説明

静電型スピーカ

【課題】音響透過率と有効電極面積を同時に一定の基準を満たす静電型スピーカを提供する。
【解決手段】本発明の静電型スピーカ(1)は、一の好ましい態様において、静電力によって変位可能な振動膜(10)と、前記振動膜に対向して設けられ導電性不織布で構成される電極(20L、20R)と、前記振動膜と前記電極との間に設けられる緩衝部材(30L、30R)と、前記平面電極を前記振動膜の振動方向に支持する支持部(40L、40R)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電型スピーカの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
静電型スピーカ(コンデンサスピーカ)といわれるスピーカが知られている。静電型スピーカは、その構造が比較的簡易であるため、軽量、コンパクトに設計することができるという点、および理論的な取り扱いも簡単であるという点などにおいて注目されている。静電型スピーカは、典型的には、空隙を隔てて向かい合う2枚の平行平面電極と、電極の間に挿入されその両端等を筐体等に支持された導電性のシート状の部材(以下、振動板または振動膜という)とから構成される(いわゆるプッシュ・プル型)。振動膜に所定のバイアス電圧を印加しておき、電極に印加する電圧を変化させると、振動膜に作用する静電力は変化し、これにより振動膜は変位する。この印加電圧を入力楽音信号に応じて変化させれば、それに応じて振動膜は変位を繰り返し(すなわち振動し)、入力楽音信号に応じた音響波が振動膜から発生する。発生した楽音は、例えば金属板電極に空けられた孔やその他の多孔質層を通り抜けて外部へ放音される(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2002−513263号公報 (図1等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電極として、例えば金属板に多数の貫通孔を形成したもの(いわゆるパンチングメタル)や、多孔質性材料を用いた場合、孔が全く無い場合に比べ、極板間に発生させる電場に寄与する部分(有効電極面積)が減少することになり、この結果、電極間の静電容量が低下して、印加電圧が同じでも振動膜に作用させる力(駆動力)が減少する(以下、有効電極面積の大きさを静電スピーカの静電容量性能という)。電極と振動膜との距離を大きくすれば、孔の影響は相対的に小さくなるが、スピーカのサイズが大きくならざるを得ないし、振動膜と電極との間の距離が大きくなると振動膜に作用する静電量が小さくなるため、音圧を維持するために印加電圧を多くする必要があるなるなどのデメリットがある。また、孔の大きさや数を小さくすることによっても孔の影響を小さくすることはできるが、この場合は音響透過性能が悪化する。
【0005】
このように、従来の静電型スピーカにおいては、音響透過性能と静電容量性能の両立を図ることが困難であった。そこで、本発明は、音響透過率と有効電極面積を同時に一定の基準を満たす音響素子、および静電型スピーカを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、一の好ましい態様において、静電力によって変位可能な振動膜と、前記振動膜に対向して設けられ導電性不織布で構成される電極と、前記振動膜と前記電極との間に設けられる緩衝部材とを有する静電型スピーカを提供する。
【0007】
本発明は、他の好ましい態様において、静電力によって変位可能な振動膜と、前記振動膜に対向して設けられ網状構造を有する電極と、前記振動膜と前記電極との間に設けられる緩衝部材とを有する静電型スピーカを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る静電型スピーカによれば、音響透過性能と静電容量性能の両者に関して一定の基準が満たされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】静電型スピーカ1の外観斜視図である。
【図2】静電型スピーカ1の断面図である。
【図3】静電容量特性についての実験データである。
【図4】音響透過特性についての実験データである。
【図5】静電型スピーカ2の断面図である。
【図6】金網電極40の詳細図である。
【図7】静電容量特性についての実験データである。
【図8】静電型スピーカ3の断面図である。
【図9】支持部材50の構造の一例を説明するための図である。
【図10】支持部材50の構造の他の例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施例1>
図1は、本発明の一実施例に係る静電型スピーカ1の大略構造の斜視図である。同図に示すように、静電型スピーカ1には、振動膜10と、これに対向する2つの平行平面電極(以下、単に電極という)20Lおよび20Rと、振動膜10および電極20L、20Rの間にそれぞれ設けられたクッション材30L、30Rとから大略構成される。同図では、電極20L、20Rの電極面がX方向およびY方向に固定されており、振動膜10がこの電極面に垂直なZ方向に振動することができる配置の例を示している。なお、以下、電極20Lと20Rの構造を同じであるので、両者を区別する必要が特に無い場合は「L」および「R」を省略することとする。「L」および「R」の省略については、他の構成要素についても同様である。
【0011】
また、静電型スピーカ1は、図示せぬ電源から、所望の電圧がそれぞれの電極20に印加されるとともに、振動膜10上にバイアス電圧を印加される。電極20への給電方法については従来技術を採用することができるため、給電に関係する構成要素は図示を省略している。静電型スピーカ1は、更に、外部から音声信号を入力する入力部を備え、この音声信号に応じて印加電圧の値を変化させることにより、振動膜10に音声信号に応じた振動をさせることができるようになっている。振動膜10の振動によって発生した音波は、少なくとも一方の電極20を通り抜けてスピーカ外部に放音される。図面が煩雑になるのを防ぐため、音声信号生成や供給を行う構成要素についても、図示を省略している。
【0012】
振動膜10は、例えば、PET(polyethylene terephthalate、ポリエチレンテレフタレート)、PP(polypropylene、ポリプロピレン)などのフィルムに金属膜を蒸着あるいは導電性塗料を塗布したものであって、例えば厚さ数ミクロン〜数十ミクロン程度の導電性の板状(膜状)部材である。あるいは、金属薄膜をラミネートしたものや、絶縁性フィルムに高電圧をかけて分極されたものであってもよい。また、振動膜10は、塩化ビニル、アクリル(メチルメタアクリレート)、ゴム等の絶縁材料により形成された固定手段(図示せず)において、所定の張力が振動膜10に作用している状態で、例えばその縁の一辺が静電型スピーカ1の筐体(図示せず)に支持されていてもよいし、このような支持部を設けず、クッション材30Lおよび30Rの作用で支持されるような構成であってもよい。
【0013】
電極20は、その電極面の形状が正方形であり、静電型スピーカ1の筐体(図示せず)に固定される。このとき、振動膜10から両電極20L、20Rまでの距離d(例えば0.1〜10mm程度)が等しくなるように配置される。換言すれば、対向する電極のちょうど中間の位置が、振動膜10(正確には、信号が入力されていないときの状態である無変位状態における振動膜10)の固定位置となる。なお、電極面の形状は正方形に限らず、例えば長方形や円形などであっても構わない。
【0014】
図2は、静電型スピーカ1の電極面に垂直な方向の断面図であり、この図を用いて電極20の詳細な構造を説明する。電極20は、不織布層201および導電層202からなる。導電層202は、不織布層201の表面全面に亘って形成されるものであり、例えば不織布層201にアルミニウム等の金属をスパッタリングすることによって生成される。あるいは、不織布層201に金属印刷を行ってもよい。あるいは、不織布層201に導電性塗料を塗布してもよい。
【0015】
ここで、不織布とはポーラス(多孔質)の構造繊維を持つ繊維であって、シート状の形状を有するものである。例えば、一定方向やランダムに集積して接着樹脂で化学的に結合させたり、機械的に絡ませたり、圧力をかけた水流で絡ませたり、熟融着繊維で結合させて作られる。本発明においては、孔のない平板電極を用いた場合と比べて静電容量が実質的に同じにとなるように、且つ空気透過性(すなわち音響透過性能)がパンチングメタル(以下、PM)を用いて電極を構成した場合と比べて高い構造を有する不織布を用いる。例えば、目付40g/m^2、厚み0.1mm、繊維径2デニールのものが好適である。ただし、本実施例に係る不織布は上記の値で特定される構造を有する物に限定されず、これ以外の値を有する構造のものを使用することができる。以下、静電容量性能および音響透過性能のそれぞれの観点から、好適な不織布の構造について更に説明する。
【0016】
クッション材30は、絶縁性材料から構成され、例えば、スポンジ、シート状の綿、絶縁性の不織布である。クッション材30を挿入することにより、振動膜10を筐体に対して支持し、または適度な弾性応力を振動膜10に対して付与することが可能である。その機械的性質等は特に限定されないが、電極20の空気透過性よりも大きい空気透過性を有するものであって、例えば空気透過率95%以上ものが好ましい。
【0017】
(1)静電容量性能
図3は、金属で構成された一対の平行平面電極(孔が開いていないもの)で測定した静電容量を1(100%)とした場合に、片方の電極を同面積の上記例示した値の構造の不織布を用いた不織布を用いた電極(以下、不織布電極という)で置き換えて測定した静電容量の値と、幾つかの孔径および開孔率を有するPMで置き換えて測定した静電容量の値を、電極間隔とともに示したものである。図中、Aは不織布電極で置き換えた場合のデータを示し、E〜Iは、孔径、開口率がそれぞれ{2mm、20%}、{2mm、40%}、{3mm、40%}、{6mm、40%}、{8mm、40%}のPMで置き換えた場合のデータを示す。同図から判るように、PMを用いた場合、電極間距離を小さくしていくと静電容量は著しく減少する。これは、上述したように、電極間距離が小さくなると孔の影響が大きくなるからである。これに対し本実施例に係る不織布電極を用いた場合、電極間距離を小さくしても静電容量の落ち込みがみられず、ほぼ一定の値(約100%)をとっており、金属で構成された平面電極の場合と実質的に同等の静電容量性能を有するといえる。
【0018】
(2)音響透過性能
図4は、一般的なスピーカと、そこから所定の距離離れた場所に当該スピーカから放音された音の周波数特性を解析する測定器を設置し、スピーカと測定器との間にPMを置いて測定を行った場合と、本実施例に係る不織布電極を置いて測定を行った場合に測定器で得られた周波数特性のずれ具合(音響波の歪み具合)を比較したものである。図中、PM(1)〜(3)はそれぞれ孔径を8mm、2mm、2.5mmのPMを置いた場合のデータであり、NWは不織布電極を置いた場合のデータである。スピーカと測定器との間に何も遮蔽物が無ければ、スピーカで放音された音と測定器の周波数特性は実質的に一致するので、得られるデータは周波数によらずゼロとなる。すなわち、ゼロからのずれが小さいほど音響透過性能が優れているといえる。遮蔽物としてPMを用いた場合、音波がPMを透過する際の影響で周波数帯によって測定器に到達までに音響波が歪められていることが判る。一方、遮蔽物として不織布電極を用いた場合、多少の歪みは測定されているが、PMの場合に比べれば、音圧レベルにおいて総じて1/3〜1/4程度となっている。このように、本実施例に係る不織布で構成された電極20は、一般的なPMに比べて音響透過性能の点で優れているといえる。
【0019】
<実施例2>
図5は、本発明の他の実施例に係る静電型スピーカ2の断面図である。静電型スピーカ2が静電型スピーカ1と異なる点は、電極20Rおよび20Lに替えて電極40Rおよび40Lを用いる点である。
図6は、電極40の構造の詳細を示したものである。同図に示すように、電極40は金属等の導電性材料で形成された格子である。例えば、JIS規格G3555、3556等の織金網であって、メッシュ♯20〜#500のものを用いることができる。ここで、メッシュとは一辺における25.4mm間の目数をいう。
図7は、一対の平行平面金属電極(孔が開いていないもの)で測定した静電容量を1(100%)とした場合に、片方の電極を同面積の上記例示した値の構造の金網を用いた不織布を用いた電極(金網電極という)で置き換えて測定した静電容量の値(有効静電容量という)と、幾つかの孔径および開口率を有するPMで置き換えて測定した静電容量の値を、電極間隔とともに示したものである。図中、B〜Dはそれぞれ金網電極で置き換えた場合のデータを示し、E〜Iについては、図3で示したPMのデータと同じである。同図から判るように、本実施例に係る金属電極を用いた場合、電極間距離を小さくしても静電容量の落ち込みはPMを用いた場合に比べて僅かである。例えば、電極間隔を1mmにしても95%以上の有効静電容量を得ることができる。
例えばメッシュ♯40、線径0.16mmの平織の金網を用いた場合、音響透過性能に影響する空間率(PMにおける開孔率に相当)は、約40%となる。すなわち、本実施例に係る電極40を用いれば、PMと同等の音響透過性能を実現しつつ、同程度の開孔率を有するPMより高いも静電容量性能が得られる。
なお、電極40に用いる金網としては、例えばオーディオ用スピーカとして用いる場合に音響透過性能を実質的に悪化させないような空間率(例えば20〜50%)であれば、織り方、線径、目合い、材質については任意のものを用いることができる。
【0020】
<その他の実施例>
図8は、本発明に係る静電型スピーカ3の断面図を示したものである。同図に示すように、静電型スピーカ3は、静電型スピーカ1の電極20L、20Rの外側にそれぞれ支持部材50L、50Rを設けて構成される。支持部材50は、例えば金属素材で構成され、好ましくは螺旋状のスプリングに三角形の形状をしたワイヤーを巻きつけてなる、曲げた形状を保持して屈曲耐久性にも優れたいわゆるフレキシブルチューブが用いられる。また、支持部材50は筐体に固定されてもよいし、電極20に固定されても良いが、電極20に固定する場合は固定部に所定の絶縁処理が施される。
図9は、支持部材50の構造を説明するための図である。同図に示すように、支持部材50は、音響透過性能を実質的に損なわないよう格子形状をしている。この形状は、例えば上記フレキシブルチューブを編みこむことによって得ることができる。
電極20を構成する不織布が一定の柔軟性を有するもの(例えばシート状のもの)である場合、印加電圧や電極20の設置条件によってはなどの条件によっては、自身の弾性のために電極20が撓む場合がある。電極20が内側に力がかかっても、クッション材30があるために撓みをある程度抑制することができるが、外側に力がかかった場合、電極20は撓みが発生する。しかし、本実施例によれば、電極20の外側に支持部材50を用いることで、その撓みを防止することができる。
【0021】
さらに、図10に示すように、支持部材50を予め同図z方向に撓ました状態で固定しておくことも可能である。図10に示す例では、支持部材の中央が最も撓んであり、周囲にいくに従って撓みが緩やかになるように構成されている。この場合、電極20の撓み具合を所定の形状(例えば図10に示す場合のように放物面形状)に強制することができる。この撓み具合を調節することにより、電極20から放音される音響波の指向特性を制御することが可能となる。
【0022】
上記実施例においては、クッション材30を電極20と振動膜10との間に設けた例を示したが、クッション材30を省略してもかまわない。この場合、振動膜10と電極との接触を防ぐため、例えば振動膜の四隅にスペーサを設けておくのが好ましい。
【0023】
また、電極20に用いた上述した構造を有する絶縁性不織布でクッション材30を構成し、このクッション材30の外側(すなわち電極側)表面に導電層を設けてもよい。この場合、電極20を設けず、クッション材30に電極20の機能を兼ねさせることができる。
【0024】
また、実施例1において、不織布の表面に導電層が形成された電極20の例を示したが、この層の厚みは任意である。要は、本発明に係る電極を構成する不織布は上述した音響透過性能および静電容量性能を発揮する構造のものであればよく、必ずしも層構造になっている必要はない。例えば、繊維の一本一本に導電性を持たせ、不織布の内部の任意の場所で導電性を有するようなものでも構わない。
【0025】
支持部材50を設ける箇所は電極20または40の外側に限らず、内側(すなわち、振動膜10(あるいはクッション材30)と電極20または40の間)に設けてもよいし、内側と外側の両方であってもよい。
【0026】
以上説明した実施例においては、静電型スピーカの構成要素として、振動膜10、電極20または40、クッション材30および支持部材50について、特定の組み合わせのみを例示したが、これは説明の便宜上のためであり、例えばクッション材30の有無および支持部材50有無について、上述した以外の任意の組み合わせを採用することが可能である。
【0027】
また、以上説明した実施例においては対向する一対の電極20または40を用いたプッシュ・プル型の静電型スピーカの例を示したが、これに限らず、本発明に係る電極を1つのみ用いてプッシュ型の静電型スピーカを構成することも可能である。
【符号の説明】
【0028】
1、2、3・・・静電型スピーカ、10・・・振動膜、20、20L、20R、40L、40R・・・電極、・・・不織布電極、30L、30R・・・クッション材、50L、50R・・・支持部材、201L、201R・・・不織布層、202L、202R・・・導電層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電力によって変位可能な振動膜と、
前記振動膜に対向して設けられ網状構造を有する電極と、
前記振動膜と前記電極との間に設けられる緩衝部材と
を有する静電型スピーカ。
【請求項2】
前記平面電極を前記振動膜の振動方向に支持する支持部を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の静電型スピーカ。
【請求項3】
前記支持部は、前記電極との接触面が曲面である
ことを特徴とする請求項2に記載の静電型スピーカ。
【請求項4】
前記電極は、前記振動膜の両側に各々設けられる平面電極であって、
前記電極を金属で構成したときと略同等の静電容量となる
ことを特徴とする請求項1に記載の静電型スピーカ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−244479(P2011−244479A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168326(P2011−168326)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【分割の表示】特願2007−61970(P2007−61970)の分割
【原出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】