説明

非対称ホストを有するOLED素子

アノードおよびカソードと、それらの間に配置された、発光ドーパントとモノアントラセン誘導体を含むホストとを含有する発光層とを含むOLED素子が開示される。前記モノアントラセン誘導体は、上記の式(I)によって表される。式中、R1〜R8はHであり、R9はR10と同じではなく、R9は脂肪族炭素環員との縮合環を含まないビフェニル基であり、R10は、選択的に置換されたオルト置換またはメタモノ置換フェニル基であり、R9およびR10は、アミンおよび硫黄化合物を含まないものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホストとドーパントとを含有する発光層を含む有機電界発光(EL)素子に関し、前記ホストは、70℃において望ましい動作安定性を有するモノアントラセン化合物を含む。
【背景技術】
【0002】
有機電界発光(EL)素子は、20数年前から知られているが、それらの性能の限界が多くの望ましい用途に対する障壁となっている。最も簡単な形態において、有機EL素子は、ホール注入のためのアノードと、電子注入のためのカソードと、これらの電極間に設けられ、発光をもたらす電荷再結合を支援する有機媒体とで構成される。これらの素子は、一般に有機発光ダイオード、すなわちOLEDとも呼ばれる。初期の有機EL素子の代表的なものとしては、1965年3月9日発行のGurneeらによる米国特許第3,172,862号;1965年3月9日発行のGurneeによる米国特許第3,173,050号;Dresnerによる「Double Injection Electroluminescence in Anthracene」,RCA Review,Vol.30,pp.322−334,1969;および1973年1月9日発行のDresnerによる米国特許第3,710,167号に記載される。これらの素子における、通常は多環式芳香族炭化水素からなる有機層は、非常に厚いものであった(1μmよりはるかに大きい)。したがって、動作電圧は非常に高く、100Vを越えることも多かった。
【0003】
より最近の有機EL素子は、アノードとカソードの間の非常に薄い層(例えば、1.0μm未満)からなる有機EL要素を含む。本明細書で、「有機EL要素」という用語は、アノード電極とカソード電極間の層を包含する。厚みを小さくすることで、有機層の抵抗が減少し、素子がはるかに低い電圧で動作できるようになった。US4,356,429に最初に記載された基本的な2層EL素子構造において、アノードに隣接するEL要素の一方の有機層は、ホールを輸送するために特別に選択されていることから、ホール輸送層と呼ばれ、他方の有機層は電子を輸送するように特別に選択され、電子輸送層と呼ばれている。有機EL素子内に注入されるホールと電子の再結合により、効率的な電界発光が得られる。
【0004】
また、Tangら[J.Applied Physics,Vol.65,3610−3616頁,1989]によって開示されるように、ホール輸送層と電子輸送層の間に有機発光層(LEL)を含む3層有機EL素子も提案されている。発光層は一般には、ゲスト材料でドープしたホスト材料からなる。さらに、US4,769,292には、ホール注入層(HIL)と、ホール輸送層(HTL)と、発光層(LEL)と、電子輸送/注入層(ETL)とを含む4層EL要素も提案されている。これらの構造は、素子効率を高める。
【0005】
アントラセンをベースとしたホストが用いられることが多い。9,10−ジ−(2ナフチル)アントラセンホストの有用なクラスは、US5,935,721に開示されている。素子半減期が改良された発光層において用いられるビス−アントラセン化合物が、US6,534,199およびUS0,136,922に記載されている。アントラセン化合物を用いて輝度を向上させた電界発光素子が、US6,582,837に記載されている。アントラセンは、US6465115に記載されるように、HTLにおいても用いられてきた。さらに、OLED素子においてアントラセン材料を用いる他の開示、JP2000273056,US5972247,JP2001097897,US0048687,WO03/060956,WO02/088274,EP0429821,WO03/007658,JP2000053677、およびJP2001335516もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの進展にもかかわらず、より良好な動作安定性を有し、好都合に製造されるホストが望まれ続けている。OLED素子の動作安定性を向上させることで、より多くの製品における用途が可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アノードおよびカソード、ならびにそれらの間に配置された発光ドーパントと式(I)のモノアントラセン誘導体を含むホストとを含有する発光層を含むOLED素子を提供する。
【化1】

(式中、
1〜R8はHであり、
9はR10と同じではなく、
9は脂肪族炭素環員との縮合環を含まないビフェニル基であり、
10は、選択的に置換されたオルト置換またはメタモノ置換フェニル基であり、
ただし、R9およびR10は、アミンおよび硫黄化合物を含まないものとする)
【0008】
また、OLED素子を組み込んだ表示装置および面照明装置も提供される。本発明の素子は、望ましい動作安定性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は概して上にまとめた通りである。ホストの特定の例が、式(I)に定義される。
【化2】

1〜R8はHであり、R9は脂肪族炭素環員との縮合環を含まないビフェニル基であり、ただし、R9はR10と同じではなく、アミンおよび硫黄化合物を含まないものとする。適切には、R9は、フェナントリル、ペリレンを含むがこれらに限定されない、縮合芳香族環系を形成するように置換されたビフェニル基であるか、フッ素、シアノ基、ヒドロキシ、アルキル、トリフルオロメチル、アルコキシ、アリールオキシ、アリール、ヘテロテル環オキシ基、カルボキシ、トリメチルシリル基などの1つ以上の置換基によって置換されていているか、あるいは、非置換ビフェニル基である。R9が4−ビフェニル(Inv−4、Inv−11)、4−ビフェニルを含むフェナントリル(Inv−16)、シアノ置換4−ビフェニル(Inv−22)であると好都合である。R10は、オルト置換またはメタモノ置換フェニル基である。
【0010】
適切には、R10は、(a)アルキル、トリフルオロメチル、フッ素、シアノ基、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、限定はされないがフェニル、ビフェニル、ナフチル、フェナントリル、フルオランチル、テルフェニルを含むアリールで、オルトモノ置換または二置換された、あるいは(b)アルキル、トリフルオロメチル、フッ素、シアノ、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、限定はされないがフェニル、ビフェニル、ナフチル、テルフェニル、フェナントリル、フルオランチル、ピレニルを含むアリール、ヘテロテル環オキシ基で単メタ置換されたフェニル基である。R10が、ナフチル(Inv−3、Inv−4)、ビフェニル、トリフルオロメチル(Inv−6)、またはトリメチルシリル(Inv−7)でメタ置換された、またはフェニル基(Inv−1、Inv−4)でオルト置換されたフェニル基であると好都合である。
【0011】
特記しないかぎり、「置換された」または「置換基」という用語は、水素以外の任意の基または原子を意味するものとして使用する。特記しない限り、「芳香族環系」という用語は、1つの環または互いに縮合した2つ以上の環からなる系のことをいい、その環系全体が芳香族のものを意味するように使用する。特に規定しない限り、「置換フェニル環」という用語は、置換されているフェニル環、および、置換されて1つの置換または非置換縮合芳香族環系、または2つ以上の置換または非置換縮合芳香族環系を形成し得るフェニル環を意味する。特記しない限り、置換可能な水素を含む基(化合物または複合体を含む)という場合には、非置換形態だけでなく、置換基が実用に必要な特性を破壊しない限りにおいて、縮合環を含む本明細書に挙げるような任意の置換基でさらに置換された形態も包含するものとする。適切には、置換基は、ハロゲンであってもよいし、炭素、ケイ素、酸素またはリンの原子によって、分子の残りの部分に結合されていてもよい。
【0012】
所望により、置換基はそれ自体が、記載した置換基によって1回以上さらに置換されていてもよい。使用される具体的な置換基は、特定の用途に対する所望の望ましい特性を得るために、当業者によって選択可能であり、例えば、電子吸引基、電子供与基、および立体基などが含まれる。本発明のホストは、430〜470nmの間で素子における最大発光を与えるように、ドーパントと組み合わせて用いることが好ましい。
【0013】
非対称アントラセンは、高い効率を示すOLED素子において特に有用であることがわかっている。これらの化合物は、フルカラーOLED素子および運動イメージング装置においてだけでなく、白色光を発生するOLED素子においても有用である。
【0014】
本発明の有用な化合物には、次のものが含まれる。
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【0015】
本発明の化合物は典型的には、一定の厚みを含む発光層において、後で定義するドーパントとともに用いられる。有用な発光材料としては、アントラセンの誘導体、フルオレン誘導体、ペリフランテン誘導体、インデノペリレン誘導体、ビス(アジニル)アミンボロン化合物が挙げられる。適切には、ドーパントは、L7などのキナクリドン、またはL2などのペリレン、L30などのクマリン、L50、L51およびL52などのビス(アジニル)メタンまたはアミンボロン複合体、L47などのアミノスチリル誘導体を含む。ドーパントは、L2やL50、およびL47などの青色または青緑色ドーパント、またはキナクリドンL7などの緑色ドーパントを含むと好都合である。
【0016】
本発明のホストは、青緑ドーパントと組み合わせて白色素子アーキテクチャにおいて有用である。
【0017】
本発明のホストは、他の青色または緑色の共ホストと組み合わせて用いて、特定の用途の安定性を高めることもできる。共ホストは、小分子またはポリマー材料のいずれであってもよい。有用な共ホストとしては、限定はされないが、ポリフルオレン、ポリビニルアリーレン、8−ヒドロキノリンの金属錯体、ベンザゾール誘導体、ジスチリルアリーレン、カルバゾールが挙げられる。適切には、共ホストはトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(III)(Alq)である。
【0018】
本発明のホストは、硫黄およびアミン類を含まないことも利点である。それらの精製だけでなく材料を調製する過程も簡単かつ効率的になり環境に優しく、したがって、これらの化合物は好都合に製造できる。
【0019】
一般的な素子構成
本発明は、ほとんどのOLED素子構成において利用することができる。これらには、1つのアノードとカソードを含む非常に簡単な構造からより複雑な装置、例えば、画素を形成するアノードとカソードの直交アレイからなる受動マトリックスディプレイ、および、各画素が例えば薄膜トランジスタ(TFT)によって個々に制御される能動マトリックスディプレイなどが含まれる。
【0020】
本発明をうまく実施できる有機層の構成は多数ある。OLEDの必須要件は、アノード、カソード、およびアノードとカソードの間に配置される有機発光層である。後で詳しく述べるように、さらに別の層を使用してもよい。
【0021】
アノード
所望のエレクトロルミネセント発光(EL)をアノードを介して見る場合、アノードは、関心の発光に対して透過性または実質的に透過性でなければならない。本発明において用いる一般的な透過性アノード材料は、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)および酸化錫であるが、限定はされないがアルミニウムまたはインジウムをドープした亜鉛酸化物、マグネシウムインジウム酸化物、およびニッケルタングステン酸化物などの、他の金属酸化物でもよい。これらの酸化物に加えて、窒化ガリウムなどの金属窒化物、およびセレン化亜鉛などの金属セレン化物、および硫化亜鉛などの金属硫化物をアノードとして用いてもよい。EL発光がカソードだけを介して見られる用途に対しては、アノードの透過性は重要でなく、透明、半透明または反射性の任意の導体材料を用いることができる。この用途に対する導体の例としては、限定はされないが、金、イリジウム、モリブデン、パラジウムおよび白金が挙げられる。典型的なアノード材料は、透過性であるか、4.1eVよりも大きい仕事関数を有する。所望のアノード材料は、一般的に、蒸発、スパッタリング、化学蒸着、または電気化学的手段などの任意の適切な手段によって被着される。アノードは、周知のフォトリソグラフィー処理を用いてパターニングすることができる。任意で、アノードは、ショートを抑えるため、あるいは反射性を高めるために、表面粗さを小さくするために他の層への適用前に研磨してもよい。
【0022】
カソード
発光をアノードだけを通して見る場合、本発明において用いられるカソードは、ほぼあらゆる導体材料で構成することができる。望ましい材料は、その下側の有機層と良好に接触できるように良好な膜形成性を有し、低電圧で電子注入を促進し、良好な安定性を有する。有用なカソード材料は、低い仕事関数の金属(<4.0eV)または合金を含む場合が多い。有用なカソード材料の1つとしては、米国特許第4,885,221号に記載されるように、銀の割合が1〜20%の範囲のMg:Ag合金が挙げられる。別の適切なカソード材料のクラスとしては、カソードと、導体金属のより厚い層でキャップした有機層(例えば、電子輸送層(ETL))と接触する薄い電子注入層(EIL)を含む二層を含むものがある。ここで、EILは低仕事関数金属または金属塩を含むことが好ましく、そうであれば、厚い方のキャッピング層が低い仕事関数を有する必要はなくなる。そのようなカソードの一つとして、米国特許第5,677,572号に記載されるような、LiFの薄い層と、それに続くより厚いAlの層からなるものが挙げられる。他の有用なカソード材料組には、限定はされないが、米国特許5,059,861号、第5,059,862号、および第6,140,763号に開示されているものが含まれる。
【0023】
発光をカソードを通して見る場合には、カソードは透明であるかほぼ透明でなければならない。そのような適用に対しては、金属は薄くなければならず、透明の導電性酸化物またはこれらの材料の組み合わせを用いなければならない。光学的に透明なカソードについては、より詳細には、US4,885,211,US5,247,190,JP3,234,963,US5,703,436,US5,608,287,US5,837,391,US5,677,572,US5,776,622,US5,776,623,US5,714,838,US5,969,474,US5,739,545,US5,981,306,US6,137,223,US6,140,763,US6,172,459,EP1076368,US6,278,236およびUS6,284,3936に記載されている。カソード材料は典型的には、蒸発、スパッタリング、または化学蒸着などの任意の適切な方法によって被着される。必要であれば、パターンニングは、限定はされないが、スルーマスク蒸着、US5,276,380およびEP0732868に記載されるような集積シャドウマスキング、レーザーアブレーション、および選択的化学蒸着を含む多くの周知の方法によって行うことができる。
【0024】
発光層(LEL)
本発明は、主として発光層(LEL)に関する。米国特許第4,769,292号および第5,935,721号により詳細に記載されるように、有機EL素子の発光層(LEL)は、発光性、蛍光性またはリン光性材料を含み、該領域における電子とホールの対の再結合の結果として、電界発光が発生する。発光層は、単一材料からなるものであってもよいが、より一般的には、ゲスト発光材料でドープしたホスト材料からなり、発光は主として発光材料から来るものであり、任意の色とすることができる。発光層中のホスト材料は、後で定義するような電子輸送材料、上で定義したようなホール輸送材料、またはホール−電子再結合を支持する別の材料または材料の組み合わせであってよい。発光材料は、通常は、高い蛍光性の色素およびリン光性の化合物、例えば、WO98/55561,WO00/18851,WO00/57676およびWO00/70655に記載されるような遷移金属錯体から選ばれる。発光材料は典型的には、ホスト材料の質量の0.01〜10%で組み込まれる。
【0025】
ホストおよび発光材料は、小さい非ポリマー分子、またはポリフルオレンやポリビニルアリーレン(例えば、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリPPV)などのポリマー材料であってもよい。ポリマーの場合、ポリマーホスト内に小分子発光材料を分子的に分散させてもよいし、あるいは、発光材料は、副成分をホストポリマーに共重合させることによって添加してもよい。
【0026】
発光材料を選択に大きく関係するのは、分子の最高被占分子軌道と最低非被占分子軌道の間のエネルギー差によって定義されるバンドギャップポテンシャルの比較である。ホストから発光材料への効率的なエネルギー移行のために必要な条件は、ドーパントのバンドギャップがホスト材料のバンドギャップよりも小さいことである。リン光発光体の場合には、ホストのホスト三重項エネルギーレベルが、ホストから発光材料へのエネルギー移行を可能にする十分な高さであることも重要である。
【0027】
有用であると知られるホストおよび発光材料としては、限定はされないが、US4,768,292,US5,141,671,US5,150,006,US5,151,629,US5,405,709,US5,484,922,US5,593,788,US5,645,948,US5,683,823,US5,755,999,US5,928,802,US5,935,720,US5,935,721、およびUS6,020,078に開示されるものが挙げられる。
【0028】
8−ヒドロキシキノリンの金属錯体および類似の誘導体(式E)は、電界発光を支援することのできる有用なホスト化合物の1つのクラスを構成し、特に500nmより長い波長、例えば緑、黄、橙、および赤の発光に適している。
【化8】

(式中、
Mは金属を表し、
nは1〜4の整数であり、
Zはそれぞれ独立して、少なくとも2つの縮合芳香族環を有する核を完成する原子を表す。)
【0029】
以上のことから、金属は1価、2価、3価または4価金属であってもよい。金属は、例えば、リチウム、ナトリウムまたはカリウムなどのアルカリ金属、マグネシウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属、アルミニウムまたはガリウムなどの土類金属、または亜鉛やジルコニウムなどの遷移金属であってよい。一般には、有用なキレート金属として知られる任意の1価、2価、3価または4価金属を用いることができる。
【0030】
Zは、少なくとも一方がアゾールまたはアジン環である少なくとも2つの縮合芳香族環を含む複素環核を完成させる。必要に応じて、脂肪族および芳香族環の両方を含むさらに別の環を、前記2つの必要な環と共に縮合させてもよい。機能が向上せずに分子の嵩が高くなることを回避するために、環原子の数は通常は18以下に維持される。
【0031】
有用なキレートされたオキシノイド化合物を以下に挙げる。
CO−1:アルミニウムトリスオキシン[別名:トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(III)]
CO−2:マグネシウムビスオキシン[別名:ビス(8−キノリノラト)マグネシウム(II)
CO−3:ビス[ベンゾ{f}−8−キノリノラト]亜鉛(II)
CO−4:ビス(2−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(III)−μ−オキソ−ビス(2−メチル−8−キノリナト)アルミニウム(III)
CO−5:インジウムトリスオキシン[別名:トリス(8−キノリノラト)インジウム]
CO−6:アルミニウムトリス(5−メチロキシン)[別名:トリス(5−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(III)]
CO−7:リチウムオキシン[別名:(8−キノリノラト)リチウム(I)]
CO−8:ガリウムオキシン[別名:トリス(8−キノリノラト)ガリウム(III)]
CO−9:ジルコニウムオキシン[別名:テトラ(8−キノリノラト)ジルコニウム(IV)]
【0032】
9,10−ジ−(2−ナフチル)アントラセンの誘導体(式F)は、電界発光を支援することのできる有用なホスト材料の1つのクラスを構成し、特に400nmより長い波長、例えば青、緑、黄、橙、および赤の発光に適している。
【化9】

式中、R1、R2、R3、R4、R5およびR6は、各環上の1つ以上の置換基を表し、各置換基は、個々に以下の群から選択される。
第1群:水素、または炭素数1〜24のアルキル;
第2群:炭素数5〜20のアリールまたは置換アリール;
第3群:アントラセニル、ピレニルまたはペリレニルの縮合芳香族環を完成させるのに必要な4〜24個の炭素原子;;
第4群:フリル、チエニル、ピリジニル、キノリニルまたは他の複素環系の縮合ヘテロ芳香族環を完成させるのに必要な炭素数5〜24のヘテロアリールまたは置換ヘテロアリール;
第5群:炭素数1〜24のアルコキシアミノ、アルキルアミノ、またはアリールアミノ;および
第6群:フッ素、塩素、臭素またはシアノ。
【0033】
説明的な例としては、9,10−ジ−(2−ナフチル)アントラセンおよび2−t−ブチル−9,10−ジ−(2−ナフチル)アントラセンが挙げられる。9,10−ビス[4−(2,2−ジフェニルエテニル)フェニル]アントラセンの誘導体を含む他のアントラセン誘導体が、LELにおけるホストとして有用であるかもしれない。
【0034】
ベンザゾール誘導体(式G)は、電界発光を支援することのできる有用なホスト材料の別のクラスを構成し、特に400nmより長い波長、例えば青、緑、黄、橙、または赤の発光に適している。
【化10】

式中、nは3〜8の整数、
ZはO、NRまたはSであり、
RおよびR’は、独立して水素;炭素数1〜24のアルキル、例えば、プロピル、t−ブチル、ヘプチルなど;炭素数5〜20のアリールまたはヘテロ原子で置換されたアリール、例えばフェニルおよびナフチル、フリル、チエニル、ピリジル、キノリニルおよび他の複素環系であるか;またはクロロ、フルオロなどのハロ;または縮合芳香族環を完成させるのに必要な原子である。
【0035】
Lは、アルキル、アリール、置換アルキルまたは置換アリールからなる結合単位であり、複数のベンザゾールを共有結合的または非共有結合的に連結している。有用なベンザゾールとしては、例えば、2,2’,2’’−(1,3,5−フェニレン)トリス[1−フェニル−1H−ベンズイミダゾール]が挙げられる。
【0036】
US5,121,029に記載されるように、ジスチリルアリレン誘導体も有用なホストである。リン光発光体に対しては、カルバゾール誘導体が特に有用なホストである。
【0037】
有用な蛍光発光材料としては、限定はされないが、アントラセン、テトラセン、キサンテン、ペリレン、ルブレン、クマリン、ローダミン、およびキナクリドンの誘導体、ジシアノメチレンピラン化合物、チオピラン化合物、ポリメチン化合物、ピリリウムおよびチアピリリウム化合物、フルオレン誘導体、ペリフランセン誘導体、インデノペリレン誘導体、ビス(アジニル)アミンホウ素化合物、ビス(アジニル)メタン化合物、およびカルボスチリル化合物が挙げられる。有用な材料の説明的な例を以下に挙げるが、これらに限定されることはない。
【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【0038】
素子
図1に示した特に有用な小分子素子の典型的な構造は、基板101と、アノード103と、ホール注入層105と、ホール輸送層107と、発光層109と、電子輸送層111と、カソード113とを含んで構成される。これらの層については以下に詳しく説明する。上記に代えて、基板はカソードに隣接して配置してもよいし、あるいは基板が実際にはアノードまたはカソードを構成するようにしてもよい。アノードとカソードの間の有機層は、便宜上有機EL要素と呼ぶことにする。また、有機層を合わせた全厚みは、好ましくは500nm未満である。
【0039】
OLEDのアノードおよびカソードは、導電体260を介して電源250に接続されている。OLEDは、アノードが、カソードよりもより陽性の電位となるように、アノードとカソードの間に電位を与えることによって作動させる。ホールをアノードから有機EL要素に注入し、電子をアノードにおいて有機EL要素に注入する。OLEDを、周期内の一定期間、ポテンシャルバイアスが反転し電流が流れていないACモードで作動させた場合に、素子安定性の向上を達成することができる。AC駆動OLEDの一例がUS5,552,678に記載されている。
【0040】
基板
本発明のOLED素子は、典型的には支持基板101の上に設けられ、該基板において、カソードまたはアノードのいずれかを基板に接触させることができる。基板と接触する電極は、便宜上、底部電極と呼ぶことにする。便宜上、底部電極をアノードとするが、本発明はこの構成に限定されることはない。基板は、目的とする発光方向に応じて、光透過性または不透明のいずれかであってもよい。光透過性は、基板を通してEL発光を見るためには望ましい。そのような場合には、一般的には透明のガラスまたはプラスチックが用いられる。基板は、複数層の材料からなる複合構造であってもよい。これは、典型的にはOLED層の下にTFTが設けられているようなアクティブマトリックス基板に対する場合である。基板は、少なくとも放射画素化領域において、ガラスまたはポリマーなどの非常に大きな透過性を有する材料からなる必要がある。EL発光が上面電極を介して見られる用途に対して、底部支持体の透過性は重要ではなく、したがって光透過性、光吸収性または光反射性であってもよい。この場合に用いる基板としては、限定はされないが、ガラス、プラスチック、半導体材料、シリコン、セラミック、および回路基板材料が挙げられる。この場合も、基板は、アクティブマトリックスTFT設計において見られるような複数層の材料からなる複合構造であってもよい。もちろん、これらの素子構成において、光透過性上面電極を設けることが必要である。
【0041】
ホール注入層(HIL)
常に必要というわけではないが、ホール注入層105をアノード103とホール輸送層107の間に設けることが有用であることが多い。ホール注入材料は、次にくる有機層の膜形成特性を高め、ホール輸送層へのホールの注入を容易にする役割を果たすことができる。ホール注入層において用いる最適な材料としては、限定はされないが、US4,720,432に記載されるようなポルフィリン系化合物、US6,208,075に記載されるようなプラズマ蒸着フッ化炭素ポリマー、いくつかの芳香族アミン、例えば、m−MTDATA(4,4’,4’’−トリス[(3−メチルフェニル)フェニルアミノ]トリフェニルアミン)が挙げられる。有機EL素子において有用であると報告されている上記に代わるホール注入材料は、EP0891121A1およびEP1029909A1に記載されている。
【0042】
ホール輸送層(HTL)
有機EL素子のホール輸送層107は、少なくとも1つの、芳香族第3アミンなどのホール輸送化合物を含み、後者は、炭素原子にのみ結合された少なくとも1つの3価の窒素原子であって、それらの炭素原子のうちの少なくとも1つが芳香環の一員であるものを含む化合物であると解される。芳香族第3アミンの1つの形態としては、モノアリールアミン、ジアリールアミン、トリアリールアミンまたは重合アリールアミンなどのアリールアミンが挙げられる。モノマートリアリールアミンの例は、KlupfelらのUS3,180,730に記載されている。1つ以上のビニル基で置換されているか、および/または少なくとも1つの活性水素含有基を含む他の適切なトリアリールアミンが、Brantleyらによって、US3,567,450およびUS3,658,520に開示されている。
【0043】
より好ましい芳香族第3アミンのクラスは、US4,720,432およびUS5,061,569に記載されているような、少なくとも2つの芳香族第3アミン部分を含むものである。このような化合物には、構造式(A)に示されるような化合物が含まれる。
【化15】

式中、Q1およびQ2は、独立して芳香族第3アミン部分から選択され、Gはアリーレン、シクロアルキレンなどの結合基、または炭素−炭素結合のアルキレン基である。一実施形態において、Q1またはQ2のうちの少なくとも1つが、多環縮合環構造、例えばナフタレンを含む。Gがアリール基である場合、フェニレン、ビフェニレン、またはナフタレン部分であると都合がよい。
【0044】
構造式(A)を満足し、2つのトリアリールアミン部分を含むトリアリールアミンの有用なクラスは、構造式(B)によって表される。
【化16】

式中、
1およびR2は、それぞれで独立して、水素原子、アリール基、またはアルキル基を表すか、あるいはR1およびR2は一緒になって、シクロアルキル基を完成させる原子を表し、
3およびR4は、それぞれ独立して、構造式(C)によって示されるように、ジアリール置換アミノ基で置換されるアリール基を表す。
【化17】

式中、R5およびR6は独立して選択されるアリール基である。一実施形態において、R5またはR6の少なくとも一方は、多環縮合環構造、例えばナフタレンを含む。
【0045】
芳香族第3アミンの別のクラスは、テトラアリールジアミンである。望ましいテトラアリールジアミンは、アリーレン基によって結合された、式(C)で示されるような、2つのジアリールアミノ基を含む。有用なテトラアリールジアミンとしては、式(D)に示されるようなものが挙げられる。
【化18】

式中、各Areは独立して選択されるアリーレン基、例えばフェニレンまたはアントラセン部分であり、
nは1〜4の整数であり、
Ar、R7、R8およびR9は、独立して選択されるアリール基である。
典型的な実施形態において、Ar、R7、R8およびR9の少なくとも1つが多環縮合環構造、例えばナフタレンである。
【0046】
前出の構造式(A)、(B)、(C)、(D)の様々なアルキル、アルキレン、アリールおよびアリーレン部分のそれぞれは、さらに置換されていてもよい。典型的な置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、および、フッ素、塩素および臭素などのハロゲンが挙げられる。様々なアルキルおよびアルキレン部分は典型的には1〜6個の炭素原子を含む。シクロアルキル部分は、3個から約10個の炭素原子を含んでいてもよいが、典型的には、5個、6個または7個の環炭素原子、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびシクロヘプチル環構造を含む。アリールおよびアリーレン部分は通常はフェニルおよびフェニレン部分である。
【0047】
ホール輸送層は、1つまたは芳香族第3アミン化合物の混合物からなるものであってよい。具体的には、式(B)を満たすトリアリールアミンなどのトリアリールアミンを、式(D)によって示されるようなテトラアリールジアミンと組み合わせて用いることができる。トリアリールアミンをテトラアリールジアミンと組み合わせて用いた場合、後者はトリアリールアミンと電子注入および輸送層の間に介在する層として配置する。有用な芳香族第3アミンの例を以下に示す。
1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン
1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン
4,4’−ビス(ジフェニルアミノ)クアドリフェニル
ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)−フェニルメタン
N,N,N−トリ(p−トリル)アミン
4−(ジ−p−トリルアミノ)−4’−[4(ジ−p−トリルアミノ)−スチリル]スチルベン
N,N,N’,N’−テトラ−p−トリル−4,4’−ジアミノビフェニル
N,N,N’,N’−テトラフェニル−4,4’−ジアミノビフェニル
N,N,N’,N’−テトラ−1−ナフチル−4,4’−ジアミノビフェニル
N,N,N’,N’−テトラ−2−ナフチル−4,4’−ジアミノビフェニル
N−フェニルカルバゾール
4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−(2−ナフチル)アミノ]ビフェニル
4,4’’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]p−テルフェニル
4,4’−ビス[N−(2−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
4,4’−ビス[N−(3−アセナフテニル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
1,5−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ナフタレン
4,4’−ビス[N−(9−アントリル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
4,4’’−ビス[N−(1−アントリル)−N−フェニルアミノ]−p−テルフェニル
4,4’−ビス[N−(2−フェナントリル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
4,4’−ビス[N−(8−フルオロアントリル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
4,4’−ビス[N−(2−ピレニル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
4,4’−ビス[N−(2−ナフタセニル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
4,4’−ビス[N−(2−ペリレニル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
4,4’−ビス[N−(1−コロネニル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル
2,6−ビス(ジ−p−トリルアミノ)ナフタレン
2,6−ビス[ジ−(1−ナフチル)アミノ]ナフタレン
2,6−ビス[N−(1−ナフチル)−N−(2−ナフチル)アミノ]ナフタレン
N,N,N’,N’−テトラ(2−ナフチル)−4,4’’−ジアミノ−p−テルフェニル
4,4’−ビス{N−フェニル−N−[4−(1−ナフチル)−フェニル]アミノ}ビフェニル
4,4’−ビス[N−フェニル−N−(2−ピレニル)アミノ]ビフェニル
2,6’−ビス[N,N−ジ(2−ナフチル)アミン]フルオレン
1,5−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ナフタレン
4,4’,4’’−トリス[(3−メチルフェニル)フェニルアミノ]トリフェニルアミン
【0048】
有用なホール輸送材料の別のクラスには、EP1009041に記載されるような多環芳香族化合物が含まれる。オリゴマー材料を含む、2つを越えるアミン基を有する第3芳香族アミンを用いてもよい。さらに、ポリ(N−ビニルカルバゾール)(PVK)、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンなどのホール輸送ポリマー材料、およびPEDOT/PSSとも呼ばれるポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4−スチレンスルフォネート)などのコポリマーを用いてもよい。
【0049】
電子輸送層(ETL)
本発明の有機EL素子の電子輸送層111を形成する際に使用する好ましい薄膜形成材料は、オキシン自体のキレートを含む金属キレートオキシノイド化合物(一般に、8−キノリノールまたは8−ヒドロキシキノリンとも呼ばれる)である。このような化合物は、電子の注入と輸送を助けるとともに、高い性能を示し、薄膜の形態で容易に製造される。オキシノイド化合物の例としては、前述の構造式(E)を満たすものと考えられる。
【0050】
他の電子輸送材料としては、US4,356,429に開示されるような様々なブタジエン誘導体、US4,539,507に開示されるような様々な複素環蛍光増泊剤が挙げられる。構造式(G)を満たすベンザゾールも、有用な電子輸送材料である。トリアジンも有用な電子輸送材料として知られている。
【0051】
他の有用な有機層および素子構成
いくつかの例において、層109および111は、発光と電子輸送の両方の支持機能を果たす単一層に光学的に折り畳むこともできる。発光材料をホール輸送層に含めて、これがホストとして機能するようにすることも当分野において知られている。白色発光OLEDを作成するために、例えば、青色および黄色発光材料、シアンおよび赤色発光材料、または赤色、緑色、および青色発光材料を組み合わせることにより、複数の材料を1つ以上の層に加えてもよい。白色発光素子は、例えば、EP1187235,US20020025419,EP1182244,US5,683,823,US5,503,910,US5,405,709,および US5,283,182に記載されており、色発光を生み出すために適切なフィルタ構成を備えていてもよい。
【0052】
当分野において教示される電子またはホール阻止層などのさらなる層を、本発明の素子において採用してもよい。ホール阻止層は、例えばUS20020015859にあるように、リン光発光素子の効率を高めるために一般的に用いられる。
【0053】
本発明は、例えばUS5,703,436およびUS6,337,492に教示されるような、いわゆる積層状素子構成において使用してもよい。
【0054】
有機層の被着
有機材料は昇華によって被着することが好都合であるが、膜形成を向上させるために光学バインダを含んだ溶媒など他の手段によって被着してもよい。材料がポリマーであれば、溶媒被着が通常は好ましい。昇華によって被着される材料は、例えば、US6,237,529に記載されるように、タンタル材料からなる場合が多い、昇華装置「ボート」から蒸着してもよいし、あるいは、まずドナーシート上をコーティングしてから、基板に密着して昇華させるようにしてもよい。材料の混合物を含む層は、別の昇華装置ボートを用いてもよいし、あるいは、材料を予め混合して、1つのボートまたはドナーシートからコーティングしてもよい。パターン蒸着は、シャドウマスク、集積シャドウマスク(US5,294,870)、ドナーシートからの立体的に定義された熱染料転移(US5,688,551,US5,851,709およびUS6,066,357)およびインクジェット法(US6,066,357)によって行うことができる。
【0055】
封入
大半のOLED素子は、水分または酸素、あるいはその両方に対して敏感であるため、一般には、アルミナ、ボーキサイト、硫酸カルシウム、クレイ、シリカゲル、ゼオライト、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、硫酸塩、または金属のハロゲン化物および過塩素酸塩とともに、窒素またはアルゴンなどの不活性雰囲気中に封入する。封入および乾燥のための方法には、限定はされないが、米国特許第6,226,890号に記載されるものが含まれる。さらに、SiOx、テフロン(登録商標)などのバリア層、および交互無機/高分子層が封入のための当分野で知られている。
【0056】
光学最適化
本発明のOLED素子は、所望により、その特性を高めるために様々な周知の光学効果を利用することができる。これには、層の厚みを最適化して、光透過を最大にすることや、誘電ミラー構造を設けることや、反射電極を光吸収電極に置き換えることや、ディスプレイの上にグレア防止または反射防止コーティングを設けることや、ディスプレイ上に偏光媒体を設けることや、ディスプレイ上に着色、減光または色変換フィルタを設けることが含まれる。フィルタ、偏光子、およびグレア防止または反射防止コーティングは、カバーの上に、またはカバーの一部として特別に設けてもよい。
【0057】
本明細書において参照する特許および他の文献の全内容は、参照により本明細書に組み込む。
【実施例】
【0058】
本発明およびその利点について、以下の具体例によってさらに説明する。本発明の実施形態は熱安定性をも示す。
【0059】
例1 Inv−1の調製
a)9−(4−ビフェニル)アントラセンの調製
9−ブロモアントラセン(19.5g,75.8ミリモル,1当量)および(1,1’−ビフェニル−4−イル)ボロン酸(15.0g,75.8ミリモル,1当量)を、100mLのトルエン中で混合し、得られた混合物を約15分間、超音波処理により脱気した。テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.650g,0.568ミリモル,0.75%)を加え、得られた混合物を150mLの2MNa2CO3を加えながら窒素下でよく攪拌し、混合物を加熱マントルを介して加熱還流した。反応物を一晩還流したところ、その間に生成物が析出した。固体をろ過により単離し、洗浄液が中性になるまで有機層を水で洗浄した。単離した固体を熱トルエンに溶解し、ガラス繊維フィルタ紙でろ過してパラジウム塩を除去した。トルエン相を合わせ、残りが約100mLになるまで濃縮し、これを一晩放置して再結晶させた。再結晶した生成物をろ過により単離し、母液が相当量の生成物を含んでいたことから、2回目の回収物も得た。この2つの回収物はTLCによって類似した純度を有していたので、これらを合わせて、全部で21.0gの生成物(84%)を得た。
b)9−ブロモ,10−(4−ビフェニル)アントラセンの調製
9−(4−ビフェニル)アントラセン(18g,54.5ミリモル,1当量)とN−ブロモスクシンイミド(10.2g,57.2ミリモル,1.05当量)を、500mL丸底フラスコ中で、140mLのCH2Cl2と混合した。濃厚混合物を、100Wの光を当てながら、室温で15分間攪拌し、反応を開始させた。反応混合物が濃厚であるように見えたので、約80mLのCH2CH2を反応混合液に加えた。混合物がクリアになることはなかった。20分後に反応が完結したことが、TLC(P950:CH2Cl2/9:1)によって示された。不均一混合物を一晩冷蔵し、固体生成物をろ過によって単離し、17.2gのきれいな生成物を得た。濾液を濃縮、冷却して2回目の固体回収物を得たところ、純度は1回目に単離された物質と類似していた。これらの回収物を合わせて、97%(21.5g)の純粋な生成物を得た。
c)9−(4−ビフェニル)、10−(2−ビフェニル)アントラセンの調製
9−ブロモ,10−(4−ビフェニル)アントラセン(3.0g,7.33ミリモル,1当量)、2−ビフェニルボロン酸(1.52g,7.70ミリモル,1.05当量)を、(PPh32PdCl2(0.16g,0.7当量%)とともに、250mL丸底フラスコ中、50mLのトルエン中で混合し、得られた懸濁液をN2下で、30分間超音波処理した。Na2CO3の2M溶液を加え、得られた不均一混合物を迅速に還流した。混合物を一晩還流下で放置したところ、その間、混合物は、触媒がいまだ活性があることを示す淡黄色のままであった。混合物を高温のままガラス繊維フィルタ紙でろ過して、パラジウム塩を除去した。有機相を単離し、洗浄液が中性になるまで水で洗浄した。元の水相を生理食塩水で飽和し、塩化メチレンで抽出した。有機層を合わせ、溶液を約40mLまで濃縮し、冷蔵庫中で静置した。固体は析出していなかったので、10mLのヘプタンを加え、溶液を冷蔵庫中に放置した。2時間後、緑がかった固体が結晶化した(2.7g)。母液を濃縮し、さらにヘプタンを加えて、結晶固体をもう一度回収したところ、その純度は1回目と同じであった。合わせた生成物の全重量は、3.2g(90%)であった。生成物は、素子製造前に昇華(200〜210℃)させた。
【0060】
例2、3 発明のEL素子
本発明の要件を満たすEL素子は、次のようにして構築した。
アノードとして、42nmの層のインジウム錫酸化物(ITO)でコーティングしたガラス基板を、市販の洗剤中で結果的に超音波処理し、脱イオン水中ですすぎ、トルエン蒸気中で脱脂し、約1分間酸素プラズマに曝露した。
a)ITOの上に、プラズマによるCHF3の被着によって、1nmの過フッ化炭化水素ホール注入層(CFx)を被着した。
b)次に、75nmの厚みを有するN,N’−ジ−1−ナフタレニル−N,N’−ジフェニル−4,4’−ジアミノビフェニル(NPB)のホール輸送層をタンタルボートから蒸着した。
c)次に、使用したドーパントに応じて種々の量のドーパントでドープしたInv1の20〜40nmの発光層を、ホール輸送層上に被着した。これらの材料はタンタルボートから同時に蒸着した。ここで、ドーピングのパーセンテージは、容量/容量比に基づいて報告している。具体的なドーパント、パーセンテージ、およびホスト厚みを表1に示す。
d)次に、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(III)(Alq)の30nmの電子輸送層を発光層上に被着した。この材料も、タンタルボートから蒸着した。
e)Alq層の上面に、10:1容積比のMgとAgからなる220nmカソードを被着した。
上記の手順により、EL素子の被着を完結した。素子は、周囲環境からの保護のために、乾燥グローブボックス中で密閉包装した。
【0061】
例4、5、6、7、8 比較EL素子
比較例のEL素子は、Inv−1の代わりに、本発明の一部ではない他のアントラセン誘導体をホストとして用いた以外は、例2と同様にして作成した。
【化19】

【化20】

例2〜8において、上記のように作成したセルについて、20mA/cm2で測定した輝度収率(cd/A)の形での効率を調べた。CIE色xおよびy座標を調べた。青色素子については、少なくとも約2.2cd/A、好ましくは約3cd/Aより大きい輝度収率を有することが望ましい。輝度損失は、各個々のセル/例に対して指定される様々な時間量だけ、セルに対して70℃で20mA/cm2、RT(室温)で40mA/cm2の一定電流密度を与えることによって測定した。外挿値は、20mA/cm2および70℃、または40mA/cm2およびRTにおける実際のデータに基づいて推定した。表示装置に用いる場合に有用となる安定性は、上記加速老化条件で約300時間後に損失が約40%未満であることが望ましい。これらの試験データの全てを表1bおよび表2bに示す。
【0062】
表1a:例2〜4の素子合成
【表1】

【0063】
表1b:比較Comp−1と比べてのInv−1の安定性の向上(例2〜4)
【表2】

【0064】
化合物Inv−1は、照合用のComp−1よりも安定性が高いという利点を与える。表1bにある素子は、さらに加速した試験方法である70℃および20mA/cm2において次第に暗くなった。
【0065】
表2a:例5〜8の素子構成
【表3】

【0066】
表2b:対称アナログの比較例(例5〜8)
【表4】

【0067】
例7は、素子内でのComp−4の欠陥を示している。9V電池で1分以内に素子が悪化したため、動作安定性は測定出来なかった。材料は蒸着し、素子は2回作成したが、いずれも同じ結果が得られた。バルク状態にある固体の高い結晶性が、素子におけるガラス形成性を非常に小さいものとしていると考えられる。素子が非常にざらついた外観を呈することもこの仮説の裏付けとなるかもしれない。
【0068】
例2〜8からのデータは、L2を有する非対称モノアントラセンの安定性が著しく向上していることを示している。表1bと表2bのデータを比較すると、構造属性(対称/非対称)と素子の性能の間には明らかな相関関係がある。
【0069】
本発明は、ある好ましい実施形態に対する特定の言及によって詳細に記載してきたが、本発明の精神と範囲内において、変更および改変を行えることが理解できる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明を使用し得る典型的なOLED素子の断面図である。
【符号の説明】
【0071】
101 基板
103 アノード
105 ホール注入層(HIL)
107 ホール輸送層(HTL)
109 発光層(LEL)
111 電子輸送層(ETL)
113 カソード
250 電源
260 導電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードおよびカソードと、それらの間に配置された、発光ドーパントと式(I)のモノアントラセン誘導体を含むホストとを含有する発光層とを含むOLED素子。
【化1】

(式中、
1〜R8はHであり、
9はR10と同じではなく、
9は脂肪族炭素環員との縮合環を含まないビフェニル基であり、
10は、オルト置換またはメタモノ置換フェニル基であり、前記置換基はフッ素、ヒドロキシ、シアノ、アルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アリール、カルボキシ、トリメチルシリルおよびヘテロ環オキシ基から選択され、
9およびR10は、アミンおよび硫黄化合物を含まないものとする。)
【請求項2】
9は非置換ビフェニル基である、請求項1に記載の素子。
【請求項3】
ビフェニルのフェニル環の少なくとも一方がそれに縮合した環を有する、請求項1に記載の素子。
【請求項4】
ビフェニルは、縮合環を有さない2つのフェニル環基を含む、請求項1に記載の素子。
【請求項5】
ビフェニルは2−ビフェニルである、請求項3に記載の素子。
【請求項6】
ビフェニルは3−ビフェニルである、請求項3に記載の素子。
【請求項7】
ビフェニルは4−ビフェニルである、請求項3に記載の素子。
【請求項8】
全てのフェニル環が非置換である、請求項3に記載の素子。
【請求項9】
ビフェニルは、フッ素、ヒドロキシ、シアノ、アルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アリール、カルボキシ、トリメチルシリルおよびヘテロ環オキシ基から選択される少なくとも1つの置換基によって置換されている、請求項1に記載の素子。
【請求項10】
10は、オルト置換されている、請求項1に記載の素子。
【請求項11】
10オルト置換基は、フッ素、アルキル、およびアリール基から選択される、請求項10に記載の素子。
【請求項12】
10オルト置換基はフェニル基である、請求項10に記載の素子。
【請求項13】
10は、メタモノ置換されている、請求項1に記載の素子。
【請求項14】
置換基は、フッ素、アルキル、およびアリール基から選択される、請求項13に記載の素子。
【請求項15】
10メタ置換基はフェニル基である、請求項13に記載の素子。
【請求項16】
10メタ置換基はナフチル基である、請求項13に記載の素子。
【請求項17】
10メタ置換基はビフェニル基である、請求項13に記載の素子。
【請求項18】
発光ドーパントは青色光を発する、請求項1に記載の素子。
【請求項19】
発光ドーパントは緑色光を発する、請求項1に記載の素子。
【請求項20】
1つ以上の発光層中に、素子が白色光を発するのに十分な化合物を含む請求項1に記載の素子。
【請求項21】
共ホストを含む請求項1に記載の素子。
【請求項22】
ポリマー共ホストを含む請求項21に記載の素子。
【請求項23】
オキシノイド化合物共ホストを含む請求項21に記載の素子。
【請求項24】
オキシノイドがAlqである、請求項23に記載の素子。
【請求項25】
請求項1の素子を組み込んだ表示装置。
【請求項26】
請求項1の素子を組み込んだ面照明装置。

【図1】
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【公表番号】特表2007−510294(P2007−510294A)
【公表日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−536666(P2006−536666)
【出願日】平成16年10月12日(2004.10.12)
【国際出願番号】PCT/US2004/033559
【国際公開番号】WO2005/042667
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】