説明

静電塗装装置

【課題】塗布パターンを所望の形状に設定でき、塗装効率を向上できる静電塗装装置を提供すること。
【解決手段】高電圧が印加された状態で回転することで、塗料を帯電させて霧化する回転霧化頭22と、当該回転霧化頭22を囲繞して形成されたエア噴出口411,421を開口部とするエア噴出孔41,42と、を備える静電塗装装置1であって、前記エア噴出口411,421は、前記回転霧化頭22の回転軸Xを中心とする同一円周上に複数配設され、前記エア噴出孔41,42は、前記円周方向に区域410,420ごとに区分けされて複数配設されるとともに、当該区域410,420ごとに異なる傾斜角度で前記円周方向に傾斜して形成されていることを特徴とする静電塗装装置1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電塗装装置に関する。詳しくは、回転霧化頭の先端から塗料を噴霧して静電塗装を行う静電塗装装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車のボディなどを塗装する塗装装置として、回転霧化式の静電塗装装置が知られている。この静電塗装装置は、回転霧化頭に高電圧を印加しつつ回転させ、この状態で、回転霧化頭に導電性の液体塗料を供給する。これにより、液体塗料を帯電させて霧化し、回転霧化頭の先端縁から噴霧して、静電塗装を行う。
【0003】
上記の静電塗装装置では、回転霧化頭から噴霧される塗料の塗布パターンの径は、ほとんど変化しない。このため、被塗装物の形状が複雑化すると、この被塗装物に対して塗料を確実に塗布することができない場合があった。
【0004】
そこで、円弧状に形成した複数のエア穴やエアスリットを回転霧化頭の回転軸に対して対称に設け、これらのエア穴またはエアスリットからエアを噴出する手法が提案されている(特許文献1参照)。この手法によれば、エア穴またはエアスリットから噴出されたエアにより、回転霧化頭から噴霧された塗料の塗布パターン形状を変形できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−54754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の手法では、回転霧化頭の回転軸に対して対称に配置された各エア穴または各エアスリットの形状は同一であるうえ、エア供給源から各エア穴または各エアスリットに供給されるエアの流量も同一であるため、塗布パターンの形状を正対称に変形させることしかできなかった。このため、例えば被塗装物の端部を塗装する際には、オーバースプレーが生じ、塗装効率の低下を招いていた。
【0007】
本発明の目的は、塗布パターンを所望の形状に設定でき、塗装効率を向上できる静電塗装装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、高電圧が印加された状態で回転することで、塗料を帯電させて霧化する回転霧化頭(例えば、後述の回転霧化頭22)と、当該回転霧化頭を囲繞して形成されたエア噴出口(例えば、後述の第1エア噴出口411,第2エア噴出口421)を開口部とするエア噴出孔(例えば、後述の第1エア噴出孔41,第2エア噴出孔42)と、を備える静電塗装装置(例えば、後述の静電塗装装置1)であって、前記エア噴出口は、前記回転霧化頭の回転軸(例えば、後述の回転軸X)を中心とする同一円周上に複数配設され、前記エア噴出孔は、前記円周方向に区域(例えば、後述の第1区域410,第2区域420)ごとに区分けされて複数配設されるとともに、当該区域ごとに異なる傾斜角度で前記円周方向に傾斜して形成されていることを特徴とする。
【0009】
この発明では、エア噴出口を、回転霧化頭の回転軸を中心とする同一円周上に設けた。また、このエア噴出口を開口部とするエア噴出孔を、円周方向に区分けされた区域ごとに異なる傾斜角度で、円周方向に傾斜させて設けた。
これにより、円周方向に傾斜して設けられたエア噴出孔のエア噴出口から噴出されるエアは、回転霧化頭の回転軸に対してねじれた方向に噴出される。また、エア噴出孔の円周方向の傾斜角度が円周方向の区域ごとに異なるため、エアの回転軸に対するねじれ角度が、区域ごとに異なったものとなる。
【0010】
ここで、後述するように、エアのねじれ角度と、回転霧化頭で霧化された塗料の噴出角度を規制する規制力とは相関関係にあり、エアのねじれ角度を調整することによって塗布パターン幅を調整できることが、本発明者らの今回の研究により見出されている。
従って、この発明によれば、回転霧化頭で霧化された塗料の噴出角度を規制する規制力を区域ごとに異なるものとすることができるため、塗布パターンの形状を非対称に変形させることができる。このため、例えば被塗装物の端部を塗装する際に、塗布パターン幅の狭い領域が被塗装物の外側に向くようにして塗装することにより、オーバースプレーを抑制でき、塗装効率を向上できる。
【0011】
この場合、前記エア噴出孔は、前記区域ごとに個別のエア供給手段(例えば、後述の第1エア供給部51,第2エア供給部52)に接続されていることが好ましい。
【0012】
この発明では、エア噴出孔を、円周方向の区域ごとに個別のエア供給手段に接続させ、区域ごとにエアを供給するようにした。
ここで、エア噴出口から噴出されるエアの流量を大きくすると、回転霧化頭で霧化された塗料の噴出角度を規制する規制力が強くなって塗布パターン幅が狭くなり、エアの流量を小さくすると、かかる規制力が弱くなって塗布パターン幅が広くなる。
従って、この発明によれば、エア噴出口から噴出されるエアの流量を区域ごとに異なるものとすることによって、塗料の噴出方向を規制する規制力を区域ごとに異なるものとすることができ、塗布パターンの形状を非対称に変形させることができる。特に、傾斜角度が大きいエア噴出孔に対してエアの供給量を小さくし、傾斜角度の小さいエア噴出孔に対してエアの供給量を大きくすることにより、塗布パターンの形状をさらに非対称に変形させることができる。このため、例えば被塗装物の端部を塗装する際に、塗布パターン幅の狭い領域が被塗装物の外側に向くようにして塗装することにより、オーバースプレーをさらに抑制でき、塗装効率をさらに向上できる。
また、被塗装物の端部以外の一般部分を塗装する際には、円周方向の傾斜角度が大きいエア噴出孔に対してエアの供給量を大きくし、円周方向の傾斜角度が小さいエア噴出孔に対してエアの供給量を小さくすることにより、塗布パターンの形状を対称の円形状に変形させることができ、塗装効率をさらに向上できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、塗布パターンを所望の形状に設定でき、塗装効率を向上できる静電塗装装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る静電塗装装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】前記実施形態に係る静電塗装装置の側面図である。
【図3】前記実施形態に係る静電塗装装置の先端部分の断面図およびエア供給部の概略構成図である。
【図4】エアキャップを先端側から見たときの平面図である。
【図5】第2エア噴出孔の側断面模式図である。
【図6】第2エア噴出孔の平面模式図である。
【図7】塗布パターン幅と塗膜厚との関係を示す図である。
【図8】ねじれ角度と塗布パターン幅との関係を示す図である。
【図9】実施例および比較例の塗布パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る静電塗装装置1の概略構成を示す斜視図である。図2は、静電塗装装置1の側面図である。
静電塗装装置1は、自動車のボディ2を静電塗装するものであり、ロボットアーム3の先端に取り付けられた円柱状のボディ部10と、先端部分が屈曲した略くの字形状でかつこのボディ部10の先端に着脱可能に設けられたヘッド部20と、を備える。
【0016】
図3は、ヘッド部20の先端部分の断面図およびエア供給部50の概略構成図である。
ヘッド部20は、図示しないエアモータと、このエアモータにより回転駆動される回転霧化頭22と、回転霧化頭22に塗料を供給する図示しない塗料供給部と、回転霧化頭22を囲繞するエアキャップ40と、これらを収容するハウジング25と、を備える。
【0017】
回転霧化頭22は、先端側に向かうに従って内径が大きくなる略円錐形状であり、ヘッド部20の先端に設けられる。回転霧化頭22は、回転軸Xを回転軸として回転可能に設けられている。
【0018】
エアキャップ40は、先端側に向かうに従って内径が大きくなる略円錐形状であり、ハウジング25に取り付けられる。エアキャップ40は、回転霧化頭22を囲繞して形成されており、このエアキャップ40の先端面400は、塗料の噴霧方向に対して回転霧化頭22の先端縁よりも後方側で、回転霧化頭22の途中に位置している。
【0019】
エアキャップ40の先端面400には、回転霧化頭22を囲繞して形成された第1エア噴出孔41および第2エア噴出孔42が、それぞれ複数設けられている。第1エア噴出孔41は、第1エア噴出口411を開口部として形成され、第2エア噴出孔42は、第2エア噴出口421を開口部として形成されている。これら第1エア噴出口411および第2エア噴出口421から、回転霧化頭22の回転方向とは反対の反回転方向にエアが噴出される。
【0020】
第1エア噴出孔41および第2エア噴出孔42について、図4を参照して詳しく説明する。
図4は、エアキャップ40を先端側から見たときの平面図である。図4に示すように、エアキャップ40の先端面400は環状であり、この環状の先端面400上には、回転霧化頭22の回転軸Xを中心とする同一円周上に配置された複数の第1エア噴出孔41および第2エア噴出孔42が穿設されている。
【0021】
複数の第1エア噴出孔41は、環状の先端面400を、回転軸Xを通る仮想線Yで均等に区分けしたときの一方の半環状部分(図4の上側部分)に、円周方向に等間隔に配置されている。これら複数の第1エア噴出孔41は、第1区域410を形成する。
複数の第2エア噴出孔42は、他方の半環状部分(図4の下側部分)に、円周方向に等間隔に配置されている。これら複数の第2エア噴出孔42は、第2区域420を形成する。
【0022】
第1エア噴出孔41の開口部である第1エア噴出口411の口径と、第2エア噴出孔42の開口部である第2エア噴出口421の口径は、同一に設定されている。
【0023】
図4に示すように、第1区域410の第1エア噴出孔41および第2区域420の第2エア噴出孔42は、いずれも、円周方向に傾斜して設けられている。
また、第1エア噴出孔41の円周方向の傾斜角度は、第2エア噴出孔42の円周方向の傾斜角度と異なったものとなっている。
【0024】
図5は、第2エア噴出孔42の側断面模式図である。説明の便宜上、図5では、第2エア噴出孔42を実線で示す。
図5に示すように、第2エア噴出孔42は、円周方向、具体的には回転霧化頭22の回転方向(図5の矢印R方向)とは反対の反回転方向に傾斜して設けられている。即ち、第2エア噴出孔42は、ヘッド部20の基端側から先端側に向かうに従い、回転霧化頭22の回転方向とは反対の反回転方向に傾斜して設けられている。
【0025】
図5において、第2エア噴出孔42の中心軸Cと、回転霧化頭22の回転軸Xと平行でかつエアキャップ40の先端面400に垂直な垂線Vとのなす角θc2は、第2エア噴出孔42の円周方向の傾斜角度を表している。本実施形態では、第2エア噴出孔42の円周方向の傾斜角度θc2は40°に設定されている。
また、図示はしないが、第1エア噴出孔41も第2エア噴出孔42と同様に、ヘッド部20の基端側から先端側に向かうに従い、回転霧化頭22の回転方向とは反対の反回転方向に傾斜して設けられている。また、第1エア噴出孔41の円周方向の傾斜角度θc1は、第2エア噴出孔42の傾斜角度θc2とは異なっており、本実施形態では15°に設定されている。
【0026】
図4に戻って、第1区域410の第1エア噴出孔41および第2区域420の第2エア噴出孔42は、いずれも、径方向にも傾斜して設けられている。
また、第1エア噴出孔41の径方向の傾斜角度は、第2エア噴出孔42の径方向の傾斜角度と異なったものとなっている。
【0027】
図6は、第2エア噴出孔42の平面模式図である。
図6に示すように、第2エア噴出孔42は、径方向、具体的には径方向内方に傾斜して設けられている。即ち、第2エア噴出孔42は、ヘッド部20の基端側から先端側に向かうに従い、径方向内方に傾斜して設けられている。
【0028】
図6において、第2エア噴出孔42の中心軸Cと、第2エア噴出口421が設けられている円周の接線Tとのなす角θd2は、第2エア噴出孔42の径方向の傾斜角度を表している。
また、図示はしないが、第1エア噴出孔41も第2エア噴出孔42と同様に、ヘッド部20の基端側から先端側に向かうに従い、径方向内方に傾斜して設けられている。また、第1エア噴出孔41の径方向の傾斜角度θd1は、第2エア噴出孔42の傾斜角度θd2とは異なったものとなっている。
【0029】
なお、径方向の傾斜角度は、エア噴出口の位置やエア噴出孔の円周方向の傾斜角度に応じて、回転霧化頭22の先端縁近傍に向かってエアが噴出されるように、適宜設定される。
【0030】
図3に戻って、エアキャップ40の内部には、第1エア噴出孔41に連通する複数の第1エア通路412と、第2エア噴出孔42に連通する複数の第2エア通路422が設けられている。
第1エア通路412は、後述する第1エア供給部51と接続され、この第1エア供給部51からエアが供給される。
第2エア通路422は、後述する第2エア供給部52と接続され、この第2エア供給部52からエアが供給される。
【0031】
エア供給部50は、第1エア供給部51と、第2エア供給部52と、エア供給源としてのエアコンプレッサ53と、を含んで構成される。
第1エア供給部51は、エアコンプレッサ53で圧縮された所定流量のエアを、エア噴出孔41に連通する第1エア通路412に供給する。
第2エア供給部52は、エアコンプレッサ53で圧縮された所定流量のエアを、エア噴出孔42に連通する第2エア通路422に供給する。
【0032】
第1エア供給部51は、第1エアバルブ511と、第1エア流量計512と、第1エアコントロールユニット(CU)513と、を備える。
第1エアバルブ511は、空気圧により駆動するエアバルブであり、図示しない電空変換機を介して第1エアコントロールユニット513に電気的に接続されている。
第1エア流量計512は、第1エアコントロールユニット513に電気的に接続されている。この第1エア流量計512は、第1エア通路412に供給するエアの流量を検出し、その検出信号を第1エアコントロールユニット513に出力する。
第1エアコントロールユニット513は、第1エア流量計512により検出されたエアの流量に基づいて、第1エアバルブ511の開度を制御する。
【0033】
第1エアコントロールユニット513は、図示しない電空変換機に電気信号を出力する。この電気信号は、電空変換機で空気圧信号に変換されて第1エアバルブ511に出力される。これにより、第1エアバルブ511の開度が正確に制御され、第1エア通路412に供給するエアの流量が正確に制御される。
【0034】
第2エア供給部52は、第2エアバルブ521と、第2エア流量計522と、第2エアコントロールユニット(CU)523と、を備える。
第2エアバルブ521は、空気圧により駆動するエアバルブであり、図示しない電空変換機を介して第2エアコントロールユニット523に電気的に接続されている。
第2エア流量計522は、第2エアコントロールユニット523に電気的に接続されている。この第2エア流量計522は、第2エア通路422に供給するエアの流量を検出し、その検出信号を第2エアコントロールユニット523に出力する。
第2エアコントロールユニット523は、第2エア流量計522により検出されたエアの流量に基づいて、第2エアバルブ521の開度を制御する。
【0035】
第2エアコントロールユニット523は、図示しない電空変換機に電気信号を出力する。この電気信号は、電空変換機で空気圧信号に変換されて第2エアバルブ521に出力される。これにより、第2エアバルブ521の開度が正確に制御され、第2エア通路422に供給するエアの流量が正確に制御される。
【0036】
第1エア供給部51から第1エア通路412にエアを供給すると、供給されたエアは、第1エア噴出孔41から回転霧化頭22の先端縁近傍に向かって噴出され、いわゆるシェーピングエアとなる。このシェーピングエアは、回転霧化頭22の先端縁から噴霧される塗料の飛行パターン、即ち塗料の塗布パターンを変形させる。
同様に、第2エア供給部52から第2エア通路422にエアを供給すると、供給されたエアは、第2エア噴出孔42から回転霧化頭22の先端縁に向かって噴出され、シェーピングエアとなる。このシェーピングエアは、回転霧化頭22の先端縁から噴霧される塗料の飛行パターン、即ち塗料の塗布パターンを変形させる。
【0037】
次に、本実施形態に係る静電塗装装置1の動作について説明する。
まず、エアコンプレッサ53から図示しないエアモータにエアを供給して、回転霧化頭22を高速で回転させる。さらに、図示しない電源からの電流を昇圧して、回転霧化頭22に高電圧の電流を印加する。
【0038】
次いで、図示しない塗料供給部から回転霧化頭22に塗料を供給する。すると、回転霧化頭22の内周面に塗料が吐出され、吐出された塗料は高電圧が印加されて帯電し、回転霧化頭22の遠心力によって霧化状態となり、回転霧化頭22から被塗装物に向かって噴霧される。
【0039】
また、塗料の噴霧と同時に、第1エア供給部51から第1エア通路412を介して第1エア噴出孔41にエアを供給し、第2エア供給部52から第2エア通路422を介して第2エア噴出孔42にエアを供給する。すると、第1エア噴出口411および第2エア噴出口421から、シェーピングエアが回転霧化頭22の先端縁に向かって噴出される。
【0040】
このとき、第1エア噴出口411から噴出されるエアと、第2エア噴出口421から噴出されるエアは、回転軸Xに対して異なるねじれ角度をもって、回転霧化頭22の回転方向とは反対の反回転方向に噴出される。反回転方向に噴出されたエアは、回転霧化頭22の先端縁から噴霧された塗料と衝突し、塗料の微粒子化が促進される。また、これにより、回転霧化頭22の先端縁から噴霧される塗料の飛行パターン、即ち塗料の塗布パターンが、非対称に変形される。
【0041】
また、第1エア供給部51から第1エア通路412を介して第1エア噴出孔41に供給するエアの流量と、第2エア供給部52から第2エア通路422を介して第2エア噴出孔42に供給するエアの流量を、個別に適宜調整する。特に、円周方向の傾斜角度の小さい第1エア噴出孔41に供給するエアの流量を大きくし、傾斜角度の大きい第2エア噴出孔42に供給するエアの流量を小さくすると、塗布パターンがより非対称に変形される。
以上のようにして、静電塗装が行われる。
【0042】
次に、エア噴出孔の円周方向の傾斜角度(以下、ねじれ角度ともいう)と、塗布パターン幅との関係について、図7および図8を参照して説明する。
図7は、ねじれ角度を段階的に変化させたときの塗布パターン幅と塗膜厚との関係を示す図である。図7のデータは、エア噴出口の口径を全て同一とし、エアの供給量を600NL/分としたときの実験データである。図7において、塗布パターン幅0mmの領域は、回転霧化頭の回転軸の延長線上の領域を意味する。
【0043】
図7に示すように、塗膜厚は、塗布パターン幅が狭い領域で厚く、塗布パターン幅が広い領域において薄いことが判る。また、本実験では、全てのエア噴出孔を特定のねじれ角度に設定したため、塗布パターンは正対称であり、図7はほぼ正規分布に従っている。
ここで、塗膜厚が、極大値から当該極大値の1/2となるまでの領域を塗布パターンとし、このときの幅寸法を塗布パターン幅と定義する。
【0044】
図8は、上記のように定義した塗布パターン幅とねじれ角度との関係を示す図である。
図8において、プラスのねじれ角度は、回転霧化頭の回転方向とは反対の反回転方向へのねじれ角度を意味し、マイナスのねじれ角度は、回転方向へのねじれ角度を意味する(以下、同様とする)。
【0045】
図8に示すように、ねじれ角度が13°のときに塗布パターン幅が最も狭く、ねじれ角度が13°以上の範囲では、ねじれ角度が大きくなるに従って塗布パターン幅が広くなることが判る。また、ねじれ角度が13°未満から0°の範囲では、ねじれ角度が小さくなるに従って塗布パターン幅が広くなり、0°から−20°の範囲では、回転方向へのねじれ角度が大きくなるに従って塗布パターン幅が広くなることが判る。従って、この結果に基づいてねじれ角度を調整することにより、塗布パターン幅を調整できることが判る。また、ねじれ角度を、円周方向の区域ごとに異なるものとすることで、塗布パターン幅を非対称に変形できることが判る。
【0046】
本実施形態に係る静電塗装装置1によれば、以下の効果が奏される。
(1)本実施形態では、第1エア噴出口411および第2エア噴出口421を、回転霧化頭22の回転軸Xを中心とする同一円周上に設けた。また、第1エア噴出口411を開口部とする第1エア噴出孔41と、第2エア噴出口421を開口部とする第2エア噴出孔42とを、円周方向に区分けされた区域ごとに設けるとともに、異なる傾斜角度で円周方向に傾斜させて設けた。
これにより、円周方向に傾斜して設けられたエア噴出孔のエア噴出口から噴出されるエアは、回転霧化頭22の回転軸Xに対してねじれた方向に噴出される。また、エア噴出孔の円周方向の傾斜角度を円周方向の区域ごとに異なるため、エアの回転軸Xに対するねじれ角度が区域ごとに異なったものとなる。
【0047】
ここで、上述したように、エアのねじれ角度と、回転霧化頭22で霧化された塗料の噴出角度を規制する規制力とは相関関係にあり、エアのねじれ角度を調整することによって、塗布パターン幅を調整できることが本発明者らの研究により見出されている。
従って、本実施形態によれば、回転霧化頭22で霧化された塗料の噴出角度を規制する規制力を区域ごとに異なるものとすることができるため、塗布パターンの形状を非対称に変形させることができる。このため、例えば被塗装物の端部を塗装する際に、塗布パターン幅の狭い領域が被塗装物の外側に向くようにして塗装することにより、オーバースプレーを抑制でき、塗装効率を向上できる。
【0048】
(2)また、本実施形態では、第1区域410を形成する第1エア噴出孔41に第1エア供給部51を接続し、第2区域420を形成する第2エア噴出孔42に第2エア供給部52を接続して、区域ごとにエアの供給量を制御できるようにした。
ここで、エア噴出口から噴出されるエアの流量を大きくすると、回転霧化頭22で霧化された塗料の噴出角度を規制する規制力が強くなって塗布パターン幅が狭くなり、エアの流量を小さくすると、かかる規制力が弱くなって塗布パターン幅が広くなる。
従って、本実施形態によれば、エア噴出口から噴出されるエアの流量を区域ごとに異なるものとすることによって、塗料の噴出方向を規制する規制力を区域ごとに異なるものとすることができ、塗布パターンの形状を非対称に変形させることができる。特に、傾斜角度が大きい第2エア噴出孔42に対してエアの供給量を小さくし、傾斜角度の小さい第1エア噴出孔41に対してエアの供給量を大きくすることにより、塗布パターンの形状をさらに非対称に変形させることができる。このため、例えば被塗装物の端部を塗装する際に、塗布パターン幅の狭い部分が被塗装物の外側に向くようにして塗装することにより、オーバースプレーをさらに抑制でき、塗装効率をさらに向上できる。
また、被塗装物の端部以外の一般部分を塗装する際には、円周方向の傾斜角度が大きい第2エア噴出孔42に対してエアの供給量を大きくし、円周方向の傾斜角度が小さい第1エア噴出孔41に対してエアの供給量を小さくすることにより、塗布パターンの形状を対称の円形状に変形させることができ、塗装効率をさらに向上できる。
【0049】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
【0050】
例えば、上記実施形態では第1区域410および第2区域420の2つの区域を設けたが、これに限定されない。具体的には、第1エア噴出孔41や第2エア噴出孔42とは円周方向の傾斜角度が異なる第3エア噴出孔および第4エア噴出孔を設け、第3エア噴出孔から形成される第3区域および第4エア噴出孔から形成される第4区域を設けてもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、第1エア噴出孔41および第2エア噴出孔42を、回転霧化頭22の回転方向とは反対の反回転方向に傾斜させたが、これに限定されない。これらのエア噴出孔を、回転霧化頭22の回転方向に傾斜させてもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、第1エア噴出孔41および第2エア噴出孔42を、径方向内方に傾斜させたが、これに限定されない。例えば、これらのエア噴出孔を、径方向外方に傾斜させてもよい。
【実施例】
【0053】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本実施例における塗布パターン幅は、上述した定義に基づくものとした。
【0054】
[実施例1および比較例1〜2]
上記実施形態に係る静電塗装装置1を用い、第1エア噴出孔41(ねじれ角度15°)へのエア供給量および第2エア噴出孔42(ねじれ角度40°)へのエア供給量を、いずれも600NL/分に設定して静電塗装を実施した。このときの塗布パターン幅を測定し、これを実施例1とした。
【0055】
ねじれ角度15°のエア噴出孔のみでエア噴出孔を構成した以外は静電塗装装置1と同様の構成の静電塗装装置を用い、エアの供給量を600NL/分に設定して静電塗装を実施した。このときの塗布パターン幅を測定し、これを比較例1とした。
【0056】
ねじれ角度40°のエア噴出孔のみでエア噴出孔を構成した以外は静電塗装装置1と同様の構成の静電塗装装置を用い、エアの供給量を600NL/分に設定して静電塗装を実施した。このときの塗布パターン幅を測定し、これを比較例2とした。
【0057】
実施例1の塗布パターンを、図9(a)に示し、比較例1および比較例2の塗布パターンを、図9(b)および(c)に示した。
比較例1と比較例2とを比較すると、比較例1の塗布パターンは直径がおよそ80mmの円であったのに対して、比較例2の塗布パターンは直径がおよそ320mmの円であった。この結果から、エア供給量を一定とした場合、エア噴出孔のねじれ角度が15°〜40°の範囲では、ねじれ角度が大きいほど塗布パターン幅が広くなることが判った。
【0058】
また、実施例1の塗布パターンは、比較例1の塗布パターンと比較例2の塗布パターンとを組み合わせて形成された非対称な塗布パターンであった。この結果から、ねじれ角度が区域ごとに異なるエア噴出孔を備える静電塗装装置1によれば、非対称な塗布パターンを形成できることが確認された。
【0059】
[実施例2および比較例3]
上記実施形態に係る静電塗装装置1を用い、第1エア噴出孔41(ねじれ角度15°)へのエア供給量を700NL/分に設定し、第2エア噴出孔42(ねじれ角度40°)へのエア供給量を400NL/分に設定して静電塗装を実施した。このときの塗布パターン幅を測定し、これを実施例2とした。
【0060】
比較例1と同様の構成の静電塗装装置を用い、エアの供給量を700NL/分に設定して静電塗装を実施した。このときの塗布パターン幅を測定し、これを比較例3とした。
【0061】
実施例2の塗布パターンを図9(d)に示し、比較例3の塗布パターンを図9(e)に示した。
比較例3を上記の比較例1(図9(b))と比較すると、同一の装置を用いたにも関わらず、比較例1よりもエア供給量を大きくした比較例3の方が塗布パターン幅が狭いことが確認された。また、実施例2と上記の実施例1とを比較すると、同一の装置を用いたにも関わらず、ねじれ角度の小さい第1エア噴出孔41へのエア供給量を大きくし、ねじれ角度の大きい第2エア噴出孔42へのエア供給量を小さくした実施例2では、実施例1に比して塗布パターンの形状がさらに非対称に変形することが確認された。
これらの結果から、区域ごとにエアの供給量を異なるものとすることにより、塗布パターン形状をさらに非対称に変形できることが確認された。
【符号の説明】
【0062】
1…静電塗装装置
22…回転霧化頭
41…第1エア噴出孔(エア噴出孔)
42…第2エア噴出孔(エア噴出孔)
51…第1エア供給部(エア供給手段)
52…第2エア供給部(エア供給手段)
410…第1区域(区域)
420…第2区域(区域)
411…第1エア噴出口(エア噴出口)
421…第2エア噴出口(エア噴出口)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧が印加された状態で回転することで、塗料を帯電させて霧化する回転霧化頭と、
当該回転霧化頭を囲繞して形成されたエア噴出口を開口部とするエア噴出孔と、を備える静電塗装装置であって、
前記エア噴出口は、前記回転霧化頭の回転軸を中心とする同一円周上に複数配設され、
前記エア噴出孔は、前記円周方向に区域ごとに区分けされて複数配設されるとともに、当該区域ごとに異なる傾斜角度で前記円周方向に傾斜して形成されていることを特徴とする静電塗装装置。
【請求項2】
請求項1記載の静電塗装装置において、
前記エア噴出孔は、前記区域ごとに個別のエア供給手段に接続されていることを特徴とする静電塗装装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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