説明

静電型電気音響変換システム

【課題】バイアス電圧を供給するコネクターとして定格電圧の低いものを使用できるようにする。
【解決手段】駆動回路100は、交流電源120と、交流電源から出力された交流信号を昇圧する第2変圧器111を有している。第2変圧器111で昇圧された交流信号は、第1コネクター140及び第2コネクター141により静電型スピーカ1が備える直流信号生成部200へ供給される。直流信号生成部200は、供給された交流信号をダイオードD1で整流した後、コンデンサC1で平滑化する。コンデンサC1で平滑化された直流信号は抵抗器R1を介して振動体10へ供給され、この直流信号により振動体10にバイアス電圧が印加される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電型電気音響変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
静電型スピーカの駆動回路としては、例えば特許文献1の図2に示された駆動回路がある。この駆動回路においては、プッシュプル型の静電型スピーカの振動体にバイアス電源が接続され、振動体には直流でプラスのバイアス電圧が印加される。また、交流のオーディオ信号を昇圧する変圧器は、二次側の一方の端子が静電型スピーカの前面側固定電極に接続され、二次側の他方の端子が静電型スピーカの背面側固定電極に接続される。また、変圧器のセンタータップは一定の電位にされる。
この駆動回路を用いた場合、変圧器の一次側の端子に交流のオーディオ信号が入力されると、センタータップの電位を基準にして振幅が等しく位相が反転したオーディオ信号が二次側の端子から出力される。変圧器からオーディオ信号が供給されると、前面側固定電極と背面側固定電極には位相が互いに反転したオーディオ信号が供給されるため、振動体と前面側固定電極との電位差と、振動体と背面側固定電極との電位差とに違いが生じ、振動体がプッシュプル駆動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−54261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
駆動回路と静電型スピーカとを接続する場合、駆動回路と静電側スピーカに複数の端子を備えたコネクターを設け、互いのコネクターを接続すれば、容易に駆動回路と静電型スピーカを接続し、駆動回路からコネクターを介してバイアス電圧やオーディオ信号を静電型スピーカへ供給できる。しかし、特にバイアス電圧に関しては、静電型スピーカを駆動する際にはコネクターを介して数百ボルトという高い電圧をかけることになる。このような高い電圧をかけるためにはコネクターを定格電圧が高いコネクターにする必要があるが、定格電圧が高いコネクターは高い電圧に耐えられる構成にする分、小型化が難しい。一方、定格電圧が低いコネクターを使用するために固定電極や振動体にかける電圧を低くすると、固定電極と振動体との間で振動体を振動させるのに十分な電位差を確保できなくなる。
また、一対の電極の間に振動体を挟む構成は、静電型のマイクロフォンとしても用いることができる。このような構成を、静電型のマイクロフォンとして用いる場合においても、スピーカの場合と同様に前述の問題が生じ得る。
【0005】
本発明は、上述した背景の下になされたものであり、バイアス電圧を供給するコネクターとして定格電圧の低いものを使用できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために本発明は、交流信号を出力する交流信号出力部を有する駆動回路と、前記交流信号出力部から出力された交流信号から直流信号を生成する直流信号生成部と、音響信号が供給される電極と、前記電極に対向し、前記直流信号生成部で生成された直流信号が供給される振動体と、を有する静電型電気音響変換器と、を備える静電型電気音響変換システムを提供する。
【0007】
また、本発明は、交流信号を出力する交流信号出力部を有する駆動回路と、前記交流信号出力部から出力された交流信号から直流信号を生成する直流信号生成部と、電極と、前記電極に対向し、前記直流信号生成部で生成された直流信号が供給され、到達する音に応じて振動する振動体と、を有する静電型電気音響変換器と、を備える静電型電気音響変換システムを提供する。
【0008】
本発明においては、前記駆動回路は、前記交流信号を間欠的に出力する構成であってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、バイアス電圧を供給するコネクターとして定格電圧の低いものを使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る静電型スピーカ1の外観図。
【図2】図1のA−A線断面図。
【図3】静電型スピーカ1の分解図。
【図4】駆動回路100の構成を示した図。
【図5】直流信号生成部200において整流された後の信号の波形を示した図。
【図6】駆動回路100Aの構成を示した図。
【図7】直流信号生成部200において整流された後の信号の波形を示した図。
【図8】静電型マイクロフォン2に係る電気的構成を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施形態]
図1は、本発明の実施形態に係る静電型スピーカ1(静電型電気音響変換器)の外観図、図2は、静電型スピーカ1のA−A線断面図である。また、図3は、静電型スピーカ1の分解図、図4は、静電型スピーカ1を駆動する駆動回路100の構成を示した図である。なお、図においては、直交するX軸、Y軸およびZ軸で方向を示しており、静電型スピーカ1を正面から見たときの左右方向をX軸の方向、奥行き方向をY軸の方向、高さ方向をZ軸の方向としている。また、図中、「○」の中に「・」が記載されたものは図面の裏から表に向かう矢印を意味するものとする。また、図中、「○」の中に「×」が記載されたものは図面の表から裏に向かう矢印を意味するものとする。
【0012】
図に示したように、静電型スピーカ1は、振動体10、電極20U,20L、弾性部材30U,30L、及び保護部材60U,60Lを有している。なお、本実施形態においては、電極20Uと電極20Lの構成は同じであり、弾性部材30Uと弾性部材30Lの構成は同じである。このため、これらの部材において符号の末尾が「U」の部材と符号の末尾が「L」の部材とを区別する必要が特に無い場合は、「L」および「U」などの記載を省略する。また、保護部材60Uと保護部材60Lの構成は同じである。このため、これらの部材においても符号の末尾が「U」の部材と符号の末尾が「L」の部材とを区別する必要が特に無い場合は、「L」および「U」などの記載を省略する。また、図中の各部材の寸法は、各部材の形状や位置関係を容易に理解できるように実際の寸法とは異ならせてある。
【0013】
(静電型スピーカ1の各部の構成)
まず、静電型スピーカ1を構成する各部について説明する。Z軸上の点から見て矩形の振動体10は、PET(polyethylene terephthalate:ポリエチレンテレフタレート)またはPP(polypropylene:ポリプロピレン)などの絶縁性および柔軟性を有する合成樹脂のフィルム(絶縁層)の一方の面に導電性のある金属を蒸着して導電膜(導電層)を形成したシート状の構成となっている。なお、本実施形態においては、導電膜は、フィルムの一方の面に形成されているが、フィルムの両面に形成されていてもよい。また、振動体10は、導電性を有する金属を圧延して膜状にした構成であってもよい。
【0014】
弾性部材30は、本実施形態においては不織布であって電気を通さず空気および音の通過が可能となっており、その形状はZ軸上の点から見て矩形となっている。また、弾性部材30は、弾性を有しており、外部から力を加えられると変形し、外部から加えられた力が取り除かれると元の形状に戻る。なお、弾性部材30は、絶縁性があり、音が透過し、弾性がある部材であればよく、中綿に熱を加えて圧縮したもの、織られた布、絶縁性を有する合成樹脂を海綿状にしたものなどであってもよい。本実施形態においては、弾性部材30のX軸方向の長さは振動体10のX軸方向の長さより長く、弾性部材30のY軸方向の長さは振動体10のY軸方向の長さより長くなっている。
【0015】
電極(固定極)20は、PETまたはPPなどの絶縁性を有する合成樹脂のフィルム(絶縁層)の一方の面に導電性のある金属を蒸着して導電膜(導電層)を形成した構成となっている。また電極20は、Z軸上の点から見て矩形となっている。電極20は、表面から裏面に貫通する孔を複数有しており、空気および音の通過が可能となっているが、図面においては、この孔の図示を省略している。本実施形態においては、電極20のX軸方向の長さとY軸方向の長さは弾性部材30と同じとなっている。また、振動体10と同様に電極20についても、導電性を有する金属を圧延して膜状にした構成であってもよい。
【0016】
保護部材60は、絶縁性を有する布である。保護部材60は、Z軸上の点から見て矩形となっており、空気及び音の通過が可能となっている。なお、本実施形態においては、保護部材60のX軸方向の長さとY軸方向の長さは弾性部材30と同じとなっている。
【0017】
(静電型スピーカ1の構造)
次に静電型スピーカ1の構造について説明する。静電型スピーカ1においては、振動体10は、弾性部材30Uの下面と弾性部材30Lの上面との間に配置されている。なお、振動体10は、左右方向の縁と奥行き方向の縁から内側へ数mmの幅で接着剤が塗布されて弾性部材30Uと弾性部材30Lに接着されており、接着剤が塗布された部分より内側は弾性部材30Uと弾性部材30Lに固着されていない状態となっている。また、弾性部材30Uと弾性部材30L同士も、縁から内側へ数mmの幅で接着剤が塗布されて互いに固着されている。
【0018】
電極20Uは、弾性部材30Uの上面に接着されている。また、電極20Lは、弾性部材30Lの下面に接着されている。電極20Uは、左右方向の縁と奥行き方向の縁から内側へ数mmの幅で接着剤が塗布されて弾性部材30Uに接着されており、電極20Lは、左右方向の縁と奥行き方向の縁から内側へ数mmの幅で接着剤が塗布されて弾性部材30Lに接着されている。電極20は、接着剤が塗布された部分より内側は弾性部材30に固着されていない状態となっている。また、電極20Uは、導電膜のある側が弾性部材30Uに接しており、電極20Lは、導電膜のある側が弾性部材30Lに接している。
【0019】
保護部材60Uは、電極20Uの上面に接着されている。また、保護部材60Lは、電極20Lの下面に接着されている。保護部材60Uは、左右方向の縁と奥行き方向の縁から内側へ数mmの幅で接着剤が塗布されて電極20Uに接着されており、保護部材60Lは、左右方向の縁と奥行き方向の縁から内側へ数mmの幅で接着剤が塗布されて電極20Lに接着されている。保護部材60は、接着剤が塗布された部分より内側は電極20に固着されていない状態となっている。
【0020】
(静電型スピーカ1に係る電気的構成)
次に、静電型スピーカ1に係る電気的構成について説明する。図4に示したように、静電型スピーカ1を駆動する駆動回路100は、増幅部130、第1変圧器110、第2変圧器111、交流電源120、及び雌型の第1コネクター140を備えている。
【0021】
増幅部130は、入力される音響信号を増幅して出力する増幅手段である。増幅部130は、保護抵抗R11と保護抵抗R12を介して第1変圧器110の一次側コイルの端子T14と端子T15に接続されている。増幅部130で増幅された交流の音響信号は、第1変圧器110へ供給される。
第1変圧器110は、増幅部130から供給される音響信号を昇圧する変圧器である。第1変圧器110の二次側コイルの一方の端子T11は、第1コネクター140の1番端子に接続され、第1変圧器110の二次側コイルの他方の端子T12は、第1コネクター140の3番端子に接続されている。また、第1変圧器110の二次側コイルのセンタータップT13は、駆動回路100のグラウンドGNDに接続されている。
【0022】
交流電源120は、交流信号を出力するものであり、第2変圧器111の一次側コイルの一方の端子T24と、第2変圧器111の一次側コイルの他方の端子T25に接続されている。なお、本実施形態では交流電源120は、正弦波の交流信号を出力するが、交流電源120が出力する交流信号は、交流であれば正弦波のものに限定されず、矩形波や三角波などであってもよい。
第2変圧器111は、交流電源120から一次側コイルに供給された交流信号を昇圧して出力する変圧器である。第2変圧器111の二次側コイルの一方の端子T21は、第1コネクター140の5番端子に接続され、第2変圧器111の二次側コイルの他方の端子T22は、第1コネクター140の7番端子及びグラウンドGNDに接続されている。
なお、第1コネクター140の2番端子、4番端子及び6番端子は、駆動回路100のグラウンドGNDに接続されている。
交流電源120と第2変圧器111は、静電型スピーカ1へ交流信号を出力する交流信号出力部180として機能する。
【0023】
次に静電型スピーカ1の電気的構成について説明する。雄型の第2コネクター141の1番端子はケーブルで電極20Uに接続され、第2コネクター141の3番端子はケーブルで電極20Lに接続されている。また、第2コネクター141の5番端子はケーブルでダイオードD1のアノードに接続されている。ダイオードD1のカソードは、抵抗器R1の一端とコンデンサC1のプラス電極に接続されている。コンデンサC1のマイナス電極は、第2コネクター141の7番端子に接続されている。また、抵抗器R1の他端は、振動体10に接続されている。なお、第1コネクター140及び第2コネクター141においては、各端子間は絶縁されている。
【0024】
(実施形態の動作)
駆動回路100で静電型スピーカ1を駆動する際には、まず雄型の第2コネクター141が雌型の第1コネクター140に嵌められる。第1コネクター140に第2コネクター141が嵌められると各コネクターの同じ番号の端子同士が接続され、端子T11と電極20Uが接続され、端子T12と電極20Lが接続される。第1変圧器110のセンタータップT13はグラウンドGNDに接続されているため、増幅部130に入力された音響信号の振幅が0Vの状態では、端子T11と端子T12の電圧は0Vとなる。
【0025】
また、第1コネクター140に第2コネクター141が嵌められると第2変圧器111の端子T21がダイオードD1のアノードに接続され、第2変圧器111の端子T22がコンデンサC1のマイナス電極に接続される。端子T21と端子T22からは、交流電源120から出力されて第2変圧器111で昇圧された交流信号が出力されており、この昇圧された交流信号が第1コネクター140の5番端子と7番端子を介して静電型スピーカ1側へ供給される。
静電型スピーカ1においては、ダイオードD1とコンデンサC1とで直流信号生成部200が構成されている。このため、ダイオードD1で整流された交流信号の波形は図5(a)の波形となる。また、図5(a)で示した波形の信号がコンデンサC1で平滑されると、コンデンサC1のプラス電極側の波形は図5(b)に示したように脈流となり、この電圧が抵抗器R1を介して振動体10に印加される。
【0026】
例えば、駆動回路100において直流で350Vのバイアス電圧を生成し、このバイアス電圧を第1コネクター140及び第2コネクター141を介して振動体10へ供給する場合には、コネクターの定格電圧が350V以上のものを使用する必要がある。一方、本実施形態では、第1コネクター140及び第2コネクター141の5番端子と7番端子においては、第2変圧器111で昇圧された交流信号の波高値が例えば350Vであると、この実効値は350V/√2=約250Vとなる。このため、直流で350Vのバイアス電圧を駆動回路から供給する場合と比較すると、定格電圧の低いコネクターを使用することができる。
また、本実施形態において第2変圧器111で昇圧された交流信号の波高値が例えば350Vである場合、抵抗器R1の抵抗値が高抵抗(例えば10MΩ)であると、振動体10に流れる電流が少ないため、ダイオードD1で整流されてコンデンサC1で平滑化された脈流の信号は、ほぼ350Vを維持したままとなり、直流で350Vのバイアス電圧を駆動回路から印加しているのと同じ状態になる。
【0027】
なお、本実施形態においては、抵抗器R1の抵抗値を10MΩ、コンデンサC1の容量を0.01μF〜1μFとすると、時定数は0.1秒〜10秒となる。平滑化された後の電圧として波高値の350Vに近い電圧を維持するには、第2変圧器111から出力される交流信号の周期を、この時定数より2桁以上短い周期とすればよく、交流電源120から出力される信号の周波数を1kHz以上とすればよい。
【0028】
次に、音響信号の振幅が0Vから変化した場合について説明する。増幅部130に交流の音響信号が入力されると、入力された音響信号が増幅されて第1変圧器110の一次側に供給される。昇圧手段である第1変圧器110で昇圧されて端子T12から出力される音響信号は、第1変圧器110で昇圧されて端子T11から出力される音響信号とは振幅が同じで信号の極性が逆となる。
【0029】
増幅部130にプラスの音響信号が入力されると、第1変圧器110の二次側の端子T11から出力される音響信号の極性がプラスとなり、端子T12から出力される音響信号の極性がマイナスとなる。ここで、音響信号の振幅が0Vの場合と比較すると、振動体10と電極20Uとの間の静電引力が弱まる一方、振動体10と電極20Lとの間の静電引力が強くなる。すると振動体10は、電極20U側に作用する静電引力と電極20L側に作用する静電引力との差に応じて電極20L側(Z軸方向と反対方向)へ変位する。
【0030】
また、増幅部にマイナスの音響信号が入力されると、第1変圧器110の二次側の端子T11から出力される音響信号の極性がマイナスとなり、端子T12から出力される音響信号の極性がマイナスとなる。ここで、音響信号の振幅が0Vの場合と比較すると、振動体10と電極20Lとの間の静電引力が弱まる一方、振動体10と電極20Uとの間の静電引力が強くなる。すると振動体10は、電極20U側に作用する静電引力と電極20L側に作用する静電引力との差に応じて電極20U側(Z軸方向と反対方向)へ変位する。
【0031】
このように振動体10は、音響信号に応じて図のZ軸の正の方向とZ軸の負の方向に変位し(撓み)、その変位方向が逐次変わることによって振動となり、その振動状態(振動数、振幅、位相)に応じた音波が振動体10から発生する。発生した音波は、音響透過性を有する弾性部材30、電極20及び保護部材60を通過して静電型スピーカ1の外部に音として放射される。
【0032】
以上説明したように本実施形態においては、駆動回路100から交流信号を出力し、静電型スピーカ1側で交流信号を整流して直流のバイアス電圧を作り出している。交流信号をコネクターで供給する場合、交流信号の実効値が定格電圧以下となっていればよいため、駆動回路から直流のバイアス電圧を出力する場合と比較すると、交流信号の波高値が直流のバイアス電圧と同じであっても、定格電圧の低いコネクターを使用することができる。
また、本実施形態においては、充電されたコンデンサC1から流れる電流が少ないため、交流信号の波高値と同等の直流電圧をバイアス電圧として振動体10に印加することができ、コネクターの定格電圧より高い直流の電圧のバイアス電圧を振動体10に印加することができる。
【0033】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、他の様々な形態で実施可能である。例えば、上述の実施形態を以下のように変形して本発明を実施してもよい。なお、上述した実施形態および以下の変形例は、各々を組み合わせてもよい。
【0034】
(変形例1)
図6は、本発明の変形例に係る駆動回路100Aの構成を示した図である。上述した実施形態と比較すると、駆動回路100Aは、制御部150とスイッチ部160を備えている点で相違しており、他の構成は同じである。なお、図6においては、駆動回路100と同じ構成については同じ符号を付している。
【0035】
スイッチ部160は、交流電源120と第2変圧器111との間を電気的に切断又は接続する開閉器である。スイッチ部160は、制御部150によりオフにされると、交流電源120と第2変圧器111の端子T24との間を電気的に切断する。また、スイッチ部160は、制御部150によりオンにされると、交流電源120と第2変圧器111の端子T24との間を電気的に接続する。制御部150は、本実施形態ではマイクロコンピュータであり、スイッチ部160を制御する。制御部150は、スイッチ部160がオンとオフとを交互に繰り返すようにスイッチ部160を制御する。つまり、交流電源120から出力された交流信号は、制御部150とスイッチ部160により構成された信号供給部170によって間欠的に第2変圧器111へ供給される。なお、本変形例においては、信号供給部170、交流電源120及び第2変圧器111が、静電型スピーカ1へ交流信号を出力する交流信号出力部として機能する。
【0036】
具体的には、制御部150は、スイッチ部160を一定の時間t1の間はオンとした後、一定の時間t2の間はオフとする制御を繰り返す。すると、交流電源120から常時出力されている交流信号は、時間t1の間は第2変圧器111へ供給されて昇圧され、昇圧された交流信号が直流信号生成部200へ供給される。一方、時間t2の間においては交流電源120から出力された交流信号が第2変圧器111へ供給されないため、駆動回路100Aから直流信号生成部200へ交流信号が供給されないこととなる。制御部150は、スイッチ部160をオン(時間t1)、オフ(時間t2)、オン(時間t1)、オフ(時間t2)、・・・、というように交互に制御するため、第2変圧器111で昇圧された交流信号は時間t2の間隔を空けて直流信号生成部200へ間欠的に供給される。
第2変圧器111が交流信号を昇圧して交流信号が直流信号生成部200へ供給されている間は、第2変圧器111で昇圧された交流信号が静電型スピーカ1側の直流信号生成部で整流され、整流された信号の波形は図7(a)に示したようになる。
なお、静電型スピーカ1の静電容量を0.005μF〜0.5μFとし、抵抗器R1の抵抗値を10MΩとすると、時定数は0.05秒〜5秒となる。時間t1をこの時定数の10倍〜100倍の時間(5秒〜500秒)にすれば、コンデンサC1が十分に充電されることになる。
【0037】
次に図7(b)は、コンデンサC1のプラス電極側の電圧の波形を示した図である。静電型スピーカ1に交流信号が供給されている時間t1の間においてはコンデンサC1が充電される。この後に交流信号の供給が停止されると、時間t2の間においては、コンデンサC1の放電によりバイアス電圧が振動体10に印加される。なお、静電型スピーカ1においては、電極20と振動体10との間の漏れ電流が非常に小さいため、直流信号生成部から供給されて振動体10に溜まった電荷は急激に減少することがなく、例えば、バイアス電圧が50Vほど低下するまでの時間t2は1時間程度である。静電型スピーカ1においては、バイアス電圧が変化すると音圧が変化するが、時間の経過に伴うバイアス電圧の低下は前述したように1時間で50V程度と小さいため、バイアス電圧の変動による音圧の変動は利用者には認識されにくい。このため、バイアス電圧が50Vほど低下しても、音圧の変動を利用者に認識されることがない。
【0038】
また、直流のバイアス電圧を駆動回路から振動体へ印加する従来の技術では、直流のバイアス電圧を駆動回路から印加し続けるため電力を消費するが、本変形例においては、バイアス電圧を作り出すための交流信号を駆動回路100Aから静電型スピーカ1へ常時供給するのではなく間欠的に供給するため、従来の構成と比較すると消費電力を抑えることができる。また、本変形例においても、静電型スピーカ1側で交流信号を整流して直流のバイアス電圧を作り出しているため、上述した実施形態と同様に定格電圧の低いコネクターを使用することができる。
【0039】
(変形例2)
上述した実施形態においては、静電型スピーカ1が備える直流信号生成部の整流回路は、半波整流の回路に限定されるものではなく、全波整流回路やブリッジ型全波整流回路、センタータップ型の全波整流回路など、他の整流回路であってもよい。
【0040】
(変形例3)
図6に示した駆動回路100Aにおいては、スイッチ部160を制御して交流電源120と第2変圧器111との間の切断と接続を交互に繰り返すことにより交流信号を間欠的に出力しているが、第2変圧器111の二次側コイルの端子と第1コネクター140との間にスイッチ部160を設け、このスイッチ部160を制御部150で制御して交流信号を間欠的に出力するようにしてもよい。
また、スイッチ部160を設けずに、制御部150が交流電源120を直接制御することにより、交流電源120から交流信号を間欠的に出力させるようにしてもよい。
【0041】
(変形例4)
上述した実施形態においては、静電型スピーカ1はプッシュプル型となっているが、静電型スピーカ1はシングル型であってもよい。なお、プッシュプル型の場合、振幅が同じで極性が異なる一対の信号を静電型スピーカへ供給するが、静電型スピーカがシングル型の場合には、端子T11または端子T12から出力された信号を静電型スピーカへ供給する。
【0042】
(変形例5)
上述した実施形態においては、電極、振動体及び弾性部材を積層した構成を、音響信号を音に変換する静電型のスピーカとしているが、この構成は、音を音響信号に変換する静電型のマイクロフォン(静電型電気音響変換器)とすることも可能である。
図8は、本変形例に係る静電型マイクロフォン2と、静電型マイクロフォン2で収音された音を表す音響信号を生成する音響信号生成回路100Bの構成を示した図である。本変形例においては、静電型マイクロフォン2は、前述の静電型スピーカ1と同じ部材を備えているため、静電型マイクロフォン2を構成する部材には、静電型スピーカ1の各部材と同じ符号を付し、その説明を省略する。また、音響信号生成回路100Bの構成は、信号が流れる方向が駆動回路100と異なる以外は、駆動回路100と同じであるため、音響信号生成回路100Bが備える部品には駆動回路100が備える部品と同じ符号を付し、各部品の説明を省略する。なお、変圧器110の変圧比や各抵抗器の抵抗値は適宜調整される。
【0043】
静電型マイクロフォン2においては、導体である電極20と導体である振動体10は距離をおいて向かいあって配置されており、電極20と振動体10は平行平板の導体によって構成されたコンデンサとして機能している。振動体10にはバイアス電圧が印加されているため、静電型マイクロフォン2に音が到達していない状態においては、このコンデンサに一定の電荷が溜まった状態となる。
静電型マイクロフォン2に音が到達した場合、到達した音によって振動体10が振動する。振動体10が振動すると、振動体10と電極20U,20Lとの間の距離が変わるため、振動体10と電極20との間の静電容量に変化が生じる。
【0044】
例えば、振動体10が電極20U側に変位すると、電極20Uと振動体10との間の距離が短くなり、電極20Uと振動体10との間の静電容量が大きくなる。また、電極20Lと振動体10との間の距離が長くなり、電極20Lと振動体10との間の静電容量が小さくなる。このように静電容量が変化すると、電極20Uと振動体10との電位差が小さくなるように電極20Uの電位が変化し、電極20Lと振動体10との電位差が大きくなるように電極20Lの電位が変化する。ここで、電極20Uと電極20Lとの間で電位差が生じるため、変圧器110の二次側コイルには電流が流れる。
【0045】
また、振動体10が電極20L側に変位すると、電極20Lと振動体10との間の距離が短くなり、電極20Lと振動体10との間の静電容量が大きくなる。また、電極20Uと振動体10との間の距離が長くなり、電極20Uと振動体10との間の静電容量が小さくなる。すると、電極20Lと振動体10との電位差が小さくなるように電極20Lの電位が変化し、電極20Uと振動体10との電位差が大きくなるように電極20Uの電位が変化する。ここで、電極20Uと電極20Lとの間で電位差が生じ、変圧器110の二次側コイルには、振動体10が電極20Uの方向に変位したときとは逆の方向に電流が流れる。
【0046】
変圧器110の二次側コイルに電流が流れると、この電流に対応して変圧器110の一次側コイルにも電流が流れる。一次側コイルに流れた信号は、増幅部130で増幅され、増幅された信号が静電型マイクロフォン2で収音された音を表す音響信号として増幅部130から出力される。
【0047】
なお、本変形例においては、変圧器110のインピーダンスが低い場合には、静電型マイクロフォン2の負荷容量の影響により、低い周波数における周波数特性が低下する場合がある。この場合、変圧器110に替えてインピーダンスの高いアンプを電極20U,20Lに接続し、周波数特性の低下を抑えるようにしてもよい。
また、図6の構成にあっても、上述した変形例と同様に信号の流れる方向を変更すれば、静電型マイクロフォン2から得られる信号を変圧器110及び増幅部130により音響信号として出力することができる。
【符号の説明】
【0048】
1…静電型スピーカ、2…静電型マイクロフォン、10…振動体、20,20U,20L…電極、30,30U,30L…弾性部材、60,60U,60L…保護部材、100,100A…駆動回路、100B…音響信号生成回路、110…第1変圧器、111…第2変圧器、120…交流電源、130…増幅部、130…増幅部、140…第1コネクター、141…第2コネクター、150…制御部、160…スイッチ部、170…信号供給部、180…交流信号出力部、200…直流信号生成部、R1…抵抗器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流信号を出力する交流信号出力部
を有する駆動回路と、
前記交流信号出力部から出力された交流信号から直流信号を生成する直流信号生成部と、
音響信号が供給される電極と、
前記電極に対向し、前記直流信号生成部で生成された直流信号が供給される振動体と、
を有する静電型電気音響変換器と、
を備える静電型電気音響変換システム。
【請求項2】
交流信号を出力する交流信号出力部
を有する駆動回路と、
前記交流信号出力部から出力された交流信号から直流信号を生成する直流信号生成部と、
電極と、
前記電極に対向し、前記直流信号生成部で生成された直流信号が供給され、到達する音に応じて振動する振動体と、
を有する静電型電気音響変換器と、
を備える静電型電気音響変換システム。
【請求項3】
前記駆動回路は、前記交流信号を間欠的に出力することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の静電型電気音響変換システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−48402(P2013−48402A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−148824(P2012−148824)
【出願日】平成24年7月2日(2012.7.2)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】