説明

非対称アリルエーテル化合物の製造方法

【課題】ハロゲンや強酸等を使用せず、幅広いアルコールに適用可能であり、かつ高選択率で非対称アリルエーテル化合物が得られる製造方法の提供。
【解決手段】パラジウム化合物および特定のトリアリールホスファイト存在下に、RCH=CH−CHOHで示されるアリルアルコールを、ROHで示されるアルコールと反応させる一般式[3]


(式中、Rは水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のアルキニル基または炭素数4〜10のアルカジエニル基を表し、Rは、それぞれ任意の場所に水酸基を1つ以上有していてもよい、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、または炭素数2〜10のアルキニル基を表す。)で示される非対称アリルエーテル化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラジウム化合物と特定のトリアリールホスファイトの存在下に、非対称アリルエーテル化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アリルエーテル化合物は、反応希釈剤、不飽和モノマー、エポキシ樹脂、天然物などの合成中間体として有用である。
【0003】
従来、アリルエーテル化合物の製造方法としては、アリルハライドと金属アルコキシドを利用するウィリアムソン合成法が広く知られている。しかしながら、この方法では、反応後に生成する塩の処理やハロゲンによる装置の腐食などの問題を抱えている。
【0004】
アリルエーテル化合物の他の製造方法として、酸触媒の存在下、ジエン化合物にアルコールを付加させる方法(非特許文献1参照)、塩化亜鉛を用いる方法(非特許文献2参照)、高温高圧水を反応溶媒として用い無触媒でアリルアルコールをエーテル化する方法(特許文献1参照)などが知られているが、これらの方法では強酸を必要としたり特殊な装置を必要としたりするため、簡便な合成法とは言えない。また、特許文献1にはジアリルエーテル化合物の合成については記載されているが、非対称アリルエーテル化合物の合成例は記載されていない。
【0005】
上記の方法に対し、ハロゲンや強酸を使用しない合成法として、パラジウム化合物および種々の有機リン化合物存在下に、アリル化合物とアルコールからアリルエーテル化合物を合成する手法が報告されている(特許文献2〜5および非特許文献3参照)。
【0006】
特許文献2〜4には、パラジウム化合物および有機リン化合物として単座トリアルキルホスファイト化合物や多座ホスファイト化合物の存在下にアリルエーテル化合物を製造する方法が開示されている。また、特許文献5および非特許文献3には、パラジウム化合物、および有機リン化合物としてジホスフィン化合物やトリフェニルホスファイトの存在下に、アリルアルコールとアルコールを反応させて非対称アリルエーテル化合物を製造する方法が開示されている。
しかしながら、これらの有機リン化合物を用いて、本発明者らが追試を行ったところ、十分な活性が得られないことや、一部のアルコールにおいて反応の選択率が大きく低下し、例えば第一級アルコールに比べ、ジオールでは高い選択率は得られないことが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−281256号公報
【特許文献2】特開2004−107337号公報
【特許文献3】特開2004−107339号公報
【特許文献4】特開2004−107340号公報
【特許文献5】特開平5−306246号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー(J.Org.Chem.),Vol.47,No.1,p47−52(1982).
【非特許文献2】ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー(J.Org.Chem.),Vol.52,No.17,p3917−3919(1987).
【非特許文献3】ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー(J.Org.Chem.),Vol.69,No.7,p2595−2597(2004).
【非特許文献4】ケミカル レビュー(Chem.Rev.),Vol.77,p313−348(1977).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかして、本発明の目的は、ハロゲンや強酸等を使用せず、幅広いアルコールに適用可能であり、かつ高選択率で、工業的に有利に非対称アリルエーテル化合物が得られる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、上記の目的は、パラジウム化合物、およびC.A.Tolmanにより定義されたエレクトロニックパラメーター(Electronic Parameter;ν−values)が2080〜2090cm−1でありかつステリックパラメーター(Steric Parameter;θ−values)が135〜190°であるトリアリールホスファイトの存在下に、下記一般式[1]
【化1】

【0011】
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のアルキニル基または炭素数4〜10のアルカジエニル基を表す。)
で示されるアリルアルコール(以下、アリルアルコール(1)と略称する。)を、下記一般式[2]
【化2】

【0012】
(式中、Rは任意の場所に水酸基を1つ以上有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、任意の場所に水酸基を1つ以上有していてもよい炭素数1〜10のアルケニル基または任意の場所に水酸基を1つ以上有していてもよい炭素数2〜10のアルキニル基を表す。)
で示されるアルコール(以下、アルコール(2)と略称する。)と反応させることを特徴とする、下記一般式[3]
【化3】

【0013】
(式中、RおよびRは前記定義のとおりである。)
で示される非対称アリルエーテル化合物(以下、非対称アリルエーテル(3)と略称する。)の製造方法を提供することにより達成される。
かかる製造方法において、上記トリアリールホスファイトとして、トリス(2−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジメチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−t−ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイトからなる群より選ばれる1種かまたはこれらの混合物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ハロゲンや強酸等を使用せず、アリルアルコール(1)およびアルコール(2)から高選択率で、工業的に有利に非対称アリルエーテル(3)を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の方法に用いるパラジウム化合物としては、例えばギ酸パラジウム、酢酸パラジウム、炭酸パラジウム、パラジウムアセチルアセトナート、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム、ビス(1,5−シクロオクタジエン)パラジウムなどが挙げられる。これらの中でも、入手の容易性および経済性を考慮すると、酢酸パラジウム、パラジウムアセチルアセトナートが好ましい。
【0016】
本発明の方法において、パラジウム化合物の使用量は、パラジウム原子換算で0.5〜100ミリグラム原子/Lが好ましく、より好ましくは0.5〜20ミリグラム原子/L、さらに好ましくは0.7〜10ミリグラム原子/Lである。100ミリグラム原子/Lよりも多い場合はコスト的に不利となる傾向にあり、一方、0.5ミリグラム原子/Lよりも少ない場合、十分な反応速度が得られない傾向となる。
【0017】
本発明の方法で用いるトリアリールホスファイトは、エレクトロニックパラメーター(Electronic Parameter;ν−values)が2080〜2090cm−1かつステリックパラメーター(Steric Parameter;θ−values)が135〜190°であることが必要であり、これらパラメーターのいずれか一方がこの範囲外にあるものでは、非対称アリルエーテル(3)の選択率が低下する。
【0018】
ここで、ν−valuesおよびθ−valuesとは、C.A.Tolmanにより定義された値(非特許文献4参照)であって、ν−valuesは、ジクロロメタン中で測定されたNi(CO)L(Lはリン配位子)のCOのA1赤外吸収スペクトルの振動数で定義され、θ−valuesは、リン原子の中心から2.28Åの位置でリンに結合している基の最も外側にある原子のファンデルワールス(van der Waals)半径を囲むように描いた円錐の角度で定義されるものである。
【0019】
次に掲げる表1は、数種の代表的なホスファイトのν−values(cm−1)とθ−values(deg)を示したものである。
【0020】
【表1】

【0021】
本発明の方法に用いるトリアリールホスファイトとしては、トリス(2−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジメチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−イソプロピルフェニル)ホスファイト、トリス(2−フェニルフェニル)ホスファイト、トリス(2−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−メチル−4−クロロフェニル)ホスファイト、ジ(2−メチルフェニル)(2−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ジ(2−t−ブチルフェニル)(2−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−t−ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイトが挙げられる。トリアリールホスファイトは、1種を単独で使用しても良いし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、入手容易性、および得られる非対称アリルエーテル(3)の高い選択性の観点から、トリス(2−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジメチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−t−ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイトが好ましい。
【0022】
本発明の方法において、上記した特定のトリアリールホスファイトの使用量は、通常、パラジウム1グラム原子に対して2倍モル以上500倍モル以下が好ましく、より好ましくは3倍モル以上100倍モル以下、さらに好ましくは5倍モル以上50倍モル以下である。500倍モルよりも多い場合、コスト的に不利となる傾向となり、一方、2倍モルよりも少ない場合、非対称アリルエーテル(3)の選択率が低下する傾向となる。
【0023】
本発明に用いるアリルアルコール(1)の例としては、アリルアルコール、2−ブテン−1−オール、2−ペンテン−1−オール、2−ヘキセン−1−オール、2−オクテン−1−オール、2,4−ペンタジエン−1−オール、2−ペンテン−4−イン−1−オール、2,5−ヘキサジエン−1−オール、2,6−ヘプタジエン−1−オール、2,7−オクタジエン−1−オール、2,4,6−オクタトリエン−1−オール、2,8−ノナジエン−1−オール、2,9−デカジエン−1−オールなどが挙げられる。これらの中でも、非対称アリルエーテル(3)の選択性の観点から、アリルアルコール、2,4−ペンタジエン−1−オール、2,5−ヘキサジエン−1−オール、2,6−ヘプタジエン−1−オール、2,7−オクタジエン−1−オール、2,8−ノナジエン−1−オール、2,9−デカジエン−1−オールが好ましい。本発明の方法においては、これらアリルアルコール(1)に、本発明の効果を阻害しない範囲でジエンや環状化合物などの他の化合物が少量含まれていてもよい。
【0024】
本発明に用いるアルコール(2)の例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブチルアルコール、3−ブテン−1−オール、3−ブチン−1−オール、1−ペンタノール、2−メチルペンタン−1−オール、3−メチルペンタン−1−オール、2−ペンタノール、4−ペンテン−1−オール、2−ペンチン−1−オール、1−ヘキサノール、2−メチルヘキサン−1−オール、2−エチルヘキサン−1−オール、3−メチルヘキサン−1−オール、2−ヘキサノール、5−ヘキセン−1−オール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、7−オクテン−1−オール、3−オクチン−1−オール、1−ノナノール、1−デカノールなどの1価のアルコール;エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,3−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、1,4−ブチンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−ヘキセン−1,6−ジオール、3−ヘキシン−2,5−ジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、7−オクテン−1,5−ジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールなどのジオール;グリセリン、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、5−ヘキセン−1,2,3−トリオール、5−ヘキシン−1,2,3−トリオール、1,2,3−オクタントリオールなどのトリオール;エリトリトール、1,2,5,6−ヘキサンテトラオール、3−ヘキシン−1,2,5,6−テトラオール、6−ヘプテン−1,2,3,4−テトラオール、1,3,5,7−オクタンテトラオール、1,3,5,7−デカンテトラオールなどのテトラオール;が挙げられる。
これらの中でも、非対称アリルエーテル(3)の選択性の観点から、ジオールであるエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,3−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールが好ましい。
【0025】
アルコール(2)の使用量は、通常、アリルアルコール(1)に対して1倍モル以上10倍モル以下が好ましく、より好ましくは1倍モル以上5倍モル以下である。10倍モル以上の場合、反応後に残存するアルコール(2)が多い傾向となり、該アルコール(2)を回収し再使用するなどの工程を追加する必要がある。一方、1倍モル以下では、アリルアルコール(1)の二量体であるジアリルエーテルの生成量が増加し、目的の非対称アリルエーテル(3)の選択率が低下する傾向となる。
【0026】
本発明の方法における反応温度は20〜150℃が好ましく、より好ましくは70〜100℃である。150℃よりも温度が高い場合は、非対称アリルエーテル(3)の選択率が低下する傾向となる。一方、20℃よりも温度が低い場合は、反応速度が低下する傾向となる。また、反応圧力は大気圧〜3MPaであることが好ましい。反応時間は、パラジウム化合物、トリアリールホスファイト、アリルアルコール(1)およびアルコール(2)の使用量、反応温度、反応圧力などにより異なるが、30分〜30時間が好ましく、さらに好ましくは3時間〜24時間である。反応は、窒素などの不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
【0027】
本発明の方法では、パラジウム化合物とトリアリールホスファイトの事前調製は特に必要なく、それぞれ反応系に添加すればよい。
【0028】
本発明の方法は、溶媒の存在下または不存在下に実施できる。溶媒としては、反応に悪影響を及ぼさない限り特に制限は無く、例えばトルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素;ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;ジブチルエーテル、ジグライム、トリグライムなどのエーテル;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステルなどが挙げられる。容積効率の観点から、溶媒を使用しないでアリルアルコール(1)とアルコール(2)を反応させるのが好ましい。
【0029】
こうして得られた反応混合物からの非対称アリルエーテル(3)の分離・精製は、有機化合物の分離・精製において一般的に用いられる方法により行なうことができる。例えば、反応後にヘキサン、トルエンなどの有機溶媒を添加して、有機層と水を分離し、有機層を濃縮後、さらに蒸留する。
【実施例】
【0030】
以下、実施例等により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されない。なお、各実施例および比較例において、反応混合物のガスクロマトグラフィー分析は下記の条件で行なった。
分析機器:GC−14B(株式会社島津製作所製)
検出機器:FID(水素炎イオン化型検出器)
使用カラム:DB−WAX J&W Scientific
(Length 30m、I.D.0.25mm、
Film thickness 0.25μm)
(Agilent Technologies社製)
分析条件:Injection Temp.250℃
Detection Temp.250℃
昇温条件:100℃(2分保持)→10℃/分で昇温→250℃保持
【0031】
〈実施例1〉
温度計、ジムロート、メカニカルスターラーを備えた内容積500mlの三口フラスコに、3−メチル−1,5−ペンタンジオール(以下、MPDと略称する)225.00g(1.90mol)、2,7−オクタジエン−1−オール(以下、ODAと略称する)60.00g(0.48mol)、酢酸パラジウム0.11g(0.49mmol)、およびトリス(2−t−ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイト1.76g(3.38mmol;株式会社ADEKA製)を入れ、80℃で14時間攪拌した。得られた反応混合物を20℃まで冷却した後、ガスクロマトグラフィーで分析した結果、ODAの転化率は99%、3−メチル−5−(2,7−オクタジエニルオキシ)−ペンタン−1−オールの選択率は90%(ODA基準)であった。反応混合物にトルエン100mlを添加して有機層と水層を分離し、有機層を濃縮することにより粗3−メチル−5−(2,7−オクタジエニルオキシ)−ペンタン−1−オールを得た。
【0032】
〈実施例2〉
実施例1において、酢酸パラジウムを1.09g(4.86mmol)、およびトリス(2−t−ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイトを12.6g(24.2mmol)に変更したこと、反応温度を室温にしたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。ODAの転化率は67%、3−メチル−5−(2,7−オクタジエニルオキシ)−ペンタン−1−オールの選択率は97%(ODA基準)であった。
【0033】
〈実施例3〉
実施例1において、トリス(2−t−ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイト1.76gを用いる代わりに、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト2.19g(3.38mmol;株式会社ADEKA製)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。ODAの転化率は95%、3−メチル−5−(2,7−オクタジエニルオキシ)−ペンタン−1−オールの選択率は86%(ODA基準)であった。
【0034】
〈実施例4〉
実施例1において、トリス(2−t−ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイト1.76gを用いる代わりに、トリス(2−メチルフェニル)ホスファイト1.19g(3.38mmol;株式会社ADEKA製)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。ODAの転化率は91%、3−メチル−5−(2,7−オクタジエニルオキシ)−ペンタン−1−オールの選択率は82%(ODA基準)であった。
【0035】
〈実施例5〉
温度計、ジムロートを備えた内容積100mlの三口フラスコに、1−ブタノール14.1g(190.8mmol)、ODA6.1g(48.0mmol)、酢酸パラジウム11.0mg(0.05mmol)、およびトリス(2−t−ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイト183.0mg(0.35mmol)を入れ、100℃で14時間攪拌した。得られた反応混合物を20℃まで冷却した後、ガスクロマトグラフィーで分析した結果、ODAの転化率は96%、2,7−オクタジエニルブチルエーテルの選択率は79%(ODA基準)であった。反応混合物にトルエン100mlを添加して有機層と水層を分離し、有機層を濃縮することにより粗2,7−オクタジエニルブチルエーテルを得た。
【0036】
〈実施例6〉
実施例1において、ODA60.00gを用いる代わりに、アリルアルコール27.6g(0.48mol)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られた反応混合物を20℃まで冷却した後、ガスクロマトグラフィーで分析した結果、アリルアルコールの転化率は72%、5−アリルオキシ−3−メチルペンタン−1−オールの選択率は76%(アリルアルコール基準)であった。反応混合物にトルエン100mlを添加して有機層と水層を分離し、有機層を濃縮することにより5−アリルオキシ−3−メチルペンタン−1−オールを得た。
【0037】
〈比較例1〉
実施例1において、トリス(2−t−ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイト1.97gを用いる代わりに、トリブチルホスファイト0.85g(3.38mmol;和光純薬工業株式会社製)を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。ODAの転化率は0%であり、3−メチル−5−(2,7−オクタジエニルオキシ)−ペンタン−1−オールは得られなかった。
【0038】
〈比較例2〉
実施例1において、トリス(2−t−ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイト1.97gを用いる代わりに、トリオクチルホスフィン1.25g(3.38mmol;和光純薬工業株式会社製)を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。ODAの転化率は0%であり、3−メチル−5−(2,7−オクタジエニルオキシ)−ペンタン−1−オールは得られなかった。
【0039】
〈比較例3〉
実施例1において、トリス(2−t−ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイト1.97gを用いる代わりに、下記式[4]
【化4】

【0040】
で示される二座ホスファイトを3.3g(3.38mmol)用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。ODAの転化率は56%、3−メチル−5−(2,7−オクタジエニルオキシ)−ペンタン−1−オールの選択率は48%(ODA基準)であった。
【0041】
〈比較例4〉
実施例1において、トリス(2−t−ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイト1.97gを用いる代わりに、ジフェニルホスフィノブタンを1.44g(3.38mmol)用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。ODAの転化率は23%、3−メチル−5−(2,7−オクタジエニルオキシ)−ペンタン−1−オールの選択率は60%(ODA基準)であった。
【0042】
〈比較例5〉
実施例2において、トリス(2−t−ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイト12.6gを用いる代わりに、トリフェニルホスファイト7.52g(24.2mmol;和光純薬工業株式会社製)を用いた以外は、実施例2と同様の操作を行った。ODAの転化率は48%、3−メチル−5−(2,7−オクタジエニルオキシ)−ペンタン−1−オールの選択率は52%(ODA基準)であった。
【0043】
〈比較例6〉
実施例2において、トリス(2−t−ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイト12.6gを用いる代わりに、トリフェニルホスファイト7.52g(24.2mmol)を用いたこと、80℃で14時間攪拌したこと以外は実施例2と同様の操作を行った。ODAの転化率は99%、3−メチル−5−(2,7−オクタジエニルオキシ)−ペンタン−1−オールの選択率は56%(ODA基準)であった。
【0044】
〈比較例7〉
実施例2において、トリス(2−t−ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイト12.6gを用いる代わりに、トリフェニルホスフィン6.36g(24.2mmol;和光純薬工業株式会社製)を用いたこと、80℃で14時間攪拌したこと以外は実施例2と同様の操作を行った。ODAの転化率は0%であり、3−メチル−5−(2,7−オクタジエニルオキシ)−ペンタン−1−オールは得られなかった。
【0045】
〈比較例8〉
実施例2において、トリス(2−t−ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイト12.6gを用いる代わりに、トリベンジルホスフィン7.38g(24.2mmol;和光純薬工業株式会社製)を用いたこと、80℃で14時間攪拌したこと以外は実施例2と同様の操作を行った。ODAの転化率は0%であり、3−メチル−5−(2,7−オクタジエニルオキシ)−ペンタン−1−オールは得られなかった。
【0046】
〈比較例9〉
実施例6において、トリス(2−t−ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイト1.97gを用いる代わりに、トリフェニルホスファイト1.18g(3.79mmol)を用いたこと以外は、実施例6と同様の操作を行った。アリルアルコールの転化率は28%、5−アリルオキシ−3−メチルペンタン−1−オールの選択率は34%(アリルアルコール基準)であった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によればハロゲンや強酸等を使用せず、各種アルコールから高選択的に、工業的に有利に非対称アリルエーテル化合物が得られる。得られた非対称アリルエーテル化合物は、反応希釈剤、不飽和モノマー、エポキシ樹脂、天然物などの合成中間体として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウム化合物、およびC.A.Tolmanにより定義されたエレクトロニックパラメーター(Electronic Parameter;ν−values)が2080〜2090cm−1かつステリックパラメーター(Steric Parameter;θ−values)が135〜190°であるトリアリールホスファイトの存在下に、下記一般式[1]
【化1】

(式中、Rは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のアルキニル基または炭素数4〜10のアルカジエニル基を表す。)
で示されるアリルアルコールを、下記一般式[2]
【化2】

(式中、Rは任意の場所に水酸基を1つ以上有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、任意の場所に水酸基を1つ以上有していてもよい炭素数2〜10のアルケニル基、または任意の場所に水酸基を1つ以上有していてもよい炭素数2〜10のアルキニル基を表す。)
で示されるアルコールと反応させることを特徴とする、下記一般式[3]
【化3】

(式中、RおよびRは前記定義のとおりである。)
で表される非対称アリルエーテル化合物の製造方法。
【請求項2】
該トリアリールホスファイトが、トリス(2−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジメチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−t−ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイトからなる群より選ばれる1種かまたはこれらの混合物である、請求項1に記載の非対称アリルエーテル化合物の製造方法。

【公開番号】特開2012−188419(P2012−188419A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−37140(P2012−37140)
【出願日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】