説明

静電型スピーカ

【課題】振動体のずれを少なくしつつ、振動体全体を振動させることが可能な静電型スピーカを提供する。
【解決手段】弾性部材30Uを振動体10の上面に載せ、貫通孔11内に塗布された接着剤40で弾性部材30Lの上面と弾性部材30Uの下面を接着し、弾性部材30Uと弾性部材30Lを一体化させる。ここで、接着剤40と振動体10との間には隙間ができるため、振動体10は、貫通孔11の範囲内で左右方向や奥行き方向に自由に変位できる。また、振動体10には接着剤40が塗布されてなく、振動体10は弾性部材30Uと弾性部材30Lに接着されていないため、振動体10は、弾性部材30Uと弾性部材30Lに対して上下方向で変位が拘束される箇所がなく、全面が上下に変位できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電型スピーカに関する。
【背景技術】
【0002】
柔軟性があり、折ったり曲げたりすることの可能な静電型スピーカとして、例えば、特許文献1に開示された静電型スピーカがある。この静電型スピーカは、導電性を有する2枚の導電布の間に金属膜が蒸着された振動体が位置し、この振動体と導電布の間には、弾性を有し空気の通過が可能な弾性部材が位置している。そして各部材は、各部材間に入れられた枠形の熱可塑性樹脂シートを加熱および加圧することにより接着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−100438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された静電型スピーカによれば、部材同士が拘束されていない構成と比較して部材間に生じるずれを少なくして曲げることができる。しかしながら、振動体において接着された部分は振動が拘束されるため、振動体全体を振動させる構成と比較すると、振動の効率が落ちてしまう。
【0005】
本発明は、上述した背景の下になされたものであり、振動体のずれを少なくしつつ、振動体全体を振動させることが可能な静電型スピーカを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、導電性を有する第1電極と、導電性を有し、前記第1電極に距離をおいて対向して配置された第2電極と、導電性を有し、前記第1電極と前記第2電極との間において前記第1電極および前記第2電極と距離をおいて配置され、表面から裏面に貫通した複数の貫通部を有する振動体と、前記振動体と前記第1電極との間に位置し、弾性があって音が透過する第1弾性部と、前記振動体と前記第2電極との間に位置し、弾性があって音が透過する第2弾性部と、を有し、前記振動体は、前記第1弾性部と前記第2弾性部に固着されてなく、前記第1弾性部と前記第2弾性部は前記貫通部を介して連結されていることを特徴とする静電型スピーカを提供する。
【0007】
本発明においては、前記第1弾性部は前記貫通部を通る凸部を有し、前記貫通部を通った前記凸部が前記第2弾性部に接して前記第1弾性部と前記第2弾性部が連結されている構成としてもよい。
また、本発明においては、前記貫通部内においては、前記第1弾性部と前記第2弾性部とを連結している部分と前記振動体との間に隙間がある構成としてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、静電型スピーカにおいて、振動体のずれを少なくしつつ、振動体全体を振動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る静電型スピーカ1の外観図である。
【図2】図1のA−A線断面を示した図。
【図3】振動体10の斜視図。
【図4】変形例に係る静電型スピーカ1の断面を拡大した図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態]
図1は本発明の実施形態に係る静電型スピーカ1の外観図、図2は静電型スピーカ1のA−A線断面と電気的構成を示した図である。なお、図においては、直交するX軸、Y軸およびZ軸で方向を示しており、静電型スピーカ1を正面から見たときの左右方向をX軸の方向、奥行き方向をY軸の方向、高さ方向をZ軸の方向としている。また、図中の各構成要素の寸法は、構成要素の形状を容易に理解できるように実際の寸法とは異ならせてある。
【0011】
図に示したように、この静電型スピーカ1は、振動体10、導電布20U,20L、弾性部材30U,30Lとを有している。なお、本実施形態においては、導電布20U,20Lの構成は同じであり、弾性部材30U,30Lの構成は同じであるため、各部材において両者を区別する必要が特に無い場合は「L」および「U」の記載を省略する。また、図中の振動体、導電布等の各構成要素の寸法は、構成要素の形状を容易に理解できるように実際の寸法とは異ならせてある。
【0012】
(静電型スピーカ1の各部の構成)
まず、静電型スピーカ1を構成する各部について説明する。振動体10は、例えば、PET(polyethylene terephthalate:ポリエチレンテレフタレート)、PP(polypropylene:ポリプロピレン)などのフィルムに、金属膜を蒸着あるいは導電性塗料を塗布したものであり、その厚さは、数μm〜数十μm程度の厚さとなっている。
振動体10においては、図3に示したように振動体10の表面から裏面に貫通する貫通孔11が複数設けられている。なお、本実施形態においては、振動体10はフィルムの両面に導電性を有する金属を蒸着あるいは導電性塗料を塗布したものとなっているが、フィルムの片面にのみ導電性を有する金属を蒸着あるいは導電性塗料を塗布したものであってもよい。また、振動体10はPETやPPに限定されず、他の合成樹脂のフィルムに導電性を有する金属を蒸着あるいは導電性塗料を塗布したものであってもよい。また、貫通孔11の数は、図に示した数に限定されず、図に示した数より少なくてもよく、また、図に示した数より多くてもよい。
【0013】
弾性部材30は、本実施形態においては不織布であって電気を通さず空気と音の通過が可能となっており、その形状は矩形となっている。また、弾性部材30は、弾性を有しており、外部から力を加えられると変形し、外部から加えられた力が取り除かれると元の形状に戻る。なお、弾性部材30は不織布ではなく織られた布であってもよい。また、電気を通さず空気と音の通過が可能となっており、弾性を有するのであれば布に限定されず、他の素材であってもよい。
導電布20は、導電性を有する経糸と、同じく導電性を有する緯糸を平織りした布であり、電圧が印加される電極となる。導電布20は、その形状が矩形となっており、平織りされて空気と音の通過が可能となっている。また、導電布20は、導電性を有する糸で織られているため、電気を流すことができる。
【0014】
(静電型スピーカ1の組み立て方法)
次に静電型スピーカ1の組み立て方法について説明する。静電型スピーカ1を組み立てる際には、まず、振動体10を弾性部材30Lの上面に載せ、弾性部材30Lの上面において振動体10の各貫通孔11から見える部分に接着剤40を塗布する。なお、接着剤40を塗布する際には、貫通孔11内で振動体10に接着剤40が付着しないように塗布する。
次に、弾性部材30Uを振動体10の上面に載せ、貫通孔11内に塗布された接着剤40で貫通孔11内において弾性部材30Lの上面と弾性部材30Uの下面を接着して固着させ、弾性部材30Uと弾性部材30Lを貫通孔11内で連結させる。ここで、接着剤40と振動体10との間には図2に示したように隙間ができるため、振動体10は、貫通孔11の範囲内で左右方向や奥行き方向に自由に変位できる。また、振動体10には接着剤40が塗布されてなく、振動体10は弾性部材30Uと弾性部材30Lに接着されていない、つまり、固着されていないため、振動体10は、弾性部材30Uと弾性部材30Lに対して上下方向で変位が拘束される箇所がなく、全面が上下に変位できる。
【0015】
次に、導電布20Uの下面に対して、下面の縁から一定の幅で接着剤を塗布する。そして、接着剤が塗布された面を下にして導電布20Uを弾性部材30Uに載せると、導電布20Uに塗布された接着剤により、導電布20Uと弾性部材30Uとが接着される。
また、導電布20Lの上面に対して、上面の縁から一定の幅で接着剤を塗布する。そして、接着剤が塗布された面を上にして導電布20Lを弾性部材30Lの下面に接着する。
【0016】
(静電型スピーカ1の電気的構成)
次に、静電型スピーカ1の電気的構成について説明する。図2に示したように、静電型スピーカ1は変圧器50、外部から音響信号が入力される入力部60、振動体10に対して直流バイアスを与えるバイアス電源70を備えた駆動部100が接続される。
具体的には、バイアス電源70は、振動体10において導電性がある部分と、変圧器50の出力側の中点とに接続され、導電布20Uは変圧器50の出力側の一端に接続され変圧器50の出力側のもう一端には導電布20Lに接続される。また、変圧器50の入力側は入力部60に接続される。この構成においては、入力部60に音響信号が入力されると入力された音響信号に応じた電圧が導電布20Lと導電布20Uに印加され、静電型スピーカ1は、プッシュプル型の静電型スピーカとして動作する。
【0017】
(静電型スピーカ1の動作)
次に、静電型スピーカ1の動作について説明する。入力部60に音響信号が入力されると、入力された音響信号に応じた電圧が変圧器50から導電布20Uと導電布20Lに印加される。そして、印加された電圧によって導電布20Uと導電布20Lとの間に電位差が生じると、導電布20Uと導電布20Lとの間にある振動体10には、導電布20Uと導電布20Lのいずれかの側へ引き寄せられるような静電力が働く。
【0018】
入力部60に音響信号が入力され、この音響信号が変圧器50に供給されて導電布20Uにプラスの電圧が印加され、導電布20Lにマイナスの電圧が印加されると、振動体10にはバイアス電源70によりプラスの電圧が印加されているため、振動体10は、プラスの電圧が印加されている導電布20Uと反発する一方、マイナスの電圧が印加されている導電布20Lに吸引され、導電布20L側へ変位する。ここで、振動体10は、弾性部材30Uと弾性部材30Lのいずれにも接着されていないため、弾性部材30Uと弾性部材30Lに対して上下方向で変位が拘束される箇所がなく、振動体10の全体が導電布20L側へ変位する。
【0019】
また、入力部60に音響信号が入力され、この音響信号が変圧器50に供給されて導電布20Uにマイナスの電圧が印加され、導電布20Lにプラスの電圧が印加されると、振動体10はプラスの電圧が印加されている導電布20Lと反発する一方、マイナスの電圧が印加されている導電布20Uに吸引され、導電布20U側へ変位する。振動体10は、弾性部材30Uと弾性部材30Lのいずれにも接着されていないため、弾性部材30Uと弾性部材30Lに対して上下方向で変位が拘束される箇所がなく、振動体10の全体が導電布20U側へ変位する。
【0020】
このように、振動体10の全体が音響信号に応じて導電布20U側または導電布20L側に変位し(撓み)、その変位方向が逐次変わることによって振動となり、その振動状態(振動数、振幅、位相)に応じた音が振動体10から発生する。発生した音は、音が通過する弾性部材30および導電布20を通過して静電型スピーカ1の外部に放射される。
【0021】
以上説明したように、本実施形態においては、振動体10は、いずれの部材にも接着されていないため、振動体10全体を上下に変位させることができる。また、振動体10は、左右方向や奥行き方向については、貫通孔11の内部にある接着剤40によって移動が制限されるため、振動体10が他の部材に対して大きくずれることがない。
【0022】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、他の様々な形態で実施可能である。例えば、上述の実施形態を以下のように変形して本発明を実施してもよい。なお、上述した実施形態及び以下の変形例は、各々を組み合わせてもよい。
【0023】
本発明においては、弾性部材30Lをプレス加工して、高さ方向に突出した凸部31を弾性部材30Lに形成してもよい。そして、図4に示したように、凸部31を貫通孔11に通し、凸部31の先端に接着剤を塗布して凸部31の先端を弾性部材30Uの下面に接着するようにしてもよい。
また、弾性部材30Uをプレス加工して、凸部31を弾性部材30Uの下面側に形成してもよい。そして、凸部31を貫通孔11に通し、凸部31の先端に接着剤を塗布して凸部31の先端を弾性部材30Lの上面に接着するようにしてもよい。
また、弾性部材30Lの上面に凸部31を形成すると共に、弾性部材30Uの下面にも凸部31を形成してもよい。そして、弾性部材30Uの凸部31の先端と弾性部材30Lの凸部の先端に接着剤を塗布し、両方の凸部31の先端を貫通孔11の内部で接着するようにしてもよい。
【0024】
本発明においては、弾性部材30Uと弾性部材30Lとを連結する手段は、接着剤に限定されるものではない。例えば、貫通孔11に所謂タグピンを通して弾性部材30Uと弾性部材30Lを拘束して弾性部材30Uと弾性部材30Lを連結してもよい。また、熱可塑性の樹脂を貫通孔11の内部に配置し、この樹脂を加熱および加圧して弾性部材30Uと弾性部材30Lを連結してもよい。
【0025】
上述した実施形態においては、貫通孔11の形状は円形となっているが、円形に限定されるものではなく、貫通孔11の形状は、多角形や楕円形などであってもよい。また、平行に並んだ表面から裏面に貫通する複数の溝を振動体10に設け、この溝を介して弾性部材30Uと弾性部材30Lとを連結するようにしてもよい。
また、本発明に係る静電型スピーカにおいては、静電型スピーカを構成する各部材の形状は矩形に限定されるものではなく、多角形、円形、楕円形など、他の形状であってもよい。
【0026】
上述した実施形態においては、導電布20Uと導電布20Lに電圧が印加されるが、本発明においては、導電布に替えて、電気を流す金属板に複数の貫通孔を設けた所謂パンチングメタルを用いてもよい。また、表面から裏面に貫通する孔を複数有するPETまたはPPのフィルムに導電性を有する金属を蒸着してフィルムの片方の面に金属膜を形成し、この金属膜が形成されたフィルムを導電布20に替えて用いてもよい。
【符号の説明】
【0027】
1・・・静電型スピーカ、10・・・振動体、11・・・貫通孔、20U,20L・・・導電布、30U,30L・・・弾性部材、31・・・凸部、40・・・接着剤、50・・・変圧器、60・・・入力部、70・・・バイアス電源、100・・・駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する第1電極と、
導電性を有し、前記第1電極に距離をおいて対向して配置された第2電極と、
導電性を有し、前記第1電極と前記第2電極との間において前記第1電極および前記第2電極と距離をおいて配置され、表面から裏面に貫通した複数の貫通部を有する振動体と、
前記振動体と前記第1電極との間に位置し、弾性があって音が透過する第1弾性部と、
前記振動体と前記第2電極との間に位置し、弾性があって音が透過する第2弾性部と、
を有し、
前記振動体は、前記第1弾性部と前記第2弾性部に固着されてなく、
前記第1弾性部と前記第2弾性部は前記貫通部を介して連結されていること
を特徴とする静電型スピーカ。
【請求項2】
前記第1弾性部は前記貫通部を通る凸部を有し、前記貫通部を通った前記凸部が前記第2弾性部に接して前記第1弾性部と前記第2弾性部が連結されていることを特徴とする請求項1に記載の静電型スピーカ。
【請求項3】
前記貫通部内においては、前記第1弾性部と前記第2弾性部とを連結している部分と前記振動体との間に隙間があることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の静電型スピーカ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−77662(P2011−77662A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224865(P2009−224865)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】