説明

非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物

【課題】口溶けが良好で、且つカカオ脂との相溶性が高く、スナップ性が良好で、カカオ脂を配合したときのブルームやグレーニングの発生が抑えられる非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物並びに該組成物を用いたチョコレート類及び該組成物を用いたクリーム類を提供すること。
【解決手段】非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物は、下記の条件(1)〜(5)を全て満たす。(1)SSSの含有量が0.5〜12質量%、(2)S2Uの含有量が50〜90質量%、(3)構成トリグリセリド組成におけるSUS/SSUの質量比が0.4〜0.6、(4)SU2及びUUUの合計した含有量が5〜30質量%、(5)構成脂肪酸組成において、Sが実質的にStとPで構成され且つSt/Pの質量比が0.4〜0.9である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口溶けが良好で、且つカカオ脂との相溶性が高い非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物に関する。また、更には、該非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物を使用した、スナップ性が良好で、ブルーム耐性が高く、風味劣化が抑えられたチョコレート類、及び、口溶け良好であり、グレーニング耐性が高いクリーム類に関する。
【背景技術】
【0002】
チョコレート類、或いは、シュガークリームやバタークリーム等の油相を連続相とするクリーム類は、油脂含量が高いため、口中ですばやく溶解する、いわゆるシャープメルト性が求められる。そして一般的にはそのようなシャープメルト性を有する油脂の代表としてカカオ脂が使用されてきた。しかし、カカオ脂は大変高価であったため、昔からカカオ脂の代替脂、すなわちハードバターが使用されることが多かった。また、最近では、カカオ脂にはない物性や機能をハードバターに求める場面が増えてきている。
【0003】
このようなハードバターを分類すると、チョコレート類の製造時にテンパリング操作を必要とするテンパリング型と、テンパリング操作を必要としない非テンパー型とに大別される。
【0004】
テンパリング型ハードバターとは、カカオ脂と同様にSUS型トリグリセライド(1,3飽和−2不飽和トリグリセライド。但し、Sは炭素数16以上の飽和脂肪酸、Uは炭素数16以上の不飽和脂脂肪酸)を主成分とするものであり、該SUS型トリグリセライドを、カカオ脂以外の植物油脂や動物油脂から、エステル交換、分別等の方法により製造して得たものである。そのためカカオ脂を使用したチョコレート類の製造時と同様、テンパリング操作を必要とするものである。尚、テンパリング操作とは、チョコレート類の製造時に一定の温度条件を満たしながら冷却操作を行うことであり、トリグリセライド分子の配列を整えることで、ブルーム発生を抑え、表面にツヤのあるチョコレートを製造するために必要な操作である。
【0005】
一方、非テンパー型ハードバターとは、上記のようなテンパリング操作を行わず単に冷却しただけでも、ブルームの発生がなく、表面にツヤのあるチョコレートを製造することが可能なハードバターのことである。この非テンパー型ハードバターは、SUS型トリグリセライドではなく、ラウリン酸を多く含有する油脂を使用したラウリン系非テンパー型ハードバターと、トランス脂肪酸を多く含有する油脂を使用したトランス系非テンパー型ハードバターに分類することができる。
【0006】
ラウリン系非テンパー型ハードバターは、口溶けが良好で、且つ、固化する際の乾燥が速いという特徴を有するため、主に、コーティング用途に使用されているが、加水分解等により風味劣化しやすいという問題があった。また、特にラウリン酸を多く含有するトリグリセライドは、カカオ脂との相溶性が極めて悪いために、チョコレートを製造する場合、上記のテンパリング型ハードバターが任意の量のカカオ脂を配合可能なのに対し、このラウリン系非テンパー型ハードバターを使用した場合はカカオ脂の配合量を極端に制限しなければブルームが発生するという問題もあった。
【0007】
トランス系非テンパー型ハードバターは、カカオ脂との相溶性はラウリン系非テンパー型ハードバターよりは良好であり、ハードバター100質量部に対しカカオ脂を20質量部程配合することが可能である。また、加水分解による風味劣化を生じにくいものであった。しかし、近年、化学的な処理、特に水素添加に付されていない油脂組成物、即ち実質的にトランス脂肪酸を含まない油脂組成物であって、適切なコンシステンシーを有する、非ラウリン系非テンパー型ハードバターが求められている。
【0008】
このようにラウリン系非テンパー型ハードバターとトランス系非テンパー型ハードバターとは、ラウリン酸とトランス脂肪酸に起因する、相反した性質を利用しているため、それぞれの用途に特化した使用がなされてきたが、最近は、それぞれの非テンパー型ハードバターが持つ欠点の解消を目的とし、トランス系でもなく、また、ラウリン系でもない、いわゆる、非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバターの開発が行なわれている。
【0009】
このような、非ラウリン、低トランス及び非テンパー型のハードバターとしては、BOO(1位にB、2、3位にOが結合しているトリグリセリド。但し、B:ベヘン酸、O:オレイン酸)を40%以上含有し、30℃の固体脂含量が10%以上、且つDSCの融解ピークが23℃以上である油脂組成物(例えば特許文献1参照)や、炭素数16〜22の脂肪酸で構成され、炭素数16〜18の飽和脂肪酸を25〜60%、炭素数20〜22の飽和脂肪酸を3〜40%含有するランダムエステル交換油を分別して得られる、上昇融点が36℃以下、20℃の固体脂含量が25%以上、飽和脂肪酸が40〜75%で、炭素数20〜22の飽和脂肪酸を3〜40%、炭素数56〜60のトリグリセリドを25%以上含有する油脂組成物(例えば特許文献2参照)が提案されている。しかし、これらのハードバターは、カカオ脂を配合したときのブルーム耐性が十分ではなく、また、特殊な原料油脂を使用する必要があるという問題があった。
【0010】
このような長鎖脂肪酸を含有しない非ラウリン、低トランス及び非テンパー型のハードバターとしては、GGG/GGU/UGU(G:遊離脂肪酸としての融点が40℃以上の脂肪酸残基)を70%以上含有し、該トリグリセリド中のGGU成分が30〜50%である油脂組成物(例えば特許文献3及び4参照)、50%超のSUS型トリグリセリドを含有しβ型に結晶化し得る油脂を主成分とし、βプライム型結晶を安定化し得るSSO及び/又はSSS型トリグリセリドを、SSOが8〜40%、SSSが2〜20%になるように配合し、且つ組成物全体のSt/Pの重量比が1.0以下である油脂組成物(例えば特許文献5参照)、SOS型トリグリセリドを30〜60%、SSO型トリグリセリドを20〜50%含有し、St/Pの重量比が1以上である油脂(例えば特許文献6参照)、SSUが高率なカカオ代用脂とSOSが高率な脂肪とを配合し、非安定化された30℃の固体脂含量に対する安定化した30℃の固体脂含量の比が1〜3になる油脂(例えば特許文献7参照)、パームステアリンのランダムエステル交換油から得た中融点部をハードバターに添加した油脂(例えば特許文献8参照)等が提案されている。
【0011】
しかし、これらのハードバターは、例えば、特許文献3及び4に記載の油脂は、固化が遅く、ブルームが発生しやすいことに加え、その製造方法として、一般的な油脂加工方法であるエステル交換では製造できず、1、3位選択性を持つリパーゼで、GGGのα位を選択的に不飽和脂肪酸やその低級アルコールエステルとエステル交換する必要があるため、製造工程が煩雑で生産効率が低いという問題があった。
【0012】
また、特許文献5〜8に記載の油脂は、カカオ脂を配合したときのグレーニング耐性が十分ではないという問題があり、更に、特許文献5及び7に記載の油脂は、その製造方法として、SUSを主成分とする油脂にSSUを含有する油脂を別途調製して配合する必要があり、製造工程が煩雑でコストが高くなるという問題があった。
【0013】
また、これらのブルーム耐性が十分でないハードバターを使用してバタークリームを製造した場合には、グレーニングが発生しやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】GB2297760
【特許文献2】WO03/037095
【特許文献3】特開平02−269199号公報
【特許文献4】特開昭61−224934号公報
【特許文献5】特開平05−211837号公報
【特許文献6】特開平09−316484号公報
【特許文献7】特開平06−014717号公報
【特許文献8】特開平09−285255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、本発明の目的は、口溶けが良好で、且つカカオ脂との相溶性が高く、スナップ性が良好で、カカオ脂を配合したときのブルームやグレーニングの発生が抑えられる非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物、並びに、該組成物を用いたチョコレート類及びクリーム類を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、特定のエステル交換油脂から高融点部を除去した低融点部、又は高融点部及び液状部を除去した中融点部が、上記の問題を全て解消した上、カカオ脂との相溶性がトランス系非テンパー型ハードバターとほぼ同等である、非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物となることを知見した。
【0017】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、下記の条件(1)〜(5)を全て満たす非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物を提供するものである。
(1)SSSの含有量が0.5〜12質量%
(2)S2Uの含有量が50〜90質量%
(3)構成トリグリセリド組成におけるSUS/SSUの質量比が0.4〜0.6
(4)SU2及びUUUの合計した含有量が5〜30質量%
(5)構成脂肪酸組成において、Sが実質的にStとPで構成され、且つSt/Pの質量比が0.4〜0.9である
但し、
SSS:Sが3分子結合しているトリグリセリド
S2U:Sが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド
SUS:1、3位にS、2位にUが結合しているトリグリセリド
SSU:1,2位にS、3位にSが結合しているトリグリセリド
SU2:Sが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
UUU:Uが3分子結合しているトリグリセリド
S:炭素数16以上の飽和脂肪酸
U:炭素数16以上の不飽和脂肪酸
St:ステアリン酸
P:パルミチン酸
である。
【0018】
また、本発明は、上記非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物を使用したチョコレート類を提供するものである。
【0019】
また、更に本発明は、上記非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物を使用したクリーム類を提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、口溶けが良好で、且つカカオ脂との相溶性が高く、スナップ性が良好で、カカオ脂を配合したときのブルームやグレーニングの発生が抑えられる非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物を提供することができる。また、該非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物を使用したチョコレート類は、スナップ性が良好で、ブルームの発生が抑えられる。更に、該非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物を使用したクリーム類は、口溶けが良好で、グレーニングの発生が抑えられる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物について好ましい実施形態に基づき詳述する。尚、本発明において、「非ラウリン」とは、構成脂肪酸組成において炭素数6〜12の脂肪酸含量が5質量%未満、より好ましくは3質量%未満であることを言うものとする。また、本発明において、「低トランス」とは、構成脂肪酸組成においてトランス脂肪酸含量が5質量%未満、より好ましくは3質量%未満であることを言うものとする。
【0022】
先ず、条件(1)の、SSSの含有量について述べる。
本発明の非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物において、SSSの含有量は0.5〜12質量%、好ましくは1.5〜10質量%である。SSSの含有量が0.5質量%未満であると、結晶化速度が低下することから、得られるチョコレート類が適度な硬さが得られないことに加え、特にコーティング用途に使用した場合の固化性が低下してしまう。また、12質量%超であると、得られるチョコレート類のスナップ性や口溶けが悪化してしまう。
【0023】
次に、条件(2)の、S2Uの含有量について述べる。
本発明の非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物において、S2Uの含有量は50〜90質量%、好ましくは55〜87質量%である。チョコレート類は室温で硬く、口中ではすみやかに溶ける性質が必要である。このような性質を持つためには使用するハードバターはS2U型トリグリセリドが主成分である必要があるが、S2Uが50質量%未満であると、得られるチョコレート類が室温で軟らかくなりすぎてしまう。また、90質量%超では室温で硬くなりすぎ、口溶けが極端に悪化してしまう。
【0024】
続いて、条件(3)の、構成トリグリセリド組成におけるSUS/SSUの質量比について述べる。
本発明の非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物において、構成トリグリセリド組成におけるSUS/SSUの質量比は0.4〜0.6、好ましくは0.45〜0.55である。SUS/SSUの質量比が0.4未満のものは、一般的な油脂のエステル交換では得ることができず、また、0.6超である場合、カカオ脂と混合したときにブルームやグレーニングが発生しやすくなってしまう。
【0025】
更に、条件(4)の、SU2及びUUUの合計した含有量について述べる。
本発明の非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物において、SU2及びUUUの合計した含有量は5〜30質量%、好ましくは6.5〜28質量%である。SU2もUUUも室温では結晶化しにくく、ハードバター中に液体成分として存在するトリグリセリドであり、このSU2及びUUUの合計した含有量が5質量%未満では、得られるチョコレート類が、室温で硬すぎ、口溶けが悪化してしまう。また、30質量%超であると、室温で軟らかくなりすぎ良好なスナップ性が得られない。
【0026】
そして、条件(5)の、構成脂肪酸組成におけるSについて述べる。
本発明の非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物の構成脂肪酸組成においては、Sが実質的にStとPで構成され、且つSt/Pの質量比が0.4〜0.9、好ましくは0.4〜0.8である。St/Pの質量比が0.4未満又は0.9超である場合、カカオ脂と混合したときにブルームやグレーニングが発生しやすくなってしまう。
尚、ここで、Sが実質的にStとPで構成されるとは、Sのうち、StとPを合計した含有量が90質量%以上、より好ましくは95質量%以上であることを言う。
【0027】
上記の条件(1)〜(5)の全てを満たす非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物は、例えば、下記の方法によって得ることができる。
【0028】
先ず、構成脂肪酸組成において、S/Uの質量比が2〜3、好ましくは2.1〜2.7であり、Sが実質的にStとPで構成され、且つSt/Pの質量比が0.4〜1.1、好ましくは0.4〜0.6である油脂配合物を用意する。
【0029】
このような油脂配合物を得るためには、例えば、パーム油又はパーム分別油と、Sを80質量%以上含有する油脂とを上記範囲となるように混合することで得ることができる。
【0030】
上記Sを80質量%以上含有する油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、パーム油、パーム分別油、ひまわり油、コーン油、サフラワー油、綿実油等の植物油の極度硬化油脂等が挙げられる。
【0031】
また、上記油脂配合物を得るための別の方法としては、例えば、Uを70質量%以上含有する油脂とパーム極度硬化油とを上記範囲となるように混合する方法が挙げられる。
【0032】
上記Uを70質量%以上含有する油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、ひまわり油、コーン油、サフラワー油、綿実油等の植物液状油が挙げられる。
【0033】
次に、ランダムエステル交換を行なう。このエステル交換反応は、化学的触媒による方法でも、酵素による方法でもよい。
【0034】
上記化学的触媒としては、例えば、ナトリウムメチラート等のアルカリ金属系触媒が挙げられ、また、上記酵素としては、例えば、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、リゾープス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、ペニシリウム(Penicillium)属等に由来するリパーゼが挙げられる。尚、該リパーゼは、イオン交換樹脂或いはケイ藻土やセラミック等の担体に固定化して、固定化リパーゼとして用いることもできるし、粉末の形態で用いることもできる。
【0035】
本発明の非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物は、このようにして得られたエステル交換油脂の低融点部又は中融点部を用いるものである。尚、低融点部とは、分別により、高融点部分を分離除去して得られた低融点画分のことであり、中融点部とは、分別により、高融点部分と液状画分を分離除去した中融点画分のことである。分別方法としては、アセトン分別やヘキサン分別等の溶剤分別、ドライ分別等の無溶剤分別等の方法等どの様な分別方法によって得られたものでも構わない。
【0036】
本発明の非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物は、上記の低融点部又は中融点部そのものであってもよいが、上記の条件(1)〜(5)の全てを満たすことを条件にその他の油脂を添加することもできる。
【0037】
上記その他の油脂としては特に制限はなく、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油、キャノーラ油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂、動物油脂、並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂から選ばれた1種又は2種以上を使用することができる。上記その他の油脂の使用量は、上記の低融点部又は中融点部100質量部に対し、好ましくは0〜20質量部、より好ましくは0〜10質量部、最も好ましくは使用しないことが好ましい。
【0038】
本発明の非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物は、上記の各成分以外に、通常の非テンパー型ハードバター組成物の製造に用いられる着色料、乳化剤、酸化防止剤、香料等の任意成分を含有することができる。これらの任意成分の含有量は、本発明の非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物中、好ましくは合計で20質量%以下、より好ましくは10質量%以下とする。
【0039】
上記乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、サポニン類等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。上記乳化剤の配合量は、特に制限はないが、本発明の非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物中、好ましくは0〜15質量%、更に好ましくは0〜5質量%である。
尚、本発明の非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物を、以下に説明するチョコレート類に使用する場合には、より高いカカオ成分をブルームやグレーニングを発生させることなく配合することが可能となる点で、上記乳化剤の中でも、ショ糖脂肪酸エステル及び/又はソルビタン脂肪酸エステルを使用することが好ましい。
【0040】
以上説明した本発明の非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物は、本来の用途である非テンパー型チョコレート類用をはじめ、バタークリーム、シュガークリーム等の油相を連続相とするクリーム類、更には、サンドクリーム、マーガリン、ショートニング、アイスクリーム、ホイップクリーム等の加工油脂製品の原料油脂用として広く使用することができるが、中でも、非テンパー型チョコレート類用又はクリーム類用として使用することが特に好ましい。
【0041】
次に、本発明のハードバター組成物を使用した本発明のチョコレート類について述べる。
本発明のチョコレート類は、本発明の非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物を、チョコレート類に含まれる油脂の一部又は全部に使用したものである。ここで本発明のハードバター組成物は、口溶けが良好で、且つカカオ脂との相溶性が高く、スナップ性が良好であることから、これを使用した本発明のチョコレート類は、スナップ性が良好で、高いブルーム耐性を有するものとなる。本発明のチョコレート類におけるハードバター組成物の使用量は、チョコレート類に含まれる油脂中、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは60〜100質量%、更に好ましくは60〜90質量%である。
尚、本発明で言うチョコレート類とは、全国チョコレート業公正取引協議会で規定されたチョコレート、準チョコレートだけでなく、カカオマス、カカオバター、ココア等を利用した生チョコレート、ホワイトチョコレート、カラーチョコレート等の油脂加工食品も含まれるものであり、カカオマスやココアパウダー、粉乳等の各種粉末食品、油脂類、糖類、乳化剤、香料、色素等の中から選択した原料を任意の割合で混合し、常法により、ロール掛け、コンチング処理して得たものを言う。
【0042】
本発明の非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物は、カカオ脂との相溶性が良好であることから、本発明のチョコレート類は、カカオ風味を良好とするために、カカオ脂を本発明のハードバター組成物100質量部に対し、5〜45質量部含有させることが好ましく、10〜25質量部含有させることがより好ましい。
【0043】
本発明のチョコレート類は、原料として本発明の非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物を使用する以外は、チョコレート類の種類等に応じた通常の製法によって製造することができる。
【0044】
次に、本発明のハードバター組成物を使用した本発明のクリーム類について述べる。
本発明のクリーム類は、本発明の非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物を、バタークリーム、シュガークリーム等の油相を連続相とするクリーム類の油相の一部又は全部に使用したものである。ここで、本発明のハードバター組成物は、上述したように、カカオ脂との相溶性が良好であることから、これを使用した本発明のクリーム類が、カカオ成分を多く含有するバタークリームであっても経日的なグレーニングの発生が防止されるものとなる。また、本発明のクリーム類におけるハードバター組成物の使用量は、クリーム類に含まれる油脂中、好ましくは20〜100質量%、より好ましくは30〜70質量%である。
【0045】
また、本発明のクリーム類がカカオ成分を含有する場合、カカオ風味を良好とするために、カカオ脂をクリーム類に含まれる油脂中、5〜25質量%含有させることが好ましく、10〜25質量%含有させることがより好ましい。
【0046】
本発明のクリーム類は、原料として本発明の非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物を使用する以外は、クリーム類の種類等に応じた通常の製法によって製造することができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらは本発明を制限するものではない。尚、「部」及び「%」は特記しない限り質量基準である。
【0048】
<非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物の製造>
[実施例1]
パーム油65質量部とパーム極度硬化油35質量部からなる油脂配合物を、Naメチラートを触媒としてランダムエステル交換反応を行い、常法により精製してエステル交換油脂Aを得た。尚、エステル交換油脂Aの脂肪酸組成において、炭素数6〜14の脂肪酸含量は2質量%未満、トランス脂肪酸含量は1質量%未満であった。
【0049】
このエステル交換油脂Aからアセトン分別により高融点部と液状部を除去し、得られた中融点部を常法により精製して、本発明の非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物Aとした。尚、油脂配合物の、構成脂肪酸組成におけるS/Uの質量比、構成脂肪酸組成におけるS中のStとPの合計した含有量〔(St+P)/S〕、St/Pの質量比については表1に記載した。また、得られたハードバター組成物の(1)SSSの含有量、(2)S2Uの含有量、(3)構成トリグリセリド組成におけるSUS/SSUの質量比、(4)SU2及びUUUの合計した含有量、(5)構成脂肪酸組成におけるS中のStとPの合計した含有量〔(St+P)/S〕、St/Pの質量比についても表1に記載した。
【0050】
[実施例2]
パーム油65質量部と大豆極度硬化油35質量部からなる油脂配合物を、Naメチラートを触媒としてランダムエステル交換反応を行い、常法により精製してエステル交換油脂Bを得た。尚、エステル交換油脂Bの脂肪酸組成において、炭素数6〜14の脂肪酸含量は2質量%未満、トランス脂肪酸含量は1質量%未満であった。
【0051】
このエステル交換油脂Bからアセトン分別により高融点部と液状部を除去し、得られた中融点部を常法により精製して、本発明の非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物Bとした。尚、油脂配合物の、構成脂肪酸組成におけるS/Uの質量比、構成脂肪酸組成におけるS中のStとPの合計した含有量〔(St+P)/S〕、St/Pの質量比については表1に記載した。また、得られたハードバター組成物の(1)SSSの含有量、(2)S2Uの含有量、(3)構成トリグリセリド組成におけるSUS/SSUの質量比、(4)SU2+UUUの合計した含有量、(5)構成脂肪酸組成におけるS中のStとPの合計した含有量〔(St+P)/S〕、St/Pの質量比についても表1に記載した。
【0052】
[実施例3]
パーム油55質量部とパーム極度硬化油45質量部からなる油脂配合物を、Naメチラートを触媒としてランダムエステル交換反応を行い、常法により精製してエステル交換油脂Cを得た。尚、エステル交換油脂Cの脂肪酸組成において、炭素数6〜14の脂肪酸含量は2質量%未満、トランス脂肪酸含量は1質量%未満であった。
【0053】
このエステル交換油脂Cからドライ分別により高融点部を除去し、得られた低融点部を常法により精製して、本発明の非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物Cとした。尚、油脂配合物の、構成脂肪酸組成におけるS/Uの質量比、構成脂肪酸組成におけるS中のStとPの合計した含有量〔(St+P)/S〕、St/Pの質量比については表1に記載した。また、得られたハードバター組成物の(1)SSSの含有量、(2)S2Uの含有量、(3)構成トリグリセリド組成におけるSUS/SSUの質量比、(4)SU2+UUUの合計した含有量、(5)構成脂肪酸組成におけるS中のStとPの合計した含有量〔(St+P)/S〕、St/Pの質量比についても表1に記載した。
【0054】
〔比較例1〕
パームステアリン100%からなる油脂配合物を、Naメチラートを触媒としてランダムエステル交換反応を行い、常法により精製してエステル交換油脂Dを得た。尚、エステル交換油脂Dの脂肪酸組成において、炭素数6〜14の脂肪酸含量は2質量%未満、トランス脂肪酸含量は1質量%未満であった。
【0055】
このエステル交換油脂Dからアセトン分別により高融点部と液状部を除去し、得られた中融点部を常法により精製して、比較例の非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物Dとした。尚、油脂配合物の、構成脂肪酸組成におけるS/Uの質量比、構成脂肪酸組成におけるS中のStとPの合計した含有量〔(St+P)/S〕、St/Pの質量比については表1に記載した。また、得られたハードバター組成物の(1)SSSの含有量、(2)S2Uの含有量、(3)構成トリグリセリド組成におけるSUS/SSUの質量比、(4)SU2+UUUの合計した含有量、(5)構成脂肪酸組成におけるS中のStとPの合計した含有量〔(St+P)/S〕、St/Pの質量比についても表1に記載した。
【0056】
[比較例2]
高オレイン酸キャノーラ油65質量部と大豆極度硬化油35質量部からなる油脂配合物を、Naメチラートを触媒としてランダムエステル交換反応を行い、常法により精製してエステル交換油脂Eを得た。尚、エステル交換油脂Eの脂肪酸組成において、炭素数6〜14の脂肪酸含量2質量%未満、トランス脂肪酸含量は1質量%未満であった。
【0057】
このエステル交換油脂Eからアセトン分別により高融点部と液状部を除去し、得られた中融点部を常法により精製して、比較例の非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物Eとした。尚、油脂配合物の、構成脂肪酸組成におけるS/Uの質量比、構成脂肪酸組成におけるS中のStとPの合計した含有量〔(St+P)/S〕、St/Pの質量比については表1に記載した。また、得られたハードバター組成物の(1)SSSの含有量、(2)S2Uの含有量、(3)構成トリグリセリド組成におけるSUS/SSUの質量比、(4)SU2+UUUの合計した含有量、(5)構成脂肪酸組成におけるS中のStとPの合計した含有量〔(St+P)/S〕、St/Pの質量比についても表1に記載した。
【0058】
【表1】

【0059】
<チョコレート類の製造>
〔実施例4〜6並びに比較例3及び4〕
上記非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物A〜Eを用いて、表2に記載の配合Aで、下記の製法によりチョコレートを製造した。尚、チョコレートの油分含量は36.5質量%であり、それぞれ乳脂含量は2.0質量%、カカオ脂含量は6.9質量%、非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物含量は27.6質量%であり、非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物100質量部に対しカカオ脂を25.0質量部含有していた。得られたチョコレートは、下記評価基準に従って官能評価とスナップ性評価を行った後、20℃で保管し、10日後、20日後、50日後、100日後、150日後、200日後に、下記評価基準に従ってブルームの評価試験を行ない、その結果について、表3に記載した。
【0060】
<高カカオ脂含量チョコレート類の製造>
〔実施例7〜9並びに比較例5及び6〕
上記非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物A〜Eに、それぞれソルビタン脂肪酸エステル(ポエムBE60:理研ビタミン株式会社製)を、ハードバター組成物98質量部に対し2質量部添加し、均質に溶解混合したものを、それぞれ、非ラウリン、低トランス、非テンパー型ハードバター組成物F〜Jとした。この非ラウリン、低トランス、非テンパー型ハードバター組成物F〜Jを用いて、表2に記載の配合Bで、下記の製法によりチョコレートを製造した。尚、チョコレートの油分含量は36.5質量%であり、それぞれ乳脂含量は2.0質量%、カカオ脂含量は8.6質量%、非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物含量は25.4質量%であり、非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物100質量部に対しカカオ脂を32.6質量部含有していた。得られたチョコレートは、下記評価基準に従って官能評価とスナップ性評価を行った後、20℃で保管し、5日後、10日後、20日後、30日後、40日後、50日後に、下記評価基準に従ってブルームの評価試験を行ない、その結果について、表4に記載した。
【0061】
<チョコレートの配合>
【表2】

【0062】
<チョコレートの製法>
上記ハードバター組成物、カカオバター及びカカオマスを55℃に加温して溶解し、ココアパウダー、全粉乳、脱脂粉乳、砂糖、乳化剤及びレシチンを、練り合わせてペースト状とし、ロール掛けした後、コンチングして、チョコレート生地を得た。このチョコレート生地を型に注入し、5℃で12時間冷却・固化させチョコレートを製造した。
【0063】
<評価基準>
官能評価基準(口溶け)
◎ きわめて良好な口溶けである。
○ 良好である。
△ やや不良である。
× 不良である。
スナップ性評価基準
◎ 爽快なスナップ性を有し、きわめて良好である
○ 良好である。
△ やや不良である。
× べたつきあり、不良である。
ブルームの評価基準
−:ブルームが見られずツヤがある
±:ブルームは見られないがツヤがない
+:一部にブルームが見られる
++:激しいブルームが見られる
【0064】
【表3】

【0065】
【表4】

【0066】
<バタークリームの製造>
〔実施例10〜12並びに比較例7及び8〕
上記非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物A〜Eを用いて、表5に記載の配合で、マーガリン用油脂A〜Eを製造し、更にこのマーガリン用油脂A〜Eを使用して、下記の配合・製法でマーガリンを製造し、更に下記の配合・製法によりチョコレート含有バタークリームを製造した。得られたチョコレート含有バタークリームは、クリーム類に含まれる油脂中、カカオ脂を18.5質量部含有していた。
得られたチョコレート含有バタークリームは、下記評価基準に従って官能評価を行った後、20℃で保管し、5日後、10日後、20日後に、下記評価基準に従ってグレーニングの評価試験を行ない、その結果について、表6に記載した。
【0067】
<マーガリン用油脂の配合>
【表5】

【0068】
<マーガリンの配合・製法>
マーガリン用油脂69.0質量部、レシチン0.2質量部、グリセリン脂肪酸エステル0.2質量部、香料0.1質量部、色素液0.1質量部からなる油相と、脱脂粉乳1質量部、上白糖14.4質量部、水14.5質量部、食塩0.2質量部、乳清ミネラルA0.4質量部からなる水相とを、45〜55℃の温度で混合乳化してW/O型乳化物を得た。このW/O型乳化物を80℃にて15秒間殺菌し、次いでコンビネーターにて急冷可塑化して、マーガリンを製造した。
【0069】
<バタークリームの配合・製法>
上記の方法で得られたマーガリン100質量部に対して、40℃で調温・流動化した業務用チョコレート生地(スイートチョコMT−63:明治製菓(株)製)(油分含有量=32%)50質量部、砂糖60質量部、卵白50質量部を混合して、ホバートミキサーを使用して、20℃で高速撹拌して、起泡させ、バタークリームを製造した。
【0070】
<評価基準>
官能評価基準(口溶け)
◎ きわめて良好な口溶けである。
○ 良好である。
△ やや不良である。
× 不良である。
グレーニングの評価基準
製造後、20℃保管
−:グレーニングが見られずツヤがある
±:グレーニングは見られないがツヤがない
+:一部にグレーニングが見られる
++:激しいグレーニングが見られる
【0071】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の条件(1)〜(5)を全て満たす非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物。
(1)SSSの含有量が0.5〜12質量%
(2)S2Uの含有量が50〜90質量%
(3)構成トリグリセリド組成におけるSUS/SSUの質量比が0.4〜0.6
(4)SU2及びUUUの合計した含有量が5〜30質量%
(5)構成脂肪酸組成において、Sが実質的にStとPで構成され、且つSt/Pの質量比が0.4〜0.9である
但し、
SSS:Sが3分子結合しているトリグリセリド
S2U:Sが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド
SUS:1、3位にS、2位にUが結合しているトリグリセリド
SSU:1,2位にS、3位にSが結合しているトリグリセリド
SU2:Sが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
UUU:Uが3分子結合しているトリグリセリド
S:炭素数16以上の飽和脂肪酸
U:炭素数16以上の不飽和脂肪酸
St:ステアリン酸
P:パルミチン酸
である。
【請求項2】
構成脂肪酸組成において、S/Uの質量比が2〜3であり、Sが実質的にStとPで構成され、且つSt/Pの質量比が0.4〜1.1である油脂配合物をランダムエステル交換したエステル交換油脂の、低融点部又は中融点部を含有することを特徴とする請求項1記載の非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物を使用したチョコレート類。
【請求項4】
請求項1又は2記載の非ラウリン、低トランス及び非テンパー型ハードバター組成物を使用したクリーム類。

【公開番号】特開2009−284899(P2009−284899A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109899(P2009−109899)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】