説明

静電容量型水分計および水位計

【課題】高い分解能と広いダイナミックレンジの両方を備え、水分量を効果的に測定できる静電容量型水分計および、この静電容量型水分計を使用した水位計を提供する。
【解決手段】被測定対象の誘電率の変化に基づいて、被測定対象の水分量を測定する装置であって、一対の電極11,12を有するセンサ部10と、センサ部10の一対の電極11,12に接続された解析部20と、を備えており、解析部20は、一対の電極11,12間に、所定の電圧を有するパルス状の電流を供給するパルス発生部21と、一対の電極11,12間が所定の電位差となるまでの時間を計測する計時手段25と、を備えている。一対の電極11,12間に位置する被測定対象の誘電率に応じて、一対の電極11,12間が所定の電位差となるまでの時間が変化し、その時間を測定するので、分解能に係らず、実用上十分に大きなダイナミックレンジを設定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量型水分計に関する。さらに詳しくは、土構造物などの水分量を測定するために使用される静電容量型水分計および、この静電容量型水分計を使用した水位計に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な土構造物(盛土、堤防、舗装)は、土粒子からなる粒状土によって構成されており、土粒子同士を互いに接近させるような力が発生することによってその強度を保っている。この土粒子同士を互いに接近させるような力は、土粒子間に存在する水(間隙水)の表面張力に起因して発生する。
【0003】
しかし、上記力は、土粒子間に存在する水が増加すると弱くなり、粒状土が間隙水によって飽和した状態となると、間隙水による土粒子同士を互いに接近させるような力は失われる。
例えば、台風などの豪雨時に、大量の水が土構造物の内部へ浸水すると、上記力が弱くなることに起因して、土構造物を構成する粒状土のせん断強度が大きく低下する。このせん断強度の低下が、豪雨による土砂災害の原因となっている。
【0004】
一方、降雨による地下水面の上昇によって斜面や盛土を構成する土塊には、間隙水圧が作用する。この間隙水圧は土塊を滑らそうとする滑動力を増加させる。さらに、間隙水圧が上昇することにより、土粒子間に作用する有効応力が減少する。このように間隙水圧が上昇すると(言い換えれば、地下水面が上昇すると)、地盤は急激に耐力を失うので、地盤が崩壊する原因となる。
なお、摩擦材である土のせん断強度τfは、有効応力σ’と次式の関係がある。
【数1】

なお、上記式において、c’は土のせん断強度特性を表わす材料特性であり、c’およびφ’はそれぞれ、粘着力、土の内部摩擦角、と呼ばれる。
【0005】
また、堤防や舗装などでは、粒状土の内部への水の出入りに伴って、土粒子の流出が生じるため、堤防の保護パネルの背面や舗装の下に大きな空洞が形成され、陥没事故が生じている。一例として、国土交通省の調査によれば、平成19年には4,700件の道路陥没が発生している。
【0006】
粒状土のせん断強度の低下、有効応力の減少に起因する土砂災害や、土粒子の流出による陥没事故などを防ぎ、災害時の被害軽減や経済的な社会基盤の維持管理を行う上では、土構造物の劣化(せん断強度の低下など)を初期の段階で検出することが有効である。かかる土構造物の劣化は、土構造物への浸水、つまり、土構造物の水分量を常時監視すれば、土構造物中の水分量に基づいて、初期の段階で検出が期待できる。
【0007】
土構造物の水分量を常時監視して土構造物の劣化を検出するには、長大な土構造物に多数のセンサを設ける必要がある。しかし、従来のセンサでは、長大な土構造物に十分な計測点を設置することはコスト的な制約から難しい。土構造物の劣化を検出するためには、廉価で単純な形式のセンサおよびかかるセンサを使用した計測方法の開発が必要である。
【0008】
土に含有される水分量を測定するセンサとして、粒状土中の含水比が変化すると、粒状土の誘電率が変化することを利用したセンサが開発されている(特許文献1、2)。
【0009】
特許文献1には、土壌に垂直に埋め込んで使用される金属プローブが開示されており、この金属プローブに電磁波を送り、その反射時間から比誘電率を計測し、比誘電率から土壌水分量を算出する技術が記載されている。
この技術では、金属プローブとして板状の部材を使用しているだけであるので、土構造物に多数設置しても、その設置費用を抑えることができる。
【0010】
また、特許文献2には、第1の電極と第2の電極とを有し、両電極間の静電容量の変化に基づく検出信号を出力するセンサが開示されており、このセンサは電極間の静電容量に比例したパルス幅を持つ出力信号(パルス信号)を出力するようになっている。そして、特許文献2の技術では、パルス信号をCR積分回路によって積分し、パルス信号がH(高電圧)となる期間に比例した出力電圧を作成し、この出力電圧の大きさに基づいて静電容量を測定するようになっている。
かかる構造であるので、特許文献2のセンサを土壌に埋設すると、土壌の水分量の変化に起因する静電容量の変化をCR積分回路の出力電圧の大きさとして検出することができる。
【0011】
しかるに、特許文献1、2の技術には、それぞれ以下のような問題がある。
【0012】
まず、特許文献1の技術は、TDR法(Time Domain
reflectometry:時間領域反射測定法)を利用して比誘電率を測定している。TDR法では、一般的に、誘電緩和特性など、周波数依存する誘電率の正確な測定が可能である反面、装置が高価で大がかりになるという問題がある。しかも、土構造物の水分センサとするには高価であるため、多数の測定点を設置することには、不向きである。
【0013】
特許文献2の技術は、特許文献1の技術に比べて、安価かつ小型な装置で測定ができるものの、センサが測定できるレンジが制限されるという問題がある。
【0014】
具体的には、特許文献2のセンサでは、静電容量の値はCR積分回路の出力信号のパルス幅に変換されて出力されるが、特許文献2の回路構成ではCR積分回路の出力信号の周期は入力信号の周期の半分となる。このため、CR積分回路の出力信号のパルス幅は入力信号の周期の半分が上限となる。つまり、センサが測定できるレンジは、入力信号の周期によって制限されてしまう。
一方、特許文献2のセンサによって正確な測定を行うためには、検出信号がCR積分回路から安定に出力されなければならない。しかし、かかる状態を実現するためにはCR積分回路の時定数が適切であることに加えて、電極に入力される入力信号の周期が一定かつ安定でなければならない。なぜなら、入力信号の周期が2倍になれば、検出信号の電圧は半分になってしまうため、正確な測定ができなくなるからである。
つまり、特許文献2のセンサの場合、正確な測定のためには入力信号の周期が一定かつ安定していなければならないが、入力信号の周期が一定である場合には、測定できる静電容量の大きさが制限されるため、高分解能で高精度の測定と広範囲の計測とを両立させることは困難である。
【0015】
近年多発する地すべりなどの発生を事前に把握するために、地すべりなどのモニタリングの必要性が高まっている。地すべりなどの主たる要因として、地下水面の上昇に伴う地盤の耐力の低下があることから、地すべりなどのモニタリングでは、水位計を用いた地下水位変動などが計測される。上述した特許文献1、2のセンサを地下水位変動を測定する水位計として使用することもできる。しかし、地すべりなどのモニタリングでは以下のような性能が要求されるため、高分解能で高精度の測定と広範囲の計測と両立させることが難しい特許文献1、2のセンサを使用することが難しい。
【0016】
地すべりなどのモニタリングのために水位計を用いて地下水位変動を計測する場合、原位置における地下水位変動などの微細な変化を捉えて前兆を検出しなければならない。このため、センサには高分解能で高精度の測定が要求される一方、一度地すべりなどが発生すれば地下水位変動などにきわめて大きな値の変化が生じるため、センサには広いダイナミックレンジも要求される。
しかも、地すべりなどが発生したときに発生する地下水位変動などの規模を事前に推定することは難しいことから、水位計を設置する計画の段階では、水位計に必要な分解能や必要な測定レンジが不明である。
したがって、地下水位変動や地すべり変位量などの計測では、微細な変化からきわめて大きな値の変化まで測定できるような水位計を設置することが必要であり、特許文献1、2のセンサを使用することは困難である。
【0017】
以上のごとき事情もあり、地すべりなどのモニタリングのために、高い分解能と広いダイナミックレンジの両方を備えた、土に含有される水分量を測定でできる水分計や、かかる水分計を備えた地下水位変動を検出できる地下水位計が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平10−62368号公報
【特許文献2】特開2008−32550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は上記事情に鑑み、高い分解能と広いダイナミックレンジの両方を備え、水分量を効果的に測定できる静電容量型水分計および、この静電容量型水分計を使用した水位計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
第1発明の静電容量型水分計は、被測定対象の誘電率の変化に基づいて、該被測定対象の水分量を測定する装置であって、絶縁された一対の電極を有するセンサ部と、該センサ部の一対の電極に接続された解析部と、を備えており、該解析部は、前記一対の電極間に、所定の電圧を有するパルス状の電流を供給するパルス発生部と、前記一対の電極間が所定の電位差となるまでの時間を計測する計時手段と、を備えていることを特徴とする。
第2発明の静電容量型水分計は、第1発明において、前記計時手段は、前記一対の電極間にパルス状の電流が供給されてから該一対の電極間の電位差が所定の値となるまでの時間を測定するカウンタを備えていることを特徴とする。
第3発明の静電容量型水分計は、第1または第2発明において、前記計時手段は、前記カウンタによるカウント数が最大カウント数になると、前記カウンタをリセットするリセット機能と、前記カウンタによるカウント数が最大カウント数になった回数をカウントするカウント機能と、を有するカウンタ制御部を備えていることを特徴とする。
第4発明の静電容量型水分計は、第1、第2または第3発明において、前記一対の電極と前記解析部との間が導電性材料によって接続されており、該導電性材料および/または前記一対の電極を外部から電気的に絶縁する絶縁シールドが設けられており、該絶縁シールドと前記導電性材料および/または前記一対の電極とが同じ電位となるように調節する電位調整部を備えていることを特徴とする。
第5発明の静電容量型水分計は、第1、第2、第3または第4発明において、前記一対の電極と前記パルス発生部との間に設けられた、前記一対の電極間から放電を生じさせる放電手段を備えており、該放電手段は、前記パルス発生部から前記一対の電極間に対するパルス状の電流の供給が停止されると、該一対の電極間に蓄積された電力を放電させるものであることを特徴とする。
第6発明の静電容量型水分計は、第1、第2、第3、第4または第5発明において、前記センサ部を、自然地盤や粒状土からなる構造物に埋設して使用することを特徴とする。
(水位計)
第7発明の水位計は、第1、第2、第3、第4、第5または第6発明に記載の静電容量型水分計を備えており、該静電容量型水分計のセンサ部が、軸方向に沿って延びたケースと、該ケース内に収容された、前記一対の電極からなる電極対と、を備えており、前記電極対が複数設けられており、該複数の電極対は、前記ケースの軸方向において、その先端の位置が異なるように設けられていることを特徴とする。
第8発明の水位計は、第7発明において、前記複数の電極対は、その長さが10m以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
(静電容量型水分計)
第1発明によれば、一対の電極間に位置する被測定対象の誘電率に応じて、一対の電極間が所定の電位差となるまでの時間が変化するので、その時間を測定すれば、誘電率の変化を把握することができる。時間を測定するので、測定レンジの上限をなくすことができるから、分解能に係らず、実用上十分に大きなダイナミックレンジを設定することができる。
第2発明によれば、カウンタの内部クロックのクロック周期を調整すれば、測定の分解能を調整することができるので、測定レンジに関係なく測定の分解能を調整することができる。
第3発明によれば、カウンタが最大カウント数となると、リセット機能によってカウンタがリセットされるので、カウンタによるカウントを継続することができる。また、カウンタがリセットされても、ソフトウエアカウンタ機能またはハードウエアカウンタ機能によって最大カウント数となった回数がカウントされているので、現在までのカウント数を把握できる。したがって、カウンタの最大カウント数に係わらず、測定を継続できるから、ダイナミックレンジを広くすることができる。
第4発明によれば、装置に発生する浮遊容量や外乱の影響をキャンセルすることができるので、測定精度を高めることができる。
第5発明によれば、一対の電極間の電位差が所定の値に達した後に、パルス発生部から一対の電極間に対する電流の出力を停止する。すると、静電容量の大きさに応じた期間のパルス幅を有するパルス状の電流をパルス発生部から一対の電極間に供給することができるため、測定できる静電容量の大きさの上限を取り除くことができる。そして、パルス発生部から一対の電極間へのパルス状の電流の出力が停止されると、放電手段によって一対の電極間に蓄積された電荷が放電されるので、次の測定に備えることができる。したがって、過渡応答性の低い装置を使用しても、高時間分解能で、大きさの上限なく静電容量の変化を測定することができる。
第6発明によれば、地すべりなどの予兆となる水分量の微細な変化を精度よく測定することができるとともに、地すべりなどが発生した後に生じる、地下水位変動量や地すべり変位量などのきわめて大きな値の変化も確実に測定することができる。
(水位計)
第7発明によれば、センサ部が長尺なケースに収容された複数の電極対を備えているので、かかるセンサ部を自然地盤や土構造物などに埋設しておけば、自然地盤や土構造物中の水位の変化を検出することができる。そして、複数の電極対は、ケースの軸方向において、その先端の位置が異なるように設けられているので、電極対間の出力の相違に基づいて、埋設されている土壌の温度が測定値に与える影響を補正することができる。したがって、土構造物中の水位の変化を正確に測定することができる。
第8発明によれば、電極対の長さが10m以上であるので、土構造物における深い位置における水位の変化や、水位の大きな変化を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(A)は本実施形態の静電容量型水分計1の概略説明図であり、(B)はセンサ部10の概略説明図である。
【図2】(A)および(B)は本実施形態の静電容量型水分計1の測定原理の概略説明図であり、(C)は測定範囲の上限を排除する原理および電位調整部30の過渡応答性が低くして測定精度を高く維持できる原理の概略説明図である。
【図3】(A)は水位計50のセンサ部51の概略斜視図であり、(B)はセンサ部51の先端部拡大説明図であり、(C)はセンサ部51を土構造物Mに埋設して使用する状態の概略説明図である。
【図4】(A)は水位計50のセンサ部70の概略斜視図であり、(B)はセンサ部70の概略断面図であり、(C)はセンサ部70を土構造物Mに埋設して使用する状態の概略説明図である。
【図5】実施例1および比較例において使用した計時手段を除く解析部の回路図である。
【図6】比較例の実験結果を示した図である。
【図7】実施例1の実験結果を示した図である。
【図8】実施例2において使用した計時手段を除く解析部と電位調整部の回路図である。
【図9】実施例2の実験結果を示した図であって、低静電容量条件の実験結果を示した図である。
【図10】実施例2の実験結果を示した図であって、高静電容量条件の実験結果を示した図である。
【図11】図11(A)は、2mから50mまでのRG59b/u同軸ケーブルを介してコンデンサを接続した際のカウント値出力とコンデンサの静電容量の関係を示した図であり、(B)は、実施例装置によってコンデンサの静電容量を測定した場合において、測定された静電容量に対するカウント値の変化と同軸ケーブルの長さの関係を示した図である。
【図12】実施例3における実験結果を示した図であって、1chの電極対の実験結果を示した図である。
【図13】実施例3における実験結果を示した図であって、2chの電極対の実験結果を示した図である。
【図14】遠心模型実験に使用した装置の概略説明図である。
【図15】実施例4における実験結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の静電容量型水分計は、自然地盤や土構造物(盛土、堤防、舗装)などの水分量を測定する装置であって、高分解能を維持しつつ広い測定レンジを実現できるようにしたことに特徴を有している。
また、本発明の静電容量型水分計は、自然地盤や土構造物に埋設した状態で設置すれば、自然地盤や土構造物中の水位の変化などを測定する水位計としても使用することができるものである。
【0024】
(原理の説明)
まず、本発明の静電容量型水分計を説明する前に、本発明において静電容量の測定に用いた測定原理に関して、簡単に説明する。
【0025】
図2(A)に示すように、電線LとアースGとの間にコンデンサCと抵抗Rが直列に配列されたCR積分回路を考える。この回路において、コンデンサCの静電容量は以下の方法で求めることができる。
なお、CR積分回路とは、抵抗RとコンデンサCによって形成される回路のことであり、以下では、単にCR積分回路という。
また、後述する図1では、図2(A)において、コンデンサCと抵抗Rとの間をつなぐ線がシールド線SL1に相当し、コンデンサCとアースGとの間をつなぐ線がシールド線SL2に相当する。
【0026】
まず、回路の電線SL1に対してパルス状の電流i(電圧V)を供給する。すると、コンデンサCに電荷が蓄えられてコンデンサCの両端子間に電位差生じる。つまり、コンデンサCにおいて抵抗R(抵抗値R)と接続されている端子の電圧Vが上昇する(図2(B)参照)。
この電圧Vは時間とともに上昇するので、電圧Vが所定の電圧Vrefとなるまでの時間がtであったとすると、時間tとコンデンサCの静電容量Cとの間には、以下の式(1)および(2)の関係が成立する。
【数2】

ここで、Vi-Vrefを一定、かつ、抵抗Rが一定の場合、tを把握すれば、コンデンサCの静電容量Cを求めることができるのである。
【0027】
(静電容量型水分計の説明)
つぎに、上記測定原理を採用した本実施形態の静電容量型水分計1を説明する。
図1に示すように、本実施形態の静電容量型水分計1は、水分量を測定する被測定対象に接触させるセンサ部10と、このセンサ部10と電気的に接続された解析部20とを備えている。
【0028】
(センサ部10の説明)
まず、センサ部10を説明する。
図1に示すように、センサ部10は、一対の電極11,12を備えている。この一対の電極11,12は、被測定対象である土構造物の粒状土などを、両者の影響範囲間に位置することができるように配設されればよく、その配置はとくに限定されない。例えば、一対の電極11,12を、同軸型に配置したり(図1(B)参照)、平行板型に配置したりしてもよいし、平行の電線のような配置にしてもよい。また、プリント基板上において平行線や同心円型のパターンを形成し一対の電極11,12としてもよい。
この一対の電極11,12と両者間に配置される被測定対象が、上述した図2(A)におけるコンデンサCに相当する。
【0029】
つぎに、図1(B)に基づいて、一対の電極11,12を説明する。
【0030】
(電極11)
図1(B)に示すように、電極11は、電極部11aと、絶縁部11bとを備えている。
【0031】
電極部11aは、導電性を有する部材によって形成されたものである。この電極部11aに使用される部材(素材や形状など)はとくに限定されない。例えば、鉄板、銅板、ステンレス板などの板状部材や棒状部材、銅線、鉄線、シールド線などの電線を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
この電極部11aは、前記解析部20に電気的に接続されている。例えば、電極部11aは解析部20に直接接続されたり、シールド線SLの芯線などによって前記解析部20と接続されたりしている。なお、電極部11aと解析部20とを接続する方法は、両者の接続部を外部から防水することができ、しかも、両者を電気的に接続できるのであれば、とくに限定されない。例えば、導電性材料によって形成されたコネクタ、電線、同軸ケーブルによって電極部11aと解析部20との間を電気的に接続してもよい。
【0033】
電極部11aは、電極12と直流的に絶縁されている必要があるので、電極11は、絶縁体11bを備えている。この絶縁体11bは、電極部11aを覆い、この電極部11aを外部から電気的に絶縁することができるように設けられている。この絶縁体11bの素材は、電極部11aを外部から電気的に絶縁することができるものであればよく、とくに限定されない。例えば、ETFE(エチレン・四フッ化エチレン共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などのフッ素樹脂を使用することができる。これらは、誘電率の変化が少なく、含水率も低いので、化学的に安定しており水分計への使用に適している。また、HDPE(高密度ポリエチレン)、プリント基板のレジストに使用されるウレタン樹脂、エナメル樹脂なども使用することができる。
なお、電極11を、同軸ケーブルによって形成した場合には、同軸ケーブルの芯線を電極部11aとして機能させることができ、同軸ケーブルの中間絶縁体を絶縁体11bとして機能させることができる。
【0034】
(電極12)
センサ部10は、電極11から離間した電極12を備えている。この電極12は、電極11と絶縁されており、上述したように電極11とでコンデンサを形成することができるように配設されている。この電極12は、良好な導電性を有する素材によって形成されている。例えば、電極12は、金属、導電性カーボンなどによって形成されているが、良好な導電性を有する素材であればよく、とくに限定されない。
また、電極12は、電極11に対するアースとして機能させるために、解析部20におけるアースと電気的に接続されている。電極12と解析部20におけるアースとを接続する方法はとくに限定されず、電極11の電極部11aと同様に、アースに直接接続してもよいし、シールド線SLの芯線などによってアースと接続してもよい。
【0035】
図1(B)には電極12の一例が示されているが、図1(B)の例では、電極12は中空な筒状に形成されており、その内部に前記電極11が配置されている。かかる構成とすると、センサ部10を土構造物に埋設設置した場合において、施工時の締固めや設置時の摩擦による電極11の損傷を、電極12によって防ぐこともできる。
【0036】
電極12に上記役割(電極11の保護)を発揮させる場合、電極12の形状は円筒状に限られない。例えば、角パイプ型としてその内部に電極11を配置してもよいし、溝を有する形状(例えば、コの字型、Eの字型など)として溝内に電極11を配置してもよく、電極11を保護できる形状であれば、とくに限定されない。電極12が電極11を完全に取り囲むような形状に形成されていれば、電極12がアースに接続されたシールドとして機能するので、ノイズの発生を抑えることができ、測定精度を高めることができる。
【0037】
なお、電極12は、電極11と絶縁されている必要があるので、電極11との間の絶縁性を高める上では、その表面に絶縁層を設けることが好ましい。しかし、電極11が絶縁部11bを備えている場合などのように、電極12と電極部11aとの間が絶縁されているならば、電極12は絶縁層を備えていてもよいし、省いてしまっていてもよい。
【0038】
また、上記例では、電極12内に電極11が配設されている場合を説明したが、一対の電極11,12は実質的に同じ構造を有するものでもよい。例えば、一対の電極11,12を、平行板型配置や平行電線のような配置とした場合、プリント基板上において平行線や同心円型のパターンを形成し一対の電極11,12とする場合には、一対の電極11,12は実質的に同じ構造に形成すればよい。
【0039】
さらに、上記例では、一対の電極11,12が別体の場合を説明したが、2重スパイラルシールド線やツイストペア線を使用すれば、一本のシールド線の2本の電線を一対の電極とすることも可能である。
【0040】
(解析部20の説明)
つぎに、解析部20を説明する。
解析部20は、センサ部10の一対の電極部11,12間に位置する被測定対象の静電容量を検出し、この静電容量に基づいて、被測定対象中の水分量を測定するものである。
この解析部20は、パルス発生部21と、電位差測定部23と、計時手段25と、を備えている。
なお、以下では、解析部20と一対の電極部11,12との間が、シールド線SLで接続されている場合を説明するが、上述したように、解析部20と一対の電極部11,12との間を接続する方法はとくに限定されない。
【0041】
(パルス発生部21の説明)
まず、パルス発生部21は、所定の電圧を有するパルス状の電流を出力できるものである。具体的には、一対の電極部11,12に接続されたシールド線SLのうち、一方のシールド線SLに対して、後述する低周波パルス駆動部22を介してパルス状の電流PSを供給することができるように構成されている。図1であれば、パルス発生部21は低周波パルス駆動部22を経て電極部11に接続されたシールド線SL1と接続されており、このシールド線SL1にパルス状の電流PSを供給することができるようになっている。また、このパルス発生部21は、パルス状の電流PSを出力すると、このパルス状の電流PSをトリガー信号Pとして後述する電位差測定部23にも送信する機能も有している。
【0042】
なお、他方のシールド線SL、つまり、他方の電極部12に接続されたシールド線SL2はアースされる。このため、パルス発生部21から一方のシールド線SL1に対してパルス状の電流PSを供給することによって、一対の電極部11,12間に所定の電位差を生じさせることができるのである。
【0043】
このパルス発生部21には、例えば、市販のパルスジェネレータ、ファンクションジェネレータ、ゲート回路やフリップフロップによる矩形波発振回路、マイコンのタイマーユニットのパルス発生機能などを使用することができる。
【0044】
また、図1では、低周波パルス駆動部22を設けた例が開示されているが、低周波パルス駆動部22は必ずしも設ける必要はない。しかし、後述する電位調整部30を設けた場合には、低周波パルス駆動部22を設けておけば、過渡域において問題が発生することを防ぐことができるという利点が得られる。この低周波パルス駆動部22については後述する。
【0045】
(電位差測定部23の説明)
電位差測定部23は、一対の電極部11,12間の電位差を測定するものであり、シールド線SLを介して一対の電極部11,12と電気的に接続されている。この電位差測定部23は、一対の電極部11,12間の電位差を測定するとともに、この電位差が所定の値になるまで、所定電圧のフラグ信号FSを発信する機能を有している。
【0046】
具体的には、前記パルス発生部21からトリガー信号Pの立ち上がりが入力されると、電位差測定部23はフラグ信号FSを発信し、一対の電極部11,12間の電位差が所定の値になると、電位差測定部23はフラグ信号FSの発信を停止するようになっている。
【0047】
この電位差測定部23には、例えば、コンパレータの機能を有するオペアンプ、ワンショットマルチバイブレータなどを使用することができるが、少なくとも上述した機能(電位差測定およびフラグ信号FSの発信を行う機能)を有するものであれば、電位差測定部23として使用することができる。
【0048】
なお、このフラグ信号FSは、後述する計時手段25にも送信されている。
また、電位差測定部23には、一対の電極部11,12間の電位差と比較するための基準電圧Vrefが図示しない基準電源から供給されている。基準電圧Vrefは、パルス状の電流の電圧Vi以下であれば任意に定めることができる。例えば、基準電圧Vrefが電圧Viの0.63倍とすれば、ln(Vi
/(Vi-Vref))≒1となるので好ましい。
【0049】
(計時手段25の説明)
計時手段25は、パルス発生部21から電極部11に対してパルス状の電流の供給を開始してから、一対の電極部11,12間の電位差が所定の値となるまでの時間を計測するものであり、カウンタ26とカウンタ制御部27とを備えている。
【0050】
カウンタ26は、前記電位差測定部23からフラグ信号FSが出力されている時間(言い換えれば、フラグ信号FSがカウンタ26に入力されている時間)を測定するものである。具体的には、所定の周期(クロック周期)でクロックパルスCPを出力し、フラグ信号FSがカウンタ26に入力されている期間に出力されたクロックパルスCPをカウントすることによって時間を測定することができるものである。
なお、フラグ信号FSが出力されている時間は、クロック周期とクロックパルスCPのカウント数を掛け算することによって算出することができる。
【0051】
また、計時手段25は、カウンタ26と接続されたカウンタ制御部27を備えている。このカウンタ制御部27は、リセット機能とカウント機能とを備えている。
【0052】
リセット機能は、カウンタ26によるカウント数が上限に達したこと、つまり、カウント数がカウンタ26の最大カウント数に達したことを検出すると、カウンタ26をリセットする機能を備えている。カウンタ26をリセットするとは、カウンタのカウント数を0に戻し、再度1からカウントを開始させることを意味している。
【0053】
カウント機能とは、最大カウント数となった回数をカウントする機能である。具体的には、カウント数がカウンタ26の最大カウント数に達しことを検出すると、リセット機能によってカウンタ26はリセットされるが、その際に、カウンタ制御部27が備えているソフトウエアカウンタの値をインクリメントする機能である。
なお、カウント機能は、上記のようにソフトウエアカウンタによって実現してもよいし、ハードウエアカウンタによって実現してもよい。
【0054】
計時手段25が以上のごとき構成であるから、クロック周期を短くすれば、フラグ信号FSが出力されている時間(つまり、一対の電極部11,12間の電位差が所定の値(図2(B)のVref)となるまでの時間)をより細かな分解能で測定できる。
【0055】
例えば、一対の電極部11,12間の電位差の時間変動(図2(B)におけるVの変動)が速い場合(被測定対象の水分量が少ない場合)、フラグ信号FSが出力されている時間は短くなるが、その時間が短くてもクロック周期が短ければ時間tを精度よく測定することができる。つまり、一対の電極部11,12間の静電容量、言い換えれば、一対の電極部11,12間の被測定物の水分量を精度よく測定することができるのである。
【0056】
また、上述した計時手段25では、カウンタ26のカウント数が上限に達しても、リセット機能によってカウンタ26がリセットされるので、クロックパルスCPのカウントを継続することができる。そして、カウンタがリセットされても、カウンタ機能のソフトウエアカウンタによって最大カウント数となった回数がカウントされているので、現在までのカウント数を把握できる。すると、カウンタ26の最大カウント数に係わらず、クロックパルスCPのカウント、つまり、カウンタ26による一対の電極部11,12間の電位差が所定の値となるまでの時間の測定を継続することができる。言い換えれば、本実施形態の静電容量型水分計1のダイナミックレンジを広くすることができる。
【0057】
例えば、一対の電極部11,12間の電位差の時間変動(図2(B)におけるVの変動)が遅い場合(被測定対象の水分量が多い場合や水位が高い場合)、フラグ信号FSが出力されている時間が長くなり、その間のカウントすべきクロックパルスCPは多くなりカウンタ26のカウント数が上限に達してしまう可能性がある。しかし、上記のごとく、リセット機能によってカウンタ26がリセットされてカウントが継続できるから、フラグ信号FSが出力されている時間が長い場合でも、フラグ信号FSが出力されている時間を確実に測定できる。つまり、一対の電極部11,12間の静電容量が大きく変化しても、一対の電極部11,12間の被測定物の水分量を測定することができるのである。
【0058】
したがって、以上のごとき計時手段25を有する本実施形態の静電容量型水分計1は、高い測定精度と広いダイナミックレンジという、従来の静電容量型水分計では両立させることが困難であった要求を満たすことができるのである。
【0059】
なお、本実施形態の静電容量型水分計1を温度変動の大きな環境で使用する場合には、温度補正型水晶発振器や恒温槽からクロックパルスCPを発信させて、これらの装置から発信されるクロックパルスCPをカウンタ26がカウントするようにすることが好ましい。すると、周囲温度の変化に起因してクロックパルスCPの周期が変動することを抑制することができるので、周囲温度の変化に起因する測定誤差が生じことを抑えることができる。
また、上記例では、計時手段25が、電位差測定部23からフラグ信号FSが出力されている時間をカウンタ26によって測定する場合を説明したが、かかる時間を測定する方法は上記のごとき構成に限られない。しかし、上記のごとき構成とすれば、計時手段25を簡単な構成とすることができるので、好ましい。
【0060】
(本実施形態の静電容量型水分計1による水分測定)
つぎに、本実施形態の静電容量型水分計1を使用した土構造物の水分測定を説明する。
まず、土構造物の水分測定する場合には、センサ部10を土構造物の粒状土に埋設する。このとき、一対の電極11,12を両者が接触しないように配置し、水分量を測定すべき粒状土が両者の間に位置するようにする。
なお、センサ部10が図1のような構造の場合には、電極11と電極12との間の空間に隙間ができないように粒状土Mを充填しておく。
【0061】
すると、静電容量型水分計1と土構造物とによって、図2(A)に示すような基本回路が形成される。つまり、静電容量型水分計1の一対の電極11,12と、この一対の電極11,12間の粒状土とによって、図2(A)のコンデンサCが構成される。
【0062】
センサ部10を土構造物に設置した後、パルス発生部21から一方のシールド線SL1に対してパルス状の電流が供給されることによって、水分量の測定が開始される。
【0063】
パルス発生部21からパルス状の電流が供給されると、図2(A)のコンデンサCに相当する、一対の電極11,12間に電荷が蓄積されていく。
同時に、パルス発生部21はトリガー信号Pを発信するので、このトリガー信号Pが入力された電位差測定部23がフラグ信号FSの発信を開始する。
フラグ信号FSが発信されると、カウンタ26では、クロックパルスCPのカウントが開始される。
【0064】
図2(A)に示すように、シールド線SL1にパルスPSによって電流iが供給されることによって、一対の電極11,12間に電荷が蓄積され、一対の電極11,12間の電位差が大きくなる。つまり、電極11の電圧Vが高くなる(図2(B))。
やがて、一対の電極11,12間の電位差(電極11の電圧V)が所定の値Vrefに到達する。すると、電位差測定部23はフラグ信号FSの発信を停止し、カウンタ26は、クロックパルスCPのカウントを停止し、出力する。すると、カウンタ26のカウント数とクロック周期とに基づいて、シールド線SL1にパルス状の電流の供給が開始されてから一対の電極11,12間の電位差(電極11の電圧V)がVrefまでの時間tを算出することができる。
【0065】
ここで、一対の電極11,12間の電位差(電極11の電圧V)が上昇する上昇割合は、一対の電極11,12間に存在する粒状土の誘電率に依存する。また、シールド線SL1に対するパルス状の電流の供給が開始されてから、一対の電極11,12間の電位差(電極11の電圧V)がVrefとなるまでの時間tは、上述したように、式(1)で表わされる。
なお、式(1)において、Viはパルス状の電流の電圧、Cは一対の電極11,12間の静電容量が対応する。
【0066】
すると、式(1)においてVi-Vrefは一定であり、抵抗Rとして温度等の影響を受けにくい一定の値を示す部品を用いれば、tを得ることによって、式(1)に基づいて、一対の電極11,12間の静電容量Cを求めることができる。
【0067】
そして、一対の電極11,12間の静電容量が求められれば、粒状土の誘電率が把握できるので、この粒状土の誘電率に基づいて、一対の電極11,12間に位置する粒状土の水分量を算出することができるのである。
【0068】
以上のごとく、本発明の静電容量型水分計1によれば、一対の電極11,12間が所定の電位差となるまでの時間tに基づいて、一対の電極11,12間に位置する被測定対象の誘電率、つまり、粒状土の誘電率を算出でき、この誘電率から粒状土等の水分量を把握することができる。
【0069】
しかも、一対の電極11,12間が所定の電位差となるまでの時間を測定する計時手段25は、カウンタ26と、上記のごとくリセット機能とカウント機能とを備えたカウンタ制御部27を備えている。したがって、カウンタ26のカウント数の上限に係わらず、測定レンジを広くすることができるし、カウンタ26の内部クロックのクロック周期を調整すれば、測定レンジに関係なく測定の分解能を調整することができる。
したがって、地すべりなどのモニタリングに本発明の静電容量型水分計1を使用すれば、高分解能で高精度の測定が必要な地下水位変動などの微細な変化を捉えることもできるし、地すべりなどが発生したときに発生するきわめて大きな地下水位変動なども測定することができる。
【0070】
そして、本実施形態の静電容量型水分計1は、上記のごとき、センサ部10と解析部20で構成でき、しかも、上記のごとき機能を有するパルス発生部21、電位差測定部23、計時手段25を備えた解析部20は安価なマイコンによって実現できるから、本実施形態の静電容量型水分計1は安価に製造することができる。すると、本実施形態の静電容量型水分計1であれば、長大な土構造物に多数設置することも可能となるので、本実施形態の静電容量型水分計1を使用すれば、土構造物の水分量を常時監視して土構造物の劣化を検出することも可能となる。
【0071】
(他の測定方法)
また、上記例では、時間tを、シールド線SL1に対するパルス状の電流の供給が開始されると同時にカウンタ26によるカウントを開始したが、カウントを開始するタイミングは、必ずしもシールド線SL1に対するパルス状の電流の供給が開始されると同時でなくてもよい。例えば、電圧Vが所定の値Vref2となったタイミングからカウントを開始するようにしてもよい。この場合には、OV付近の雑音の影響を低減することができる。
【0072】
上記の方法を用いた場合には、一対の電極11,12間静電容量Cは、以下の式(3)、(4)によって求めることができる。
【数3】

なお、カウントを開始する電圧Vの値Vref2は、とくに限定されず、0V<Vref2<Vrefとなる電圧Vref2であればよい。
【0073】
(電位調整部30の説明)
図1に示すように、本実施形態の静電容量型水分計1は、一対の電極11,12と解析部20との間が、それぞれシールド線SLによって接続されていれば、一対の電極11,12を土構造物における深い位置に埋設することができる。すると、土構造物における地下水位変動などに起因する水分量の微細な変化を精度よく測定することができるし、地下水位変動が生じた場合の大きな水分量の変化も確実に測定することができる。
【0074】
一方、水分量の微細な変化に起因する静電容量の変動は小さいので、一対の電極11,12と解析部20とをつなぐシールド線SLの浮遊容量が水分量の測定精度に影響を与える可能性がある。
【0075】
測定値に対して、シールド線SLの浮遊容量が与える影響を抑える上では、以下のごとき電位調整部30を設けることが好ましい。
【0076】
図1に示すように、電位調整部30は、いわゆるボルテージフォロワであり、オペアンプなどによって構成されている。具体的には、電位調整部30を、入力端子にシールド線SLの芯線Lが接続され、出力端子にシールド線SLの静電シールドSが接続された状態となるように設置する。
【0077】
このため、静電シールドSには、電位調整部30から芯線Lの電圧と同じ電圧が印加されるため、静電シールドSと芯線Lとの間の電位差をなくすことができる。すると、シールド線SLの発生する浮遊容量に対し充電電流が流れないため、シールド線SLの浮遊容量をキャンセルすることができるので、測定精度を高めることができる。
【0078】
しかも、電位調整部30は安価なオペアンプなどによって構成できるので、装置のコストを低減できる。すると、土構造物に対して広範囲にセンサを埋設することも可能となるから、豪雨時の地すべりなどの予兆を検出するシステムを構築することも可能となる。
【0079】
そして、センサ部10を、金属などによって形成されたケース内などに収容した構成とした場合であれば、静電シールドSをセンサ部10のケースなどに接続していれば、ケースと電極11,12との間の浮遊容量もキャンセルすることができる。
【0080】
なお、上記の浮遊容量のキャンセルを実現し、高精度の測定を実施するためには、静電容量の測定期間において、電位調整部30の出力電圧波形をシールド線SLの芯線Lの電圧波形と一致させることが重要である。
しかるに、充放電が切り替わる過渡域(つまり、パルス状の波形の立ち上がりおよび立下りのタイミング)以外では両者の波形を一致させることは容易なのであるが、前記過渡域では、芯線Lの電圧波形が急激に変化するため、両電圧波形のズレが生じる可能性がある。かかるズレを防ぐ上では、一般的には、電位調整部30として過渡応答特性のよいオペアンプを用いることが好ましいとされている。
【0081】
例えば、電位差測定部23にワンショットマルチバイブレータを使用した場合に、電位調整部30として過渡応答特性が一般的なレベルのオペアンプを使用したとする。この場合、一回静電容量を計測してから新たな計測を開始するまで(つまり、一対の電極11,12間にパルス状電流を供給して電極11の電圧VがVrefに達し、フラグ信号FSが立下ってから次のパルス状電流を供給するまで)の期間は、一対の電極11,12間の電圧は前回の計測終了時の状態に保たれている。つまり、一対の電極11,12間の電圧はほぼViに近い電圧に保たれている。このため、新たな計測を開始するときに、一対の電極11,12間からほぼViに近い電圧の電力が放電され、その後直ちに一対の電極11,12間に再充電が開始される。すると、シールド線SLの芯線Lの電圧波形には、急峻なノッチが現れるので、電位調整部30に用いるオペアンプの過渡応答性が低いと、ボルテージフォロワが理想的には機能せず、急峻なノッチをフォローできない。その結果不要な充電電流がシールド線SLの芯線Lに流れるから、測定精度が低下するという問題が生じる。
したがって、電位調整部30、つまり、ボルテージフォロワには、本質的には、過渡応答特性のよいオペアンプを用いることが好ましいのである。
【0082】
なお、オペアンプの過渡応答特性を示す指標を説明すると、かかる指標には、スリューレートと利得帯域幅積とがある。
スリューレートは、V/μsで表わされるオペアンプの単位時間当たりの出力電圧増分のことであり、この値が低いと高速の信号に対して正確に追随することが難しくなる。具体的には、汎用オペアンプのスリューレートは数100mV/μs〜数V/μs程度であるが、ボルテージフォロワ専用のオペアンプは100V/μsを超えるものもある。
利得帯域幅積とは、利得が1となる周波数であり、この値が高いほど、高い周波数の信号を増幅することができる。具体的には、汎用オペアンプの利得帯域幅積は1MHz程度であるが、最近の高速オペアンプでは数10〜200MHz以上のものもある。
つまり、過渡応答特性のよいオペアンプとは、スリューレートおよび利得帯域幅積が高いオペアンプを意味しているのである。
【0083】
しかしながら、本実施形態の静電容量型水分計1の電位調整部30においては、過渡応答特性のよいオペアンプを用いることは困難である。なぜなら、ボルテージフォロワは最も発振を起こしやすいオペアンプの使用方法であり、過渡応答性のよいオペアンプほど発振しやすいためである。
【0084】
本実施形態の静電容量型水分計1の電位調整部30では、シールド線SLが持つ静電容量と測定対象となる一対の電極11,12が持つ静電容量によって、帰還ループが形成される。そして、一対の電極11,12を地中深く設置する可能性もあるため、シールド線は50m程度まで延長されることも想定する必要がある。ケーブル長が長くなる程、また、周波数が高くなる程、帰還ループ内での位相回転が大きくなる。位相回転が大きくなると、ついには正帰還となる周波数が存在する。オペアンプがその周波数で1以上の増幅率を持つならば、異常な発振が発生してしまう。
すなわち、過渡応答性のよいオペアンプほど高い周波数まで増幅できるため、形成される帰還ループが正帰還となる条件が整ってしまう。そのため、異常な発振を起こしてしまう可能性が高くなるので、本実施形態の静電容量型水分計1の電位調整部30には、過渡応答性のよいオペアンプを使用することが困難となるのである。
【0085】
このような発振を防ぐためには、2つの方法がある。
ひとつはシールド線SLのケーブル長を短くし、位相回転量を少なくすることであるが、電位調整部30を設けた本来の目的と反する。
【0086】
もうひとつの方法はオペアンプの利得帯域幅積を十分に低下させ、正帰還となる周波数での増幅率を1未満とすることである。すなわち、利得帯域幅積の低いオペアンプを用い、さらに発振防止のために利得帯域幅積を数100kHz程度と低い値に調整することである。しかし、利得帯域幅積が低くなればスリューレートも低くなってしまうので、上述のようにノッチへの追随性の問題に遭遇する。この問題は、新たな計測を開始する前に、一対の電極11,12間の電荷を放電させて電圧を0Vとし、あらかじめノッチを消去しておけば解消することができ、過渡域における両電圧波形のズレを防ぐことができる。
【0087】
例えば、本実施形態の静電容量型水分計1であれば、以下のごとき構成を採用すれば、発振を引き起こすことなく、静電容量の測定期間において、電位調整部30の出力電圧波形をシールド線SLの芯線Lの電圧波形と一致させることが可能で、浮遊容量のキャンセルを実現することができるので、好ましい。
【0088】
まず、パルス発生部21から発生したパルス信号P(図2(C)参照)とフラグ信号FSとが入力され、両者の論理和からなるパルス信号PSを作成する低周波パルス駆動部22を設ける。この低周波パルス駆動部22では、パルス信号Pとフラグ信号FSのいずれか一方が立ち上がっているときには、パルス信号PSをシールド線SL1に発信する機能を有している。
【0089】
また、一対の電極11,12間に蓄積された電力を強制的に放電させる放電手段29を設ける。この放電手段29は、一対の電極11,12間が所定の電位差Vrefとなったとき、つまり、フラグ信号FSが0Vとなりパルス信号PSが0Vとなったときに、一対の電極11,12間に蓄積された電荷を放電するように構成されている。
【0090】
例えば、図2(A)に示すように、電極11とシールド線SL1との間に、電極11からシールド線SL1への電流の流れを許容するダイオードDIを設ければ、上記のごとき放電手段29として機能させることができる。つまり、パルス信号PSがシールド線SL1に供給されなくなると、蓄積された電荷により電極11がシールド線SL1よりも高電圧になるが、両者間には上記のごときダイオードDIが配設されているため、ダイオードDIを通って電極11からシールド線SL1に電流が流れ、一対の電極11,12間に蓄積された電荷を放電させることができるのである。
【0091】
なお、かかる構成とした場合、パルス信号PSが0Vとなったときにおける一対の電極11,12間の電位差、すなわちシールド線SL1の芯線Lの電圧波形は、一対の電極11,12から形成されるコンデンサの放電時に急峻な立下りが生じる。そのため、電位調整器30の出力電圧は、芯線Lの電圧と乖離する恐れがある。しかしながら、パルス信号PSが0Vとなった状態では、静電容量の測定を行っていないため、測定値に悪影響を及ぼすことはない。
【0092】
一方、パルス発生器21から発生したパルス信号Pの立ち上がりとともに、フラグ信号FSも立ち上がり、一対の電極11,12によって形成されるコンデンサの充電が開始され、次の計測が始まる。シールド線SL1に供給されるパルス信号PSの休止期間は、放電に要する時間に比べ十分に長いため、計測開始までに芯線Lの電圧は0Vになっている。したがって、放電手段29を設ければ、一対の電極11,12間の電荷が測定値に悪影響を及ぼすことを防ぐことができる。
【0093】
以上のごとく、放電手段29を設ければ、発振防止のために電位調整器30として過渡応答特性を低く制限しても、過渡域において、電位調整部30の出力電圧波形とシールド線SLの芯線Lの電圧波形とがズレが生じることを防ぐことができるから、高時間分解能で、静電容量の変化を測定することができる。
【0094】
なお、シールド線SL1の芯線Lの電圧Voおよびその立ち上がりは、次式(5)、(6)で表わすことができる。
【数4】

【0095】
また、放電手段29は、上記のごとき構成に限られず、電極11が高電圧になると、自動的に一対の電極11,12間に蓄積された電荷が放電されるようになっていればよい。
【0096】
さらに、放電手段29は、電極11とアースなどとの間に配設されたスイッチSWを備えていてもよい。この場合、通常はオフになっているが、パルス信号Pが立ち上がった瞬間のみオンとなるようにスイッチSWを作動させれば、測定開始時における一対の電極11,12間の電位差を0とすることができる。
【0097】
(水位計)
本実施形態の静電容量型水分計1は、地下水位を測定する水位計としても使用することができる。水位計として使用する場合には、センサ部は以下のような構成とすることが好ましい。
【0098】
なお、以下の例では、センサ部は解析器60に接続されているが、この解析器60は、上述した解析部20を内蔵するものである。
また、以下の例では、水位計が一対の電極からなる電極対を2組備えている場合を説明するが、水位計が有する電極対の数は2組に限られず、1組でもよいし3組以上設けてもよい。そして、複数の電極対を設ける場合には、各電極対に対応する解析部20を設ける。つまり、解析器60は、電極対の数が2組であれば2つの解析部20、電極対の数が3組であれば3つの解析部20を内蔵するものを使用するのである。
【0099】
つぎに、本実施形態の静電容量型水分計1を利用した水位計(以下、単に水位計という)を説明する。
【0100】
図3に示すように、本実施形態の水位計50は、上述した解析器60と、この解析器60に接続されたセンサ部51とを備えている。
【0101】
センサ部51は、軸方向に延びた長尺な構造を有している。このセンサ部51の長さはとくに限定されず、水位を測定する場所に合わせて設定することができる。例えば、地下水位の深さが数m程度の場所では数m程度、地下水位の深さが数m〜10mであれば数m〜10m程度、地下水位の深さが10m〜20m程度であれば10m〜20m程度の長さに形成される。
【0102】
このセンサ部51は、中空な筒状のケース55と、このケース55内に配置された電極保持部材52とから構成されている。
【0103】
まず、ケース55は筒状の部材であって、その一端と他端との間を貫通する貫通孔を有している。このケース55の素材はとくに限定されないが、図3(C)に示すようにセンサ部51を土構造物Mに埋設した状態において、土圧によって潰れない程度の強度を有するものであればよい。例えば、ケース55の素材は、例えば、ステンレスや塩ビなどを挙げることができる。
【0104】
電極保持部材52は、軸方向に伸びた棒状の部材であり、例えば、ステンレスや塩ビなどの素材によって形成されたものである。この電極保持部材52は、図3に示すように、その軸方向に沿って電極対を収容する電極収容溝52hを備えている。
なお、図3では、2組の電極対53,54を収容するために2本の電極収容溝52hが形成されているが、電極収容溝52hの数は設置する電極対の数に合わせて形成すればよい。また、一つの電極収容溝52hには1組の電極対を収容することが好ましいが、一つの電極収容溝52hに2組の電極対を収容してもよい。
【0105】
図3に示すように、各電極収容溝52hには、電極対53,54がそれぞれ収容されている。この電極対53,54は、ツイストペア線によって形成されており、いずれも電極収容溝52hの軸方向に沿って伸びた状態となるように保持されている。
かかる電極対53,54を伸ばした状態で保持する方法はとくに限定されない。例えば、電極収容溝52h内の適所にテープなどで電極対53,54が軸方向に移動しないように固定する方法を採用することができる。
なお、ツイストペア線を使用した場合には、漏電防止のためツイストペア線の先端は完全に防水する必要がある。例えば、ツイストペア線を折り返して、ツイストペア線先端を解析器60の位置に配置してもよい。また、ツイストペア線は複数回折り返してもよく、この場合には、測定感度を上げることができる。
【0106】
以上のごときセンサ部51を備えた水位計50を使用すれば、センサ部51を土構造物Mなどに埋設しておけば、土構造物M中の水位の変化を検出することができる。しかも、センサ部51の長さを長くして、電極対53,54も長くすれば、土構造物Mにおける深い位置における水位の変化や、水位の大きな変化を検出することができる。
【0107】
(温度補正)
また、水の誘電率は温度によって変化するため、測定値は水温によって変動し、測定精度が低下する恐れがある。
【0108】
そこで、複数の電極対を設ける場合には、電極保持部材52の軸方向(言い換えれば、ケース55の軸方向)において、電極対の先端の位置が異なるように設けることが好ましい。このように設ければ、各電極対からの出力に基づいて、地下水の温度が測定値に与える影響を補正することができる。
【0109】
具体的には、図3(B)に示すように、2組の電極対53,54を、電極対53の先端よりも、電極対54の先端が基端側(図3(B)では上方)に位置するように配設する。すると、地下水位が同じでも、電極対53,54の出力は、先端の位置のズレに起因して相違が生じる。このため、土構造物M中に温度分布がない場合における両電極対53,54の出力値の差を測定しておけば、この値に基づいて、電極対53,54の出力値を補正することができる。したがって、センサ部51が埋設されている箇所の地下水に温度変化があったとしても、その影響を補正することができるから、土構造物中の水位の変化を正確に測定することができる。
【0110】
(センサ部の他の形状)
また、センサ部は上記のごとき構造に限られず、図4に示すような構造としてもよい。
【0111】
図4において、符号71がセンサ部70のケースを示している。このケース71は、可撓性を有する管状の部材である。具体的には、塩ビなどを素材とする外筒と、外筒の内部に設けられたアルミ製の中筒と、さらに中筒の内側に設けられた塩ビなどを素材とする内筒と、を備えた管状材を挙げることができるが、可撓性を有する管であって、土圧によって潰れない程度の強度を有するものであれば、とくに限定されない。
【0112】
このケース71内には、その軸方向に沿って伸びた2組の電極対77,78が配設されている。2組の電極対77,78は、ケース71の軸方向に沿って延びた状態を維持できるようにケース71内に固定されている。例えば、2組の電極対77,78の基端を固定部材74によってケース71に固定し、その先端を連結部材75によってケース71の先端に設けられた先端保持部材76に固定する方法を採用することができる。
【0113】
かかる構成の場合、連結部材75によって電極対77,78をその軸方向に引っ張った状態で固定できる。すると、電極対77,78が確実に伸びた状態で測定を行うことができるから、測定精度を高くすることができる。
【0114】
そして、上記のごとき可撓性を有するケース71を使用すれば、センサ部71を曲げて保管しておくことができるので、保管運搬や地中への埋設時の施工が容易になるという利点も得られる。
【実施例1】
【0115】
本発明の静電容量型水分計において、放電手段を設けた場合に過渡応答特性を改善できることを確認した。
【0116】
実験では、公称3600pFのコンデンサを備えたCR積分回路について、このコンデンサの静電容量計測を行い、CR積分回路を直流駆動した場合(比較例1)と、CR積分回路を低周波パルス駆動した場合(実施例1)とにおいて、図5の回路における各部の信号を測定した。
信号の測定にはデジタルフォスファオシロスコープ(Tektronix DPO3014)を用いた。
【0117】
実験では、図5に示す回路を使用してCR積分回路を駆動した。図5の回路は、本発明の静電容量型水分計における計時手段を除く解析部の機能を有する回路である。
CR積分回路は、図5の回路において、センサ部10が記載されている位置に接続した。CR積分回路に用いた抵抗器Rの値は1.00MΩであり、上述したように、コンデンサの静電容量は公称3600pFである。
【0118】
なお、直流駆動とは、CR積分回路に直流を入力すること(つまり、本発明の静電容量型水分計では電極に直流を供給することに相当する)であり、低周波パルス駆動とは、CR積分回路に低周波パルスの信号を入力すること(つまり、本発明の静電容量型水分計では電極に低周波のパルス状の電流を供給することに相当する)である。図5の回路では、SJ1の1ー2間をショートすると、CR積分回路を直流駆動することができ、SJ1の2−3間をショートすると低周波パルス駆動することができるようになっている。また、VR1はチャンネル間のバランスをとるためのものであり、省略して短絡することも可能である。
【0119】
また、参考までに、図5には、図5の回路の各部が本発明の静電容量型水分計のどの構成に対応するかを示すために、図5中に図1の各部と対応する符号を付している。なお、図5中の符号TMは温度計を示している。
【0120】
結果を図6、図7に示す。なお、図6、図7において、各信号は上から順番に、測定開始信号P、CR積分回路への入力信号PS、電位差測定部への入力電圧Vo(電極の電位差に相当する)、電位差測定部の出力信号(フラグ信号FS)を示している。
時間軸(横軸)のスケールは1ms/div.であり、電圧軸(縦軸)はVoのみ2V/div.であり、その他の信号については5V/div.である。
【0121】
図6に示すように、大きな静電容量Cをもつ測定対象の場合、CR積分回路に直流の入力信号を与えた場合には、電位差測定部への入力電圧Voは、フラグ信号FSの立ち上がり時において、Vref2=約1.2Vの電圧が発生している。
しかし、CR積分回路は高抵抗(1.00MΩ)であるので、トリガパルスの立ち上がりからVo=Vref2となるまでの放電時間が大きくなる。そして測定開始信号Pの立ち上がりからパルスの電圧VoがVrefになるまでの正確な測定を行うことができない恐れがある。
つまり、比較例1の方法では、CR積分回路のコンデンサ中に蓄えられた電荷の放電が間に合わず、正確な計測を行うことができない恐れがある。
【0122】
一方、図7に示すように、CR積分回路に低周波パルスを入力した場合には、測定開始信号Pが立ち上がる前に、CR積分回路への入力信号PSが0Vとなるので、電位差測定部への入力電圧Voも0Vになる。このため、電位差測定部への入力電圧Voが立ち上がっている期間とフラグ信号FSが立ちあがっている期間が一致している。
ここで、CR積分回路に対して低周波パルスを入力することによって測定開始信号Pが立ち上がる前にCR積分回路への入力信号PSを0Vとすることは、入力電圧Voが所定の電圧Vrefとなると同時にCR積分回路への入力信号PSを0Vとすること、つまり、本発明の放電手段を設けることと同等である。
【0123】
以上のごとく、本発明の静電容量型水分計のように放電手段を設けることによって、過渡応答特性を改善でき、被測定対象の誘電率が大きい場合、つまり、電極によって形成されるコンデンサの静電容量が大容量となる場合でも、静電容量を正確に計測することができることが確認できた。
【実施例2】
【0124】
本発明の静電容量型水分計において、電位調整部を設けることによって、浮遊容量をキャンセルできることを確認した。測定には、解析装置として、電位調整部を備えた回路(図8)を使用し、センサ部として、シールドされた金属製のケースとケース内にコンデンサを設置したものを使用した。
なお、図8の回路は、本発明の静電容量型水分計における計時手段を除く解析部および電位調整部の機能を有する回路であり、2chの測定を行うことができるものである。
また、センサ部は、図8の回路において、センサ部10が記載されている位置に接続した。センサ部に使用したコンデンサは、温度係数の小さなCH級の積層セラミックコンデンサ(村田製作所製)である。
【0125】
このセンサ部と前記回路とを使用して、静電容量がセンサ部のケース部のみの状態となる微小な静電容量を示す状態と、センサ部と回路との間をシールド線(RG59b/u同軸ケーブル、長さ10m)によって接続し十分な長さの電極に対応する3,600pFと十分大きな静電容量を持つ状態と、についてパルス発生部からの出力信号をセンサ部に供給した場合における各部の電圧変動を調べた。なお、センサ部と回路との間をシールド線(10m)によって接続した場合において、シールド線の網線はセンサ部のケースにも接続した。
【0126】
また、図8の回路は、2chの測定を行う回路であり、この回路において、LMC662がボルテージフォロワを作るCMOSオペアンプ(電位調整部に相当する)、74HC00がパルス発生器を構成するゲート(パルス発生部に相当する)、MC14538がコンデンサの放電と所定の電圧までの充電時間に応じたパルス幅のパルスを出力するワンショット(電位差測定部、放電手段に相当する)、である。
参考までに、図8には、回路の各部が本発明の静電容量型水分計のどの構成に対応するかを示すために、回路内に図1の各部と対応する符号を付している。
【0127】
結果を図9、図10に示す。なお、図9、図10において、各信号は上から順番に、センサ部への入力信PS、シールド線のシールドの電圧Vc、シールド線の芯線の電圧Vo(図1における電極11の電圧に相当する)、電位差測定部の出力信号(フラグ信号FS)を示している。
【0128】
図9に示すように、微小な静電容量を測定する場合、センサ部への入力信号PSの立ち上がりと同時に、芯線の電圧Voおよびシールドの電圧Vcがともに立ち上がっており、立ち上がった後も、両信号の時間変動は一致しており、その電圧値も一致している。
同様に、図10に示すように、センサ部への入力信号PSの立ち上がりと同時にシールド線のシールドの電圧Vcおよびシールド線の芯線の電圧Voがともに立ち上がっており、立ち上がった後も、両信号の時間変動は一致しており、その電圧値も一致している。
つまり、シールド線のシールドと芯線の電位差、言い換えれば、電極とケースとの間の電位差を同じにすることができるので、浮遊容量をキャンセルすることができる。
【0129】
つぎに、センサ部と回路との間をつなぐシールド線の長さを変えて、実際にどの程度の浮遊容量をキャンセルすることができるかについて確認を行った。
【0130】
結果を図11に示す。
図11(A)は、2mから50mまでのRG59b/u同軸ケーブルを介してコンデンサを接続した際の、カウント値出力とコンデンサの静電容量の関係を示したものである。キャンセル機能を有しない装置(従来装置)による結果を破線と中空のプロットで示し、キャンセル機能を有する本発明の装置(実施例装置)による結果を実線と中実のプロットで示している。
【0131】
キャンセル機能を有しない従来装置による測定結果には、ケーブル長に応じたカウント値の上乗せが生じている。
一方、キャンセル機能を有する実施例装置では、センサ接続に用いた同軸ケーブルの長さによらず、コンデンサの公称静電容量に比例するカウント値出力が得られている。24個の測定値による回帰分析の結果、重相関係数は0.9998となった。このことから測定したコンデンサの静電容量とカウント値出力は高い相関性を示し、実施例装置では、同軸ケーブルのもつ静電容量の影響を受けずに静電容量を測定可能であることを確認できた。
【0132】
図11(B)は、実施例装置によってコンデンサの静電容量を測定した場合において、測定された静電容量に対するカウント値の変化と同軸ケーブルの長さの関係を示したものである。縦軸は、各ケーブル長におけるカウント値を2mの同軸ケーブルを接続して測定した時のカウント値で正規化したものである。
図から同軸ケーブル長20m程度まで、同軸ケーブルの影響は±1%程度に収まっていることがわかる。測定対象の容量が小さい0pFの結果を除き、同様に50m程度まで影響は±1%程度と小さいことがわかる。
【0133】
以上の結果より、本発明の方法を採用した静電容量型水分計では、センサ部を含めた各部位の浮遊容量をキャンセルできるので、センサ部の構造や、センサ部と解析部とを接続するシールド線の長さなどに係らず、静電容量を正確に計測することができることが確認できた。これによりこれまでの静電容量式センサの欠点であった、地中にセンサを埋設する際のケーブルの影響を排除することができるようになった。
【実施例3】
【0134】
本発明の静電容量型水分計において、センサ部の長さを10mとした水位計を用いて、水位の変動測定が可能であることを確認した。
実験では、図4に示す構造を有するセンサ部(軸方向長さ10m、2組の電極対はツイストペア線)を使用した。このセンサ部を、水を入れた円筒状容器(長さ約15m)内に浸漬して、水位を変化させた場合に、その計測値の変化を測定した。
なお、実験において使用した解析部には、上記実施例1の回路(図5)を低周波パルス駆動で使用しており、センサ部などの浮遊容量の影響はキャンセルしていない。
【0135】
実験結果を図12、図13に示す。図12、図13において、横軸がカウンタによるカウント数を示しており、縦軸は水位を示している(なお、水位は円筒状容器に取り付けた1mm刻みのメジャーで測定した際の値で示しており、水位計先端が5mに対応している)。
図12、図13に示すように、CH1の電極、CH2の電極とも、水位を上昇させた場合および水位を下降させた場合のいずれの場合も、水位の変動とカウント値が比例しており、センサ部の長さが10mであっても、水位の変動測定を正確に測定できていることが確認できる。
【0136】
したがって、本発明の静電容量型水分計を使用すれば、センサ部の長さを長くしても、言い換えれば、測定する水位が深くても、水位を正確に測定できる可能性があることが確認できた。
【0137】
なお、図12および図13の結果では、同じ水位でも、水位上昇時と下降時とにおいて出力値に差が生じている。この理由は、センサ部はケース(図3ではケース55)を有しているが、このケースに水や空気の通り道となる孔をほとんど設けていなかったためと考えられる。つまり、ケース内と円筒状容器内とは、ケースの下端だけで連通された状態となっており、円筒状容器内の水位を変動させても、ケース内の水位が円筒状容器内の水位と一致するまでに時間がかかったためであると考える。このため、水位上昇時では実際の水位よりも水位が低く測定され(カウントが少なくなり)、水位下降時では実際の水位よりも水位が高く測定された(カウントが多くなった)と考える。
【実施例4】
【0138】
本発明の静電容量型水分計が、高い加速度が作用する過酷な使用条件や、高い圧力が加わる地中でも正確に測定できることを50g場の遠心模型実験により確認した。
【0139】
遠心模型実験とは、実物の1/nのスケールに縮尺した模型地盤に、重力加速度のn倍の遠心加速度を作用させることにより、実物と同等の応力状態を小型模型実験装置内に再現することができる実験手法である。この実験手法では、模型の寸法は実物の100分の1程度となる。例えば、50gの遠心力場で水位計を使用する場合、実物での5cmの水位変動は模型での1mmの水位変動に相当する。
【0140】
遠心模型実験では、図14に示す遠心模型実験装置を使用して実験を行った。
装置には、直径6mm、長さ30cm、質量約20gの電極EPを使用した。この電極EPは、直径6mmのアルミパイプGP中にテフロン(登録商標)被覆をもつツイストペア線Eを挿入して先端で折り返して形成した。なお、アルミパイプGPには、内部と外部との間を連通する貫通孔hが複数形成されている。
この電極EPを、遠心模型実験用土槽の水位観測パイプB中に挿入し、1gの重力場(以下1g場と呼ぶ)ならびに50gの遠心力場(以下50g場と呼ぶ)で水位観測パイプB内の水位を上昇・下降させ、静電容量計のカウント値を記録した。
【0141】
なお、電極EPは、その上端は水位観測パイプBの上端に固定されたプレートPによって固定し、その下端は水位観測パイプBの内底面に固定されたプレートSによって固定した。
また、水位観測パイプB内の水位は水位観測パイプBに備えられた1mm刻みのメジャーによって行い、1g場では直接目視により水位の目盛を読み取った。また、50g場では、模型の変形を観測する画像解析用カメラの映像から水位観測パイプの水位の目盛を読み取った。
【0142】
結果を図15に示す。
図15において、横軸がカウンタによるカウント数を示しており、縦軸はモデルスケールで表記した水位を示している。1g場では実際の水位とモデルスケールの水位は一致している。一方、50g場では実際の水位は50倍に拡大され、hm=20cmは実際では10mの水位に相当する(なお、水位は水位観測パイプBに備えられたメジャーの読みを示しており、水位計先端がhm=0cmに対応している)。
また、遠心模型実験では、電位調整部を有しない回路(図5参照)を使用したので、水位0のとき、浮遊容量分として、約30,000のカウント値が発生している。
【0143】
図15に示すように、2本の電極EPとも、回帰直線からややばらつきが見られるものの、R=0.999以上を達成しており、カウント値と水位の相関は高く、水位計として十分な精度を有していることが確認できる。
校正係数は1g場で7.655×10-4(cm/カウント)であり、遠心模型実験用の水位計として、十二分の感度を持っている。50g場で7.564×10-4(cm/カウント)であり、1g場に比べてやや高感度となった。
また、回帰式の定数項では約0.4cmの差が生じているが、これは検定時の水位計の設置位置にずれがあったためと考えられる。また、プロットや校正係数のばらつきは電極としたツイストペア線のたるみが原因と推測される。これらのばらつきは電極としたツイストペア線Eの張り方に注意することにより、更に改善されると思われる。
【0144】
以上のごとく、本発明の静電容量型水分計は、50gの遠心力場、つまり、地下10m以深に相当する環境下であっても、精度よく計測できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明の静電容量型水分計は、土構造物などの水分量を測定する水分計に適している。
【符号の説明】
【0146】
1 静電容量型水分計
10 センサ部
11 電極
12 電極
20 解析部
21 パルス発生部
22 低周波パルス駆動部
23 電位差測定部
25 計時手段
26 カウント手段
27 記憶部
29 放電手段
30 電位調整部
50 水位計
51 センサ部
52 電極保持部材
53 電極対
54 電極対
55 ケース
60 解析器
70 センサ部
71 ケース
74 固定部材
75 連結部材
76 先端保持部材
77 電極対
78 電極対
SL シールド線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定対象の誘電率の変化に基づいて、該被測定対象の水分量を測定する装置であって、
一対の電極を有するセンサ部と、
該センサ部の一対の電極に接続された解析部と、を備えており、
該解析部は、
前記一対の電極間に、所定の電圧を有するパルス状の電流を供給するパルス発生部と、
前記一対の電極間が所定の電位差となるまでの時間を計測する計時手段と、を備えている
ことを特徴とする静電容量型水分計。
【請求項2】
前記計時手段は、
前記一対の電極間にパルス状の電流が供給されてから該一対の電極間の電位差が所定の値となるまでの時間を測定するカウンタを備えている
ことを特徴とする請求項1記載の静電容量型水分計。
【請求項3】
前記計時手段は、
前記カウンタによるカウント数が最大カウント数になると、前記カウンタをリセットするリセット機能と、
前記カウンタによるカウント数が最大カウント数になった回数をカウントするカウント機能と、
を有するカウンタ制御部を備えている
ことを特徴とする請求項1または2記載の静電容量型水分計。
【請求項4】
前記一対の電極と前記解析部との間が導電性材料によって接続されており、
該導電性材料および/または前記一対の電極を外部から電気的に絶縁する絶縁シールドが設けられており、
該絶縁シールドと前記導電性材料および/または前記一対の電極とが同じ電位となるように調節する電位調整部を備えている
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の静電容量型水分計。
【請求項5】
前記一対の電極と前記パルス発生部との間に設けられた、前記一対の電極間から放電を生じさせる放電手段を備えており、
該放電手段は、
前記パルス発生部から前記一対の電極間に対するパルス状の電流の供給が停止されると、該一対の電極間に蓄積された電力を放電させるものである
ことを特徴とする請求項1、2、3または4記載の静電容量型水分計。
【請求項6】
前記センサ部を、粒状土からなる構造物に埋設して使用する
ことを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の静電容量型水分計。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5または6記載の静電容量型水分計を備えており、
該静電容量型水分計のセンサ部が、
軸方向に沿って延びたケースと、
該ケース内に収容された、前記一対の電極からなる電極対と、を備えており、
前記電極対が複数設けられており、
該複数の電極対は、
前記ケースの軸方向において、その先端の位置が異なるように設けられている
ことを特徴とする請求項1、2、3、4、5または6記載の静電容量型水分計。
【請求項8】
前記複数の電極対は、
その長さが10m以上である
ことを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6または7記載の静電容量型水分計。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図14】
image rotate

【図2】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2012−122909(P2012−122909A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275203(P2010−275203)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人地盤工学会、「第45回 地盤工学研究発表会」の講演論文が記録されたDVD−ROM、発行日2010年7月15日 社団法人地盤工学会、「第45回 地盤工学研究発表会」の講演論文が記録されたDVD−ROM、発行日2010年7月15日 社団法人地盤工学会、「第45回 地盤工学研究発表会 平成22年度発表講演論集」、発行日2010年7月15日 社団法人地盤工学会、「第45回 地盤工学研究発表会 平成22年度発表講演論集」、発行日2010年7月15日
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【Fターム(参考)】