説明

非ステロイド性抗炎症薬起因性潰瘍の予防・治療薬

【課題】非ステロイド性抗炎症薬起因性潰瘍の予防・治療薬の提供。
【解決手段】アスタキサンチン及びアスタキサンチン脂肪酸エステルの混合物とテプレノンとを含む、非ステロイド性抗炎症薬起因性潰瘍の予防・治療薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非ステロイド性抗炎症薬起因性潰瘍の予防・治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
非ステロイド性抗炎症薬(Non−Steroidal Anti−Inflammatory Drugs;NSAIDs)は、解熱・鎮痛・消炎を目的として広く使用されている。NSAIDsの副作用として胃潰瘍などの重篤な消化器障害が生じることがあり、NSAIDs起因性潰瘍は臨床上大きな問題となっている。
【0003】
現在、臨床的にNSAIDs起因性潰瘍を予防・軽減する目的で種々の薬物が用いられており、プロトンポンプ阻害薬、H2ブロッカー及びプロスタグランジン製剤がNSAIDs起因性潰瘍の予防に有効な薬剤と位置付けられている(非特許文献1)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「EBMに基づく胃潰瘍診療ガイドライン 第2版」、胃潰瘍ガイドラインの適用と評価に関する研究班編、じほう、2007年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、酸分泌抑制能の強いプロトンポンプ阻害薬を用いても治癒し得ない難治性の症例が少なからず存在すること、プロスタグランジン製剤は腸管運動亢進による下痢や子宮収縮が生じるため使用に制限があることなどから、新たなNSAIDs起因性潰瘍の予防・治療薬の開発が期待されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意努力の結果、アスタキサンチンとテプレノンとを組み合わせると、NSAIDs誘発胃粘膜障害の治癒に相乗効果が発揮されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[4]を提供する。
[1]アスタキサンチン及びアスタキサンチン脂肪酸エステルの混合物とテプレノンとを含む、NSAIDs起因性潰瘍の予防・治療薬。
[2]アスタキサンチン及びアスタキサンチン脂肪酸エステルの混合物がヘマトコッカス藻由来である、請求項1記載の予防・治療薬。
[3]アスタキサンチンとテプレノンとを含む、NSAIDs起因性潰瘍の予防・治療薬。
[4]アスタキサンチン脂肪酸エステルとテプレノンとを含む、NSAIDs起因性潰瘍の予防・治療薬。
【発明の効果】
【0008】
本発明のNSAIDs起因性潰瘍の予防・治療薬は、アスタキサンチンとテプレノンの相乗効果により消化器粘膜の障害を改善する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】アスタキサンチンのインドメタシン誘発胃粘膜障害に対する効果を示すグラフである。各データは平均値±標準誤差を示す(対照群:n=10、アスタキサンチン投与群:n=5)。Astはアスタキサンチンを意味する。*はTurkey−Kramerの多重比較により、対照群に対してp<0.05で有意差があることを示す。
【図2】テプレノンのインドメタシン誘発胃粘膜障害に対する効果を示すグラフである。各データは平均値±標準誤差を示す(対照群:n=8、テプレノン投与群:n=5)。Tepはテプレノンを意味する。*はTurkey−Kramerの多重比較により、対照群に対してp<0.05で有意差があることを示す。
【図3】アスタキサンチン及びテプレノンの併用のインドメタシン誘発胃粘膜障害に対する効果を示すグラフである。各データは平均値±標準誤差を示す(各群:n=5)。Astはアスタキサンチンを意味し、Tepはテプレノンを意味する。*はStudentのt検定により、アスタキサンチン12.5mg/kg投与群に対してp<0.05で有意差があることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のNSAIDs起因性潰瘍の予防・治療薬に用いるテプレノンは、以下の構造式で示される薬であり、胃潰瘍・胃炎の治療に用いられている。
【0011】
【化1】

【0012】
本発明のNSAIDs起因性潰瘍の予防・治療薬に用いるアスタキサンチンは以下の構造式で示される天然カロチノイドの一種であり、強い抗酸化作用を有することが知られている。天然では脂肪酸とのエステル体(モノエステル及びジエステル)として存在するほか、フリー体としても存在している。
【0013】
【化2】

[R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は脂肪酸アシル基を意味する。主要な脂肪酸は、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸及びα−リノレン酸である。フリー体のアスタキサンチンは、R及びRがともに水素原子である。]
【0014】
本発明のNSAIDs起因性潰瘍の予防・治療薬に用いるアスタキサンチンは、フリー体でも、脂肪酸とのエステル体でもよく、これらの混合物でもよい。フリー体のアスタキサンチン及びエステル体のアスタキサンチンは化学的に合成することが可能である。フリー体及びエステル体のアスタキサンチンの混合物はオキアミ、ファフィア酵母、ヘマトコッカス藻などから抽出することが可能である。生産性や経済性の観点から、またエステル体が豊富である点から、ヘマトコッカス藻由来のアスタキサンチン及びアスタキサンチン脂肪酸エステルの混合物を使用することが好ましい。
【0015】
ヘマトコッカス藻由来のアスタキサンチン及びアスタキサンチン脂肪酸エステルの混合物は、例えば、バイオジェニック株式会社から購入することが可能であり、また、特開2009−131219号公報に記載の方法に基づいて製造することも可能である。ヘマトコッカス藻由来のアスタキサンチン脂肪酸エステルの脂肪酸は、培養方法や抽出方法などによりその組成は異なるものの、炭素数12〜22の脂肪酸が大半を占め、その中でも、パルミチン酸、リノール酸、オレイン酸及びα−リノレン酸の含有量が特に高い。
【0016】
本発明のNSAIDs起因性潰瘍の予防・治療薬の投与量は、症状の程度等に応じて異なるが、通常、成人の場合は1日あたり経口投与でテプレノンを10mg〜1g、アスタキサンチン又はアスタキサンチン及びアスタキサンチン脂肪酸エステルの混合物をフリー体のアスタキサンチン換算で1mg〜100mgをそれぞれ1日に1回または数回に分けて投与する。
【0017】
本発明のNSAIDs起因性潰瘍の予防・治療薬は、アスタキサンチン、アスタキサンチン脂肪酸エステル及びテプレノンのほか、適切な添加剤と混和し製剤化したものを使用する。添加剤としては、一般に医薬品に使用される、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、矯味矯臭剤、乳化剤、界面活性剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、防腐剤、抗酸化剤、安定化剤、吸収促進剤などを挙げることができる。
【0018】
NSAIDs起因性潰瘍とは、NSAIDsの服用に伴い生じる消化器(食道、胃、十二指腸など)の障害(出血、糜爛、潰瘍)であり、特に胃粘膜障害をいう。臨床上使用されるNSAIDsはいずれも消化器障害の起因となる可能性があるが、本発明のNSAIDs起因性潰瘍の予防・治療薬は服用するNSAIDsの種類によらず、すべてのNSAIDs起因性潰瘍を予防・治療することが可能である。予防とは消化器障害を生じることを防ぐことを意味し、治療とは、消化器障害を改善・軽減することを意味する。
【0019】
臨床上特に問題となるNSAIDs起因性潰瘍は、関節リウマチや変形性関節症などの慢性炎症性疾患の患者や低用量アスピリン療法(抗血小板療法)を受けている患者である。これらの患者は、長期間に亘りNSAIDsを服用するためNSAIDs起因性潰瘍が生じやすく、NSAIDs起因性潰瘍により治療の継続が困難となる。本発明のNSAIDs起因性潰瘍の予防・治療薬は、これらの患者に特に有用であり、NSAIDs起因性潰瘍を抑えることで治療を継続することが可能となる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0021】
3%カルボキシメチルセルロース水溶液に懸濁したインドメタシン30mg/kgを、胃ゾンデを用いてラット(Wistar系雄性;7週齢)に経口投与し、投与6時間後に麻酔下で開腹し、胃を摘出した。摘出した胃を大弯に沿って開き、胃体部粘膜に生じた潰瘍の重篤度を肉眼的に、表1の基準(中村秀雄ら、日薬理誌、第80巻(第2号)、169〜182頁、1982年)に基づき0−4で評価した。
【0022】
【表1】

【0023】
アスタキサンチン及びテプレノンの投与は、インドメタシンの投与の30分前及び3時間後に行った。アスタキサンチンは背部皮下に投与し、テプレノンは腹腔内投与した。アスタキサンチンはバイオジェニック株式会社のAstabio(登録商標)AR5(フリー体換算で5重量%のアスタキサンチンを含有)を用い、花王株式会社のココナードMLを希釈液として用いた。アスタキサンチンの投与量は、フリー体のアスタキサンチン換算量である。テプレノンはエーザイ株式会社製のものを用い、0.6%のTween80及び5%のアラビアゴムを含む生理食塩水を溶媒として用いた。
【0024】
アスタキサンチン単独投与による胃潰瘍の重篤度の改善の結果を図1に示した。対照群では3.4±0.16であった重篤度が、12.5mg/kg投与群及び25mg/kg投与群でそれぞれ2.2±0.2及び1.4±0.51となり、有意に重篤度が低下し、アスタキサンチンの用量に依存した改善効果が認められた。また、6.25mg/kg投与群では統計的に有意な重篤度の改善は認められなかったものの、対照群のラットで観察された大潰瘍(重篤度4)を示すラットはいなかった。なお、希釈液に用いたココナードMLを単独で投与した場合に改善効果が無かったことを確認している。
【0025】
テプレノン単独投与による胃潰瘍の重篤度の改善の結果を図2に示した。対照群では3.25±0.25であった重篤度が、25mg/kg投与群及び50mg/kg投与群でそれぞれ1.8±0.37及び1.2±0.2となり、有意に重篤度が低下し、テプレノンの用量に依存した改善効果が認められた。
【0026】
アスタキサンチン及びテプレノンの併用による胃潰瘍の重篤度の改善の結果を図3に示した。テプレノンの用量は、胃潰瘍の重篤度を有意に改善しなかった12.5mg/kgに設定し、アスタキサンチン6.25mg/kg〜25mg/kgと併用した。アスタキサンチン及びテプレノンを併用すると、重篤度の改善効果を増強する傾向が認められた。特に、アスタキサンチン12.5mg/kgとテプレノン12.5mg/kgを併用した場合は、アスタキサンチン12.5mg/kgを単独投与した場合と比較して、有意な改善効果が認められた(重篤度はそれぞれ1.4±0.24及び2.2±0.2)。また、アスタキサンチン25mg/kgとテプレノン12.5mg/kgを併用した場合は、顕著な胃潰瘍の重篤度の改善効果が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスタキサンチン及びアスタキサンチン脂肪酸エステルの混合物とテプレノンとを含む、非ステロイド性抗炎症薬起因性潰瘍の予防・治療薬。
【請求項2】
アスタキサンチン及びアスタキサンチン脂肪酸エステルの混合物がヘマトコッカス藻由来である、請求項1記載の予防・治療薬。
【請求項3】
アスタキサンチンとテプレノンとを含む、非ステロイド性抗炎症薬起因性潰瘍の予防・治療薬。
【請求項4】
アスタキサンチン脂肪酸エステルとテプレノンとを含む、非ステロイド性抗炎症薬起因性潰瘍の予防・治療薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−42590(P2011−42590A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190086(P2009−190086)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(504036279)バイオジェニック株式会社 (4)
【出願人】(509233747)
【出願人】(509233758)
【Fターム(参考)】