説明

非対称の脂質被膜を有する脂質粒子およびその製造方法

非対称の脂質被膜を有する脂質粒子の製造方法が記述される。粒子の外側の脂質被膜の脂質組成は内側から外側の表面まで変化する。非対称の脂質粒子は、荷電した脂質と治療剤を含有する脂質組成物を製造することによって形成され、この場合、粒子は各々、外部の脂質リーフレットと内部の脂質構造物を含有する外側の脂質被膜を有する。次に、粒子は、外部脂質リーフレットから荷電した脂質を除去するのに効果的な条件下でインキュベートされ、それによって脂質被膜を非対称にさせる。粒子は脂質の転座を介してそれらが表面電荷を取り戻す能力を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトへの、より具体的には細胞への治療剤の送達において使用するための、非対称の脂質被膜(lipid coating)を有する脂質粒子組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
脂質小胞、またはリポソームは、標的組織および器官に対して治療剤および診断剤を送達するための利用を例証した。脂質小胞は、1層以上の脂質二重層によって封入された水性内容物を有し、この場合、治療剤は水性内部空間または脂質二重層内に内包されている。したがって、両水可溶性および水不溶性薬物は、それぞれ、水性空間および脂質二重層内において脂質小胞によって輸送することができる。
【0003】
多くの薬物の作用は細胞内部の部位とのそれらの直接相互作用を伴う。作用のためには、薬物は細胞膜を通過して細胞質に達しなければならない。リポソームに内包された薬剤の細胞内送達の達成における成功は、種々の理由のために制限されてきた。1つの理由は、リポソームが、血流への全身的投与後に、細網内皮系によって循環から急速に除去されることである。その他の理由は、細胞の細胞質および/または核中に、分子、特に高分子および/または荷電した(charged)分子を送達することの固有の困難さである。
【0004】
細網内皮系による急速な取り込みという制限は、リポソーム上に親水性ポリマーの表面被膜を付加して細網内皮系による認識および取り込みから小胞を遮蔽することによって大きく克服された。ポリエチレングリコール(PEG)ポリマー鎖の被膜を有するリポソームの延長された血液循環の寿命(特許文献1)は、細胞による取り込みに対する機会をより大きくさせる。
【0005】
細胞内への荷電分子の送達は技術的挑戦を残している。特に、核酸、両DNAおよびRNAの送達は、分子の電荷と大きさのために興味をそそられてきた。タンパク質、ペプチドおよび荷電した薬物化合物は、細胞膜の横断輸送という同じ技術的ハードルを伴う。負荷電の薬剤、特に遺伝子治療のための核酸フラグメントの送達に対する1つのアプローチは、DNAもしくはRNAを陽イオン性脂質と複合させることであった。陽イオン性脂質と核酸との静電相互作用は、イン・ビボ投与に適するサイズ範囲の脂質−核酸粒子の形成を可能にする。外側の粒子表面上の正荷電の陽イオン脂質は、負荷電の細胞膜との相互作用に好都合であって、細胞内への脂質−核酸粒子の融合または取り込みを促進する。
【0006】
しかしながら、陽イオン脂質を用いて調製された脂質粒子の外部表面上の正電荷の存在は、広範囲の生体分布(biodistribution)のための長い血液循環寿命を達成するという目的にとっては好ましくない。粒子上の電荷は、投与部位または近傍における組織表面と即時に結合を惹起して、標的部位への循環および分布に対する粒子の利用能を実質的に制限する。生体分布を可能にするために投与に際しては中性であるが、一定時間後、すなわち粒子の生体分布後に、内包された薬剤の結合と細胞内送達のために細胞膜との相互作用を可能にするように荷電される、脂質粒子組成物を設計することが望まれるであろう。
【特許文献1】米国特許第5,013,556号
【発明の開示】
【0007】
したがって、本発明の目的は、荷電した治療剤との相互作用のための荷電した脂質を含有するが、形成後に最小の外部表面電荷を担持する、脂質粒子組成物を提供することであ
る。
【0008】
本発明のその他の目的は、荷電した脂質を含有し、そして粒子形成後に最小の外部表面電荷を有するが、時間の経過とともに、例えば生理学的温度におけるインキュベーションの間に、電荷を発現することができる脂質粒子組成物を提供することである。
【0009】
1つの態様では、本発明は、外部の脂質被膜を有する脂質粒子を製造する方法を含む。本方法は、(i)荷電した脂質を含有する脂質組成物および(ii)治療剤からなる脂質粒子の製造を含む。粒子は各々、外部の脂質リーフレット(leaflet)および内部の脂質構造物(structure)を有する外側脂質被膜を有する。次いで、粒子は、外部脂質リーフレットから該荷電した脂質を除去するのに効果的な条件下でインキュベートされる。
【0010】
1つの実施態様では、脂質粒子は、少なくとも1種の陽イオン脂質を含有する脂質組成物からなる。
【0011】
その他の実施態様では、製造の段階は、(i)脂質組成物からなる脂質小胞を形成することおよび(ii)脂質小胞を治療剤と複合させることを含んでなる。
【0012】
1つの実施態様では、脂質粒子のインキュベーションは、無荷電の脂質小胞を含有する媒質におけるインキュベーションを含む。その他の実施態様では、脂質−ポリマー−リガンド複合体がインキュベーション媒質に添加することができる。他の実施態様では、インキュベーション媒質は、親水性ポリマーで誘導体化される脂質をさらに含むことができる。代表的な親水性ポリマーで誘導体化される脂質は、ポリエチレングリコールで誘導体化されるリン脂質である。
【0013】
他の実施態様では、本粒子のインキュベーションは、約15℃未満の温度において、そして/または約5時間を超える一定時間の間実施される。
【0014】
1つの実施態様では、脂質粒子はリポソームである。
【0015】
なお他の実施態様では、脂質粒子は、荷電した薬物、タンパク質、ペプチドおよび核酸からなる群から選ばれる内包された治療剤を有するように製造される。
【0016】
その他の態様では、本発明は、外側の脂質リーフレットおよび内部の脂質構造物からなる脂質被膜を有する脂質粒子を含んでなる組成物を含む。脂質被膜は、(i)荷電した脂質を含有し、そして(ii)ゲル−結晶相転移温度を有する脂質組成物から形成され、この場合、脂質粒子は、脂質組成物の相転移温度より低い温度では、ほとんどまたは全く評価できる電荷をもたないが、相転移温度以上の温度でのインキュベーション後には測定できる電荷を有する。
【0017】
1つの実施態様では、脂質組成物は約34〜38℃の間の相転移を有する。
【0018】
なおその他の態様では、本発明は、イン・ビボ投与前にその外側脂質被膜中に非対称の荷電脂質組成物を有する脂質粒子を製造する方法を含む。本方法は、(i)荷電した脂質を含有する脂質組成物および(ii)治療剤からなる脂質粒子の製造を含み、この場合、粒子は各々、外部の脂質リーフレットおよび内部の脂質構造物を有する外側脂質被膜を有する。粒子は外部脂質リーフレットから荷電脂質を除去するのに効果的な条件下でインキュベートされる。
【0019】
1つの実施態様では、インキュベーションは、約15℃未満の温度におけるインキュベーションを行う。その他の実施態様では、インキュベーション時間は約5時間を超える一定時間の間である。その他の実施態様では、インキュベーション媒質は中性の脂質小胞からなる。
【0020】
本発明のこれらおよび他の目的および特徴は、次に示す本発明の詳細な記述が付随する図面とともに判読される場合、より完全に理解されるであろう。
【0021】
発明の詳細な説明
I.定義
本明細書で使用される「脂質粒子」は、少なくとも1層の脂質二重層を有するすべての形状またはサイズの粒子を意図する。すなわち、本用語は、単ラメラ、複ラメラ(plurilamellar)および多重ラメラ小胞を含む。若干のラメラでは、粒子の一部分が単ラメラであってもよく、そして他の部分が多重ラメラであってもよい。粒子は球状であってもよく、また形状においてより球体であってもよい。用語「脂質粒子」の内には、リポソームならびに脂質と他の粒子成分との複合体が含まれる。本粒子は一定の水性空間を有してもよい、すなわちリポソーム、または水性空間のポケットもしくは領域を有してもよい、すなわち脂質複合体。
【0022】
略語:DMTAP:1,2−ジミリストイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン;DOPE:ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン;PEG:ポリエチレングリコール;DS:ジステアロイル;mPEG−DS:メトキシ(ポリエチレングリコール)−ジステアロイル。
【0023】
II.脂質粒子および製造方法
1つの態様では、本発明は、外側の表面と内側の脂質部分を有する外部脂質被膜、ならびに外側の表面と内側の脂質領域の間に広がる脂質被膜を横切る組成勾配(compositional gradient)を有する脂質粒子の製造方法に関する。脂質被膜の全部もしくは一部分を横切る組成勾配を有するそのような粒子は、そのような脂質粒子の理想的な図解が示される図1A−1Eにおいてここで図示できるような非対称脂質組成物と言及されるものを有する。図1Aは、単一の外側脂質被膜12を有する単ラメラ脂質粒子10を示す。脂質被膜の一部が脂質の配置をより具体的に説明するために拡大図において示される。被膜は外部の被膜表面14および内部の被膜表面16を含んでなる。ここに図示されるように、被膜は脂質二重層の形態をとる;しかしながら、この図解は理想的なものであり、脂質被膜は脂質の一層複雑な配置を有してもよい。外部被膜表面は、被膜の外側の脂質リーフレットに対応し、ここではリーフレット中の脂質の極性頭部基(head group)は、粒子が懸濁される外部の大量の媒質と接触する方向に向かっている。内部の被膜表面は内側の脂質構造物に対応し、これは脂質リーフレットであっても、また脂質の一層複雑な配置であってもよく、ここでは内側のリーフレットにおける脂質の極性頭部基は、粒子の水性空間内に接触する方向に向かっている。外側の脂質リーフレットは、正(陽イオン)または負(陰イオン)電荷を担持しない脂質、例えば、中性の小胞形成脂質または他の中性脂質を顕著に含んでなるために、低い、または最小の電荷を有する。好適な実施態様では、外側の脂質リーフレットは中性または陰イオン脂質を含んでなる;すなわち、外側の脂質リーフレットは陽イオン脂質の存在によって評価できる陽イオン電荷をほとんどまたは全く含有しない。内側の脂質構造物は荷電した脂質を含んでなる。この特徴は、内部の被膜表面上に正電荷を与える内側の脂質構造物中の18,20における正荷電の脂質の指示によって図1Aにおいて図示される。単ラメラ脂質被膜を有するこの脂質粒子では、内側と外側の脂質リーフレット間の脂質組成物における相違は、非対称脂質被膜として本明細書で言及されるものを形成する。より具体的には、外側の脂質被膜
の1層を横断する荷電した脂質組成物における相違が非対称の外側の脂質被膜として言及される。
【0024】
図1B−1Cは、前記方法によって製造されて、非対称の外側の脂質二重層または被膜をまた生成する多重ラメラ脂質小胞の図解である。最初の図1Bに関して、小胞24は、理想的な二重層26,28,30として指示される、複数の密集した、同心の脂質被膜層を有する。実際に、脂質二重層の数は、図面において示された3個以上の多数であってもよく、示された単純な二重層よりも脂質配置において複雑であってもよい。脂質二重層26,28,30からなる脂質被膜の一部が、脂質配置を容易に概観するために拡大図において示される。脂質被膜30は最も外側の脂質層であり、粒子が懸濁される外部媒質と接触している。外側の脂質被膜30は外部表面32と内部表面34を有し、ここでは、外部表面は外側の脂質リーフレット36によって定められ、内部表面は内側の脂質構造物38によって定められる。外側の脂質リーフレット36は、内側の脂質構造物38の脂質組成に比較してその脂質組成において異なり、外側脂質リーフレットは、より少ない荷電脂質、より好ましくは、より少ない陽イオン脂質を有する。反対に、内側の脂質構造物は、40,42における+記号によって指示されるように、内部表面38に沿って正の表面電荷をもたらす陽イオン脂質を含有する。かくして、図1Bに図示される多重ラメラ脂質粒子では、外側の脂質被膜はその脂質組成に関して非対称である。
【0025】
図1Cは、図1Bの脂質粒子24に類似する脂質粒子44を示し、そして同じ要素は同じ数字の同一性によって同一である。粒子44は、複数の脂質層、例えば、層26,28,30を含有する。外側の脂質被膜30は外部表面32と内部表面34を有する。この実施態様では、外側の脂質被膜30の脂質組成は、外部表面32と内部表面34との間で相対的に一定であり、外側の脂質被膜は最小の荷電脂質を有する。しかしながら、もっとも外側の脂質被膜30より内部の脂質層は、+記号43,45,47によって示されるように、その組成物では荷電脂質を含有する。したがって、脂質粒子のこの実施態様では、非対称脂質被膜は、内側の脂質構造物もしくは脂質層に対する外側の脂質被膜30の脂質組成に関している。すなわち、全体としての脂質被膜は、それが外側の粒子表面から内側の粒子領域まで広がるので、その脂質組成に関して非対称である。
【0026】
図1Dは、図1Bに記述したものに類似する多重ラメラ領域46のその他の実施態様を示す。しかしながら、粒子46は、親水性ポリマーで誘導体化された脂質、例えば脂質48,50,52を含有し、これらは各々図面で示される脂質二重層54,56,58の誘導体化脂質によって表される。以下に議論されるように、粒子の脂質被膜を横断して分布されるポリマー誘導体化脂質を有する粒子は、粒子形成における脂質混合物においてポリマー誘導体化脂質を包含することによって形成される。粒子46における外側脂質被膜58は、外側の脂質リーフレット60における荷電した脂質の不在ならびに内側の脂質構造物66における荷電脂質、例えば脂質62,64の存在による非対称脂質組成物を有する。内側の脂質リーフレットにおける荷電脂質の存在は、内側の被膜表面に沿った+記号によって示されるように、荷電した内側脂質被膜表面をもたらす。
【0027】
図1Dの脂質粒子は、場合によっては包含することができるさらなる特徴を含む。また、脂質粒子は、治療作用のための所望の部位に脂質粒子を運搬するための誘導体化デバイスとして働くターゲティングリガンド、例えばリガンド70,72を含有するように製造されてもよい。脂質粒子に付着したターゲティングリガンドは、例えば、米国特許第5,891,468号、同第6,056,973号および同第6,180,134号において記述されており、ターゲティングリガンド、リガンドを担持する脂質複合体の製造および脂質−リガンド複合体を含んでなる脂質粒子の製造のために適当な部分に関するこれらの特許の開示は、引用によって本明細書に組み入れられている。ターゲティングリガンドは、脂質−リガンドもしくは脂質−リンカー−リガンド複合体のミセル溶液中で予備形成し
た脂質粒子をインキュベートすることによる形成後に、脂質粒子中に組み入れることができる。またターゲティングリガンドは、粒子形成のための脂質組成物中に脂質−リガンド複合体を含有させることによって、脂質粒子中に組み入れることができる。
【0028】
その他の代表的な脂質粒子が図1Eに図示される。先に注目したように、図1A−1Dにおける図解は非常に理想的なものであり、一定の脂質層と一定の水性区間をもつ球体粒子を示す。事実、粒子は図1Eにおいて部分的に図示したように、構造においてはるかに複雑であってもよい。図1Eは、陽イオン脂質(黒丸の頭部基で表す、例えば脂質53,55)および中性脂質(白丸の頭部基で表す、例えば脂質57,59)からなる脂質−DNA粒子51を示す。DNA61は粒子の内部に配置され、そして電荷相互作用を介して中性脂質によるよりも陽イオン脂質により被覆される。粒子は一定の外側の脂質リーフレット63、および外側脂質リーフレットに対して内部の脂質層からなる内部脂質構造物を有する。かくして内側の脂質構造物は、外側のリーフレット63に対する内側リーフレット65およびDNAを取り囲む内側の二重層、例えば二重層67,69を含む。粒子51は水性空間のポケット、例えばポケット71を有するが、慣用のリポソームにおいて共通する一定の水性内部区画を有しない。
【0029】
A.脂質粒子の製造
前述のように、特に図1B−1Cに関して、本明細書に記述した粒子は、粒子において単一の脂質層(例えば、外側の脂質層の脂質組成が非対称である図1B)か、または外側の粒子表面から内側の粒子領域まで広がるような脂質被膜(図1C)のいずれかに関して非対称脂質被膜を有する。そのような脂質粒子の製造がここに記述される。
【0030】
非対称の外側の脂質被膜を有する脂質粒子は、図2Aにおける一般的用語において図解される方法にしたがって製造されるが、ここでは、脂質粒子の形成に必要である基礎的な段階の図式的なフローチャートが提供される。図2Bは、形成に際して各段階における代表的な脂質粒子の性質の図式表現を提供する。広い意味において、第1段階は荷電した脂質、例えば陽イオン脂質を含む脂質組成物から脂質小胞を製造することである。次に、脂質小胞は、荷電した脂質小胞と治療剤との複合のために薬剤と混合され、それによって脂質粒子を形成する。この段階に対応する代表的な粒子は図2Bにおいて粒子80として示される。粒子80は陽イオン脂質(黒丸の頭部基で表す、例えば脂質82,84)および中性脂質(白丸の頭部基で表す、例えば脂質86,88)からなる。DNA90は粒子の内部に配置され、電荷相互作用を介して中性脂質より陽イオン脂質により被覆される。 図2Aを続けて引用すれば、脂質粒子は、次に、外側の脂質被膜からか、または脂質粒子のもっとも外側の脂質被膜の外側リーフレットから荷電した脂質の抽出を達成する媒質中および条件下でインキュベートされる。中性リポソームの懸濁液を含んでなるインキュベーション媒質によるインキュベーション後の脂質−DNA粒子の性質は、図2Bにおいて粒子100として示される。粒子のインキュベーションは外側の脂質リーフレット102から陽イオン脂質の除去をもたらし、インキュベーション前の粒子80に比較して黒丸頭部基をもつ少ない脂質によって図において示される。外側の脂質リーフレットと内側の脂質構造物との間の組成における相違は、粒子に対して非対称の脂質組成に寄与する。非対称の粒子100は、インキュベーション前の粒子80に比較して減少した表面電荷を有する。本発明の1つの実施態様では、インキュベーションは、外側の脂質リーフレットと、外側の脂質リーフレットに接する内側の脂質構造物とから荷電した脂質を除去するのに十分である。その他の実施態様では、インキュベーションは、外側の脂質リーフレットから主として荷電脂質を除去するために、例えば、インキュベーション時間、温度および/または媒質を変えることによって、そのような方法で実施される。この後者の実施態様は、図2Bの粒子110において図示されており、そしてより完全には以下に議論される。簡単に言えば、この後者の実施態様では、荷電した脂質は、内側の脂質構造物、例えば粒子100の脂質リーフレット104に存在していて、外側の脂質リーフレットへの転座または「フリップ・フロップ」のために利用できる。転座は、脂質の移動を可能にするのに十分な温度、典型的には脂質組成物の相転移温度以上の温度において粒子をインキュベートすることによって達成される。内側の脂質層における荷電した脂質の比較的高い濃度は、外側の脂質リーフレットにおける比較的低い濃度の領域への荷電脂質の転座を可能にする。転座は、粒子100における陽イオン脂質に比較して増加した陽イオン脂質(黒丸の極性頭部基で表される)の存在によって粒子110において図示されように、脂質−DNA粒子上の表面電荷の再生をもたらす。
【0031】
非対称の外側脂質被膜を有する脂質小胞を最初に製造し、次いで、非対称の小胞と荷電した薬物とを複合することによって非対称の脂質粒子を生成することもまた可能である。この実施態様では、荷電した脂質からなる脂質粒子が、外側の脂質被膜もしくはリーフレットから荷電した脂質の大部分を除去するために適当な条件下でインキュベートされ、それにより非対称小胞を生成する。非対称脂質被膜の形成後、非対称脂質小胞は、続いて薬物と複合されて非対称の脂質−薬物粒子が形成される。
【0032】
1.脂質小胞の製造
脂質小胞、典型的には単ラメラもしくは多重ラメラリポソームは、荷電した脂質、好ましくは陽イオン脂質を含む脂質組成物から製造される。陽イオン脂質は、組成物における単一の小胞形成脂質であってもよく、あるいは組成物における小胞形成または小胞非形成性の、2種または数種の脂質の1つであってもよい。本発明の支持の下で製造される代表的な単ラメラ小胞は、陽イオン性小胞形成脂質、中性脂質および親水性ポリマーにより誘導体化された小胞形成脂質からなる脂質組成物から製造される。
【0033】
陽イオン性小胞形成脂質は、操作pH、例えばpH4〜9において正味の正電荷をもつ極性頭部基を有するものである。代表的な陽イオン脂質は、1,2−ジオレリルオキシ−3−(トリメチルアミノ)プロパン(DOTAP);臭化N−[1−(2,3−ジテトラデシルオキシ)プロピル]−N,N−ジメチル−N−ヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE);臭化N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N−ジメチル−N−ヒドロキシエチルアンモニウム(DORIE);塩化N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウム(DOTMA);1,2−ジミリストイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン(DMTAP);ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC);3β[N−(N’,N’−ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール(DC−Chol);ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDAB);陽イオン界面活性剤、ステロールアミンおよびその他を含む。また、陽イオン部分による誘導体化体化によって中性もしくは負荷電の脂質を陽イオンにさせることも可能である。例えば、リン脂質、例えばホスファチジルエタノールアミンは、その極性頭部基において正電荷部分、例えばリジンにより誘導体化体化することができるが、例えば、L−リジンによる誘導体化した脂質DOPE(LYS−DOPE)について具体的に説明される(Guo、L.et al.,Journal of Liposome Research (1):51−70(1993))。また、この陽イオン脂質の場合には、糖脂質、例えば陽イオン極性頭部基を有するセレブロシドおよびガングリオシドが含まれる。使用されてもよいその他の陽イオン性小胞形成脂質はコレステロールアミンおよび関連する陽イオンステロールである。
【0034】
脂質小胞の形成において含まれる荷電脂質は、陰イオン脂質、例えばジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG);ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG);ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE);ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC);およびその他であってもよいことは理解できる。
【0035】
脂質小胞の製造のための脂質組成物は、荷電した脂質類に加えて他の脂質を含んでもよ
い。典型的には、組成物は、リン脂質によって代表されるように、水性媒質中で二重層脂質を自然に形成できる脂質を意図する小胞形成脂質を含むことができる。脂質組成物はまた、二重層膜の内側の疎水性領域と接触する脂質の疎水性部分、および二重層脂質膜の外側の極性表面に向けられた脂質の頭部基部分を用いて、脂質二重層中に安定して組み入れられる脂質を含む。小胞形成脂質は、好ましくは、2個の炭化水素鎖、典型的にはアシル鎖および極性もしくは非極性いずれかの頭部基を有するものである。リン脂質、例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールおよびスフィンゴミエリンを含む、種々の合成小胞形成脂質および天然に存在する小胞形成脂質が存在するが、この場合、2個の炭化水素鎖は典型的には、長さ約14〜22個の炭素原子であり、かつ種々の不飽和度を有する。種々の飽和度を有するアシル鎖をもつリン脂質は、市販品を得るか、または公表された方法にしたがって製造することができる。
【0036】
1つの実施態様では、小胞形成脂質は、ターゲティング脂質−リガンド複合体の挿入のために効果的な条件を制御するため、そして/または以下に記述されるような脂質粒子のイン・ビボ投与において内側の脂質構造物から外側の脂質リーフレットへの荷電した脂質の転座を可能にするために、特定の流動度または硬さの度合いを達成するように選ばれる。より硬い脂質被膜を有する脂質粒子は、比較的硬い脂質、例えば、比較的高い相転移温度、例えば60℃までを有する脂質の組み入れによって達成される。硬い、すなわち飽和した脂質は、脂質被膜における膜のより大きな硬さに寄与する。他の脂質成分、例えばコレステロールが、脂質構造物における膜の硬さに寄与することがまた知られている。代表的な硬い脂質は、62℃の相転移温度を有するジステアリルホスファチジルコリン(DSPC)および58℃の相転移温度を有する水素化した大豆ホスファチジルコリン(HSCP)を含む。
【0037】
より流動性の二重層は、比較的流動性の脂質、典型的には、比較的低い液体ないし液晶相転移温度、約37〜38℃の体温またはそれ以下をもつ脂質相を有するものの組み入れによって達成される。38℃以下の相転移温度を有する脂質の例は、卵ホスファチジルコリン(−15〜−7℃)、ジミリストイルホスファチジルコリン(23℃)、1−ミリストイル−2−パルミトイルホスファチジルコリン(27℃)、1−パルミトイル−2−ミリストイルホスファチジルコリン(35℃)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(23℃)、脳スフィンゴミエリン(32℃)(Szoka,F.et al.,Ann.Rev.Biophys.Bioeng.,:467(1980))である。多くの脂質の相転移温度は、種々の起源、例えば、Szoka & Papahadjopoulos,Ann.Rev.Biophys.Bioeng.,:467−508(1980),Avanti Polar Lipids catalogue,およびLipid Thermotropic Phase Transition Database(LIPIDAT,NIST Standard Reference Database 34)において一覧表にされている。
【0038】
図1Dに関して前述されたように、脂質粒子は場合によっては親水性ポリマー鎖および/または脂質に固定したターゲティング複合体の表面被膜を含む。これらの特徴的な物質のいずれかが、本方法の初期段階において脂質小胞の形成のために使用される脂質組成物中に、ポリマー誘導体化脂質および/またはリガンド誘導体化脂質を含有することによって脂質粒子中に組み入れることができる。また、脂質粒子が媒質中でインキュベートされる場合は、方法の第3段階においてこれらの特徴的物質を脂質粒子中に組み入れることも可能である。この場合、ポリマー誘導体化脂質および/またはリガンド誘導体化脂質はインキュベーション媒質中に包含され、そしてインキュベーションの間に脂質粒子の外側の脂質被膜中に挿入されるようになる。このいわゆる「挿入」法は、米国特許第5,891,468号、同第6,056,973号および同第6,210,707号において記述さ
れている。
【0039】
親水性ポリマーにより誘導体化した脂質およびポリマー誘導体化脂質を含有するリポソームが記述されている(米国特許第5,013,556号;米国特許第5,395,619号)。脂質被膜中に組み入れられたポリマー誘導体化脂質は、脂質小胞の周囲の親水性ポリマー鎖の表面被膜を形成する。親水性ポリマー鎖の表面被膜は、そのような被膜を欠く脂質粒子に比べる場合、脂質粒子のイン・ビボの血液循環寿命を増大するのに効果がある。親水性ポリマーを用いる誘導体化体化のために適当な小胞形成脂質は、先に列挙したそれらの脂質、特にリン脂質、例えばジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)のいかなるものも含む。
【0040】
小胞形成脂質の誘導体化のために適当な親水性ポリマーは、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリアスパルタミドおよび親水性ペプチド配列を含む。ポリマーは、ホモポリマーまたはブロックもしくはランダムコポリマーとして使用されてもよい。
【0041】
好適な親水性ポリマー鎖は、好ましくは分子量500〜10,000ダルトン、より好ましくは1,000〜5,000ダルトンを有するPEG鎖としてのポリエチレングリコール(PEG)である。PEGのメトキシもしくはエトキシ−キャップの類似体(例えば、mPEG)はまた、種々のポリマーサイズ、例えば、120〜20,000ダルトンにおいて市販されている好適な親水性ポリマーである。
【0042】
親水性ポリマーで誘導体化された小胞形成脂質の製造は、例えば、米国特許第5,395,619号に記述されている。そのような誘導体化した脂質を含むリポソームの製造がまた記述されていて、典型的には、そのような誘導体化脂質の1〜20モルパーセントがリポソーム調合物中に含有される。
【0043】
ターゲティング性リガンドにより誘導体化された脂質もまた記述されている(米国特許第5,891,468号、同第6,056,973号および同第6,210,707号)。ターゲティングリガンドは、典型的には、レセプター−リガンド結合ペアの一部である部分であり、この場合、ペアのリガンドは脂質粒子に付着されて、粒子がそのレセプターペアを担持する特定の標的に特異的に結合するのを可能にする。リガンドの例は米国特許第5,891,468号に記述されていて、引用によって本明細書に組み入れられている。特に好適なリガンドは、細胞レセプターへの結合において細胞によって内部に取り込まれるものである。そのようなリガンドは脂質粒子の含有物の細胞内送達を可能にする。
【0044】
2.脂質粒子と治療剤との複合による脂質粒子の形成
図2を続けて引用すれば、荷電脂質小胞の形成後、小胞は治療剤と混合されて脂質粒子が形成される。本明細書で使用されるように、「脂質小胞」は脂質構造物を指し、これは小さいまたは大きい単ラメラまたは多重ラメラリポソームであってもよく、あるいはあまり定かではない脂質層を有する脂質構造物であってもよい。「脂質粒子」は、治療剤、より特別には荷電した治療剤と複合された脂質小胞を指す。
【0045】
先に示したように、脂質小胞は小胞に全電荷を与える荷電脂質を含む。全電荷は陰イオン脂質の封入によって負であっても、または陽イオン脂質の封入によって正であってもよい。荷電した脂質小胞と混合される治療剤はまた荷電されており、より具体的には脂質小
胞の電荷とは逆の電荷を担持する。負荷電の治療剤と混合された陽イオン脂質小胞は、複合して脂質粒子を形成する。同様に、正荷電の治療剤と混合された陰イオン脂質小胞は、複合して脂質粒子を形成する。
【0046】
正および負に荷電した治療剤は当該技術分野において既知である。好適な負荷電の治療剤は、いずれかDNAもしくはRNAの、一本鎖もしくは二本鎖の核酸である。1つの実施態様では、核酸は、その標的、通常はメッセンジャーRNA(mRNA)もしくはmRNA前駆体に対して相補的な配列からなるアンチセンスDNAオリゴヌクレオチドである。mRNAは、機能的な、またはセンスの方向づけで遺伝情報を含有し、アンチセンスオリゴヌクレオチドの結合は意図するmRNAを不活性化し、そしてタンパク質への翻訳を阻止する。そのようなアンチセンス分子は、タンパク質が特定のRNAから翻訳され、そしてRNAの配列が既知であれば、相補的なWatson−Crick塩基対をとおしてそれに結合できるアンチセンス分子が設計できることを示す生化学実験に基づいて決定される。そのようなアンチセンス分子は、典型的には、10〜30塩基対、より好ましくは10〜25、もっとも好ましくは15〜20を含有する。アンチセンスオリゴヌクレオチドは,ホスホロチオエート、メチルホスホネート、ホスホジエステルおよびp−エトキシオリゴヌクレオチド(WO97/07784)として、ヌクレアーゼ加水分解に対する耐性を改良するために改変することができる。
【0047】
核酸は、限定されるものではないが、ウイルス性、悪性および炎症性疾患および症状、例えば、嚢胞性繊維症、アデノシンデアミナーゼ欠乏およびAIDSの処置を含む、種々の療法のための治療剤として有用である。腫瘍抑制遺伝子、例えばAPC,DPC4,NF−1,NF−2,MTS1,RB,p53,WT1,BRCA1,BRCA2,VHLの投与、あるいは、がん遺伝子、例えばPDGF,erb−B,erb−B2,RET,ras(Ki−ras,N−rasを含む)c−myc,N−myc,L−myc,Bcl−1,Bcl−2およびMDM2の投与によるがんの処置が予想される。指摘された症状の処置のための次の核酸の投与もまた予想される:HLA−B7,腫瘍、結腸直腸がん腫、黒色腫;IL−2、がん、特に乳がん、肺がんおよび腫瘍;IL−4、がん;THF、がん;IGF−1アンチセンス、脳腫瘍;IFN、神経芽細胞腫;GM−CSF、腎細胞がん腫;MDR−1、がん、特に進行したがん、乳および卵巣がん;VIII因子、血友病、およびHSVチミジンキナーゼ、脳腫瘍、頭頸部腫瘍、中皮腫および卵巣がん。
【0048】
核酸に加えて、荷電した有機薬物分子もまた脂質小胞との複合のために適当である。種々の荷電薬物は当該技術分野において既知であり、そして当業者によって容易に認識されている。
【0049】
3.非対称の外側の脂質被膜を生成するための脂質粒子のインキュベーション
図2を続いて引用すれば、脂質小胞と治療剤とを複合させた後、脂質粒子は、外側の脂質被膜層から、または外側の脂質被膜の外側脂質リーフレットから、荷電した脂質の少なくとも一部分を抽出するのに効果的な条件下でインキュベートされる。図1において先に議論したように、脂質粒子は、内側の脂質構造物と外側の脂質表面からなる外側の脂質被膜を含む。外側の脂質表面またはリーフレットは、外部のインキュベートする媒質と接触している。脂質粒子はインキュベートされて、外側のリーフレットまたはもっとも外側の脂質被膜からの荷電した脂質の実質的に全部の除去を達成し、結果として、外側の脂質被膜を非対称にさせる。荷電した脂質の除去の程度が決定され、さらに記述されるように、インキュベーション時間、温度および媒質のようなファクターによって制御する。
【0050】
外側の脂質被膜またはリーフレットからの荷電した脂質の除去は、荷電脂質が分配される媒質中に脂質粒子を置くことによって達成される。粒子から媒質への脂質の分配を実施する条件は変えることができ、そしてインキュベーション媒質の選択、インキュベーショ
ン媒質の温度およびインキュベーションの時間を含む。本発明の支持下で実施される研究において、中性の脂質小胞の水性懸濁液からなるインキュベーション媒質は、粒子の脂質の被膜の外側脂質被膜またはリーフレットからの陽イオン脂質の分配を惹起するのに効果的である。中性の脂質小胞を含有するインキュベーション媒質は、陽イオン脂質のためのたまり場(sink)として役立ち、脂質粒子の外側被膜における高い濃度からインキュベーション媒質における低い濃度まで陽イオン脂質の移動を惹起する。好適なインキュベーション媒質は、中性脂質の粒子からインキュベーション媒質までの実質的な移動が起きないように、脂質粒子中に存在する同じ中性脂質を含有する。他の代表的なインキュベーション媒質は、負荷電の脂質、表面活性剤、ポリマー粒子、または脂質粒子から荷電した脂質を引き出すことができる他の材料を含有するものである。
【0051】
その他の実施態様では、陽イオン表面電荷を低下させるための脂質粒子のインキュベーション後、続いて粒子は、脂質粒子の外側の脂質リーフレットに負電荷を導入するために負荷電の脂質種を含む第2の媒質においてインキュベートされる。
【0052】
先に記したように、脂質粒子は、場合によっては、親水性ポリマー鎖および/または脂質に固定したターゲティング性複合体の表面被膜を含んでもよい。ポリマー誘導体化の脂質またはリガンド誘導体化の脂質が、インキュベーション媒質中にこれらの複合体の1方もしくは両方を含有させることによって脂質粒子中に組み入れることができる。複合体はインキュベーションの間に脂質粒子の外側の脂質被膜中に挿入される。脂質粒子のインキュベーションにおける脂質−ポリマー複合体および/または脂質−ターゲティングリガンド複合体の挿入は、脂質二重層、ターゲティングリガンドおよび他の因子の組成にしたがって仕立てることができる。例えば、急速度の挿入は比較的高いインキュベーション温度によって達成できるが、リガンドがその活性に影響することなく安全に加熱できる温度に対してバランスされなければならない。脂質組成物における脂質の相転移温度もまた、挿入に適当する温度を指示するであろう。また挿入が、溶媒、例えばポリエチレングリコールおよびエタノールを含む両親媒性溶媒、または洗剤の存在によって変えられることも理解できる。
【0053】
B.脂質粒子の特性決定
脂質粒子は実施例1に記述されるように製造された。簡単に言えば、陽イオン性の小さい単ラメラ小胞(SUV)が、DMTAP、DOPE、コレステロールおよびmPEG−DSPEの脂質組成物から製造された。陽イオン脂質小胞は、ルシフェラーゼレポーター遺伝子を担持するDNAプラスミドと複合されて脂質粒子を形成した。陽イオンSUVと核酸の複合は、温度約0℃で実施された。脂質粒子は未複合の陽イオンSUVおよび/または核酸から分離された。次いで、脂質粒子は、温度4℃で24時間、中性のSUV(POPC、コレステロールおよびmPEG−DSPE)からなるインキュベーション媒質中でインキュベートされた。インキュベーション後、ここで非対称の外側脂質二重層をもつ脂質粒子は、ゼータ電位による電荷の解析のために、スクロース密度勾配超遠心分離によってインキュベーション媒質中の他の脂質成分から分離された。
【0054】
ゼータ電位値は粒子の外側表面上の見かけの電荷の測定値を与える。より具体的には、ゼータ電位は、固体と接する液体境界層と、液体本体における動きうる拡散層との間の界面、例えば、すべり面を横断して生じる電位の測定値である。ゼータ電位値は、市販の装置を用いて、以下の方法の項に記述されるように測定された。図3は、DOTAP(xモル%)、POPC(55−xモル%)、コレステロール(40モル%)およびポリエチレングリコール誘導体化ジステアロイル(PEG−DS、5モル%)からなる陽イオン脂質小胞について、ゼータ電位(mV)間の関係を示すが、この場合、DOTAPの量はグラフのx−軸にそってモル%で示されている。脂質小胞は指示される組成物において製造され、そして約100nmのサイズに押し出された。ゼータ電位は5mMNaCl中25℃
において測定された。ゼータ電位は、濃度が0から10モル%に増加するにつれて観察されるゼータ電位における急速な増加と、10モル%を超えるDOTAPを有する組成物についての比較的遅い増加とともに、陽イオン脂質、DOTAPの濃度の関数として増加する。
その他の研究では、脂質粒子は実施例1にしたがって製造された。脂質組成物は、DMTAP(50モル%)、DOPE(24モル%)、コレステロール(24モル%)およびPEG−DS(2モル%)からなった。脂質小胞とDNAを複合させた後であるが、非対称脂質被膜の生成のためのインキュベーション前に、脂質粒子のサンプルが比較対照としてゼータ電位分析のために保存された。残りの粒子は中性脂質小胞を含有する媒質(実施例1)において種々の時間インキュベートされて非対称脂質被膜が生成された。非対称脂質粒子はスクロース密度勾配超遠心分離を用いてインキュベーション媒質中の他の脂質小胞から分離され、ゼータ電位が測定された。結果は、動的光散乱によって測定される、粒子のサイズとともに表1Aにおいて示される。
【0055】
【表1】

【0056】
非対称脂質被膜をもたない脂質粒子のゼータ電位は17.27mVであって、粒子の外部表面上の正電荷を示している。中性脂質小胞を含有するインキュベーション媒質中での24時間、25℃および3.5時間、37℃における粒子のインキュベーションは、ゼータ電位を8.30mVおよび8.63mVまでそれぞれ低下させるのに効果的であって、表面電荷が有意に低下されたことを示している。
【0057】
同様な研究は、DMTAP(50モル%)、POPC(24モル%)、コレステロール(24モル%)およびPEG−DS(2モル%)からなる脂質粒子を用いて実施された。ゼータ電位の測定値は、対照として、脂質小胞とDNAを複合させた後であるが、非対称脂質被膜の生成前の脂質粒子のサンプルにおいて作成された。粒子は種々の時間と温度においてインキュベーション媒質中でインキュベートされて非対称脂質被膜が生成された。ゼータ電位測定値および動的光散乱によって決定される粒子のサイズは表1Bにおいて示される。
【0058】
【表2】

【0059】
対照の粒子に比較して非対称脂質粒子における減少したゼータ電位によって証明されるように、中性脂質小胞を含有する媒質における脂質粒子のインキュベートは、外側の脂質リーフレットから陽イオン脂質を抽出するのに効果的であった。
【0060】
総括すれば、非対称脂質粒子のゼータ電位測定値によって証明されるように、脂質被膜組成物において荷電した脂質を有する脂質粒子が、外側の被膜から荷電した脂質を抽出するために媒質中でインキュベートされた。粒子形成の間の荷電した脂質の存在は、脂質と荷電した治療剤との間の電荷−電荷相互作用が粒子の有効な形成を可能にすることにおいて有利である。外側の脂質被膜からの荷電した脂質の除去は、イン・ビボの送達において、低下または不在の表面電荷が、より広範な生体分布のための、より長い血液循環時間を可能にすることにおいて有利である。
【0061】
表1A,1Bに関し、かつ実施例1において前述された脂質粒子が、イン・ビボ投与後に無荷電のまま残っているか否かを決定するために、非対称脂質粒子が、イン・ビボ投与後の条件をシミュレーションして、37℃で15時間放置された。粒子のゼータ電位は15時間後に測定され、結果が表2A,2Bに示される。また、脂質被膜が内包したDNAを包囲し、保護する程度を決定するために、DNAと接触した場合に蛍光を発する染料(PicoGreen(R)dsDNA定量試薬)が、各調製物の一定分量に添加された。DNA保護のパーセントは、脂質粒子の蛍光放出を染料で処理した裸のDNAのそれと比較することによって決定された。DNA保護のパーセントがまた表2A,2Bに示される。
【0062】
【表3】

【0063】
【表4】

【0064】
外側の脂質リーフレットに陽イオン脂質を有する脂質粒子(対照粒子)のゼータ電位は
イン・ビボのシミュレーション条件下で増加したが、これは外側の粒子表面における電荷の増加した存在を示している。非対称脂質粒子のゼータ電位は、37℃で15時間のイン・ビボシミュレーション条件への曝露後に有意な変化をもたなかった。例えば、DMTAP、DOPE、コレステロールおよびmPEG−DSからなる非対称脂質粒子(表1A)は、形成後に8.30mVのゼータ電位を有した。粒子のゼータ電位が37℃のインキュベーションにおいてほとんど変化しなかったことは、25℃で24時間または37℃で3.5時間の最初のインキュベーションが外側の脂質被膜から陽イオン脂質を除去するのに十分であったことを示唆する。
【0065】
非対称脂質粒子のイン・ビトロで細胞をトランスフェクションする能力が評価された。上記脂質粒子組成物が、実施例2に記述される操作にしたがってイン・ビトロで細胞と接触された。細胞のルシフェラーゼ発現は、トランスフェクションの指示のように決定された。表3Aおよび3Bは、実施例1に記述されたように製造された非対称粒子によりトランスフェクションされた細胞のルシフェラーゼ発現を示す。
【0066】
【表5】

【0067】
【表6】

【0068】
表3Aおよび3Bは、非対称脂質粒子が、陽イオン表面電荷を担持する対照粒子に比較して低下したトランスフェクション能を有することを示している。より低いトランスフェクション率は、非対称脂質粒子上の低下した表面電荷のさらなる証拠を提供する。
【0069】
総括すれば、表1A−1B、2A−2Bおよび3A−3Bにおけるデータは、本発明の第1の態様を具体的に説明しており、ここでは、脂質粒子組成物が荷電した脂質から製造され、そして本粒子がインキュベートされて、インキュベーション前の表面電荷に比べて表面電荷を低下する。粒子は、荷電した脂質の実質的な部分が外側の脂質被膜から除去される条件下で形成される。粒子は同じ脂質組成物の粒子に比べて低下した電荷を有するが、外側の脂質被膜からの荷電した脂質の全部もしくは一部の除去については未処置であった。
【0070】
その他の態様では、本発明は、形成後に低いまたは最小の表面電荷を有するが、イン・ビボ条件への曝露後に外部表面電荷を取り戻すかまたは生成することができる非対称脂質粒子を提供する。この態様は図2Bにおける粒子110に関して先に簡単に議論された。イン・ビボでの脂質粒子の分布後に、表面電荷の存在は有利になり得る。例えば、分配され、腫瘍に入った後で、細胞膜と脂質粒子の結合を惹起する表面電荷の存在は望ましいであろう。前記のように製造された、非対称脂質粒子形成後、被膜の外側の脂質リーフレットが無電荷であり、かつ内側の脂質構造物が荷電された非対称脂質被膜を有する脂質粒子は、粒子形成後に陽イオン脂質の位置を変えること(translocation)が可能である。より高い濃度の荷電した脂質が粒子の外部表面よりも粒子の内部に存在する脂質粒子中の荷電した脂質の濃度勾配により、荷電した脂質の徐々の移動が体温において起きる。内側の脂質構造物から外側の脂質リーフレットへの荷電した脂質の徐々の移動または位置を変えることが、ここで記述される種々の研究において例証された。
【0071】
本発明のこの態様では、脂質粒子が荷電した脂質から製造されるが、粒子が最初の温度、典型的には脂質被膜の相転移温度以下の温度では評価できる表面電荷を有しない脂質粒子組成物が提供される。しかし、脂質被膜の相転移より高い温度への曝露後には、粒子は
測定可能な表面電荷を有する。内側の脂質構造物から外側の脂質リーフレットへの荷電した脂質の転座は、図2Bに関して先に議論され、図2Bの粒子100,110によって図解されている。表2A、2Bにおける研究のために製造された粒子に関しては、脂質組成物は、約20〜24℃のゲル−液晶相転移(Tc)を有する50モル%DMTAPからなった(Zelphati et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,93:11493(1996))。かくして、DMTAPは流動液体として特性決定され、そしてコレステロールの添加は脂質組成物を一層硬くさせる。約11℃以上の温度におけるDOPEは六方晶相(hexagonal phase)において存在する。37℃での粒子のインキュベーションは、その相転移以上におけるDMTAP/DOPE/コレステロール/mPEG−DS組成物をもたらすことが期待され、ここでは液体は流体である。1つの脂質リーフレットからその他への脂質の転座は、脂質がそれらの相転移以上のこの流動状態にある場合に容易に起きる。かくして、形成後に評価できる電荷を有しない非対称粒子は、例えば、ゼータ電位測定によって証明されるように、脂質被膜における脂質がそれらの相転移以上の温度にもたらされた場合に荷電されるようになる。
【0072】
内側の脂質リーフレットから外側の脂質リーフレットへの陽イオン脂質の転座は、図4A−4Bにおいて図で表示されている。脂質粒子は、DMTAP/DOPE/コレステロール/mPEG−DS(50:24:24:2)の脂質被膜を有するように、実施例3記述のように製造され、そしてDOPE/コレステロール/mPEG−DSの脂質組成物を有する中性の脂質小胞を含んでなる媒質において0〜4℃で24時間のインキュベーションによって非対称にされた。次いで、非対称脂質粒子は37℃において90時間まで保持され、そして選ばれた時点で、サンプルがゼータ電位測定のために採取された。非対称脂質粒子が37℃でインキュベートされる媒質は水単独か、またはPOPC//コレステロール/mPEG−DS(58:40:2)から作成される中性脂質小胞の懸濁液であった。インキュベーション時間(時間)の関数としてのゼータ電位測定値は図4Aに示される。中性脂質小胞を含有する媒質中でインキュベートされた非対称脂質粒子(△)は、約11mVの初発ゼータ電位を有した。37℃で20時間のインキュベーション後、ゼータ電位は約16mVに増加した。インキュベーション42時間では、ゼータ電位は18mVまで増加したが、さらなる増加は観察されなかった。また、バッファーのみにおいてインキュベートされた非対称脂質粒子(◇)は、インキュベーション期間にわたってゼータ電位における増加を示し、このことは、内側から外側の脂質リーフレットへの陽イオンの転座または「フリップ・フロップ」を示している。
【0073】
図4Bは、やや異なる脂質組成物;DMTAP/DOPE/コレステロール/mPEG−DS(50:25.5:22.5:2)の非対称脂質粒子に関する類似のグラフである。ここでは、中性脂質小胞の存在下でインキュベートされた非対称脂質粒子(□)は、75時間のインキュベーション期間にわたってゼータ電位において増加した。同様の結果がバッファーのみにおいてインキュベートされた非対称脂質粒子(◇)について観察された。
【0074】
非対称脂質粒子の安定性がその他の研究において解析された。実施例1記述のように製造された脂質粒子が製造され、4℃で2カ月間保存された。2カ月の保存後、粒子は中性脂質小胞を含む媒質と含まない37℃の媒質中で約100時間保持された。非対称脂質粒子のゼータ電位が100時間のインキュベーション時間にわたって評価されて、内側から外側の脂質リーフレットへの陽イオン脂質の転座をモニターした。結果は図5に示される。
【0075】
非対称脂質粒子のゼータ電位は、バッファーのみ(◇)または中性脂質小胞を含有するバッファー(□)においてインキュベートされた場合、インキュベーション時間にわたって増加した。ゼータ電位の増加は、内側のリーフレットから外側のリーフレットへの陽イオン脂質の移動を表し、このことは、非対称脂質被膜が2カ月の保存期間の間安定であったことを示している。
【0076】
イン・ビトロのトランスフェクション研究は、4℃で2カ月間保存された非対称脂質粒子を用いて実施された。DMTAP/DOPE/コレステロール/mPEG−DS(50:24:24:2)からなる非対称脂質粒子組成物は実施例1記述のように製造された。非対称脂質粒子は次に4℃で2カ月間保存された。対照組成物は同じ脂質からなって製造されたが、非対称脂質二重層を生成するために設定されたインキュベーションにはかけられなかった。対照組成物もまた4℃で2カ月間保存された。保存後、2種の調合物は37℃でインキュベートされた。0時間、48時間および60時間の37℃インキュベーション後の調合物のサンプルは、イン・ビトロで細胞と接触され、そしてルシフェラーゼ発現が測定された。結果は図6に示される。
【0077】
図6において、調合物番号1,2および3は、非対称脂質被膜を欠く対照粒子に対応する。調合物番号4,5および6は、非対称脂質粒子に対応する。調合物1および4は、37℃におけるインキュベーション前(37℃で0時間インキュベーション)のルシフェラーゼ発現を示す。非対称脂質粒子は、外側の粒子表面における陽イオン電荷の不在によって、比較的低いルシフェラーゼ発現、したがって比較的低いトランスフェクション能を有する。調合物2および5は、37℃で48時間インキュベーション後の対照調合物および非対称脂質粒子調合物に対応する。調合物5のルシフェラーゼ発現は、イン・ビボ条件をシミュレーションする48時間のインキュベーション期間における内側のリーフレットから外側のリーフレットへの陽イオン脂質の転座により、調合物4に比べて増加した。調合物3および6は、37℃で60時間インキュベーション後の対照調合物および非対称脂質粒子調合物に対応する。調合物6のルシフェラーゼ発現は、60時間のインキュベーション期間における内側のリーフレットから外側のリーフレットへの陽イオン脂質のさらなる転座により、調合物4および5に比べて増加した。対照調合物2および3のルシフェラーゼ発現は、37℃におけるインキュベーションの結果として減少した。
【0078】
図6において提示されたデータは、非対称脂質粒子組成物が粒子表面上の電荷のために、最初には低いトランスフェクション率を有することを示している。脂質組成物の相転移温度に近い温度、その温度またはそれ以上の温度への粒子の曝露は、内側の脂質リーフレットから外側の脂質リーフレットへ荷電した脂質を転座または「フリップ・フロップ」させて非対称脂質粒子上の表面電荷を生成させる。電荷は粒子と細胞との間の結合を増進するので、電荷の存在はトランスフェクションを改善する。
【0079】
III.実施例
次の実施例は本明細書に記述される本発明をさらに具体的に説明するものであって、如何なる点においても本発明の範囲を限定することを意図しない。
【0080】
方法
ゼータ電位の測定: 陽イオンリポソームおよび脂質−DNA粒子のゼータ電位値は、Zetasizer2000(Malvern Ins.)によって測定された。具体的には、リポソーム50μlが、5mMNaCl(Milli−Q水によるUSP生理食塩水の30倍希釈液から作成される)を含有する5ml水溶液に添加され、そして装置販売者によって与えられる操作にしたがってサンプルチャンバー中に注入された。3個の測定値が各サンプルについて25℃で作成された。
【0081】
動的光散乱: 決定された脂質粒子サイズは、製造者の指示にしたがって操作されるCoulter N4MD装置を用いる動的光散乱(DLS)によって得られた。結果は、平均直径(nm)および相対容量による粒子のGaussian分布の標準偏差として表現された。
【実施例1】
【0082】
非対称脂質粒子の製造
陽イオンリポソーム(小さい単ラメラ小胞)は、DMTAP/DOPE/CHOL/PEG−DS(50/24/24/2モル/モル)の脂質組成物から製造された。個々の脂質保存液は、クロロホルム/メタノール(90:10v/v)中で、DMTAP(Avanti Polar Lipids,890860)について10mg/ml、DOPE(Avanti Polar Lipids,850725)について20mg/ml、コレステロールについて20mg/ml,およびmPEG−DS(メトキシ−ポリエチレングリコール−ジステアロイル、mPEG分子量2000ダルトン、Shearwater Polymers Inc)について10mg/mlにおいて作成された。20mM脂質濃度における2mlの最終脂質懸濁液のために、適当な脂質量を含有する溶媒溶液の一定分量が、ポジティブ・ディスプレースメント・ピペットを用いて採取され、10ml容丸底フラスコ中で混合された。溶媒が約45℃でロータリーエバポレーターによって徐々に除去されてフラスコの周囲に薄膜を形成した。残留溶媒は一夜真空除去された。次いで、脂質は撹拌しつつ50℃で0.5〜1時間、脱イオン水2mlを添加して水和された。次いで、脂質懸濁液は、50℃で10回通過のために二重のポリカーボネートフィルター(0.1μm以上0.8μm)を備えたLipex(R)押し出し機(10ml容量、Noryhern Lipids,Inc.)を通す押し出しにかけられた。最終リポソーム直径はCoulter submicron particle sizer(model N4MD)により測定され117±30nmであった。押し出し後、2mlの脱イオン水が押し出し機中に添加され、残っているリポソームを洗い出すためにフィルターを通して押された。この洗浄液を最終容量4mlまでリポソームと混合された。最終脂質濃度は約10mMであった。
【0083】
A.インキュベーションのための中性リポソームの製造
POPC/DOPE/CHOL/PEG−DS(58/40/2モル/モル)の組成をもつ中性リポソームは、先の1において示された操作と同様に製造された。溶媒保存溶液は40mg/mlのPOPC(Avanti Polar Lipids,850457)において作成された。最終脂質濃度は47.1mMであり、粒子の平均直径は108±40nmであった。
【0084】
B.脂質−プラスミドDNA複合体の製造
水中1mg/ml濃度におけるDNAプラスミド(pCC−ルシフェラーゼ)が、氷−水容器中に設置された陽イオンリポソーム懸濁液(実施例1において製造されたような、中性脂質/DOPE/コレステロール/mPEG−DS,50/24/24/2モル/モルの10mM)中に徐々に注入された。DNAの注入は、一定の撹拌をしながら速度10μl/分に設定された注入ポンプを用いて実施された。複合体の最終容量はDNA濃度0.5mg/mlおよび脂質濃度5mM、すなわちDNA/脂質比20ナノモル脂質当たり1μgを有する1.6mlであった。
【0085】
C.非対称の脂質−DNA粒子の製造
非対称の脂質−DNA複合体は、脂質−DNA複合粒子を先の2.における記述のように製造された10倍過剰量の中性リポソーム(「シンク(sink、たまり場)リポソーム」)と混合することによって製造された。具体的には、6.4μモルの脂質を含有する先の3.におけるように製造された脂質−DNA複合体の1.28mlが徐々に、64μモルの脂質を含有する2mlの中性のインキュベーションリポソーム(POPC/CHOL/mPEG−DS,58/40/2モル/モル)と徐々に混合された。混合液は、図4−6に示されるような種々の条件下のインキュベーション前に氷−水浴に設置された。 インキュベーションの終了後、次に、シンク・リポソームはスクロース密度勾配遠心分離法によって分離された。具体的には、スクロースの段階−勾配が透明な超遠心チューブ(
4.0ml、11x60mm,Beckman cat344062,SW60Tiローター用)に負荷された。勾配は25,20,15,10および5wt%スクロース(底部〜上部)であった。負荷されるサンプル量は典型的には0.8〜1mlであった。遠心分離は典型的には20℃において40,000rpm、3時間で実施された。脂質−DNA複合体は典型的には10−15%の界面に弱いバンドで局在された。シンク・リポソームは通常10%スクロース領域以上に保持された。DNA複合体バンドは、次に、ピペットを用いて注意深く除去された。大容量の非対称脂質−DNA粒子の製造では、40ml遠心分離チューブがローターSW28(Beckman)とともに使用された。チューブ上に負荷されるサンプル容量は4mlであった。遠心分離は典型的には20℃において40,000rpm、15〜20時間かかった。
【0086】
非対称脂質−DNA粒子中の最終DNA濃度はPicoGreen(R)dsDNA定量試薬(Molecular Probes,P−7581)を用いる蛍光アッセイによって決定された。標準曲線は、pH7.0における10mMTrisHClおよび1mMEDTA中DNA2000ng/mlまでの一連のプラスミドDNA溶液から生成された。直線範囲は1000ng/mlまでに見い出された。
【実施例2】
【0087】
イン・ビトロのトランスフェクション
実施例1における記述のように製造された非対称の脂質−DNA粒子および種々の対照がイン・ビトロで比較された。BHK細胞が1.13x104細胞/ウェルにおいて6−ウェルプレートに接種され、そして完全MEM培地を用いて37℃、5%COで48時間培養された。トランスフェクション前に、細胞は1.0mlの血清不含のMEM培地により2回洗浄された。トランスフェクションサンプルの一定分量がプラスミドDNAの所望濃度(典型的にはpCC−Luc60〜200μg/ml)を達成するために血清不含MEM培地と混合された。トランスフェクションのためには、1mlが洗浄細胞上に重層され、続いて37℃で5時間インキュベートされた。インキュベーション後、サンプルを含有する培地が吸引され、完全MEM培地1.0mlと置換され、そしてインキュベーションが同じ条件下でさらに16.5時間継続された。
【0088】
ルシフェラーゼ活性はPromega Luciferase Assay System(cat# E1500)を用いてアッセイされた。細胞はリン酸バッファー生理食塩水(PBS)で2回洗浄され、次いで、Cell Culture Lysis 1XReagentlysisの250μlが添加された。溶解細胞は、室温で2回の8分インキュベーション(プレートを渦巻きしつつ)後、ミクロ遠心チューブに移された。次いで、チューブは10分間14Kで回転された。ルシフェラーゼ活性は、ルミノメーターによってサンプル20μlを用いて直ちにアッセイされた(ルシフェリンおよびATP含有アッセイバッファー100μl、10秒測定)。相対光単位(light unit)が抽出物におけるタンパク質量によって標準化された。タンパク質含量はBioRadタンパク質試薬を用いてアッセイされた。溶解細胞10μlが96穴平底プレート上に移され、試薬200μlを添加した。595nmの吸光度がMolecular Devicesプレートリーダーを用いて測定された。
【実施例3】
【0089】
非対称脂質粒子の製造
中性SUV(実施例1の段階4参照)が氷浴により0〜4℃に維持されたことを除いて、脂質粒子は実施例1記述のように形成された。
【0090】
本発明は特定の実施態様に関して記述されたが、種々の変化および修飾が本発明を逸脱することなく作成できることは、当業者にとって明白である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】図1A−1Eは、本明細書で記述される脂質粒子を図によって説明している;
【図2】図2Aは、脂質粒子の形成のための段階を図示するフローチャートである; 図2Bは、各形成段階における代表的脂質−DNA粒子の図による説明である;
【図3】図3は、陽イオンリポソームのための陽イオン脂質濃度(DOTPA、モル%)の関数としてのゼータ電位(mV)のグラフである;
【図4】図4Aは、バッファー(◇)および中性脂質小胞を含有するバッファー(△)中37℃における、インキュベーション時間(時間)の関数としてのDMTAP/DOPE/コレステロール/mPEG−DS(50:24:2)からなる非対称脂質粒子のゼータ電位(mV)のグラフである; 図4Bは、バッファー(◇)および中性脂質小胞を含有するバッファー(□)中37℃における、インキュベーション時間(時間)の関数としてのDMTAP/DOPE/コレステロール/mPEG−DS(50:25.5:22.5:2)からなる非対称脂質粒子のゼータ電位(mV)のグラフである;
【図5】図5は、バッファー(◇)および中性脂質小胞を含有するバッファー(□)中37℃において、インキュベーション時間(時間)の関数としての、DMTAP/DOPE/コレステロール/mPEG−DS(50:25.5:22.5:2)からなり、かつ2カ月間4℃で保存された非対称脂質粒子のゼータ電位(mV)のグラフである;
【図6】図6は、DMTAP/DOPE/コレステロール/mPEG−DS(50:25.5:22.5:2)からなる6種の脂質粒子調合物であって、調合物1−3は非対称の二重層をもたない対照粒子であり、そして調合物4−6は非対称の外側二重層を有する脂質粒子であり、かつ全調合物が0時間(調合物1,3)、48時間(調合物2,5)および60時間(調合物3,6)のトランスフェクション前に37℃でインキュベーションされた調合物に関する、細胞におけるルシフェラーゼ発現(pg/mgタンパク質)を示すグラフである。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)荷電した脂質を含有する脂質組成物および(ii)治療剤からなる脂質粒子であって、該粒子が各々、外部の脂質リーフレットおよび内部の脂質構造物を有する外側の脂質被膜を有する粒子を製造すること;および
外部脂質リーフレットから該荷電した脂質を除去するのに効果的な条件下で該粒子をインキュベートすること:
を含んでなる、外部の脂質被膜を有する脂質粒子の製造方法。
【請求項2】
該製造が、少なくとも1種の陽イオン脂質を含有する脂質組成物からなる脂質粒子を製造することを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該製造が、(i)該脂質組成物からなる脂質小胞を形成することおよび(ii)該脂質小胞を該治療剤と複合させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
該インキュベーションが、無荷電の脂質小胞を含有する媒質において該脂質粒子をインキュベートすることを含む、請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
該インキュベーションが、脂質−ポリマー−リガンド複合体を媒質に添加することをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
該インキュベーションが、親水性ポリマーを用いて誘導体化される脂質を媒質に添加することをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
該添加が、ポリエチレングリコールで誘導体化されたリン脂質を添加することを含んでなる、請求項6の方法。
【請求項8】
該脂質粒子がリポソームであるいずれかの先行する請求項に記載の方法。
【請求項9】
該インキュベーションが約15℃未満の温度において実施される、請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
該インキュベーションが約5時間を超える時間実施される、請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
該製造が、荷電した薬物、タンパク質、ペプチドおよび核酸からなる群から選ばれる内包された治療剤を有する脂質粒子の製造を含んでなる、請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
外側の脂質リーフレットおよび内部の脂質構造物からなる脂質被膜を有し、該脂質被膜が、(i)荷電した脂質を含有し、そして(ii)ゲル−結晶相転移温度を有する脂質組成物から形成され、該脂質粒子が、該相転移温度より低い温度では評価できる電荷をもたないが、該相転移温度以上の温度でのインキュベーション後には測定できる電荷を有する、脂質粒子を含んでなる組成物。
【請求項13】
該脂質組成物が陽イオン脂質を含有する、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
該脂質粒子が電荷を有する治療剤をさらに含む、請求項12に記載の組成物。
【請求項15】
該治療剤が核酸である、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
該脂質組成物が約34〜38℃の間の相転移を有する、請求項12〜15のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項17】
該脂質粒子がリポソームである、請求項12〜16のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項18】
(i)荷電した脂質を含有する脂質組成物および(ii)治療剤からなり、該粒子が各々、外部の脂質リーフレットおよび内部の脂質構造物を有する外側の脂質被膜を有する粒子を製造すること;および
外部脂質リーフレットから荷電した脂質を除去するのに効果的な条件下で該粒子をインキュベートすること:
を含んでなる、イン・ビボ投与前にその外側の脂質被膜において非対称の荷電した脂質組成物を有する脂質粒子の製造方法。
【請求項19】
該インキュベーションが約15℃未満の温度におけるインキュベーションを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
該インキュベーションが約5時間を超える時間のインキュベーションを含む、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
該インキュベーションが中性脂質小胞からなる媒質におけるインキュベーションを含む、請求項18〜20のいずれか1つに記載の方法。

【図3】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−524604(P2007−524604A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−509503(P2006−509503)
【出願日】平成16年3月30日(2004.3.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/009809
【国際公開番号】WO2004/089339
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(504460980)アルザ・コーポレーシヨン (2)
【出願人】(306037702)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100060782
【弁理士】
【氏名又は名称】小田島 平吉
【Fターム(参考)】