説明

非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物

【課題】難燃性に優れた非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)ポリカーボネート樹脂 30〜100質量%と、(B)ゴム変性芳香族ビニル系樹脂 70〜0質量%と、からなる基礎樹脂と、前記基礎樹脂((A)+(B))100質量部に対して、(C)下記化学式Iで表示されるリン化合物 0.5〜30質量部と、を含む非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。


(前記化学式I中、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、またはフェニル基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物に関する。より具体的には、本発明は、ポリカーボネート樹脂とゴム変性芳香族ビニル系樹脂とのブレンド物に、難燃剤としてリン化合物を適用した、優れた難燃性を有する新規な非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート/スチレン含有共重合体のブレンド物は、高いノッチ衝撃強度を維持しながら加工性を向上させた樹脂組成物であって、通常、コンピュータの筐体またはその他の事務用機器などの熱を多く発生する大型射出物に適用されるため、難燃性、耐熱性、および高い機械的強度を維持しなければならない。
【0003】
このような樹脂組成物に難燃性を与えるために、従来、ハロゲン系難燃剤およびアンチモン化合物が用いられた。しかしながら、ハロゲン系難燃剤を用いる場合、燃焼時に発生するガスの人体有害性の問題があるため、ハロゲン系難燃剤を含まない樹脂への需要が近年急激に拡大されている。
【0004】
ハロゲン系難燃剤を用いることなく難燃性を与えるための技術として現在最も一般的な方法は、リン化合物を用いる方法である。リン化合物のうち、難燃剤として用いられる代表的なものは、商業的に入手可能なリン酸エステル難燃剤である。特許文献1には、非ハロゲン芳香族ポリカーボネート樹脂、非ハロゲンスチレン−アクリロニトリル共重合体、非ハロゲンリン系化合物、テトラフルオロエチレン重合体及び少量のABS共重合体からなる熱可塑性樹脂組成物が開示されている。特許文献2には、芳香族ポリカーボネート樹脂、ABSグラフト共重合体、共重合体および単量体型リン酸エステルからなる難燃性樹脂組成物が開示されている。しかしながら、リン酸エステルの添加による難燃性が効果を示すためには、一定量以上を添加しなければならないという問題がある。また、これを用いる樹脂組成物では、難燃剤が成形中に成形物の表面に移動して表面クラック、すなわち「ジューシング現象」が生じる問題があり、樹脂組成物の耐熱性が急激に低下する問題もある。
【0005】
他のリン系化合物難燃剤としては、ホスファゼン化合物がある。特許文献3には、芳香族ポリカーボネート樹脂、グラフト共重合体、ビニル系共重合体、およびホスファゼン化合物からなる難燃性樹脂組成物が開示されている。この特許では、ホスファゼン化合物を難燃剤として用いて、別途の滴下防止剤なしに燃焼時に滴下が発生することなく、優れた耐熱性および衝撃強度が得られることを示している。しかしながら、ホスファゼン化合物を難燃剤として用いると、優れた難燃等級を示すために、多くの難燃剤を用いなければならないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,692,488号明細書
【特許文献2】米国特許第5,061,745号明細書
【特許文献3】欧州特許第728,811号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、難燃性に優れた非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従来の難燃性熱可塑性樹脂の問題点を解決するために、ポリカーボネート樹脂とスチレン系樹脂とのブレンド物に対して、リン化合物を新規な難燃剤として適用することによって、難燃性に優れ、かつハロゲン化水素ガスがほとんど発生しないかまったく発生しない非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を開発し、本発明を完成するに至った。
【0009】
上記の技術的課題を解決するために、本発明は、(A)ポリカーボネート樹脂 30〜100質量%および(B)ゴム変性芳香族ビニル樹脂 70〜0質量%からなる基礎樹脂と、
前記基礎樹脂((A)+(B))100質量部に対して、(C)下記化学式Iで表されるリン化合物 0.5〜30質量部と、を含む、非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【0010】
【化1】

【0011】
前記化学式I中、R1およびR2は、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、またはフェニル基である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リン化合物を新たな難燃剤として適用することによって、難燃性に優れているのみでなく、加工や燃焼の際にハロゲン水素ガスがほとんど発生しないかまったく発生しない非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物が提供されうる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0014】
(A)ポリカーボネート樹脂
本発明に係るポリカーボネート樹脂は、当業者にとって公知の方法を用いて製造された合成品を用いてもよいし、商業的に購入可能なポリカーボネート樹脂を用いてもよい。
【0015】
例えば、前記ポリカーボネート樹脂は、下記化学式IIで表されるジフェノール化合物を、ホスゲン、ハロゲンホルマート、または炭酸ジエステルと反応させて製造することができる。
【0016】
【化2】

【0017】
前記化学式II中、Aは単結合、炭素数1〜5のアルキレン基、炭素数1〜5のアルキリデン基、炭素数5〜6のシクロアルキリデン基、硫黄原子、または−SO−である。
【0018】
上記化学式IIで表されるジフェノール化合物の具体的な例としては、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,4−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−シクロヘキサン、2,2−ビス−(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス−(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパンなどが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0019】
これらの中でも、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス−(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−シクロヘキサンなどを用いることが好ましく、ビスフェノール−A(Bisphenol−A、BPA)とも呼ばれる2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパンを用いることがより好ましい。
【0020】
前記ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量は、10,000〜200,000であることが好ましく、15,000〜80,000であることがより好ましい。なお、本明細書において、重量平均分子量は、LF−804(Waters社製)のカラムを用いたゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定した値を採用する。
【0021】
前記ポリカーボネート樹脂としては、線状ポリカーボネート樹脂のみでなく、分岐状ポリカーボネート樹脂またはポリエステルカーボネート樹脂を制限なく用いることができる。この際、前記分岐状ポリカーボネートは、例えば、上記化学式IIで表されるジフェノール化合物全モル数に対して、好ましくは0.05〜2mol%の3価またはそれ以上の多官能化合物、例えば、3価またはそれ以上のフェノール性ヒドロキシ基を有する化合物を添加して製造することができる。
【0022】
本発明の非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造に用いられるポリカーボネートとしては、ホモポリカーボネート、またはコポリカーボネートを制限なく用いることができ、ホモポリカーボネートとコポリカーボネートとのブレンド物も用いることができる。
【0023】
さらに、本発明の非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造に用いられるポリカーボネート樹脂は、エステル前駆体(precursor)、例えば、2官能カルボン酸の存在下で重合反応させて得られた芳香族ポリエステルカーボネート樹脂に、一部または全部を代替することも可能である。
【0024】
本発明の非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物中のポリカーボネート樹脂(A)の含量は、ポリカーボネート樹脂(A)とゴム変性芳香族ビニル系樹脂(B)とからなる基礎樹脂((A)+(B))全体の質量に対して30〜100質量%、好ましくは40〜80質量%である。ポリカーボネート樹脂の含量が30質量%未満であれば、難燃性を十分に発揮することができない。
【0025】
(B)ゴム変性芳香族ビニル樹脂
ゴム変性芳香族ビニル樹脂は、特に制限されないが、芳香族ビニル重合体からなるマトリックス(連続相)にゴム状重合体が分散してなる重合体であることが好ましい。
【0026】
前記ゴム変性芳香族ビニル樹脂は、例えば、ゴム状重合体の存在下で芳香族ビニル単量体およびこれと共重合可能なビニル単量体を添加して重合して製造することができる。このようなゴム変性芳香族ビニル樹脂は、乳化重合、懸濁重合、塊状重合等のよく知られた重合方法によって製造が可能である。
【0027】
通常は、ゴム含量の高いグラフト共重合体樹脂とゴムが含まれていない共重合体樹脂とを別途に製造した後、これら二つを混合押出してゴム変性芳香族ビニル樹脂を製造する。しかしながら、塊状重合の場合は、後述のグラフト共重合体樹脂と共重合体樹脂とを別途に製造することなく1段階の反応工程のみでゴム変性芳香族ビニル樹脂を製造することができる。
【0028】
上記のいずれの重合方法の場合でも、本発明の非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物が(B)成分を含む場合、最終的に得られるゴム変性芳香族ビニル樹脂中のゴム状重合体の含量は、基礎樹脂((A)+(B))全体の質量を100質量部として、5〜30質量部であることが好ましい。このような樹脂の例としては、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂(ABS)、アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン共重合体樹脂(AAS)、アクリロニトリル−エチレン・プロピレンゴム−スチレン共重合体樹脂などが挙げられる。これらは、2種以上の混合物としても用いることができる。
【0029】
前記ゴム変性芳香族ビニル樹脂は、グラフト共重合体樹脂(B)単独でもよいし、またはグラフト共重合体樹脂(B)と共重合体樹脂(B)とを併用してもよい。それぞれの相溶性を考慮して配合することが好ましい。より具体的には、ゴム変性芳香族ビニル樹脂(B)中、グラフト共重合体樹脂(B) 20〜100質量%、共重合体樹脂(B) 80〜0質量%で配合することが好ましい。より好ましくは、ゴム変性芳香族ビニル樹脂(B)中、グラフト共重合体樹脂(B) 30〜80質量%、共重合体樹脂(B) 70〜20質量%で配合する。
【0030】
本発明の非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物に用いられる前記ゴム変性芳香族ビニル樹脂(B)の含量は、基礎樹脂((A)+(B))全体に対して 70〜0質量%、好ましくは60〜20質量%である。
【0031】
以下、本発明に係るゴム変性芳香族ビニル樹脂(B)の構成成分であるグラフト共重合体樹脂(B)および共重合体樹脂(B)について詳述する。
【0032】
(B)グラフト共重合体樹脂
本発明に用いられるグラフト共重合体樹脂(B)は、ゴム状重合体に対して、グラフト共重合が可能な芳香族ビニル単量体と前記芳香族ビニル単量体と共重合が可能な単量体とをグラフト重合することによって製造される。
【0033】
前記グラフト共重合体樹脂(B)に用いられるゴム状重合体の例としては、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム等のジエンゴム、前記ジエンゴムを水素添加した水素添加ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ポリアクリル酸ブチル等のアクリルゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)などがある。前記ゴム状重合体は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。これらの中でジエンゴムが好ましく、より好ましくはブタジエンゴムである。ゴム状重合体の含量は、グラフト共重合体樹脂(B)中、5〜65質量部であることが好ましく、30〜60質量部であることがより好ましい。前記ゴム状重合体の粒子の平均粒子径は、衝撃強度および外観を考慮すれば、0.1〜4μmの範囲が好ましい。なお、本明細書において、平均粒子径は、Mastersizer S Ver.2.14(Malvern社製)により測定した値を採用する。
【0034】
前記芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等のスチレン単量体を代表的に用いることができる。前記スチレン単量体は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。これらの中でスチレンがより好ましい。前記芳香族ビニル単量体の含量は、グラフト共重合体樹脂(B)中、95〜30質量部であることが好ましく、65〜35質量部であることがより好ましい。
【0035】
上記の芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体を少なくとも1種導入することができる。前記共重合可能な単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル化合物が好ましい。前記不飽和ニトリル化合物は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。前記共重合可能な単量体の含量は、グラフト共重合体樹脂(B)中、1〜20質量部であることが好ましく、5〜20質量部であることがより好ましい。
【0036】
前記グラフト共重合体の製造時に加工性および耐熱性等の特性を付与するために、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、およびN−置換マレイミド等の加工性および耐熱性を付与する単量体をさらに加えてグラフト重合することができる。前記加工性および耐熱性を付与する単量体は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。その添加量は、前記ゴム状重合体、前記芳香族ビニル単量体、前記芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体、ならびに前記加工性および耐熱性を加える単量体の総量100質量部に対して0〜15質量部の範囲であることが好ましい。
【0037】
(B)共重合体樹脂
本発明に係る共重合体樹脂(B)は、前記グラフト共重合体(B)の成分中のゴム状重合体を除いた単量体の比率と同様の比率で、相溶性を考慮して重合される。
【0038】
前記スチレン共重合体樹脂に用いられる芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレンなどが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。これらは、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。これらの中でスチレンが最も好ましい。共重合体樹脂(B)中の芳香族ビニル単量体の添加量は、60〜90質量部であることが好ましく、70〜80質量部であることがより好ましい。
【0039】
前記芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル化合物が好ましい。前記不飽和ニトリル化合物は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。前記共重合可能な単量体の含量は、40〜10質量部であることが好ましく、30〜20質量部であることがより好ましい。
【0040】
また、前記共重合体樹脂には、加工性および耐熱性等の特性を与えるために、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸およびN−置換マレイミド等の加工性および耐熱性を加える単量体をさらに共重合させることができる。その量は、前記芳香族ビニル単量体、前記芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体、ならびに前記加工性および耐熱性を加える単量体の総量100質量部に対して好ましくは0〜30質量部である。
【0041】
(C)リン化合物
本発明に係るリン化合物は、下記化学式Iで表される構造を有する。
【0042】
【化3】

【0043】
前記化学式I中、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、またはフェニル基である。
【0044】
炭素数1〜10のアルキル基の例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−アミル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、n−へキシル基、3−メチルペンタン−2−イル基、3−メチルペンタン−3−イル基、4−メチルペンチル基、4−メチルペンタン−2−イル基、1,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブタン−2−イル基、n−ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、5−メチルヘキシル基、1−エチルペンチル基、1−(n−プロピル)ブチル基、1,1−ジメチルペンチル基、1,4−ジメチルペンチル基、1,1−ジエチルプロピル基、1,3,3−トリメチルブチル基、1−エチル−2,2−ジメチルプロピル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキサン−2−イル基、2,4−ジメチルペンタン−3−イル基、1,1−ジメチルペンタン−1−イル基、2,2−ジメチルヘキサン−3−イル基、2,3−ジメチルヘキサン−2−イル基、2,5−ジメチルヘキサン−2−イル基、2,5−ジメチルヘキサン−3−イル基、3,4−ジメチルヘキサン−3−イル基、3,5−ジメチルヘキサン−3−イル基、1−メチルヘプチル基、2−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、2−メチルヘプタン−2−イル基、3−メチルヘプタン−3−イル基、4−メチルヘプタン−3−イル基、4−メチルヘプタン−4−イル基、1−エチルヘキシル基、2−エチルヘキシル基、1−プロピルペンチル基、2−プロピルペンチル基、1,1−ジメチルヘキシル基、1,4−ジメチルヘキシル基、1,5−ジメチルヘキシル基、1−エチル−1−メチルペンチル基、1−エチル−4−メチルペンチル基、1,1,4−トリメチルペンチル基、2,4,4−トリメチルペンチル基、1−イソプロピル−1,2−ジメチルプロピル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、n−ノニル基、1−メチルオクチル基、6−メチルオクチル基、1−エチルヘプチル基、1−(n−ブチル)ペンチル基、4−メチル−1−(n−プロピル)ペンチル基、1,5,5−トリメチルヘキシル基、1,1,5−トリメチルヘキシル基、2−メチルオクタン−3−イル基、n−デシル基、1−メチルノニル基、1−エチルオクチル基、1−(n−ブチル)ヘキシル基、1,1−ジメチルオクチル基、または3,7−ジメチルオクチル基が挙げられる。
【0045】
炭素数5〜7のシクロアルキル基の例としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、またはシクロヘプチル基などが挙げられる。
【0046】
好ましくは、上記RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基、または炭素数5〜7のシクロアルキル基である。
【0047】
より具体的には、ペンタエリスリトールビスアニソールホスホナートが好ましい。
【0048】
前記リン化合物は、合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。合成する場合の合成方法としては、例えば、ペンタエリスリトールとホスホン酸ジクロリドとを、塩化マグネシウムの存在下、トルエンなどの有機溶媒中で反応させる方法が挙げられる。
【0049】
前記化学式Iで表されるリン化合物は、基礎樹脂((A)+(B)) 100質量部に対して0.5〜30質量部の範囲で用いられ、好ましくは3〜20質量部で用いられる。前記化学式Iで表されるリン化合物の含量が0.5質量部未満の場合には、優れた難燃性が発現されなくて本発明の目的を達成し難く、30質量部を超える場合には、ポリカーボネート樹脂の固有物性が低下する。
【0050】
本発明の非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は、各用途に応じて可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、滴下防止剤、相溶化剤、光安定剤、顔料、染料、または無機添加剤等の通常の添加剤を加えることができ、これらは単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。前記無機添加剤の例としては、石綿、ガラス繊維、タルク、セラミック及び硫酸塩などがあり、これらは樹脂組成物全体の質量を100質量部として、30質量部以下で用いることが好ましく、0.001〜30質量部で用いることがより好ましい。
【0051】
本発明の非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は、公知の方法によって製造することができる。例えば、本発明の構成成分とその他の添加剤とを同時に混合した後、押出機内で溶融押出してペレット状に製造することができる。このペレットは、通常の方法で成形して、厳格な難燃規格が適用されるTV、コンピュータ、オーディオ、エアコン、OA機器のハウジング等の電気電子製品の外装材として広く用いることができる。
【0052】
本発明の非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物から成形品を製造する方法は、特に制限されない。例えば、押出成形、射出成形、中空成形、キャスト成形などが適用されることができ、これは本発明が属する分野において通常の知識を有する者によって容易に実施されることができる。
【実施例】
【0053】
本発明は、下記実施例によってさらに詳細に説明するが、下記実施例は本発明の例示のためのものであり、特許請求の範囲によって定義される本発明の保護範囲を制限しようとするものではない。
【0054】
本発明の実施例および比較例で用いた各成分の仕様は、次の通りである。
【0055】
(A)ポリカーボネート樹脂
重量平均分子量(Mw)が25,000であるビスフェノールA型のポリカーボネートを用いた。
【0056】
(B)ゴム変性芳香族ビニル樹脂
(B)グラフト共重合体樹脂
ブタジエンゴムラテックスを固形分換算で50質量部、グラフト重合される単量体であるスチレン 36質量部、アクリロニトリル 14質量部、および脱イオン水 150質量部を混合し、混合物を得た。この混合物の総固形分100質量部に対して、オレイン酸カリウム 1.0質量部、クメンヒドロペルオキシド 0.4質量部、メルカプタン連鎖移動剤 0.2質量部、グルコース 0.4質量部、硫酸鉄水和物 0.01質量部、およびピロリン酸ナトリウム塩 0.3質量部を添加して5時間の間、75℃を維持して反応を終了させ、グラフト共重合体(g−ABS)ラテックスを製造した。製造したグラフト共重合体(g−ABS)ラテックス固形分 100質量部に対して、硫酸 0.4 質量部を加えて凝固させ、グラフト共重合体樹脂(g−ABS)を粉末状に製造した。
【0057】
(B)共重合体樹脂
スチレン 75質量部、アクリロニトリル 25質量部、および脱イオン水 120質量部の混合物に、アゾビスイソブチロニトリル 0.2質量部、リン酸カルシウム 0.4質量部、およびメルカプタン連鎖移動剤 0.2質量部を添加して、室温(25℃)から80℃まで90分で昇温させた後、この温度を180分間維持して、スチレン/アクリロニトリル共重合体樹脂(SAN)を製造した。これを水洗、脱水および乾燥し、粉末状のスチレン/アクリロニトリル共重合体樹脂(SAN)を製造した。製造したスチレン/アクリロニトリル共重合体樹脂の重量平均分子量は、90,000であった。
【0058】
(C)ペンタエリスリトールビスアニソールホスホナート
ペンタエリスリトール136gと塩化マグネシウム1gとを1Lのトルエンに投入した後、4−メトキシフェニルホスホン酸ジクロリド450gを投入して130℃で7時間攪拌した。反応終了後、常温(25℃)まで冷まし濾過して残った沈殿物を1Lの水に投入した後に3回洗浄した。洗浄終了後、濾過および乾燥してペンタエリスリトールビスアニソールホスホナートを製造した。
【0059】
(実施例1〜2)
上記の成分を、下記表1に記載された含有量で、通常の二軸押出機で200〜280℃の温度範囲で押出しを行い、ペレットを製造した。製造されたペレットを80℃で2時間乾燥した後、射出成形機で成形温度180〜280℃、金型温度40〜80℃の条件で射出して難燃試験片を製造した。製造された難燃試験片は、UL94VBの難燃規定により1/8インチの厚さで難燃性を評価した。評価結果を下記表1に示す。
【0060】
(比較例1〜4)
下記表1に記載されたように、ペンタエリスリトールビスアニソールホスホナートの代わりにレゾルシノールビス(ジ−2,6−キシリルホスファート)およびペンタエリスリトールビスフェニルホスホナートを用いたことを除いては、実施例1〜2と同様に難燃試験片を製造し難燃性を評価した。評価結果を下記表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
なお、上記表1中の「Fail」は、難燃試験片が燃え続け、難燃性が評価できなかったことを示す。
【0063】
表1の結果から、化学式Iで表されるペンタエリスリトールビスアニソールホスホナートを用いて製造された実施例1〜2は、レゾルシノールビス(ジ−2,6−キシリルホスファート)およびペンタエリスリトールビスフェニルホスホナートをそれぞれ用いて製造された比較例1〜4より平均燃焼時間が短く、難燃性に優れていることが分かる。
【0064】
本発明の単なる変形または変更は、当業者であれば容易に実施することができ、かかる変形や変更は全て本発明の保護範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリカーボネート樹脂30〜100質量%、および、
(B)ゴム変性芳香族ビニル系樹脂70〜0質量%、
からなる基礎樹脂と、
前記基礎樹脂((A)+(B))100質量部に対して、
(C)下記化学式Iで表されるリン化合物0.5〜30質量部と、
を含む、非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物:
【化1】

前記化学式I中、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、またはフェニル基である。
【請求項2】
前記ゴム変性芳香族ビニル樹脂(B)は、芳香族ビニル重合体からなるマトリックスにゴム状重合体が分散してなる重合体である、請求項1に記載の非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記ゴム変性芳香族ビニル系樹脂(B)は、
(B)ゴム状重合体 5〜65質量部、芳香族ビニル単量体95〜30質量部、前記芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体1〜20質量部、ならびに加工性および耐熱性を加える単量体を、前記ゴム状重合体、前記芳香族ビニル単量体、前記芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体、ならびに前記加工性および耐熱性を加える単量体の総量100質量部に対して0〜15質量部グラフト重合して得られるグラフト共重合体樹脂 20〜100質量%と、
(B)芳香族ビニル単量体 60〜90質量部、前記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体 40〜10質量部、ならびに加工性および耐熱性を付与する単量体を前記芳香族ビニル単量体、前記芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体、ならびに前記加工性および耐熱性を加える単量体の総量100質量部に対して0〜30質量部共重合して得られる共重合体樹脂 80〜0質量%と、
からなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
前記芳香族ビニル単量体は、スチレン、α−メチルスチレン、およびp−メチルスチレンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項3に記載の非ハロゲン難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項5】
前記芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体は、不飽和ニトリル化合物である、請求項3または4に記載の非ハロゲン難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項6】
前記加工性および耐熱性を付与する単量体は、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、およびN−置換マレイミドからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項3〜5のいずれか1項に記載の非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
熱安定剤、滴下防止剤、酸化防止剤、相溶化剤、光安定剤、顔料、染料、および無機添加剤からなる群より選択される少なくとも1種の添加剤30質量部以下をさらに含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の非ハロゲン難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られる成形品。

【公開番号】特開2011−127093(P2011−127093A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225685(P2010−225685)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(500005066)チェイル インダストリーズ インコーポレイテッド (263)
【Fターム(参考)】