静脈パターンを利用した認証装置の光照射構造
【課題】静脈パターンを利用した認証装置において、比較的少ない光量でも静脈パターンの正確な読み取りを可能とする光照射構造を提供する。
【解決手段】本発明にかかる第一の光照射構造は、静脈パターンを利用した認証装置において該静脈パターンの撮像に必要な光を検査対象(1)に照射するもので、指向性を有する発光体(2)から発した光(6)が該検査対象上の特定領域(3)に集中することを特徴とする。また、本発明にかかる第二の光照射構造は、静脈パターンを利用した認証装置において該静脈パターンの撮像に必要な光を検査対象(1)に照射するもので、指向性を有する発光体(2)から発した光(6)が該検査対象上の特定点(5)に集中することを特徴とする。
【解決手段】本発明にかかる第一の光照射構造は、静脈パターンを利用した認証装置において該静脈パターンの撮像に必要な光を検査対象(1)に照射するもので、指向性を有する発光体(2)から発した光(6)が該検査対象上の特定領域(3)に集中することを特徴とする。また、本発明にかかる第二の光照射構造は、静脈パターンを利用した認証装置において該静脈パターンの撮像に必要な光を検査対象(1)に照射するもので、指向性を有する発光体(2)から発した光(6)が該検査対象上の特定点(5)に集中することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掌や指の静脈パターンを利用して個人の認証を行うために使用する認証装置において、静脈パターンの撮像に必要な光を検査対象となる掌や指に照射するための光照射構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、急速に普及しつつある、静脈パターンを利用した認証技術は、その認証に利用されている静脈パターンが、人により異なり、経年変化がなく、しかも人体の内部構造であるため偽造がほぼ不可能なものである等の特性を有しているため、個人認証に適している。しかしながら、その静脈パターンを利用した認証技術にも様々な問題点は存在しており、撮像に必要な光源の配置もそのような問題点の一つとなっている。
【0003】
例えば、静脈パターンを撮像するための検査対象に対し、撮像に必要な光を検査対象の上方から単に照射しただけでは、手の甲を検査対象とした場合は手の甲に生えた毛が障害となったり、指を検査対象とした場合は指を透過する光の多くが骨によって遮られ、光量が不十分となったりして、静脈パターンの正確な読み取ができなくなるおそれがあった。
【0004】
また、検査対象の上方位置に、静脈パターンの読み取りに不可欠な光源が配置されると、認証装置における指や手の甲の挿入先を、利用者が自分自身の目で確認することができなかった。そして、読み取り装置が壁に埋め込まれた場合、その内部を確認できない挿入口のみが壁面に形成されることとなり、利用者に恐怖感や嫌悪感を抱かせることになっていた。
【0005】
そこで、本出願人は、特願2004−115033号において、撮像手段の視線軸に対し光軸が所定角度をなして交差する位置に配置された光源を備えた認証装置を提案している。この認証装置によれば、光源の配置される位置は、その光軸が撮像手段の視線軸に対し所定角度をなして交差する範囲であれば特に限定されない。そのため、設置状態等に応じて光源の配置される位置を適宜調整することで、撮像手段に十分な光量を到達させたり、或いは適切な場所に設置部の覗き窓を設けたりすることができる。そして、静脈パターンを正確に読み取ることが可能となり、装置を壁面に埋設した場合には、利用者に恐怖感や嫌悪感を抱かせることなく静脈パターンを読み取ることが可能となる。
【特許文献1】特開2004−115033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記認証装置は、検査対象の上方に光源が配置されないという利点を有する反面、光源の光量が多くなければ、静脈パターンを十分に読み取ることができなかった。そのため、光量を多くするためのコストや手間がかかるという問題、例えば、光源としてLEDを採用する場合は、全体の光量を増やするために多数のLEDを使用することとなり、電力消費が大きくなる、或いは故障頻度が増すおそれがある等の問題があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、静脈パターンを利用した認証装置において、比較的少ない光量でも静脈パターンの正確な読み取りを可能とする光照射構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる第一の光照射構造は、静脈パターンを利用した認証装置において該静脈パターンの撮像に必要な光を検査対象に照射するもので、指向性を有する発光体から発した光が該検査対象上の特定領域に集中することを特徴とする。
【0009】
本発明にかかる第二の光照射構造は、静脈パターンを利用した認証装置において該静脈パターンの撮像に必要な光を検査対象に照射するもので、指向性を有する発光体から発した光が該検査対象上の特定点に集中することを特徴とする。
【0010】
該発光体は、その光軸が該検査対象の軸線及び撮像手段の視線軸と同一平面上になる配置とされ、該特定領域又は該特定点は該視線軸上にあってもよい。
なお、本発明において検査対象の軸線とは、検査対象の中心を通り長手方向に延びる仮想の線をいうものとする。例えば、静脈パターンを利用した認証装置では、一般に検査対象は指や掌ということになるが、検査対象が指であれば、検査対象の軸線は指の骨の中心を通る線となる。
【0011】
該発光体は、検査可能な状態に載置された該検査対象の先端部近傍となる位置に配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる第一の光照射構造によれば、指向性を有する発光体から発した光を検査対象上の特定領域に集中させることで、検査対象に到達した光の検査対象内での拡散現象を利用して、検査対象の輝度を効率良く高めることができる。そのため、検査対象の全体に光を均等に照射する従来の光照射構造よりも少ない光量で、静脈パターンの正確な読み取りが可能となる。
【0013】
なお、発光体の指向性が強くなれば、そこから発した光が集中する特定領域の面積は狭くなり、やがて1点になる。本発明にかかる第二の光照射構造は、第一の光照射構造における発光体を、より指向性の強い発光体に代えたものであり、第一の光照射構造と同様の効果を得ることができる。また、それらの効果に加え、光を特定点に集中させることにより、指向性が弱い発光体を採用した場合よりも検査対象の輝度を更に効率良く高めることができる。そのため、指向性が弱い発光体を採用した第一の光照射構造よりも、更に発光体の数を減らし、場合によっては単数にして、光軸の調整等、維持に必要な手間を低減できる。
【0014】
発光体を、その光軸が検査対象の軸線及び撮像手段の視線軸と同一平面上になる配置とすれば、検査対象内で光が検査対象の長手方向に多く散乱し、幅方向からの散逸が少なくなる。更に、この配置であれば、特定領域又は特定点を視線軸上として、撮像される部位のみの輝度を高めることができる。そのため、検査対象の輝度を更に効率良く高めることができる。
【0015】
発光体を、検査可能な状態に載置された検査対象の先端部近傍となる位置に配置すれば、検査対象の上方が開放される型式の認証装置にも適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1〜4に、本発明にかかる第一の光照射構造の具体例を示す。図1は同構造の概略構成を示す側面図、図2は正面図、図3は平面図である。図4は同構造を備える認証装置の斜視図である。
この光照射構造は、静脈パターンを利用した認証装置において静脈パターンの撮像に必要な光を検査対象1である指に照射するもので、検査対象1の載置部10に向けて配置された、指向性を有する発光体2を備える。載置部10は、撮像用の窓11を有し、窓11の下方に撮像手段4が配置されている。なお、検査対象1は、載置部10の発光体2側端部近傍に設けられた位置決め用突起12に突き当てることにより、使用毎に同じ状態で載置できるようになっている。
【0017】
発光体2は、指向性30度の(発光点を頂点として頂角30度の円錐領域を照射できる)LEDで、撮像手段4の視線軸N方向に並べて設置されたものが二つ使用されている。
そして、両発光体2、2の光軸L、Lと検査対象1との交差点F、Fの間の特定領域3に、両発光体2、2から発した光6が集中するようになっている。
【0018】
この光照射構造によれば、指向性を有する発光体2から発した光6を検査対象1上の特定領域3に集中させることで、検査対象1に到達した光の検査対象1内での拡散現象を利用して、検査対象1の輝度を効率良く高めることができる。そのため、検査対象の全体に光を均等に照射する従来の光照射構造よりも少ない光量で、静脈パターンの正確な読み取りが可能となる。
【0019】
また、発光体2は、その光軸Lが検査対象1の軸線M及び撮像手段4の視線軸Nと同一平面P上になる配置とされている。そして、特定領域3は、視線軸N上に形成されている。
こうすると、検査対象1内で光が検査対象1の長手方向に多く散乱し、幅方向からの散逸が少なくなる。更に、この配置であれば、特定領域3を視線軸N上として、撮像される部位のみの輝度を高めることができる。そのため、検査対象の輝度を更に効率良く高めることができる。
【0020】
更に、発光体2は、検査可能な状態に載置された検査対象1の先端部近傍となる位置に配置されている。
こうすると、図4に示すように、載置部10の上方に、載置部10を外から確認するための透過部13を設けることが可能となる。なお、この透過部13には透明な樹脂板が嵌め込まれているが、樹脂板を外した開放状態としてもよい。
【0021】
この実施例においては、発光体2として、並べて設置された2つのLEDが使用されているが、LEDの数に制限はない。十分な光量がえられるものであれば、図5に示すように、LEDは1つであってもよい。なお、図5において、図1〜4に示す具体例と実質的に同じ部分には同符号を付し、その説明は省略するものとする。
【0022】
図6は、本発明にかかる第二の光照射構造の具体例の概略構成を示す側面図である。なお、図6において、図1〜5に示す具体例と実質的に同じ部分には同符号を付し、その説明は省略するものとする。
この光照射構造は、図1〜5に示す光照射構造の発光体2を、LEDよりも指向性の強いレーザに代えたものである。そして、発光体2から発した光6は、検査対象上の特定点5に集中している。
【0023】
この光照射構造によれば、光を特定点5に集中させることにより、指向性が弱い発光体を採用した場合よりも検査対象1の輝度を更に効率良く高めることができる。そのため、指向性が弱い発光体を採用した図1〜5に示す光照射構造よりも、更に発光体の数を減らし単数として、光軸の調整等、維持に必要な手間を低減できる。
【実施例】
【0024】
次に、本発明にかかる光照明構造の実施例について説明する。
以下に説明する実施例では、図1〜3、図5、図6に示す、指の静脈パターンを読み取るために必要最小限の要素のみが用いられ、図4に示すような完成品としての装置は使用されていない。また、載置部10は平坦な作業台に設けられたが、周りを囲う側壁は設けられず、室内照明の下で実施された。撮像手段4には量産されている通常のカメラが使用され、レンズ表面が載置部10から45mm下方へ離れる位置に設置された。
【0025】
第一の実施例においては、LEDとして、L−53SF7C(製品名:Kingbright社)を採用し、図1〜3に示すように、撮像手段4の視線軸N方向に二つ並べて設置した。なお、L−53SF7Cの主な特性としては、波長が850nm、出力が100mW/sr、電流が50mA、指向性が30度となっている。
【0026】
検査対象は、左右の人差し指及び中指とした。そして、平均輝度が約70〜150の画像を6枚撮影して、それぞれを比較し、一致する点数を求めた。
【0027】
LEDの指先からの距離Dは10mmとし、また、LEDの光軸Lの設置部10に対する角度Rを2度及び12度とし、それぞれについて実施した。載置部10に対する高さHは、LEDの設置角度の変化に伴って少し異なるものとなり、前者が25mm、後者が30mmであった。
【0028】
表1に、第一の実施例の結果を示す。
【表1】
また、得られた画像データの一例を図6〜8に示す。
図7は処理前画像、図8は濃淡差強調処理後画像、図9は二値化した画像の累積である。
【0029】
この第一の実施例により、2つのLEDのみであっても、そこから発する光を検査対象の特定領域に集中させることにより、静脈パターンを利用した認証に必要十分な一致点が得られることを確認できた。
【0030】
第二の実施例においては、LEDとして、L760−02AU、L830−02AU及びL850−02UP(何れも製品名:ALPHA−ONE社)を採用し、760nm、830nm及び850nmの波長の光を、図5に示すように、1つのLEDを使用して照射した。なお、これらLEDの共通特性として、出力が100mW/sr、電流が50mA、指向性が10度となっている。一方、それぞれの出力波長は、Lに続く数字が示すものとなっている。そして、この実施例においては、これら3種類の波長全ての検証を行った。
【0031】
LEDは、指先からの距離が0mmとなる位置、すなわち、指先の直上に配置された。また、LEDの光軸Lの設置部10に対する角度Rは30度及び60度とし、それぞれについて電源電圧を3段階変化させ1段階につき輝度の異なる各3枚の画像(合計9枚)を撮影し、前記第1の実施例と同様、一致する点数を求めた。載置部10に対する高さHは、LEDの設置角度の変化に伴って少し異なるものとなり、前者が38mm、後者が76mmであった。また、比較用として、LEDを撮像手段4の視線軸N上に検査対象1から30mm及び60mm離れた位置に配置し、設置部10に対する光軸Lの角度Rを90度とした場合についても、同様に、一致する点数を求めた。
なお、第2の実施例は、以下に示す結果を得た検査対象以外にも、5つの検査対象について検証を行ったが、その結果の示す傾向は同様であったため、それらの結果の記載は省略する。
【0032】
表2〜4に、第二の実施例の結果を示す。表2は波長が760nm、表3は波長が830nm、表4は波長が850nmの場合の結果である。
【表2】
【表3】
【表4】
【0033】
この第二の実施例により、指向性の極めて高い1つのLEDのみであっても、そこから発する光を検査対象1の特定領域3に集中させることにより、静脈パターンを利用した認証に必要十分な一致点が得られることを確認できた。
【0034】
また、第1及び第2の実施例の結果から、光を検査対象の特定領域に集中させる限り、LEDの光軸Lの設置部10に対する角度Rは、認証結果に殆ど影響を与えないことが確認できた。
更に、波長については、どの波長であっても概ね結果は良かったが、850nmの場合は特に平均的に良い結果となることがわかった。一方、830nmの消費電力が最も小さく、760nmの消費電力が最も大きくなることが確認できた。これは、波長による光の吸収率の特性と、波長によるLEDの特性が原因と考えられる。
更にまた、検査対象が光を通しにくい場合(例えば、表皮の厚い男性の指など)、光量を増やすためLEDの出力を上げる必要があるものの、使用されるLEDが1つであると照射領域でハレーション(光の当たっている領域が強く白くなること)が起きることを確認できた。そして、そのような場合は、2つのLEDを使用し、個々のLEDの出力を下げることで対応する必要があることも確認できた。なお、波長830nmにおいて光軸Lの角度が90度、LED高さが30mmの場合のスコアが低いのはハレーションが原因と考えられる。
【0035】
第三の実施例は、発光体としてチタン−サファイヤレーザを採用したことを除き、その他の構成において、第1及び第2の実施例と同じである。なお、この第三の実施例は、本発明にかかる第二の光照射構造の実施例である。
【0036】
この第三の実施例において、レーザは、その光軸Lの設置部10に対する角度Rが約40度となるように設置され、出力される光の波長は、830nmとされた。図11は、この実施例で得られた画像である。また、図10は比較用で、第二の実施例においてほぼ同様の条件(850nm、角度30度)で得られた画像である。そして、図10と図11を比較すると、図11においては、血管がより鮮明に写っていることがわかる。
【0037】
この実施例により、レーザを使用して光を特定点に集中させた場合には、上記第一及び第二の実施例のように、特定領域に光を集中させた場合よりも、静脈パターンのより鮮明な画像が得られ、認証に必要十分なデータを得られることを確認できた。なお、レーザ光の波長分布は、LED光よりもピーク波長近傍により集束したものとなるため、その点からも、より鮮明な画像を得るにあたってレーザは光源として好適であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明にかかる第一の光照射構造の具体例の概略構成を示す側面図である。
【図2】同正面図である。
【図3】同平面図である。
【図4】同構造を備える認証装置の斜視図である。
【図5】本発明にかかる第一の光照射構造の他の具体例の概略構成を示す側面図である。
【図6】本発明にかかる第二の光照射構造の具体例の概略構成を示す側面図である。
【図7】第一の実施例で得られた処理前画像である。
【図8】同濃淡差強調処理後画像である。
【図9】同二値化した画像の累積である。
【図10】第二の実施例で得られた画像である。
【図11】第三の実施例で得られた画像である。
【符号の説明】
【0039】
1 検査対象
2 発光体
3 特定領域
4 撮像手段
5 特定点
6 光
L 光軸
M 軸線
N 視線軸
P 平面
【技術分野】
【0001】
本発明は、掌や指の静脈パターンを利用して個人の認証を行うために使用する認証装置において、静脈パターンの撮像に必要な光を検査対象となる掌や指に照射するための光照射構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、急速に普及しつつある、静脈パターンを利用した認証技術は、その認証に利用されている静脈パターンが、人により異なり、経年変化がなく、しかも人体の内部構造であるため偽造がほぼ不可能なものである等の特性を有しているため、個人認証に適している。しかしながら、その静脈パターンを利用した認証技術にも様々な問題点は存在しており、撮像に必要な光源の配置もそのような問題点の一つとなっている。
【0003】
例えば、静脈パターンを撮像するための検査対象に対し、撮像に必要な光を検査対象の上方から単に照射しただけでは、手の甲を検査対象とした場合は手の甲に生えた毛が障害となったり、指を検査対象とした場合は指を透過する光の多くが骨によって遮られ、光量が不十分となったりして、静脈パターンの正確な読み取ができなくなるおそれがあった。
【0004】
また、検査対象の上方位置に、静脈パターンの読み取りに不可欠な光源が配置されると、認証装置における指や手の甲の挿入先を、利用者が自分自身の目で確認することができなかった。そして、読み取り装置が壁に埋め込まれた場合、その内部を確認できない挿入口のみが壁面に形成されることとなり、利用者に恐怖感や嫌悪感を抱かせることになっていた。
【0005】
そこで、本出願人は、特願2004−115033号において、撮像手段の視線軸に対し光軸が所定角度をなして交差する位置に配置された光源を備えた認証装置を提案している。この認証装置によれば、光源の配置される位置は、その光軸が撮像手段の視線軸に対し所定角度をなして交差する範囲であれば特に限定されない。そのため、設置状態等に応じて光源の配置される位置を適宜調整することで、撮像手段に十分な光量を到達させたり、或いは適切な場所に設置部の覗き窓を設けたりすることができる。そして、静脈パターンを正確に読み取ることが可能となり、装置を壁面に埋設した場合には、利用者に恐怖感や嫌悪感を抱かせることなく静脈パターンを読み取ることが可能となる。
【特許文献1】特開2004−115033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記認証装置は、検査対象の上方に光源が配置されないという利点を有する反面、光源の光量が多くなければ、静脈パターンを十分に読み取ることができなかった。そのため、光量を多くするためのコストや手間がかかるという問題、例えば、光源としてLEDを採用する場合は、全体の光量を増やするために多数のLEDを使用することとなり、電力消費が大きくなる、或いは故障頻度が増すおそれがある等の問題があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、静脈パターンを利用した認証装置において、比較的少ない光量でも静脈パターンの正確な読み取りを可能とする光照射構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる第一の光照射構造は、静脈パターンを利用した認証装置において該静脈パターンの撮像に必要な光を検査対象に照射するもので、指向性を有する発光体から発した光が該検査対象上の特定領域に集中することを特徴とする。
【0009】
本発明にかかる第二の光照射構造は、静脈パターンを利用した認証装置において該静脈パターンの撮像に必要な光を検査対象に照射するもので、指向性を有する発光体から発した光が該検査対象上の特定点に集中することを特徴とする。
【0010】
該発光体は、その光軸が該検査対象の軸線及び撮像手段の視線軸と同一平面上になる配置とされ、該特定領域又は該特定点は該視線軸上にあってもよい。
なお、本発明において検査対象の軸線とは、検査対象の中心を通り長手方向に延びる仮想の線をいうものとする。例えば、静脈パターンを利用した認証装置では、一般に検査対象は指や掌ということになるが、検査対象が指であれば、検査対象の軸線は指の骨の中心を通る線となる。
【0011】
該発光体は、検査可能な状態に載置された該検査対象の先端部近傍となる位置に配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる第一の光照射構造によれば、指向性を有する発光体から発した光を検査対象上の特定領域に集中させることで、検査対象に到達した光の検査対象内での拡散現象を利用して、検査対象の輝度を効率良く高めることができる。そのため、検査対象の全体に光を均等に照射する従来の光照射構造よりも少ない光量で、静脈パターンの正確な読み取りが可能となる。
【0013】
なお、発光体の指向性が強くなれば、そこから発した光が集中する特定領域の面積は狭くなり、やがて1点になる。本発明にかかる第二の光照射構造は、第一の光照射構造における発光体を、より指向性の強い発光体に代えたものであり、第一の光照射構造と同様の効果を得ることができる。また、それらの効果に加え、光を特定点に集中させることにより、指向性が弱い発光体を採用した場合よりも検査対象の輝度を更に効率良く高めることができる。そのため、指向性が弱い発光体を採用した第一の光照射構造よりも、更に発光体の数を減らし、場合によっては単数にして、光軸の調整等、維持に必要な手間を低減できる。
【0014】
発光体を、その光軸が検査対象の軸線及び撮像手段の視線軸と同一平面上になる配置とすれば、検査対象内で光が検査対象の長手方向に多く散乱し、幅方向からの散逸が少なくなる。更に、この配置であれば、特定領域又は特定点を視線軸上として、撮像される部位のみの輝度を高めることができる。そのため、検査対象の輝度を更に効率良く高めることができる。
【0015】
発光体を、検査可能な状態に載置された検査対象の先端部近傍となる位置に配置すれば、検査対象の上方が開放される型式の認証装置にも適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1〜4に、本発明にかかる第一の光照射構造の具体例を示す。図1は同構造の概略構成を示す側面図、図2は正面図、図3は平面図である。図4は同構造を備える認証装置の斜視図である。
この光照射構造は、静脈パターンを利用した認証装置において静脈パターンの撮像に必要な光を検査対象1である指に照射するもので、検査対象1の載置部10に向けて配置された、指向性を有する発光体2を備える。載置部10は、撮像用の窓11を有し、窓11の下方に撮像手段4が配置されている。なお、検査対象1は、載置部10の発光体2側端部近傍に設けられた位置決め用突起12に突き当てることにより、使用毎に同じ状態で載置できるようになっている。
【0017】
発光体2は、指向性30度の(発光点を頂点として頂角30度の円錐領域を照射できる)LEDで、撮像手段4の視線軸N方向に並べて設置されたものが二つ使用されている。
そして、両発光体2、2の光軸L、Lと検査対象1との交差点F、Fの間の特定領域3に、両発光体2、2から発した光6が集中するようになっている。
【0018】
この光照射構造によれば、指向性を有する発光体2から発した光6を検査対象1上の特定領域3に集中させることで、検査対象1に到達した光の検査対象1内での拡散現象を利用して、検査対象1の輝度を効率良く高めることができる。そのため、検査対象の全体に光を均等に照射する従来の光照射構造よりも少ない光量で、静脈パターンの正確な読み取りが可能となる。
【0019】
また、発光体2は、その光軸Lが検査対象1の軸線M及び撮像手段4の視線軸Nと同一平面P上になる配置とされている。そして、特定領域3は、視線軸N上に形成されている。
こうすると、検査対象1内で光が検査対象1の長手方向に多く散乱し、幅方向からの散逸が少なくなる。更に、この配置であれば、特定領域3を視線軸N上として、撮像される部位のみの輝度を高めることができる。そのため、検査対象の輝度を更に効率良く高めることができる。
【0020】
更に、発光体2は、検査可能な状態に載置された検査対象1の先端部近傍となる位置に配置されている。
こうすると、図4に示すように、載置部10の上方に、載置部10を外から確認するための透過部13を設けることが可能となる。なお、この透過部13には透明な樹脂板が嵌め込まれているが、樹脂板を外した開放状態としてもよい。
【0021】
この実施例においては、発光体2として、並べて設置された2つのLEDが使用されているが、LEDの数に制限はない。十分な光量がえられるものであれば、図5に示すように、LEDは1つであってもよい。なお、図5において、図1〜4に示す具体例と実質的に同じ部分には同符号を付し、その説明は省略するものとする。
【0022】
図6は、本発明にかかる第二の光照射構造の具体例の概略構成を示す側面図である。なお、図6において、図1〜5に示す具体例と実質的に同じ部分には同符号を付し、その説明は省略するものとする。
この光照射構造は、図1〜5に示す光照射構造の発光体2を、LEDよりも指向性の強いレーザに代えたものである。そして、発光体2から発した光6は、検査対象上の特定点5に集中している。
【0023】
この光照射構造によれば、光を特定点5に集中させることにより、指向性が弱い発光体を採用した場合よりも検査対象1の輝度を更に効率良く高めることができる。そのため、指向性が弱い発光体を採用した図1〜5に示す光照射構造よりも、更に発光体の数を減らし単数として、光軸の調整等、維持に必要な手間を低減できる。
【実施例】
【0024】
次に、本発明にかかる光照明構造の実施例について説明する。
以下に説明する実施例では、図1〜3、図5、図6に示す、指の静脈パターンを読み取るために必要最小限の要素のみが用いられ、図4に示すような完成品としての装置は使用されていない。また、載置部10は平坦な作業台に設けられたが、周りを囲う側壁は設けられず、室内照明の下で実施された。撮像手段4には量産されている通常のカメラが使用され、レンズ表面が載置部10から45mm下方へ離れる位置に設置された。
【0025】
第一の実施例においては、LEDとして、L−53SF7C(製品名:Kingbright社)を採用し、図1〜3に示すように、撮像手段4の視線軸N方向に二つ並べて設置した。なお、L−53SF7Cの主な特性としては、波長が850nm、出力が100mW/sr、電流が50mA、指向性が30度となっている。
【0026】
検査対象は、左右の人差し指及び中指とした。そして、平均輝度が約70〜150の画像を6枚撮影して、それぞれを比較し、一致する点数を求めた。
【0027】
LEDの指先からの距離Dは10mmとし、また、LEDの光軸Lの設置部10に対する角度Rを2度及び12度とし、それぞれについて実施した。載置部10に対する高さHは、LEDの設置角度の変化に伴って少し異なるものとなり、前者が25mm、後者が30mmであった。
【0028】
表1に、第一の実施例の結果を示す。
【表1】
また、得られた画像データの一例を図6〜8に示す。
図7は処理前画像、図8は濃淡差強調処理後画像、図9は二値化した画像の累積である。
【0029】
この第一の実施例により、2つのLEDのみであっても、そこから発する光を検査対象の特定領域に集中させることにより、静脈パターンを利用した認証に必要十分な一致点が得られることを確認できた。
【0030】
第二の実施例においては、LEDとして、L760−02AU、L830−02AU及びL850−02UP(何れも製品名:ALPHA−ONE社)を採用し、760nm、830nm及び850nmの波長の光を、図5に示すように、1つのLEDを使用して照射した。なお、これらLEDの共通特性として、出力が100mW/sr、電流が50mA、指向性が10度となっている。一方、それぞれの出力波長は、Lに続く数字が示すものとなっている。そして、この実施例においては、これら3種類の波長全ての検証を行った。
【0031】
LEDは、指先からの距離が0mmとなる位置、すなわち、指先の直上に配置された。また、LEDの光軸Lの設置部10に対する角度Rは30度及び60度とし、それぞれについて電源電圧を3段階変化させ1段階につき輝度の異なる各3枚の画像(合計9枚)を撮影し、前記第1の実施例と同様、一致する点数を求めた。載置部10に対する高さHは、LEDの設置角度の変化に伴って少し異なるものとなり、前者が38mm、後者が76mmであった。また、比較用として、LEDを撮像手段4の視線軸N上に検査対象1から30mm及び60mm離れた位置に配置し、設置部10に対する光軸Lの角度Rを90度とした場合についても、同様に、一致する点数を求めた。
なお、第2の実施例は、以下に示す結果を得た検査対象以外にも、5つの検査対象について検証を行ったが、その結果の示す傾向は同様であったため、それらの結果の記載は省略する。
【0032】
表2〜4に、第二の実施例の結果を示す。表2は波長が760nm、表3は波長が830nm、表4は波長が850nmの場合の結果である。
【表2】
【表3】
【表4】
【0033】
この第二の実施例により、指向性の極めて高い1つのLEDのみであっても、そこから発する光を検査対象1の特定領域3に集中させることにより、静脈パターンを利用した認証に必要十分な一致点が得られることを確認できた。
【0034】
また、第1及び第2の実施例の結果から、光を検査対象の特定領域に集中させる限り、LEDの光軸Lの設置部10に対する角度Rは、認証結果に殆ど影響を与えないことが確認できた。
更に、波長については、どの波長であっても概ね結果は良かったが、850nmの場合は特に平均的に良い結果となることがわかった。一方、830nmの消費電力が最も小さく、760nmの消費電力が最も大きくなることが確認できた。これは、波長による光の吸収率の特性と、波長によるLEDの特性が原因と考えられる。
更にまた、検査対象が光を通しにくい場合(例えば、表皮の厚い男性の指など)、光量を増やすためLEDの出力を上げる必要があるものの、使用されるLEDが1つであると照射領域でハレーション(光の当たっている領域が強く白くなること)が起きることを確認できた。そして、そのような場合は、2つのLEDを使用し、個々のLEDの出力を下げることで対応する必要があることも確認できた。なお、波長830nmにおいて光軸Lの角度が90度、LED高さが30mmの場合のスコアが低いのはハレーションが原因と考えられる。
【0035】
第三の実施例は、発光体としてチタン−サファイヤレーザを採用したことを除き、その他の構成において、第1及び第2の実施例と同じである。なお、この第三の実施例は、本発明にかかる第二の光照射構造の実施例である。
【0036】
この第三の実施例において、レーザは、その光軸Lの設置部10に対する角度Rが約40度となるように設置され、出力される光の波長は、830nmとされた。図11は、この実施例で得られた画像である。また、図10は比較用で、第二の実施例においてほぼ同様の条件(850nm、角度30度)で得られた画像である。そして、図10と図11を比較すると、図11においては、血管がより鮮明に写っていることがわかる。
【0037】
この実施例により、レーザを使用して光を特定点に集中させた場合には、上記第一及び第二の実施例のように、特定領域に光を集中させた場合よりも、静脈パターンのより鮮明な画像が得られ、認証に必要十分なデータを得られることを確認できた。なお、レーザ光の波長分布は、LED光よりもピーク波長近傍により集束したものとなるため、その点からも、より鮮明な画像を得るにあたってレーザは光源として好適であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明にかかる第一の光照射構造の具体例の概略構成を示す側面図である。
【図2】同正面図である。
【図3】同平面図である。
【図4】同構造を備える認証装置の斜視図である。
【図5】本発明にかかる第一の光照射構造の他の具体例の概略構成を示す側面図である。
【図6】本発明にかかる第二の光照射構造の具体例の概略構成を示す側面図である。
【図7】第一の実施例で得られた処理前画像である。
【図8】同濃淡差強調処理後画像である。
【図9】同二値化した画像の累積である。
【図10】第二の実施例で得られた画像である。
【図11】第三の実施例で得られた画像である。
【符号の説明】
【0039】
1 検査対象
2 発光体
3 特定領域
4 撮像手段
5 特定点
6 光
L 光軸
M 軸線
N 視線軸
P 平面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
静脈パターンを利用した認証装置において該静脈パターンの撮像に必要な光を検査対象(1)に照射するもので、指向性を有する発光体(2)から発した光(6)が該検査対象(1)上の特定領域(3)に集中することを特徴とする光照射構造。
【請求項2】
該発光体(2)は、その光軸(L)が該検査対象(1)の軸線(M)及び撮像手段(4)の視線軸(N)と同一平面(P)上になる配置とされ、該特定領域(3)は該視線軸(N)上に形成される請求項1に記載の光照射構造。
【請求項3】
静脈パターンを利用した認証装置において該静脈パターンの撮像に必要な光を検査対象(1)に照射するもので、指向性を有する発光体(2)から発した光(6)が該検査対象(1)上の特定点(5)に集中することを特徴とする光照射構造。
【請求項4】
該発光体(2)は、その光軸(L)が該検査対象(1)の軸線(M)及び撮像手段(4)の視線軸(N)と同一平面(P)上になる配置とされ、該特定点は該視線軸(N)上に形成される請求項3に記載の光照射構造。
【請求項5】
該発光体(2)は、検査可能な状態に載置された該検査対象(1)の先端部近傍となる位置に配置されている請求項1〜5のいずれか一つの項に記載の光照射構造。
【請求項1】
静脈パターンを利用した認証装置において該静脈パターンの撮像に必要な光を検査対象(1)に照射するもので、指向性を有する発光体(2)から発した光(6)が該検査対象(1)上の特定領域(3)に集中することを特徴とする光照射構造。
【請求項2】
該発光体(2)は、その光軸(L)が該検査対象(1)の軸線(M)及び撮像手段(4)の視線軸(N)と同一平面(P)上になる配置とされ、該特定領域(3)は該視線軸(N)上に形成される請求項1に記載の光照射構造。
【請求項3】
静脈パターンを利用した認証装置において該静脈パターンの撮像に必要な光を検査対象(1)に照射するもので、指向性を有する発光体(2)から発した光(6)が該検査対象(1)上の特定点(5)に集中することを特徴とする光照射構造。
【請求項4】
該発光体(2)は、その光軸(L)が該検査対象(1)の軸線(M)及び撮像手段(4)の視線軸(N)と同一平面(P)上になる配置とされ、該特定点は該視線軸(N)上に形成される請求項3に記載の光照射構造。
【請求項5】
該発光体(2)は、検査可能な状態に載置された該検査対象(1)の先端部近傍となる位置に配置されている請求項1〜5のいずれか一つの項に記載の光照射構造。
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図1】
【図2】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図4】
【図5】
【図6】
【図1】
【図2】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−44397(P2007−44397A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234162(P2005−234162)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(501085108)株式会社アイ・ディ・テクニカ (6)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(501085108)株式会社アイ・ディ・テクニカ (6)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
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