説明

静電塗装装置

【課題】水性塗料等の導電性塗料を使用して静電塗装を行う場合において、外部電極と被塗物の間で形成される電界の強度および塗料粒子の帯電量を増大させて、塗着効率の向上を図ることができる静電塗装装置を提供する。
【解決手段】塗料を霧化させるための霧化部たるベルカップ4aを有する塗装ガン4と、被塗物たるワーク2との間で電界Eを形成する針状電極7を有する外部電極6と、針状電極7に高電圧を印加する高電圧発生装置5と、該高電圧発生装置5により印加する高電圧を制御する制御装置10と、を備える静電塗装装置1であって、導電性塗料を使用して静電塗装を行うための静電塗装装置1であって、針状電極7の先端部7aと塗装ガン4(より詳しくは、ベルカップ4a)の間を遮蔽する、絶縁体で構成される遮蔽部たる周縁部8dを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性塗料を使用して静電塗装を行う静電塗装装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、塗装分野においては、環境負荷低減等のために、溶剤系塗料から水性塗料への転換を図る取り組みがなされており、静電塗装の分野においても、水性塗料を採用することが一般的になっている。
水性塗料等の導電性塗料を用いて静電塗装を行う場合、従来から一般的に採用されている塗装ガンに高電圧を印加するタイプの静電塗装装置では、塗料を介して塗料の供給経路等に電流がリークしてしまうため、静電塗装が成立せず、従来の静電塗装装置をそのまま使用することができなかった。
【0003】
そこで、導電性塗料を用いて静電塗装を行う場合には、塗装ガンの周囲に外部電極を配置した、所謂外部電極タイプの静電塗装装置が一般的に使用されている。
外部電極を有する静電塗装装置では、塗装ガンと外部電極を電気的に絶縁しており、外部電極と被塗物との間で電界を形成するとともに、噴霧された塗料粒子に外部電極から放出された負の電荷(電子)を与えることによって、塗料粒子を帯電させて、静電塗装を成立させるようにしている。
そして、導電性塗料を使用する静電塗装装置の改良を図るべく、種々の技術が検討されており、例えば、以下に示す特許文献1にその技術が開示され公知となっている。
【0004】
特許文献1に開示されている従来技術では、導電性塗料を噴霧する塗装機がアースに接続され、該塗装機の周囲に沿って平行に電気的絶縁状態で配設した複数本の針状電極に、塗装機から噴霧した塗料粒子を荷電する高電圧が印加されるとともに、針状電極との間に静電界を形成する被塗物に、針状電極とは逆極性の高電圧を印加する静電塗装装置が示されている。
このような静電塗装装置を用いることによって、針状電極に印加する電圧を低く抑えることができるため、塗装機と針状電極の保持すべき絶縁距離を小さくすることができ、針状電極から塗装機に電流がリークしにくい構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平4−134451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示される静電塗装装置等、導電性塗料を使用するための従来の外部電極を備えた静電塗装装置では、外部電極に対する印加電圧を高めると、被塗物よりも外部電極に接近している塗装機(塗装ガン)との間で電界が形成されてしまい、塗装機に電流がリークしてしまうため、思うように印加電圧を高めることができないという問題があった。
【0007】
従って、従来の外部電極を備えた静電塗装装置では、外部電極に対する印加電圧を低く抑えざるを得ず、外部電極と被塗物との間に形成される電界の強度が、非導電性塗料を使用する静電塗装装置を用いた場合に比して低くなっていた。またこれにより、塗料粒子の帯電量も非導電性塗料を使用する静電塗装装置を用いた場合に比して小さくなっていた。
このため、導電性塗料を使用して静電塗装を行う場合には、非導電性塗料を使用する静電塗装装置を用いた場合に比して、塗料の塗着効率が悪くなるという問題があった。尚、ここでいう「塗着効率」とは、噴霧した塗料量に対する被塗物に塗着した塗料量の比を示す値である。
【0008】
本発明は、斯かる現状の課題を鑑みてなされたものであり、水性塗料等の導電性塗料を使用して静電塗装を行う場合において、外部電極と被塗物の間で形成される電界の強度および塗料粒子の帯電量を増大させて、塗着効率の向上を図ることができる静電塗装装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0010】
即ち、請求項1においては、塗料を霧化させるための霧化部を有する塗装ガンと、被塗物との間で電界を形成する針状電極を有する外部電極と、前記針状電極に高電圧を印加する高電圧発生装置と、該高電圧発生装置により印加する高電圧を制御する制御装置と、を備え、導電性塗料を使用して静電塗装を行うための静電塗装装置であって、前記針状電極の先端部と前記塗装ガンの間を遮蔽する、絶縁体で構成される遮蔽部を備えるものである。
【0011】
請求項2においては、前記外部電極は、前記針状電極を内蔵して保持するための、絶縁体で構成される保持部を備え、該保持部には、凹状の窪みである凹部を形成し、前記保持部に内蔵する前記針状電極の先端部を、前記凹部が包含するように前記凹部内に露出させ、前記遮蔽部を、前記凹部の外殻により形成するものである。
【0012】
請求項3においては、前記塗装ガンの霧化部を、絶縁体で構成するものである。
【0013】
請求項4においては、前記制御装置は、前記高電圧発生装置により印加する高電圧として、静電塗装に適した電圧である第一の印加電圧と、該第一の印加電圧に比して低い電圧である第二の印加電圧が設定されるとともに、前記第一の印加電圧と前記第二の印加電圧を、所定のパルス幅、パルス間隔、振幅でパルス状に切り換え可能とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0015】
請求項1においては、外部電極とベルカップの間で電界が形成されることを防止でき、外部電極に対する印加電圧を高めて、外部電極と被塗物との間で形成する電界の強度を高めることができる。これにより、塗料の帯電量および塗料に作用するクーロン力を増大させて、塗着効率の向上を図ることができる。
【0016】
請求項2においては、遮蔽部を容易に形成することができる。
【0017】
請求項3においては、塗料の帯電量を増大させることができる。これにより、塗料に作用するクーロン力を増大させて、塗着効率の向上を図ることができる。
【0018】
請求項4においては、外部電極と被塗物との間で形成する電界の強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る静電塗装装置の全体構成を示す模式図。
【図2】本発明の第一の実施形態に係る静電塗装装置が備える外部電極を示す模式図。
【図3】本発明の第一の実施形態に係る静電塗装装置による静電塗装の状況を示す模式図。
【図4】本発明の第二の実施形態に係る静電塗装装置による静電塗装の状況を示す模式図。
【図5】本発明の第三の実施形態に係る静電塗装装置による静電塗装の状況を示す模式図。
【図6】印加電圧の時間変化と放電電流の時間変化の関係を示す図、(a)従来の静電塗装装置の場合を示す図、(b)本発明の第三の実施形態に係る静電塗装装置の場合を示す図。
【図7】従来の静電塗装装置による電界の形成状況を示す模式図、(a)電圧Vを定常的に印加した場合を示す模式図、(b)電圧Vを定常的に印加した場合を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、発明の実施の形態を説明する。
まず始めに、塗着効率の向上を実現する静電塗装装置の第一の実施形態について、図1〜図3を用いて説明をする。
図1に示す如く、本発明に係る静電塗装装置の第一の実施形態である静電塗装装置1は、水性塗料を使用して、被塗物たるワーク2に静電塗装を行うための装置であって、ロボット3、塗装ガン4、高電圧発生装置5、外部電極6・6・・・、制御装置10等からなる構成としている。ここで、ワーク2は接地(アースGに接続)されており、電位を「0」としている。
尚、本実施形態では、水性塗料を使用して静電塗装を行う静電塗装装置1を例示しているが、本発明に係る静電塗装装置において使用する塗料を水性塗料に限定するものではなく、導電性を有する塗料全般を使用することが可能である。
【0021】
ロボット3は、ワーク2に対して、塗装ガン4を所望する速度および姿勢で変位させることができる多関節型ロボットであり、アーム3a、基台部3b等からなる構成としている。そして、アーム3a先端の手先部3cにおいて、塗装ガン4を支持している。
尚、本実施形態では、静電塗装装置1を構成するロボット3が多関節型ロボットである場合を例示しているが、本発明に係る静電塗装装置を構成するロボットの態様をこれに限定するものではない。
【0022】
塗装ガン4は、ワーク2に向けて塗料を噴霧して、ワーク2に塗料を塗布することができる塗装装置であって、ベルカップ4a、ガン本体4b等からなる構成としている。
塗装ガン4は、ベルカップ4aをエアモータ等の駆動手段(図示せず)により回転させて、ベルカップ4aの内面に展延させた液状の塗料を遠心力により微粒化させることができる回転霧化型の塗装装置である。
また、ガン本体4bには、塗料を供給するための手段である塗料配管(図示せず)や、シェーピングエアを供給するための手段であるエア配管(図示せず)等、もさらに接続されている。
【0023】
尚、本実施形態では、静電塗装装置1を構成する塗装ガン4が回転霧化型の塗装ガンである場合を例示しているが、本発明に係る静電塗装装置を構成する塗装ガンの形式をこれに限定するものではなく、ヘッドが回転しない(例えば、スプレーノズル)形式の塗装ガンであってもよく、その他の種々の態様とすることが可能である。
【0024】
高電圧発生装置5は、所謂カスケードと呼ばれる昇圧回路5aと、電圧を発生させることができる電源部5bを備え、電源部5bにより発生させた電圧を、昇圧回路5aにより昇圧して、数十kV程度の静電高電圧を発生させることができる装置である。
尚、以下の説明では、高電圧発生装置5により印加する静電高電圧の値を電圧Vとして規定し、電圧Vを印加したときに生じる放電電流の値を電流Iとして規定する。また、放電電流Iが流れることによって形成される静電界を電界Eとして規定する。また、以下の説明では、発生させる静電高電圧の極性が負である場合を例示して説明をする。
【0025】
そして、高電圧発生装置5は、ケーブルにより外部電極6に内蔵される針状電極7と電気的に接続しており、針状電極7に対して電圧Vを印加することができる。
高電圧発生装置5によって、針状電極7に負の電圧Vを印加すると、針状電極7からアースGに接地された(即ち、電位が0Vである)ワーク2に向けて放電電流Iが流れる。
そして、針状電極7からワーク2に向かって電位の勾配を有する静電界たる電界Eが形成され、この電界Eを利用して、ワーク2に対する静電塗装を行うことができる。
【0026】
図1および図2に示す如く、外部電極6は、針状電極7、保持部8、支持ステー9等を備えており、複数の外部電極6・6・・・を1組として使用される。尚、図1上には、説明の便宜上、2本の外部電極6・6のみを図示しているが、本発明に係る静電塗装装置を構成する外部電極の本数をこれに限定するものではない。
【0027】
針状電極7は、導電性材料により形成される線状の部材であり、コロナ放電を生じさせる側の一端部を尖らせた態様の先端部7aを形成し、また他端部に高電圧発生装置5と電気的に接続するための端子である接続部7bを備えている。そして、針状電極7は保持部8に内蔵され保持されている。
【0028】
保持部8は、針状電極7を保持するための略円柱状に形成される部位であり、樹脂等の絶縁体により構成される。保持部8は、その略軸心上に針状電極7を内蔵して保持している。尚、針状電極7は、必ずしも保持部8の略軸心上に配置する必要はなく、保持部8の軸心に対して偏心して配置することもできる。
【0029】
また、保持部8の軸心方向の一端部8aには、軸心方向の外側に向けて開放される凹状の空隙部である凹部8bを形成している。
凹部8bは、軸心方向の最も凹んだ部位である底部8cと、凹部8bの底部8cから一端部8aに至るまでの外殻を形成する周縁部8d、により形成される。
【0030】
そして、保持部8に内蔵される針状電極7は、先端部7aが凹部8bに包含するように、底部8cから一端部8a側に向けて突設しており、凹部8bにおいて露出している。また、針状電極7は、保持部8の他端部8e側において接続部7bを突出している。
【0031】
支持ステー9は、保持部8を塗装ガン4に固定するための部材であり、絶縁体により構成されている。そして、支持ステー9によって塗装ガン4に対して保持部8を固定することにより、針状電極7と塗装ガン4とを電気的に絶縁した状態で、塗装ガン4に対して針状電極7を一体的に付設する構成としている。
【0032】
そして、外部電極6は、先端部7aが、塗装ガン4に対して周縁部8dの影となるように、保持部8の角度や配置位置等を調整して、支持ステー9によって固定されている。例えば、本実施形態では、外部電極6は、保持部8と塗装ガン4の各軸心が平行となるように、また保持部8の前記軸心方向の位置がベルカップ4aの先端部と略同じ位置となるように、保持部8を固定して、先端部7aが、塗装ガン4に対して周縁部8dの影となるように配置している。
このような構成により、凹部8bは、針状電極7からワーク2に向けて形成される電界Eを阻害せず、かつ、針状電極7から塗装ガン4(より詳しくは、ベルカップ4a)に向かう電界を形成させないように阻害する構成としている。
【0033】
尚、凹部8bの仕様(開口形状・開口寸法・開口位置・深さ等)および先端部7aの配置(軸心方向の突設高さ・軸心位置等)は、所望する電界Eの有効範囲・強度や、ベルカップ4aとの位置関係等を考慮して、適宜設定する。
【0034】
また、高電圧発生装置5には、制御装置10が、接続されている。
制御装置10は、高電圧発生装置5によって発生させる静電高電圧(即ち、電圧V)をコントロールするための装置である。
静電塗装装置1は、制御装置10から出力される指令信号に基づいて、高電圧発生装置5によって発生させる電圧Vを制御する構成としている。
【0035】
次に、本発明の第一の実施形態に係る静電塗装装置1による電界の形成状況について、図3を用いて説明をする。
図3に示す如く、静電塗装装置1では、高電圧発生装置5により針状電極7に電圧Vを印加すると、保持部8の凹部8bに内包されている先端部7aからワーク2に向けて、放電電流Iが流れるとともに、塗装ガン4からワーク2に向けて噴霧される塗料の周囲に電界Eが形成される。電界Eは、例えば、図3に示すような電気力線として表される。
【0036】
本発明の第一の実施形態に係る静電塗装装置1において、先端部7aは、凹部8bに内包されているため、先端部7aに対して、塗装ガン4のベルカップ4aは、周縁部8dの影となっている。
このため、先端部7aからベルカップ4aに向けて放電電流が生じることがなく、電界を生じることもない。
【0037】
また、凹部8bは、ワーク2に向けて開放されており、先端部7aからワーク2に向けて流れる放電電流Iを阻害することがなく、またこれにより形成される電界Eを阻害することもない。
このため、針状電極7に印加した電圧Vは、ベルカップ4aからのリーク電流を生じることなく、先端部7aとワーク2の間に電界Eを形成することに費やされるため、電圧Vを高めることによって、確実に電界Eの強度を高めることができる。
【0038】
電界中の塗料粒子xに作用するクーロン力Fは、塗料粒子xの帯電量をq、電界(強度)をEとするとき、F=qEとして表される。
ワーク2と針状電極7の間に形成される電界Eの強度が増大すると、塗料粒子xが電界Eから取得する負の電荷(電子)が増えるため、塗料粒子xの帯電量qも増大する。
このため、塗料粒子xは、電界Eの強度の増大および帯電量qの増大による相乗効果によって、従来に比してより大きいクーロン力Fが作用するため、ワーク2により強い力で引き付けられ、その結果、塗着効率を向上させることができる。
【0039】
このように、本発明の第一の実施形態に係る静電塗装装置1では、外部電極6を構成する保持部8に凹部8bを形成し、凹部8bの内部で針状電極7の先端部7aを露出することにより、先端部7aとベルカップ4aの間を遮蔽する遮蔽部を、凹部8bの外殻を形成する周縁部8dによって簡易に実現する構成としている。
【0040】
尚、本実施形態では、先端部7aとベルカップ4aの間を遮蔽する遮蔽部を、保持部8の一部である周縁部8dによって形成する構成としているが、例えば、先端部7aとベルカップ4aの間に、絶縁体で構成される遮蔽部となる部材を保持部8や塗装ガン4から別途突設させる態様等とすることも可能であり、本発明に係る静電塗装装置における遮蔽部の態様をこれに限定するものではない。
【0041】
即ち、本発明の第一の実施形態に係る静電塗装装置1は、塗料を霧化させる霧化部たるベルカップ4aを有する塗装ガン4と、被塗物たるワーク2との間で電界Eを形成する針状電極7を有する外部電極6と、針状電極7に高電圧を印加する高電圧発生装置5と、該高電圧発生装置5により印加する高電圧を制御する制御装置10と、を備え、導電性塗料を使用して静電塗装を行うための静電塗装装置であって、針状電極7の先端部7aと塗装ガン4(より詳しくは、ベルカップ4a)の間を遮蔽する、絶縁体で構成される遮蔽部たる周縁部8dを備えるものである。
このような構成により、外部電極6とベルカップ4aの間で電界が形成されることを防止でき、外部電極6に対して印加する電圧Vを高めて、外部電極6とワーク2との間で形成する電界Eの強度を高めることができる。これにより、塗料の帯電量qおよび塗料に作用するクーロン力Fを増大させて、塗着効率の向上を図ることができる。
【0042】
また、本発明の第一の実施形態に係る静電塗装装置1において、外部電極6は、針状電極7を内蔵して保持するための、絶縁体で構成される保持部8を備え、該保持部8には、凹状の窪みである凹部8bを形成し、保持部8に内蔵する針状電極7の先端部7aを、凹部8bが包含するように凹部8b内に露出させ、遮蔽部を、凹部8bの外殻である周縁部8dにより形成するものである。
このような構成により、先端部7aとベルカップ4aの間を遮蔽する遮蔽部を容易に形成することができる。
【0043】
次に、塗着効率の向上を実現する静電塗装装置の第二の実施形態について、図4を用いて説明をする。
図4(a)に示す如く、本発明に係る静電塗装装置の第二の実施形態である静電塗装装置11は、塗装ガン14を備えており、塗装ガン14は、ベルカップ14a、ガン本体14b等を備えている。
ベルカップ14aは、樹脂等の絶縁体により構成しており、この点で、本発明に係る静電塗装装置の第一の実施形態である静電塗装装置1と相違している。尚、ベルカップ14a以外のその他の構成は静電塗装装置1と共通であるため、説明は省略する。
【0044】
次に、本発明の第二の実施形態に係る静電塗装装置11を用いた静電塗装の状況について、図4を用いて説明をする。
【0045】
図4(b)に示す如く、本発明の第一実施形態に係る静電塗装装置1では、塗装ガン4のベルカップ4aが絶縁体で構成されていない。
このため、ベルカップ4aから噴霧される塗料粒子xは、外部電極6から放出される負の電荷の影響により、ベルカップ4aから離れるときに誘導帯電が生じるため、ベルカップ4aから噴霧された直後の塗料粒子xは、一旦正極側に帯電される。
そしてその後、外部電極6から放出される負の電荷の影響により、塗料粒子xには次々と負の電荷が付与され、帯電量が一旦「0」となり、その後、負極側に帯電される。
【0046】
一方、図4(a)に示す如く、本発明の第二の実施形態に係る静電塗装装置11では、塗装ガン14のベルカップ14aが絶縁体で構成されている。
このため、ベルカップ14aから噴霧される塗料粒子xは、ベルカップ14aから離れるときに誘導帯電が生じないため、ベルカップ14aから噴霧された直後の塗料粒子xの帯電量は「0」となっている。
そしてその後、外部電極6から放出される負の電荷の影響により、塗料粒子xには次々と負の電荷が付与され、ベルカップ14aから噴霧された直後から、塗料粒子xは負極側に帯電される。
【0047】
即ち、本発明の第二の実施形態に係る静電塗装装置11を用いた場合には、ベルカップ14aから噴霧された直後の早期から塗料粒子xを負極側に帯電させることができるため、本発明の第一の実施形態に係る静電塗装装置1を用いた場合に比して、塗料粒子xの帯電量qを増大させることができる。
【0048】
このため、電界Eを通過して塗着される塗料粒子xは、帯電量qの増大によって、従来に比してより大きいクーロン力Fが作用するため、ワーク2により強い力で引き付けられ、その結果、塗着効率を向上させることができる。
つまり、本発明の第二の実施形態に係る静電塗装装置11では、塗料粒子xの帯電量qを増大させることができるため、塗着効率の向上を図ることができる。
【0049】
即ち、本発明の第二の実施形態に係る静電塗装装置11では、塗装ガン14の霧化部であるベルカップ14aを、絶縁体で構成している。
このような構成により、塗料粒子xの帯電量qを増大させることができる。これにより、塗料粒子xに作用するクーロン力Fを増大させて、塗着効率の向上を図ることができる。
【0050】
次に、塗着効率の向上を実現する静電塗装装置の第三の実施形態について、図5〜図7を用いて説明をする。
図5に示す如く、本発明に係る静電塗装装置の第三の実施形態である静電塗装装置21は、制御装置30を備えている。
制御装置30は、高電圧発生装置5によって発生させる静電高電圧(即ち、電圧V)をパルス状に変化させることができる制御装置であり、この点において、本発明に係る静電塗装装置の第一および第二の実施形態に係る各静電塗装装置1・11が備える制御装置10と相違している。尚、制御装置30以外のその他の構成は静電塗装装置1と共通であるため、説明は省略する。
【0051】
また、本実施形態では、制御装置30以外のその他の構成が本発明の第一の実施形態に係る静電塗装装置1と共通である場合を例示しているが、本発明の第二の実施形態に係る静電塗装装置11と共通である構成(即ち、絶縁体で構成されるベルカップ14aを採用する構成)とすることも可能である。
【0052】
制御装置30は、高電圧発生装置5によって発生させる静電高電圧(即ち、電圧V)をコントロールするための装置であり、高電圧発生装置5に対してパルス条件を含む信号を出力することができる。
静電塗装装置21では、制御装置30から出力される指令信号に基づいて、高電圧発生装置5によって発生させる電圧Vをパルス状に切り換える構成としている。
尚、ここで言う「パルス状」とは、最大値か最小値のどちらかをとるように周期的に振幅が変化する状態を言い、矩形波状や正弦波状の変化等を含む概念である。
また、ここで言う「パルス条件」とは、パルス波形を決定するための各要素であって、振幅(電圧差)とパルス周期(パルス幅およびパルス間隔)を含んでいる。
【0053】
制御装置30は、ロボット3と接続されており、該ロボット3から塗装ガン4の動作状態(変位位置、姿勢、変位速度等)を示す信号がリアルタイムで入力される構成としている。
また、制御装置30には、ワーク2の仕様や塗装条件(使用する塗料の種類、噴霧量、等の各種条件)に係る情報が予め記憶されており、ワーク2の仕様や塗装条件に係る情報と塗装ガン4の動作状態を示す信号に基づいて、制御装置30によって、静電塗装状況を判断するとともに、そのときの最適なパルス条件をリアルタイムで演算して求める構成としている。
そして、制御装置30は、リアルタイムで求めたそのときの最適なパルス条件に係る指令信号を、高電圧発生装置5に出力する構成としている。
【0054】
尚、ここで言う「塗料の種類」とは、含有成分の相違により帯電性能や導電率が異なる塗料を、種類が異なる塗料として扱う概念であり、例えば、クリア塗料とベース塗料を異なる種類の塗料として扱うようにしている。
【0055】
尚、本実施形態では、制御装置30によって、そのときの静電塗装状況に応じてリアルタイムで指令信号を求める場合を例示しているが、あるいは、塗装開始から塗装終了までの一連の静電塗装工程に応じたパルス条件を予め制御装置30にティーチングしておき、ティーチング内容に従って、制御装置30により高電圧発生装置5に指令信号を出力する態様とすることも可能である。
【0056】
ここで、静電塗装装置による電界Eの形成状況について、説明をする。
図6(a)に示す如く、静電塗装を行う場合において、針状電極7に印加する電圧として従来から一般的に採用されてきた第一の電圧Vを電圧Vとして規定し、電圧Vを定常的に印加したときに生じる放電電流Iの値を電流Iと規定する。また、針状電極7に印加する電圧として従来から一般的に採用されている電圧Vに比して低い第二の電圧Vを電圧Vとして規定し、電圧Vを定常的に印加したときに生じる放電電流Iの値を電流Iと規定する。
そして、電圧Vを印加するときと電圧Vを印加するときの各放電電流I・Iの差をΔI(即ち、ΔI=I−I)と規定する。
【0057】
一方、図6(b)に示す如く、静電塗装装置21では、高電圧発生装置5によって針状電極7に印加する電圧Vの値は、従来と同じ各電圧V・Vとしつつ、制御装置30によって、各電圧V・Vをパルス状に切り換えて印加するようにしている。
また、パルス状に各電圧V・Vを切り換えて印加すると、このときに生じる放電電流Iは尖鋭部を有する略三角波のパルス状に変化する。そして、このとき生じる放電電流Iのピーク値をピーク電流Iとして規定する。
【0058】
各電圧V・Vを切り換えて印加するパルスの態様は、各電圧V・Vの電圧差である振幅ΔV、高圧側の電圧Vを印加する一単位の時間であるパルス幅tと、低圧側の電圧Vを印加する一単位の時間であるパルス間隔t、によって規定することができる。また、このように規定すると、パルス周期Tは、T=t+tと表すことができる。
【0059】
そして、このピーク電流Iは、パルス条件を調整することによって、定常的に電圧Vを印加するときの放電電流Iに比して大きい値とすることができる。
即ち、静電塗装装置21により静電塗装を行えば、高電圧発生装置5により発生させる電圧Vの値は従来と同じ各電圧V・Vとしながら、より高い放電電流I(ピーク電流I)を得ることが可能になる。
【0060】
ピーク電流Iが放電電流Iに比して高くなる原因は、定常的に各電圧V・Vを印加している場合には、電界Eの領域が既に電子で満たされているため大きな電子の流れが生じないが、一方、各電圧V・Vをパルス状に切り換えて印加する場合には、電界Eの領域に急激な電子の流れが生じるため、定常的に各電圧V・Vを印加している場合に比して大きな電流が流れるものと考えられる。
【0061】
また、電界Eの強度は、放電電流Iの強さに応じて変化するため、従来に比して高いピーク電流Iが流れたときには、より高い強度を有する電界Eを形成することができる。
ここで、各電圧V・Vをパルス状に印加するときの放電電流Iの差をΔI(即ち、ΔI=I−I)として規定する。
【0062】
次に、本発明の第三の実施形態に係る静電塗装装置21を用いて、印加電圧をパルス状に変化させた場合における静電塗装の状況について、説明をする。
図7に示す如く、高電圧発生装置5により、従来のように定常的な電圧Vを針状電極7に印加する(図6(a)参照)と、ワーク2と針状電極7の間で、図7(a)に示すような電気力線で表される電界Eが形成される。尚、電気力線の間隔がより密になっている部分においては、電界Eの強度がより強くなっている。
【0063】
電界Eの有効範囲Wは、塗装ガン4から噴霧される塗料の拡散パターン等を考慮して、全ての塗料粒子xが電界Eの有効範囲Wに包含されながらワーク2に到達できる範囲となるように、電圧Vを設定している。
尚、ここで言う「電界の範囲」とは、塗料を塗着させるために必要なクーロン力Fを付与し得る強度を有する電界の範囲を意味しており、電界が存在する範囲を意味しているものではない。
【0064】
また、高電圧発生装置5により、定常的に電圧Vを針状電極7に印加する(図6(a)参照)と、ワーク2と針状電極7の間で、図7(b)に示すような電気力線で表される電界Eが形成される。
印加電圧が低い(例えば、電圧Vを印加する)場合、電界Eの有効範囲Wに比してさらに電界Eの有効範囲Wが狭くなっている。また電界Eでは、電気力線の間隔が、電界Eの電気力線の間隔に比してより疎になっており、電界Eの強度は電界Eに比して弱くなっている。
【0065】
一方、静電塗装装置21を用いて、制御装置30および高電圧発生装置5により、パルス状に各電圧V・Vを切り換えて針状電極7に印加する(図6(b)参照)と、ワーク2と針状電極7の間で、図5に示すような電界Eが形成される。
電界Eの有効範囲Wは、電界Eの有効範囲Wに比して、さらに広範囲となっている。また電界Eでは、電気力線の間隔が、電界Eの電気力線の間隔に比してより密になっており、電界Eの強度は、電界Eに比してより高くなっている。
つまり、静電塗装装置21では、制御装置30によって、パルス条件(即ち、パルス幅t、パルス間隔t、振幅ΔV)を変更することによって、電界Eの強度や有効範囲Wを調整するようにしている。
【0066】
ワーク2と針状電極7の間に形成される電界Eの強度が増大すると、塗料粒子xが電界Eから取得する負の電荷が増えるため、塗料粒子xの帯電量qも増大する。
このため、電界Eを通過して塗着される塗料粒子xには、電界Eの強度の増大および帯電量qの増大による相乗効果によって、従来に比してより大きいクーロン力Fが作用するため、ワーク2により強い力で引き付けられ、その結果、塗着効率を向上させることができる。
【0067】
このように、本発明の第三の実施形態に係る静電塗装装置21を用いて静電塗装を行えば、低圧側の電圧Vを低く設定することにより、振幅ΔVを増大させることができるため、電圧Vをさらに高電圧化しなくても、容易に塗着効率の向上を図ることができる。
【0068】
即ち、本発明の第三の実施形態に係る静電塗装装置21において、制御装置30は、高電圧発生装置5により印加する高電圧として、静電塗装に適した印加電圧である第一の電圧Vと、該第一の電圧Vに比して低い印加電圧である第二の電圧Vが設定されるとともに、各電圧V・Vを、所定のパルス幅t、パルス間隔t、振幅ΔVでパルス状に切り換え可能とするものである。
このような構成により、外部電極6とワーク2との間で形成する電界Eの強度を高めることができる。
【符号の説明】
【0069】
1 静電塗装装置(第一の実施形態)
2 ワーク
4 塗装ガン
4a ベルカップ(霧化部)
6 外部電極
7 針状電極
7a 先端部
8 保持部
8b 凹部
8d 周縁部(遮蔽部)
10 制御装置
11 静電塗装装置(第二の実施形態)
14 塗装ガン
14a ベルカップ(霧化部)
21 静電塗装装置(第三の実施形態)
30 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料を霧化させるための霧化部を有する塗装ガンと、
被塗物との間で電界を形成する針状電極を有する外部電極と、
前記針状電極に高電圧を印加する高電圧発生装置と、
該高電圧発生装置により印加する高電圧を制御する制御装置と、
を備え、
導電性塗料を使用して静電塗装を行うための静電塗装装置であって、
前記針状電極の先端部と前記塗装ガンの間を遮蔽する、絶縁体で構成される遮蔽部を備える、
ことを特徴とする静電塗装装置。
【請求項2】
前記外部電極は、
前記針状電極を内蔵して保持するための、絶縁体で構成される保持部を備え、
該保持部には、
凹状の窪みである凹部を形成し、
前記保持部に内蔵する前記針状電極の先端部を、前記凹部が包含するように前記凹部内に露出させ、
前記遮蔽部を、
前記凹部の外殻により形成する、
ことを特徴とする請求項1記載の静電塗装装置。
【請求項3】
前記塗装ガンの霧化部を、
絶縁体で構成する、
ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の静電塗装装置。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記高電圧発生装置により印加する高電圧として、静電塗装に適した電圧である第一の印加電圧と、該第一の印加電圧に比して低い電圧である第二の印加電圧が設定されるとともに、
前記第一の印加電圧と前記第二の印加電圧を、所定のパルス幅、パルス間隔、振幅でパルス状に切り換え可能とする、
ことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の静電塗装装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−255276(P2011−255276A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130281(P2010−130281)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(309007818)友信工機株式会社 (19)
【Fターム(参考)】