説明

静電容量型電気機械変換装置の駆動装置及び駆動方法

【課題】光音響効果を用いた測定において、測定したいもの以外から発生する音響波による影響を本来の受信特性が受け難くすることが可能な静電容量型電気機械変換装置の駆動装置及び方法を提供する。
【解決手段】間隙を介して対向して設けられた第1の電極と第2の電極とを含むセルを有する静電容量型電気機械変換装置103の駆動装置は、検知手段と駆動制御手段を含む。検知手段は、測定対象102に照射する電磁波112を出力する電磁波源101の電磁波出力のタイミングを検知する。駆動制御手段は、検知手段で検知された電磁波源101の電磁波出力のタイミングに同期して、電磁波112で照射された測定対象102の内部で発生した音響波を受信する期間のみ電気機械変換装置103を受信状態にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光音響効果による音響波を受信することが可能な静電容量型電気機械変換装置の駆動装置及び駆動方法に関する。本明細書において、音響波とは、音波、超音波、光音響波と呼ばれるものを含み、測定対象に近赤外線等の光(電磁波)などを照射して測定対象内部で発生する(すなわち光音響効果で発生する)弾性波を指す。
【背景技術】
【0002】
超音波の送受信を行う電気機械変換装置として、静電容量型超音波トランスデューサであるCMUT(Capacitive Micromachined Ultrasonic
Transducer)が知られている。CMUTは、半導体プロセスを応用したMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)プロセスを用いて作製することができる。こうしたCMUTを、超音波トランスデューサ(電気機械変換装置)として、光音響効果を利用した測定装置に用いる提案がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0287912号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光音響効果により測定対象から音響波を発生させるためには、例えば、光源を所定のパルス幅で周期的に発光させ、測定対象に向けて強い光を照射する。しかし、測定対象が生体である場合、生体の表面の皮膚などでも光音響効果による音響波が発生する。また、光が当たった測定対象の周辺にある構成部材からも、光音響効果により音響波が発生してしまう。こうして発生した音響波は、音響波の受信部にも伝播し、測定対象の情報を含まない音響波のノイズ成分を受信してしまうことなる。光源からの光による音響波のノイズ成分は、測定対象内の検出対象(例えば生体内に存在する腫瘍等の光吸収体)から発せられる音響波に比べて大きい。その為、本来の測定対象の音響波の大きさに合わせて調整された電気機械変換装置であるCMUTにこのノイズ成分が入力した場合、CMUTの音響波受信動作に大きな影響を与える。この様に、ノイズ成分は、目的とする測定対象の測定時に、測定精度を低下させる原因となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題に鑑みて、間隙を介して対向して設けられた第1の電極と第2の電極とを含むセルを有する本発明の静電容量型電気機械変換装置の駆動装置は、検知手段と駆動制御手段を有することを特徴とする。検知手段は、測定対象に照射する電磁波を出力する電磁波源の電磁波出力のタイミングを検知する。駆動制御手段は、前記検知手段で検知された電磁波源の電磁波出力のタイミングに同期して、電磁波で照射された測定対象の内部で発生した音響波を受信する期間のみ静電容量型電気機械変換装置を受信状態にする。
【0006】
また、上記課題に鑑みて、間隙を介して対向して設けられた第1の電極と第2の電極とを含むセルを有する本発明の静電容量型電気機械変換装置の駆動方法は、検知ステップと駆動制御ステップを含むことを特徴とする。検知ステップでは、測定対象に照射する電磁波を出力する電磁波源の電磁波出力のタイミングを検知する。駆動制御ステップでは、前記検知ステップで検知された電磁波源の電磁波出力のタイミングに同期して、電磁波で照射された測定対象の内部で発生した音響波を受信する期間のみ静電容量型電気機械変換装置を受信状態にする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、静電容量型電気機械変換装置の駆動を上記の如く制御するので、光音響効果を用いた測定において、本来の受信時における受信特性が、測定したいもの以外から発生する音響波による影響を受け難くなる。それにより、高精度な測定を行うことができ、正確な測定対象の情報を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1の実施形態における音響波測定システムを説明する図。
【図2】第1及び第4の実施形態における駆動制御を説明するグラフ。
【図3】第1の実施形態の電気機械変換装置の駆動装置及び方法を説明する図。
【図4】第2の実施形態の電気機械変換装置の駆動装置及び方法を説明する図。
【図5】第3の実施形態の電気機械変換装置の駆動装置及び方法を説明する図。
【図6】第4の実施形態の電気機械変換装置の駆動装置及び方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明は、PAT(光音響トモグラフィー)などに用いられる音響波受信用のCMUTなどの静電容量型電気機械変換装置の駆動装置及び駆動方法に関する。例えば、光を測定対象に照射した場合、測定対象表面で大きな音響波(表面音響波)が発生することがある。こうした表面音響波などは、その後の音響波受信に影響を及ぼすため、本発明では、表面音響波などによる音響波を受信せず、表面音響波通過後に音響波を受信する様に静電容量型電気機械変換装置の駆動を制御する。その為に、本発明の静電容量型電気機械変換装置の駆動装置及び駆動方法では、電磁波源の電磁波出力のタイミングに同期して、測定対象の内部(測定対象内部に存在する検出対象である光吸収体)で発生した光音響効果による音響波を受信する期間のみ電気機械変換装置を受信状態にする。この考え方に基づき、本発明の電気機械変換装置の駆動装置及び駆動方法の基本的な形態は、上述した様な構成を有する。この基本的な形態を基に、次に述べる様な実施形態が可能である。
【0010】
典型的には、電磁波源は、間隔をおいて(例えば、周期的に)パルス状の電磁波を出力する。そして、前記駆動制御手段は、パルス状の電磁波で照射される測定対象の内部で発生する測定目的の音響波のみを受信できる様に、電磁波出力のタイミングに同期して、電気機械変換装置の状態を所定の間隔で受信状態と非受信状態との間で切り替える。ここで、「同期して」とは、例えば、電磁波出力時から所定の時間遅れた時点から始めて、という意味である。パルス状の電磁波とすることで、測定対象表面からの音響波とその内部からの音響波とがあまり混じらないで電気機械変換装置に到達する様にでき、測定対象の内部で発生した音響波のみをよりクリアに分別して検出することができる。
【0011】
以下、図を用いて本発明による静電容量型電気機械変換装置の駆動装置及び方法の実施形態を説明する。以下の実施形態では、バイアス電圧が印加される第2の電極を上部電極、誘導電流を出力する第1の電極を下部電極として、説明を行うが、上部電極と下部電極の役割が逆であってもよい。また、以下の実施形態のいくつかでは、前記検知手段は、直流電位印加手段、電流検出手段などに内蔵されていて、電磁波源の駆動信号を受けて電磁波出力のタイミングを検知している。しかし、直流電位印加手段、電流検出手段などの外部に設けることもできるし、電磁波源からの電磁波の一部を受けて電磁波出力のタイミングを検知する様にしてもよい。また、以下の実施形態のいくつかでは、前記駆動制御手段も、直流電位印加手段、電流検出手段などに内蔵されていて、前記検知手段の検知結果に応じて、測定対象内部で発生した音響波を受信する期間のみ電気機械変換装置を受信状態にする。しかし、これも、直流電位印加手段、電流検出手段などの外部に設けて、直流電位印加手段、電流検出手段などを制御する様に構成してもよい。
【0012】
(第1の実施形態)
第1の実施形態の電気機械変換装置の駆動装置及び方法を説明する。本実施形態では、光音響効果を発生させる周期的な電磁波の発光(パルス発光)に同期して、測定対象内部で発生した音響波を受信する期間のみ、電気機械変換装置を音響波の受信状態とする。そして、その他の期間では、完全に受信しない、或いは受信感度を低減して実質的に受信しない非受信状態とする。
【0013】
本実施形態に係る音響波測定システムの構成を示す図1において、101は電磁波源である光源、102は測定対象、103は電気機械変換装置である超音波トランスデューサである。また、111は、光源101の駆動信号、112は、光源101からの電磁波である出力光(パルス光)、113は、超音波トランスデューサ103による検出信号である。本実施形態の音響波測定システムにおける種々のタイミングを説明する図2(a)〜(d)を参照しつつ、本実施形態の駆動制御の原理を説明する。図2において、横軸は全て時間軸である。縦軸はそれぞれ、(a)では駆動信号111の大きさ、(b)では光源101から出力される光112の強さ、(c)では超音波トランスデューサ103での音響波の検出信号113の大きさを示す。また、図2(d)の縦軸は、超音波トランスデューサ103が受信状態(ON)であるか、非受信状態(OFF)であるかを示す。
【0014】
光源101は、測定対象102を挟んで超音波トランスデューサ103と対向する様に配置される。ここでは、測定対象102の光源101側の表面を表面A、超音波トランスデューサ103側の表面を表面Bとする。また、測定対象102内で測定を行う範囲をCとする。測定対象102は均一な厚さを有するとして説明を行う。また、測定対象102としては、生体を想定している。本実施形態に係る測定システムは、測定対象102内に存在する特定の物質の情報(位置、形状、種類など)を、光音響効果を利用して取得する。光源101は、適当な間隔を置いてパルス光を発する。ここでは、光源101に入力される周期的な駆動信号111(図2(a)参照)により、周期的な発光を行う(図2(b)参照)。ここで、周期的な発光は、繰返し測定を行い微小な音響波信号を積算平均化することで検出精度を上げるためなどの理由で実施している。発光した光は、測定対象102の表面に照射され、測定対象102の内部に伝播していく。測定対象102内に存在する特定の物質に、伝播した光が到達すると、光音響効果により音響波が発生する。発生する音響波の大きさは、伝播した光の強さや、物質の特性、形状などで決まる。発生した音響波は、超音波トランスデューサ103で受信され、受信した音響波の大きさの情報を含んだ検出信号113として出力される。
【0015】
上述した様に、測定対象102に照射された光は、測定対象102の表面A、Bで大きな音響波を発生する。これは、測定対象102の表面にある皮膚などにより、大きな音響波信号が発生するためである。また、表面Aでは、照射される光が測定対象102内での減衰を経ておらず、強度が大きいため、より大きな音響波を発生させる。測定対象102内の各部分で発生した音響波は、測定対象102中を減衰しながら、測定対象102中での音響波の速度で、或る時間をかけて超音波トランスデューサ103に到達する。到達する順番は、超音波トランスデューサ103に近い場所で発生した音響波ほど早くなる。従って、超音波トランスデューサ103に到達する時間により、測定対象102のどの位置で発生した音響波かを識別できる。本測定システムでは、この到達時間の差を利用して、求めたい測定対象102の情報を得て、画像などの情報の形成に用いる。
【0016】
超音波トランスデューサ103に到達する順番は、まず測定対象102の表面Bで発生した音響波、次に測定対象102中で測定を行う範囲Cで発生した音響波、最後に測定対象102の表面Aで発生した音響波となる。つまり、実際に測定を行いたい測定対象102内部で発生した音響波は、測定に用いない不要な信号である表面A、Bで発生した音響波で挟まれた信号として検出される(図2(c)参照)。この測定対象102の表面A、Bで発生した音響波は、不要なだけでなく、それが到達する時に電気機械変換装置が受信状態である場合は、その受信動作状態に影響を及ぼす。表面Bで発生した音響波が到達した後に、本来測定したい測定対象102内部で発生した音響波が到達し始めるので、この受信動作状態への影響は、そのまま、測定したい音響波の受信特性の劣化の原因となる。劣化原因を除く為に、本実施形態では、測定対象102内部の測定したい領域で発生した音響波が超音波トランスデューサ103に到達する期間以外は、超音波トランスデューサ103を受信状態にしないことにする。具体的には、光源101の発光周期に同期して、或る時間D経過後、一定期間P以外は受信状態にしない(図2(d)参照)。
【0017】
ここで、経過時間Dは、表面Bで発生する音響波が超音波トランスデューサ103に到達するまでの時間より長い時間である。一定期間Pは、表面Bで発生した音響波が超音波トランスデューサ103に到達してから、表面Aで発生した音響波が超音波トランスデューサ103に到達するまでの時間間隔より短い時間である。これにより、測定対象102の表面で発生する音響波が到達する期間は、超音波トランスデューサ103は受信状態でないため、大きな音響波を受信したとしても、本来測定したい音響波の受信特性への影響は抑制ないし解消できる。その後、測定したい音響波を測定する際に、初めて受信状態になるため、上記の如く本来の受信特性への影響は抑制でき、高精度に、測定したい音響波を受信できる。この様に、超音波トランスデューサ103を駆動制御するステップでは、電磁波出力のタイミングから第1の所定期間Dは非受信状態とし、次の第2の所定期間Pは受信状態とし、更に次の第3の所定期間は非受信状態とする。
【0018】
この際、経過時間Dや一定期間Pは、予め測定対象の厚さ、その中での音響波の速度が分かっていてそれらから計算できるので、それらの値を装置に予め設定しておけばよい。或いは、次の様にすることもできる。最初は装置を全時間において受信状態にし、発光時から図2(c)に図示の如き信号を得る時間までの期間を装置が測定できる様にしておく。そして、その後、測定結果に基づいて装置が自動的に経過時間Dや一定期間Pを設定して、実際の測定動作に入る。
【0019】
本実施形態において、CMUTを超音波トランスデューサ103として用いる場合を説明する。図3に、このCMUTの構成を示す。図3において、201はCMUTのセルの振動膜、202は上部電極、203は振動膜201の支持部、204は間隙(空隙)、205は下部電極、206は基板、301は直流電位印加手段、302は電流検出手段である。このCMUTでは、振動膜201上に上部電極202が形成され、その振動膜201は、基板206上に形成された支持部203により支持されている。基板206上には、振動膜201上の上部電極202に対して間隙204(通常10nm〜900nm)を挟んで対向した下部電極205が配置されている。これら振動膜201と間隙204を挟んで対向した2つの電極202、205とを1組としてセルと呼ぶ。トランスデューサアレイであるCMUTは、複数(通常100〜3000個程度)のセルを1エレメント(画素)として、200〜4000程度のエレメントから構成されており、CMUT自体は10mm〜10cm程度のサイズが一般的である。
【0020】
上部電極202はCMUT面内で全て接続されており、上部電極202には、直流電位印加手段301が接続されている。直流電位印加手段201により、上部電極202と下部電極105との間に所望の電位差が発生する様に、所定の直流電位が一様に印加される。この状態で、振動膜201に音響波が入力すると、振動膜201が音響波の大きさに応じて振動する。こうして、支持部203で支持された振動膜201により音響波が振動に変換される。振動膜201の振動により、下部電極205に静電誘導が起こり、微小電流が発生する。下部電極205に接続された電流検出手段302が、その電流値を測定することで、音響波の受信信号が取り出せる。この様に、CMUTでは、振動膜201上の上部電極202と下部電極205により振動が電流に変換され、電流検出手段202が電流を検出信号に変換する。
【0021】
ここで、上述した様に、大きな音響波がCMUTに入力された場合は、CMUT内部で、非常に大きな振動や非常に大きな電流を伝達することになる。このとき、CMUTは、微小な音響波の変化を受信・検出するために最適な設定となっている。その為、大きな振動や電流が入力された場合、設定しているCMUTの動作点が変わってしまい、情報(電流など)を変換する比が大きく変わったり、或る部分が飽和してしまったりし、通常の受信状態に戻るまでに一定の時間が必要となることがある。こうしたことが発生すると、CMUTの音響波受信特性が劣化してしまう。
【0022】
本実施形態では、光源101の駆動信号111が、直流電位印加手段301または電流検出手段302に入力される構成になっている。すなわち、直流電位印加手段301または電流検出手段302は、駆動信号111を受け取る前記検知手段を内蔵している。そして、直流電位印加手段301または電流検出手段302では、光源101の駆動信号111の入力(光源101の発光)に同期させて、受信状態と非受信状態との間の切替を行う。すなわち、直流電位印加手段301または電流検出手段302に内蔵された前記駆動制御手段が、前記検知手段の検知結果に基づき、光源101の発光に同期させて受信状態と非受信状態との間の切替を行う。より具体的には、「振動膜201の振動を電流に変換する比」、または「電流を電流検出手段302に伝達する比」、または「電流を検出信号に変換する比」を変化させて切替を行う。
【0023】
「振動膜201の振動を電流に変換する比」を変化させる場合は、光源101の駆動信号111を直流電位印加手段301に入力する構成となる(図3(a)の構成)。一方、「電流を電流検出手段302に伝達する比」、または「電流を検出信号に変換する比」を変化させる場合は、光源101の駆動信号111を電流検出手段302に入力する構成となる(図3(b)の構成)。これにより、CMUT内部で、情報の伝達に用いる振動や電流の値が大き過ぎることによるCMUTの受信状態への悪影響が抑制される。
【0024】
以上の様にした静電容量型電気機械変換装置の駆動装置及び方法により、光音響効果を用いた測定において、測定対象以外から発生する音響波による本来の受信特性への影響が抑制される。尚、不要な信号として、測定対象102の表面から発生する音響波を用いて説明したが、本発明はこれに限定されない。本実施形態の駆動装置及び方法は、例えば、測定対象102外部の別の構成部材から発生する音響波などの不要な信号に対しても、同様に有効である。
【0025】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態を、図4を用いて説明する。第2の実施形態は、受信動作状態のオン・オフ(受信状態と非受信状態との間での切替)を行う駆動装置及び方法をより具体的にした構成例に係る。それ以外は、第1の実施形態と同じである。第2の実施形態では、電流を検出信号に変換する比を変化させることにより、受信動作状態のオン・オフを行う。
【0026】
本実施形態では、微小電流の変化を電圧の変化に変換する電流-電圧変換回路であるトランスインピーダンス回路を用いる。本実施形態の電流検出手段302であるトランスインピーダンス回路の構成を示す図4において、401はオペアンプ、402と404は抵抗、403と405はコンデンサ、406は、駆動制御手段をなす配線短絡手段である。図4では、オペアンプ401は正負電源VDD、VSSに接続されている。まず、容量変化検出時の動作を説明する。オペアンプ401の反転入力端子(−IN)は、CMUTの下部電極205に接続されている。また、オペアンプ401の出力端子(OUT)は、並列に接続された抵抗402とコンデンサ403が配線短絡手段406を介して反転入力端子(−IN)に接続されて、出力信号がフィードバックされる構成になっている。オペアンプ401の非反転入力端子(+IN)は、並列に接続された抵抗404とコンデンサ405により、グランド端子(GND)に接続されている。グランド端子(GND)の電圧は、正電源VDDと負電源VSSとの間の中間電位となっている。抵抗402と404の値、コンデンサ403と405の値は、それぞれ同じ値であり、CMUTの電流検出時(本来の受信状態)の仕様に合ったパラメータとなっている。
【0027】
まず、超音波トランスデューサ103が非受信状態(オフ状態)である時は、前記検知手段による検知結果に基づいて制御される配線短絡手段406では両端の配線間が接続されず(開放されて)、図4(a)の様に配線されている。この状態では、振動膜201の振動で下部電極205に発生した電流は、電流検出手段302のオペアンプ401のフィードバック部分には流れ込まない。このとき、電流検出手段302であるトランスインピーダンス回路は、入力された電流によらず、一様に検出信号を出力しない。この為、大きな振幅の不要な音響波が入力されても、電流検出手段302に大きな電流が流れ込み、電流検出手段302が飽和してしまい、一定期間、検出信号が取り出せなくなるという事態が発生しない。また、大きな電流が電流検出手段302に入力することで、他のエレメントの検出信号に影響を与えることも抑制される。
【0028】
一方、超音波トランスデューサ103が受信状態(オン状態)である時は、配線短絡手段406では両端の配線間が接続されて(短絡されて)、図4(b)の様に配線されている。この状態では、振動膜201の振動により下部電極205に発生した電流は、電流検出手段302の入力端子から、配線短絡手段406を通り、並列に接続された抵抗402とコンデンサ403のフィードバック部分に流れ込む。このとき、電流検出手段302であるトランスインピーダンス回路は、入力された電流に対応した検出信号を出力し、音響波を受信することができる。この様に、駆動制御手段(配線短絡手段406)は、前記検知手段で検知された電磁波出力に同期して、第1の電極の誘導電流を検出する検出手段302を制御して、受信状態時には誘導電流の検出を行わせ、非受信状態時には誘導電流の検出を行わせない。
【0029】
本実施形態によれば、電流検出手段302に配線短絡手段を挿入するという簡単な構成で、光音響効果を用いた測定において、測定したいもの以外から発生する音響波で本体の受信期間での受信特性が影響を受け難い駆動装置及び方法を実現できる。
【0030】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態を、図5を用いて説明する。第3の実施形態も、受信動作状態のオン・オフ(受信状態と非受信状態との間での切替)を行う駆動装置及び方法をより具体的にした構成例に係る。それ以外は、第1の実施形態と同じである。第3の実施形態では、振動により下部電極205に発生した電流の電流検出手段302への入力の有無(すなわち電流を電流検出手段302に伝達する比の変化)によって、受信動作状態のオン・オフを行う。
【0031】
本実施形態に係るCMUTの構成を示す図5において、303は、駆動制御手段をなす配線切替手段である。本実施形態では、下部電極205と電流検出手段302の配線の間に、配線切替手段303が挿入されている。配線切替手段303は、下部電極205からの配線を、電流検出手段302の入力端子とグランド端子(GND)との間で切り替えることができる。ここで、グランド端子(GND)は、電流検出手段302が持つ所定の電位に設定されている。まず、CMUTが非受信状態(オフ状態)である時は、前記検知手段による検知結果に基づいて制御される配線切替手段303は図5(a)の様に配線されており、振動膜201の振動により下部電極205に発生した電流はグランド端子に流れ込む。この為、大きな振幅の不要な音響波が入力されても、電流検出手段302に大きな電流が流れ込み、電流検出手段302が飽和してしまい、一定期間、検出信号が取り出せなくなるという事態が発生しない。また、大きな電流が電流検出手段302に入力されることで、他のエレメントの検出信号に影響を与えることも少なくなる。
【0032】
一方、超音波トランスデューサ103が受信状態(オン状態)である時は、配線切替手段303は図5(b)の様に配線されており、振動膜201の振動で下部電極205に発生した電流は電流検出手段302の入力端子に流れ込む。その為、電流検出手段302は、受信した音響波の大きさに対応した電流信号を検出して検出信号として出力することができる。この様に、前記検知手段により検知された電磁波出力タイミングに同期して、スイッチ手段である駆動制御手段(配線切替手段303)が制御される。すなわち、駆動制御手段は、受信状態時には、第1の電極とこれに誘導される誘導電流を検出する検出手段302の間を短絡し、非受信状態時には、第1の電極とこれに誘導される誘導電流を検出する検出手段302の間を開放にする。
【0033】
この様に本実施形態によると、配線切替手段303を挿入するという簡単な構成で、光音響効果を用いた測定において、測定したいもの以外から発生する音響波によって本来の受信特性が影響を受け難くできる。
【0034】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態を、図6を用いて説明する。第4の実施形態は、受信動作状態のオン・オフ(受信状態と非受信状態との間での切替)を行う駆動装置及び方法をより具体的にした構成例に係る。それ以外は、第1の実施形態と同じである。第4の実施形態では、振動膜201の振動を電流に変換する比を変化させることにより、受信動作状態のオン・オフを行う。
【0035】
図6は、本実施形態における振動膜201の位置を示す図である。図2(e)、(f)に、本実施形態に係る音響波測定システムでのタイミングを示す。横軸は全て時間軸であり、縦軸は、それぞれ、図2(e)では電極202、205間の電位差、図2(f)では振動膜201の撓みの大きさである。本実施形態では、前記検知手段による検知結果に基づいて制御される直流電位印加手段301中の駆動制御手段により、上下電極202、205間に印加される電位差を変化させることにより、振動膜201の振動が電流に変換される比を変える。具体的には、電位差をほぼ0とした時は、振動膜201は殆ど撓んでいない図6(a)で表す状態となり、超音波トランスデューサ103であるCMUTは非受信状態(オフ状態)である。一方、ほぼ所定の電位差Vdとした時は、振動膜201は下部電極205側に大きく撓んで図6(b)で表す状態となり、CMUTは受信状態(オン状態)である。以下、それぞれの状態について説明する。
【0036】
まず、CMUTが非受信状態(オフ状態)である時は、上下電極202、205間の電位差がほぼ0とみなすことができる状態となっており、振動膜201は基板206側に若干撓んでいる。これは、セルの空隙204内部は大気圧より減圧されており、大気圧と空隙204の内部圧力との差により発生する力で、振動膜201が基板206側に若干撓むためである。この振動膜201の撓み量は、振動膜の大きさ、形、厚さ、膜質などのパラメータで決まるメカニカルな特性によって決定される。音響波を受信する場合には、検出される微小電流の大きさは、電極202、205間の距離に反比例し、電極間の電位差に比例する。その為、このとき、振動膜201が若干しか撓んでおらず、電極間距離が遠く、更にはそもそも電位差がほぼ0なので、音響波を受けた振動膜201の振動による電流は殆ど発生しない。つまり、振動膜201の振動を電流に変換する比率がほぼ0であり、音響波を受信した検出信号を出力しない状態となり、CMUTが非受信状態であると言える。
【0037】
一方、CMUTが受信状態(オン状態)である時は、上下電極202、205間の電位差は所定の電位差Vdとなっており、振動膜201は基板206側に更に撓んでいる。これは、上下電極202、205間には所定の電位差Vdが印加されていて、電極間に発生する静電引力により、振動膜201は基板206側方向に大きく引き付けられるためである。ただし、この撓み量は、上部電極202と下部電極205との間の元々の間隔の3分の1以下程度となっている。その理由は、電位差を大きくし過ぎて、撓み量が電極間の間隔の約3分の1を超えると、静電引力により振動膜201が大きく変形し、振動膜201が下部電極205に接触した状態になるためである。振動膜201が下部電極205に接触したコラプス状態では、振動膜201の振動特性や容量変化特性が大きく変わってしまうため、CMUTの音響波受信特性が大幅に変化し、これは好ましくない。
【0038】
この様に、上下電極202、205間に生じさせる電位差を大きくすることにより、電極間に発生する静電引力が大きくなって振動膜201の撓みが大きくなり、電極間の距離が狭くなる。電極間の距離が狭くなるほど、振動膜201の同じ振動で下部電極205に発生する電流は大きくなり、加えて電極間の電位差も大きいので、発生する電流は更に大きくなる。つまり、振動膜201の振動を電流に変換する比率が高くなり、音響波を受信するのに適した状態となって、CMUTが受信状態であると言える。この様に、直流電位印加手段301中の駆動制御手段は、前記検知手段により検知された電磁波出力に同期して、電極間の電位差を調整する。そして、受信状態時の電位差より非受信状態時の電位差を小さくして、非受信状態時に上部電極202の振動で下部電極205に誘導される誘導電流を受信状態時の誘導電流より小さくする。
【0039】
本実施形態では、直流電位印加手段301中の駆動制御手段により上下電極202、205間の電位差を、光源101の発光に同期させて、0とVdとの間で適切な間隔で(ここでは光源101の発光が周期的であるので周期的に)切り替える(図2(e)参照)。この切替に掛かる時間(立ち上り時間、立下り時間)における信号変化が持つ周波数は、振動膜201が応答する周波数特性の範囲を避けたものであることが望ましい。これにより、電位差の変化により振動膜201が振動してしまうのを防ぐことができる。0とVdとの間での電位差の変化に伴って、振動膜201の撓みの大きさは、図2(e)で示す様に、周期的に変化する。これにより、振動膜201の振動を電流に変換する比を周期的に変化させることができ、不要な音響波の受信を抑制することができる。
【0040】
以上の様に、本実施形態の構成では、直流電位印加手段301中の駆動制御手段でCMUTの上部電極202に印加する電位を変えるだけで、簡単にCMUTを受信状態と非受信状態との間で切り替えることができる。非受信状態になっている時は、振動膜201の撓みが小さいため、大きな振幅の不要な音響波が入力されても、振動膜201がコラプス状態になって振動膜201の状態が大きく変わってしまう様なことがない。また、大きな振幅の不要な音響波が入力されて、振動膜201が大きく振動したとしても、下部電極205の電流に殆ど変換されない。その為、大きな電流が入力されて電流検出手段302が飽和してしまい、一定期間、検出信号が取り出せなくなるという事態が発生せず、また、大きな電流が電流検出手段302に入力されることで、他のエレメントの検出信号に影響を与えることも少なくなる。
【0041】
本実施形態によると、電極に印加する電位を変化させるだけで、構成要件の追加なく、光音響効果を用いた測定において、測定したいもの以外から発生する音響波で本来の受信特性が影響を受け難くなる。こうして、測定したい音響波を正確に受信できることになる。
【符号の説明】
【0042】
101…光源(電磁波源)、102…測定対象、103…超音波トランスデューサ(電気機械変換装置)、112…光源の出力光(電磁波)、202…上部電極(第1の電極)、204…空隙(間隙)、205…下部電極(第2の電極)、301…直流電位印加手段、302…電流検出手段、303、406…配線切替(短絡)手段(駆動制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隙を介して対向して設けられた第1の電極と第2の電極とを含むセルを有する静電容量型電気機械変換装置の駆動装置であって、
測定対象に照射する電磁波を出力する電磁波源の電磁波出力のタイミングを検知する検知手段と、
前記検知手段で検知された電磁波源の電磁波出力のタイミングに同期して、前記電磁波で照射された測定対象の内部で発生した音響波を受信する期間のみ前記静電容量型電気機械変換装置を受信状態にする駆動制御手段と、
を有することを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
前記駆動制御手段は、
電磁波源から周期的に出力される電磁波で照射される測定対象の内部で発生する音響波のみを受信できる様に、前記検知手段で検知された電磁波源の電磁波出力のタイミングに同期して、前記静電容量型電気機械変換装置の状態を所定の間隔で受信状態と非受信状態との間で切り替えることを特徴とする請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記駆動制御手段は、
前記検知手段により検知された前記タイミングに同期して配線切替手段を制御して、前記受信状態時には、前記第1の電極と前記第1の電極に誘導される誘導電流を検出するための検出手段の間を短絡し、前記非受信状態時には、前記第1の電極と前記検出手段の間を開放にすることを特徴とする請求項2に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記駆動制御手段は、
前記検知手段により検知された前記タイミングに同期して、前記第1の電極に誘導される誘導電流を検出するための検出手段を制御して、前記受信状態時には、誘導電流の検出を行わせ、非受信状態時には、誘導電流の検出を行わせないことを特徴とする請求項2に記載の駆動装置。
【請求項5】
前記駆動制御手段は、
前記検知手段により検知された前記タイミングに同期して、前記第1の電極と前記第2の電極との間の電位差を調整するための電位印加手段を制御して、前記受信状態時の電位差より前記非受信状態時の電位差を小さくして、前記非受信状態時に前記第2の電極の振動により前記第1の電極に誘導される誘導電流を前記受信状態時の前記誘導電流より小さくすることを特徴とする請求項2に記載の駆動装置。
【請求項6】
間隙を介して対向して設けられた第1の電極と第2の電極とを含むセルを有する静電容量型電気機械変換装置の駆動方法であって、
測定対象に照射する電磁波を出力する電磁波源の電磁波出力のタイミングを検知する検知ステップと、
前記検知ステップで検知された電磁波源の電磁波出力のタイミングに同期して、前記電磁波で照射された測定対象の内部で発生した音響波を受信する期間のみ前記静電容量型電気機械変換装置を受信状態にする駆動制御ステップと、
を含むことを特徴とする駆動方法。
【請求項7】
前記駆動制御ステップでは、電磁波源から周期的に出力される電磁波で照射される測定対象の内部で発生する音響波のみを受信できる様に、前記検知ステップで検知された電磁波源の電磁波出力のタイミングに同期して、前記静電容量型電気機械変換装置の状態を所定の間隔でもって受信状態と非受信状態との間で切り替えることを特徴とする請求項6に記載の駆動方法。
【請求項8】
前記検知ステップでは、電磁波源の駆動信号または電磁波源からの電磁波を検知して前記電磁波出力のタイミングを検知することを特徴とする請求項6または7に記載の駆動方法。
【請求項9】
前記駆動制御ステップでは、前記電磁波出力のタイミングから第1の所定期間は非受信状態とし、次の第2の所定期間は受信状態とし、更に次の第3の所定期間は非受信状態とすることを特徴とする請求項6または7に記載の駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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