説明

静電アクチュエータ及び液滴吐出ヘッド

【課題】振動板破壊を起こすことなく、振動板の変形量を最大化することが可能な静電アクチュエータ及び液滴吐出ヘッドを提供する。
【解決手段】振動板4と、振動板4にギャップGを隔てて対向する個別電極10と有し、振動板4と個別電極10との間に駆動電圧を印加することにより振動板4を静電吸引力により変形させる静電アクチュエータであって、振動板4と個別電極10との距離が、個別電極の中央部10aより外周部10b側で長くなる構成としたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電アクチュエータ及び液滴吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出するための液滴吐出ヘッドとして、例えばインクジェット記録装置に搭載されるインクジェットヘッドが知られている。静電駆動方式のインクジェットヘッドは、液滴を貯留する圧力室の一部を構成する振動板と、該振動板に対向して所定のギャップをもって配設された個別電極を有し、個別電極と振動板との間にパルス電圧を印加して振動板を静電力により変位させ、振動板の機械的な復元力により圧力室内の液滴を加圧して液滴を吐出している。
【0003】
近年、この種の静電アクチュエータを使用したインクジェットヘッドでは、記録密度を更に高めて高精細な印刷を行うとともに、記録速度の向上を図りたいという要求があった。記録速度を速めるためには、インク流路の固有振動数を高くして駆動周波数を上げる必要がある。しかしながら、駆動周波数を上げるべくアクチュエータ構造開発を行った場合、インク液滴の吐出量を減少させてしまう傾向があった。これでは、駆動周波数を高めて高速印字を行うことができるものの、印字品位が低下してしまう。
【0004】
そこで、インク液滴の吐出量を減らすことなく駆動周波数を上げることが求められており、従来、個別電極と振動板との間のギャップを長くして振動板の変形量を大きくし、インク吐出量を確保することが提案されている。しかしながら、この場合、振動板の撓み変形が大きくなり、振動板の固定端(外周部分)に応力が集中して振動板が破壊する恐れがあるという新たな問題が発生した。
【0005】
そこで、従来の静電アクチュエータとして、振動板の個別電極に対向する側の外周部を滑らかな形状の凹部とし、振動板の外周部に応力が集中して振動板の破壊を防止しようとするものがあった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−277742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1の技術により、振動板の破壊を防止することが期待できる。しかし、更なる高密度化に対応して、振動板の破壊防止能力の一層の向上が望まれている。
【0008】
本発明はこのような点に鑑みなされたもので、振動板破壊を起こすことなく、振動板の変形量を最大化することが可能な静電アクチュエータ及び液滴吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る静電アクチュエータは、振動板と、振動板にギャップを隔てて対向する個別電極とを有し、振動板と個別電極との間に駆動電圧を印加することにより振動板を静電吸引力により変形させる静電アクチュエータであって、振動板と個別電極との距離が、個別電極の中央部よりも個別電極の外周部側で長くなる構成としたものである。
これにより、振動板外周部と個別電極外周部との間に発生する静電吸引力を弱めることができ、振動板の個別電極に対する当接幅を、個別電極中央部の幅よりも狭くなるように静電吸引力を制御することができる。その結果、振動板外周部に応力が集中して振動板破壊が生じるのを防止することができる。また、個別電極外周部の作用により、振動板の変形量を最大化することができる。
【0010】
また、本発明に係る静電アクチュエータは、個別電極の外周部の膜厚が、個別電極の中央部に比べて薄くなるようにしたものである。
このようにして、振動板と個別電極との距離を、個別電極の中央部よりも個別電極の外周部側で長くする構成とすることができる。
【0011】
また、本発明に係る静電アクチュエータは、振動板と対向する位置に凹部が形成され、その凹部の底面に個別電極が形成された電極基板を備え、凹部の底面中央部に凸部を形成し、凸部を含む凹部の底面に個別電極が一定の厚みで形成されているものである。
これにより、振動板と個別電極との距離を、個別電極の中央部よりも個別電極の外周部側で長くする構成とすることができる。また、振動板を有する基板(キャビティ基板)と電極基板とを接合する際に、振動板と個別電極中央部との位置あわせが容易となり、精度良く組み立てることが可能となる。
【0012】
また、本発明に係る静電アクチュエータは、個別電極の外周部の膜厚が、個別電極の中央部から個別電極の外周部に向かって連続して薄くなるように形成したものである。
これにより、振動板の個別電極に対する当接幅を、より確実に個別電極中央部の幅と等しくなるようにすることができ、振動板の変形量を最大化することが可能となる。
【0013】
また、本発明に係る静電アクチュエータは、個別電極の外周部に周状の凹部を有し、凹部の内側が個別電極の中央部となっているものである。
このような構造としても、振動板破壊を防止し、振動板の変形量を更に最大化できる。
【0014】
また、本発明に係る静電アクチュエータは、個別電極の中央部の外周端と振動板の固定端部との平面方向の距離と、個別電極の中央部と振動板との距離とが、駆動時に振動板の破壊が生じない寸法に設定されているものである。
これにより、振動板の所定の変形量をより低電圧で確保しつつ、高い駆動周波数で駆動可能な静電アクチュエータを構成することができる。
【0015】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、液滴を吐出するための複数のノズル孔と、各ノズル孔に連通して設けられて液滴に圧力を加えるための圧力室と、圧力室に液滴を供給する液滴供給路と、上記の何れかの静電アクチュエータとを備え、静電アクチュエータで圧力室に圧力を加えることによりノズル孔から液滴を吐出するものである。
これにより、液滴吐出量を確保しつつ高い駆動周波数で駆動可能な液滴吐出ヘッドを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施の形態1の静電アクチュエータを備えたインクジェットヘッドの分解斜視図。
【図2】図1のインクジェットヘッドの断面図。
【図3】図1の個別電極の平面図。
【図4】静電アクチュエータの幅方向(凹部9の短辺方向)の拡大断面図。
【図5】静電アクチュエータの振動板の動作説明図。
【図6】実施の形態2の静電アクチュエータの要部拡大断面図。
【図7】実施の形態3の静電アクチュエータの要部拡大断面図。
【図8】実施の形態4の静電アクチュエータの要部拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施の形態1.
以下、本発明の静電アクチュエータを備えた液滴吐出ヘッドを図面に基づいて説明する。ここでは、液滴吐出ヘッドの一例として、インクジェットヘッドについて図1乃至図3を参照して説明する。なお、ここではノズル基板の表面に設けられたインクノズルからインク液滴を吐出するフェイス吐出型のインクジェットヘッドについて図1乃至図3を参照して説明する。また、本発明は、以下の図に示す構造、形状に限定されるものではなく、ノズル基板の端部に設けられたインクノズルからインク液滴を吐出するエッジ吐出型のインクジェットヘッドにも適用できるものである。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態1に係るインクジェットヘッドを分解して表した図で、要部を拡大して示している。図2(a)は、図1のインクジェットヘッドの長手方向の断面図、図2(b)は、図1のインクジェットヘッドの短手方向の要部断面図である。また、図3は、図1の個別電極の平面図である。
本実施の形態のインクジェットヘッドは、キャビティ基板1と、電極ガラス基板2と、ノズル基板3とが積層された三層構造となっている。
【0019】
以下、各基板の構成を更に詳しく説明する。
キャビティ基板1は例えば厚さ約50μmの(110)面方位のシリコン単結晶基板(以下、単にシリコン基板という)で構成されている。シリコン基板に異方性ウェットエッチングを施すことにより、底壁が振動板4となる圧力室5、各ノズル共通に吐出する液体を溜めておくためのリザーバ6が形成されている。また、キャビティ基板1には電極端子7が形成され、図2に示す発振回路11と接続される。ここで、キャビティ基板1の下面(電極ガラス基板2と対向する面)には、絶縁膜8が形成される。この絶縁膜8は、本例ではTEOS(Tetraethyl orthosilicate Tetraethoxysilane:テトラエトキシシラン、珪酸エチル)膜0.1μmでプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法により成膜している。これは、インクジェットヘッドを駆動させた時の絶縁膜破壊及び短絡を防止するためである。
【0020】
振動板4は、高濃度のボロンドープ層で構成されている。このボロンドープ層は、ボロンを高濃度(約5×1019atoms/cm3以上)にドープして形成されており、例えばアルカリ性水溶液で単結晶シリコンをエッチングしたときに、エッチング速度が極端に遅くなるいわゆるエッチングストップ層となっている。そして、ボロンドープ層がエッチングストップ層として機能することにより、振動板4の厚み及び圧力室5の容積を高精度で形成することができるようになっている。
【0021】
電極ガラス基板2は厚さ約1mmであり、図1で見るとキャビティ基板1の下面に接合される。ここで電極ガラス基板2となるガラスにはホウ珪酸系の耐熱硬質ガラスを用いることにする。電極ガラス基板2には、キャビティ基板1に形成される各圧力室5に対向する位置に凹部9が設けられる。この凹部9は、短辺と長辺を有する長方形状に形成され、本例では、凹部9の長辺方向の底面が長辺方向の中央部に向かうに従って深さが深くなる階段状に形成されている。また、凹部9の底面には、個別電極10が形成され、振動板4と個別電極10との間に本例では3段の階段状のギャップ(空隙)Gを形成している。このような階段状とすることで、振動板4の変位量を増加させてインク液滴の吐出エネルギーを増加させ、吐出特性を安定させることが可能となる。
また、ここでは、振動板4と、振動板4に一定距離(ギャップG)を隔てて対向配置された個別電極10とで静電アクチュエータが構成されており、振動板4と個別電極10との間に電圧を印加することにより発生する静電気力によって振動板4を変位させるようにしている。
【0022】
本例の個別電極10は、中央部10aとその外側の外周部10bとを有しており、振動板4と個別電極10との距離が、個別電極中央部10aよりも個別電極外周部10b側で長くなるように構成されている。すなわち、個別電極外周部10bの膜厚が個別電極中央部10aの膜厚に比べて薄く形成されている。このようにすることにより、動作時の振動板4の破壊を防止するとともに、インク液滴の排除体積を最大化することを可能としている。この点に関しては、以下の動作説明で詳述する。
【0023】
また、電極ガラス基板2には、階段状の凹部9から電極ガラス基板2の端部まで延びる深さ約0.24μmの凹部9Aが形成されており、凹部9Aの底面には、個別電極10から延びるリード部110a及び端子部110bが形成されている(以下、個別電極10、リード部110a、端子部110bを合わせて電極部と呼ぶ)。端子部110bは、図2に示すように、配線のためにキャビティ基板1の末端部が開口された貫通穴21内に露出しており、FPC(Flexible Print Circuit)(図示せず)を介して発振回路11に接続されている。発振回路11は、端子部110bを介して個別電極10に電荷の供給及び停止を制御する。また、ギャップGの開放端部には封止材12が充填されており、個別電極10単位で封止が行われるようになっている。このように封止を行うことにより、振動板4の底面や個別電極10の表面に水分が付着するのを防止し、水分付着に起因した電極と振動板4の貼り付き等の防止を図っている。
【0024】
本例では、凹部9の底面に形成する電極部の材料として、酸化錫を不純物としてドープした透明のITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)を用い、凹部9内に例えば0.1μmの厚さにスパッタ法を用いて成膜する。したがって、絶縁膜8と個別電極10との間に形成されるギャップGは、この凹部9の深さ及び電極部の厚さにより決まることになる。ここで、電極部の材料はITOに限定するものではなく、クロム等の金属等を材料に用いてもよいが、本実施の形態では、透明であるのでギャップGが均一に形成できているかどうかの確認が行い易い等の理由でITOを用いることとする。また、電極ガラス基板2には、リザーバ6と連通するインク供給口13が設けられている。
【0025】
ノズル基板3は例えば厚さ約180μmのシリコン基板で構成されており、圧力室5と連通するノズル孔14が形成されている。また、ノズル基板3の図1において下面(キャビティ基板1と接合される接合側の面)には、圧力室5とリザーバ6とを連通させるためのオリフィス15が形成されている。また、ノズル基板3の両端には、キャビティ基板1に形成されているリザーバ6に対向してリザーバ6内の圧力変動を抑制するダイアフラム16が形成されている。
【0026】
これらキャビティ基板1、電極ガラス基板2及びノズル基板3は、図2に示すように貼り合わせることによりインクジェットヘッドの本体部が作製される。すなわち、キャビティ基板1と電極ガラス基板2は陽極接合により接合され、そのキャビティ基板1の上面(図2において上面)にノズル基板1が接着等により接合される。さらに、上述したように、振動板4と個別電極10との間に形成されるギャップGの開放端部が封止材12で封止され、インクジェットヘッドの本体部が作製される。
【0027】
上記のように構成されたインクジェットヘッドの動作を説明する。
発振回路11は例えば24kHzで発振し、個別電極10に0Vと30Vのパルス電位を印加して電荷供給を行う。このように発振回路11が駆動し、振動板4と個別電極10の間に電圧を印加すると、それぞれの間で電界が発生し、その電界による静電吸引力により振動板4は個別電極10に引き寄せられて撓む。これにより圧力室5の容積は広がる。そして個別電極10への電荷供給を止めると振動板4は元に戻る。このとき、圧力室5の容積も元に戻るため、その圧力により差分のインク液滴が吐出し、例えば記録対象となる記録紙に着弾することによって記録が行われる。
次に、ノズル孔14でのメニスカスがインクの表面張力によって再び待機位置に戻ることにより、インクがリザーバ6よりオリフィス15を通じて圧力室5内に補給される。また、インクジェットヘッドへのインクの供給は、電極ガラス基板2上に形成したインク供給口13により行う。
【0028】
ここで、本例の静電アクチュエータの特徴部分の構成について詳細に説明する。図4は、静電アクチュエータの幅方向(凹部9の短辺方向)の拡大断面図である。
【0029】
振動板4は、個別電極10との間に発生する静電吸引力により、圧力室5の両側壁を固定端とした両端固定の梁として変形する。振動板4の変形により振動板4に生ずる応力は、それぞれの両端固定部で最大となる。梁としての振動板4の変形量(変位)はg1(個別電極中央部10aと振動板4との距離)で決まるため、発生する最大の応力はg1に依存する。また、振動板4が静電吸引力により撓んで個別電極10と当接するときの当接幅は、個別電極中央部10aの幅b1が関係してくる。すなわち、この幅b1と振動板4の幅b2の差を小さくすると(つまり振動板4の両端固定部と個別電極中央部10aの周辺端部10aaとの距離であって、振動板外周部4bの幅Δ2を狭くすると)振動板4に対する静電吸引力も大きくなり、振動板4の固定端(振動板外周部4b)に作用する応力も大きくなる(図5参照)。従って、本例では、振動板4の最大応力がその材料の破壊応力を超えないように、これらg1およびΔ2が設定されている。
【0030】
また、本例の静電アクチュエータにおいて、個別電極10は、個別電極外周部10bと振動板4とが、個別電極中央部10aに比べて更にg2だけギャップGが広がるように設けられている。さらに、個別電極中央部10aの幅b1は、振動板4の幅b2よりも幅方向両端部(長手方向両端部でも同様)でΔ2だけ狭く形成されている。また、電極ガラス基板2の凹部9の幅b4が振動板幅b2よりも広く形成され、個別電極10全体の幅b3が、振動板4の幅b2よりも幅方向両端部(長手方向両端部でも同様)でΔ1だけ広く形成されている。これらの理由については、以下に詳述する。
【0031】
ここで、上記のように構成した静電アクチュエータの振動板4の動作について考える。
図5は、静電アクチュエータの振動板の動作説明図である。
振動板4は、上述したように、個別電極10との間に発生する静電吸引力により変形し、個別電極10に当接する。この時、振動板4は、まず、振動板中央部4aで個別電極10と接触する。その接触した付近は電界が集中し、より強い吸引力が発生するため、振動板4は、振動板中央部4aから更に外側へと当接幅が広がっていく。ここで、当接幅が広がり過ぎると、振動板外周部4bに必要以上の応力が作用し、振動板破壊が生じるが、本例の構造によれば、以下の動作となり、破損を防止できるようになっている。
【0032】
すなわち、振動板4の当接が個別電極中央部10aの外周端10aaに及ぶと、ギャップg2(図4参照)の作用により、すなわちギャップg2分だけ個別電極外周部10bの膜厚が個別電極中央部10aに比べて薄くなることにより、振動板外周部4bに作用する電界が弱まる。このため、振動板4の当接幅の拡大が止まる。すなわち、振動板4の当接幅は、個別電極中央部10aの幅b1により規制され、最大でも個別電極中央部10aの幅b1以下となり、必要以上に当接幅が広がることはない。したがって、この幅b1を振動板4の幅b2に対して適切に設定することにより、振動板破壊を防止することができる。
【0033】
また、ギャップg2の作用により電界は弱まるものの、個別電極外周部10bと振動板4との間には電界自体は作用している。このため、図5の矢印に示すように振動板外周部4bに対して静電吸引力が作用し、振動板4の剛性と、電界による静電吸引圧力が釣り合うまで振動板4の撓みが図5の点線aで示すように拡大する。すなわち、個別電極10を、個別電極外周部10bを設けず、個別電極中央部10aのみの構成とした場合に比べて、振動板4の未当接部(外周部4b)を個別電極10側に更に撓ませることができる。したがって、確実に振動板4の個別電極10への当接幅を個別電極中央部10aの幅b1と等しくなるように安定化させて振動板4の変形量を最大化することができ、インク液滴の排除体積を最大化することができる。
【0034】
ここで、g2の設定は、振動板4の未当接部(外周部4b)が十分に変形して排除体積を確保すると共に、振動板4が必要十分に撓んで個別電極中央部10aにて全面当接するように設定すればよい。さらに、本例では、個別電極10全体の幅b3が、振動板4の幅b2よりも幅方向両端部(長手方向両端部でも同様)でΔ1だけ広く形成されているが、これは、振動板4と個別電極10との製造上の位置ズレにより振動板4と対向する部分に個別電極10が存在しないことが無いようにするためである。すなわち、振動板4と対向する部分に個別電極10が存在せず、凹部9の底面が露出していると、キャビティ基板1と電極ガラス基板2とを陽極接合する際に、その露出部分と振動板4とが陽極接合されてしまうためである。
【0035】
なお、ここでは、振動板4の幅方向を代表して構成及び動作説明を行ったが、振動板4の幅方向と直交する方向についても同様である。すなわち、本例では、凹部9を階段状としており、階段の深さが一番浅い部分上に形成された個別電極10部分において、図2(a)に示すように、振動板4と個別電極10との距離が、個別電極中央部10aの外周端10aaよりもその外側の外周部10b側で長くなる構成となっている。なお、凹部9は、このように階段状とした形状に限られたものではなく、単純な凹状としても良い。
【0036】
以上説明したように、本実施の形態1によれば、個別電極10と振動板4との距離を、個別電極外周部10bの方が、個別電極中央部10aに比べて長くなる構造としたので、振動板外周部4bと個別電極外周部10bとの間に発生する静電吸引力を弱めることができ、振動板外周部4bに応力が集中して振動板破壊が生じるのを防止することができる。
【0037】
また、本例の構造によれば、振動板4が個別電極10に当接した際の当接幅が個別電極中央部10aの幅b1に制限されるため、振動板4の幅b2に対する個別電極中央部10aの幅b1と、個別電極中央部10aと振動板4との間のギャップg1とを適切に設定することにより、振動板4の固定端で発生する応力を制限でき、振動板4の破壊を防止することができる。
【0038】
また、個別電極外周部10bの作用により、振動板外周部4bとの間に静電吸引力を働かせることができ、個別電極外周部10bを設けなかった場合に比べて、振動板4を更に撓ませることができる。これにより、振動板4の変形量を最大化し、インク液滴の排除体積を最大化することができる。
【0039】
このように、振動板破壊を起こすことなく、振動板4の変形量を最大化することが可能となるため、インク液適量を確保しつつ高い駆動周波数で駆動可能な液滴吐出ヘッドを得ることができる。
【0040】
また、振動板4と対向する電極ガラス基板2の凹部9全体に個別電極10を形成した構造であるので、キャビティ基板1と電極ガラス基板2とを陽極接合する際に、振動板4が凹部9に陽極接合されてしまう(貼り付いてしまう)のを防止することができる。
【0041】
実施の形態2.
図6は、実施の形態2の静電アクチュエータの要部拡大断面図で、ここでは、凹部9の短辺方向の断面図を示している。
実施の形態1では、個別電極10の厚みを個別電極外周部10b側で減らすことにより、個別電極外周部10bと振動板4との距離を個別電極中央部10aと振動板4との距離に比べて長くなるようにしたが、実施の形態2では、電極ガラス基板2の凹部9の底面中央に凸部210を設け、その凸部210を有する凹部9の底面に、一定の厚みで個別電極211を形成するようにしたものである。個別電極211には、実施の形態1と同様のITOが用いられ、凹部9内に例えば0.1μmの厚さにスパッタ法を用いて成膜することにより形成される。
【0042】
このように構成することにより、実施の形態1と同様の作用効果が得られるとともに、個別電極中央部211aの幅及び位置が、凸部210の幅及び位置により決まるため、キャビティ基板1と電極ガラス基板2とを接合する際に、より振動板4と個別電極中央部211aとの位置あわせが容易となり、精度良く組み立てすることが可能となる。すなわち、キャビティ基板1と電極ガラス基板2との接合は、凹部9と振動板4とが対向するように接合する必要があり、元々精度良く組み立てられるようになっている。具体的には、キャビティ基板1に圧力室5を形成するのと同時に形成した位置合わせマークと、電極ガラス基板2に凹部9を形成するのと同時に形成した位置合わせマークとを合わせて組み立て(接合)られている。このため、凸部210及び個別電極中央部211aは、組立精度の高い凹部9内に対して位置合わせして形成されるため、個別電極中央部211aと、振動板4との位置合わせも容易となる。
【0043】
実施の形態3.
図7は、実施の形態3の静電アクチュエータの要部拡大断面図で、ここでは、凹部9の短辺方向の断面図を示している。
図7に示す静電アクチュエータは、図5に示した静電アクチュエータのように振動板外周部4bと個別電極外周部10bとの距離を急激な段差を以て長くするようにしたのに代えて、徐々に長くなるようにしたものである。すなわち、個別電極310において、個別電極外周部310bの膜厚を、その内側の個別電極中央部310aから個別電極外周部310bに向かって連続して薄くなるように形成したものである。これにより、実施の形態1と同様に、振動板4の動作時の当接幅を、個別電極中央部310aで制限することができるとともに、必要最大限まで振動板4を撓ませることが可能となる。すなわち、振動板4に作用する静電吸引力が、個別電極中央部310aから個別電極外周部310bに向かうにしたがって急激に弱くなるのではなく、徐々に弱くなるため、図5の構造に比べて振動板4の当接幅を、より確実に個別電極中央部310aの幅と等しくなるようにすることができ、インク液滴の排除体積を最大化することが可能となる。
【0044】
なお、同構成を形成する場合、個別電極310をウエットエッチング等により一定の厚みで形成した後、個別電極外周部310bを、RIEや不活性ガスによる逆スパッタ等のドライエッチングにより、徐々に薄くなるように形成すればよい。ドライエッチングによるサイドエッチングの作用により、上記形状を容易に形成することができる。
【0045】
実施の形態4.
図8は、実施の形態4の静電アクチュエータの要部拡大断面図で、ここでは、凹部9の短辺方向の断面図を示している。
図8に示す静電アクチュエータは、図6に示した静電アクチュエータに対して、更に、振動板4の変形量を大きくしてインク液滴の排除体積を大きくすることができるよう工夫したもので、振動板4との距離が一定に形成された個別電極410の表面において、個別電極410の外周部に周状の凹部410bを形成した構造を有している。個別電極410の個別電極中央部410aの幅は、上記実施の形態1と同様に、振動板破壊が生じない所定の当接幅となるようにその幅が設定されている。振動板動作時の当接幅の設定は、個別電極中央部410aの外周側に設けられた凹部410bの位置と深さの設定により行う。
【0046】
このように構成された静電アクチュエータでは、当接時の振動板4と個別電極410との間の電界の集中が、この凹部410bによって緩和され、振動板4の当接幅の拡大は制御(抑止)される。したがって、振動板外周部4bに対する応力の集中が防止され、振動板4の破壊を防止することができる。また、個別電極中央部410aの外周側に設けられた凹部410b及びその最端部410cによって発生される電界の吸引力により、未当接となる振動板4の外周部4bの変位を未当接のまま拡大することができる。これにより、振動板4の排除体積(撓み)を更に最大化することができる。更に、凹部410bをより深く形成すれば、ギャップG内の圧縮空気による振動板4の撓みの阻害を、緩和、回避することも可能となる効果を有する。
【0047】
なお、上記各実施の形態中にて静電アクチュエータの絶縁膜8を、振動板4の個別電極10側の表面にシリコン酸化膜にて形成したが、絶縁膜形成個所は、この他に、個別電極10の表面でもよい。また、絶縁膜材質としては、酸化アルミニウムや酸化ハフニウム等を用いても良い。
【0048】
また、本発明に係る静電アクチュエータは、液晶表示装置のカラーフィルタ製造装置や有機EL表示装置の発光部分形成装置に用いられるヘッドの駆動手段としての応用が可能である。そして、本発明に係る静電アクチュエータをこれらの装置に適用することにより、これら装置の小型化や高密度化、製造スループット向上による品質向上、生産性向上を可能とする。また、プロジェクタスキャンミラー、レーザープリンタ用のスキャンミラー用の静電アクチュエータへの応用も可能で、変位角の大きな微少ミラー装置を提供し、消費電力が小さくて効率良く駆動可能なプロジェクタやレーザープリンタの駆動部を提供できる。
【符号の説明】
【0049】
1 キャビティ基板、2 電極ガラス基板、3 ノズル基板、4 振動板、4a 振動板中央部、4b 振動板外周部、5 圧力室、9 凹部、10 個別電極、10a 個別電極中央部、10aa 外周端、10b 個別電極外周部、14 ノズル孔、210 凸部、211 個別電極、211a 個別電極中央部、310 個別電極、310a 個別電極中央部、310b 個別電極外周部、410 個別電極、410a 個別電極中央部、410b 個別電極凹部、410c 最端部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板と、前記振動板にギャップを隔てて対向する個別電極とを有し、前記振動板と前
記個別電極との間に駆動電圧を印加することにより前記振動板を静電吸引力により変形さ
せる静電アクチュエータであって、
前記振動板と前記個別電極との距離が、前記個別電極の中央部よりも前記個別電極の外
周部側で長くなっており、
前記個別電極の外周部の膜厚が、前記個別電極の中央部に比べて薄くなっていることを
特徴とする静電アクチュエータ。
【請求項2】
振動板と、前記振動板にギャップを隔てて対向する個別電極とを有し、前記振動板と前
記個別電極との間に駆動電圧を印加することにより前記振動板を静電吸引力により変形さ
せる静電アクチュエータであって、
前記振動板と前記個別電極との距離が、前記個別電極の中央部よりも前記個別電極の外
周部側で長くなっており、
前記振動板と対向する位置に凹部が形成され、該凹部の底面に前記個別電極が形成され
た電極基板を備え、前記凹部の底面中央部に凸部を形成し、該凸部を含む前記凹部の底面
に前記個別電極が一定の厚みで形成されていることを特徴とする静電アクチュエータ。
【請求項3】
振動板と、前記振動板にギャップを隔てて対向する個別電極とを有し、前記振動板と前
記個別電極との間に駆動電圧を印加することにより前記振動板を静電吸引力により変形さ
せる静電アクチュエータであって、
前記振動板と前記個別電極との距離が、前記個別電極の中央部よりも前記個別電極の外
周部側で長くなっており、
前記個別電極の外周部の膜厚が、前記個別電極の中央部から前記個別電極の外周部に向
かって連続して薄くなっていることを特徴とする静電アクチュエータ。
【請求項4】
前記振動板の幅と、前記個別電極中央部の幅と、前記個別電極の中央部と前記振動板と
の距離とが、駆動時に前記振動板の破壊が生じない寸法に設定されていることを特徴とす
る請求項1乃至請求項3の何れかに記載の静電アクチュエータ。
【請求項5】
液滴を吐出するための複数のノズル孔と、該各ノズル孔に連通して設けられて液滴に圧
力を加えるための圧力室と、該圧力室に液滴を供給する液滴供給路と、請求項1乃至請求
項4の何れかに記載の静電アクチュエータとを備え、該静電アクチュエータで前記圧力室
に圧力を加えることにより前記ノズル孔から液滴を吐出することを特徴とする液滴吐出ヘ
ッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−28175(P2013−28175A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−216069(P2012−216069)
【出願日】平成24年9月28日(2012.9.28)
【分割の表示】特願2007−133799(P2007−133799)の分割
【原出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】