説明

非リン皮膜部品の検査方法

【課題】無高強度ボルトなどの非リン皮膜部品に対して、ロット単位でかつ素早く簡易にリン含有量の測定を行うことができる非リン皮膜部品の検査方法の提供及び、その基準値の提供を目的とする。
【解決手段】非リン皮膜部品の検査方法であって、前記非リン皮膜部品の表面を削り取り粉末状の試験粉末を取り出す工程と、前記試験粉末に対して青色比色法を用いて当該試験粉末の単位重量当たりのリン含有量を測定する工程と、前記リン含有量と予め求めてある基準値とを比較し、当該リン含有量が当該基準値より大きい場合に不良品であると判定し、当該リン含有量が当該基準値以下である場合に良品であると判定する工程とを含む。また前記基準値は、リン含有量[mg]/試験粉末の重量[mg]=0.071とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度ボルト等の非リン皮膜部品に対する最終製品の良・不良を判定する非リン皮膜部品の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボンデリューベに代表される従来の伸線潤滑処理は、下地処理としてリン酸亜鉛処理を行うため、例えば伸線、冷間鍛造後に焼き入れ焼き戻しを行った場合、リンが母材に侵入し、遅れ破壊の要因となっている。
【0003】
上記問題を防止するため、高強度ボルト等の非リン皮膜部品の最終製品に対してEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)装置を用いて、ボルト表面のリン含有量を測定し、最終製品の良否を判定することが従来知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のEPMA装置による検査方法にあっては、以下のような問題があった。
(1)従来の検査を行う予備工程として、非リン皮膜部品から適当な大きさの試験片を切り出さなければならないほか、当該試験片を特定の樹脂等に埋め込んでEPMA装置にセットする必要がある。そのため、検査を行う為の時間がかかり最終製品におけるロット単位の検査に不向きである。
(2)EPMA装置本体が大きく、設置スペースが限られる。そのため製品の製造ラインに組み込むことが難しい。
(3)したがって、上記(1)、(2)の問題から、非リン皮膜部品の最終製品に対して、ロット単位でリン含有量の測定を可能とする検査方法は確立していなかった。
【0005】
従って、本発明の目的は、高強度ボルトなどの非リン皮膜部品に対して、ロット単位でかつ素早く簡易にリン含有量の測定を行うことができる非リン皮膜部品の検査方法の提供及び、前記検査方法において当該非リン皮膜部品の良・不良の判定を行う為の基準値の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、上記目的を達成するためになされた本願の第1発明は、非リン皮膜部品の検査方法であって、前記非リン皮膜部品の表面を削り取り粉末状の試験粉末を取り出す工程と、前記試験粉末に対して青色比色法を用いて当該試験粉末の単位重量当たりのリン含有量を測定する工程と、前記リン含有量と予め求めてある基準値とを比較し、当該リン含有量が当該基準値より大きい場合に不良品であると判定し、当該リン含有量が当該基準値以下である場合に良品であると判定する工程とを含むことを特徴とする、非リン皮膜部品の検査方法である。
また、本願の第2発明は、前記検査方法において、前記基準値をリン含有量[mg]/試験粉末の重量[mg]=0.071とすることを特徴とする、非リン皮膜部品の検査方法である。
【発明の効果】
【0007】
以上のように、本発明によると下記の効果のうち、少なくとも一つを得ることができる。
【0008】
(1)簡易かつ短時間に検査が可能となるため、最終製品に対してロット単位での検査が可能となるほか、検査スペースを広く確保する必要がなくなるため、既存の生産ラインをそのまま使用することができる。
(2)最終製品に対して、定量化された特定の基準値によって良・不良の判定を行うため、精度の高い検査が可能となり品質の高い製品のみを出荷することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【実施例1】
【0010】
図1は本発明の非リン皮膜部品の検査方法の工程図である。以下、本発明のボルトの検査方法の手順について説明する。
なお、本発明の検査方法は、判定ソフトウェアを備えた検査装置によって一括的に行ってもよい。
【0011】
(1)試験粉末の採取
検査対象である非リン皮膜部品の試験粉末を採取する。本実施例においては、非リン皮膜部品として代表的な、高強度ボルトを検査対象とする。
まず、高強度ボルトの表面をヤスリなどによって薄く削り取り、粉末状にして採取する。採取の際にはボルトの同一の箇所を削り取るのではなく、表面のみを削り取るように採取することが望ましい。また採取量は特に限定するものではないが、後述する測定キットの適用対象に基づいて適宜決定することが望ましい。
採取した試験粉末の重量は予め正確に測定しておく。
【0012】
(2)リン含有量の測定
次に、前記試験粉末のリンの含有量を青色比色法を用いて測定する。
青色比色法とは、一般的にモリブデンブルー法とも言い主に水質検査用に使用される方法である。(JIS K0102に記載されている)
青色比色法は、組成がリン酸イオンが七モリブデン酸六アンモニウム及びタルトラトアンチモン(III)酸カリウムと反応して生成するヘテロポリ化合物をL(+)−アスコルビン酸で還元するとモリブデン青が生成され、前記生成されたモリブデン青の吸光度を専用の装置あるいは標準色試験紙との目視によって比色することにより、数値化されたリンの含有量を求めるものである。
本発明のリンの含有量の測定においては、従来知られる青色比色法の測定キットなどを使用して行うことができる。
【0013】
(3)基準値との判定
前記求められた試験粉末のリン含有量と先に測定しておいた当該試験粉末の表面重量との比の値を、ある特定の基準値と比較して当該試験粉末を採取した非リン皮膜部品の最終製品の良・不良を判定する。
【0014】
ここで、前記基準値について説明する。
前記基準値を求めるために、3種のボルトを本発明による青色比色法を用いたリン含有量と、試験片の表面を削り取った試験粉末の重量(表面重量)との関係性を調べ、当該結果をグラフ化した表を以下の表1に示す。
【0015】
【表1】

【0016】
ここで、表1に示す3種のボルトは、以下の通りである。
×:冷間鍛造・転造OIL劣化最悪(6ヶ月使用)条件品(通常3ヶ月交換)
○:非リン被膜部品
□:ボンデリューベ皮膜品
【0017】
表1を参照すると、非リン皮膜部品(○)が表面重量に対するリン含有量が少ない領域に分布してあることがわかる。また、ボンデリューベ皮膜品(□)は、焼き入れ焼き戻し後に母材に侵入したリンによって、表面重量に対するリンの含有量が多い領域に分布してることがわかる。同様に、冷間鍛造・転造OIL劣化最悪条件品(×)に対しても、表面重量に対してリン含有量がある一定の勾配を呈するように分布してあることがわかる。
【0018】
ここで、前記冷間鍛造・転造OIL劣化最悪条件品(×)に対して遅れ破壊試験を実施したが、特に製品として問題が生ずるとされる結果は得られなかった。
【0019】
以上の通り、前記冷間鍛造・転造OIL劣化最悪条件品(×)の分布について統計をとり、非リン皮膜部品の基準値として、前記基準値がリン含有量[mg]/試験粉末の重量[mg]=0.071を特定したものである。
【0020】
なお、前期試験粉末から測定された単位重量当たりのリン含有量が当該基準値より大きい場合に不良品であると判定し、前記リン含有量が当該基準値以下である場合には、良品であると判定することにより、当該非リン皮膜部品の最終製品に対する出荷判定を行うものとする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のボルトの測定方法の工程図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非リン皮膜部品の検査方法であって、
前記非リン皮膜部品の表面を削り取り粉末状の試験粉末を取り出す工程と、
前記試験粉末に対して青色比色法を用いて当該試験粉末の単位重量当たりのリン含有量を測定する工程と、
前記リン含有量と予め求めてある基準値とを比較し、当該リン含有量が当該基準値より大きい場合に不良品であると判定し、当該リン含有量が当該基準値以下である場合に良品であると判定する工程とを含むことを特徴とする、
非リン皮膜部品の検査方法。
【請求項2】
前記基準値をリン含有量[mg]/試験粉末の重量[mg]=0.071とすることを特徴とする、請求項1に記載の非リン皮膜部品の検査方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−32488(P2008−32488A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−205112(P2006−205112)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(000144485)株式会社サンノハシ (9)
【Fターム(参考)】