重円筒の前記下流側がそれぞれ別個の前記蒸気冷却熱交換器に接続されることを第6の特徴とする。
【0016】
さらに、本発明は、第1の目的を達成するため、前記非凝縮性ガス分離装置は、圧力バウンダリを構成するシェルと、蒸気、窒素、水素の内の1種類ないしは2種類の気体のみを、残りの気体よりも通しやすいガスを分離し、該シェル内部の少なくとも一部を区切るガス分離膜とを有することを第7の特徴とする。
また、本発明は、第1の目的を達成するため、前記非凝縮性ガス分離装置は、前記ドライウェル内の異なる高さ位置の蒸気と非凝縮性ガスの混合気体を取り込む少なくとも2つ以上の前記気体引込手段を有することを第8の特徴とする。
【0017】
さらに、本発明は、第2の目的を達成するため、原子炉を取り囲むように設置された原子炉格納容器内のドライウェルからの蒸気と非凝縮性ガスの混合気体を引き込み、前記混合気体を少なくとも2つ以上の異なる非凝縮性ガスの濃度の分離混合気体に分離し、前記2つ以上の異なる分離混合気体をそれぞれ異なる蒸気冷却熱交換器で冷却し、該冷却された凝縮水、凝縮しなかった蒸気の少なくとも一方をサプレッションプールに排出することを第9の特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、静的格納容器冷却設備の蒸気冷却熱交換器を格納容器外部に設置するシステムにおいて、窒素や水素などの非凝縮性ガスが存在した場合でも静的格納容器冷却設備の除熱性能の低下を抑制可能な手段を提供できる。
【0019】
また、本発明によれば、異常な過渡事象や事故事象が発生しても、原子炉の安全を適切に確保できる沸騰水型原子力発電プラントの運転方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の静的格納容器冷却設備の構成図である。
【図2】非凝縮性ガス濃度と静的格納容器冷却設備の蒸気冷却熱交換器内側壁面における熱伝達率の関係図である。
【図3】本発明の好適な一実施例である実施例2の静的格納容器冷却設備の構成図である。
【図4】本発明の実施例の静的格納容器冷却設備に用いることができる非凝縮性ガス分離装置の好適な一構成例である構成例1を示す図である。
【図5】本発明の実施例の静的格納容器冷却設備に用いることができる非凝縮性ガス分離装置の好適な一構成例である構成例2を示す図である。
【図6】本発明の実施例の静的格納容器冷却設備に用いることができる非凝縮性ガス分離装置の好適な一構成例である構成例3を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明者らは、非凝縮性ガスが存在する場合であっても静的格納容器冷却設備の除熱性能の低下を抑制可能な手段について検討した。従来の知見から、蒸気と非凝縮性ガスの混合気体の非凝縮性ガスの濃度が増加すると、蒸気冷却熱交換器内側壁面における熱伝達率が減少することが分かっている。発明者らは、非凝縮性ガス濃度が増加した時に、熱伝達率が式(1)に示す関係よりも大きく減少する場合は、少なくとも2系統設置した静的格納容器冷却設備に、異なる非凝縮性ガス濃度で混合気体を流すと、2系統平均での除熱性能を向上できることを見いだした。そこで、蒸気と非凝縮性ガスの混合気体の非凝縮性ガスの濃度と蒸気冷却熱交換器内側壁面における熱伝達率との関係を調査した結果、後述するように式(1)より大きく減少していることが分った。

H = -H0・X + H0 (1)

ここで、Hは非凝縮性ガスの質量割合がXの時の熱伝達率(W/m2K)、H0は非凝縮性ガス濃度が0の場合の熱伝達率(W/m2K)、Xは非凝縮性ガスの質量割合(―)を示す。
これにより、非凝縮性ガスが存在する場合の静的格納容器冷却設備の除熱性能の低下を抑制できる。
【0022】
上記の検討結果を反映した、本発明の実施例を以下に説明する。
【0023】
(実施例1)
本発明の好適な一実施例である実施例1の静的格納容器冷却設備を、図1を用いて説明する。
【0024】
沸騰水型原子力発電プラント1は、蒸気発生装置である原子炉2、原子炉を囲むように設置された格納容器3を備えている。格納容器3内は、サプレッションプール4を内包するウェットウェル5と、ウェットウェル5以外の領域であるドライウェル6に区分されている。ドライウェル6の一部では静的格納容器冷却設備の蒸気引き込み管7が貫通しており、その下流側には非凝縮性ガス分離装置8が設置されている。気体引込手段16である蒸気引き込み管7から、ドライウェル内の蒸気と非凝縮性ガスの混合気体を引き込み、非凝縮性ガス分離装置8で少なくとも2つの非凝縮性ガスの濃度の異なる混合気体に分離する。例えば、図1の2つの分離では、分離された混合気体は、一方は非凝縮性ガスの濃度が低く、もう一方は非凝縮性ガスの濃度が高くなっている。なお、非凝縮性ガス分離装置8については、後述するその構成例で説明する。
【0025】
非凝縮性ガス分離装置8から排出された少なくとも2つの混合気体配管は、それぞれ格納容器外部に設置された蒸気冷却プール9中に設置された蒸気冷却熱交換器10A及び蒸気冷却熱交換器10Bに導かれる。蒸気冷却熱交換器10内で冷却、凝縮された蒸気は、凝縮水排出管11を通して最終的にサプレッションプール4に排出される。
非凝縮性ガスを完全に分離し、一方の蒸気冷却熱交換器のみに流すことができれば、非凝縮性ガスが存在することによる静的格納容器冷却設備の除熱性能低下を最も効果的に抑制できるが、完全に分離しなくても効果はある。
【0026】
蒸気冷却熱交換器10からサプレッションプール4への凝縮水排出管11は、蒸気冷却熱交換器10の底部に凝縮した凝縮水の排出管と、凝縮水の上部に存在する凝縮しなかった蒸気及び非凝縮ガスの排出管に分けても良い。また、凝縮器排出管11は、2つの蒸気冷却熱交換器から出た配管を途中で1つの配管にまとめた例を示したが、それぞれ別配管でサプレッションプール4まで導いても良い。
【0027】
次に、本発明の効果の一例を、図2を用いて説明する。図2の横軸は非凝縮性ガスの質量割合、縦軸は非凝縮性ガス濃度0の場合の熱伝達率で規格化した蒸気冷却熱交換器10内側壁面における熱伝達率を示している。この例では、非凝縮性ガス濃度が0.2の場合の熱伝達率は約0.65、非凝縮性ガス濃度が0.4の場合の熱伝達率は約0.45である。式(1)で熱伝達率を評価すると、非凝縮性ガス濃度が0.2の場合の熱伝達率は0.8、非凝縮性ガス濃度が0.4の場合の熱伝達率は0.6となるため、非凝縮性ガス濃度が増加した時に、熱伝達率が式(1)に示す関係よりも大きく減少している。
【0028】
ドライウェル6内の非凝縮性ガス濃度が0.2であったとき、従来の方法でこれをそのまま静的格納容器冷却設備の蒸気冷却熱交換器10に導くと、蒸気冷却熱交換器内側壁面の熱伝達率は約0.65まで低下するため、除熱性能が低下することになる。ここで、非凝縮性ガス分離装置8を用い、一方の蒸気冷却熱交換器10Aには非凝縮性ガス濃度0の純粋な蒸気を導き、もう一方の蒸気冷却熱交換器10Bには残りの非凝縮性ガスを含んだ濃度0.4の混合気体を導くと、蒸気冷却熱交換器10Aの内側壁面の熱伝達率は1.0、蒸気冷却熱交換器Bの内側壁面の熱伝達率は0.45となる。蒸気冷却熱交換器10A、蒸気冷却熱交換器10Bの内側壁面の平均熱伝達率は、それらの平均の0.72となる。この結果は、従来の方法の0.65に比較して約10%熱伝達率を向上できる。本発明による熱伝達率低下の抑制効果は、その抑制効果を齎す非凝縮性ガス濃度増加による熱伝達率低下を示す熱伝達率低下曲線Cが、式(1)である直線Dより下部でその凹部が大きいほど大きくなる。
【0029】
以上説明した実施例によれば、静的格納容器冷却設備の蒸気冷却熱交換器を格納容器外部に設置するシステムにおいて、窒素や水素などの非凝縮性ガスが存在した場合でも静的格納容器冷却設備の除熱性能の低下を抑制可能な手段を提供できる。
【0030】
本実施形態によれば、非凝縮性ガスが存在する場合でも静的格納容器冷却設備の除熱性能が低下しないため、静的格納容器冷却設備の蒸気冷却熱交換器を小型化できる。
【0031】
(実施例2)
本発明の好適な一実施例である実施例2の静的格納容器冷却設備を、図3を用いて説明する。
実施例1では蒸気引き込み管7をドライウェル6の壁面に貫通して設け、非凝縮性ガス分離装置8を格納容器3外部に設置した例を示したが、少なくとも蒸気引き込み管7のようなドライウェル内の蒸気と非凝縮性ガスの混合気体を引き込む気体引込手段16を格納容器3内部に設けても、実施例1で示した熱伝達率低下の抑制効果は、実施例1と同様に奏することができる。
図3に示す実施例2では気体引込手段16と非凝縮性ガス分離装置8とを共に格納容器3内部に設置した例である。なお、気体引込手段16としては、管でも、箱でも良いし、後述する非凝縮性ガス分離装置の構成例1または2が気体引込手段16を兼ね、その一端が開放された状態でもよい。
【0032】
(非凝縮性ガス分離装置の構成例1)
本発明の実施例1または2の静的格納容器冷却設備に用いることができる非凝縮性ガス分離装置8の好適な一構成例である構成例1を、図4を用いて説明する。
【0033】
非凝縮性ガス分離装置8は、圧力バウンダリを構成する円筒状のシェル12を持ち、その内部の上流側にスワラ13(流体に回転力を与える静翼)を設置している。円筒状シェル12内側のスワラ13下流側には、2重円筒部14を設け、2重円筒部14内側と外側から排出した混合気体を別個の蒸気冷却熱交換器10に導く構造としている。
【0034】
混合気体が窒素と蒸気から構成される場合、窒素ガスの分子量は約28、蒸気の分子量は約18であるので、理想気体を仮定すると窒素ガスの密度は蒸気の約1.6倍大きくなる。混合気体が水素と蒸気から構成される場合、水素ガスの分子量は約2、蒸気の分子量は約18であるので、理想気体を仮定すると水素ガスの密度は蒸気の約1/9倍となる。混合気体にスワラ13で回転力を与えることで、密度が大きな気体が2重円筒部14の外側を、密度が小さな気体が2重円筒部14の内側を多く流れ、2系統に分割した蒸気冷却熱交換器10に非凝縮性ガス濃度が異なる混合気体を流すことができる。
【0035】
非凝縮ガス分離装置を縦向きに設置しても、横向きに設置しても構わない。また、円筒構造は2重円筒でもなくてもよく、3重円筒や4重円筒などでも良い。多重になればなるほど多くの蒸気冷却熱交換器を用い、非凝縮性ガスを効率よく分離でき、静的格納容器冷却設備の除熱性能低下を効果的に抑制できる。
【0036】
(非凝縮性ガス分離装置の構成例2)
本発明の実施例1または2の静的格納容器冷却設備に用いることができる非凝縮性ガス分離装置8の好適な一構成例である構成例2を、図5を用いて説明する。
【0037】
非凝縮性ガス分離装置8は、円筒状または矩形またはそれ以外の形状を有し、圧力バウンダリを構成するシェル12を持ち、その内部には流れ方向に平行に、特定の気体(窒素、蒸気、水素の内、1種類または2種類の気体)を通しやすいガス分離膜15を設置する。本構成例では円筒状のシェル12を使用し、内部に2重円筒状のガス分離膜15を設置した例を示したが、円筒状または矩形のシェル内部に板状のガス分離膜15を設置しても良い。
【0038】
シェル12内部を混合気体が流れる間に、ガス分離膜15を通して特定の気体のみが一方に移動するため、2系統に分割した蒸気冷却熱交換器10に非凝縮性ガス濃度が異なる混合気体を流すことができる。本構成例では、ガス分離膜15を流れ方向と平行に設置したが、円筒状のガス分離膜15の直径を軸方向で変化させるなどして、流れ方向とガス分離膜の角度を変えても良い。ガス分離膜15を流れ方向と平行に設置した場合は非凝縮性ガス分離装置8の圧力損失を小さくできるが、非凝縮性ガスの分離性能は低下する。一方、ガス分離膜15の角度を流れ方向と垂直に近づけると、ガス分離性能は向上するが、圧力損失は大きくなる。板状のガス分離膜15を用いる場合も、同じ特性となる。よって、ガス分離膜15の設置角度は、想定される混合気体の流量、非凝縮性ガスの濃度によって最適な角度を選定することになる。
【0039】
(非凝縮性ガス分離装置の構成例3)
本発明の実施例1または静的格納容器冷却設備に用いることができる非凝縮性ガス分離装置8の好適な一構成例である構成例3を、図6を用いて説明する。
【0040】
非凝縮性ガス分離装置8は、設置高さの異なる2つの蒸気引き込み管7A及び蒸気引き込み管7Bから構成され、蒸気引き込み管7Aは蒸気冷却熱交換器10Aに、蒸気引き込み管7Bは蒸気冷却熱交換器10Bに接続する構成としている。
【0041】
混合気体が窒素と蒸気から構成される場合、窒素ガスの分子量は約28、蒸気の分子量は約18であるので、理想気体を仮定すると窒素ガスの密度は蒸気の約1.6倍大きくなる。混合気体が水素と蒸気から構成される場合、水素ガスの分子量は約2、蒸気の分子量は約18であるので、理想気体を仮定すると水素ガスの密度は蒸気の約1/9倍となる。気体はその密度の差により、ドライウェル6上部には密度の小さな気体、ドライウェル6下部には密度の大きな気体が多く貯まりやすい。設置高さが高い蒸気引き込み管7Aからは密度の小さな気体が多く引き込まれ、設置高さが低い蒸気引き込み管7Bからは密度が大きな気体が多く引き込まれるため、2系統に分割した蒸気冷却熱交換器10A及び蒸気冷却熱交換器10Bに非凝縮性ガス濃度が異なる混合気体を流すことができる。
【0042】
図6では、気体引込手段16として2つの蒸気引き込み管7A、7Bはドライウェル6の壁面を貫通するように設けられているが、図3に示す実施例の考え方を踏襲すれば、気体引込手段16を格納容器3内部に設けてもよい。
【0043】
また、上記に説明した実施例1または2を有する沸騰水型原子力発電プラントにおいて、原子炉を取り囲むように設置された原子炉格納容器内のドライウェルからの蒸気と非凝縮性ガスの混合気体を引き込み、前記混合気体を少なくとも2つ以上の異なる非凝縮性ガスの濃度の分離混合気体に分離し、前記2つ以上の異なる分離混合気体をそれぞれ異なる蒸気冷却熱交換器で冷却し、該冷却された凝縮水、凝縮しなかった蒸気の少なくとも一方をサプレッションプールに排出することによって、常な過渡事象や事故事象が発生しても、原子炉の安全を適切に確保できる沸騰水型原子力発電プラントの運転方法を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、沸騰水型原子力発電プラント等の原子力発電プラントに適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1…沸騰水型原子力発電プラント、 2…原子炉
3…格納容器 4…サプレッションプール
5…ウェットウェル 6…ドライウェル
7、7A、7B…蒸気引き込み管 8…非凝縮性ガス分離装置
9…蒸気冷却プール 10、10A、10B…蒸気冷却熱交換器 11…凝縮水排出管 12…シェル
13…スワラ 14…2重円筒部
15…ガス分離 16…気体引込手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉を取り囲むように設置された原子炉格納容器内のドライウェルと、格納容器外部に設置された蒸気冷却熱交換器と該蒸気冷却熱交換器の他方から原子炉格納容器内のサプレッションプール内部につながる凝縮水排出管と、前記気冷却熱交換器を取り囲むように配置された蒸気冷却プールと、を有する静的格納容器冷却設備において、
少なくとも2つ以上の前記蒸気冷却熱交換器と、該ドライウェル内の蒸気または蒸気と非凝縮性ガスの混合気体を引き込む気体引込手段と、該気体引込手段から前記蒸気冷却熱交換器の間に設けられた非凝縮性ガス分離装置とを有し、該非凝縮性ガス分離装置内で分離された蒸気または蒸気と非凝縮性ガスの混合気体をそれぞれ別の前記蒸気冷却熱交換器に導くことを特徴とする静的格納容器冷却設備。
【請求項2】
前記気体引込手段は前記ドライウェルの壁面に設けられた蒸気引き込み管であることを特徴とする請求項1に記載の静的格納容器冷却設備。
【請求項3】
前記気体引込手段は前記格納容器内部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の静的格納容器冷却設備。
【請求項4】
前記非凝縮性ガス分離装置は前記格納容器内部に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の静的格納容器冷却設備。
【請求項5】
前記気体引込手段と前記非凝縮性ガス分離装置とは一体であることを特徴とする請求項4に記載に静的格納容器冷却設備。
【請求項6】
前記非凝縮性ガス分離装置は、圧力バウンダリを構成するシェルと、該シェル内部には前記シェルの上流側(前記ドライウェル側)から流入した蒸気または蒸気と非凝縮性ガスの混合気体に回転力を与える静翼機構と、前記シェル内部の前記静翼機構の下流側(前記蒸気冷却熱交換器側)に設けられた多重円筒構造とを有し、多重円筒の前記下流側がそれぞれ別の前記蒸気冷却熱交換器に接続されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の静的格納容器冷却設備。
【請求項7】
前記非凝縮性ガス分離装置は、圧力バウンダリを構成するシェルと、蒸気、窒素、水素の内の1種類ないしは2種類の気体のみを、残りの気体よりも通しやすいガスを分離し、該シェル内部の少なくとも一部を区切るガス分離膜とを有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の静的格納容器冷却設備。
【請求項8】
前記非凝縮性ガス分離装置は、前記ドライウェル内の異なる高さ位置の蒸気と非凝縮性ガスの混合気体を取り込む少なくとも2つ以上の前記気体引込手段を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の静的格納容器冷却設備。
【請求項9】
原子炉を取り囲むように設置された原子炉格納容器内のドライウェルからの蒸気と非凝縮性ガスの混合気体を引き込み、前記混合気体を少なくとも2つ以上の異なる非凝縮性ガスの濃度の分離混合気体に分離し、前記2つ以上の異なる分離混合気体をそれぞれ異なる蒸気冷却熱交換器で冷却し、該冷却された凝縮水、凝縮しなかった蒸気の少なくとも一方をサプレッションプールに排出することを特徴とする沸騰水型原子力発電プラントの運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−52823(P2012−52823A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193271(P2010−193271)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】