説明

静電塗装用スプレーガン

【課題】小型化,軽量化を図り、よりコンパクトな構造にて塗料の塗着効率を向上させ、その向上した塗着効率を低下させることなく維持する。
【解決手段】静電塗装用スプレーガン1は、ピン電極8の近傍において当該ピン電極8と間隔を有して配設された導電性を有するアースリング47が、導電性を有する接地経路形成部材48及び導電性を有し且つ接地されたグリップ3を介して接地されるようになっている。このアースリング47は、塗料吐出口29の先端部から後方へ20mmの位置を基準として前後10mmの範囲内に配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電させた塗料を被塗物に塗着させる静電塗装用スプレーガンに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体等の塗装方法の一つに静電塗装がある。静電塗装は、被塗物(車体等)と塗装装置との間に高電圧を加えて静電界(電気力線)を形成すると共に塗料粒子を帯電させて噴出することによって、静電引力によって被塗物に塗料を吸着させる方法である。
【0003】
このような静電塗装用の塗装装置として、例えば特許文献1に記載の静電塗装用スプレーガンは、ガン本体の塗料流路内に電極を有しており、この電極に高電圧を供給することによって、電極と被塗物との間に高電圧を印加すると共に塗料粒子を帯電させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−349306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
静電塗装用スプレーガンには、高電圧発生回路を有する高電圧発生装置が内蔵されており、この高電圧発生装置が発生する高電圧が電極に供給されるようになっている。従って、塗料粒子の帯電効率、ひいては、塗料の塗着効率を向上させるために、大型の高電圧発生装置やスペック(印加可能な電圧の最大値)が高い高電圧発生装置を内蔵すると、これに応じて静電塗装用スプレーガンも大型化,重量化する。また、高電圧を維持するためには、静電塗装用スプレーガンにおいて電極が設けられる部分(一般的には、ガン本体の先端部分)と、接地される部分(一般的には、ガン本体の後端部に設けられるグリップ部分)との間に、ある程度の距離を確保しなければならない。
【0006】
これらのような事情から、静電塗装用スプレーガンは、その構成上、一般的に大型化,重量化する傾向にあり、従って、静電塗装用スプレーガンにおいては、さらなる小型化,軽量化を図ることが望まれている。
【0007】
また、この種の静電塗装用スプレーガンにおいては、塗料の塗着効率を向上させることのみならず、その向上した塗着効率を低下させることなく維持することができる構成が求められている。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、小型化,軽量化を図ることができ、よりコンパクトな構造にて塗料の塗着効率を向上することができ、しかも、その向上した塗着効率を低下させることなく維持することができる静電塗装用スプレーガンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、本発明は、帯電させた塗料を被塗物に塗着させる静電塗装用スプレーガンにおいて、非導電性材料で構成され、塗料供給源に接続された塗料供給路を有するガン本体と、前記ガン本体の後端部に設けられ、導電性を有し且つ接地されたグリップと、前記ガン本体の先端部に設けられ、前記塗料供給路に連通する塗料流路及び当該塗料流路の先端部に形成された塗料吐出口を有する塗料ノズルと、前記塗料吐出口から吐出される塗料を帯電させるための直流高電圧を発生する高電圧発生手段と、先端部が前記塗料吐出口よりも前方に突出するように前記塗料ノズルの前記塗料流路内に配置され、前記高電圧発生手段が発生した高電圧が供給される電極と、前記電極の近傍において当該電極と間隔を有して配設された導電性を有するアース体と、前記ガン本体に少なくとも一部が露出するようにして設けられ、後端部が前記グリップに接続され、先端部が前記アース体に接続された導電性を有する接地経路形成部材とを備え、前記アース体は、前記塗料吐出口の先端部から後方へ20mmの位置を基準として前後10mmの範囲内に配設されていることに特徴を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の静電塗装用スプレーガンによれば、電極とアース体との間に形成される電界によって塗料粒子の帯電が促進され、これにより、塗料の塗着効率の向上を図ることができる。従って、高電圧発生手段が発生する電圧を低下させたとしても、従来と同程度に塗料を帯電(静電化)させることができる。
【0011】
そして、このように高電圧発生手段が発生する電圧を低下させることができるので、接地された導電性のアース体を、高電圧が供給される電極の近傍に支障なく配置することができ、アース体と電極との距離を短くすることができる。また、アース体を電極の近傍において当該電極と間隔を有して配置した構造はコンパクトであり、静電塗装用スプレーガンの小型化,軽量化を図ることができる。
【0012】
また、アース体を、塗料吐出口の先端部から後方へ20mmの位置を基準として前後10mmの範囲内に配設した構成によれば、アース体が電極から十分に且つ適度に離れた状態(遠ざかった状態)となることから、放電電流の増加に伴う電極の出力電圧(ガン先電圧)の低下を抑えることができ、塗料の塗着効率が低下してしまうことを回避することができる。これにより、向上した塗着効率を低下させることなく維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態を示すものであり、静電塗装用スプレーガンの全体構成を示す縦断側面図
【図2】先端部分を拡大して示す縦断側面図
【図3】前端部分の正面図
【図4】電極に供給される電圧と塗料の塗着効率との関係を示す図
【図5】アースリングの配設位置と塗装枚数との関係を示す図
【図6】図5に示す実験データをグラフ化して示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1に示すように、本実施形態に係る静電塗装用スプレーガン1は、絶縁性の合成樹脂材料(非導電性材料)からなり静電塗装用スプレーガン1の銃身部分(バレル部分)となるガン本体2と、このガン本体2の後端部(図1中右端部)に設けたグリップ3とから構成されている。ガン本体2内の上部には高電圧発生回路を構成する昇圧トランスや高圧整流回路(何れも図示せず)を一体にモールドしたカスケード型の高電圧発生装置4(高電圧発生手段に相当)が収納されている。
【0015】
ガン本体2内部の前部には、導電性を有する連体棒5が前方に向って下方に傾斜するように配設されている。高電圧発生装置4の前側には、連体棒5の後部が露出するように孔部6が設けられており、この孔部6には導電性のスプリング6aが収容されている。スプリング6aは、その後部において高電圧発生装置4の前端に位置する出力端子7に装着され、前部において連体棒5と当接している。なお、ガン本体2前部には、後に詳述するピン電極8を有する塗料ノズル27が設けられている。連体棒5とピン電極8とは、後述する構成によって電気的に接続されるようになっている。
【0016】
一方、グリップ3は、例えば金属繊維や金属粉を含む樹脂材料で構成されており、従って、導電性を有している。このグリップ3の下部には、電源コネクタ9及びエアホース用ジョイント10が取り付けられていると共に、連結部材11を介して円筒状の塗料ホース用ジョイント12が連結されている。連結部材11は、ねじ13によってグリップ3の下端部に固定されている。連結部材11及びねじ13は、何れも導電性材料から構成されている。また、連結部材11には、電源コネクタ9内のアース線9aにリード線14を介して接続されたねじ15が螺挿されている。これにより、塗料ホース用ジョイント12とアース線9aとが電気的に接続されている。
【0017】
高電圧発生に必要な高周波電圧は、グリップ3の下部の電源コネクタ9から取り入れられ、グリップ3内の配線ケーブル(図示せず)を通って高電圧発生装置4内の昇圧トランスに供給される。供給された高周波電圧は、昇圧トランスで昇圧された後、コッククロフト−ウォルトン型倍電圧整流回路を使用した高電圧整流回路で更に昇圧されると同時に整流されて数万Vの直流高電圧が発生される。高電圧発生装置4が発生した直流高電圧は、出力端子7からスプリング6aを介して連体棒5に導かれ、ピン電極8に供給されるようになっている。
【0018】
また、ガン本体2内の下部には前後方向に延びる孔部16が設けられている。ガン本体2の前端部には取付凹部17が設けられており、この取付凹部17の後端面において孔部16は開口している。この孔部16内の前部には塗料バルブ18が配設されている。また、孔部16内のうち塗料バルブ18の後部には空間を存して中空状のガイド部材19が配設されている。
【0019】
図2に示すように、塗料バルブ18は、導電性を有するバルブ本体20と、このバルブ本体20内を軸方向に貫通する弁口21と、この弁口21を開閉するニードル22とを備えて構成されている。バルブ本体20の前部の外周には、円環状のフランジ20aが一体的に設けられており、このフランジ20aと連体棒5の先端部とが接触するようになっている。
【0020】
孔部16のうち塗料バルブ18とガイド部材19との間の空間は弁室23とされている。ニードル22は弁室23内を貫通しており、その前端部がテーパ状に形成されている。ニードル22は、後部がガイド部材19内に挿通されており、当該ガイド部材19に沿って前後方向に移動するようになっている。弁口21は、ニードル22の前端部が当接,離間することによって開放,閉塞される。
【0021】
図1に示すように、ニードル22は、ガン本体2の後端部に設けられた復帰バネ24によって、常には弁口21(図2参照)を閉塞する方向(図1では左方向)に付勢されている。そして、ガン本体2に設けられたトリガ25がグリップ3側に引かれている間のみ、ニードル22は復帰バネ24に抗して後退し、これにより、弁口21が開放される。
【0022】
取付凹部17は前半部よりも後半部のほうが径小になっており、その径小部分には塗料ノズル27が着脱可能に螺合されている。塗料ノズル27は絶縁性合成樹脂材料からなり、その前半部は取付凹部17よりも前方に突出している。塗料ノズル27内の中心部には前後方向に貫通する塗料流路28が設けられている。この塗料流路28の後端部は塗料バルブ18の弁口21(図2参照)に連通している。塗料ノズル27の前端部のうち塗料流路28の前端にあたる部分は径小に構成され、塗料吐出口29とされている。なお、取付凹部17に塗料ノズル27が装着されたことにより、塗料ノズル27の周囲部には環状の空間が形成される。この環状空間はパターンエア流路30として利用される。
【0023】
このような構成により、図示しない塗料供給源(例えば、塗料タンク)内の塗料(例えば、電気抵抗が比較的高い溶剤系塗料)は、導電性を有しない塗料ホース(図示せず)を介して塗料ホース用ジョイント12に供給され、塗料チューブ26を通って弁室23に導かれる。そして、トリガ25の非操作時では、弁室23に導かれた塗料は、弁口21を閉塞するニードル22によって塗料ノズル27への吐出が阻止される。一方、トリガ25が操作されて塗料バルブ18が開弁すると、弁室23内に供給された塗料は、塗料ノズル27内の塗料流路28に吐出される。つまり、本実施形態では、塗料ホース用ジョイント12と塗料チューブ26と弁室23とから塗料供給路が構成されている。
【0024】
塗料流路28内にはピン電極8が挿通されている。このピン電極8の前端部は、塗料吐出口29を通り当該塗料吐出口29よりも前方に突出している。また、ピン電極8の後半部は、非導電性材料からなる保持部材31の内部に保持されている。塗料流路28内のうち保持部材31の後部には、導電性を有するスプリング32が収容されている。このスプリング32の後端部は、バルブ本体20の前端面に当接している。このような構成により、ピン電極8とバルブ本体20とはスプリング32を介して電気的に接続される。
【0025】
塗料ノズル27内のうち塗料流路28の周囲部には複数の霧化エア流路33が形成されている。これら霧化エア流路33の前端部は、塗料ノズル27の前端部に設けられた環状の霧化エア流路33a(図2参照)に連通している。
【0026】
ガン本体2の後端部にはエアバルブ34(図1参照)が設けられている。また、グリップ3内には、エアホース用ジョイント10とエアバルブ34とをつなぐエア流路36が設けられている。霧化エア及びパターンエア用の圧縮空気は、圧縮空気発生装置から高圧エアホース(何れも図示せず)を介してエアホース用ジョイント10に供給され、エア流路36を通ってエアバルブ34に導かれる。
【0027】
エアバルブ34は、ニードル22と一体的に前後移動する弁体37によって開閉されるようになっている。つまり、塗料バルブ18が開弁するとエアバルブ34も開弁し、塗料バルブ18が閉弁するとエアバルブ34も閉弁する。そして、エアバルブ34が開弁すると、圧縮空気はガン本体2内に設けられた霧化エア供給路、パターンエア供給路(何れも図示せず)を通って、塗料ノズル27の霧化エア流路33、パターンエア流路30にそれぞれ供給される。
【0028】
塗料ノズル27の前端部は、ガン本体2の前端部に取り付けられた絶縁性樹脂製(例えばポリアセタール製)のエアキャップ38によって覆われている。エアキャップ38の後面中央には嵌合凸部39が設けられており、この嵌合凸部39は、塗料ノズル27の前端部に嵌合している。エアキャップ38の後部外周には環状段部38a(図2参照)が設けられており、この環状段部38aに絶縁性樹脂製(例えばポリアセタール製)のリテイニングナット40の先端部が係合している。このリテイニングナット40は、円環状の固定部材41を介して、ガン本体2の前端部に螺合され固定されている。
【0029】
塗料ノズル27は、取付凹部17に挿入された後、前端部にエアキャップ38を嵌合させ、エアキャップ38の前端から固定部材41及びリテイニングナット40を挿入し螺合させることによって、エアキャップ38と共にガン本体2に固定される。このとき、エアキャップ38とガン本体2との間には塗料ノズル27の周囲に位置する環状の空間が形成される。この空間はパターンエア流路30と共にパターンエア流路42として利用される。
【0030】
エアキャップ38の中央部には霧化エア噴出孔43(図2参照)が穿設されている。この霧化エア噴出孔43には塗料ノズル27の塗料吐出口29が挿通されている。霧化エア噴出孔43は霧化エア流路33aに連通しており、この霧化エア流路33aに供給された霧化エアは霧化エア噴出孔43の内周面と塗料吐出口29の外周面との間の環状の隙間を通って前方に噴出される。
【0031】
更に、エアキャップ38の前端面のうち霧化エア噴出孔43を挟んだ上部及び下部には、前方に突出する一対の角部45が形成されている。これら角部45には、それぞれパターンエア流路42に連通する複数(この場合、それぞれ2個)のパターンエア噴出孔46が形成されている。これらパターンエア噴出孔46はエアキャップ38の中心軸に向かって斜め前方に傾斜している。従って、パターンエア流路42に供給された圧縮空気としてのパターンエアはパターンエア噴出孔46から斜め前方に向けて噴出される。
【0032】
また、エアキャップ38の外周には、前端部が断面半円状に形成され後端部が断面矩形状に形成された円環状のアースリング47(アース体に相当)が着脱可能に装着されている。このアースリング47は、例えばステンレス製であり、導電性を有している。このアースリング47は、図2にも示すように、その前端部が、塗料吐出口29の先端部から後方へ20mmの位置を基準として前後10mmの範囲内に位置するように配設されている。即ち、塗料吐出口29の先端部からアースリング47の前端部までの距離Dが、20mm±10mmの範囲の値となるように設定されている。また、このアースリング47は、図3に示すように、塗料吐出口29を中心とする円環状の導電性部材として配置されている。
【0033】
一方、ガン本体2の上部には、アースリング47を接地させるための接地経路を形成する接地経路形成部材48が設けられている。この接地経路形成部材48は、金属製のフック部材49、金属製の第1のシャフト50、金属製のスプリング51、金属製のジョイント52、金属製の第2のシャフト53とから構成されている。
【0034】
フック部材49は、その上部が前方に湾曲する引っ掛け部49aとなっている。また、フック部材49は、その下部が金属製のボルト54によってグリップ3に固定されるようになっている。これにより、フック部材49は、グリップ3に電気的に接続されている。
【0035】
第1のシャフト50は、ガン本体2の前後方向に沿って配設され、その後端部がフック部材49下部の前端部に挿入され支持されている。これにより、第1のシャフト50は、フック部材49に電気的に接続されている。ガン本体2の前部の上部には、絶縁性の合成樹脂材料(非導電性材料)からなる支持部材55が固定されている。第1のシャフト50は、その前端部が支持部材55の後端部に挿入され支持されている。このように配設された第1のシャフト50は、少なくとも一部(この場合、前端部及び後端部を除く部分)がガン本体2や支持部材55に覆われることなく露出するようになっている。なお、この露出した部分は、非導電性の材料によって被覆されている。
【0036】
ジョイント52は、前後方向に延びる挿入孔52aを有しており、支持部材55の前端部に挿入され支持されている。スプリング51は、支持部材55の内部に収容されている。このスプリング51は、支持部材55の内部において、その後端部が第1のシャフト50の前端部に接触し、その前端部がジョイント52の後端部上部に接触するようになっている。これにより、ジョイント52は、スプリング51を介して第1のシャフト50に電気的に接続されている。
【0037】
第2のシャフト53は、ジョイント52の挿入孔52a内に挿入されている。これにより、第2のシャフト53は、ジョイント52に電気的に接続されている。この第2のシャフト53の前端部は、アースリング47の上部後面に接続される。これにより、アースリング47は、接地経路形成部材48(第2のシャフト53,ジョイント52,スプリング51,第1のシャフト50,フック部材49)を介してグリップ3に電気的に接続される。そして、このグリップ3は、電源コネクタ9のアース線9aを介して接地される。従って、アースリング47は、導電性を有する接地経路形成部材48及びグリップ3を介して接地されるようになっている。
【0038】
次に、上記構成の静電塗装用スプレーガン1を用いて静電塗装を行うときの動作について説明する。トリガ25がグリップ3側に引かれると、塗料バルブ18が開弁して塗料ホース用ジョイント12から供給された塗料(この場合、溶剤系塗料)が塗料流路28に吐出され、塗料ノズル27前端の塗料吐出口29からピン電極8の表面を伝って皮膜状に吐出される。また、霧化エア流路33に圧縮空気が供給され、この圧縮空気は霧化エア噴出孔43の内周と塗料吐出口29の外周との間の狭い隙間を通り霧化エアとして前方に噴出される。この結果、ピン電極8の表面を伝って塗料吐出口29から吐出される塗料は、霧化エアによって霧化される。
【0039】
また、トリガ25がグリップ3側に引かれると、高電圧発生装置4内の高電圧発生回路に高周波電圧が供給され、この高電圧整流回路により発生した数万Vの直流高電圧が、出力端子7からスプリング6a及び連体棒5を介してバルブ本体20に導かれる。バルブ本体20に導かれた高電圧は、その前端部からスプリング32を介してピン電極8に供給される。これにより、ピン電極8とアースリング47との間には強力な電界(電気力線)が発生してコロナ放電場が形成され、ピン電極8を伝う塗料には電荷が誘起される。従って、塗料吐出口29から吐出され霧化された塗料粒子は帯電した状態で空中(静電塗装用スプレーガン1の前方)に飛び出す。
【0040】
空中に飛び出した塗料粒子は、パターンエア噴出孔46から噴出されるパターンエアによって、その噴霧パターンが塗装に適した形状(この場合、楕円形ないし小判形)に形成される。
【0041】
塗料粒子は、主として、このパターンエアによって被塗物の近傍まで搬送される。帯電した塗料粒子が被塗物に近づくと、静電誘導によって、接地された被塗物の表面に塗料粒子の電荷とは反対極性の電荷が誘起される。これにより、塗料粒子と被塗物との間に静電気力が働き、塗料粒子は被塗物に向かう吸引力を受ける。つまり、この吸引力とパターンエアによる吹きつけ力との双方の力によって、塗料粒子は被塗物表面に塗着される。なお、静電気力による吸引力が働くため、塗料粒子は静電塗装用スプレーガン1に面していない被塗物の裏側にも回り込み塗着される。以上のような作用により、被塗物に静電塗装が行なわれる。
【0042】
ところで、本発明者の実験によると、接地された導電性のアースリング47をピン電極8の近傍において当該ピン電極8と間隔を有して配置した本実施形態の静電塗装用スプレーガン1を用いて静電塗装を行うと、このようなアースリング47を備えていない従来構成のスプレーガンを用いた場合よりも、塗料の塗着効率が明らかに向上した。この理由は次のように考えられる。
【0043】
即ち、アースリング47は、接地経路形成部材48及びグリップ3を介して、電源コネクタ9のアース線9aに電気的に接続されている。このため、アースリング47は、接地電位に維持されている。しかも、アースリング47は、被塗物に比べピン電極8に非常に近い位置に配置されている。
【0044】
このような構成において、高電圧発生装置4が発生した高電圧がピン電極8に供給されると、ピン電極8とアースリング47との間に電界が形成される。そして、このようにピン電極8とアースリング47との間に形成される電界によって塗料粒子の帯電が促進され、これにより、塗料の塗着効率が向上する。
【0045】
図4は、本発明者の実験によって得られたものであり、ピン電極8に供給される出力電圧(ガン先電圧)と塗料の塗着効率との関係を概略的に示す図である。図4中、実線Aはアースリング47を備えた本実施形態の静電塗装用スプレーガン1のものであり、実線Bはアースリング47を備えていない従来構成のスプレーガンのものである。
【0046】
この図4から明らかなように、本実施形態の静電塗装用スプレーガン1(実線A参照)によれば、従来構成のスプレーガン(実線B参照)と同等の塗着効率を、より低いガン先電圧にて得ることができる。即ち、例えば、従来構成のスプレーガン(実線B)の点b(この場合、ガン先電圧は約6万V)と同等の塗着効率を、本実施形態の静電塗装用スプレーガン1(実線A)では点a(この場合、ガン先電圧は2.5〜3万V)で得ることができる。
なお、本発明者の実験により、円環状のアースリング47の径が小さいほど、塗料粒子の帯電効率、ひいては、塗料の塗着効率が向上する傾向にあることが確認された。
【0047】
さらに、本発明者の別の実験によると、アースリング47を塗料吐出口29の先端部から所定の範囲で遠ざけて配設することによって、向上した塗料の塗着効率が低下し難くなり高い値で維持されることが確認された。この場合、アースリング47を、その前端部が、塗料吐出口29の先端部から後方へ20mmの位置を基準として前後10mmの範囲内に位置するように配設すると、塗料の塗着効率が顕著に低下し難くなり高い値で維持されるようになる。その理由は次のように考えられる。
【0048】
即ち、静電塗装用スプレーガン1によって静電塗装を開始した直後では、アースリング47は清浄な状態(当該アースリング47に塗料が付着していない状態)となっている。従って、上述したような作用(ピン電極8とアースリング47との間に形成される電界によって塗料粒子の帯電が促進される作用)によって、塗料の塗着効率を向上させることができる。
【0049】
しかし、帯電した塗料は、接地電位に維持されたアースリング47に引き付けられ、当該アースリング47に付着する。従って、静電塗装を開始してから時間が経過することに伴い、アースリング47に次第に塗料が付着し当該アースリング47が塗料によって覆われてくる。そして、アースリング47表面に塗料が付着してくると、僅かに残ったアースリング47の露出部分(塗料が付着していない部分)や塗料による皮膜の薄い部分に電界が集中するようになり、当該部分における放電電流が増加するようになる。この放電電流の増加によって、ガン先電圧(ピン電極8の出力電圧)が低下するようになり、これが直接的な原因となって塗料の塗着効率が低下するようになる。
【0050】
ところが、アースリング47を塗料吐出口29の先端部から所定の範囲で遠ざけて配設すると、当該アースリング47がピン電極8から十分に且つ適度に離れた状態となることから、アースリング47に塗料が付着したとしても、放電電流を低い値(この場合、70μA以下)に抑えることができる。これにより、塗料の塗着効率が低下してしまうことを回避することができる。
【0051】
図5は、本発明者の実験によって得られたものであり、アースリング47の配設位置(塗料吐出口29の先端部からの距離D)と塗装枚数(静電塗装を開始してからの使用時間)との関係を示す図である。なお、この図5は、ピン電極8に−30kVの電圧を印加して静電塗装を連続して行った場合に得られた実験データを示している。また、この図5では、静電塗装を開始してからの使用時間(経過時間)を塗装枚数に対応付けて示しており、例えば、塗装枚数が75枚となるときの使用時間は2時間である。また、図5には、比較例として、アースリング47を備えていない構成の場合の実験データ、及び、非静電型の構成(塗料を帯電させないで被塗物に噴射する構成)の場合の実験データも示している。
【0052】
また、図6は、図5に示す実験データをグラフ化して示すものである。図6中、一点鎖線aは距離D(塗料吐出口29の先端部からの距離、図2参照)が10mmの場合を示し、破線bは距離Dが20mmの場合を示し、二点鎖線cは距離Dが30mmの場合を示す。また、実線dは距離Dが0mmの場合を示し、破線eは距離Dが40mmの場合を示す。なお、二点鎖線fはアースリング47を備えていない場合を示し、一点鎖線gは非静電型の場合を示している。
【0053】
図5及び図6に示すように、アースリング47を、その前端部が、塗料吐出口29の先端部から後方へ20mmの位置を基準として前後10mmの範囲内に位置するように配設した構成では、静電塗装の開始から2時間経過後(塗装枚数:75枚)においても、塗料の塗着効率を高い値で維持することができる。
【0054】
即ち、アースリング47を塗料吐出口29の先端部から後方へ10mmの位置(塗料吐出口29の先端部から後方へ20mmの位置を基準として前方に10mmの位置)に配設した構成(一点鎖線a参照)では、静電塗装の開始直後における塗料の塗着効率は43.5(%)であり、塗装枚数が75枚に達したとき(静電塗装開始から2時間経過後)における塗料の塗着効率は40.7(%)である。つまり、静電塗装の開始から2時間経過後においても、塗料の塗着効率を高い値(この場合、40%以上)で維持することができる。
【0055】
また、アースリング47を塗料吐出口29の先端部から後方へ20mmの位置に配設した構成(破線b参照)では、静電塗装の開始直後における塗料の塗着効率は43.1(%)であり、塗装枚数が75枚に達したとき(静電塗装開始から2時間経過後)における塗料の塗着効率は40.9(%)である。つまり、静電塗装の開始から2時間経過後においても、塗料の塗着効率を高い値で維持することができる。
【0056】
また、アースリング47を塗料吐出口29の先端部から後方へ30mmの位置(塗料吐出口29の先端部から後方へ20mmの位置を基準として後方に10mmの位置)に配設した構成(二点鎖線c参照)では、静電塗装の開始直後における塗料の塗着効率は40.6(%)であり、塗装枚数が75枚に達したとき(静電塗装開始から2時間経過後)における塗料の塗着効率は39.6(%)である。つまり、静電塗装の開始から2時間経過後においても、塗料の塗着効率を高い値で維持することができる。
【0057】
これに対して、アースリング47を、上記範囲内(塗料吐出口29の先端部から後方へ20mmの位置を基準として前後10mmの範囲内)から外れる位置に配設した構成では、静電塗装の開始から2時間経過後において、塗料の塗着効率を高い値で維持することができない。
【0058】
即ち、アースリング47を塗料吐出口29の先端部から後方へ0mmの位置(塗料吐出口29と面一となる位置)に配設した構成(実線d参照)では、静電塗装の開始直後における塗料の塗着効率は44.2(%)で高い値となるが、塗装枚数が75枚に達したとき(静電塗装開始から2時間経過後)における塗料の塗着効率は34.8(%)で低い値となる。つまり、静電塗装の開始から2時間経過後において、塗料の塗着効率を高い値で維持することができない。
【0059】
また、アースリング47を塗料吐出口29の先端部から後方へ40mmの位置(塗料吐出口29の先端部から後方へ20mmの位置を基準として後方に20mmの位置)に配設した構成(破線e参照)では、静電塗装の開始直後における塗料の塗着効率は37.8(%)で比較的に低い値となり、塗装枚数が75枚に達したとき(静電塗装開始から2時間経過後)における塗料の塗着効率も34.8(%)で低い値となる。つまり、この構成では、アースリング47がピン電極8から離れ過ぎていると考えられ、静電塗装の開始直後においても、静電塗装の開始から2時間経過後においても、塗料の塗着効率を高い値で維持することができない。
【0060】
なお、比較例として示すアースリング47を備えていない構成(二点鎖線f参照)や非静電型の構成(一点鎖線g参照)では、静電塗装の開始直後においても、静電塗装の開始から2時間経過後においても、塗料の塗着効率を高い値で維持することができない。
【0061】
以上に説明したように本実施形態によれば、接地された導電性のアースリング47を、ピン電極8の近傍において当該ピン電極8と間隔を有して配置したので、ピン電極8とアースリング47との間に形成される電界によって塗料粒子の帯電が促進され、これにより、塗料の塗着効率の向上を図ることができる。従って、高電圧発生装置4が発生する電圧を低下させたとしても、従来と同程度に塗料を帯電(静電化)させることができる。
【0062】
そして、このように高電圧発生装置4が発生する電圧を低下させることができるので、接地された導電性のアースリング47を、高電圧が供給されるピン電極8の近傍に支障なく配置することができ、アースリング47とピン電極8との距離を短くすることができる。また、アースリング47をピン電極8の近傍において当該ピン電極8と間隔を有して配置した構造はコンパクトであり、静電塗装用スプレーガン1の小型化,軽量化を図ることができる。
【0063】
また、アースリング47を、その前端部が、塗料吐出口29の先端部から後方へ20mmの位置を基準として前後10mmの範囲内に位置するように配設した構成によれば、アースリング47がピン電極8から十分に且つ適度に離れた状態(遠ざかった状態)となることから、アースリング47に塗料が付着したとしても、放電電流の増加に伴うガン先電圧(ピン電極8の出力電圧)の低下を抑えることができ、塗料の塗着効率が低下してしまうことを回避することができる。これにより、向上した塗着効率を高い値のまま維持することができる。
【0064】
なお、本発明は、上述の一実施形態にのみ限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。
アースリング47は、前端部のみが断面半円状となる導電性部材からなるものに限られるものではなく、適宜変更して実施することができる。例えば、断面円形状となる円環状の導電性部材で構成してもよいし、断面矩形状となる円環状の導電性部材で構成してもよい。また、アースリング47は、円環状の導電性部材に限られるものではなく、例えば、楕円環状の導電性部材で構成してもよい。
【0065】
塗料チューブ26としては、スパイラル状に延びるものや直線状に延びるもの等を、使用する塗料の種類等に応じて適宜使用することができる。
使用可能な塗料は、上記した溶剤系塗料に限られるものではなく、例えば、メタリック系塗料を使用することもできる。
【0066】
本発明は、例えば、パターンエアを噴出しない構成の静電塗装用スプレーガンにも適用することが可能である。要は、帯電させた塗料を被塗物に塗着させる構成の静電塗装用スプレーガン全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
図面中、1は静電塗装用スプレーガン、2はガン本体、3はグリップ、4は高電圧発生装置(高電圧発生手段)、8はピン電極(電極)、12は塗料ホース用ジョイント(塗料供給路)、23は弁室(塗料供給路)、26は塗料チューブ(塗料供給路)、27は塗料ノズル、28は塗料流路、29は塗料吐出口、47はアースリング(アース体)、48は接地経路形成部材を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯電させた塗料を被塗物に塗着させる静電塗装用スプレーガンにおいて、
非導電性材料で構成され、塗料供給源に接続された塗料供給路を有するガン本体と、
前記ガン本体の後端部に設けられ、導電性を有し且つ接地されたグリップと、
前記ガン本体の先端部に設けられ、前記塗料供給路に連通する塗料流路及び当該塗料流路の先端部に形成された塗料吐出口を有する塗料ノズルと、
前記塗料吐出口から吐出される塗料を帯電させるための直流高電圧を発生する高電圧発生手段と、
先端部が前記塗料吐出口よりも前方に突出するように前記塗料ノズルの前記塗料流路内に配置され、前記高電圧発生手段が発生した高電圧が供給される電極と、
前記電極の近傍において当該電極と間隔を有して配設された導電性を有するアース体と、
前記ガン本体に少なくとも一部が露出するようにして設けられ、後端部が前記グリップに接続され、先端部が前記アース体に接続された導電性を有する接地経路形成部材とを備え、
前記アース体は、前記塗料吐出口の先端部から後方へ20mmの位置を基準として前後10mmの範囲内に配設されていることを特徴とする静電塗装用スプレーガン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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